228 :通常の名無しさんの3倍:2014/07/19(土) 22:24:02.33 ID:???
ある日の正午過ぎ、ギレン・ザビは弟のドズルの家を訪れていた。
「あら、いらっしゃい、お義兄様」
「ああ、ゼナか」
出迎えてくれたドズルの妻、ゼナに対しドズルは軽く右手を上げる。
「突然すまんな、ドズルは居るか?確か非番だったと記憶しているが」
「夫ですか?」
「ああ、仕事の件で2、3相談したい事があってね」
「そうですか」
ギレンの問いにゼナは少々困ったような顔を浮かべる。
「居ないのか?」
「いえ、夫は確かに家に居ますよ。今はちょっとそれ所ではないと思いますが」
「?」
どうぞ、と玄関の扉を開くゼナに促され、頭を捻りながらも家の中へと入るギレン。
そこである異変に気付いた。
(重い)
空気が重い。
重力の井戸の底ではないが、何か得体の知れないプレッシャーみたいな物を感じる。
(何なのだ一体)
自分はニュータイプではなかったはずだが…
そんな事を考えながらリビングへと案内されるギレン。
するとリビングではドズルとゼナの娘、ミネバがソファーに座りながら大画面のテレビを眺めていた。
「やぁミネバ。失礼するよ」
「………」
何時もの様に挨拶をするギレンだったが、ミネバからの返事はない。
テレビに夢中なのかと思いモニターに視線を向ける。
【『真っ白なシーツを汚すシミ!』それが一度で消える魔法の様なこの洗剤!――】
しかしそこに映っていたのは陽気な兄弟が司会を務める唯の通販番組で、特に珍しいものではなさそうだ。
と言うか
「ミネバ、今日は平日だろう?学校はどうしたんだ?」
瞬間…!空気の重さが増大した。
それだけでなく、部屋の温度が幾許か下がったような感覚すらある。
「………」
相変わらず返事がないミネバだが、テレビを見つめる横顔が先ほどより明らかに険しい。
どうやら自分は知らない内に地雷を踏みぬいていたらしい。
隣ではゼナが苦笑している。それ所ではない、というのはどうやらこの事だったようだ。
(と、言う事は)
ある種の確信めいた予感を基に、リビングから家の奥へと繋がる扉の方を見るギレン。
「!…!…」
すると、扉の影には無駄にでかい体を無理やり縮め、必死の形相でこちらへと手招きをするドズルの姿があった。



230 :通常の名無しさんの3倍:2014/07/19(土) 22:24:45.81 ID:???
「で、いったい何があったのだ?ドズルよ」
ドズルを連れ場所をリビングから書斎へと移動したギレンは、開口一番にこう尋ねた。
仕事の相談の件などすでに頭から消え失せている。
「…そ、それがよぅ」
ぽつりぽつりと口を開くドズルの声には何時もの覇気がまるで感じられない。
彼の話ではこうだ。
ミネバには特別な力…というか体質がある。ガンダム家の刹那少年などと同じ様に、自身の年齢を8歳から16歳まで自由に変える事ができるのだ。
以前は基本的に8歳の姿で生活していたのだが、ここ最近は16歳の姿で居る事が多くなった。
そこでミネバが通う学園を、初等部から高等部へと転入するという話が浮上したのだが、それに対しドズルが断固反対の意を唱えたらしい。
理由は言うまでもなく、高等部に通うミネバの想い人(らしい)ガンダム家のバナージ少年の存在だろう。
結局シャアやハマーン、ジンネマンなどの仲介もあり、オードリー・バーンという偽名を使い特待生として高等部へ編入する事で決着が着き、今日がその登校初日……となる予定だったのだが
「学園の高等部がたまたま、今日から2泊3日の社会研修でインダストリアル7に行っている、と?」
「………」
力なくこくりと頷くドズルの姿を見て、ギレンは右手の親指と人差し指で軽く目頭を抑えた。
楽しみにしていたであろう転入初日が潰れ、想い人は目下恋敵(との話だが本当か?)のロニ・ガーベイやミコット・バーチと共に旅行中。
いくら我慢強いミネバとは言えこれでは不機嫌になるのも当然と言えるだろう。
ハマーンの助力があったはずなのに何故その様な状況になったのかは不明だが、今やるべき事はただ1つ。
「ドズルよ。早々にミネバに謝るべきだ」
「お、俺だってこのままじゃミネバが可哀想だし、さすがに今回は全面的に自分が悪かったと思ってるさ!その証拠にほら」
そう言ったドズルは懐から何かのチケットを取り出した。
どうやら謝罪と気晴らしを兼ねて、家族3人で旅行に行くよう計画していたらしい。
本来ならバナージと一緒に行くようにチケットをミネバに渡すのが一番なのだろうが、そこまでをこの弟(おやばか)に求めるのは酷というものだろう。
「なら早くミネバにそれを渡したらどうだ」
「それはそうなんだが…その…」
「どうミネバに話しかけたらいいか分からない、か?」
再びこくりと頷くドズルに、ギレンはふむ、と自らの顎に手を当てる。

231 :通常の名無しさんの3倍:2014/07/19(土) 22:25:24.93 ID:???
「お前の今の気持ちをそのまま言葉にするのが一番だろう」
「今の気持ちを?」
「ああ、ミネバは物分かりの良い娘だ。お前の気持ちをまっすぐ伝えれば、きっと許してくれるだろう」
「そ、そうだ…そうだな!ありがとう兄貴!!」
さっそくミネバのもとに向かったのだろう、礼を言うやいなやドタドタと書斎を出ていくドズル。
その後ろ姿を見届けたギレンは、やれやれと溜息をつく。
(…まったく、何時まで経っても手のかかる弟だよ)
或いは…自分にも年頃の娘が出来れば、弟と同じ様な心境になるのだろうか。
そんな事を思いながら黄昏るギレンの耳に、壁越しにも聞こえるほどのドズルの大声が屋敷に響き渡った。



「ミ ネ バ !! お 前 が 哀 れ だ 、 ド バ イ へ 行 こ う !!」



【臨時ニュースです!現在日登町UC地区にて、巨大MAビグザムがドス黒いオーラを放つ謎のMSに追いかけられています!
近隣住民の皆さまは急いで地下シェルターに避難して下さい!繰り返しま……】
コウ「なあ、あれってバンシィじゃないか?」
セイ「違うよコウ兄さん。黒い光のせいでそう見えるけど、あれはユニコーンガンダム3号機のフェネクスだよ」
コウ「あ、ホントだ。さすがだなセイ」
ロラン「こらっセイ。風邪で学校休んだんですから部屋で寝てなきゃ駄目ですよ」
セイ「はーい」

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最終更新:2016年04月11日 08:09