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 ゼルクの魔力教室




「はぁあ~~。なんでいつもオレなんだろ・・・」
そう溜息を吐きながらも、広場に行くためにレンガ通りを通っている。
ちなみにレンガ通りというのは、城の敷地をぐるーっと囲み、北の街、東の街、南の街、西の街をわけているかなり大きな道だ。正式名称はブリークン・ストリート。『brick street"レンガ通り”』から変化したとか、そんな感じなので愛称はレンガ通りだ。
この国で一番舗装された道だ。そして常にきれいな道だった。
そんな道を歩いて城の前にある広場に行く。
「ゼルク、遅い!!早くしてよ時間なくなるじゃない!」
その怒声を聞いてカレンが珍しくやる気があるのに気づく。そして結構待ってたらしいことも。
「ごめん。なんか走りたくなくて。」
意味不明に誤魔化そうとするが、カレンには効かないのだ。
「知らないわよ。飛んでくればいいじゃない。」
「出来たら苦労しないよ。まだ習ってないだろ?卒業試験にでるくらい難しいしさ。それにお前が爆発させたからオレが・・・」
ゼルクがぶちぶち文句を言おうとし始めたとき、カレンに殴られた。
「うるさい!1秒でも早く練習始めないと、いつまでもこうなるかもよ?」
「そ、それは、それだけは勘弁だ!早くやろう、ね?ここじゃなくて月ヶ丘行ってから練習しよう!」
SM関係成立である。
「え、なんで月ヶ丘行く必要があ・・・ちょ、引っ張らないでよ!離せバカ!!」
ゼルクはその言葉を無視し、走り続ける。
カレンはぜえはあ言いながら、文句を言う。
「あんた、ねぇ、ちょっとは、人の、話を、聞きな、さいよ、ね!!」
「まぁまぁ、落ち着けって。早く修行したいんだろ?ほら、教えてやるからさ。」
許してくれよ、と声に出さずに伝えた。カレンもそこまでヒドイわけではないので、すんなり許した。
「んじゃ、水の蒸発は諦めて、攻撃系の魔法を教えよう。呪文は覚えてるよな?」
カレンは縦にうなずく。
「まずは火。火の矢だ。呪文だけ、発音の確認のために言ってみて。魔力込めたらだめだからな。」
またうなずく。
「フィリア・アロネイプス」
「うん、発音はいいね。んじゃー本当に発動してみっか。」
ゼルクは満足したように言った。カレンの発音はいつも駄目だからだ。そこから入るとそれだけで日が暮れてしまう。
「はい、慎重に火を出して。」
指示通りに動くカレン。魔力を込め、火を出す。
が。
どごーん。どごおぉーん。手に火を灯らせただけのはずだが、急に辺りに飛びまくったのである。カレンの才能のなさに万歳。
「うわ!まだ撃てとは言ってない!――――――っ!地上に荒れし天の万物たるものの暴走を止めよ!スペンリィ・セィスペン・ティットエイション!」
魔法停止の呪文で沈静化。さすがは優等生ゼルク、判断力に優れている。
「危ない危ない。やっぱここに来てよかった~」
ゼルクは溜息ばかりだ。今も溜息を吐き、安心したように額の汗を拭いた。
カレンもさすがにまずかったと思ったのか、少し顔から血の気が引いていた。それを見たゼルクは、魔力を具現化してみせ、カレンにもそれを促した。
「これくらい出来るだろ?」
「バ、バカにしないでよ!!」
炎のように揺れて輝く具現化された魔力。ゼルクの魔力は淡い青をしている。空のように澄み切った青だ。そしてどこか絹の布のようなしなやかさをみせる。・・・一番近い譬えが、北の空に輝くオーロラだろうか。
一方のカレンの魔力は、赤とか、オレンジとか、本当に火みたいな色をしている。荒々しくて、とにかく自分の思い通りにならない感じなのだ。大きくなったり小さくなったりで、とても扱いきれているとは思えない。
具現化された魔力の色は、その位を示す。ゼルクの魔力は最高級のものだ。カレンは下級の魔力。最下級でないのが不思議なところだが。鍛錬しだいで位は上がったり下がったりする。
「カレンさ、もうちょっと魔力に対して気持ちとかそんな感じのを込めたらどう?」
「はぁ?何で?」
「オレの中で、魔力は道具じゃないんだ。エレメンタルとうまくやっていけなかった時に思ったんだ。エレメンタルは生きてる。けどエレメンタルも魔力だ。だから魔力も生きてる。・・・説明しづらいけど。」
魔力とはしゃべれない。エレメンタルもしゃべれない。だけど両方使い手の意思に答える。言葉は聞こえている。
―――――生きてる。
いつも魔力は暖かかった。それにこれは天から授かったもの。この世の万物じゃない。天の万物。
生きてる。1人のときもいつも暖かかった。それが当たり前で気がつかなかった。私と私の魔力は二つで一つ。共に或る。共に在るからその存在意義が或る。
「そっか。そうだったね。」
――――私の中の魔力よ。聞こえますか。ずっと無視してごめんなさい。
    これからも共に生きていこう。それが私。私たち。
突然、カレンの魔力が安定した。色も黄色に変わった。
―――――私はサフィラ。あなたの魔力で、あなたと共に或るもの。
     あなたは私の主。私はあなたの魔力。ここに、契約する。
     ・・・あなたが望むならば、私はあなたと共に生きていくことを誓う。
カレンに、そんな声が聞こえた。
「サ・・フィラ?魔力に、名前、あるんだ?」
「やっぱり、お前契約してなかったんだな。」
「契約?あぁ、確かにサフィラが言ってた。もしかしてみんなこれ終わってんの?」
「当然だろ。じゃないとろくに魔法なんか使えないぜ。」
それでみんなに上から目線で見られてるような感覚があったのか。とカレンは納得した。
「なんでユイ先生言ってなかったんだ?」
「いやぁ、ゼルク君の方が促すの上手そうだったからね。」
コツコツとブーツの音を鳴らし、後ろで一つに結った腰あたりまである長髪を揺らしながら、ユイが歩いてくる。
「まぁっ、ユイ先生!」
「よかったねアリス君。無事に契約できたみたいだね。しかも君の魔力、一気に3ランクも上がるなんて・・・」
ユイは本当に驚いているようだった。先生をしていても、始めてみる現象だということだ。校長も多分驚くだろう、と驚いたまま言った。
「二人とも疲れてるね。今日はこの辺で終わりにしたほうがいい。もう暗いし、明日も学校だ。帰ってゆっくり休むんだよ。」
「待って。最後にもう一回やらしてください。」
そういってカレンは火を出す。
『原理を無視した自然の力よ、我が手に集い矢となりて飛べ。フィリア・アロネイプス!』
呪文を唱えている間に火がカレンの手に集まっていく。それはどんどん大きくなって、大きくなって、大きくなって、大きくなって。
ゴオオオォォォォなどという音を立てている。バランスボールくらいまで膨れ上がったのを見、ゼルクは即座に突っ込む。
「でかすぎだろっっ!」
おかしい、呪文の詠唱は終わった。あのでかい火の矢は飛んでいない。おかしい。
「好都合だ。」
ゼルクが一言言う。あれを止めるのに好都合なのだろう。発射される前に止めなくては小さなクレーターができてしまう。キレイな月ヶ丘がだいなしだ。せっかくカレンとまともな会話が出来る場所なのに。カレンが唯一女の子らしくなる場所なのに。立ち入り禁止になったらたまったもんじゃない。
ゼルクはそう思ったのだった。
『スペンリィ・セィスペン・ティットエイション!!』
ゼルクがそう言い放ったすぐ後に、剛球並みの火の矢は消えた。消えてくれた。
「よかった・・・」
「さすがはゼルク君。前半の詠唱なしで魔法を発動できる生徒は、君ぐらいだよ。」
ユイ先生は呑気に感心している。
「ごごごごめんなさい!」
カレンは震えながらあやっまた。
「しょうがないよ。一気にランクが3つもあがったんだ。慣れてないから使えなくても当然さ。さぁ、そろそろ本当にお帰り。また慣れるまでゼルク君に教えてもらいなさい。」
「はいっ。ユイ先生の仰せのままにっ。それでは、ごきげんよう~」
「またオレかよぉ~・・・って、おい待てよカレン!」
そして二人は帰り道、商店街に寄った。
「きゃあぁぁぁっ!ひったくったうえにそこの店まで強盗・・・!!」
晩御飯の材料を買っていたら、突然の悲鳴である。
「なんでだろ、オレ達って運悪いよな。」
ゼルクはまた溜息を吐いた。



  ゼルクの魔力教室 完

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最終更新:2008年09月07日 22:34