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ロランの商店街巡り-6 1/42017/10/30(月) 10:02:37.35ID:qX1P3hXB0
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個人的にはどんどん指摘してくれると助かります。指摘されれば次から直せますし
満足に視聴できてないシリーズも多いので。
――露店の話
次の店にむけて車を走らせていると、ソシエは窓の外に見知った顔を見つけた。
「…あら。ロラン、ちょっと車止めて」
「あ、はい。――どうしたんです?」
「ソシエさんナイス。いい取材対象がいたわ」
同じものをフランも見ていたようで、取材用のバッグを手に取って車から降りて行く。
置いて行かれそうになったロランも二人の後を追った。
ヤコップとブルーノ。最初は敵対していたが、なんだかんだで友人のような関係になったムーンレィスの二人組である。
「らっしゃいらっしゃい!」
屋台を出し、高らかに声をあげて客を呼び込んでいるのはブルーノだった。
その隣でヤコップが客の応対をしている。来ていた客の対応を終えて、二人はロラン達に気が付いた。
「ロランにお嬢さんたちじゃないか。どうしたんだ?」
「ヤコップさんにブルーノさん。そっちこそ、なんでこんなところに…」
「副業だよ、副業」
「ジャンク屋連合に店を任されてんのさ」
「へぇ…」
「古き良き人形劇も悪くないんだけど、そこはそこ。ってね」
二人は町を練り歩いて糸繰人形の劇もやっている。ターンエーとターンXの戦いを題材にしたその劇は子供たちにも人気だった。
「…これ、ハリー大尉のサングラス?」
商品を物色していたソシエが見つけたのは、
どこかで見たような色と形のサングラスだった。
「うちの名物さ。ハリー印の暗視ゴーグル。一個どう?」
「なんだったら、試着したっていいぜ」
「…だってさ、ロラン」
「ぼ、僕が?」
「ディアナ様への忠誠心はハリー大尉にも劣らないロラン・セアックなら、付ける資格はあると思うけど?」
「だからってこれを付ける理由には…」
言外にお前が付けろと言ってきているフラン。自分には似合わないだろうと思っているロランは断ろうとしたが。
「いいから、つけなさい!」
ご主人であるソシエの鶴の一声で、しぶしぶサングラスを装着する事と相成った。
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ロランの商店街巡り-6 2/42017/10/30(月) 10:03:44.44ID:qX1P3hXB0
「…どう?」
「………スモーに乗りたくなってきますね」
フランの問いにロランが答える。その姿を見て、ブルーノ達が一斉に吹き出した。
「笑っちゃ悪いよ、ブルーノ!」
「ヤコップだって笑ってるじゃないか!」
「いいじゃない、ロラン! 着けながら仕事してもいいわよ!」
「…行く先々で笑われるのはごめんです」
「そんなことないわ。よく似合ってるわよ、ロラン」
大笑いするヤコップとブルーノとソシエ。フランも笑いをこらえながらカメラをロランに向けて、カシャリ。
「写真撮らないでよ! もう、似合わないのわかってるくせに…」
「…目の前がまっかっか。ハリー大尉、よくこんなのつけて戦えるわよね」
今度はソシエが付けて感想を述べる。意外と似合ってる気がしてロランは微笑した。
「中身までそっくり同じってわけにはいかなかったんだ。本物はもっと性能がいいと思うよ」
「ふーん…」
「そうだ、ロラン。一つ言っておくことがあったんだ」
説明を終えたヤコップが、そういえばとロランに向き直った。
「なんです?」
「コレン軍曹、地球に来てるらしいぜ」
「コレン軍曹が?」
コレン・ナンダー。謎多きムーンレィスで、
黒歴史の生き証人とされる男。
ガンダムに異常なまでの敵意と執着を持ち
その乱暴な性格も伴って、行く先々で何度もトラブルを起こしてきた。
「ああ。ハリー大尉が探しに来てさ」
「見なかったって言ったらまた飛んで行ったけど、ディアナ・カウンターもご苦労だよなぁ」
「また面倒起こすかもしれないから、気を付けろよ」
コレンの元部下でよく振り回された二人としては、他人事のように思えないらしい。
「ハリー大尉、地球にいるんだ」
「ハイム家でお茶会があるんだってさ。そんで、ディアナ様の護衛に来てるらしい」
「え!?」
ディアナが地球に来ている。しかもハイム家に居ると聞いてロランが驚いた。
「なんだ、知らなかったのか?」
「ソシエお嬢さん連れてるから知ってるもんとばかり…」
「…お嬢さん、ヒマじゃなかったんですか?」
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ロランの商店街巡り-6 3/42017/10/30(月) 10:07:00.97ID:qX1P3hXB0
一同にじろりと視線を向けられると、ソシエはそっぽを向いた。
「………知らないわよ、お茶会なんて全然知らない。ディアナさんやお姉さま、リリ・ボルジャーノにボードウィンの娘と談笑なんて…」
口笛など吹きながら言うソシエ。参加メンバーを喋っている時点で、知っていると言っているようなものだ。
「知ってるじゃないか…」
「それで家に帰るの嫌がってたわけね…」
どうしてもお茶会が嫌だったので、無理やり用事を作ったのだろう。
唐突に連絡が来た理由はこれだったというわけだ。納得したロランは大きなため息をついた。
「ところで、普通にお店出してますけど。ちゃんと許可とってるんですよね?」
「え?」
「あー…どうだっけ」
「ガロードもジュドーもいい加減だからなぁ」
「…そのお話、もっとよく聞かせてもらいたいんだが?」
「だってこの店、もとはガロードとジュドーが…って、うわ!?」
話の途中で聞きなれぬ声が割り込んできた。誰だろうと振り向くと、ロランの兄のシローが怒りの形相で腕を組んでいた。
「シロー・アマダ警部殿!?」
「まったくあいつらは…! 無許可での営業は禁止だと何度言ったらわかるんだ! 店、引き揚げて!」
「は、はいぃ!」
ヤコップ達に指示したシローはロラン達に向き直った。
「それで、君たち…ロラン?」
シローはロランに気付いていなかったらしい。ロランを見て表情が少し変わった。
「知り合い…なのよね、やっぱり」
ロランのことを知らない人がいるのか。フランが呆れ混じりに言った。
「フランも知ってる人だよ。シロー兄さん、覚えてない?」
「あー…ああ! シローさん!」
顎に手をあて、そういえばロランの兄にそんな人がいたと思い当たる。ソシエは元から気付いていたようだった。
「すみません、すっかり忘れてて…!」
「気にしてないさ。家族が多いんだ、忘れても仕方ないさ」
笑いながら言うシローに、ひたすら恐縮するフラン。たまに取材もしているというのに思い出せなかったとは。
「それで、こんなところで何してるんだ? 昼間とはいえ、治安がいいとは言えない場所だぞ」
「それがですね…」
ロランがことのあらましを説明する。
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ロランの商店街巡り-6 4/42017/10/30(月) 10:09:43.47ID:qX1P3hXB0
「…なるほどなぁ。でも、今は裏通りの奥のほうに行くのは控えておいたほうが良い」
「なんでですか?」
「最近、あちこちで悪質なイタズラの被害が増えてるんだ。人的な被害はまだ出てないんだが、危ないからな」
「イタズラ…具体的には?」
「会社の庭にある
ガンダムの銅像を壊したとか…いろいろさ。」
「
ガンダムの銅像…」
ロランはその犯人に心当たりがあったが、確定しているわけでもなし。言うのはやめておいた。
「あ、刹那には内緒にしといてくれよ。たかがイタズラでソレスタルビーイングに出られても困るからな」
「わかりました」
刹那ならやりかねない。苦笑しながらロランは了解した。
「残念。奥の方の店も回る予定だったんですけど…」
「どこを回るつもりだったんだ?」
「えーっとですね…」
フランは回る予定だった店のリストを取り出した。
「スペースウルフっていうバー…」
その名前を聞いた途端、シローが真顔になった。
「行くな」
「え」
「そこは行っちゃいけないところだ。いいな。絶対に行っちゃいけない」
「わ、わかりました…」
底知れないオーラをまといながら言うシローに気圧され、一同はついつい頷いた。
「どうする?」
車に戻り、ロランがフランに聞く。
「…警察の人に言われちゃ、仕方ないわね。言われた通り、裏通りの奥にある店は諦めましょ」
「ところで、あと何件くらい見る予定なの?」
「全部で10件くらいかしらね」
「そんなに!」
「今日だけで回りきれるかな…」
少し心配しながら、ロランの運転する車は裏通りを抜けていった。
最終更新:2018年09月21日 16:16