235 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 1/6 :2015/04/05(日) 21:03:55.86 ID:Xlp19xs/0
ガンプラ出てこないけどBFTネタ。勢いで作った。特に反省はしていない。
都合が悪けりゃパラレルパラレルルー。気に入らないならタイトルをNGワードに設定するかスルー推奨。
連投規制防止のため、ある程度投下したら時間を空けるかも。
???「なあお姉さん、ちょっといいかな?」
朝。店先の掃除をするソーマを、一人の少年が呼びとめた。
ソーマ「何か用か。店はまだ開いていないぞ」
???「この男を知っているか」
少年が取り出したのは、ぼろぼろになった一枚の写真だった。
写っていたのは――ガンダムファイター、ドモン・カッシュ・Gのものと思われるものだ。
ソーマ「知っているが…お前、何者だ?」
???「その人の弟」
ソーマ「なんだと?」
休日の
ガンダム家。特段用事のない十六歳の三人組とドモンは、居間でのんびりと過ごしていた。
ドモン「千九百二十五…千九百二十六…」
スクワットをするドモンのそばでチェス対決をするシンとキラ。さらにそのそばで手持ちのカードをにらんでいるバナージ。
この家には珍しくきわめて平和で静かな光景であった。
キラ「やめてよね。チェス勝負でシンが僕に勝とうなんて百年早…」
シン「チェック」コトッ
キラ「ああっ!?」
シン「僕に…なんだって?」
キラ「シン、意外に上手いじゃない…」
シン「ま、じっくり考えろよ」
バナージ「征竜…禁止…銀河眼…ぐぬぬ」
シン「…バナージは何唸ってんだ?」
キラが熟考している間、カードと睨めっこしては何やら唸っているバナージに声をかけたが
集中しているのか、全く気付いていない様子だった。
キラ「チェック」
シン「あっ!」
キラ「余所見はいけないよねー」
シン「…なあ、さっきと配置が換わってないか」
キラ「気のせいだよ」
シン「気のせいなんかじゃ――!?」
声を荒げようとしたその時。三人の脳内に稲妻が走り、直感的にその場に伏せた。
236 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 2/6 :2015/04/05(日) 21:06:10.15 ID:Xlp19xs/0
「あ!」
「に!」
「きぃぃぃぃぃぃぃ!」
ばたん、どかん! 勢いよく玄関が開き、弾丸のようなスピードで何かが居間へと飛び込んできた。
飛び込んできた何かはその場に伏せていた三人の頭上を飛び越えて、スクワット中のドモンの腹に突き刺さった。
ドモン「ふぶぅ!?」
突然のことで受け身も取れず、ドモンと飛び込んできた何かはごろごろと床を転がり壁に激突した。
ドモン「くっ…襲撃か!? なんだ、何者だ!?」
シン「今、あにきって言ってたよな…」
バナージ「てことは、サイ・サイシー?」
キラ「背丈は確かにそれっぽいけど…布被っててよくわかんないね。剥いじゃってよ兄さん」
いつの間にやら身を起こした三人は手近な家具の陰に隠れながら、ドモンに言った。
ドモン「お前らは口だけ出してないで出て来い」
キラ「やーめーてーよーねー」
バナージ「本当にドモン兄さんに向けた刺客だったら」
シン「生身の俺たちに止められるわけないだろ?」
ドモン「お前ら…」
こういう時ばかり息の合う三人を見てドモンは嘆息し、腹の上に乗っかった何かに問いかける。
ドモン「…おいお前、いったい何者だ。事と次第によってはただでは…」
???「とうに…」
布がうごめいて、中からくぐもった声が漏れだした。
ドモン「ん?」
???「本当に帰ってきてた! 俺だよ兄貴!」
がばっと。布――マントを外して出てきたのは、赤毛の少年。
ドモン「お前、セカイか!?」
セカイ「ただいま、兄貴!」
フリット「そ」
アセム「れ」
キオ「で」
キオ「どういうことなの?」
夕食の席にて。三人から事の次第を聞いた兄弟たちがアムロに聞いた。
237 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 3/6 :2015/04/05(日) 21:11:29.18 ID:Xlp19xs/0
アムロ「つまり、旅に出てた弟が帰ってきた。それだけの話だ」
ガロード「もう少し詳しく説明してくれよ…」
セレーネ「あれがあのセカイ? おっきくなったわねー」
マイ「そういえば、社宅から家に戻ってからは一度も会ったことがなかったですね。何年ぶりでしょうか」
キオ「なんで旅になんか出てたの?」
アムロ「なんだ、知らなかったのか」
ウッソ「よく覚えてないです」
アムロ「あれは一年ほど前。マスターアジア氏が行方をくらまして、ドモンが家に帰ってきたときだった」
色々と話を済ませて居間でのんびりしていた時だったな。ウルベ・イシカワという男が訪ねてきた。
――ウルベ・イシカワ。DG事件の黒幕か。
そうだ。
ウルベ「
ドモン・カッシュ・ガンダム君とは、君だね?」
ドモン「そうだが…あんたは一体」
ウルベ「失礼、紹介が遅れた。私はネオジャパン軍部のウルベ・イシカワ。ある事件について、君に
聞きたいことがある」
アムロ「ある事件? うちの弟が、何か――」
ウルベ「いやいや、ご心配なく。彼は何もしていませんよ。我々はただ彼の手を借りたいだけなのです」
――事件って?
科学者ライゾウ・カッシュ博士の息子キョウジ・カッシュが
デビルガンダムを強奪し地球へ逃亡した事件さ。
父ライゾウは幇助の罪に問われ、母ミキノは騒ぎの中撃たれて意識不明になり、ともに冷凍睡眠装置に入れられた。
――あれ? 知ってる話とだいぶ違う…
実際はみんなデビルガンダム欲しさにウルベが仕組んだことで、キョウジくん達は悪いことなんかしてなかったのさ。
そのあと色々あってウルベの企みが露見して、カッシュ家の人々は無罪放免となった。
ドモン「興味ないな」
ウルベ「………」ボソボソ
ドモン「! おい、それは…」
話を戻そう。当然、興味のないドモンは拒否した。しかし、ウルベが何やら囁くと顔色を変えた。
ウルベ「ここで話すことは憚られるので、ネオジャパンコロニーまでご同行を願いたいのですが…」
ドモン「…わかった」
アムロ「ドモン!?」
ドモン「すまない、兄さん。ちょっと行ってくる」
ウルベ「申し訳ない。すぐに済みますので」
そう言って、ウルベに連れられてドモンはネオジャパンコロニーに行き
三日ほどたった夜中に帰ってきた。何やら思いつめた顔をしていたのをよく覚えているよ。
そして帰って早々、こう口にした。
ドモン「俺は
ガンダムファイトに出場することになった。開催中の一年間、また留守にすることになると思う」
いきなりのことだったから、俺も驚いた。その時はセレーネもマイも社宅暮らしだったし、シローもちょうど当直の日。
成人している人間は俺しかいなかった。
238 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 4/6 :2015/04/05(日) 21:17:22.25 ID:Xlp19xs/0
アムロ「ガンダムファイターだと? いきなりどうして…」
ドモン「すまん兄さん。それは言えない」
アムロ「ドモン、どうしたんだよ。ウルベさんから、何を…」
ドモン「言えないんだ!」
今でこそ知っているが、当時はトップクラスの機密事項だ。言えるわけがない。
言ったらネオジャパン政府に何をされるかわからないからな。
――でも当時は機密事項なんて知らなかったわけでしょ。よくそれで納得できましたね
必死さは伝わった。あんなにつらそうな顔で言われれば信じるしかない。
だから、俺はこう言った。
アムロ「………そうか。危険なことをするなとは言わない。だが…すべて終わったら、元気に俺たちの前に戻ってこい
それだけは約束しろ」
ドモン「ああ、約束する。すまない、兄さん」
アムロ「気にするな。考えを変えれば、我が家からスターが出るかもしれないんだ。こんなに誇らしいことはないよ」
その時、偶然起きてきたセカイが居間で話す俺たちに気付いて入ってきた。
セカイ「兄貴…?」
ドモン「セカイ。兄さんはまた一年、家を出る。強敵と戦うことも多いだろう
戻ったら…たくさん土産話を聞かせてやるからな」
アムロ「もう行くのか」
ドモン「ああ。いろいろと準備があるらしいんだ。何かあったら、ミカムラさんのところに連絡してくれ
レインが俺のバックアップをしてくれるらしい」
アムロ「わかった。気を付けて行って来いよ、ドモン」
ドモン「ああ、行ってくる」
ドモンは別れを告げて、家を出て行った。
他の兄弟達には、師匠に憧れてガンダムファイターになるために出て行ったと説明した。
だが直接ドモンとの別れに立ち会っていたセカイには嘘だと分かったんだな。
夢を追うにしては暗い表情で出て行ったから。
それから毎日顔を合わせるたびにドモンが本当の理由を聞かれたが、はぐらかすしかなかった。
俺だって知らなかったんだ。苛立ちをぶつけてしまったことも、何度かあった。
――ほんとにドモン兄さんが好きだったんですね
――ドモンにべったりなのは昔からよ。次元覇王流を習いだしたのも、多分ドモンの影響ね
――アムロ兄に対する刹那みたいなもん?
そうかもな…
そんな日々が続いた、ある日。
アムロ「おいセカイ! 何してるんだ!」
驚いた。仕事から帰ったら、大きな荷物を持って家を出ようとするセカイをみんなが止めていたんだ。
バナージ「そんなにでかいバッグ抱えて…家出でもするつもりなのか!?」
セカイ「兄貴を追うんだ!」
シン「ドモン兄さんを追うって…何言ってんだよ!」
セカイ「離せよシン兄ちゃん!」
聞けば、ドモンを助けるために自分も家を出るということだった。そんなこと、到底認められない。
――その向こう見ずさ、誰に似たのかしらね
こほん。そんな感じでドタバタしていた時、あの人が現れたんだ。
???「話は聞きました!」
アムロ「え――」
239 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 5/6 :2015/04/05(日) 21:20:45.63 ID:Xlp19xs/0
ミライ「このカミキ・ミライ! 保護者として弟さんの旅に同行しましょう!」
セカイ「ミライ姉ちゃん!」
――カミキ・ミライって、あのモデルの?
そうだ。同時に、セカイの姉弟子でもある。
――そういえば、一時期姿をくらましたって雑誌で取り上げられてたけど…そういうことだったんですね
ミライ(ああ、セカイと二人旅! これは
逆光源氏計画が捗るというもの! 盗聴器を仕込んでおいて正解だったわ!)
――なんですか、この心の声。
NT的直感が生み出した俺の想像だ。
――失礼にもほどがあるでしょ。
…盗聴器は実際に仕掛けてあったんだぞ?
――なにそれこわい
アムロ「ミライさん…」
ミライ「これなら文句はありませんよね?」
アムロ「大ありだよ。君も未成年じゃないか」
ミライ「大丈夫です」
アムロ「何が!? 学校はどうするんだ」
ミライ「次元覇王流の修行の一環で、一年間故郷から離れなければならないというのがありまして。そのついでで!」
――本当なんですか、それ
知らん。後で本人に聞いてみろ。まあ…その時は納得せざるを得ないというか、突っ込みは入れられなかった。
細かいところを突っ込んで面倒なことになるのが嫌だったとも言うが
――むしろそれが本音でしょ
アムロ「次元覇王流については俺もよく知らないが…そうなのか。しかし、旅費の方は」
ミライ「大丈夫です! 修行の一環なので経費で落ちます!」
――修行に経費なんて出るんですか?
知らん。本人に聞け。
――さっきからそればっかりだよ兄さん…
アムロ「しかし女子供の二人旅は危険じゃないか」
ミライ「別に戦地や極端に治安の悪いところに行くわけではないですし。海外旅行みたいなものですよ
それに、私もセカイも次元覇王流を学んでますから多少の荒事は平気です」
アムロ「うーむ………」
俺としては一家の事情に他人を巻き込みたくなかった。だが、ここで突っぱねたとしてもセカイは勝手に出ていくだろう。
――十年前のドモンみたいに?
茶化すなよ。…まあ、あの時は足取りがまったく掴めずに難儀したからな。
どちらにしろ出ていくなら、彼女がいたほうが連絡も取りやすく足取りもつかみやすいと思ったのさ。
本当なら俺たちが行くべきだったんだろうが…さすがに一年も家を空けることはできなかった。
アムロ「――すまない。弟を頼むよ」
ミライ「お任せください、お義兄様!」
とりあえずここでひと区切り。予定よりコマ数増えそうです。
240 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 6/7 :2015/04/05(日) 22:26:02.92 ID:Xlp19xs/0
一時間経ったので投下再開。全7コマの予定
アムロ「というわけで、十日ほど遅れてセカイとミライは旅に出た。ドモンを探すためにな」
セレーネ「旅の理由はわかったけど、ドモンより遅く帰ってきたのはどういうこと?」
アムロ「あっちこっち行ったはいいが、結局会えずじまい。仕方ないから戻ってきたってところだろう」
カミーユ「ドモン兄さんも世界中を飛び回ってたんだし、会えないのも仕方ないか…」
シロー「おいドモン、セカイとミライに何か言うことが――」
ドモン「答えろセカイ! 流派・東方不敗は!」
セカイ「王者の風よ!」
ドモン「全新!」
セカイ「系裂!」
ドモン「天破!」
セカイ「侠らごふぁっ!」
キラ「おーっとセカイくん吹っ飛んだー」
ドモン「…それで、何の話だ? 兄さん」
シロー「お前の話だ!」
ドモン「うごふっ!」
ウッソ「わードモン兄さんも吹っ飛ばされたー」
ドモン「なるほど。すまなかったな、セカイ。ファイトに優勝しデビルガンダムコロニーも倒したから、家に戻っていたんだ」
再び事のあらましを説明され、ドモンはセカイに頭を下げた。
セカイ「気にしないでよ。旅も楽しかったし。そんなことになってたなんて知らなかった…」
バナージ「むしろなんで知らなかったんだ? 全世界規模で報道されていたはずなんだけど」
セカイ「その頃はたしかアザディスタン回って…エスタルドに居たんだよな」
ガロード「エスタルドに行ったのか」
セカイ「うん。なんか大事件があって、それが終わったばかりだとかでゴタゴタしてた」
ガロード「………」
アムロ「エスタルドはMS連合に参加してなかったのか」
ヒイロ「国内外のゴタゴタと自国の財政、それにMSの問題で数機しかMSを送り込めなかったという話だ」
エスタルドの純国産MSエスタルドスは地上専用のMSである。悪いMSではないがエスタルドには宇宙戦に慣れたパイロットもおらず
資金難で宇宙戦用への改修すらロクに出来なかったため、大半の戦力が地上の防衛用に回っていたのだ。
結局デビルガンダムコロニーは宇宙で倒され、地上の機体に出番は回ってこなかったのだが。
キラ「アザディスタンは言うまでもないよね…」
刹那「アザディスタンの財政はいまだザクタンクだ」
ウッソ「ボールですらないリサイクル品ってところに哀愁を感じる…」
ロラン「ところで、ミライさんはどうしたんです? お礼を言いたいのですが」
セカイ「………あれ?」
アムロ「おい!?」
241 名前:風を呼ぶ少年の帰宅 7/7 :2015/04/05(日) 22:39:12.79 ID:Xlp19xs/0
その日の夜。
ドモンはセカイにこの一年のことを語って聞かせていた。
デビルガンダムのこと、カッシュ家の人たちのこと、ガンダムファイトのこと。語ることはたくさんあった。
セカイ「つまり、ライゾウさんとミキノさんを助けるためにガンダムファイターになったんだ」
ドモン「ああ。犯人が幼いころから世話になっていたキョウジ兄さんというから、俺がやらなきゃいけないと思った」
セカイ「でも…他人だろ? なんで兄貴がそんなに頑張るんだよ」
ドモン「血縁というわけじゃない。それでも絆はある。実の兄弟みたいな、そんな絆がな」
セカイ「そうなのか」
ドモン「お前だって、同じ状況になったら俺と同じことをするんじゃないか」
セカイ「俺が?」
ドモン「ミライが罪を犯して逃げ、親父さんたちがその罪で冷凍刑にされたとなったら
そしてそれを止め、親父さんたちの罪を晴らせるのが自分だけだと言われたら、どうする?」
セカイ「俺はまだそういうの、わかんないな」
ドモン「そうだな。ただ、セカイ」
セカイ「なに?」
ドモン「自分が後悔するような選択はするな」
セカイ「わかった。…なあ、兄貴」
ドモン「なんだ?」
セカイ「俺が兄貴を追って旅に出たの、間違ってたか?」
ドモン「いい経験になったんだろ?」
セカイ「でも結局兄貴には一度も会えなかったし、ミライ姉ちゃんに迷惑かけて…」
ドモン「ああもう、ぐちぐちと! おいセカイ! 模擬戦をやるぞ!」
セカイ「え?」
ドモン「もともとこういう風に語るのは苦手なんだ、俺は! 男ならば拳で語って見せろ!」
セカイ「お、おう! 負けないぜ兄貴!」
ドモン「どれだけ強くなったか、見せてもらうぞ!」
一年の旅が終わり、風を呼ぶ少年が家へと帰り着いた。
少年が運ぶ風がこの家に、この町にどのような変化をもたらすのか。
それはまだ、だれにもわからない。
最終更新:2016年05月10日 06:56