462 名前:生真面目な二人の十二月 1/7 :2012/12/11(火) 21:32:26.10 ID:???
前編として今日7コマ投下して、後日3コマ+おまけ1コマ投下の、計11コマを予定。
小説形式で書くのは初めてなので出来はあんまりよくないかも。
「モニクさん、新型のフレームを搭載したヅダの試験結果なのですが…」
「見せてくれ」
書類を手渡され、モニクはマイの手に包帯が巻かれていることに気が付いた。
「その手、どうしたんだ?」
「え? あ、これは…実家のMSの整備中にちょっと」
答えるまでに少し間が空いたことをモニクは見逃さなかった。実直な人間ゆえにマイは嘘が苦手だ。
「そうか。気をつけろよ」
気にかからなかったといえば嘘になるが、話したくないというのなら無理に聞くこともない。
そう思い、モニクはそのまま話を続けた。
「は、はい」
問題はそのあとからだった。
「なあ、マイ。例の件について話が」
「すみません、今ちょっと手が離せないので…デュバルさんなら詳しく知っているので、そちらにお願いします」
「わ、わかった」
「マイ、ちょっといいか」
「あ、デュバルさん! ヅダの新しいフレームの件で相談が…」
避けられている。なんだか露骨に避けられている。なんだ。何か悪いことをしたのか。
被害妄想かと思い、その後も何度か声をかけようとしたが、そのたびにうまくすり抜けられてしまった。
このやり取りを繰り返して二週間が経過。モニクは意気消沈して帰路につくこととなった。
463 名前:生真面目な二人の十二月 2/7 :2012/12/11(火) 21:33:47.27 ID:???
「はぁ…疲れた」
エルヴィンは陰鬱な気分で帰宅した。よりにもよってハマーン先生の授業で宿題を忘れてしまったのだ。
こういうことについてハマーン先生はとても厳しい。体罰をするわけではないが(ただし問題児は除く)
やはりあの声と高圧的な態度で叱られるのは精神的に辛い。ご褒美だなんだと騒いでいる生徒もいるらしいが自分にそんな趣味はない。
宿題を忘れたのは自分が悪いのだろうが、それでもあんなに怒ることはないじゃないか。
モヤモヤとした気分を抱えながら居間に戻ると、姉が陰鬱な表情で待っていた。
「エルヴィン…私は今度こそだめかもしれん…」
普通はここで理由を聞くところなのだろうが、エルヴィンには聞かなくともわかった。姉の交際相手のことだろう。
「なんでそんなに悲観的なの、姉さんは」
「ここまで来るのにどれだけ空振りを重ねたと思ってるんだ…」
つまり失敗を重ね続けたせいで自分にまったく自信が持てなくなっているということか。
「そういうこと…」
普段は冷静沈着にして堅物。デキる女を形にしたような性格の姉だが、こと交際相手のオリヴァー・マイ・Gのことに関しては
話が別だった。いつもはここでエルヴィンがフォローを入れるところなのだが、今日ばかりは事情が違った。
「だから…どうしようかなあと」
エルヴィンの頭の中はただ一言しかなかった。いわく――めんどくさい。交際に至る前までは色々と策をめぐらせては爆死する姉の
ストッパーや慰め役、そして交際が始まってみれば愚痴という名の惚気の聞き役兼相談役。ただでさえ虫の居所が悪いところに
そんな相談をされると途端に鬱陶しくなってくるのは当然で。
「たまには一人で考えてみなよ。それじゃあ僕、宿題あるから」
「ちょ、エルヴィぃぃぃぃン!?」
姉の悲鳴が聞こえたが無視した。こうイライラしているとどんなことを言ってしまうかわかったものではない。
とりあえず今日のことを反省しつつ宿題を仕上げに自分の部屋に戻った。
464 名前:生真面目な二人の十二月 3/7 :2012/12/11(火) 21:34:52.53 ID:???
翌日。たしかに恋愛に関してエルヴィンに頼りすぎている気がする。たまには頼らずにやれということかもしれない。
昨日は偶然タイミングがよくなかっただけだ。そう思い直し、モニクはマイに声をかけた。
今日、マイに特に用事がないことは
ガンダム家の長兄であるアムロに確認済みである。
「マイ。仕事が終わったら食事にでも行かないか」
「申し訳ありません。誘っていただいて恐縮なのですが、今日は予定がありまして…」
「あ、ああ…わかった…」
「すみません。それでは」
アムロの情報から、最低でも家族ぐるみの用事はないはずなのだ。なのに予定? 何か秘密でもあるというのだろうか。
ネガティブ思考がネガティブ思考を呼んで、恋愛についてことごとく脆い彼女のメンタルはあっさりと崩壊した。
昨日はちょっと冷たくしすぎたかな、と少し後悔しながら、エルヴィンは家にたどり着いた。
ドアノブに手をかけて回し、玄関を開けると。
「姉さん、ただい――」
「えるう゛ぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
ま、を言う前に。どたばたとエルヴィンのところに駆け寄ってきたのは彼の姉、モニクだった。
「うわっ! どうしたんだよ姉さん!」
「わるかった! 私が悪かった! でも今回は、今回だけは! 話を、話をきいてくれぇぇぇぇぇ!」
「ちょ、落ち着いてよ! 何があったんだよ!」
「マイに、マイにきらわれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
涙声で訴えるその姿に沈着冷静な普段の姉の面影はなく、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
「と、とにかく離れてよ! みんな見てるだろ!?」
「みんな…?」
我に返りあたりを見回すと、ほかに二人ほど人がいることに気が付いた。
「お、お邪魔してまーす…」
その中の一人――ツインテールの女の子――が、なんとなく居心地悪そうに言ってきた。
465 名前:生真面目な二人の十二月 4/7 :2012/12/11(火) 21:36:24.45 ID:???
エルヴィンたちはキャディラック家の居間に集まっていた。来ていたシンとメイリンを帰らせようか迷ったが
二人とも興味があるというし、人手は多い方がよいということで招くことにした。
「それで、マイさんに嫌われたって…何があったのさ」
エルヴィンがモニクに聞いた。モニクもようやく落ち着いたらしく、普段通りの冷静なスタイルを取り戻しつつあるようだ。
「最近、なんだか露骨に避けられてるような感じがするんだ…」
モニクが答えた。思い出してまた悲しくなったのか、あふれ出た涙をふいて鼻水をすすった。
「それだけ?」
「それだけとはなんだ! 仕事終わりに食事に誘っても複雑な顔して断ってくるし、
話しかけようとしてもそそくさとどこかへ行ってしまうんだぞ!」
拍子抜けと言うような態度で聞いたエルヴィンに、ぶんぶんと腕を振りながらモニクが叫んだ。
「なんか用事があったんじゃないの? …シン、なんかわからない?」
それを聞いて、エルヴィンは隣に座っていたシンに話を振った。マイの弟である彼なら何か知っているのではないかと思ったのだ。
マイ兄のことは俺もよくわかんないんだけど、と前置きを入れてからシンは答えた。
「あー。考えてみれば最近、結構遅くに帰ってきてるな」
「や、やはりほかに好きな女が…!」
「なんでそこで女の方向に持っていくのさ」
エルヴィンの突っ込みも耳に入らず硬直しているモニクを見ながら、シンは頬をかきながら付け加えた。
468 名前:生真面目な二人の十二月 5/7 :2012/12/11(火) 22:30:32.98 ID:???
規制が切れたようなので続きいきます。バタバタしてしまって申し訳ありません
「でもなあ。最近のマイ兄、ちょっとおかしいんだよね」
「おかしいって?」
「普段あんまり出かける方じゃないのにさ、最近よく出かけるようになって。てっきりデートでもしてんのかと思ってたんだけど…」
「私じゃないぞ…誘っても断られたからな! つまり私以外に女が――む」
モニクの言葉を遮るように、モニクの携帯の着信メロディが鳴り響いた。
「メールだ。マイから…」
「なんだって?」
「あ、ああ。今月の二十四日は空いているかという」
メイリンが横から顔を出した。
「クリスマスだね」
「クリスマス。キリストの誕生を祝う日だったか」
「合ってるけど…姉さん、本当にそれだけとは思ってないよね?」
「それ以外に何があるというんだ。私は別にキリシタンじゃないぞ」
「生真面目もここまで行くとむしろ誇らしく思えるよ…あ」
あきれ気味に言った後、エルヴィンが不意に声を上げた。
「ねえ、メイリン。もしかしてさ…」
メイリンにエルヴィンが耳打ちする。
「うん。それは当たり前だと…え? まさか…」
「姉さん、そういうことに本当に疎いんだよ…」
「疎いっていっても限度があるんじゃないの? シンだってそれくらい…」
「姉さん、そういう俗なイベントには全然縁がなかったから…」
「俺がなんだって?」
「シンはお姉ちゃんをもっと意識しろって話」
「なんでそこでルナが出てくるんだよ。モニクさんの話だろ?」
二人で何やら納得してひそひそ話をする中、シンとモニクだけが頭に疑問符を浮かべている。
「何か思い当たることがあったのか?」
「えっ!? い、いや、それは…」
あからさまに動揺しながらメイリンが繕った。怪しい。そのまま視線を弟に送ると
弟も微妙な顔をしてこう答えた。
「え、えーっと…姉さん、ほんとに気づいてないの?」
「何の話だ。シンくん、何かわかるか」
「いや、全然」
まるでわからないとばかりに首を横に振るシンとモニクに、メイリンとエルヴィンは盛大にため息をついた。
469 名前:生真面目な二人の十二月 6/7 :2012/12/11(火) 22:32:42.74 ID:???
「お姉ちゃんもかわいそうに…こんなのが相手なんて」
「だからなんでルナが出てくるんだ? わけがわからないぞ」
「いいよ、もう。シンには期待してないもん」
「こういうこと、自分から気付くまで言わないほうがいいよね…」
「そうだね…」
「やはり何か知っているな!? 教えろ! 教えるんだ!」
自分がこれほどまでに困っているのに、この二人の思わせぶりな態度。
それだけでも精神的な負荷で余裕がなくなっていたモニクがキレるには十分だった。
いきなり立ち上がって、弟の肩をひっつかんで前後に振り回した。
「モニクさん何やってんだよ!?」
「お、お姉さん落ち着いてください!」
「吐けばいくらでも落ち着いてやるわ! さあ吐け、吐くんだ!」
「め、目が回る…」
「このままじゃ違う意味で吐いちゃいますよ! 離してあげてください!」
「む、むう…」
完全に目を回しているエルヴィンを見てようやく落ち着いたのか、モニクは手を止めてメイリンを見た。
先ほどの凶行を思い出しているのか、完全に怯えた目でモニクを見ている。
「わ、私に聞こうったってそうはいきませんよ!? 聞いて損をするのはモニクさんなんだから!」
怯えながらも、あくまで言うことを拒否するメイリンを見て、これ以上は何を言っても無駄だと悟ったモニクは顎に手を当て考えた。
「損をする、だと?」
自分に不利益なことだというのか。まったく想像がつかない。そこでモニクの脳裏に、ある友人の姿が浮かんだ。
「…あの人の手を借りるとしようか。メイリン、シン。今日はありがとう」
「は、はい…」
「どういたしまして…で、いいのかな?」
シンとメイリンは戸惑いながらも返事をし、気絶したエルヴィンを看病して(メイリンがモニクを妙に警戒していた気がするのは気のせいだろう)
帰って行った。
471 名前:生真面目な二人の十二月 7/7 :2012/12/11(火) 23:00:38.39 ID:???
滅多に使わない有給を消化してモニクがやってきたのは、バカップルの集う喫茶店としてそのテのカップルには有名な『レンダの家』。
開店後まもなくという時間帯からか、客はモニク以外いなかった。
「やあ、モニク。今日は一人なんだね」
カウンターから顔を出したのは店主のレンダだ。普段はマイとよく来ているので不思議そうな顔をしている。
「ああ。ちょっと相談があってな」
「相談? いいよ、言ってみな」
モニクは事のあらましを説明した。レンダは真剣に話を聞いてくれたが、話が終わると一言こう言った。
「ふーん…そりゃおかしな話だね」
「だろう?」
「考えられるのは…」
「エルヴィンたちは気付いているらしいのだが…私にはまったく見当がつかないんだ」
「…あ」
「何かわかったのか!?」
「…いや、まさか…そんなことが、あるっていうの?」
「なんだ。なんなんだ?」
レンダは当惑した様子で口を開いた。
「今、何月だと思う?」
「十二月だろう。私を馬鹿にしているのか」
「うん、そう。十二月だ。十二月といえば?」
「…年末?」
「いや、それより前にイベントあるでしょ」
「ネオジャパンでは天皇の誕生日を祝う日があるというが」
「…あんた、わざとやってんじゃないだろうね?」
「あなたを困らせることに何の意味があるんだ」
本当にわからないという風なモニクに、レンダがほとほと呆れた様子だった。
「あんた、本当に気づいてないのかい?」
エルヴィンと同じような顔で聞いてきた。まったく覚えがないのでモニクは前と同じ返事をした。
「何の話だ」
「ま、いいか。知らないほうがいいということもあるし」
「何の話なんだ!? 教えてくれ!」
つっかかろうとしたが、その前に腕をとられた。意外と力が強く、簡単に押し返されてしまった。
「やだよ。どうしても知りたいなら自分で気付くんだね」
そんな押し合いの中でも平然としながらレンダが言う。ついに友人にまで裏切られたのか。
そう思うと悲しいやら悔しいやら。さまざまな感情が混ざり合って、ついに出た一言は。
「薄情者ぉぉぉぉぉ!」
言いながら、モニクは逃げるようにして店を去った。
結局モニクは、意味のわからないまま十二月二十四日を迎えることとなる。
ここで前編は終了。
続きは十二月中のどこかで。簡単に予測されそうではあるけど
最終更新:2015年11月30日 19:55