115 名前:シンの風紀委員体験 初等部編3 1/5 :2015/06/24(水) 07:41:10.75 ID:E2XDLn/20
結局、あの物体は職員室のカトックに連絡して引き取ってもらった(運ぶモノを見たカトックは露骨に嫌そうな顔をしていたが)
あとはこの階で見回りは終わりである。
すると、げんなりした顔で掃除をするプルと
プルツーの姿を見つけた。他に掃除をしている生徒の姿は見られない。
プル「あ、シン!」
プルツー「ここで会うのは珍しいな。マユならもう帰ったぞ」
シン「プルにプルツー…何してんだ?」
プル「見ればわかるでしょ」
プルツー「掃除だよ、掃除」
シン「二人だけで?」
プル「うん」
プルツー「この階ぜんぶ掃除するまで帰っちゃダメだってさ」
シン「おいおい…」
初等部の学舎は四階建てだが、一階あたりけっこうな広さがある。小学生二人にやらせる量ではない。
ワタリー「プル、プルツー。どれくらい進んだ?」
階段を上がってきたのは初等部担当教師のワタリー・ギラだ。口ぶりからして、プルたちに掃除を指示したのは彼なのだろう。
シン「ワタリー先生」
ワタリー「おお、シン! 久しぶりだなあ!」
カトックと同じく、一見するとヤクザにも見えるような強面だが、常識的で子供好きな良い先生だ。
しかし(この学校の
教師としては)いまいちメンタルが弱く
子供が度を越した悪戯や喧嘩をすると世の中に絶望して泣きながら自爆するというとんでもない悪癖がある。
シン「お久しぶりです、ワタリー先生」
ワタリー「キラやバナージとは仲良くやってるか?」
ワタリーはニコニコと笑いながらシンの肩を叩いた。
シン「え、ええ…そりゃあもう…」
嘘をつくのは忍びないが、素直に朝食を巡ってMS使って
ミンチにするかされるかの大喧嘩をほぼ毎日やってます
――などと言おうものなら自爆されかねないので、致し方ない。
ワタリー「そうかそうか! いや、よかった! やはり兄弟は仲が良いのが一番だ!
もう喧嘩なんてしちゃいけないぞ、シン!」
笑って背中を叩いてくるワタリーにシンも笑い返したが、気まずい。笑い顔が引きつっているのが自分でもわかった。
シン「それで…なんでこの二人だけに掃除やらせてるんです?」
ワタリー「罰だ」
シン「罰?」
116 名前:シンの風紀委員体験 初等部編3 2/5 :2015/06/24(水) 07:42:10.52 ID:E2XDLn/20
ワタリー「こいつら、廊下に大量のネズミ花火をばら撒いてな。後始末と罰を兼ねて、掃除をやらせてるんだ」
シン「なるほど…」
見渡すと、たしかにあちこちにひっくり返ったゴミ箱やら書道用の墨汁と思しき黒い汚れ等が見えた。
プルツー「だからやめとけばよかったんだ…」
プル「あ、ズルい。プルツーだって乗り気だったじゃない」
プルツー「まさかあんなに大事になるなんて思わなかったんだよ」
シン「自業自得だな」
ワタリー「そういうことだ。…なんだ、まだ半分も終わってないじゃないか! 終わるまで絶対に帰さんからな!」
プル「じどーぎゃくたいだー、きょーいくいいんかいにうったえてやるー」
ワタリー「PTAや教育委員会が怖くてこの町の教師ができるか!」
シン「いや、胸張って言うような台詞じゃないと思うんですけど…」
自信たっぷりに言うワタリーに、シンは内心で納得しながらも突っ込んだ。
ワタリー「とにかく! 私は仕事があるので、サボらないようにな!」
そう言うと、ワタリーは再び階段を下りて行ってしまった。
プル「…逃げる?」
プルツー「無理だよ。職員室(兼受付)の前を抜けないと出られないんだし」
シン「大人しく掃除するのが一番ってことだよ。…ほら、俺も少し手伝ってやるから」
プル「ほんと!?」
シン「自業自得だけど、なんかほっとけないしな」
プル「
せっかくだからマリーダも呼ぼっか。NT通信で」
プルツー「マリーダはオードリーの護衛だろ。ミネバ様のほうにはデラーズたちがついてるってさ」
プル「実のお姉ちゃんとお仕事どっちが大事なのさ!」
プルツー「馬鹿な姉のポカの後始末に比べたら仕事だろ」
プル「ひどい! シン、プルツーがバカって言った!」
シン「あーはいはい。無駄口叩いてないでとっととやるぞ」
プル「終わったー!」
プルツー「思ったより時間かからなかったな」
三十分後。ゴミだらけ汚れだらけの廊下は見違えるほどきれいになっていた。
この階のほとんどすべてを掃除したので、ついでに見回りも済んでしまった。一石二鳥だ。ようやく帰れるとシンも息をついた
117 名前:シンの風紀委員体験 初等部編3 3/5 :2015/06/24(水) 07:44:22.10 ID:E2XDLn/20
シン「これならワタリー先生も納得するだろ。じゃ、俺はこれで」
プル「ありがとねー!」
プルツー「助かったよ、シン」
プル「これで帰れるね! あー、疲れた!」
プルツー「疲れたっていうのは同意見…動きたくないなー」
プル「だよね…あ、そうだ!」
プルツー「どうした?」
プル「キュベレイのところに行くのが面倒なら呼べばいいんだよ。出ろー、キュベレーイ!」
ぱちんと指を慣らし、プルが叫ぶ。そのことの意味をプルツーが理解する前に。
濃紺色のキュベレイMk-2の腕が近くの壁をぶち抜いていた。
プルツー「ば、バカ! 何してるんだ! これじゃ掃除した意味が…」
慌てるプルツーの前に、大きな人影。タイミングが悪かったと言うのか。
ちょうど、プルたちの様子を見に来たワタリーだった。
ワタリー「掃除を頼んだというのに…なぜ、校舎の壁が崩れている!?」
プルツー「せ、先生。ちょっと落ち着いて話を」
説得を試みるが、プルツーの言葉はワタリーの耳に入っていないようだった。
ワタリー「こ、こんな現実が…こんな現実があるものか!」
泣きながら、懐から取り出したのは手りゅう弾。
ワタリー「こんな…
こんなことをしているのはおかしい…つまりおかしいから夢なんだ…!」
プルツー「待ってくれ先生! これは現実だ! 現実だから――!」
ワタリー「まったく…!」
なだめようとするプルツーに目もくれず、ワタリーは手りゅう弾のピンを引き抜いた。
プルツー「うわあああああ!」
一方その頃、見回りを終えたシンはグラウンドでそれを目撃していた。
濃紺色のキュベレイMk-2の腕が校舎の壁をぶち抜き、その少しあとに、ぶち抜いた腕が爆発した。
それでなんとなく何が起こったか察して、シンは呟いた。
シン「まったく…」
知ってか知らずか。呟いた言葉は自爆直前のワタリーと同じものであった。
翌日、アフロ頭になって登校したプルとプルツーは周囲に盛大に笑われ
今後二度とワタリーの近くでいたずらはしまいと誓ったとか誓わなかったとか。
118 名前:シンの風紀委員体験 初等部編3 4/5 :2015/06/24(水) 07:46:33.36 ID:E2XDLn/20
せっかく掃除したのに。頑張りが無駄になって少し凹んだが、これで今日の活動はおしまい。
だったのだが、帰ろうとしたシンの目に異様な光景が映った
ジーン「どうしたクシュリナーダ! それで精一杯か!」
マリーメイア「くっ…まだまだ…」
辛そうな顔で腹筋を行うマリーメイアと、そのそばで何やら大声を出している見慣れぬ男。
シンは目をこすり、もう一度見るが見えるものは変わらない。どうやらこれは現実のようだ。
シン「おいオッサン! 何してんだよ!」
すぐさま問いただすと、サングラスをした男――ジーンとかいうらしい――が答えた。
ジーン「特訓だ」
シン「特訓だあ?」
ジーン「ああ。この子供は見どころがありそうだ。営業サボってでも育てる価値がある」
シン「
仕事しろよ!」
ジーン「何を言う! ちゃんと指導料とってるんだから働いてるのと同じだ!」
シン「そりゃあ屁理屈だろ! つーか小学生から金とるな!」
マリーメイア「腹筋二百回終わりました!」
シン「にひゃ…!?」
ジーン「よし! 次はグラウンド五十周!」
マリーメイア「はい!」
シン「ま、待て待て! そんな無茶なことさせて、死んだらどうすんだよ!」
ジーン「努力と根性があれば死にはしない!」
シン「いつの時代の話だ!?」
マリーメイア「邪魔立ては無用です…私は、私は負けるわけにはいかないのです…ミネバさんに!」
シン「ミネバに?」
119 名前:シンの風紀委員体験 初等部編3 5/5 :2015/06/24(水) 07:48:06.66 ID:E2XDLn/20
マリーメイア「彼女と私はなんとなく似ています。父は私のお父様のほうが偉大ですが、成績も運動会の順位も拮抗状態
リリーナ様に教わった遊び"鬼の居ないかくれんぼ"では引き分け…」
シン「鬼いなきゃ勝負つかんだろ」
突っ込むと、マリーメイアは大きく咳ばらいをした。
マリーメイア「ともかく私と彼女はライバルなのです! そして彼女にあって私にないものが一つありました。それはMS!」
シン「MSって…無理だろ。ウッソやキオじゃあるまいし」
MS免許の取得に年齢制限はない。ただし、小学生程度の学力では免許取得はほぼ不可能といわれている。
ウッソやキオは免許を持っているが、それはエースに囲まれて育った環境や自身の努力と素養によるところが大きい。
同じ小学生のプルとプルツーは
強化人間で、ミネバが免許をとれたのはオードリーやメイファの知識あってのことである。
そもそも、普通は高等部どころか大人だって取れないこともあるのだ。今のマリーメイアには無理だろう。
マリーメイア「噂によれば彼女の愛機はジムの神様という話。なので私はザクの神様に乗ろうかと思いまして
ということで、一番最初にザクに乗った男――ジーン様にご指導をお願いしたのです」
シン「ザクの神様ってなんだよ」
ジーン「ガンバs」
シン「オッケーわかった。この話はやめよう」
あらゆる意味で危険な話題だった。
ジーン「そうか。なら邪魔をしないでくれるかな。――なにを突っ立っているんだクシュリナーダ! 三十周追加!」
マリーメイア「はい、先生!」
ジーン「先生じゃなくてコーチと呼べと言っただろう! さらに十周追加ァ!」
マリーメイア「負ける…もんかあああああ!」
ジーン「努力と根性がなければ、ザク神様に乗ることなど出来ん! いいかクシュリナーダ! お前は一人ではただの――」
シン(アホらし…)
ていうかこの町で手に入るのかアレ。ツッコミを入れたかったが、いろいろと問題がありそうだったのでやめた。
ジーンを力づくで止めるのは簡単だろうが、マリーメイアがやる気を出してしまっている以上、シンが止めるのは難しい。
とりあえず職員室に報告を入れてシンはその場を去った。
ちなみにその後のマリーメイアだが。この町でザク神様を手に入れることは困難であると父親に教えられ
訓練はこの日で終了した。思い立ってからわずか三日の出来事であった。
訓練自体は無駄ではなかったらしく、その後のマリーメイアは体育の成績が少し上がった。
そのあと"なければ作ればいいじゃない"という発想に至ったマリーメイアがマイに"ガンバヅダー"の製作を依頼したのだが
それはまた別の話である。
中等部編に続く
最終更新:2016年05月04日 00:27