236逃げ出すよりも進むよりも立ち止まることを
垢版 | 大砲
2023/07/02(日) 15:12:31.72ID:OHDPJ4t+0
セレーネ「はあ……」
アルレット「お疲れ、セレーネちゃん。他のみんなは?」
セレーネ「プロスペラに謝りに行くってさ。散々私を責めた後でね」
アルレット「あはは、みんな怒ってたでしょ」
セレーネ「まあね。スレッタの未来がかかってるんだからもっと慎重になれってさ」
アルレット「慎重ねえ…今日のセレーネは充分慎重だったと思うんだけどな」
セレーネ「え?」
アルレット「だってはじめから決闘に勝つつもりなんてなかったんでしょ?
違うな、正確には、はじめから引き分けか無効試合に持ち込むつもりだった。でしょ?」
セレーネ「はは、何を根拠に」
アルレット「とぼけても試合を見てればわかるわよ。だって明らかに試合ごとの動きが違ったもの。
きっと勝てる試合と捨てる試合を咄嗟に判別して、最終的に引き分けにする計算を立ててたのよね」
セレーネ「……敵わないなあ、アル姉さんには」
アルレット「当然でしょ。何年の付き合いだと思ってるの」
セレーネ「私ね、スレッタが家に帰って来た時からずっと頭に来てたの。あの子がよく言うあの言葉に」
アルレット「“逃げれば一つ。進めば二つ”ってヤツね」
セレーネ「だっておかしいじゃない?逃げるよりも進んだ方が常に多く手に入るなんて。
常識的に考えてもそんなこと断言できないし、結果を比べることもできない」
アルレット「もっと言えば、手に入れられるってばかりを強調して、逆に行動した結果失うものを意図的に無視してるしね」
セレーネ「だけどあの子は、無邪気にその言葉を唱え続けた。呪文みたいに」
アルレット「で、スレッタに呪文を教えた当の魔女が目の前に現れて、ムカつきがピークに達しちゃったと」
セレーネ「というか嫉妬してたのかもね。あんなにスレッタに慕われてるプロスペラのことが。
だって悔しいじゃない。姉なのに、妹に何も大切なことを教えられないなんて」
アルレット「それで? 今日の決闘を通して、セレーネお姉ちゃんはスレッタに何を教えようとしたの?」
セレーネ「別に大した内容じゃないわ。“進むことは大事。だけど時には立ち止まって考えることも大事”。
…多分アルやシュウトだってわかってる、単純なことよ」
アルレット「そうね。確かに単純で、ありふれたメッセージだわ」
セレーネ「でも本当に大切なことだって思う。だって、誰かの言葉に従ってただ進み続けるばかりじゃ、
いつか自分の夢とか、やりたいことだって忘れてしまうかもしれないじゃない」
アルレット「あら? それって誰か身近な人の、具体的な話をしてる?」
セレーネ「ふふ、まさか」
アルレット「でも、わかるわ。だってスレッタにはあんなに沢山願いがあるんですもの。
なら自分の進む道は、本当は自分で決められた方が絶対にいいんだから。誰かが示したレールじゃなくてね」
セレーネ「なんだか随分情感たっぷりだけど、ひょっとして誰か具体的な人の話をしてる?」
アルレット「ふふ、まさか」
セレーネ「結局、スレッタがあの女の養子になろうがなるまいが、本当はどっちでもいいの。
でも、誰かの誘導や、まして当人同士じゃない決闘で決まるなんて絶対ダメ。
あの子が立ち止まって考えてだした結論じゃないと」
アルレット「セレーネは、スレッタが考える時間を作りたかったんだね」
セレーネ「うん。…私の思い、少しでもあの子に伝わってるといいんだけど」
アルレット「きっと大丈夫よ。だってスレッタは今日、進んだ人間が、逃げた人間に負けるところを初めて見たんだから」
237逃げ出すよりも進むよりも立ち止まることを
垢版 | 大砲
2023/07/02(日) 15:13:14.40ID:OHDPJ4t+0
数日後 アスティカシア高専近郊 プロスペラのオフィス
スレッタ「あの、プロスペラさん、いますか…?」
プロスペラ「スレッタじゃない。遊びに来たの? それとも…養子の話のこと?」
スレッタ「うん。わたし、決めたよ。それで、まずはプロスペラさんに一番に聞いて欲しくて」
プロスペラ「それは嬉しいわね。もちろん聞かせてもらうわ」
スレッタ「あの、私の兄弟にすごくプログラミングが得意な子がいて、何でも作っちゃうんだ。キラ君っていうんだけど」
プロスペラ「…それで?」
スレッタ「それで、彼に頼んで作ってもらったんだ。エアリアルを操縦しながらでも勉強できる、教育プログラムを」
プロスペラ「それは良かったわね」
スレッタ「こ、これがあれば通学の時間も勉強できると思うんだ。そ、それにアムロ兄さんたちも勉強教えてくれるっていうし。だから…」
プロスペラ「…だから私の養子にはなれない。結局そう言いたいのよね?」
スレッタ「プ、プロスペラさんはわたしの将来を思って提案してくれたんだよね? このままじゃわたしが勉強に集中できないから」
プロスペラ「………」
スレッタ「で、でもわたしもっと頑張るよ。いっぱい勉強する。だから、自分の夢も、家族との生活も、どっちも諦めたくないって…」
プロスペラ「…進めば二つ」
スレッタ「え?」
プロスペラ「偉いわスレッタ。あなたはちゃんと自分で考えた道を進むことにしたのね。夢と今の生活、二つとも手に入れるために」
スレッタ「お、怒ってないの…?」
プロスペラ「子供の成長を喜ばない大人はいないわ。イヤだわスレッタ。あなたもしかして私に怒られると思ってたの?」
スレッタ「う、うん…だって、せっかく私のための提案だったのに断るなんて」
プロスペラ「むしろ謝るのは私の方。思い返したら、子供を家族から引き離すなんてひどいことだったわ」
スレッタ「良かった…断ったら、もうプロスペラさんには一生会えないんじゃないかって心配したんだよ」
プロスペラ「馬鹿ね。そんなことあるわけないじゃない。たとえ養子にならなくても、私にとってあなたは、娘に近い存在にかわりないんだから」
スレッタ「じゃ、じゃあ、これからもこうしてたまに会いに来ていいかな?
プロスペラ「勿論よ。部屋は用意してあるからいつでもいらっしゃい。エアリアルも一緒にね」
スレッタ「う、うん!」
プロスペラ「(そう。家族は一緒にいるべきなの。たとえどんな姿や形であっても…)」
ガンダム家屋上
スレッタ「セ、セレーネ姉さん? 今、いいですか…?」
セレーネ「スレッタ? ごめんちょっと待って」
スウェン「うん? 誰だ?」
スレッタ「わあ! ご、ごめんなさい! デ、デート中だって知らなくて!」
セレーネ「バカね、デートじゃないわよ」
スウェン「
スウェン・カル・バヤンだ。君か、最近水星から帰ってきたセレーネの妹というのは」
スレッタ「あ、は、はい。スレッタ・マーキュリーです。あ、あのスウェンさんとお姉さんはどういう…」
スウェン「俺にとってセレーネは特別な存在だ。彼女は、俺に夢を思い出させてくれた」
スレッタ「ええっ!? と、特別ってやっぱりお二人は…」
セレーネ「悪いけどアンタが想像してるような関係じゃないから。同僚よ同僚。仕事の」
スウェン「ではセレーネ。俺はそろそろ失礼する」
セレーネ「もう? さっき始めたばっかりじゃない」
スウェン「いや、家族との時間を邪魔しては悪い。また明日、D.S.S.Dで」
セレーネ「そう、ならまた明日ね」
スレッタ「ごめんなさい、なんだかタイミング悪くて。…あの、ちなみに何してたんですか?」
セレーネ「なにって…天体観測よ。私とスウェンの共通の趣味だからね。そうだ、せっかくだしアンタも覗いてみる?」
スレッタ「い、いいんですか?」
238逃げ出すよりも進むよりも立ち止まることを
垢版 | 大砲
2023/07/02(日) 15:13:59.13ID:OHDPJ4t+0
セレーネ「見えるでしょ? あの青っぽい星。あれが水星」
スレッタ「あれが水星…! ここからだとあんなに小さく見えるんだ!」
セレーネ「あんたにとっては見慣れてるかもしれないけど、こうやって遠くから望遠鏡で覗くのも悪くないでしょ?」
スレッタ「はい! なんだか凄く新鮮な気がします。すごいなあ…」
セレーネ「…この前は悪かったわね。酷いこと言って」
スレッタ「えっ…と、酷いことって何ですか?」
セレーネ「ほら、プロスペラが養子の話を持ってきた夜。川辺で言ったじゃない。
“あんたの意思なんて知らないし何を決めたかなんて聞くつもりもない”って」
スレッタ「ああ…ごめんなさい、忘れてました」
セレーネ「本当に? ったく、私は結構気にしてたってのに。それで、今日はどうだった? プロスペラに会ったんでしょ?」
スレッタ「それがプロスペラさん、凄く喜んでくれたんです!」
セレーネ「喜んでくれた?」
スレッタ「はい。私が逃げないで、ちゃんと自分で考えて進んだことを偉いって褒めてくれて。嬉しかったなあ…」
セレーネ「“ちゃんと自分で考えて”か。ま、一歩前進かな」
スレッタ「??」
セレーネ「でもねスレッタ。これだけは覚えておいて」
スレッタ「なに?」
セレーネ「別に今日決めたことに囚われなくてもいいの。前も言ったでしょ?
一緒にいたいと思ったら、好きなだけいていい。それが家族だって」
スレッタ「うん…聞きました」
セレーネ「でもそれって逆を返せば、離れたくなったらいつでも離れていいってことなの。
特に、自分の本当の夢ややりたいことを見つけた時はね。だからあんたも…最後は自分で考えて、自分で決めなさい」
スレッタ「…うん、わかった」
セレーネ「でも、どんなに離れても兄弟はずっと兄弟だから。だから大変な時はいつだって私たちに頼りなさい」
スレッタ「…うふふ」
セレーネ「なによスレッタ。急に笑い出して」
スレッタ「ごめんさい。今のセレーネ姉さん、なんだかお母さんみたいだなあって」
セレーネ「ハアア!!?」
スレッタ「私たちのお母さんがいてくれたら、きっと同じことを言ってくれたのかなあ。そんなこと考えたら可笑しくなっちゃって」
セレーネ「冗談じゃないわよ。なんで私にこんな大きな子供がいなきゃならないのよ全く」
スレッタ「ふふふ、ごめんね」
セレーネ「ていうかアンタいつのまにか敬語抜けてるわね」
スレッタ「え、あ、ホントだ。ご、ごめんなさい」
セレーネ「いいのよ。むしろ今まで他所他所しくて感じ悪かったから。無理してないのなら、もう敬語はやめて」
スレッタ「あ…はい、わかりました。じゃなくて、わかった」
セレーネ「よろしい」
物陰
アルレット「めでたしめでたし、かな」
リタ「でも、今回の一件で他の兄弟からの評判は落としちゃったね」
死神「それは覚悟のうえでしょ。というより元からセレーネの評判なんてあって無いようなものだったし」
リタ「スレッタと分かり合えたのならそれでいいってことかあ。君はどう思う?」
リタ「あはは、さすがスレッタと付き合いの長いお姉ちゃんは言うことが違うな」
最終更新:2025年04月14日 17:03