284 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十の一投稿日:2006/12/23(土) 03:10:05 ID:???
「……ちっ」
ランスをクラッシュシールドで防ぎながら、メルクリウスの中で、ヒイロは舌打ちをした。
元々腕は悪くないと聞いていたが、ここまでやるとは。
バスターランチャーはプラネイトディフェンサーで無効化できたが、接近戦に持ち込まれると条件は互角になる。
背部スラスターの噴射で自在に動き回り、ランスを突き出してくるX2。互角どころかこちらが不利かもしれない。
ゼロカスタムを持って来るべきだったか、と今更ながら思う。
バスターライフルであれば、問答無用でミンチにできたろうに…
隣をちらと見れば、ヴァイエイトの残骸だ。
早々にビームを撃ちつくし、「早かったな、俺の死も」と言い終わる前に貫かれて終わっている。
その瞬間、ヒイロは「俺がそちらに乗るべきだった」と思った。
と考えているうちにもランスが繰り出される。シールドでガードするヒイロ。
接触を通じて響いてくる笑い声。
いい加減にしてほしい、と思う。ヒイロとて人間だ。普段表さないようにしているだけで、ちゃんと感情はある。
始終壊れた笑い声を聞かされては、精神的に参る。おかしな方向に逝った人間の相手は、カトルで十分だというのに…

――ザビーネェェッ!!

がん、と頭を殴られるような感覚。一瞬レバーを放しかけ、だが握りなおす。
動揺したのはザビーネも同じだったようで、一瞬機体の動きが止まった。
そこにビームガンを打ち込む。回避行動をとられ機体には当たらなかったが、ランスに着弾、破壊する。
しかしX2はランスの残骸を投げ捨て、ビームザンバーを引き抜く。
まだ戦闘は終わりそうにない。
だが…

『なんとぉ――――っ!!』

いきなり横手から白い機体が突っ込んできて、X2にタックルをぶちかました。
予想外だったか、まともに吹っ飛ばされるX2。
一度聞けば忘れられない、その奇声の主は…

285 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十の二投稿日:2006/12/23(土) 03:11:00 ID:???
「F91!? シーブック兄さんか!」
『その声、ヒイロ!? なんでメルクリウスに!?』
火消しのバイトだ。ゼロカスタムは目立ちすぎる」
『……なるほど』

と会話しているうちに立ち直ったか、X2が戻ってくる。
『ヒイロ、こいつは俺にやらせてくれ! 裏切り者は俺達の手で!』
「待て。ザビーネは裏切ってなどいない」
『何言ってるんだよ、こいつはジュピターに…』
「ジュピターに潜入してもらった」
『潜入!?』
「調査のために協力を頼んだ。しばらく前から潜入していて…」
『じ、じゃあ、こないだのトビアは!?』
「奴等の目の前で仲間を撃墜し、さらなる信用を得るためだ。でなければ深い情報は入手できない」
『なんとー!?』
「後はプリベンターに情報を流してもらっていた。先日のアレルギー騒動を発表できたのも、奴のリークが決め手だ」
『じゃあどうしてここで戦闘してるんだ!? それにあいつ殺気みなぎってるぞ!』
「どうやら強化されたらしい。ごく短時間の強化でも、アレルギー物質を摂取させればこうもなる」
『パンを食べ続けなきゃ発症しないんじゃ…』
「食べ続けるとはつまり、体内に残留する量が限界を超えれば、ということだ。一度に大量に打ち込めば同じこと」
『…………』
「奴への通信回線はオフにした方がいい。疲れるだけだ」
『どういう…』
「ここまでだ。来るぞ」
『っ!』
二機は散開した。X2がザンバーで突進してくる。

(シーブック兄さん…クロスボーン・ガンダムで来るかと思ったが、F91か… ならば俺の任務は壁役)


286 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十の三投稿日:2006/12/23(土) 03:21:21 ID:???
それを闇に紛れて撮影している機体があった。
黒く塗装したバタラである。
指名手配のザビーネ。彼が乗る盗賊の機体X2。この組み合わせを警察に放り込めば、最大のスキャンダルとなりカロッゾパンは潰れる。アレルギーを起こさせている今、奴に正常な判断は出来ない。警察で洗いざらいぶちまけてくれる…はずだった。
なのに正体不明のMSが二機現れ、X2を足止めしている。
それでも一機撃墜し、二機目も時間の問題かと思えば、今度は白い機体がやってきた。
だが、逆に考えればいい。これをカメラに収めれば、ジュピターに攻めてきた盗賊、それを防ごうとする防衛用の機体、そう説明できる。
バタラのパイロットはシャッターを…

『困るんだよな、それ!』

シャッターを切った、と思った瞬間、バタラは光の鎌に斬られていた。


「闇に乗じるのは死神と盗賊の専売特許だぜ?」
デスサイズのコクピットで、デュオは不敵に笑う。
が、その直後。

ピーッ、ピーッ、ピーッ…

見覚えのある電波が発信されているのを確認。
「げ、ヤバ…」
ジャマーを作動させてももう遅い。一度発せられた救難信号は、既にコロニー警察に拾われている。
こうなっては仕方ない。デュオは通信回線を開いた。
「ヒイロ! 悪ぃ、ミスった! ちっとばかり外れるぜ!」
返事を待たずに回線を切ると、デュオはデスサイズを飛ばす。
やってくるであろうコロニー警察の部隊を足止めするためである。

287 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 十の四投稿日:2006/12/23(土) 03:22:46 ID:???
だが、そもそもコロニー警察は戦闘の光を拾っていたのである。
地球から派手な戦艦が上がってきて、そこから機体が発進して戦闘に加わったとなれば、注目もして当然。
一般人がMSを所有しているこのご時世。余程のことがない限り部隊を動かすことはしないが、救難信号となれば話は別だ。
「地上でキンケドゥが出ていると聞いたが、人命の方を優先すべきだからな…」
蒼いF91のコクピットで、ハリソン警部が呟く。
『警部、全機準備完了です!』
「よし、出撃だ!」
コロニー警察所属、量産型F91部隊出動。蒼に率いられた白の一群は、傍から見れば美しいとさえ呼べるものだった。


「……俺、貧乏くじ引いたか?」
量産型F91部隊の前で、デュオは乾いた笑みを浮かべた。
さて、どうやってお帰り願うか。
普段なら警察上層部に働きかけてでも反転させてもらうが、今はマスコミ全体がジュピターに神経質になっている。
今のプリベンターの活動は、特定の企業を敵視していると言われても仕方ないものだ。
特に一部マスコミがジュピターに抱き込まれている現状では、友人の言葉を借りるわけではないが、迂闊に動けば社会的な死につながる。冗談抜きで。
「どーすっかな…やっぱ斬るっきゃねーか?」
と言いながら、臨戦態勢を整えるデュオ。ジャミング最大、ビームサイズの作動はインパクトの瞬間のみ…
宇宙の闇に乗じれば、F91の群れが相手でもなんとか…できるだろうか?
「っかぁ~、俺も諦めの悪いこって!」
自分に呆れつつ、デュオはデスサイズを飛ばす。



「…………!!」
「ん? おい、ユウ、どこに行く!? まだ警察へのデモンストレーションは終わってないんだぞ!」
『ユウ、戻ってください! 演習宙域から離れてしまいます! そっちはコロニー警察の実戦部隊が…』
(ユウ、いいの?)
「…………」(借りを返さないままでは、な…! 頼む、マリオン)
(ん、分かった)

『EXAMシステム、スタンバイ…!』


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最終更新:2019年03月22日 21:21