470 :
光の翼番外編 日登町防衛戦(6) 1/42016/01/26(火) 06:11:07.94 ID:urE9Fw2X0
キオは学園で見かけたザンネックを追っていた。
(あのザンネック…ファラ先生がなんで…)
ザンネックはちょうど敷地を出たあたりで停止し、学校にザンネック・キャノンの砲口を向けていた。
すでに攻撃の準備に入っているようで、両肩の粒子加速器が稼働している。
「待てえ!」
急ぎCファンネルを飛ばして攻撃する。
ビームはIフィールドにはじかれたが、それでこちらに気付いたらしくザンネックは砲撃の準備を中断した。
「おやおや。なかなか狩り甲斐のありそうな奴が釣れたもんだ」
「(ファラ先生の声! でも…違う!)」
「誰ですか、あなたは…いや、なんでザンネックに乗ってるんです。ファラ先生は…!」
あのパイロットは声こそよく似ているが、キオの恩師であるファラではない。キオはそう直感した。
「先生? …ああ、コッチの私は教員になってるのか。似合わない。処刑人は処刑人をやってりゃいいのにさ」
「何を言っているんですか…!」
「ああ、あんたにはわからない話だったか。まあわかったところで、私がお前の首を頂くことに変わりはない!
この死神の魔手(デスイビルハンド)でね!」
戦略レベルの超長距離射撃を行えるザンネックだが、巨体と武器の取り回しの悪さにより接近戦には向かない。
組み付こうとすると、機体が何かにはじかれた。
「いきなり女に寄ってくるなんて悪い子だ」
ザンネックが何か持っていた。ビーム・サーベルの発振器のようなものから鞭状のビームが伸びている。あれではじかれたのだ。
「なんだ、あの武器…」
あんな武器をザンネックが持っているという話は聞いたことがなかった。
「便利だろ。ビームサイズにもビームランスにもなるんだ。――つまり!」
鞭を鎌に変えて、先ほどまで動かなかったザンネックが迫ってきた。
「うわっ!」
「お前のMSの首を刈り取ってやることもできるのさ!」
鎌が届く微妙な間合いに入り込んでビーム・サイズを振りかざすザンネック。意外な素早さに驚いたが、それも一瞬のこと。すぐに回避行動に移る。
「ははっ! この私、
ファラ・グリフォンが処刑してやろう。お前も! あの学校の連中もねえ!」
名前まで同じ。キオの恩師と無関係とは思えなかったが、考えるのは後だ。
「処刑、処刑って。首をとることの意味をわかってるんですか、あなたは!」
「何を言ってる。首をとることに意味なんざないだろ!?」
ファラの言葉に、キオはぎりりと歯をかみしめる。
「あなたは、僕が止めてみせる!」
「止められるもんなら止めてみな、子供が!」
止めてみせる。決意を新たに、キオは攻撃を再開した。
471 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(6) 2/42016/01/26(火) 06:12:20.99 ID:urE9Fw2X0
数十分後。どうにかバズを撃破したアセムは、応援にやってきたシロー率いる警官隊にその場を任せ
損傷したダブルバレットでキオの元へとたどり着いた。悪い予感は当たり、ザンネックとAGE-FXが戦っていた。
両者とも素早く動き、攻撃の応酬を繰り返している。
「(援護は無理か…!)」
援護しようにも、あの中に割って入るのは無理だ。AGE-FXに当たってしまう可能性もある。
歯がゆい思いをしながら、目の前の戦闘を見守る。隙を見つけたらすぐに攻撃に移れるように。
戦いながら、ファラは違和感を感じ取っていた。先ほどから頭の中にノイズのようなものが走っている気がするのだ。
気のせいと決めつけていたが、ノイズはどんどん大きくなり、ついには言葉となって、ファラの脳裏に走る。
『ファラ先生が言ってた。首っていうのは、戦士にとって取るほうも取られる方も誉れの高いことなんだって
首を取られるってことは、それだけその人が評価されていたってことの証なんだから』
ファラが戦っているパイロット――キオの声だった。
「なんだこれは…頭に直接訴えかけてくる…!?」
『あと、神様への捧げものとして人の首の代わりに使うために生み出されたのが饅頭だっていうことも教えてくれた。
饅頭は生贄に使う人間の頭の代わり。つまり命の代わりだったんだ』
AGE3-FXがサーベルで切りかかる。
「だから――どうした!」
ザンネックはビーム・サイズで器用に受けて、また離れる。
「首は、いや人間はそれだけ尊いものなんだ!
それをわからず首を取るあなたは僕の尊敬するファラ先生じゃない! ただのファラ・グリフォンだ!」
「ああそうさ、私はファラ・グリフォンさ! 無感動に人を殺して何が悪い!? "こっち側"の私など知ったことか!
私は処刑人の、人殺しの家系に生まれたファラ・グリフォンなんだよ!」
ビーム・ランスを突き出す。横に避けたところで、ビーム・サイズへと切り替える。AGE-FXの左足を切断した。
しかしAGE-FXはそんなことは構わないとばかりに戦い続け、今度は通信に乗せて声を届ける。
「親が…先祖が、家系がなんだっていうんだ! 子が親の業を背負うなんておかしいよ!
あなたは、自分の劣等感にその道を選ばされただけじゃないか!」
「キオ…」
戦闘を見守るアセムの胸を、ちくりとした痛みと悲しみが走った。理由はわからない。
それは日登商店街でXラウンダーの能力を使いキオの言葉を聞いていたフリットも同様だった。
「父さんや母さんは何してるか知らない! でも、兄さんたちはいろんな道を歩んでるんだ!
僕はただのゲーム好きの子供で、将来のことなんか知らない! 学校や遊びのことで頭がいっぱいだもの!」
「MSに乗って、ザンスカール軍中尉の私に食らいつく貴様が、ただの子供!? 寝ぼけたことを言うな!」
472 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(6) 3/42016/01/26(火) 06:15:03.54 ID:urE9Fw2X0
「寝ぼけてなんかあるもんか! Xラウンダーなんていうワケわかんないものだって言われた。お前は凄いって何度も言われた。
でも、それでも僕は――普通の子供だ! 大人でも神様でも超人でもないんだ!」
激情に身を任せ、FXバーストを発動。勢いと見た目に怯んだファラのビーム・ランスを軽々と避けて、ザンネックへと抱き着いた。
「くっ…!」
「取ったッ!」
機体のあらゆる場所から吹き出すサーベルを使ってコックピット以外の場所にダメージを与えながら、右腕のサーベルを使って頭を切断。
間違ってコックピットに攻撃しないように、すぐにバーストモードを切る。
「頭を取ったって…私はまだ動けるんだよ!」
「それでいいんだ!」
ボロボロになりながらも反撃を試みるザンネックに対して、ブースターを全開にして渾身の体当たりをかける。
視界とバランスを失い体勢が不安定になったザンネックは、その衝撃でSFSから叩き落された。
「私が、子供に…!?」
その言葉とともに地上へと落下していくザンネック。全身にダメージを受けている状態で落下の衝撃を受ければ、もう動けないはずだ。
「ふぅ…」
コックピットの中で、キオは大きく息をついた。SFSはまだ生きていたが、遠隔操作される恐れがあるので念のため破壊しておいた。
「キオ!」
「ダブルバレット…アセム兄ちゃん…」
体を強い倦怠感が襲っている。キオは思いのほか疲れていた。
「学校は…?」
「ファラ先生とシロー兄さん達が頑張ってる」
「そっか…じゃあ、行かなきゃ…」
「え?」
AGE-FXを地上に降ろして、先ほどザンネックが落下した場所へと向かう。
「キオ!?」
予想外の行動をした弟を追い、アセムも地上へと降り立った。
キオの予想通り、ザンネックは機能を停止していた。外側からハッチを開く。
「大丈夫ですか?」
中のパイロットに手を差し伸べる。顔も体格もファラそっくりだった。違うのは鈴の飾りがないことと、額の奇妙なマークくらいか。
「…敵に情けをかけるっていうのか」
「戦いは終わったんだから敵も何もないでしょう。…アセム兄さん、引き上げるからちょっと手伝って!」
「あ、ああ…」
アセムの助けを借りて、ファラの右腕を強引につかんで引き上げる。特に暴れるようなこともなかった。
473 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(6) 4/42016/01/26(火) 06:19:55.05 ID:urE9Fw2X0
「お前たちは…一体なんなんだ?」
「言ったでしょ、ただの学生」
「同じく」
「あ、怪我してる!」
ファラは左肩から血を流していた。落下の衝撃で変形したコックピットの部品が刺さったらしい。
引き上げたときに暴れなかったのは、この怪我が影響していたようだ。
キオはポケットから消毒用のスプレーと止血用のテープを取り出し、消毒した傷口に貼った。
「こんな状況じゃ病院もやってないだろうし…とりあえず、これで我慢してくださいね。
シェルターまで行けば、たぶんちゃんとした治療を受けられると思いますから」
「なぜ、敵にそんなことをする…自分に害をなすかもしれないというのに」
言われてからキオははっとなった。
「…そこまで考えてなかった」
ばつの悪そうな顔で言うキオにファラが苦笑し、立ち上がった。
「私の負けだね」
「え?」
「テロ屋の真似事はもうヤメにする。で、警察に出頭してやる。それでいいんだろ」
「あ、はい…」
「なんで急に素直に…」
アセムの疑問には答えず、ファラはキオをじっと見つめた。
「あんたの馬鹿さと強さ、優しさに…どうにも惚れてしまったらしい。惚れた男の頼みは聞いてやるのが女ってものさ」
キオに向け、ファラが妖艶に微笑んだ。あまりの色気に流石のキオとアセムが一瞬どきりとし、しばらくファラが言ったことの意味を理解できなかった。
「いつかまた、会えるのを楽しみにしてるよ。キオ。デートの誘いはいつでも受けつけてるからね」
硬直する二人を後目に、手をひらひらと振りながらファラが去っていく。そして、ようやく言われたことの意味を理解した二人は。
「「えええええええ!?」」
二人そろって絶叫。混乱のあまり、結局あのファラが何者なのか聞くのをすっかり忘れてしまっていた。
最終更新:2017年05月24日 21:09