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  桔梗と忍


「船旅って疲れるわ。」
呟いてみたが、言ったから楽になるわけでもなく、溜息を吐いた。
何をするわけでもなく、ただぼーっとしていると、ふと船内にざわめきが生まれたのに気がついた。
何が起きたのかと、甲板に出てみると、船員が走って此方に向かってきて、よっぽど慌てて周りが見えていないのか、思い切り桔梗にぶつかった。
「お...っとすまねぇ。あのさ、茶髪の細ぇ船員見なかったか?見てたら絶対俺の探してる奴なんだ。」
「船に乗るときに一緒でしたよ。すぐに別れましたけど...」
不意に、数人の船員が集まってくる。驚くことに、みんな金髪だ。船客には多種多様な人種が居るのに。
「この娘の話じゃ、船には乗ったそうだが...くそっ、何処行っちまったんだよ忍!!ここで遭難したら...」
桔梗にぶつかってきた青年が、集まってきた仲間に告げる。
「いけませんよ、そんな考えを持っちゃ。それに焦りすぎです。ここは確かに海ではない海ですから焦るのもわかりますが、落ち着いて探さなければ見つかるものも見つかりませんよ!!」
桔梗が、青年のあるまじき発言についつい叱咤してしまう。
「...すまねぇ。大人気ねぇな、俺。子供に諭されちまったよ...だがなお嬢さん。丸2日も見かけた人が居ないんだよ。」
最後に茶髪の船員、もとい忍を見たのは、桔梗だと言う。
「...気づくのが遅すぎやしませんか?」
「あいつの担当場所は、あいつ1人しか居ないんだ。」
確かに、それでは気づこうにも気づけないだろう。
どうしたものかと、皆が唸り始めた時、桔梗が静寂を破る。
「どうやら考えても仕方が無い状況のようです。探すしかないでしょう。私も協力しますから。いいですか、焦ってはいけませんよ。」
言い終わるとすぐに船員たちと桔梗は動き出した。ただ、桔梗にぶつかってきた船員だけ、一瞬そこに立ち止まり、
「本当、大人の尊厳ねぇな...」
と呟いてから走った。

しばらくして、甲板の手すりに凭れる桔梗の姿が見えた。
「只でさえ疲れているのに、更に疲れたわ...見つからないし。」
言葉とは裏腹に、諦める気などは無い。けれど、さすがに心が折れそうだった。
「レオン、大人しくしてなさいって言ってるでしょう!!全く聞き分けの無い...」
不意に、女性の怒声が響いた。
その一瞬後、桔梗の体に衝撃が走る。何かがぶつかってきたようだ。そして、結構強かった衝撃のため、体が前のめりになる。
「レオン!!何やって「ママ!!お姉ちゃんが!!!」
タイミングよく船が揺れ、バランスを崩して...
「キャァァァァァ!!」
無数の魂の海の中に、落ちた。
「女の子が落ちたぞぉぉぉぉ!!」
誰かのそんな叫びが、聞こえた。
海ではないから、おぼれはしない。しかし、どこからか襲ってくる強烈な睡魔に、桔梗は意識を手放した。
『茶髪、茶髪の男の子。忍、忍をお探しかい?それならそれなら、案内しましょう。こちら、こちら、こちらへおいで。』

澄み切った青い空、綺麗な海、綺麗な砂浜に、林。絵に描いたような海岸に、私は居た。
私に、何かが近づいている。大きなギロチンを持って。
その何かの後ろから、誰かがやってきて、何かを一刀両断した。そして私を見つけて、驚きつつも近づいてくる。
「息、はしてる...!この子...とにかく病院へ運ばないと。」
そう言って、私を抱きかかえて、海岸から離れて行った。
私。
私って、

だ れ ?



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最終更新:2009年12月05日 17:58