これまでのあらすじ
濃縮版娘溺泉を誤って飲んだロランは美少女ローラ・ローラと化し、
更にはシャクティの怪しい祈りで胸がFカップとなってしまった。
様々な紆余曲折を経て、ジオニック社の人体改造により、元のロランに
戻るはずだったが、実験途中、彼女の体は羊水カプセルの中で忽然と消えた。
羊水カプセル前。
兄弟たちは、ロランのいなくなったカプセルのオレンジ色の羊水を
ただ呆然と見つめていた。
言葉を失い、青ざめて虚ろに、只為すことなく立ち尽くしていた。
この実験を仕切っていたナナイは、ショックのあまりにパニックに陥り、
シャアと研究所員に連れられて出ていった。指示を促すものがいなくなり、
ラボの機能は完全に停止している。
「ロラン兄ちゃんどうなちゃったの!?消えちゃったの!?もしかして死んじゃったの!?」
アルがアムロにかじりついて問い詰める。だが、何を言っていいか解らず、
アムロは末弟の頭を撫でるだけだった。
弟たちを見回すと、皆一様に固まったまま、というより立っているのがやっとという有様で
とても意見を求められる状態にない。普段ならどんな時でも冗談を飛ばすジュド・ガロでさえ
俯いて固く口を閉ざしている。自分が何か言わなければならない、その何かを必死に
考えていたら、感極まったアルが泣き出した。
「やだ、ロラン兄ちゃん死んじゃやだーっ!」
そしていないロランの体に抱きつくかの様に、羊水に両手を突き入れた。
その時・・・
248 名前:
ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/11/18 13:04 ID:???
「あれ、僕の足に触っているのは誰ですか?」
カプセルに直結のスピーカーからロランの声が。
「ロラン兄ちゃん、ロラン兄ちゃんなの!?この中にいるの!?」
「どうしたのアル、涙声で。何か有ったの?真っ暗で何も見えないけど・・・」
「おいロラン、大丈夫か!?返事をしろロラン、おいロラン、ロラン、ロラン!!」
アムロがいきなり叫ぶ。只ひたすらにロランの名前を連呼した。
「とても静かですね。今アル一人だけ?皆はどうしたの?」
この時カミーユがある事に気づいた。
「皆、ロランはこの羊水の中に溶け込んで生きている。そしてどうやらこの中に手を入れると
言葉が伝わるらしい。アムロ兄さん、手を入れて!」
「あ、あぁ!」
事の把握をするとアムロは、ロランの頭の辺りに片手を入れて、自らの動揺を押さえるように
して、彼に語り掛けた。
「ロラン、大丈夫か?どこか具合の悪いところはないか?」
「アムロ兄さん、何が起こったんですか?僕は何も見えなくて、兄さん達以外の音や声も
聞こえないし、それと体が動かせないんです。一体どうなって・・・」
ここで事の真相を語ってはロランに動揺を誘い、今よりもっと悪い事態になるかもしれない、
そう判断したアムロは何とか状況をはぐらかそうとした。
「あ、そうだ、ほかの者達もいるから安心しろ。おい、シロー。」
次の者を促して自分は羊水から手を引き抜き、ロランに聞かれないようにして
弟たちにその旨を伝えた。
249 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/11/18 13:04 ID:???
「とにかく安心させてこの状態を保つようにしよう。ロランは今自分がどうなっているか
気づいていないから絶対にこの事を悟られるないよう話をごまかせ。」
それを聞いて、言葉を一つ一つ選びつつ自然にシローは話し掛けた。
「ロラン、心配しなくていい。今ちょっと停電なんだ。それで今皆取り乱していたんだ。」
「シロー兄さん、そうだったんですか。アル、それで怖くなって泣いてたのか、僕はここにいるから
大丈夫だよ。」
「うん、もう平気だよロラン兄ちゃん。」
彼には見えていないのに必死に笑顔を繕うとするアル。次にドモンが手を入れた。
「俺達も暗くてお前の姿は見えないが、心配ないさ。体が動かんのは、俺もよくは
解らないがこういう事態に備えて安全上、体を拘束するシステムなんじゃないか。機械とは
そんな物だと、レインが言っていた。」
ドモンにしては上手い言い訳だった。メカ音痴がここでは役に立つ。
「そうなんですか、わかりました。でもドモン兄さん、痛いからそんなに強く肩を握らないで
ください。充分ですから。」
え、肩?アムロはいぶかしんだ。ドモンが手を入れているのは体があればつま先の辺りだ。
そう言えばアルが足を触っていると言われたが、場所的には手は腹の付近に入れられている。
体が溶けたことで配列がばらばらになっているのでは、アムロがそう考えていたとき、
コウが腕をもぐした。ちょうど頭のある付近だ。
「僕だ、コウだよ。心配いらな・・・」
「キャァーッ!!!」
250 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/11/18 13:05 ID:???
突然響くロランの絶叫。
「そんなとこ、あ、やめて、兄弟でそんな、あ、指なんか入れ、いや、止めてーっ!」
「・・・・・・え?」
絶句して固まるコウ。
「コウ兄さん、ロラン兄さんのどこを触ってるんです、離れてください!」
ウッソが諭すが、コウは何故かどんどん顔が赤くなっていく。
これは鼻血を吹く前兆、飛沫が羊水に混じってしまったら、どのような異変が起こるやも!危ない!
「せいっ!」
その刹那、ヒイロがコウにローキックをかます。ガクッっと折れる膝、そこへ間髪入れず
「兄さんごめん!」
背後に回ったキラが背負い投げ、体は垂直に跳ね上げられた。
「「とおりゃ~っ!」」
そして絶妙のタイミングでジュド・ガロがドロップキックをかまし、コウははるか後方に
吹っ飛ばされた。床に勢い良く叩きつけられると同時に豪快な噴水と化し、
直径3メートルの血の池を構築した。
「ふぅ~危ねぇ危ねぇ。こんな所でロラン兄に迷惑かけやがって。」
「全く、うらやま、いや、うらやま、いや、けしからん事しやがって許せねえ!」
そう言ってバロムクロスを交わす二人。コウは血液を出し切り、ポコポコと泡を立てていた。
260 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/11/20 10:46 ID:???
ハイム家邸宅、ソシエの寝室。
「ソシエさーんっ!」バタムッ!
叫びながら物凄い勢いで扉を開け、ソシエのベッドに駆け込む者がいた。
シャクティだった。
「何よいきなりノックもなしに、騒々しいわね!そんな開け方したらドアの蝶番壊れちゃうでしょ!?」
「それどころじゃないんです、ロランさんが大変なんです!」
ウッソからの連絡で、ロランの急報を知らされたシャクティは、事の次第をソシエに伝えた。
「うそ、そんな・・・・」
顔面から血の気が引くソシエ。面倒くさくも半身を起こして話を聞いていたが、
力が抜けて又ベッドに伏してしまった。小刻みにカクカク震える。
「今、原因を究明してリカバリーを行っているそうです。まだ今なら話もできるそうですし、
行って勇気付けてあげましょう。」
「ええ、でも・・・」
変わり果てたロランを見るのが怖い。それに、こんな気持ちでどうやって彼を励ませばいいのか
わからない。布団の中で縮こまるソシエ。ひたすら怯えた。
「・・・あの、今はこれ以上悪くならないように皆頑張っているけど、この先どうなるかは全く
わからなくて、もしかしたら、このままロランさん本当に消えてしまうかもしれないって・・・」
ロランが消える!あたしの目の前からいなくなる!
そんな、ロランがあたしの家に来なくなる、身の回りの世話をしてくれなくなる、料理や洗濯を
してくれなくなる、あたしのそばに居てくれなくなる、「ソシエお嬢様」って言ってくれなくなる!
そんなの嫌だ!
だんだん恐れより怒りが込み上げてきた。主人の許しもなしに勝手にいなくなるんじゃないわよ!
少しづつ頭に血が上っていくソシエ。体に力が漲ってゆく。
「ロランはいつもあたしの傍にいなきゃ駄目なのに、冗談じゃない!」
ソシエのわがまま根性に火がついた。
ガバッ
包まっていたシーツを跳ね飛ばし、一気に起き上がると、ソシエはヅカヅカとクローゼットに
向かって歩き出し、シャクティに振り向いて言った。
「今度はお水になっちゃうなんて気合が足りないのよ!そこんとこ一言ビシッと言わなきゃ
駄目よね!すぐ出かけるわ、あたしが着替える間に用意して。車とか準備してある!?」
いきなりの変貌に少々面食らったシャクティだが、ひるまずソシエに言った。
「今、別口の用事であちらに行く人がいたので、便乗させてもらうことにしました。
いつでも出れます。」
[よっしゃぁっ、待ってなさいよ馬鹿ロラン!」
261 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/11/20 10:47 ID:???
準備万端で玄関を出ると、そこには一台の赤いコンバーチブルが止まっていた。
「お嬢ちゃん達、急いでんだから早く乗りな!」
運転席にシーマがいた。
二人が挨拶もそこそこの乗り込むと、シーマはアクセルべた踏みで車をスクランブル発進させた。
「キャァ~~、ちょっと、もう少しやさしく運転しなさいよぉ!」
「っさいねぇ!あたしの可愛い坊やが一大事なんだ、舌噛むから黙っといでっ!」
へ、この人子持ち?何故か間の抜けた事を考えていると、傍らのシャクティが教えてくれた。
「コウさんの事です。あの人、あちらで鼻血吹いて倒れたそうで、シーマさん、手当てと介抱を
お兄さん達に頼まれたそうです。」
「又なの、あの人!?又ロランがらみでいやらしい事したのかしら?ったくあの兄弟ときたら・・・」
そこへ会話に横入りするシーマ。
「電話で、致死量の大出血だって言うからあたしゃ、すぐさま医者呼べって言ったんだ。そしたら
『そんな事ではコウは助からない。弟には貴方の愛が必要だ!』なんて彼の兄さんが言うもんだか らさァ、こんなチャンス願ってもない・・・うぅん、人の命がかかってるんでこうして急いでるわけさ!」
コウの生きるか死ぬかをネタにのろけ?ソシエは思った。
コウさんへの御兄弟のお仕置きね、シャクティは思った。
「お喋りが過ぎたね、これから一丁気合入れるからね、しっかり何かに掴まっといで!」
「わわわ、ちょっと、もっと安全運転してよ!」
「任せな、ちゃんとブレーキも踏む・・・」
バキィっ!
「ちょっと何、今の音・・・」
シーマが足元から何やら掴んでソシエに差し出した。ブレーキのフットバーだった。
「壊れちまった。」
「ええええっ!!」
「はははぁ、こーなりゃ踏むのはアクセル一つ!あたしと坊やの恋路にはブレーキ不要の
片道切符がプレゼントってねぇ!もれなくお嬢ちゃんたちもご招待さ、遠慮は要らない
ついといでぇ!!」
「イヤァアアッ降ろしてええええっ!!」
「時間もありませんので、急いでお願いします。」
「シャクティあんた何落ち着いてんのよおっ!」
「っしゃああ!まくるよおおお!!!!」
「ぎゃあああああああ!!!!!」
三人を乗せた赤のコンバーチブルは、ジオニック社への道程を亜音速で翔けていった。
281 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/12/04 13:23 ID:???
ところは再びジオニック社ラボ、スタッフルーム。社長のシャア、落ち着きを取り戻したナナイ、
主だった研究要員達にアムロが一同に介し、原因究明と今後の方策について論議された。
これまでの経緯と事故の発端と内容、その後の経過が説明され、その状況から様々な仮説、
予想が出され、それらからこの先行うべき方策が提示された。
纏めると、今回の治験で各機械類における人為的誤作動、故障等の過失は見受けられず、
情報面に技術的過失があると見て、OS、プログラムを洗い直す事で現状回復を果たし、併せて
治験の続行を推し進め、当初の目的を果たす。
これがほぼそのまま決定事項となり、諸処の細かい調整事項の確認を終えると直ちに、
研究要員達は持ち場に向かって散って行った。残ったシャア、アムロ、ナナイは今一つ、
とある懸案について話し合っていた。
「はっきり言って、貴社のソフトについては心配はあったんだ、ハードの信頼性の裏返しで・・・
ここはどうもマシンの性能に溺れる嫌いがある。」と、アムロ。
「アムロにはその点で謝らなくてはならん。確かにその風潮があるのは事実だ。私自身、その点を
誇り、改める気もなかった。その結果がこれだ。」と、シャア。
「私もそれを知ってはいましたが遂、具申せずにこれまできました。現場で見て見ぬ振りをした私の
責任です・・・」ナナイはそう言うとハンカチを手に顔を覆った。傍らでシャアが肩を叩いて
彼女を慰める。その光景を見たアムロは意を決すると彼らに告げた。
「こうなれば会社の垣根など関係ない、こちらも企業的に協力させてもらう。我社に掛け合って
支援を要請する!」
「待てアムロ、君は私と違って中間管理職だ、もみ消す力も地位も無い。私的案件で他社で業務を行えば、
事と次第によっては背任で会社から訴えられるぞ!」
「自分の弟の大事を人任せにし、責任まで押し付けること自体が悪いんだ!非は僕にもある!」
「しかし・・・」
「いいんだ、ジオニックの弱点に託けてずるく商売していたつけは、いつか払わされる日が来ると
思っていた。今がそれさ・・・連絡をとりたい、電話を貸してくれ。」
受話器を取ると、ラーカイラム社の番号を押すアムロの表情はとても落ち着いていた。
「・・・ブライトか、アムロだ、突然だが辞表と引き換えにお願いしたいことがある。」
282 名前:ロラン・ローラで大騒ぎ投稿日:03/12/05 14:33 ID:???
アムロが受話器を置いてから一時間の後、とある女性がラボを訪れた。部下の
チェーン・アギだった。
彼女はやや大きめのアタッシュケースをアムロに手渡すと、悲しみの漂う眼差しで見つめながら言った。
「辞表は出しても受理はしない、その代わり一年の減俸と退職金の減額、一ヶ月の休日カットだと、
ブライトCEOが・・・」
「後は働いて返せと・・・そう言いたいのかブライト、でも決心に変わりは無いさ。彼には済まない事をした、
そして君にも・・・」
「そんな事はどうでもいいんです、事情は聞いてますし、私もそうすべきだと思います。でも、
責任とはいえ、自分勝手に辞めるなんて、私は納得できません!だってこれは人助けなんですよ、
社の技術流出なんてこの際言ってる場合じゃないじゃないですか!」
「人道的に正しくても社会通念として誤っている事は、サラリーマンはしてはいけない。故にどんな
理由でも、会社の所有財産を私的流用する事は容認してはいけないんだ。
そしてその前例を作ることも・・・」
わかっています、とそう言って俯くチェーン。いつもは慎ましやかで素直な彼女であるのに、今日は
自分にくってかかっている。はじめて見た彼女の変貌に内心びっくりしているアムロだった。
「今はそんな事より、こいつを使うことの方が先だ。これからすぐにマシンとの整合調整を・・・」
「いいえ、その”そんな事”の方が先です!会社を辞めてはいけません、部長!」
「場と状況をわきまえろ、チェーン、どうでもいい事だろう!?」
「いいえ、私には大事です!」
「チェーン!」
「あのー、込み入った話のところで申し訳無いんだけどさァ、あたしらここでどうしたらいいのか
教えとくれよ。」
はっと横を振り向くと、誰かを負ぶっているシーマと、静かに寄り添って立っているシャクティがいた。
シーマは頭やら腕やらに包帯を巻いていた。左目周辺に青痣もある。
「あ、申し遅れました、こちらに用があるという事で乗せてきました。途中、事故を起こしていたので
助けに行ったら・・・・」慌ててチェーンが事の次第を説明すると、シーマはけろっとしてアムロに
笑いながら言った。
「いやぁ、この子達連れて気張って出発したのはいいんだけどね、ブレーキが故障しちまったもんだ
からしょうがない、適当な壁にマイマシーンをぶつけて止めたのさ。そこへ丁度この嬢ちゃんが
助けに来てくれたから手当てついでに、ジオニック社まで連れてけってお願いしたら行く先が
一緒だったんだよ、渡りに船ってねぁこの事さ。てな訳で早速だけど、コウはどこ?」
「今のうちにソシエさんも起こさなくちゃ。ソシエさん着きました、起きてください。」
そう言うと背負われたソシエのお尻をぽんぽん叩くシャクティ。
「イタッ!誰よ、さっき激しく打ち付けた所を触るのはっ!!・・・・って、ここどこ?」
「・・・・・とにかく、来てくださって有難うございます。色々ご説明差し上げねばなりませんので、
どうぞこちらへ・・・」
そういって三人をスタッフルームに案内するアムロ。その後を、釈然としない表情でチェーンは
彼の背中を見つめながら歩いた。
最終更新:2018年12月07日 17:10