426 名前:ある日、親戚と1投稿日:2008/03/17(月) 00:35:49 ID:??? 
 カロッゾパンでバイトしてたら、いきなりユウさんが訪ねてきた。
 フィリップさんは一緒じゃなくて、会話に苦労したけど、要するに「マリオンがいなく
なったので探すのを手伝って欲しい」ということらしい。
 何で僕に? と思ったけど、確かにF91のバイオコンピューターは人探しには最適だ。
ユウさんとは特に険悪な仲でもなし、何より困ってる人を見過ごすほど僕も人間腐ってない。
 セシリーもカロッゾさんも「行ってらっしゃい」と言ってくれたし、僕は早速家に
帰ってF91を起動させたんだ。



「お待たせしました」
「…………」(いい。それほど待っていない)

 ユウさんはブルーディスティニー一号機で郊外の荒地に待機してた。
 あの青いジムはEXAMの影響なのか、システムを切っている間も時々NTみたいな
力をパイロットに与える。
 ふとユウさんが無口なのはこのシステムに慣れきっているせいじゃないかと思った。
でも、ユウさんの無口はクルスト博士のところに就職が決まる前からだ。
 彼の無口は結構有名で、あのヒイロでさえ「無口な男」と言っていた。EXAMに
出会うまでどうやってコミュニケーションを成立させていたのか、というかどうやって
フィリップさんはユウさんと話しているのか。日昇町七不思議の一つだ。

「…………」(早速試していいか)
「どうぞ。でも関係ないところいじらないで下さいね」

 ユウさんがF91に乗り込む。僕はパイロットシートを明け渡して、隣に立った。
 バイオコンピューターがオールドタイプのユウさんにどう作用するのか、分かった
もんじゃない。だから念のために近くにいたんだけど、その必要はなかったみたいだ。
 しばらくユウさんは目を閉じていたけど、ふと顔を上げて、首を横に振った。
 何も感じられない、ということらしい。
 僕は肩をすくめた。そもそもこのF91のバイコンは僕用に調整されているような
ものだし、ユウさんが使ってもあまりいい結果は出せないのかもしれない。


427 名前:ある日、親戚と2投稿日:2008/03/17(月) 00:37:58 ID:??? 
 第二案。EXAMシステムとバイオコンピューターを直結させる。
 EXAMはマリオンの精神パターンのコピー……ひょっとしたら精神そのものだから、
マリオン本人との結びつきはかなり強いはずだ。
 それにしても、と僕は作業しながら思う。
 どうしてNTの僕がここにいるのに、EXAMは暴走しないのだろう。
 何本かのコードをまとめて運びながら、僕は青いジムのゴーグルを見上げた。
 真っ赤に染まることはなく、暗い目のまま屹立している。
 僕はNTと見なされていないのだろうか。実は僕はちょっと勘がいいだけのオールド
タイプだったりして……。
 一応ユウさんに聞いてみると、身振り手振りとかすかな思念で説明してくれた。
 なんでもEXAM搭載機はモビルドールと違って機体が勝手に動くのではなく、
パイロットを強制的に動かすだけなので、こうしてユウさんが外に出ている以上は
何も出来ないらしい。
 改めて説明されると、とんでもないシステムだ。機械を人に合わせるのではなく、
人を機械に合わせるなんて。澄ました顔でよくそんなことがさらりと言える。
 僕の表情に気がついたのか、ユウさんは目を閉じて、肩をすくめてみせた。
 ――もう慣れたよ。
 彼がそう言ったように、僕には思えた。


 第二案もダメだった。バイオコンピューターは沈黙したままだ。
 最終手段として、ユウさんは僕にマリオンを探すように依頼してきた。
 僕は驚いて断った。僕とマリオンとのつながりなんてほとんどない。だから捕まえ
られるはずがないと思ったけど、ユウさんは首を振った。

「…………」(俺がナビゲーターの役割をする)

 というわけで、さっきとは逆に、僕がF91のパイロットシートに座って、ユウさんが
隣に立っている。
 僕はシートに身を預けて、ゆっくりと目を閉じた。肩に冷たい手が乗せられる。
 この体勢、覚えがあると思ったら、『竜玉Z』(アルが前に借りてきてたアニメ)に
出てくるカイオウ様とそっくりなんだ。
 本当なら、NTの精神同調に身体のつながりは必要ない。でもどこかしら触れていた
方が、確かにつながっていると感じられる。
 そもそも僕だってそんなに強い能力は持たないし、ユウさんの手はありがたかった。
 ユウさんの意志を携えて、僕の精神は闇の中を駆けて行く。星の光のように瞬く無数の
意思、その中からマリオンを探す。


 唐突に、戦慄が走った。



428 名前:ある日、親戚と3投稿日:2008/03/17(月) 00:45:48 ID:??? 
「……クッ!」
 手が離れた。と思えば、僕の重点がぐるりと回る。
 宇宙にも似た闇が霧散する。はっと目を見開けば、ユウさんが操縦桿を思いっきり
倒していた。さっきの呻き声は彼だったんだ。
 モニターに映るのは青いジム。赤いゴーグルで、サーベルを突き出して――
 ブルーディスティニー!?
「バカな、誰も乗っていないのに!」
「…………!!」(オートパイロットだ。俺としたことが失念していた!)
「オート操縦!?」
「…………」(精神感応を察知して起動したんだろう、今更とは思うが!)
 そんな説明なんてどうでもいい。
 僕は初めてF91に乗った頃を思い出していた。大まかな動作は手動で行い、細かい
作業は既にインプットされたプログラムを走らせる――
「こんな動きがオートだってのか!?」
 僕は精神を戦闘モードに切り替える。操縦桿をユウから奪い取り、思い切りペダルを
踏んだ。加速最大で後方に下がる。
 振動が来る。傍らの長身が揺れた。鈍い音と軽い衝撃、荒れた息遣いが耳朶を打つ。
「すまん、ちょっと荒っぽいが我慢してくれ!」
「…………」(構わん。ミンチよりは何倍もマシだ)
 横目でさえ彼を確認する暇はない。サーベル右手にブルーが迫ってくる。バルカン
乱射のおまけつきだ。
「さすがに速いっ!」
 悪態をつきつつ左に旋回、バルカンの掃射を避ける。
「…………!」(シールドは!)
「ない!」
 ついでに言えばライフルもランチャーも持ってきていない。当たり前だ、人探しに
必要なのは武装じゃなくてバイコンなんだぞ? 手持ち武器など荷物にしかならない。
 ブルーは瞬時に方向転換、こっちに右のサーベルを振り下ろしてくる。膝に思い切り
負担のかかる無理な旋回だ。もしパイロットが乗っていたら、たとえノーマルスーツを
着ていてもGに潰されている。
「無人機の強みかっ!」
 俺は左でブルーの右腕を跳ね上げると、更に左にステップを踏んだ。すれ違いざま、
がら空きの青い胴体にパンチを入れる。タイミングはバッチリ、なのに!
「なんとぉーっ!?」
 それをブルーはまた無茶な動きで方向転換、軽々と避けやがった!
 これで基本カタログスペックは08署の陸ガンと一緒なのだから恐ろしい。
「ちぃ! リミッターは!」

 ――生きているはずだ。だが五分間逃げ回るよりも……
 ――壊していいんだな!?
 ――頭部は外せ!

「了解!」


429 名前:ある日、親戚と4投稿日:2008/03/17(月) 00:48:32 ID:???
 一足飛びの会話は閃きに伴われる。久しぶりの思念話は俺の意識をクリアにする。
 ブルーが胸部ミサイルを発射する。俺は即座に空へと避けた。クロスボーンガンダムの
ような本格的な飛翔は出来ないが、F91だってジャンプは相当なものだ。元いた地上で
立て続けに爆発が起こる。
 このまま距離を取ってヴェスバーで一撃――ッ!?

 ――避けろ!!

 頭を殴られるような強烈な意志。言われるまでもなく、俺は反射的に操縦桿を倒した。
F91が仰け反る。剥離塗料の残像をサーベルの光が薙いだ。
「陸ガンがこの距離を跳躍しただと!?」
 煙を割って現れたのは赤いゴーグルの青い機体。あのままいたら直撃コースだった!
「…………」(フルチューンした陸ガンならこのくらいはやれる。加速と踏み切りの
タイミングさえ合えばの話だが)
「オートパイロットだろ!?」
「…………」(たかがオートと甘く見るな、経験値はかなり高い。俺達は模擬戦だけなら
飽きるほどやっているからな)
「模擬戦!? 二千回とか言うんじゃないだろうな!?」
「…………!」(質の悪い冗談を! 俺はまだ二十代だぞ!?)
 そんな口を叩きながら、俺達のF91は地に降りた。ブルーが上空から降ってくる、一本の
ビームサーベルを両手で構えて!
「なんでこんなに動くっ!」
 本当に自動操縦か!? こんな人間的な動きをして!
 俺は両手にサーベルを引き抜いた。
 逃げても追いつかれちゃ埒が明かない、このまま迎え撃つ。青い機影が目の前に広がる!
 なんて喧しい音!
 ビーム同士がぶつかった時の無茶苦茶な騒音は、間違いなく近所迷惑だ。俺達の兄弟
ゲンカで不眠症に陥ったことのある人も一人や二人いるに違いない、すみません!
 加速のついた大質量はそれだけで脅威になる。ブルーのビームサーベル重圧はGも
加えてかなりのものだが、二刀使えば耐えられない衝撃じゃない。青いジムはこちらに
サーベルを打ち付けたまま着地する。
 俺は左のサーベルを鍔迫り合いから外した。その脚を封じれば――と同時に奴の胸部が、
ミサイル発射口が動く!
 この距離で撃つのか!?
 驚いてから気付く。俺もヤキが回ったもんだ、相手は人間じゃなくて人工知能だぞ?
自分の身の安全よりNT殲滅が第一なんだ。至近距離での爆発の影響なんて考えちゃいない。
 今から胸を突こうにも、ミサイルが誘爆してこちらを巻き込んじまう。奴の体勢を
崩して狙いを外させるか――無理だ、上位にいるのは奴の方だ。今更脚を斬っても奴は
つんのめるだけ、ミサイルはこっちの脚部に着弾する。いくらF91でも動けないMSなど
鉄の棺桶と一緒だ、折角のチャンスだが下がるしかない!

 ――いや、そのままでいい!

 だが俺を、ユウの思念が抑える。


430 名前:ある日、親戚と5投稿日:2008/03/17(月) 00:55:12 ID:??? 
 ――ミサイルに構うな。発射直後に脚を斬り飛ばせ!

「発射『直後』!?」
 答えを聞く間はない。ブルーの胸からミサイルが放たれた。
「ええい、ままよっ!」
 覚悟を決めてコンソールに手を伸ばす。
 ミサイルにF91の装甲が耐えられることを祈って――

  べちゃっ

「……べちゃ?」
 唖然とする俺。目前のブルーは引き続き胸部ミサイルを放っているが、こっちには
べちゃべちゃいう音と小さな振動が来るだけだ。
「…………!!」(今の内だ! 脚を!)
「あ、ああ!」
 唯一正気のユウに促され、俺は左のサーベルをブルーの右足に突き刺した。切り離され
地に倒れる右足、よろめくブルー、奴はようやくミサイル?を放つのをやめた。今度は
バルカンの銃口を動かしてくる。
 だがこっちだって、いつまでも同じ体勢ではいない!
 ブルーは機動性が命、足を奪えばどうってことはない。俺はバックステップ&アクセル、
一気に距離を取る。双方がライフルを持たない現状、遠距離戦はこっちの土俵だ。
 片足で懸命に回避行動を行うブルーを、俺は安全圏からヴェスバーで狙い撃った。
今度は左足だ。これでもうF91には追いつけない。

「ユウ、リミッター発動まであと何分かかる」
「…………」(あと四分二秒)
「一分も経ってなかったのか……」
 どっと疲れが押し寄せてくる。俺は天井を仰いで、胸の底から息をついた。
 全く、とんだアクシデントだ。こっちはノーマルスーツも着ていないんだぞ?
 俺は額を軽く押さえる。やけに皮膚の張りが強い。
 ああ、そうか。
 すっかり『仕事』の時の顔に――キンケドゥの顔になっていたことに気付いて、
僕は緊張を緩めた。そういやユウさんのことも呼び捨てで呼んでたような……。
 振り向けば、ユウさんは驚いたように僕の顔を見ていた。
 何か違和感がある。彼のこめかみあたりの髪が赤い。あれは……血?
「ユウさん、それ!」
「…………」(かすり傷だ。問題ない)
 ユウさんはひらひらと手を振った。
「…………」(それより、マリオンを探す方が先だ)
「あ」
 そういやそうだっけ。
 もうすっかり忘れていた当初の目的を改めて聞かされて、僕は気の抜けた笑みを浮かべた。


431 名前:ある日、親戚と6投稿日:2008/03/17(月) 00:57:25 ID:??? 
 それからマリオンはすぐに見つかった。
 戦闘のおかげで僕もユウさんも精神感応のレベルが上がってた……のかどうかは
知らないけど、初めの不調が嘘みたいに、すぐ見つかった。
 どうも彼女は、道に迷ってたらしい。いろんな人とお話していたらいつの間にか
知らない場所に来ていた、とのこと。
 いろんな人ね。僕はアムロ兄さんが時々霊界電波を受信するのを思い出した。
 鋭いNT――例えばカミーユとか、お盆なんかは大変なんだろうな……。

「…………」(ありがとう。助かった)
「今度は武装解除してきて下さいよ。もうあんなの御免です」
「…………」(そうだな、すまなかった。……しかし)
「はい?」
「…………」(君は本当に、キンケドゥなんだな)
「……秘密ですよ?」
「…………」(分かってるさ)

 気がつけば僕はユウさんと普通に会話していた。彼は一言もしゃべっていないのにも
関わらず、だ。
 だけどユウさんがF91を降りた途端、彼の心の声は聞こえなくなった。
 機械の助けを借りている間だけ、彼はNTになれる。そういうことなのだろう。
 僕も似たようなものかもしれない。バイオコンピューターのサポート抜きだと、NTと
しては僕はかなり鈍いのだ。
 だから、何の気なしに、僕は別れ際に聞いてみた。

「その気になればNTに覚醒出来るんじゃないですか?」

 ユウさんは一瞬、驚いたようだった。
 彼は何も言わなかった。代わりに少しだけ――本当に少しだけ微笑んで、肩をすくめた。
 御免だね。買いかぶり過ぎだ。遠慮しとくよ。
 推測がいくつか浮かんでは消えていく。まだまだ僕は、フィリップさんのようには彼の
真意を読み取れないようだ。本当は何て答えていたんだろう?
 でも少なくとも、彼はNTになる気はなさそうだった。
 それだけ分かれば十分なのかもしれない。



 家に帰った後、F91の胸部に黄色いペイントが盛大に成されているのに気がついた。
 なるほどね、あのミサイルは最初からペイント弾だったわけか。思えば模擬戦用の
機体に実弾を入れることもない。……って、それじゃあ最初のミサイルは何だったんだ?
間違いなく爆発していたぞ、あれは。
 まあ気にしても仕方ないので、僕は洗車ならぬ洗MSをした。どういう風の吹き回しだ、
って帰ってきた兄弟全員に言われまくった。
 そんなに僕がF91洗ってるの珍しいんだろうか……珍しいんだろうなぁ……。
 ともあれ一件落着。ミサイルのことは、今度会ったときにでもユウさんに聞いてみよう。


432 名前:ある日、親戚と7投稿日:2008/03/17(月) 01:00:06 ID:??? 

「ユウ、お前また俺のブルーを!!」
「…………」(すまん)
「馬鹿な、マリオンを捜し当てるのはお前ではなく私のはずだ!」
「え~? でも帰ってきちゃったし……」
「…………」(ニムバス、やはり実弾は外すべきだ。中途半端に一マガジン制限を
かけては役に立たん)
「ふん、臆したかユウ=カジマ!」
「…………」(実弾のつもりでペイント弾を撃ち続けるAIなど使い物になるか。
この機会に完全非武装に慣らす)
「全て実弾にすればいい話だろうが!」
「…………」(そんなものアルフが許すわけ……)
「俺のブルーをこれ以上ぶっ壊す気か、ニムバス!」
「…………」(ほら、言われた)
「全くどいつもこいつも……! そんなに戦いたいならボールを使え!
 あれならいくら壊しても文句は言わん!」



 追記。
 夜のニュースで、モーゼス邸が話題になってた。あの家の周辺で青いボールが二機
暴走して空中分解したらしい。今度は何をやったんだあの人は……。
 コメンテーターはヨーツンヘイム社が関わらない空中分解を珍しがってて、マイ兄さんは
興味深々って感じでTVを見てた。空中分解=ヨーツンヘイム社って式が市民権を得始めて
いるのはどうかと思うんだけど兄さん。
 ドモン兄さんは「酔狂な奴もいたものだ」とか何とか言って、ファイター仲間に、
久々にボールファイトをしないかって持ちかけてた。何故かシロー兄さんも乗り気だった。
せっかくなので、僕も明日ウモン爺さんに声をかけてみようと思う。



                      おわり


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最終更新:2019年05月29日 15:48