ある日の事。

4人は島の海岸に建てられた大きな慰霊碑の前に集まっていた。

「あれから・・・もう何年になるのかな。」

有沢はあの後ベレッタのギルドに入り教師の勉強をしながら賞金稼ぎとしての日々を送っている。

勿論パトリシアやコロンとも一緒だ。

体の方も魔女化とウロボロスの拮抗によって段々と人間に戻ってきている。

「そうだな、もう・・・5年以上も前か、生き残った教師も私とダンカンを含めて数人だったからな、学校の復興には手間がかかった。」

マークは針千行きの話を断った。

例え多くの生徒と同僚を失おうとこの島で教師を続けることにしたのだ。

とは言っても数年間は破壊された学校の復興に勤めていて教師どころではなかったのだが。

「まあ、俺も援助はしたぞ?」

ガーランドは不敵に笑っている。

例の一件が終わった後もガーランド自身に変化は無かった。

ただ依頼をこなし、時々軍に顔を出し、朝の飲み物がコーヒーか紅茶かを楽しみに寝る毎日だ。

ギルドのメンバーには変化があったらしく、以前よりも使い魔との連携がうまく行くようになったらしい。

それと時々パトリシアがギルドに押し掛けてきて大騒ぎするという事はあるものの、相変わらず平穏な毎日を送っている。

「僕もなるべく協力はしたよ、一応関わったんだからね。」

「あれ?ゲルトルートは?」

「ゾンビの研究で手柄を立ててから忙しくなったらしいよ、だから代わりに僕が来たって訳。」

「これで4人か、後1人足りんな。」

オレンジは相変わらず「150人目」を探しているらしい。

手がかりを見つける為に奔走しているらしいが、彼の夢と贖罪はまだ終わりそうにない。

「・・・その「5人目」来てやったぞ。」

4人が振り返ると来夏が居た。

前とは違って髪を伸ばしピンクのワンピースの上に灰色のパーカーを羽織っている。

両手には大きな花束を抱えていた。

来夏はあの後皇帝として事件に関わった軍の上層部の1人を「処分」した。

事件の概要も世間に好評し彼女の支持率も少し上がったらしい。

といってもまだ正体を明かすつもりは無いらしく今でも正体を隠して事件を求め奔走しているらしい。

風の噂だけど、最近子供が出来てもう3歳くらいになっているという。

「・・・全く、相変わらず変わり映えのしない連中だな」

来夏は花束を慰霊碑の前に置くと全員数秒間だけ手を合わせた。

「・・・今思えばいい経験になったよ、ノウハウも積めたしね。」

「私もベレッタさんに出会えたし。」

「厄介なのが一人増えたが・・・まあギルドの戦力向上にはなった。」

「失ったものは大きかったが・・・その分何かを得た様な気がするな。」

「・・・俺も正体を隠すのがいかに難しいか分かったさ。」

しばらくの沈黙の後、有沢が手を出した。

「じゃ、これから会う事もないだろうし、最後のお別れ。」

まず最初にマークが手を乗せた。

「有沢、お前という生徒に会えてよかったよ。」

次にガーランドが手を乗せる。

「ま、いい出会いだったかな?」

オレンジも手を乗せた。

「僕もいい仲間だったと思うよ。」

最後に一番上に来夏の手が載った。

「お前ら・・・俺の事忘れるなよ?」

「忘れたくても忘れられないさ、こんな濃い集団。」

「だね。」

5人が手を握り一斉に突き出した。

「じゃあね!」

「ああ!」

「さらば!」

「じゃあな。」

「フン。」

そして5人は、振り返ることなく去っていった。


島には大勢の人がごった返す。

そう、まるで悲劇などなかったかのように。

悲劇を知るのは、生き残った数百人と、たった十数人の英雄だけだった。

                                                      END

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最終更新:2011年11月23日 10:43