キースは悔しかった。
彼の菓子パンは、誰もが惜しみない評価をしてくれる。
特に自慢のあんパンは、親友のロランとフランはもちろん、ライバルの鉄仮面ことカロッゾも、
食通のシナプスやコジマ警部もうならせた逸品だ。
しかし二人だけ、彼のあんパンに10点をつけないのが
ガンダム兄弟にいた。
長兄のアムロと次兄のシローだ。
__ r'⌒⌒^'、 __ γ⌒⌒ヽ
|9点|,( rνyy'ソ |9点|/ iノノノイυ アムロ「君の実力は認めるけど、あんパンでは二番目だ」
〃 ̄∩ヾ ゚д゚ノ 〃 ̄∩リ ´Д`) シロー「正直、俺もそう思う」
__ヾ. ]¶[ ), ヾ ]¶[ )
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キースはしばしば兄弟の家を訪れて、兄二人が知る最高のアンパンの情報をつかもうとした。
シーブック「兄さんはプロの仕事で身内びいきする人じゃないぞ」
ロラン「僕が
キースの作り方をまねてアンパンを作ってみたけど、二人とも8点までしかつけなかったよ」
キース「それじゃ一体何が足りないんだ…?」
そこへ、もう一人客が現れる。
ロラン「あ、いらっしゃいませアイナさん。台所、用意しておきました」
アイナ「わざわざすみません。それじゃお邪魔します」
家に上がったアイナはパンを作り始めた。
キース「あの人もパンを作るのか?」
シーブック「いや、アイナさんは単に趣味だよ」
__ r'⌒⌒^'、 __ γ⌒⌒ヽ アイナ「どうでしょう、あんパンは初めてだったんですけど?」
|6点|,( rν,y,#ソ |10点|' iノノノイυ シロー「アイナ、あんパン美味いよ、美味ああイィィ!!」
〃 ̄∩ヾ ゚д゚ノ 〃 ̄∩リ*´∀`) アムロ「…うん、なかなかのものだね。(ど素人め!あんが甘すぎるんだッ!)」
__ヾ. ]¶[ ), ヾ ]¶[ )
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キース「……これがシローさんの理由なんですか?」
コウ「シロー兄さんはこういう人だからねぇ。君が悪いんじゃないよ」
キース「シローさんが一番求めていたのは、愛情なんですね。それはよぉくわかりましたよ!」
カミーユ「しかし、あんまりだよなあ。これじゃ勝てるはずない」
ギンガナム「気にするな少年!小生は御飯派だが、君のあんパンは絶品であーる!」
キース「ツケはちゃんと払ってくださいよ」
ギンガナム「はっはっは、スエッソンへの請求をちゃんと水増ししているのだろう?」
キースがギンガナムに文句を言っていると、今度は4人目の来訪者。
ヒイロ「何しに来た、パーマン6号」
ゼクス「私は宅配の荷物を運んできただけだよ。それと私はパーマンではない」
ウッソ「そんなふざけた仮面にドイツ語で6を意味する偽名くさい名前で否定したって、説得力ありませんよ」
ゼクス「……」
ヒイロ「用が済んだらさっさと帰れパーマン6号」
ゼクス「受取印をもらわんと用が済まないのだよ!」
配達屋が帰って、荷物が残された。
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|クール宅配便|/
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送り主は修行で留守のドモン、中身はあんパンとドモンの手紙だけだった。
ドモンの手紙には「修行中に寄った町で美味いあんパンを売っていた。
せっかくだから人数分送る」とある。
コウ「…1個多いや。ドモン兄さん、自分まで計算に入れたな。じゃあ余った分は…客が3人いるから2人分足りないじゃないか」
客の一人のアイナとシローはお互いにパンを譲り合い、結局半分分けにして食べている。
キースは、パン職人としてどうしても味を知りたいと頼み込んで1個獲得した。
無視されたギンガナムは「武士は食わねど高楊枝である!」と強がりつつキラのほうを睨みつけたので、
いつものように強奪されると思ったキラはパンを無理矢理全部口に突っ込み、顔を白黒させた。
兄弟と客たちがドモンの送ってきたあんパンに舌鼓を打っていると、誰かが泣くのが聞こえた。
兄弟達は一斉にキラの方を向いたが、泣いているのは彼ではなかった。
アムロがあんパンを食べながら泣いていた。長兄としての顔をかなぐり捨てて、子供のように泣いていた。
アムロ「マチルダさん、マチルダさん、マチルダさん、マチルダさん、マチルダさん、マチルダさーん、うあああぉぉ」
ウッソ「マチルダさん?女の人の名前だ」
ギンガナム「男が泣きながら名前を呼ぶのは、女房か恋人か昔の女が相場なんだよぉ!
ガンダムのお兄さんが呼んでいるのは初恋の女だと小生は見たなぁ」
シロー「確かにこの味、昔兄さんがよく行ってたマチルダさんの店の味だな」
キース「聞いたこと、ない…」
(アムロの回想)
アムロ15歳「マチルダさんはどうしてパン屋を始めたんですか」
マチルダ「そうね、物を作ることが出来るから、かしらね」
アムロ15歳「物を作る」
マチルダ「物を壊すのは人間の業だけど、人間だからこそ物を作り出すことも出来るわ。それは素晴らしいことに思えるの」
アムロ15歳「わ、わかります。僕も壊すより物を作るほうが好きです!」
マチルダ「そう、
アムロ君は何を作るのかしら?」
アムロ15歳「ロ、ロボットです。ハロっていって、人工頭脳を積んでて…見てください」
アムロはハロの設計図を頼まれもしないのに広げると、マチルダに説明を始めた。素人だろうとお構いなしだ。
自分が話を振った手前、むげに追い出すわけにもいかず、彼女は黙ってアムロが気が済むまで話させるしかなかった。
アムロ「………というわけです」
マチルダ「そ、そう。頑張りなさい」
数時間粘られて、マチルダは憔悴していた。だが、この数時間でアムロの人生は決定的に変わっていた。
ハロを完成させて世に送り出す。そう誓ったアムロの一人だけのプロジェクトはこの時始まった。
☆ ←その星
r'⌒⌒^'、
(/yy'ソν) 俺はハロの完成をマチルダさんと、
(゚∀゚* ソノ あの輝く星にかけて誓うぜ。
, -―――-、
/ \
/ |
| ;≡==、 ,≡、| ← アムロが誓った輝く星の正体
l-┯━| ‐==・ナ=|==・|
|6 `ー ,(__づ、。‐|
└、 ´ : : : : 、ノ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 、 _;==、; | < 本当に作る気ですか?バカジャネーノ?
| \  ̄ ̄`ソ \______________
| `ー--‐i'´
その年でプロジェクトは一気に進んだ。ハロは自力で動き、語彙は少ないがしゃべれるようにもなった。
紆余曲折はあった。マチルダに夫がいるとわかった時には、失恋少年がよくかかる病気になって引きこもった。
ずっと年上の美人だから、相応の恋人なり夫なりいる可能性を考えてもよかったはずだ。
恋は盲目とはよく言ったものである。
それでもプロトタイプが完成し、妄想と笑われ続けた自分の計画を最初に認めた(と思っている)マチルダに
アムロはイの一番に見せに行った。
が、店にはシャッターが下りており、閉店したことを告げる紙が貼られていた。
呆然としてへたり込むアムロ。
ハロ「アムロ、脳波レベルオチテル」
この年のマチルダは運に見放されていた。
黒いトレーラーに店に突っ込まれた。
夫のウッディは交通事故で大怪我を負った(そのくせ、事故の相手の赤い車のドライバーは軽傷だった)。
アムロなどわずかながら常連客はついていたが、この場所で店を続けるのは不可能だったのだ。
マチルダの消息はつかめなかった。だが彼女がいなくなっても、プロジェクトは終わらない。
ブライトやリュウ、カムランが加わって始めたベンチャー企業でハロが製品化されるのは、何年も後のことだ。
(アムロの回想終わり)
アムロ「そうだよ、忘れるはずがない。これは昔好きだった味だよ。ああ、何てものを食べさせてくれたんだ…。
__ r'⌒⌒^'、 ヾ γ⌒⌒ヽ
|10点|,( rνyy'ソε=10点だ!」iノノノイυ イテッ
〃 ̄∩ヾ゚´Д⊂ヽ 〃ζリ;´Д`)
__ヾ. ]¶[ ,ノ / つ ]¶[ つ
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最終更新:2018年11月21日 11:25