788 名前:Ez-8が出来た日1/7投稿日:05/01/28 21:14:28 ID:???
アムロ「ヒイロ、そっちはチェック終わったか?」
アムロはコクピットの中から、胸部のメンテナンスハッチで作業している弟に
声をかけた。
ヒイロ「・・・システム、オールグリーン、問題ない。」
アムロ「そうか、いつもすまんな。」
アムロは、メンテナンスを手伝うヒイロに労わりの言葉をかけると、コクピ
ットから降り、今までメンテナンスしていた愛機を眺めた。
RX-78
ガンダム、最初に作られた『
ガンダム』。いや、この機体があっ
たからこそ、あらゆるMSメーカーがその活躍にあやかろうと『
ガンダム』と
いう名前の、まったく別の機体を開発する等、誕生からわずか10年あまりしか
経過していないのに伝説となったMS。
そして、伝説の立役者になったのが、ここ
ガンダム兄弟の家の地下でメンテ
ナンスを受ける、RX-78-2と偶然それを操縦する羽目になった、兄弟の
長男アムロであった。このコンビの活躍が無かったら、数々の後継機や亜種、
または
ガンダムファイトという娯楽は誕生しなかったであろう。
アムロ(こいつとも、・・・・・そして『奴』との、付き合いも10年以上経
つよな。)
アムロが思い出に浸りかけた時、ロランが地下に降りてきて、声を掛けた。
ロラン「アムロ兄さん、シロー兄さんからお電話ですよ。」
アムロ「・・・・ああ、ありがとう。」
現実に引き戻されたアムロは、ロランから受話器を受け取った。
アムロ「もしもし、どうかしたのか?」
シロー「すまない兄さん、・・・・頼みがある。」
電話の内容は暴走するMAを取り押さえた際、シローのMSが大破したとい
うものであった。
コウ「うわっ!・・・酷いなこれ。」
アムロのRX-78に運ばれてきた、ボロボロになったRX-79Gを見て
コウが呟いた。他の兄弟も呆然と無残な姿になったMSを見ていた。RX-7
9Gは通称『陸戦型ガンダム』と呼ばれ、RX-78の改良型で汎用性は劣る
が、コスト面や操作性、メンテナンスや修理がしやすい等の長所から警察や軍
隊で採用され、高い信頼を誇る機体である。
シロー「みんな、心配かけてスマナイ。」
ロラン「そんな事より、お怪我は?」
明らかに怪我をしているシローをロランに任せ、この場に居る全員が思って
いるであろう疑問をジュドーが代表する形で長兄に訊ねた。
ジュドー「でも、なんで警察でなく、ウチに電話してきて、しかも運んでくる
んだよ?」
シローの所属する、08小隊はMSやMAの犯罪を取り締まるのが仕事だか
ら、今回の事は仕事中の事故であって、本来なら職場である警察に連絡するは
ずである。そうしないと壊したMSの修理代を自分で払わなくてはならないか
らだ。
アムロ「それなんだが・・・・・」
789 名前:Ez-8が出来た日2/7投稿日:05/01/28 21:18:32 ID:???
アムロの話によると、暴走、正確にはマシントラブルでコントロールを失っ
たMAのパイロットがシローの知り合いだったらしい。しかもそのMAはテス
ト飛行中で、事故が公になればMAの開発自体が止められる可能性があるとい
う事だ。
ジュドー「・・・・て事は」
ガロード「こいつを家で直すって事?」
アムロ「そうするしかあるまい」
警察に連絡した場合、どうしても壊れた理由を言わなければならない。例え
シローが逃がしても警察は『逃走した』MAを探し出すだろう。そうなれば余
計に相手の立場が悪くなる。
アムロ(それにしても、まさかシローの好きな相手がサハリン家の娘とは・・・
あの、ノリスという男、俺の事を知っているようだったな。)
サハリン家の前当主は、かつて最初にMSを開発した企業ジオニック社の幹
部でMS-06ザクを始めジオニックのMS開発に携わった名門である。しか
しジオニック社はライバル会社のアナハイムが出した新型MS
ガンダムの前に
開発競争で破れ、倒産してしまった。その際ジオニックの技術者は、ほとんど
アナハイムかグラナダのアクシズ重工に再就職したが、サハリン家は拒絶しジ
オニック社の復興を目指していた。しかし、そう簡単には行かずサハリン家は
没落の道を転げ落ちていた。
アムロ(ジオニックが潰れた原因・・・・・俺も無関係では無いしな)
カミーユ「それで、何処から手を付ける?」
アムロ「まず、損傷を調べてダメになったパーツは全部はずしていく。ヒイロ・・・・」
アムロは、損傷をチェックするため、その作業に最も慣れたヒイロに声を掛
けたが肝心のヒイロの姿が見当たらなかった。周りを見渡すと、他にもコウ、
シーブック、ガロード、ジュドーも消えていた。
アムロ「あいつら、どこに行ったんだ?」
アムロが探そうとすると、出入り口のドアが開き居なくなっていたコウとヒ
イロが戻ってきた。
コウ「兄さん、ケリィさんが使えそうなパーツを持ってきてくれるって。」
ヒイロ「こっちは、デュオに連絡しておいた。」
ヒイロはそう言いながら大破したRX-79の元へ行き、損傷をチェックし
始めた。
コウ「ガロードとジュドーはシーブックを連れて、他のジャンク屋へ行くって。」
アムロ「・・・・・そ、そうか。」
おそらくは、行動力のあるガロードとジュドーが言い出したのだろう、彼ら
は自分に出来て、必要になる行動をすでに起こしていたのである。苦笑しなが
らも弟たちの行動がアムロには頼もしかった。
次にアムロはヒイロから送られる損傷データを見ながら、隣にいるカミーユ
に相談した。
アムロ「・・・・これは、元通りに修復は無理そうだな。」
カミーユ「元通りには無理でも、何とか動かせるようにはしたいけど・・・」
アムロ「動くだけじゃダメだな、外見が変わる以上、性能が上がらなくてはシ
ローの立場が不味くなる。」
MSは歴史が浅いせいか、自腹を切るという前提で、パイロットが自分用に
改造する事が認められていた。基本的にはカラーリングを変える程度だが、中
には自分の職務に合わせ、かなりの改造をする者もいる。
その場合は改造に成功し、成績が上がって出世するケースもあるが、逆に改
造に失敗して職務の成績が落ち、降格や最悪クビというケースもありえた。
カミーユ「・・・・じゃあ、ケリィさん達が持ってきたパーツを見て、設計図
を作る?」
アムロ「そして、RX-79以上のMSを作り上げる。それも明日シローが仕
事に出る昼までに。」
兄弟たちの無謀な挑戦が始まった。
790 名前:Ez-8が出来た日3/7投稿日:05/01/28 21:20:39 ID:???
ケリィ、デュオ、ゲモンらジャンク屋仲間。そして、ガロードたちが自分で
探してきたパーツは、品質も良く量も揃っていた。
アムロ「よく、これだけの物を・・・」
ケリィ「シローの旦那には日頃から世話になってるんでね。」
ゲモン「まったく、ジュドー達の兄貴とは思えんほど良い奴だからな。」
ジュドー「ちょっと!ゲモンのおっさん!それどういう事?」
ゲモン「言葉どおりの意味さ。」
デュオ「まぁまぁ、そんな訳で日頃の感謝を込めて出血大サービス!」
ガロード「そんで、御代は要らないって。」
アムロ「そんな訳には!」
ケリィ「気にするな、さっきも言ったように旦那には世話になっている。」
ジュドー「シローの兄貴、街では人気あるんだぜ。善い警官だって」
シーブック「それより、時間が無くなるよ。」
アムロ「・・・・お言葉に甘えます。カミーユ!設計図を作るぞ。他の者は機
体をバラしてくれ。」
それぞれが動き出すとカミーユはパーツを前にアムロに訊ねた。
カミーユ「それで、どういうコンセプトで行くの?性能を上げるといっても・・・」
アムロ「解っている。即席でやるんだ、多くは望まない。」
カミーユ「じゃあ、軽量化はどうかな?」
アムロ「そうだな、あとは耐久性も上げたいな。」
アムロの言葉にカミーユは苦笑した。耐久性を上げるには装甲を厚くするた
め重量が重くなり、軽量化するには装甲を薄くするため耐久性が下がるのが普通だ。
カミーユ「矛盾してるね。」
アムロ「まあな・・・しかし、出来るだけやってみよう。」
※有名じゃ無いキャラが出てきたので、説明
ケリィ
0083に登場する隻腕のジャンク屋、元ガトーの戦友でエースパイロット。
MAヴァルヴァロをコウの協力で完成させコウと戦う。
コウは彼との戦いをえて、お坊ちゃんからガトー並みの熱っ苦しい漢に進化する。
ゲモン
ZZに登場するシャングリラのジャンク屋のリーダー格。
ジュドー達は彼のことを煙たがり、彼もジュドー達を生意気なガキと嫌っていた。
彼の作ったMSゲゼは、ある意味芸術。
791 名前:Ez-8が出来た日4/7投稿日:05/01/28 21:23:09 ID:???
シローの治療を終え、アルを寝かし付けたロランが戻って来た時、設計図を
作り上げたアムロは全員を集め指示を出し始めた。
アムロ「チームを作ってチーム単位で作業してもらう。まずコウ、シーブック、ウッソ、ケリィ」
コウ「うん、分かった。」
アムロ「次にカミーユ、ジュドー、ロラン、ゲモンさん」
カミーユ「はい。」
アムロ「次は、ヒイロ、ガロード、デュオ」
ヒイロ「任務了解」
アムロ「最後にドモンは力仕事!」
ドモン「応!!!」
アムロ「では、各自作業に取り掛かってもらう。」
キラ「・・・・・・僕は?」
アムロ「寝ろ!」
キラ 「・・・・
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」
カミーユ「・・・兄さん、ちゃんと言わなきゃ・・・・最近、被害妄想気味だから。無
視されたと思ってるよ。」
アムロ「そ、そうだな。いいかキラ!これからやる事は強引な改造だ。おそらくマトモ
には動かん物が出来る。そこで、お前のOS開発技術が必要なんだ。」
キラ 「うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛・・・・・・・・え?」
そこで、アムロは全員を見渡し、
アムロ「皆には悪いが時間が無い、タイムリミットは明日の午前11時までだ、終わっ
た後は倒れても構わん。死ぬ気で動いてもらう! キラ、そういう訳で、お前には1時
間しかやれん、それまでに体調を整えておけ!」
キラ「う、うん、わかった。」
キラが寝室に行き、他のメンバーは一斉に作業に取り掛かった。
現在、午後11時20分、タイムリミットまで約半日しか無かった。
792 名前:Ez-8が出来た日5/7投稿日:05/01/28 21:25:14 ID:???
常識で考えれば、半日でMSを組み立てるなど絶対に無理である・・・・・・・・・・・・・・
アムロ「ドモン!そのパーツをカミーユの処へ!」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
コウ「ドモン兄さん!それを・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
シーブック「ドモン兄さん・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
ロラン「ドモン兄さ・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
ガロード「ドモン・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
ジュドー「ドモ・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
ウッソ「ド・・・」
ドモン「トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、トリャ、テェヤ~~~~~~~!!!!」
ヒイロ「・・・」
ドモン「にいさ―――――――ん!!!!!」
・・・・が兄弟たちの懸命の努力と、常識の通じない兄思いの生き物のおかげで、
見事に完成させていた。
シロー「こ、これは?」
翌日、シローがモビルスーツデッキに向かうと、見慣れないMSとその周りで倒れ
ている弟たちの姿があった。
アムロ「起きたな。キラ!そっちはどうだ?」
アムロがそのMSに向かって声を掛けると、コックピットからキラが顔を出し
キラ「ある程度は終わったよ。残りはシロー兄さんに乗ってもらわないと。」
アムロ「そういう訳だ。」
シロー「ひょっとして、これ・・・・」
アムロ「ああ、お前のMSを改造した・・・スマナイが元に戻せなかった。こうする
しか手が無かったんだ。」
シロー「そ、そんな・・・ありがとう兄さん。」
アムロ「弟たちと、それからジャンク屋の連中にも言っとけよ。」
シロー「ハイ!!」
キラ「・・・・・・・時間、無くなるよ?」
793 名前:Ez-8が出来た日6/7投稿日:05/01/28 21:28:41 ID:???
シローがキラを乗せて機体のチェックに出かけると、入れ違いのように1人の
男性が訪ねてきた。
アムロ「あなたは?」
ノリス「昨日は、お世話になりました。」
アムロ「い、いいえ・・・・」
ノリス「先ほど見かけましたが、見事なMSでした。警察のMSを改修したの
でしょう?」
アムロ「は、はい・・・・」
ノリス「・・・・・」
場を沈黙が支配した。相手がサハリン家の関係者だとするとアムロはどうし
ても気になる事があり、気後れしてしまうのである。
ノリス「何か、気に触る事でも?」
ノリスの質問にアムロは思い切って訊ねる事にした。
アムロ「俺を恨んでいるのでは無いですか?」
ノリス「・・・何故、そうお思いに?」
アムロ「ジオニックのMSはアナハイムに比べ、決して悪いものではなかった。
確かに最初はビームの技術や装甲でアナハイムがリードしていた、しかしMS-
14の性能はRX-78とほとんど互角でしたし、最後のMSNー02に至って
は・・・ジオニックが敗れたのは世間で言われたようにMSが悪いのではない。
現にジオニックの技術者はアナハイムでも活躍しています。ジオニックのMS
を模擬線で倒したのは俺です!俺が居なければ」
アムロは話しているうちに冷静さを失っていた。かつてMSという機械が出
た後、その能力を調べるテストは激化し、ほとんど戦争のような状態になって
いた。現に多数の死者が出たのである。アムロの中で過去の映像が蘇っていた。
ライバルとの出会い、NTへの覚醒、そして大切な少女の死・・・それを打ち
破ったのはノリスの落ち着いた声であった。
ノリス「・・・私はその頃、貴方と同様テストパイロットをしていました。」
アムロ「え?」
ノリス「MS-07の改良型です。実は貴方と戦った事もあります。貴方は本当
に強かった。」
アムロは驚いて目の前の人物を見つめた。アムロは過去の戦いで勝てなかった
事はあっても、負けた事は無かった。また、勝てなかった時はその相手と状況を
今でも憶えている。すると、目の前の男はアムロに敗れた者の1人という事になる。
ノリス「確かに、主人のギニアス様は恨んでるかもしれませんが、私個人として
は、貴方を尊敬しております。我々パイロットにとっては『白い流星』と『赤い
彗星』は羨望の対象です。」
アムロ「・・・・ありがとうございます。」
アムロは久しぶりに聞いた異名に思いを馳せた。
アムロ(懐かしい呼び名だな・・・俺と『奴』と・・・・)
その時シローが戻ってきてアムロは再び兄としての自分に戻っていた。
アムロ「どうだ、調子は?」
シロー「うん!すごく良いよ!」
キラ「あれ、お客さん?」
シロー「あ、貴方は!」
ノリス「昨日はお嬢様が
大変お世話になりました。」
シロー「そ、そんな!大した事は!」
ノリス「それと、お嬢様から言伝を承っています。『是非とも貴方様に直接
会ってお礼が述べたい』との事です。」
794 名前:Ez-8が出来た日7/7投稿日:05/01/28 21:30:40 ID:???
ノリスの言葉に興奮するシローを落ち着かせ仕事に向かわせると、気になる事
があったのでノリスに訊ねた。
アムロ「ところで、シローとアイナお嬢さんは顔見知りだったようですが?」
事故の現場でアムロが2人を見た時、最近シローが大事にしているペンダント
の元の持ち主がアイナという事を聞いたのである。
ノリス「さあ、私も詳しくは・・・」
アムロ「そうですか・・・」
アムロは二人を応援したいのだが、弟が相談してくれなかった事を少し寂しく
思うのだった。するとノリスが笑っているのに気付いた。
アムロ「な、なにか?」
ノリス「いえ、ただ良い兄君と思いまして。こうして会うまでは、正直もっと
恐ろしい人物をイメージしていたもので。」
アムロ「・・・ど、どうも」
その後、シローの機体は彼の所属する第08小隊からEz-8(Extra-Zero-8)
と名付けられ、元のRX-79G以上の性能を発揮し活躍をする事になる。
完
補足説明
ジオニック社
本編では、ザクを始めジオン軍のMSを開発した会社。ちなみに
ガンダムを
最初に開発したのはアナハイムでなく連邦軍。
このSSではジオン軍が無いので、最初にMSを開発した企業で、技術力は
高いが営業が下手だったため現在は倒産しているという設定。また、連邦軍も
無いのでアナハイムを代用している。
イメージとしては、ジオニック=SE○A アナハイム=S○NY又は任○堂
※S○GAは倒産していません。
最終更新:2019年01月03日 16:21