第四中隊について~
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私の名前はショフリー軍曹、ジャイトトース旅団第四中隊に所属している。いや正確には過去形だ。最後は、ゴットローブ・ダムロッシュ中隊長の指揮下で、最終戦争を戦った。
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私と隊長殿との出会いは6年前になる(王国暦991年のことだ)。新任の中隊長の補佐を、この私が命じられた。貴族の若い大尉という予想に反して、中隊長は現実的であった。隊長の出身は、今ではドロアームと知られるグレイトウォール山脈の先にある谷間のひとつらしい。単に荒地としてか知られていない地域だが、場所によっては豊かな谷間が存在している。王国暦987年にボラネル王の命令により、グレイトウォール山脈西側の立ち入りが禁止されているので、それ以前に大尉の領地が失われていることは間違いない。大尉が、どこで剣と魔法の両立させる戦闘法を学んだかは謎だ。しかし、エルフかサーロナ大陸の人間、または魔法を重んじるアンデールの人間が、そういった技術を持っているらしい。
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エルフと言って思い出すのは、ヴァラナーエルフのカメロン・カッツェだ。彼が自分達の土地から離れて、こんな西方に来たのかは謎だが、隊長の就任と同時に傭兵として我が中隊に加わった。
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ジャイトトース旅団第四中隊は新しい隊員を加えて最終戦争に戻った。この戦争は、王国暦894年 ジャロット王の死去にともなう王位継承をめぐって始まったようだが、もはや多くの人間にとって戦争の原因なんて関係もなくなっていた。ただひたすらに、敵国と戦うことだけが続いていた。
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戦争中の大きな転機は、王国暦994年の サイアリ国の消滅であったことは間違いない。5つ国のひとつであり、カニス氏族の本拠地として、その工業製品の品質で大陸中に鳴り響いていたサイアリ国が消滅したのだ。
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丁度、その消滅の日に、我が中隊はサイアリ国境から1マイルの地点で守備を固めていた。守備を固めているというよりは、塹壕に伏せるか、トンネルで背を屈めるかして、ただ耐えているという方が正しい状態であったが。その日、サイアリから現れたのは、何時ものような飛空挺の爆撃隊ではなく、国境を守るように立ちはだかる霧の壁だった。この霧の壁は左右に果てなく広がっているようで、また何時までたっても消えることはなかった。
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その異常さから、この霧は自然現象よりも超自然現象の範疇であることは確かだろう。サイアリ(カニス氏族)の新兵器であることも考えられ、まずはこの霧の中を偵察するにした。だが、この謎の霧の中に送った偵察兵は誰一人として帰ってこなかった。霧の中に姿が完全に見えなくなる前に、怯えて逃げ帰ってきた者だけが助かった。
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しばらく霧の近くで待っていると、霧の中から、我々と対峙していたサイアリ軍の兵士が逃れてきた。彼らを捕虜にしても、分ったことはわずかであった。彼らが知っていたのは、突然の爆発の後、方向感覚が失われる霧に覆われ、その中を命からがら逃れてきたということだけだった。どうやら、この霧は彼等にとっても予想外の出来事だったらしい。
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1週間もたつ頃には、味方の非公式な情報(噂話とも言う)が伝わってきた。それによると、何マイルも続く霧を渡ってサイアリ本土から逃げてきた者がいたらしい。この者の話が本当になら、霧は国境線付近に帯状に存在し、その中には永遠と荒廃した土地が続いているだけらしい。サイアリ国は消滅したそうだ。サイアリ国内に進出していた友軍も、その運命を共にしたのだろう。
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国がひとつ消滅した原因については、今になっても話を聞く人間の数だけ存在する。中でも人気なものは、カニス氏族の実験の失敗、神の怒り(特にシルヴァー・フレイムが多い)、某国の秘密兵器、また地下に封印された魔物が復活しようとしたあたりだろうか。
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何にしろ、このサイアリの消滅以来、戦争は沈静化するどころか逆に激化した。どうやら国レベルでもこの事件の真相は分らず、疑心暗鬼になったようだ。
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そして、我々、第4中隊は、必要のなくなったサイアリ戦線から、スレインへと転戦することになった。中隊は、欠員補充のために新たにウォーフォージド部隊が加わり、その保守整備としてカニス氏族のオーティス=プレミューラという青年がつくことになった。プレミューラ氏は秘術使いであるが、国際人道法上、非戦闘員であり、戦闘に参加することも攻撃を受けることもない。よって戦力ではないのだが、カニス氏族の秘術使いという相談相手を得たことは心強よかった。
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新たな敵となったスレイン軍は、サイアリの国旗よりもシルヴァー・フレイムの印(銀の矢じり)の旗のほうが多くはためく軍隊だ。彼らの全員が狂信者ではないのだが、防衛戦、特にそれが絶望的なものほど、サイアリ軍は粘り強かった。また、我々の中にも、シルヴァー・フレイムの信者が多いことも、やっかいごとになった。
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さらに戦争は王国暦995年に変化を見せた。軍事強国カルナスのカイウス3世が講和を呼びかけたのだ。古の都スローンホールドで開かれる講和会議は、それまでのものより現実味があったようだ。その証拠に、軍は長期的な維持や補給を考えずに戦略拠点の確保に動き出した。当然、敵も同じだ。
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ここでダムロッシュ中隊長殿の悪い癖が出てしまった。大尉は、オーガやミノタウロス等のドロアームの傭兵による補充を拒否したのである。サイアリの崩壊以降、ウォーフォージドの供給も減り、軍内部でのドロアームの傭兵の重要性はますます増加していた。確かに彼らは制御が難しいが、タラシュク氏族の保障もあり、以前よりも無秩序ではなくなってきているにもかかわらず補充の命令を無視した。おかげで、中隊が受け取れたのは、訓練も終わっていない新兵達だけだった。全員、子ども言ってもよい年齢だ。確かに、中にはジムテュンケフのように天然魔術師(ソーサラー)もいるが、実戦経験がまるでゼロでは、戦力になるかも疑問だった。
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彼らの初陣は最悪の形で訪れた。伝令がある命令書を携えて来たのだ。今、思うと何か変な感じのする伝令であった。兎も角、我々はこの命令書に従い、夜半に敵の部隊の隙間を浸透し、敵本隊の背後を突く作戦にとりかかった。命令書の指示は非常に的確で、我々は敵陣に侵入し、まんまと奇襲攻撃に成功した(まさにネコのようなカメロン・カッツェの身のこなしの賜物でもあるが)。これまでにない完璧な作戦になるはずだった。そう、これで我々の本隊が攻撃をしかれば。結果として、我が軍の他の部隊は動かず、第4中隊は敵陣に孤立していた。
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王国暦996年アリスの11日、奇しくもスローンホールド条約調印の日、我々の第4中隊は壊滅した。敵陣を突破して自軍まで戻れたのは、中隊長殿と、プレミューラ氏、ジムテュンケフ(彼の電撃の呪文は予想以上に役立った)、ウォーフォージドが1体、ヴァラナーエルフのカメロン・カッツェ、それに私だけだった。幸い、部隊の多くの人間の兵士は降伏し捕虜交換で戻れたが、ウォーフォージド兵は最後まで戦い破壊されてしまっただろう。
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命からがら戻ってきた我々を待っていたのは、なぜか軍法会議だった。ブレランド軍では、我々の行った奇襲攻撃の命令を出した事実はなかったのだ。我々は命令無視を行った嫌疑をかけられていた。我が部隊への命令を携えた伝令も実在せず、カニス氏族のプレミューラ氏の証言がなければ、最悪の事態も十分考えられた。
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それから我々は他の部隊に加わり、停戦ラインの警備に携わることになった。後で聞くことによると、あの日、第4中隊が野営していた丘だが、朝になると我々の知らない、目新しい大きな洞窟が口を開いてそうだ。その奥には、隠されていた地中の施設らしきものがあったそうだが、既に何者かが持ち出したのか、中には何も残されていなかったらしい。どうも我々は罠に嵌められたようだ。
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それからスローンホールド条約による停戦は1年を過ぎても継続した。これまでの戦争が続いていたことを考えると、奇跡的とも言える。また、この時のスローンホールド条約では、ウォーフォージドの市民権も与えられた。最初は、自由になったウォーフォージドが反逆を起こすのではないかと疑われたが、そんなことはなかった。プレミューラ氏が言うように、彼らは自由行動が許されても軍隊に残った。
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これから軍の縮小が本格的に始まるだろう。ウォーフォージドの多くが軍務を続けることで、我々もこれからのことを考える必要が出てきた。なにせ、ウォーフォージドには食料も必要がないし、疲れも知らない、病気にもならない。まさに理想的な兵士なのだ。普通の人間が、この分野でかなう相手ではない。早めに退役して、第二の人生を探した方が得策と言える。
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契約の切れたプレミューラ氏、カメロン・カッツェ以外の、生き残った我々は、軍を退役した。そして、今、ライトニング・レイルに乗って、西へと進んでいる。我々全員のキップを用意してくれたプレミューラ氏の気前の良さには、驚くべきものがある(実際に計算する気も起きないほどの金額がかかる)。
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ライトニング・レイルの中では、ちょっとした騒動がありルナール・ホイトというシルヴァー・フレイムの司祭さまと一緒になった。私は故郷であるロートの町で途中下車するが、他の仲間は終点の塔の町シャーンにまで乗っていくそうである。
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彼らの元に神々の祝福あれ。
最終更新:2011年11月30日 01:10