623 名前:僕らの節分戦争・拾 1/4 :2009/02/13(金) 04:36:08 ID:???
619の続き。




 あるいはそれは、まったくの偶然であったかもしれない。
 圧力と重力の生み出す極めて微妙なバランスが崩壊したその瞬間が、
 たまたま、アルが壁に体当たりを食らわせたのと同時だった、とするのが常識だろう。
 いずれにせよ。

 どっ!

 奔流と呼ぶにふさわしい勢いで、ダクトから大量の煎り豆があふれ出した。
ドズル(鬼)「フゴッ!」
 ドズル(鬼)の背が、足が、あっという間に煎り豆に埋まる。
ドズル(鬼)「ゴアアアアア!」
 体を起こそうとするドズル(鬼)であったが、手を突いた場所もすでに煎り豆が積もっており、
 砂のように崩れてドズル(鬼)を押し倒す。
ドズル(鬼)「ガアアアア!!」
 降り注ぐ煎り豆を弾き飛ばしもがくドズル(鬼)。
 だがやがて胸が、頭が埋もれ、そして。

 ざーーーーーー……

 何かを掴もうとするかのように伸ばした腕が、煎り豆に埋もれる。

 ざーーーーーー……

 ざーーーーーー……

 ざーーーーーー……

シュウト「………」
アル「………」

 ざーーーーーー……

 ざーーーーーー……



624 名前:僕らの節分戦争・拾 2/4 :2009/02/13(金) 04:37:21 ID:???
 ざーーーーーー……

 ざーーーーーー……

ミネバ「…えっと」

 ざーーーーーー……

シュウト「ちょっと、多くない?」

 ざーーーーーー……

アル「うん…こんなにたくさんは用意してなかったんだけど」
 実はこの日、ジオン・グループの系列会社で行ったイベントで使用した煎り豆の余剰分が、
 ドズル邸に集められていたのである。
 ギレンがバラ園の堆肥にしたり、キシリアの乗馬の飼料に加工するためであったのだが…
 比較的、敷地に余裕のあったドズルが一時的に預かる形になっていたのだ。
プル「せっかくいっぱいあるんだからさ、使わないともったいないかなーって…」
 乾いた笑い声を上げるプル。
プルツー「そのせいで、アルとシュウトが危険な目にあったんだぞ!
     少しは反省しろ!」
プル「しーません…」シュン

アル「っていうか、ドズル先生、息が出来ないんじゃ…」
シュウト「!」
プル「あ」
プルツー「閣下!」
ミネバ「父上!!」
 ざかっ!
 すでに大海の様相を呈しつつある煎り豆の山に突入する子供たち。
 煎り豆の流出が止まり、ドズルがその下から掘り起こされたのは、
 さらに5分以上が経過してからだった。



625 名前:僕らの節分戦争・拾 3/4 :2009/02/13(金) 04:38:46 ID:???
ミネバ「父上ーーー!!」
 完全に白目を向き、苦悶の表情を貼り付けているドズルの顔はまさに土気色。
プルツー「衛生兵! 衛生兵ーー!」
プル「救急車! 救急車! 119番って、何番だっけ~~~」
アル「シュウト、心臓マッサージ! 人工呼吸を…」
 パニクる子供たち。
 当たり前だが。
ゼナ「まあまあまあ、大変ねぇ」
 そんな空気を欠片も読まず、小春日和のほんわかボイス。
ミネバ「母上!」
ゼナ「良くがんばりましたね、ミネバちゃん。 あとは母にお任せなさい」ニッコリ
 言いつつドズルに歩み寄ったゼナは膝を折り、その傍らに寄り添った。
ゼナ「あなた、ミネバちゃんが心配しておりますのよ。
   目を覚ましてくださいな」
 ちゅっ♪
 ハチドリが、花の蜜をついばむようなキス。

 パ ア ア ア ア ア ア ア ……

 とたんに、ドズルの全身を柔らかい、緑色の光が包んだ。
ミネバ「父上!」
ドズル「う…」
ミネバ「父上ーー!」ヒシッ
ドズル「む…どうした、ミネバ…何を泣いておる。 いや、ここは…我が家か?」
ゼナ「ええ、左様でございますわ、旦那様♪」
ドズル「はて、俺は… ああ、そうだ。 俺は鬼となって…」
ゼナ「ええ。 ミネバちゃんと、お友達も巻き込んで大激闘でしたのよ?」
ドズル「そうか… 鬼を、倒したか、ミネバよ…」
ミネバ「はい、父上。 皆が…友が、手を貸してくれました」
ドズル「そうか… そうか」
 感動の親子の対面である。

ゼナ「さて」
ドズル「?」
ミネバ「?」
ゼナ「この後片付けは、どなたがやってくださるのかしら?」ゴゴゴゴゴゴ…
 その時、彼らはゼナの背後に鬼面四臂の女神像を見た。



626 名前:僕らの節分戦争・拾 4/4 :2009/02/13(金) 04:40:21 ID:???



エンツォ「がーっはっはっは!」
デラーズ「はっはっは!」
 ドズル邸の門前では、かつて鬼だった人たちが盛り上がっていた。
 祭りを惜しめとばかりに、どこからかアルコールが持ち込まれて、
 体育会系らしいドンチャン騒ぎである。
 一般家庭の住宅地なら、即座に通報されていただろう。

アムロ「こいつは想像以上の大騒ぎだな…」
アル「もうね、ほんっっっっっっっとに、大変だったよ…」
ロラン「節分って、もっと平和なイベントだと思ってたんですけど」
 すっかり遅くなり、年少組を迎えに来た兄たち。

シュウト「そんでね、そんでね、アルが合図したら、
     いきなりドズル先生がずでーん!ってひっくり返ったんだ!」
 キャプテンと並ぶシュウトは先頭で声高に、両手を振り回しながら
 この日の様子を語って聞かせていた。
シュウト「最後もアルの仕掛けだったしさー。 すっごいよねぇ」
アル「え…」
 風に乗って聞こえるシュウトの声に、思わず立ち止まるアル。
ロラン「どうしました、アル?」
シュウト「僕なんて夢中で戦ってただけなのに、ずっと冷静でさ!」
キャプテン「戦いに臨んでは、冷静でいること。 それが何より重要だ」
シュウト「うんうん。 僕も見習わなくっちゃね!」
アル「………」
ロラン「アル?」
アル「あ、うん。 シュウトがあんなこと言うなんて…」
 ぽん。
アムロ「言っただろう。 誰だって通る道だって」
アル「でも、あんなにすごいシュウトが…」
アムロ「それだけ、お前も十分すごいってことなのさ」グリグリ
アル「そうかな? 僕もお兄ちゃんできてるのかな?」
アムロ「ああ。 りっぱなシュウトのお兄ちゃんだよ、お前は」
アル「えへへ…」

ロラン「なんだか良くわかりませんけど、早く帰りましょう。
    お腹がすいたでしょう?」
アル「うん! シュウト! キャプテン! 待ってよ~」タタッ
ビクザム「ハロッ!ハロッ!」

Fin.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年10月13日 21:44