脱出を開始した俺はまず部屋全体を見回してみた。
まず俺の目を引いたのはレコードであった。俺はそれを手に取り、近くにある蓄音器へ置いてみた。
俺は蓄音機など使ったことはもちろんなく、こんな近くで見たのも初めてであった。先輩はこんなものを一体どのように手に入れたのであろうか。買ったとしてもかなりの値段であろう。
蓄音器とレコードをいじくっていたら音が出た。蓄音器の原理は俺は全くわからないが凄いものである。
俺はそのレコードの音楽を聴きながら他の場所へ手を出してみる。
蓄音器の近くにある棚にはワイン、本、瓶が置いてある。まず最初に俺はワインを手に取った。
1990と書かれてる。俺はまだ未成年なので酒の事はよくわからない。1990年に作ったということであろうか。いや、1990年にブドウが収穫されたのかもしれない。また、720ml14%とも書かれている。これは容量とアルコール度数であろう。
そして俺は瓶を手に取った。栓を開けてみる。中に何か描かれている紙が入っていた。俺はその紙を取り出し、絵を見てみた。
エッフェル塔――。エッフェル塔はこの部屋にたくさんある。壁の絵、箪笥に置かれている絵、そしてこの紙の絵である。
最後に俺は本を手に取った。「Tukisuna Notebook」と表紙に書かれている。開こうとしたが鍵がかかっていて開かない。俺はその鍵を見つけるべく、箪笥へを目を向けた。
◆
箪笥はほとんどがパスワード入力式となっていて
開けることができない。しかし右上の扉はなにもかかっていない。俺はその扉を開けてみた。中にはメモとエッフェル塔の絵がある。
メモには「エッフェル塔×凱旋門=?」とある。数を掛ければよいということはすぐに分った。
壁の絵、箪笥に置かれている絵、紙二枚。全てで4つ。凱旋門は箪笥に置かれている絵、廊下に掛けてあった絵の2つ。それを二つ掛ければ8。おそらくメモの絵と+
100と描かれている引き出しが開くのだろう。
8+100で108。これで開くはずだ。しかし入力しても開かない。どういうことだ。そこで俺はふと思い出した。あのレコードに何か描かれていたはずだ。俺は蓄音器へ向かった。
あのレコードには凱旋門が描かれていた。これで凱旋門は3つ。そして4と掛けて12。100を足して112。私はそれを入力してみた。
ビンゴ。
引き出しを開けたら古風な白熱電球と変なオブジェが置いてあった。とにかく電球を点けてみた。
謎のオブジェの影が引き出しに映り、219という数字が表れた。
どこに入力するのか分らないが左下の扉に入力してみた。
ビンゴ。
アンティークな鍵を手に入れた。これで本が開けられるのであろうか。俺は本にその鍵を使ってみた。
ビンゴ。
開いた。しかし中には何も書かれていない。全て白紙である。
この先はどうすればよいのであろう。俺は
部屋の中を放浪した。
すると玄関のドアの下に金魚の柄の漆塗りの箱が置いてあった。しかしこれもパスワードを入力しなければ開かないようだ。
部屋をいろいろといじくっていると、凱旋門の絵をずらしたところに小さな扉があった。俺はそれを開けてみた。中には紐で縛られている巻物があった。しかし紐は硬く、簡単にはちぎることができない。
◆
暇になった俺はワインでも飲んでみようかと思い至った。少しくらいなら大丈夫であろう。俺はワインの栓を抜くと口に注いだ。しかしそれはワインではなくただのブドウジュースであった。これも川下先輩の配慮であろうか。
さらに暇になった俺は「TukisunaNotebook」にそのジュースを垂らして遊び始めた。こんな年になって。我ながら恥ずかしい。垂らしていると文字が現れた。
「1860」。俺はすぐさま金魚柄の箱に入力した。
ビンゴ。
古風なはさみを手に入れた。俺はそれを使い、巻物の紐を切った。
また何も書かれていない。そしてまたジュースを垂らしてみた。やはり文字が現れた。
「1054」。俺は箪笥の一番下の引き出しへ入力した。
ビンゴ。
引き出しを開けるとさらに引き出しがあった。それを開けてさらに引き出し。また開けると鍵が手に入った。
これで脱出できる!と思っていた俺は赤いものに目を留めた。箪笥と壁の間に赤べこが落ちていたのだ。
これは何じゃ?と思ったが、それを手にとって玄関のドアを鍵で開けた。
脱出成功。
◆
安堵感に浸りながら俺は家へ帰った。
数日たって川下先輩から手紙が届いた。
このような手紙である。
◆
『前略
よく201号室を脱出することができた。俺が一ヶ月以上かけて改造したこの部屋をわずかな時間で脱出してしまうとは…。
そうだ、岡田君タイマーというものがあっただろう。岡田君とは俺の部屋の真上、305号室に住んでいる大学生であり驚異の聴力の持ち主だ。
彼は神経を集中させれば数百メートル先の音だって聴くことができる。まさに超能力だ。
そしてあのタイマーは彼が、201号室でがさごそしている時間を計ったものだ。
そうそう、部屋に赤べこがあっただろう、あれは幸運を呼ぶ赤べこらしい。俺が会津に行ってきたときの土産だ。俺はそんなものは信じないから君にやる。
ちなみにこれからの部屋にも置くつもりだ。会津で十個も買ったからね。いったいいくらしたと思ってるんだ。
さて次は202号室だ。しかしまだ202号室は製作段階だから少し待ってくれ。完成したらまた手紙を送る。
じゃ、アデュ~♪』
◆
赤べこを十個も…。御苦労様である。
俺も幸福になれるなどということは本気では信じないが、無いよりはあった方がいいであろう。
それにしても“岡田君”は凄い。数百メートル先の音も聴くことができるとは…。かなり現実離れしてはいまいか。
とにかく202号室も脱出してみよう。脱出が楽しくなってしまった。