「・・・何だこれは」

ヒイロが日課であるゼロの整備をしているときに異変に気づいた。
コクピットが無くなっていたのだ。
ハッチを開いたヒイロが目にしたのはいつもの見慣れたシートと操縦桿
―ではなくガラリとした空間だった。



広々とした地下の倉庫に響くのはウッソの叫び。
ジュドーガロードと喧嘩し、なぜかキラも巻き込んだMS戦が始まろうとしていたときのことだった。
V2のハッチを空けた瞬間ウッソは心の底から叫び声をあげた。
おかしいですよ!―と
そしてそれはジュドー、ガロード、キラも同じであった。

「・・・で、ドモンは何処に行ったんだ?」
家長であるアムロが狭いちゃぶ台を囲んだ家族会議の中心となって口を開いた。
「ドモン兄ぃちゃんなら修行の旅に出るって言って、変な覆面かぶった人と出てちゃったよ」
アルが元気な声で言う。

「・・・まったく、機械音痴をバカにされたくらいでココまでするとは。子供か」
シローのため息交じりのせりふに一家が回想するのは昨日の夕飯時の出来事だった。
ロランからビデオ録画を頼まれたドモンだったのだが、録画に失敗。
それどころか何故かビデオデッキから煙が昇った。
それを見た兄弟は口々にドモンを貶したのだった。
そしてアルが呟いた一言。

「ドモン兄ちゃんだけサルでも動かせそうなコクピットだもんね」

それを聞いたドモンは薄ら笑いを浮かべて部屋に引きこもってしまったのだ。
さして気にしない兄弟たちだったが、ドモンは夜中にこっそり兄弟全員のガンダムのコクピットを
取り替えてしまったのだ。
そう、サルでも動かせそうなコクピットに・・・・

「仕方ない。明後日の土曜、アストナージに頼んで直してもらうか・・・」
「兄さん、俺達明日MSの試験があるんだけど」
アムロの提案にカミーユとシーブックが意見した。
「試験だと?何だってこんな時に!!」
二人の試験はそれはもう大切なものだった。
ガンダム兄弟にとってMSの運用試験は大事な得点源。
他の科目もそこそこ取れるものの、これが無ければ総合評価で大きな失点となる。
推薦で公立大学を狙うシーブックに至っては死活問題だ。

「まあしょうが無いじゃん。このコクピットのままガンダム持ってけば?」
しれっと言うジュドーの言葉にカチンと来るカミーユ。
「元はと言えばお前とガロードが必要以上にドモン兄さんをバカにしたからだろ!!」
「何で俺達のせいにするんだよ!カミーユの兄貴が自分の実力で試験に落ちるだけだろ!?」
「貴様~!!修正してやる!」
「カミーユ兄さん落ち着いて!こんなことで喧嘩するなんておかしいですよ!」

こうなってしまえば後の祭り。
平和なはずの食卓は戦場と化し、兄弟各々の正義(成り行き)と、義憤(成り行き)と、情熱(成り行き)で
改造されたMSを持ち出しての大乱戦となった。

戦場には喧嘩の火種となったジュドー、ガロードの悪ガキコンビ。
その相手のカミーユに先の喧嘩の続きということでウッソ、キラが加勢したブチ切れ屁理屈トリオ。
それをたしなめるアムロ、シロー、ロランの常識人組。
輪に入れず取り残されたシーブック、コウ、ヒイロの根暗&影薄組の四勢力がそろった。

「ウッソの奴、MSで俺達に逆らうなんて百年早いってーの!」
ZZがビームライフルを連射する。―がまったく当たらない。
「何やってんだよジュドー。そんな射撃下手だったか?」
「んなこと言ったって当たんねーんだよ!」
ガロードの声に必死で返事をする。
コンピュータ補正もなく、コクピットに座った時の頭に入り込んで来るイメージもない。
ジュドーにとってモビルトレースシステムの射撃は高すぎる壁だった。

「こうなりゃ作戦変更!接近して叩くぜ」
「はいよ」
二人とも喧嘩の腕には自信がある。
少なくともウッソやキラには負けないと言う自負があった。

「ウッソ、キラ。あいつら接近してくるぞ。気をつけろ!」
「二人ともZZとDXを引き付けてください。重装備のV2アサルトバスターでケリをつけます」
「大丈夫なのかい?」
「任せてください。」

「こんのー!」「負けられるかー!」
ジュドーはカミーユのZに、ガロードはキラのストライクに向かって殴りかかる。

「そんな攻撃など!」
空手経験のあるカミーユにはたいしたことの無いスピードだ。
紙一重で避け、腹部に強烈なパンチを叩き込む。
「どわっ!痛ぇー!」
MSが殴られると痛みまで感じる―いつも無茶苦茶な闘い方をしているジュドーは、
自分がZZと共に痛めつけられる所を想像して戦慄した。

「悪いけど、キラには負けないね!」
すばしっこい動きでストライクを翻弄するガロード。
ジュドーと共にたくましく育っているだけの動きを見せた。
「へへ~ん、いただき!」
背後から襲い掛かるDX。しかしその瞬間ストライクの目が光った。
DXの手をつかみ、あっという間にねじ伏せる。
後ろ向きで腕をひねられた状態のガロードも何が起こったか一瞬分からない。
「やめてよね・・本気で喧嘩したらサイが僕に敵うはず無いだろ」
「いだだだだ!!!サイって誰だよ!?」
ストライクが手を離すとDXはその場に尻餅をつく。

「今だ!カミーユ兄さん、キラ兄さん、行きます!!」
V2の肩に背負われているキャノンから凄まじいビームの光が噴き出す。
それはガロードのDXとジュドーのZZを確実に狙って飛んで行く。

こんなことだろうと思ったよ!」「そんなミエミエのにやられるかっての!」
兄弟げんかでこんなシーンは日常茶飯事
弟のビーム攻撃など余裕でかわしてきた二人であったが、運悪く今日は愛機の使い勝手が違った。

「ひょいっと・・・って何で避けられねーんだよぉぉぉぉ!!!!!」
「あまいあまい・・・ってぎゃあああ!!!」

「「あつっ!あちあちあちぃぃぃぃ!!!」」
これで少しは機体の気持ちも分かったと言うものだろうか、ビームに焼かれた二人は仲良く真っ黒になる。

倒れたDXとZZ。だがDXはよろめきながらも立ち上がる。
「く、せめて一人だけでも道連れに・・・」
そう言ってガロードが矛先を向けたのはウッソのV2。
白兵戦で勝てる見込みがあるのは自分より年少の彼だけだ。

 ・・・しかし

サクッ

無様に額に突き刺さるV2のビームサーベル。
実は早朝にドモンと訓練していたウッソ。
ナイフ投げの実力はヒイロすら凌ぐ腕前だった。

「喧嘩も収まったし、僕達が出ることも無いんじゃないですか?」
戦闘を傍観していたアムロ達。
ロランの提案で常識組みはMSを停止させる。

しかしここに呟く一人の男がいた。
「また目立てなかった。また目立てなかった。また目立てなかった・・・・」
目立つチャンスを狙っていたコウだったが、喧嘩なれした彼らの戦闘には入る隙も無かった。

「格闘の出来ないお前に何が出来る。死にたくなければ隅にいればいい」
正直すぎるのか、遠慮と言うものを知らないヒイロの言葉にコウはカチンと来る。
「隅にって、お前兄に向かって・・・」
「事実だ。MSの操縦も格闘も未熟な者が生き残るには 目 立 た な い こ と が一番だ」

ブチッ!

その後三十秒でガンダム兄弟の家は壊滅。
コウを除く兄弟全員が入院した。

数日後、自分が事件を起こしたことなどまったく忘れて帰ってきたドモンが見舞いにいく。
「いったいどうしたんだ、アムロ兄さん!?」
「ス、ステイメンが・・・ギャリック砲を・・・・うっ」

「シロー兄さん、何があったんだ!?」
「き、金色の戦士・・・・サイ・・人の・・誇り・・・ぐはっ」

「シーブック、カミーユ、ヒイロ!大丈夫か!?」
「「兄さん・・・七つの・・・ボールで・・・」」「・・・任務失敗・・・死ぬほど痛かった」




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最終更新:2018年10月23日 10:36