ベクトル、行列

微分積分と共に経済数学の基礎をなすのがこの線形代数である。
ここではベクトルや行列といった内容の基本性質を扱う。

  • ベクトル
  • ベクトルの基本性質
  • 行列
  • 行列の基本性質


ベクトル

経済学では複数の財の値段を同時に扱ったりすることが多い。
その際に用いられる概念がベクトルだ。
以下のようなものがベクトルの例だ。

a=縦(a1,a2,…,an) (縦は数字が縦に並んでいる事を表す)

ベクトルaは普通の文字aと区別する為に太字で表すことが多い。
高校のベクトルで用いたような矢印付きの記号a→はまず使われなくなる。
高校ではベクトルを平面(あるいは空間)上の矢印として表したが、一般的なベクトルでは必ずしもそうではない。
ベクトルaを構成するa1,a2,…,anをベクトルの成分と呼ぶ。
成分の個数nをベクトルの次元と呼ぶ。
上のように成分を縦に並べたベクトルを列ベクトル、横に並べたベクトルを行ベクトルと呼ぶ。

ベクトルの基本性質

ベクトルの相等

2つのベクトルが等しい、すなわちa=bが成り立つのはどのような場合だろうか。
それは以下のような定義が存在する。
a=縦(a1,a2,…,an)、b=縦(b1,b2,…,bn)とするときa=bを、a1=b1,a2=b2,…,an=bnと定義する。

ベクトルの和と差、スカラー倍

ベクトル同士の和a+bや差abは以下のような定義が存在する。
a±b=縦(a1,a2,…,an)±縦(b1,b2,…,bn)=縦(a1±b1,a2±b2,…,an±bn)
とそれぞれの成分を足したり引いたりすれば良いということがわかる。

スカラーとはベクトルのように複数の成分を持つ数ではなく、
普通にそれまで扱ってきた数のことである。
スカラーをkとすると、
ka=k縦(a1,a2,…,an)=(ka1,ka2,…,kan)
ベクトルのスカラーk倍はそれぞれの成分をk倍すればいいということになる。

すべての成分が0であるベクトルを零ベクトルという。
零ベクトルはa+0=0a=aを満たす。

ここまでの性質をまとめておく。(a,b,cはベクトル、s,tはスカラー)
  1. a+(b+c)=(a+b)+c
  2. a+b=b+a
  3. a+0=0+a=a
  4. s(a+b)=sa+sb
  5. (s+t)a=sa+ta
  6. (st)a=t(sa)=s(ta)
  7. 1a=a

ベクトルの内積

ここまでベクトルの和と差とスカラー倍を定義してきた。
それでは、ベクトル同士の積はどのようなものが存在するだろうか。
幾つかあるがここでは内積a・bを紹介する。
内積はベクトル同士の積であるが、その結果はスカラーになる。
a=縦(a1,a2,…,an)、b=縦(b1,b2,…,bn)とすると、
a・b=a1b1+a2b2+…+anbnがベクトルabの内積である。

経済学的な例示を出すと、a1,a2,…,anをある企業の各財の価格、
b1,b2,…,bnを各財の売上数とすると、内積はその企業の総売上高という意味を持つ。

行列

行列は連立一次方程式を解く為の方法として発明された。
a,b,c,d,e,fを係数、x,yを変数として以下のような連立一次方程式を考える。
ax+by=e,cx+dy=f
これを以下のような形で表して方程式を解こうとしたときに行列が用いられる。
(a b c d)(x y)=(e f)
このときの(a b c d)のように数を四角に並べたものを行列と呼ぶ。
上の行列は2行2列の行列や2×2行列と呼ばれる。縦が行で横が列である。

A=(a11 a12 … a1m a21 a22 … a2m … an1 an2 … anm)
上はn行m列(n×m)の行列である。
上からi行目で、左からj列目の成分をaijというように表すことが多い。
n=mの場合を正方行列と呼ぶ。n×n行列のことをn次正方行列ともいう。
全ての成分が0の行列をゼロ行列O、
行と列が等しい成分(対角成分)以外の成分が全て0の行列を対角行列、
対角行列のうち対角成分が全て1となるものを単位行列Iとそれぞれ呼ぶ。

行列の基本性質

行列の和と差とスカラー倍

二つの行列をA=(a11 a12 … a1m a21 a22 … a2m … an1 an2 … anm)、B=(b11 b12 … b1m b21 b22 … b2m … bn1 bn2 … bnm)とする。
行列同士の和と差を以下のように定義する。
A±B=(a11±b11 a12±b12 … a1m±b1m a21±b21 a22±b22 … a2m±b2m … an1±bn1 an2±bn2 … anm±bnm)
ベクトルの場合と同様に同じ位置の成分を足し引きすればよい。
同様にスカラー倍も以下のように定義される。
kA=(ka11 ka12 … ka1m ka21 ka22 … ka2m … kan1 kan2 … kanm)

行列の積

行列の積は少々複雑な形をしていて、同じ成分同士をかけるだけではいけない。
また積ABが可能な行列は限られており、Aがs行t列の行列、Bがt行u列の行列の時に限り定義される。
行列ABのij成分は、行列Aのi行目と行列Bのj列目の成分を次々にかけていきそれを足し合わせたものになる。
その結果、行列ABはs行u列の行列になる。

例として、2行2列の正方行列同士の積を考えてみる。
A=(a b c d)、B=(e f g h)とすると、積AB、BAは以下のようになる。
AB=(ae+bg af+bh ce+dg cf+dh)、BA=(ae+cf be+df ag+ch bg+dh)
上の例を見てもわかるように、一般的には行列の積に交換法則は成り立たない。(AB≠BA)

行列の結合法則と分配法則

A,B,Cを行列、Iを単位行列、Oを零行列とする。
  1. (A+B)+C=A+(B+C)
  2. (AB)C=A(BC)
  3. A(B+C)=AB+AC,(A+B)C=AB+AC
  4. A+O=O+A=A
  5. AI=IA=A

逆行列

行列の和、差、積を定義してきた。ここで定義したくなるのは商だ。
しかし行列の商は定義されておらず、代わりに逆数と対応するものが定義されている。
それが逆行列と呼ばれるもので、正方行列Aに対してAB=BA=Iを満たす行列Bのことである。
また、この行列BをA^−1(エーインバース)とも表記する。

しかし全ての行列について逆行列が存在するわけではない。
後に定義する行列式が0でないという条件が逆行列の存在に必要となる。
最終更新:2013年08月13日 01:07