667通常の名無しさんの3倍2023/02/15(水) 08:29:03.99ID:wk7TbDHi0
マフティー・ナビーユ・エリン・ハサウェイ・ノア・ガンダム。それが俺の名前だ。
知人にハサウェイ・ノアという人間がいるので、マフとかエリンとかナビーユとか、色んな風に呼ばれている。
ごちゃごちゃと長い上に変な名前だとみんな笑うが、自分でもそう思う。兄が言うには『そういう事をする親』だそうだ。どういう親だ。

今は、ライゾウ博士の助手として色々なところを巡り、故郷へ帰るためのシャトルに乗り込んでいた。

「今回はあちこち連れ回してすまなかったな、エリン君。留学を終えたばかりだったと言うのに…」
「お気になさらないでください。むしろ、貴重な体験ができて感謝しています」
「そう言ってくれると、私も嬉しいよ。良ければ今後も手を貸してくれるとありがたい」
「ぜひ、お願いしま…」
言い切る前に、シャトルが急停止した。
「なんだ?」
「トラブルでしょうか…」
すると、最前列の席の男たちが一斉に立ち上がって、こちらを振り返った。各々、妙なマスクを被っている。
「このシャトルに乗るなんかエラい人とそうでもない一般人の皆様方に申し上げる。私はマフティー・エリン。
 “なんかエラい人達に反省を促すテロリスト“マフティーである!」
かぼちゃのマスクを被った主犯格らしき男がそう宣言すると、乗客の困惑が明確な混乱へと変わった。
「ま、マフティーだって!?」
「こ、今度はどんなマフティーなんだ!?」
ざわめく乗客たちに、男たちが銃を向けて黙らせる。
「このシャトルは私と仲間達がジャックさせてもらった。素直に私の言うことに従うのだ」
「このシャトルに、汚職を行っているエラい人が少なからず乗っていることは確認済みだ。というわけでーー」

668通常の名無しさんの3倍2023/02/15(水) 08:30:33.20ID:wk7TbDHi0
「私と仲間達のパフォーマンスを見て己の行いを反省してもらう! 一般の方々も、良ければおひねりなど頂けると有り難い!」
アホらしい主張に頭が痛くなった。最近、世間を騒がせるテロリスト『マフティー』の偽者。ゲテモノからキワモノまで勢揃いのお笑い集団。
頭を抱えていると、後部の座席から一人の男が立ち上がった。見覚えがある。たしか、某国の保健衛生大臣だ。
「あー、君。そのエラい人というのはどうやって探しているのかね」
「貴様…エラい人に反省を促すため日々磨いてきた私のパフォーマンスを見たく…いや、見ないというのか!?」
「しかしねえ、君。我々や宇宙港にも都合やスケジュールというものがあるのだから…」
こんな状況にあっても平然としていられる衛生大臣と、苛立っているかぼちゃ頭。コントのようなやりとりだ。
それ以上に苛立っているのはこちらなわけだが。

「黙れ!あの芸能事務所のようn…いや、生意気な口を利く!しかもよく見れば貴様!反省促し対象の一人ではないか!」
「だから…」
「ならば、何が何でも特等席で私の素晴らしきダンスを見て貰うぞ!見よ、これが半年をかけ習得したマフティーの秘技!
 名付けて、マフティーのなんかエラい人に反省を促すダンーー」
限界だった。
「いい加減にしろォ!」
座席から勢いよく立ち上がり、男に向かって駆けだして。
なんか名曲を背にして奇怪な踊りを披露しようとするかぼちゃ野郎を、思いっきりブン殴った。
「な、殴っ…!?父にも殴られたことのないこの私をなg」
「うるさい!芸がしたいのなら劇場に行け!」
「そもそも劇場に出してもらえないから、こんなことをしtぎゃああああ!」
「そんな下らないことのために!マフティーを使うんじゃないよ!!」
馬乗りになって殴る。思いっきり殴る。タコ殴りにする。持っていた銃が落ちる。よく見るとモデルガンだった。
男の仲間たちも困惑して動けないようだ。

669通常の名無しさんの3倍2023/02/15(水) 08:33:17.93ID:wk7TbDHi0
「良いぞマフ坊! ーーデフ!シド!俺たちも混ざるぞ!」
「ええ!?」
「ほい来た!」
そんな、どこかで聴いたような声の有志たちの活躍もあり。
偽マフティーによるシャトルジャックは、特に大きな被害を出すこともなく鎮圧されたのだった。

なぜ、俺がここまで怒ったのか。

答えは簡単で、俺こそが本物のテロリスト【マフティー・ナビーユ・エリン】だからだ。
そもそも、なんでこんなことになったのかと言えばーーまあ、俺のせいなんだろう。言い訳は山ほど思いつくけれど。

留学先の学校があった国は、表面上こそ何の問題もない平和な国だった。
だが実態は腐敗にまみれ、平和ボケした国民は愚痴をこぼすばかりで何ら行動を起こすこともない。

留学生が気にするようなことでもないのに、俺は勝手に義憤を感じ苛立っていたのだ。そんな時、変なジイさんに声をかけられた。
「きみ、いい体してるね。テロリストやらない?」
そんなアホくさい文言から始まった勧誘に見事に引っかかった大馬鹿野郎が、俺だった。
腐敗した政治に立ち向かう正義のテロリスト。そんな甘ったるい言葉に酔って、飛びついてしまったのが運の尽き。

故郷仕込みのMSの操縦技術を買われ、官僚の密会現場に乱入。派手に暴れて衆目を集めた後
敵国に国家機密を売り渡していた官僚を、証拠と一緒に民衆の前に引きずり出すことに成功。

上手く立ち回ったこともあって死人は出なかった。
だが、死人はなくとも怪我人や何らかの被害を受けた人間がいる。冷静になった時にはもう遅かった。

「私はマフティー・ナビーユ・エリン! 自身の権威にあぐらをかき腐敗した傲慢な人間に反省を促すべく、鉄槌を下したのだ!」
この時点でもうほとんど勢いで動いていた俺は、周囲の野次馬たちに聞こえるよう高らかに(そしてヤケクソ気味に)そう宣言した。

670通常の名無しさんの3倍2023/02/15(水) 08:37:03.33ID:wk7TbDHi0
「マフティーは手段を選ばない!このような地位と権力に溺れた俗物は、あらゆる手段をもって反省と改心をさせる!覚えておくがいい!!」
その場のノリと勢いでほとんど本名を名乗ったことに気付いたのは、その日の夜のことだ。
名前が一部抜けたのも、ハサウェイやノアと呼ばれることが少なかったからに過ぎない。

名前がそのまんま過ぎて逆に疑われなかったらしく、事件後も追われることはなかった。
これで留学期間を終えれば。マフティーのことなんてすぐに忘れられる。そう思っていたのに、事はそううまくは運ばなかった。

どこの国や地域でも政権の腐敗やら何やらに憤っている連中はいるもので、それが勝手に『同志』として集まってしまったのである。

窓口をしていた元凶のジイさんーークワックは嬉しそうだったが、俺はあの一件で完全に懲りていた。
あの時は奇跡的にバレずに済んだだけだ。それに家族や学業のこともある。やりたくないと散々ゴネたが、『なら直接説得してみせろ』と言われ。
あれこれ説得したものの、大義に燃える『同志』たちが納得してくれるはずもない。晴れて俺はテロ組織マフティーの首魁ということにされてしまった。

それだけなら、名前だけ貸して雲隠れしても良かったのだが、そうも言っていられない事態が起きてしまう。
立ち去る時に言った、あの台詞だ。

『覚えておくがいい。マフティーは手段を選ばない! 常にお前たちのような偉ぶった俗物は、あらゆる手段をもって反省と改心をさせる!』

この“あらゆる手段“という部分を何をどう解釈したのか知らないが、変な偽者マフティーが現れだしたのだ。
さっきのような知名度目当ての芸人崩れならまだ良い方で。

「俺は歌で世界を変えるマフティー! 俺の歌を聞けぇぇぇ!!」
「マフティー華撃団、参上!」
「私は承認欲求マフティー! いいねくれー!」
「よォ! オレ、マフティーってゆーんだ! ヨロシクなッ!」
「オレサマ ハ サソリマフティー ダ」
「ウイルス対策は、マフティー」

もう何が何やら。
マフティーの名前を騙る偽者の出現は予想していたが、こんなイロモノ連中に名前を使われるのは完全に予想外。
断じて許せなかった。ーーあと『同志』たちと一緒にいるのも、ちょっと楽しかった。

その後は、偽者の排除や大規模な作戦に参加するようになって、今に至る。
名前そのままなのに今でもバレていない。警察の上層部にマフティーの支援者でもいるのかと疑いたくなるほどだが、気を抜いてはいけない。

これからは、より一層の注意が必要になるのだから。

翌日。テロリストに対する無茶な行為に対するお叱りと取り調べを終えて、俺は帰途につく。
みんなは元気にしているだろうか。

「マフティー・ハサウェイ・ナビーユ・ノア・エリン・ガンダム。ただいま戻りました!」

おわり。
マフティー≠ハサウェイ誕生秘話的な。仕事や私用で家を空ける事の多いお兄さんもいいよね


link_anchor plugin error : 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。このページにつけられたタグ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年05月31日 12:35