ティファ・アディールは五男カミーユ・ビダンのバイト先でもある
ハンバーガーショップ『マグダニエル』でバイトをする事になった。
その出来事を兄であるカミーユの口から聞いた十一男ガロード・ランは
慌ててティファの元へ駆け出していった。ティファ本人に事情を聞く為である。

ティファ・アディールは後見人のジャミル・ニートにより
生活面におけるほぼ全ての面倒をみてもらっている状況だった。
表向きにはジャミルが経営している私塾『自由殿塾』の特待生として
学費、生活費、その他を『自由殿塾』が全額負担している事になっているのだが
実際のところ、特待生はティファ独りしかおからず……殆どジャミルの扶養家族となっている。

ティファはこのような状況に甘えるのも良くない事だと思ったいたし
世話になっている事にも負い目を感じていた。
いつまでもジャミルの厄介になる訳にもいかない
自分の食い扶持は自分で稼がなければ、とティファは常々思っていたので
ハンバーガーショップ『マグダニエル』の店先に張られていたバイト募集のビラを見てからの
ティファの行動は早かった。その足で店へ面接に行き、明日の放課後から働く事となった。

「ティファは働かなくていい!俺がその分稼ぐよ。ガンダムでもなんでも売ってさ」
ティファの元に駆けつけたガロードは血相を変えて反対をした。
ガロードからしてみたら最愛のティファが金銭的に困っているのならば
その分だけ自分でジャンク屋をして稼ぐなり、何なりで金を工面するつもりでいたのだが

ティファはそのガロードの気持ちを丁寧に断った。
「私も人間(ひと)だから……外に出て他の人と関わるのも必要だと思ったの」
ティファがそう言うなら……とガロードは引き下がるしかなかった。

翌日、ハンバーガーショップ『マグダニエル』におけるティファのバイトは始まった。
実際問題としてティファには接客業としての適正が著しく欠如していた為に
自然と裏方、バックヤードの仕事を任される事となった。適材適所である。

ストーン・フェィスと呼ばれる程に表情の変化が乏しいティファ・アディールにとって
(よくよく観察すると表情は豊かである。とのガロードの意見もあるが
一般的な観点からみて、ティファ・アディールの喜怒哀楽が伝わり難いのは、誰しもが認める事実である)
笑顔で接客する事などは、例えマニュアル通りに仕事をするにしてもティファにとっては無理な話だった。

ティファの仕事はバックヤードでレジから受けたオーダー通りのハンバーガーを焼く事だった。
ティファのバックヤードでの仕事振りは『マグダニエル』店長のヘンケン氏を大いに満足させる事となる。
仕事は手早くミスが無かった。普通の平均的なバイトの仕事のそれを遥かに上回る結果を残していた。

ティファの焼くハンバーガーはオーダーミスが無く、在庫ロス率限りなく0%に近い数字で
作業の速度も尋常ではなく素早い。客が注文した商品を予め知っているかのように
注文した直後に焼きたてのハンバーガーが、すぐに出てくるのだから客からの評判も良かった。

しまいには客が店に来る前からハンバーガーを焼いておいて、袋に入れて用意しておくと
来店した客はティファが用意していた通りの商品をレジで注文する出来事まで起こった。
ここまで来ると仕事の能率うんぬんの話を超えていて、一種の超能力。予知の範疇である。

ティファの仕事ぶり、その様子をみて気味悪がるバイト仲間も居たことは居たが
店長のヘンケン氏は多少、気味が悪かろうがなんであろうが
ティファの仕事は速く確実であり、優秀なバイトである事には変わりないわけであり
実際に客には好評を得ているのであまり気にとめていなかった。

ティファの優秀な仕事振りは当然の事である。
彼女はNT能力の中でも最も得意な予知能力を駆使して
客が何を注文するのか、予めリサーチしてハンバーガーを焼いていたのだ。

あるべき未来の風景を予知しているのだから、聞き間違いのオーダーミスも
それによる在庫ロスも発生する筈もなく、更に言ってしまうと
客が店に来る前からどんな客が何人来て、何を注文するのか?などを
全て把握しているのだから間違えよう筈もなかった。



ある日、ギュネイ・ガスはハンバーガーショップ『マグダニエル』にて大きなプレッシャーを感じていた。
(誰だ?俺にプレッシャーをかける奴。レジに立っている女みたいな男【カミーユの事である】か?
いや、違う。もっと大きなプレッシャー?奥の方!?)

ギュネイの言う『大きなプレッシャー』は店のバックヤードに居るティファの事を指していた。

ギュネイはレジで注文を決める前に迷ってしまった。
店に入る前から予め買おうと決めていたチキン照り焼きバーガーを買うか?メンチカツバーガーを買うか?でだ。
最初はチキン照り焼きバーガーを買うつもりで店に入ったのだが
店先に大きな写真が看板として出ていた『メンチカツバーガー 新発売! 5/5から』が目に入ってからは
新製品のメンチカツバーガーも食べたくなってきたのだ。

が、しかし、今のギュネイにはチキン照り焼きバーガーとメンチカツバーガー両方を買うほどの
持ち合わせはない。注文を決める際にどちらかを選ばなくてはならない。


208 名前:ティファ・アディール『マグダニエル』でバイトをする。投稿日:2005/05/06(金) 07:59:00 ID:???
ギュネイは店の奥の方から来る『大きなプレッシャー』に脅威を感じ、注文を躊躇っていた。

カミーユ・ビダンは来店してくるなり
レジの前で無言で立ち尽くしている挙動不信の客(ギュネイ)をどうする事もできなかった。
その客の表情はみるみる青ざめていき、終いには頭を抱えて呻きだし始める。
「お客?どうしたんですか?」

ティファの電波(他のモノを選んじゃだめ。アナタはチキン照り焼きバーガーを買わなければ。
メンチカツバーガーはメンチカツの準備が未だできていないの。それを注文してしまうと
あと3分も待つことになるわ。それに折角焼いておいたチキン照り焼きバーガーが無駄になってしまう)

「う、うるさい!俺に命令するなああ!!」
レジ前でギュネイは取り乱す。

ギュネイの様子をみて、これはおかしいぞ。とカミーユは感づいた。
それはNT独特の感性が為せる技でもある。
「お客さん?……」

カミーユの電波(これは……ティファなのか?止めろ!客にオーダーを強制しちゃいけないんだ!)

ティファの電波(でも、この人は最初からチキン照り焼きバーガーを買うつもりだったの。
それをメンチカツバーガーに変えようとしている。それはいけないことです。過った道は正さねば)

カミーユの電波(過ったとか、正しいとか。そういう事じゃない。
客にオーダーを選ばせない店なんて、そんな店はあっちゃいけないんだ!)

「や、やめろ!お前等!!俺の頭ん中に入ってくるなあ!!」
ギュネイの頭を仲介したティファとカミーユの脳内議論は暫らく続けられて
その後、ギュネイは悶え苦しみながら救急車に乗せられて入院を余儀なくされる事となった。

ハンバーガーショップ『マグダニエル』は今もなお、ティファ・アディールがハンバーガーを焼いている。
注文してからすぐに商品が出てくる迅速さ、ミスの無い正確さは街の噂にもなっている。評判の高い店だ。

終わり


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最終更新:2019年01月21日 23:25