615 名前:僕らの節分戦争・玖 1/4 :2009/02/13(金) 02:38:53 ID:???
569の続き。

 さすがのドズル(鬼)も疲労は隠せぬようで、
 子供たちを追いつつも時折足が止まるときがあった。
シュウト「!」
 すぱぱん!
 その度にミネバかシュウトが残弾を気にしつつ射撃を加え、誘導する。
 そして。

アル「あの、デギンおじさんの像の所!」
 夫妻の寝室へと続く廊下。
 その中ほどに、現役時代の“デギン・ザ・グレート”を模ったブロンズ像があった。
アル「ここに、ドズルおじさんを誘い込めば、僕らの勝ちだよ」
 禿頭半裸の巨人が腰に手を当て、朗らかに笑っている。
ミネバ「なるほど。 ここならお爺様の加護がありそうだ」
 そう言うミネバの笑顔は、目の前の像に良く似ていた。
 顔立ちはまるで異なるのに――やはり、血は繋がっているのである。
シュウト「来たよ!」
アル「突き当りまで移動しよう」
ミネバ「わかった」

ドズル(鬼)「フシュゥゥゥ…」
 長い―20mほどの廊下の両端でにらみ合う鬼と子供たち。
アル「できれば、像の前で足止めしたい所なんだけど…」
シュウト「ん」
 半ば独り言のようなアルの言葉に、
 頷いたシュウトはランドセルを固定していたベルトのバックルを外す。
アル「え?」
ミネバ「接近戦を挑むつもりか!?」
プルツー「無茶だ!」
 そう言う間にもシュウトはランドセルとライフルを床に落とし、
 燃料の切れたジェットローラーも脱ぎ捨てる。
シュウト「どうせもう弾切れだしね。
     大丈夫、シロー兄さんの拳骨よりは………やっぱりおっかないなぁ」ハハハ…
 ランドセルの脇に収めてあったビームサーベル(ウレタン製)を引き抜くシュウト。
ミネバ「私も!」
シュウト「ミネバちゃんは、最後のスイッチを押さないと。
     トドメを僕がもらっちゃったら、手伝いにならないもん」
アル「スイッチじゃなくて、ワイヤーだけどねw」


616 名前:僕らの節分戦争・玖 2/4 :2009/02/13(金) 02:40:09 ID:???
ミネバ「アル! シュウトを止め…」
 振り返ったミネバの前で、冬山登山に使えそうな背嚢を下ろすアル。
アル「中にザイルが入ってるから、いざとなったらそこの窓から」
プルツー「わかった」
 そして、腰の後ろのホルスターから、ヒートホーク(ウレタン製)を抜き、
 シュウトの隣に立つ。
ミネバ「二人とも、無茶は…」
プル「だめだよ、ミネバちゃん。 ここは、止めちゃいけない所なの」
ミネバ「だが!」
プル「だめなの」フルフル
 びっくりするほど大人びた表情で首を振るプル。
プル「信じてあげなきゃ。 それも戦いだよ」

アル「足、震えてるよ」
シュウト「あはは…そりゃ、ねぇ?」
アル「まぁねぇ」
シュウト「へへへ」
アル「あはは」
ドズル(鬼)「ウオオオオオオオオオォォォォ!!」

 それは、槍を携えた騎士たちの戦いにも似て――

ドズル(鬼)「ガアアアア!!」
シュウト「だああああああああ!!」
アル「わあああああああああ!!」
 走りだす三者。

ミネバ「アル! シュウト! …父上ーーー!!」





617 名前:僕らの節分戦争・玖 3/4 :2009/02/13(金) 02:41:43 ID:???
ビクザム「ハロッ!」
 アルから託された背嚢から、ソフトボール大のハロ、ビクザムが飛び出す。
プルツー「ビクザム?」
ビクザム「ハロッ! ビクザム、アル、マモル! シュウト、マモル!」
 ぎゅん!とハロ離れした高速回転で二人を追い、そして追い抜くビクザム。
プル「いっけー! おじちゃん、転ばしちゃえ!」
プルツー「ダメだ!」
アル「止まって、ビクザム!」
シュウト「!!」
 これまでのトラップは、ほとんどドズル(鬼)の足元を狙ったものだった。
 それだけにドズル(鬼)の意識は足元に向いており…
ドズル(鬼)「ウガッ!」
 ぱっかーーん!
 インステップキックで華麗にビクザムを蹴り飛ばすドズル(鬼)。
ビクザム「ハローーーー」

シュウト「そこだっ!」
 ダンッ!
 シールドをかざし、ダイブするシュウト。
ビクザム「ハロッ!」
 カウンターで蹴り飛ばされたビクザムが、シールドの中央に的中。
 弾力のある外殻がへしゃげる。
シュウト「いっ……」
ビクザム「ハロッ!」
シュウト「けーーーーーー!」
ビクザム「ハローーーー!!」
 すかーーーーーん!
 ビクザムの弾力と、シュウトの勢いが加わり、
 ドズル(鬼)の顔をさらなるカウンターで打ち抜く。
ドズル(鬼)「ンガッ!」

シュウト「アル!」
アル「シュウト!」
 さすがによろめいたドズル(鬼)の姿に、二人の目の色が変わった。
 アルもシュウトのシールドに手を沿え、二人そろって突進。
アル&シュウト「「やあああああああああーーーーーーーー!!」
 激突!



618 名前:僕らの節分戦争・玖 4/5(////) :2009/02/13(金) 02:44:22 ID:???
ドズル(鬼)「がふっ!」
 掲げたシールドがドズル(鬼)の鳩尾をクリーンヒット。
 さらに小学生とはいえ二人がかりの質量は、顔面にビクザムの直撃を受けた
 ばかりのドズル(鬼)に支えきれるものではなかった。
 仰向けにひっくり返るドズル(鬼)と、もつれ合って転がる二人の少年。
 場所は、まさしくデギン像の前である。
アル「ミネバちゃん!」
ミネバ「うんっ!」
 アルの声に、ミネバが、プルが、プルツーが、
 最後の仕掛けを作動させるワイヤーを掴んだ。
プル「せぇ…」
プルツー「の…」
ミネバ「やあああっ!!」
 ぐいっ!
 壁の装飾に隠すように渡されたワイヤーが引かれ、
 エアコンのダクトを覆っていた蓋のカンヌキが引き抜かれる。
 ばたり、と音をたてて蓋が開き―――

 ぱららっ…

 四~五粒の煎り豆が零れ落ちた。
アル「ええっ!」
シュウト「?」
 アルの目算では、二箇所のダクトから詰め込んだ煎り豆が噴出し、
 ドズル(鬼)をなぎ倒すはずだった。
アル「なんで!」
 見れば、ダクトにはぎっしりと煎り豆が詰まっている。
 偏向用のフィンが並んでいるが、
 その間隔は煎り豆が十分通れる幅があるのは確認済みである。
シュウト「詰め込み過ぎだ…お互いが噛み合って、流動性が無くなっちゃったんだ」
 エアガンの給弾装置を作る時に、同じ問題に苦しめられたシュウトが呟く。
プルツー「姉さんが有るだけ詰めろって言うから!」
プル「「「どどどどど、ど~しよよよよよ」」」ガックンガックン

ドズル(鬼)「グフッ! …ぐるるるる」

ミネバ「アル! シュウト!」



619 名前:僕らの節分戦争・玖 5/5 :2009/02/13(金) 02:46:22 ID:???
シュウト「だったら!
 シールドから左腕を引き抜いたシュウトが、それを振りかぶった。
 ばん!
 投げつけられたシールドがダクトを直撃する。
 ざらっ…
 その衝撃で、今度は十粒ほどの煎り豆が零れた。
 そうして出来た隙間から、少しずつ、煎り豆が流れ始める。
アル「えいっ!」
 アルもシュウトに倣い、ヒートホークをもう一つのダクトに投げつけた。
 だが。
 零れ落ちる煎り豆は、岩の隙間から染み出す清水のごとき様で、
 そもそもドズル(鬼)に届いてすらいない。
 時間と共にその量は増えてゆくのだろうが、その時間こそが今、最も必要なものだった。
ドズル(鬼)「グルルゥゥ…」
 さすがにこれまでのダメージがあるのか、体を起こすドズル(鬼)の動きは鈍い。
 それでも、元々の体力が違う。 立ち上がれば小学生を圧倒するのに2分とかかるまい。
 アルの全身を無力感が襲う。
 その名は『絶望』。
 数多の戦士を屠ってきた、最凶の敵。

 しかし。
シュウト「アル、さがって!」
 ビームサーベルを構え、徒手のアルの前に立つシュウト。
 たとえそれがウレタン製の、ほとんど玩具同然の武器であっても。
 鬼を迎え撃つのは、武器を手にした自分のするべき事である。
 シュウトは、兄を守るために立つ。

バーニィ『じゃあな、アル!』
 その後ろ姿に、バーナード・ワイズマンが重なる。
アムロ『あれも、強さだ。
    観察し、思考し、作戦を立て、決してあきらめない。
    特別なことじゃない。 それだけでも、あんなに強くなれるんだ』
アル「決して、あきらめない…」
 万策は尽きた。 どこをどうひっくり返しても勝ち目は無い。
 それでも。
 諦めていい理由にはならない!
アル「やああああああっ!!」
 どんっ!

 最終回につづく。

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最終更新:2013年10月13日 21:42