1、卒業と入団と…
ここは王都アルカディアの城の前。
ここは普段、子供たちが遊べるような公園っぽいところなのだが・・・今日は違った。
遊具という遊具は跡形も無くなくなっているし、そこにいるのは12,3歳くらいのどう見ても遊具で遊びそうに無い格好をした男女と、大人たちだ。
遊具があった場所には、掲示板のようなものが取り付けられ、そこに人が群がっている。
人々の表情は、泣いていたり、笑っていたり、ハイタッチをして喜び合っていたり・・・様々だ。はしっこの、最後の掲示板に目をやると、そこには二人しかいなかった。
「やったー!!さっすがリル様!!マジックムーンに一発で入れたぞ!!しかも一位だってよぉっ!! 優秀だぜ…ダッドの番号もあるんだろ?!やったね!ってあれ?」
その掲示板の前にいた少女・・・もといリルが、同じ掲示板の前にいる少年にハイタッチをしようと振り返った。・・・その少年は、俯いていた。
不意に少年が顔を上げた。なんと、涙を流しながら感動しているではないか!
「おえ、何で泣いてんだよ気持ち悪い」
リルは素直にそう述べた。・・・素直すぎる気もしなくは無いが。
「気持ち悪いとは何だ!気持ち悪いとは!」
少年は、手に持っていた紙で涙を拭いた。
「おいダッド!それ、受験番号用紙じゃないか!?」
「・・・あ・・・・しまった・・・」
少年、ダッドは、ハッとして動きを止めた。
しかし、もう既に紙はぐちゃぐちゃで、番号を見る以前の問題となっていた。
「あ――ぁあ、どうすんの?」
「・・・・・・・えっと・・・・・火ぃつけて!」
乾かそうと試みてみるが・・・
「かっ・・・・紙がっっ!灰になる!!」
失敗。しかも状況が悪化しているではないか。
「それは本部に持っていくしかないな・・・・」
初っ端からボケを飛ばしているが、果たして大丈夫なのだろうか…
「しょうがない…後で先生にこってり絞られるだろうけど…」
そういって城の方へと駆けていく二人。
ダッドは、半分灰と化したその紙を落とすまいと、必死に握り締めていた。
落としてしまっては元も子もないからである。
「すみません!!本部の方ですよね…?」
城の正門前に「試験本部」と書いた紙を付けたテーブルを置いて、椅子にどっかりと座って微妙にくつろいでいる人に尋ねる。
「あぁそうだが。どうかしたのか?」
厳格な青年のようだ。見たところ、騎士団といったところか。いくら騎士団と言えど目上なので、失礼のないように振舞う。
「あの…試験を受けた者なんですけど…」
おずおずときりだす。
騎士団の一部は非常に短気で、少しでも気に障ればそこで意識を失う事になると、リル達の住む街ではめっぽうの噂だった。
この青年がそうでないことを願う。
「どうした?受験番号が分からなくなったのか?」
ありがちなことをとりあえず質問する青年。
「いえ…これ…」
青年は驚きに目を見開いた。
「修復してほしいのか?…まだ認定書をもらっていないのだな。」
恥ずかしさに顔を赤らめながら、ダッドは言う。
「はい、まぁ…。実は―――――……」
約二分の回想。
終わったとたん、青年が爆笑し始めた。
「うはははっ!!おもしれぇ奴らだな!!漫才みてぇだ!!」
今度はダッド達が驚く。
厳格な態度とは裏腹に、気さくな性格なようだ。
笑いが収まらないのか、体を小刻みに震わせながら、受験番号紙を修復してくれた。
これはまたキレイになおるものだ。
「っありがとうございました!!」
といってまた広場に駆け戻る二人。その二人はしっかりと聞き取っていた。
青年が再び爆笑し始めたのを。
「お前のせーで笑われたんだからなっ」
あぁ、先生にどう説明するのやら…などブツブツ呟きながら走る二人。
広場が見えてきたあたりで、鐘がなった。
「―――――~~ヤバッ」
鐘があと3回なる前に戻らないといけない。
1回、二回、三回目…
「せぇぇぇっふ!!?」
三回目が鳴り終わる前になんとか到着。
「おっそおおぉぉい!!何をやっていたのだ!」
振り下ろされる手。え、先生ってそんな人じゃ…
「いっっっっったあぁぁあぁぁぁいぃぃ!!!」
今まで生徒を殴ったことのない先生が急に何で…とリルは思ったが、それが勘違い…のようなものだと気づく。
リルは殴られたのではなく、ベッドから落ちたのだ。
「…ゆ、夢…?昨日のことがすぐ夢に…。思い出したく無いってのに」
そう言い終わったあとすぐに、廊下のほうからすごい足音が聞こえてきた。
「ダッドだな。絶対ダッドだ。うん。」
リルの確信は、当たっていた。部屋の戸がノックというかなんというか、バンバン叩かれている。さっきの悲鳴に反応したんだろうなぁと思いつつ、リルはうっとうしそうに扉を開けた。
「リロリラリリリリル!?今の悲鳴何!?」
こいつ舌大丈夫か?と即座に心で突っ込みを入れ、質問に答える。
「頭打ったんだよ。ちっ、朝の不機嫌が今日は8割り増しだ…」
「え゙!?何故!?ってか8割って…軽く2倍じゃん…」
「昨日の夢を見たこと、頭を打って目覚めたこと、お前が俺の部屋に来たこと」
「えぇっ!?オレ!?オレの所為!?」
そういって自分を指すダッド。女男の会話の筈だが、一人称がオレしか出てこないのには、リルの性格が大きく関係している。
「あれ、そういやダッド、何で制服なんか…」
「え、だって今日卒業式だろ?廊下見てこいよ。皆制服だぜ?」
ここは寮で、皆居る。この学校に来ている者ほとんどが身寄りのない子供なのだ。今の時間に自室を出ると、たくさんの生徒が廊下に出ている。今日は一段と騒がしかった。おかげでリルの悲鳴は全然聞こえていない。ダッドは部屋が隣だから気づいたのだろう。
「本当だ…あぁあぁぁ~こんな最悪な朝、二度と来ませんように!卒業式とか最悪。」
「びっくりした。マジックムーン入団試験に合格したこと忘れたのかと思った。」
卒業の条件として、卒業試験合格、マジックムーンへの入団の二つがある。卒業試験は普段の定期テストとなんら変わりはないので問題ないが、マジックムーンへの入団は超難関となっている。筆記テストは勿論のこと、学校でこなした依頼の数なども入団に関わるという。
まぁ、マジックムーンというのは国王直属の部隊だから超名門の騎士団なわけで、そんじょそこらの学校に通ったところで入れはしない。
リルの通う国立学校は国王が校長。つまりマジックムーンの為にあるような学校なのだ。
生徒に身寄りのない子が多いのは、現国王が優しすぎるためである。その優しさを以ってしても、貧困の差は一向に縮まる気配はないのだが。まぁ、これは貴族たちの所為だけど。
「まぁ、俺は余裕綽々、軽がる入団だけどな!!」
「誰に言ってんだよ、誰に!」
ツッコミをいれられて当然である。
「まぁいいや。とりあえずいくとするか。」
そうしてその日一日朝から日にちが変わるまで、式典、昼食、入団に当たっての説明、夕
食、舞踏会。リルにとって無駄に長い一日は終わった。
「死ぬかと思った~」
と言った一週間後には、同じことを繰り返していた。
「マジックムーンて…すごいな…そりゃあもういろんな意味で。」
「広いし、でかいし、多いし。」
「主語が抜けてて意味がわからんっ。もっとちゃんと喋れよリル!」
舞踏会でひたすら笑顔を振りまいていたものだから、すっかりへとへとだった。
「部屋が3LDKなのがいいな。オレ達見習いでもあの広さ…」
「さすが国王直属……レベル…ってか格が違うな。庶民育ちにはありえない広さだ。」
魔女正装の二人は、中庭で死にかけていた。
「…これからどうなるんだろう。ちゃんと依頼来ないと一生見習いだよ~」
「それはいやだな~。そこまでして続けたくねぇー」
いったい学校がいくつ分あればこの広さになるのだろう、といろいろ考えながら、何気ない会話を続ける。
すると、ダッドがリルの後ろに回りこんできた。リルは何をされるかわからないので一応構えておいた。構えるといっても軽く足をずらしただけなのだが。
「…今日は少し冷えるな。」
「そうだな。少し肌寒…」
言いかけたとたん、ダッドに腕を引っ張られて舌を噛んだ。鍛錬の所為で反応してしまい、離れようとステップを踏むが。
「うわっっっとっとっと……」
腕を引っ張る力が強かったのと、魔女正装のドレスの裾が邪魔で、思いっきりバランスを崩してしまった。そのため、ダッドもろとも地面に倒れこんでしまったのだが。
倒れる際、お互いの唇が一瞬触れたのだ。ほんの一瞬。
それに気づき、一気に空気が重くなる。
「ぅおい、お前ふざけんじゃねぇぞ馬鹿野郎っ!!」
「いやいやいやちょっと待てっ。今のは完全に不可抗りょ」
その言葉をキレイに無視し、すばらしい回し蹴りと見事なかかと落としを放ったリル。
リルは、そんな見事な足技を放った後すぐに、ずかずかと自室へと帰って行った。
しかし、またまた寮の部屋は隣同士である。
まぁ、翌日にこんなことまで頭から吹っ飛ぶ出来事が起こるのだが。
そんなことは知る由もなく。
最終更新:2008年10月05日 11:10