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誰もいない屋上で、綾芽を抱きしめている主人公。
腕の中でその体がどんどん冷たくなっていく。
綾芽の腕から流れる血。真っ赤に変貌する世界。
「オレは…行く…よ」
消えそうな声で言った綾芽を力いっぱい抱きしめて、必ず救うと強く誓った。
薄暗い世界をひとりで歩いていると綾芽に声をかけられる主人公。
自分は汚れている、自分と一緒にいたらアンタも汚れるという綾芽。
「綾芽くんの汚れなら汚れてもいいよ」という主人公に、苦笑いをした綾芽が、「オレがどれだけ汚れているか、わかっていない。知ったらオレに触れたくなくなる」と言う。
それでも、何があっても綾芽を見捨てないと言う主人公に、「それなら、仕方ないな」「ついて来いよ。ずっと」
周りは相変わらず暗かったが、綾芽の笑顔はまぶしいほどに明るかった。
この笑顔をなくしたくない、と思った。
夜、主人公は夢を見る。
学校の教室の片隅。
先生と主人公を呼ぶ小さな男の子。
子どもなのに意志と強そうな瞳で見つめるのは8歳の綾芽。
綾芽は主人公の手を取り教室から飛び出す。
「オヨメさんにしてあげるよ、先生」
綾芽は、子供の力とは思えない力で主人公を引っ張る。
「でも、このままじゃダメ」
綾芽はそう言ってピタリと足を止める。
「オレを助けてくれないと・・・」
綾芽は主人公の手を離す。
主人公は何度も綾芽の名前を呼ぶが綾芽の姿はどんどんかすんでいく。
最後にはまったく見えなくなった。
綾芽のいた場所には、手のひらくらいの大きさの白い花―木蓮が落ちていた。
誰もいない教室で、菫を抱きしめている主人公。
頬を赤くしていたはずの菫から、突然突き飛ばされる。
「…誰、アンタ」
主人公を怖れて嗚咽する菫。
容赦なく払われる手を何度も差し伸べて菫を抱きしめ、必ず救うと強く誓った。
宝生のバラ園にいる主人公。見回すと菫がいる。そこに降ってくる雨。
雨に濡れた手を見つめながら、自分の手がなぜ汚れているのだと言い出す菫。しかし主人公には汚れているようには見えない。「オレが・・・ともを・・・」とつぶやいて両手で顔を覆い、座り込む。
主人公が背中をなでると、自分に優しくするな。本当の自分を知ったら、主人公が自分を嫌いになると言い出す菫へ、「どんな菫くんだって菫くんは菫くん。わたしは嫌ったりしないよ」という主人公。
「お前はバカだ」と言いながら、菫は少し笑った。
この笑顔をなくしたくない、と思った。
その夜、わたしは夢を見る。そこは宝生のバラ園で。
「先生っ」
後ろから声がして振り返ろうとする前に、背中から抱きつかれた。
「え…」
見れば小さなオトコノコで…。色素の薄い髪に、おびえるように繰り返すまばたき。
もしかして…。
「菫くん…?」
そう呼びかけると、小さなオトコノコはコクンとうなずく。
「……ん」恥ずかしそうに頬を染めたその顔は、今の菫くんと一緒。
「いくつ?」
「……」
小さな菫くんは手のひらを大きく広げて、わたしに見せる。
「5才か」菫くんはさっきよりも小さくコクっと首を動かした。
かわいいなぁ…。
「あげる」
差し出した菫くんの手には、1本のバラ。
「わたしに、くれるの?」
コクンと、再び菫くんはうなずく。
「けっこん」
「え?」
「けっこんして」
……結婚して?
「え…あの…」
なんて言ったらいいかわからずに、とりあえずバラを受け取ろうとして気付く。
菫くんの手が…透けてる…。
「菫くん!?」
呼びかけると菫くんは、悲しそうな顔をしてわたしを見つめた。
「たすけて」
「菫くん!?」
菫くんの姿はどんどんかすんでいく。
そして煙のようにうっすらと漂って、最後にはまったく見えなくなった。
―パサッ…
「菫くん…」
菫くんのいた場所には、手のひらくらいの大きさの白い花―木蓮が落ちていた。
ふたりきりの屋上で、ともゑを胸に抱いている主人公。
ともゑはいくつもの角砂糖を、次々と口にする。
体に悪いと取り上げると、ヒステリックに狂乱するともゑ。
「甘いのが欲しいっ欲しいよっ」
暴れて噛みつく体を無理矢理にも抱きしめて、必ず救うと強く誓った。
病院で、痩せてしまったともゑに、寝てなきゃダメだと手を伸ばす主人公。しかし近くにいるのに届かない。
「風が気持ちいいね」と言われ、病院にいたはずなのに、遠くに聞こえる交差点と工事現場の騒音。
視界から消えたともゑに急に右手を握られる。「僕を助けてくれるの?」
「助けるに決まってる」と答え、ずっと笑っててほしい。
この笑顔をなくしたくない、と思った。
その夜、わたしは夢を見る。
小さな公園のベンチにわたしは座っていて
「先生っ」
後ろから声がして振り返ろうとする前に背中から抱きつかれた。
「え・・・」
見れば小さなオトコノコで・・・。
赤い髪に愛らしい大きな瞳。
もしかして・・・
「ともゑくん・・・?」
そう呼びかけると、小さなオトコノコはニコッと微笑む。
「えへへっ」
屈託のないその笑顔は、今のともゑくんと一緒。
「いくつ?」
「5さい」
「そっか」
あまりにかわいらしいその姿に、わたしは無意識に小さなともゑくんの頭を撫でていた。
「ねぇ、ぼくとけっこんして」
「え?」
「いいでしょ?けっこん、してよ。ね」
「ともゑ・・・くん?」
ともゑくんはそう言ってわたしのシャツの袖をぐいぐいと引っ張る。
小さい子ってよくこういうこと言うんだよな・・・。
そう思いながら、「ねーねー」とシャツを引っ張っているともゑくんを見つめていると。
「え・・・」
ともゑくんの姿がかすんでいくのに気付く。
「ともゑくん?」
「あーあ」
ともゑくんはそう言って、消えようとしている自分の姿を眺める。
「たすけてくれなきゃだめじゃん」
ともゑくんはそう言って笑ったけど、その笑顔は胸が痛くなるほど悲しくて。
「ともゑくんっ」
名前を呼んでも、ともゑくんの姿はどんどんかすんでいく。
そして煙のようにうっすらと漂って、最後にはまったく見えなくなった。
―パサッ…
「とも・・・ゑくん・・・」
ともゑくんがいた場所には、手のひらくらいの大きな白い花が―木蓮が落ちていた。
図書館の一室で、机を挟んで座っている桔梗と主人公。
「一緒に来ますか」と引き寄せられると、突然部屋に闇が落ちる。
すがりつく主人公に寂しそうに桔梗が言う。
「そんなに無防備にわたしを信じて、いいのかと聞いているんです」
信じているから先生もわたしを信じて欲しいと応え、必ず救うと強く誓った。
夜の学校、電気のついていない教室で、向かい合って立っている。桔梗の両手は主人公の首を包み込むように添えられていて、その手は冷たい。
「やめてください。手を離して・・・」
すがるような眼差しを向ける主人公を見て、桔梗は微笑む。
「このままわたしのそばにいたら、何も知らないあなたは傷つき、そして壊れてしまうでしょう」
首に触れている手にゆっくりと力が入っていく。
「桔梗先生のことをわたしにちゃんと教えてください。そうすれば、わたしはもっと桔梗先生のことを理解できます」
桔梗は大きくため息をついて、主人公から手を離す。
「わたしは桔梗先生のそばにいないといけないんです」
「頑固な人ですね」
「桔梗先生は、わたしを必要としているから・・・」
何も言ってくれない桔梗に不安になって、顔を見上げる。
「それなら、仕方ないじゃないですか」
「着いてきたらいいでしょう。どうなっても知りませんよ」
さっきまで首を絞めようとしていた桔梗の手を握ると、優しく微笑んで手を握り返してくれた。
この笑顔をなくしたくない、と思った。
その夜、わたしは夢を見る。
そこは昨日連れて行ってもらった桔梗先生の生まれたお家。
「先生っ」
後ろから声がして振り返ろうとする前に、背中から抱きつかれた。
「え…」
見れば小さな子…たぶん、オトコノコ?
透き通るような白い肌にふんわりとカールした金色の髪。
「桔梗…せんせい?」
先生というには、小さすぎる相手に、わたしは何て言ったらいいか戸惑った。
「……ん」
やさしく穏やかな微笑み、今の桔梗先生と一緒。
かわいい…。
「いくつ?」
「……6才です」
小さな桔梗先生はそう言って、また微笑む。
まるで天使みたいに…。
「結婚してもらえますか?」
「え?」
「結婚してください」
小さな桔梗先生は、臆面もなくはっきりとそう口にする。
「ほら、お花が咲いてる」
桔梗先生は窓の外を指差す。
窓越しに見えるバラ園は満開だった。
「きれいですね…。え、あ、桔梗先生!?」
視線をもとに戻すと、小さな桔梗先生の姿はかすんで消えようとしていた。
「待って、桔梗先生っ」
思わず手を掴もうとしたけど、その手は空を切るだけで。
「助けて、くださいね」
消える瞬間、桔梗先生はそう言い残した。
-バサッ…
「桔梗先生…」
桔梗先生のいた場所には、手のひらくらいの大きさの白い花-木蓮が落ちていた。
理事長室で、葵の胸の中、彼の手を握っている主人公。
「一緒に行くか」と連れ出された先には見知らぬ部屋とグランドピアノ、ハイライトのタバコ。
「オレはいなくなる」
「いなくなるよ、せんせ」
ピアノの椅子に腰かけて呟く瞳は、決してこちらを見ていない。
そんな葵を包み込むように抱きしめながら、必ず救うと強く誓った。
カーテンの締め切られた理事長室で、ソファーに腰掛けている葵と主人公。主人公のシャツのボタンを外そうとする葵の手を止めると
「愛ってこんなもんだろ?」「俺はこんな愛しか知らない」と言う葵。自分にがっかりしたかと言う葵に、
主人公は以前自分がされたように葵の手をドキドキしている自分の胸に当てさせ、「自分も愛はわからないが、大切にしたい」と伝える。
そして葵にも愛を大切にして欲しいと告げると「いつか、くれよ」「お前を、オレに」と言われる。
主人公に向けた葵の笑顔は心にしみるような笑顔だった。
この笑顔をなくしたくない、と思った。
真夜中の海、近くに葵の車が止まっている。
「先生っ」後ろから声がして振り返れば、そこには小さい男の子の姿があった。
「葵…理事…?」小さなオトコノコに、主人公は恐る恐る呼びかける。
「何、びびってんだよ」小さな葵はそう言って、意地悪そうに目を細めた。
「君、いくつ?」
「ガキ扱いするんじゃねーよ。・・・10歳」小さな葵は不満そうにそう言ってから、主人公の手を取った。
「え、なに?どこ行くの?」
「結婚するんだろう?オレのものになれよ」口ごもる主人公の手をとって葵は目を見つめて口を開く。
「愛してるから」
目の前にいるのは小さなオトコノコなのに、止まりそうな程大きな音をたてる主人公の心臓。
「葵理事っ」そう文句を言おうとして葵の姿がかすんでいくことに気付く。
「だって、お前、オレのこと助けるだろ?」そして、そういい残して、完全に消えてしまった。
葵のいた場所には手のひらくらいの白い花-木蓮が落ちていた。
その夜、わたしは夢を見る。緑の木々が揺れる音、花がひとつもない芝生続きの場所…。ここは、宝生のお墓…。
「先生っ」
後ろから声がして振り返ると、そこには小さなオトコノコの姿があった。色素の薄い髪を揺らして、手にはピアノの教本を持っている。もしかして…。
「紫陽さん?」
「そうだよ」
オトコノコは目をキラッと光らせて、満足そうに微笑んだ。その微笑みは、今の紫陽さんと一緒。
「今、何才?」
「ソナチネが終わったとこ。10才」
そう言って、小さな紫陽さんはピアノ教本を投げ捨てた。
「ダメじゃない」
教本を拾おうしたわたしの手を、小さな紫陽さんが上から掴む。
「え…」
「結婚しようよ」
一瞬何を言われたかわからなくて。
「結婚、はやくしよう」
念を押されて、ようやくプロポーズされているんだと気付く。
「結婚って…」
「不満なの?楽しいよ、僕」
楽しいって言われても…。わたしは困ってため息をついた。
「とか言いながら、僕のことが気になってるくせに」
「……っ」
そんなはずは…ない…のに…。子供の紫陽さんに言われた言葉を否定できないでいる。
「あ、タイムアップだ」
「え…ええっ」
顔を上げると、目の前にいる紫陽さんの姿がふんわりと霞がかったようになっていく。
「紫陽…さんっ、紫陽さんっ」
何度名前を呼んでも、紫陽さんの姿は消えていくばかりで。
「あーあ、君、助けてくれると思ったのにさ」
紫陽さんは最後まで冗談のような口調でそう言って、わたしの目の前から完全に消えてしまった。
―パサッ…
「紫陽……」
紫陽さんのいた場所には、手のひらくらいの大きさの白い花―木蓮が落ちていた。
最終更新:2007年07月30日 00:34