378 名前:地獄のMS免許取得合宿 1/6 :2015/07/23(木) 23:11:38.95 ID:aw1KYJHs0
メモ帳の整理もかねて昔書いて放置してたやつを投下。そんなんだから出来は期待しないでね!
何年か前。キラ達がまだMS免許を取っていなかった頃の話…
ギアナ高地の丘。シンは、絶望的な表情で真下に広がるコースを見つめていた。
ガンダムファイターの養成や訓練のために使用される、超長距離走用のコースである。
ドモン「最初から飛ばしすぎるのもよくないからな。手始めに、軽く三十周」
シン「いやいやいや! 十分すぎるくらい長いだろ!」
ドモン「そうか? ウォーミングアップにもならん距離だと思うが」
シン「そもそも、MSの免許取るのに関係ないじゃないか!」
シロー「それは違うぞシン。MSの操縦は意外に体力を使う。神経もな。
かなり辛いだろうけど、まあ頑張れ」
シン「…こんな事になるならキラ兄やロラン兄についていけばよかった…」
この合宿ではドモンとシローは基礎訓練、セレーネとマイが勉学、アムロが模擬訓練を教えている。
時間がないので、一つの分野を短期間で骨の髄まで叩き込んで、それからほかの分野に取り掛からせる仕組みだ。
シンは基礎訓練から始めた。どうせMSの操縦を一から教えるとか、そんなものだろうと高をくくっていたのだが、甘かった。
その頃、自宅で学習中のキラとロランはというと。
キラ「や、やめてよね、事前勉強もなしにこんな難しい問題解けるわけないじゃない!」
セレーネ「たかだか連邦大学の入試問題じゃない。この程度で音を上げるなんて、あんた意外に頭悪いのね」
ロラン「そういう問題じゃないと思います…」
マイ「ロラン、私語は慎みなさい」
ロラン「はい…」
マイ「免許をとって∀を動かせるようになれば、ディアナ様も喜ぶのでは」
ロラン「ユニヴァァァァス!」
通常の二倍近いスピードで作業を再開した弟を後目に、セレーネがマイに囁いた。
セレーネ(周りのせいで目立たないけど、この子も単純ね)
マイ(…まさか本当にやる気を出すとは思いませんでした)
セレーネ(ディアナ様大好きな子だもの、当然よ。というか、それが狙いだったんじゃないの?)
マイ(これを兄さんに渡されまして)
手にあるのは手帳。長兄の字で『弟にやる気を出させる方法』と書かれていた。
事の発端は、食卓でのこんな会話からだった。
379 名前:地獄のMS免許取得合宿 2/6 :2015/07/23(木) 23:12:24.68 ID:aw1KYJHs0
シン「MSの免許がとりたい」
キラ「あ、僕も」
アムロ「なんだ、藪から棒に」
キラ「やっぱりさ、持ってたほうがいろいろ便利だと思うんだよ。兄さんたちみたいに専用MS乗り回してみたいしさ」
シン「そうそう。シミュレーターばっかりじゃつまんないし」
アムロ「なるほど、な」
免許の取得自体に年齢制限はない。ただし、取得するための試験は非常に難しい。連邦校では『MS基礎』や『操縦訓練』という科目はあるが、それだけ習って受かるほど甘いものではない。のちに彼らの弟であるウッソとキオが十二歳で合格するという
快挙を成し遂げることになるが、才能ある兄と素養に恵まれた二人が特別なだけだ。
アムロ「久々にアレをやる時が来たか」
マイ「アレですか」
セレーネ「刹那とヒイロがやって以来の、アレね」
シロー「
せっかくだから、シーブックとロランも一緒に受けさせるか」
ドモン「カミーユはどうする?」
アムロ「もちろん受けさせるさ」
マイ「ジュドーたちはどうしましょうか」
アムロ「受けるにはまだちょっと早いから、今回は見送りだ」
キラ「な、何を始めるつもりなんです?」
アムロ「『
ガンダム家MS免許取得合宿』だ。一週間ほど予定を空けておけよ」
とまあ、こういうことである。スケジュールを合わせ、初日――厳密には前日の夜中――に兄たちに拉致され、今に至る。
ドモン「ボケっとするな! 罰として十周追加!」
シン「げえ!」
その後、ついつい口答えしたり悪態をついたりしたため、五十周もコースを走る羽目になった。
シン「死ぬ…マジで…死ぬ…」
ドモン「この程度で音を上げてどうする。これから飯を捕るんだぞ」
シン「…は?」
380 名前:地獄のMS免許取得合宿 4/6 :2015/07/23(木) 23:15:00.20 ID:aw1KYJHs0
ドモン「言い忘れていたが、飯は自力で調達しろ。できなければ死ぬと思え」
殺される。本気でそう思った瞬間だった。東方不敗流スパルタ教育は伊達ではない。
結局、死にはしなかったものの体重がかなり落ちた。
セレーネ「はいはい。お疲れみたいだけど、今日のノルマね。寝る前にテストするから頭に叩き込んでおきなさい。
赤点取ったら課題を増やすからね」
シン「うげぇ…」
二日の基礎訓練(という名のサバイバル)の後は、勉強漬けだ。
おおよそ中高生には見合わないレベルの参考書と問題集をどっさりと目の前に置かれ、シンとシーブックは嫌そうに呻いた。
シン(よし。手ごたえあり。いけるぞ)
二十回ほど課題を増やされながらもどうにか問題を解いて、採点中。そして赤ペンを動かす手が止まり
セレーネはあっさりと言い放った。
セレーネ「赤点ね。不合格」
シン「うそだろ!? 九十点は堅いはず――」
たくさんの赤丸がついたテスト用紙を見返す。用紙の上部には95点と書いてある。
セレーネ「言い忘れてたけど、私のテストは九十九点以下は全部赤点だから」
シン「あんたって人はぁぁぁぁ!」
悪魔だ。人の形をした悪魔がここにいる。
マイ「…九十一点。もう少しですね。あと2セット行きましょう」
シーブック「な、なんとぉ!?」
もう一人の悪魔がシーブックに非情な宣告をしているところを見て、本番前に精神崩壊するのではないかと危惧したシンだった。
幸か不幸か精神崩壊はしなかったが、最後は実戦訓練。優秀なMS乗りである兄を打ち倒すのが目的だ。
アムロ「狙いが甘い! どこに目を付けている!」
アムロ「直線的な動きばかりするな! そこらの虫けらのほうがよっぽどマシだぞ!」
381 名前:地獄のMS免許取得合宿 4/6 :2015/07/23(木) 23:16:01.84 ID:aw1KYJHs0番号ミスorz
380が3コマ目です
アムロ「それでも俺の弟か! 換装もうまく使えないで何のためのインパルスだ!」
アムロ「愚図! もっとスムーズにやれと言っているだろう!」
アムロ「同じところを何度指摘されれば気が済むんだこの出来損ない!」
当然ながら、年季が違うので攻撃をろくに当てることもできず落とされる。迫力も普段とは段違いである。
しかも、一度でも失敗すればあらん限りの罵声が飛んでくる。
シン「ちくしょう、ちくしょぉぉぉぉ!」
アムロ「悔しいか? 悔しいだろうな! 俺が憎ければ上達して俺を殺してみせろゴミクズめ!」
ここまでの訓練で精神的にも肉体的にも追いつめられていたところにコレである。だんだん意識に靄がかかってきた。
シン「うおおおおお!」
疲労で気絶するまでレクチャーされ、気絶しても日が高ければ冷水をかけられて起こされる。
自分は一体何をしているのだろう。いや、そもそも自分は何なのだろう。強烈な疲労によって朦朧とする頭に疑問が巡るが
口から出るのは言葉にもならない怒号のみ。
アムロ「馬鹿者がああああああああああああああああ!」
シン「きょおおおおおおかああああああああああん!」
そもそもこの時点で正常な判断能力など期待できるはずもなく。とりあえず"教官"を破壊することに全力を注ぐことにした。
そして、試験当日。
シン「く、くくく…あはははは! 教官は敵! 敵は殺す! あははははは!」
モブ教官A「く、来るな、来るなぁぁぁぁぁ!」
シーブック「教官? 教官! なんでここに居る、教官!? だめじゃないか、俺の前に出てきちゃ!
死んでなきゃあああああ!」
モブ教官B「ひ、ひぃぃぃ!」
ロラン「ディアナ様、ばんざぁぁぁぁぁい!」
モブ教官C「何の光!?」
シン「兄さんは教官を倒せば…この地獄が終わると言っていた!」
モブ教官D「ぎゃあああああ!」
キラ「だぁめなんだよ! 僕の前に出てきちゃあ!」
モブ教官E「助けてえ!」
382 名前:地獄のMS免許取得合宿 5/6 :2015/07/23(木) 23:19:11.97 ID:aw1KYJHs0
カミーユ「俺の前にノコノコ出てくるなんて、教官というのはまったく度し難いな!」
モブ教官F「こ、こっち来るなぁ!」
実戦のテストの様子である。狂った笑みを浮かべ、
強化人間のごとき形相で教官たちのMSを粉砕していく弟たち。
戦慄を隠せぬ様子でシローが言った。
シロー「兄さん、ちょっとやりすぎたんじゃないですか?」
ドモン「ロランが光を…明鏡止水の境地に到達したというのか?」
セレーネ「オーラが見えるわね。∀は知らないけど、デスティニーとフリーダムはサイコミュ積んでないはずなのに」
アムロ「…目的は達成できそうなんだ。問題ないさ」
実際、筆記試験も難なく通過した。強烈なプレッシャーを吐き出し、試験時間の半分で見直しもすべて終えてしまうほどだった。
そのプレッシャーにあてられたか、周囲にいた受験者たちが体の不調を訴えて退席するというトラブルもあったが。
セレーネ「兄さん、顔色悪いわよ」
マイ「出禁喰らうんじゃないですかね、これ」
シロー「…教習所なのに?」
しかし、数日後のある日のこと。
アムロ「…え、あの教習所がなくなった?」
マイ「あの後、教官が全員やめちゃったらしいです」
アムロ「じゃあ試験はどうなるんだ」
マイ「不合格扱いじゃないですかね」
その一言が発された直後。背後から恐ろしいプレッシャーを感じて、アムロたちはとりあえず逃げることにした。
数分後。街には狂気に憑りつかれた弟たちに追い回される(元)教官たちの姿があった。
シーブック「ふふ…ふははははは、なんで逃げるんだ、兄さぁぁぁぁぁぁん!」
カミーユ「逃げると思ったよ! 鬼教官たちは、この町が沈めば、この町もろともみんなが幸せになれるだろ!?」
セレーネ「さ、さすがに怖いって。なんとかしてよ兄さん!」
アムロ「お、落ち着くんだみんな! もう一度受ければ余裕で合格でき――うわっ!」
ロラン「ふはははははは! …ふははははははははは!」
ドモン「何がおかしい!?」
384 名前:地獄のMS免許取得合宿 6/6 :2015/07/23(木) 23:54:25.14 ID:YxZaFcEJ0
ロラン「ふははははははははははははは!」 シン「教官…教官は殺す! 教官はどこだぁ!」
キラ「どこに行ったんだい兄さん! 勝負しようよ! ねえ! あはははははは!」
正気を失った弟たちが適当なMSに乗り込み、街中で大暴れしている。まさに地獄の光景だった。
シロー「ダメだ、正気を失ってる!」
アムロ「た、たかが正気を失った弟数人、ガンダムで叩きのめしてやる!」
ドモン「無茶だ兄さん!」
アムロ「黙ってみていろ! 兄の尊厳は伊達じゃない!」
シーブック「見つけたァ!」
カミーユ「逃がすかァ!」
シン「死ィィィィィねェェェェ!」
キラ「滅さぁぁぁぁぁつ!」
ロラン「このハリボテがあああああ!」
νガンダムに乗り込んで、弟たちへと立ち向かうアムロ。――地獄は、まだ終わらない。
と、見ていたセレーネ達は思ったのだが。
戦いに夢中になっていた兄弟たちは騒ぎを聞きつけた警官隊にトリモチガンで捕獲されるという形であっけなく戦いは幕を閉じた。
その後、アムロと戦っていた兄弟が全員無免許であることも発覚し、戦いぶりを間近で見ていた取調べ担当の警官は仰天したという。
ちなみに精神的に落ち着きを取り戻した兄弟たちは後日別の教習所へ行き、危なげなく免許を取得して帰ってきたのだった。
最終更新:2016年05月04日 00:45