利潤と費用

企業の最大の目的は利潤を追求することである。
そのためには投じる費用とそれから得られる収入の関係が大変重要である。
ここでは企業が生産を行う上での費用に着目する。

  • 費用の種類
  • 生産関数
  • 総費用曲線
  • 効率的規模
  • 異なる形状の総費用曲線の場合
  • 短期と長期の費用の関係
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費用の種類

企業が持つ最大の目的は利潤を最大化することである。
利潤は、利潤=総収入-総費用として定義される。
総収入は単純に価格に販売個数をかけあわせたものなので簡単なのだが、費用の方は少し解説が必要だ。
なぜならば、経済学における費用というものは一般的に考えられている費用とは少し異なる概念を含んでいるからだ。

経済学における費用は基本的に機会費用と呼ばれる費用である。
機会費用には普通イメージするような費用に加えて、あることをする際に諦めた行動から得られるはずだった利益も含まれる。
例えば大学に通うことの機会費用は、学費だけでなく大学在籍中の4年間に働いていたら得られるはずだった所得も含まれる。
大学に通うことによって、その期間労働によって所得を得ることをあきらめているからだ。
学費のような実際の支払いを伴う費用の事を明示的費用と呼ぶ。
一方、大学在籍中に働いていれば得られたはずの所得を潜在的費用と呼ぶ。
経済学における費用(機会費用)とはこの明示的費用と潜在的費用を合計したものである。

今後の話を先取りすることになるが、企業による生産の結果利潤がゼロになることがある。
この場合には利潤はゼロであるが、いわゆる儲けが存在しないわけではない。
経済学的には費用に潜在的費用を含むが、会計上では費用に潜在的費用を含まない。
そのため経済学的には利潤はゼロであるが、会計上ではしっかり利益が出ていることになる。

生産関数

企業は労働や資本などの生産要素を投入して財を生産する。
どのような生産要素をどれだけ投入するとどれだけの財が生産できるのか、という関係式の事を生産関数と呼ぶ。

例として小さなレストランの小さな厨房で料理を作る場合を考える。
労働のみを生産要素とするとき、この生産関数はどのような性質を持つべきであろうか。
まず労働の投入がない、つまり厨房に誰も働いていない場合を考える。
この場合の財の生産量は厨房に誰もいないのでもちろん0である。
次に厨房に料理人を一人配置すると、その料理人は厨房を使って料理を生産する。仮にその生産量を60とする。
さらに料理人を増やし二人にすると、二人で厨房を使いさらに多くの料理を生産する。
しかし厨房は狭いので作業の効率がそれほど高まらないので単純に倍増とはいかず、生産量は合計で100までしか増えなかった。
もう一人料理人を増やし三人にすると厨房の狭さによりさらに効率は落ち、生産量は120にしか増えなかった。
ここまでを表にまとめると以下のようになる。
労働者数 0 1 2 3
生産量 0 60 100 120
限界生産物 - 60 40 20
平均生産量 0 60 50 40
3行目の限界生産物は労働者を1単位増やした場合にどれだけ生産量を増やすことが出来るかを表している。
労働者を増やすほどに限界生産物が減少し、一人あたりの平均生産量も減少していく。
つまり労働者を増やし過ぎると生産が非効率的になるということである。
このことを限界生産物逓減と呼ぶ。
これによりこの生産関数は上に凸なグラフをしていることになる。
この例だけでなく、一般的にほとんどの生産関数はこの限界生産物逓減の性質を持っている。
(グラフ)

総費用曲線

企業が生産を行うにはもちろん費用がかかる。
その費用は大きく分けて工場や土地などの固定費用と、従業員の給料や原材料費などの可変費用がある。
固定費用は生産を行わなくてもかかる費用だが、生産量や生産要素投入量によって左右されず一定である。
可変費用は生産要素投入量に比例してかかる費用である。

利潤は総収入から総費用を差し引いたものなので、生産要素よりもそれにかかる費用で考えた方がより本質的になる。
ここで生産量1単位当たりに対してかかる費用をグラフにした総費用曲線を考える。
先ほどのレストランの例で考えて、料理人一人当たりの給料(可変費用)を30とし、固定費用を40とする。
これを表にまとめると以下のようになる。
生産量 0 60 100 120
固定費用 40 40 40 40
可変費用 0 30 60 90
総費用 40 70 100 130
この表を縦軸に総費用、横軸に生産量をとったグラフを描くと、以下のグラフのように生産量が増えるほどに傾きが急になる下に凸なグラフとなる。
これは言い換えれば生産量が増えれば増えるほど生産を1単位増やすのに必要な可変費用が増えるということである。
(グラフ)

効率的規模

説明を簡単にするための新たな例を以下の表に示しておく。
生産量 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
固定費用 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10 10
可変費用 0 1 3 6 10 15 21 28 36 45 55
総費用 10 11 13 16 20 25 31 38 46 55 65
限界費用 - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
平均固定費用 - 10 5 3.33 2.5 2 1.67 1.43 1.25 1.11 1
平均可変費用 - 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5
平均総費用 - 11 6.5 5.33 5 5 5.17 5.43 5.75 6.11 6.5
限界費用は生産量を1単位増やしたときに必要になる追加分の費用である。
平均固定費用、平均可変費用、平均総費用はそれぞれの費用を生産量で割ったものである。
この表を2つのグラフに描くと以下のようになる。
左のグラフは固定費用、可変費用、総費用のグラフであり、右側のグラフは限界費用、平均固定費用、平均可変費用、平均総費用である。
(グラフ)(グラフ)
右のグラフを見てみると平均固定費用は下に凸で右下がりの曲線となっており、平均可変費用は右上がりの直線となっている。
これらを合計した平均総費用はU字型になっている。
限界費用は右上がりの直線となっているが、限界費用曲線と平均総費用曲線の交点は平均総費用曲線の一番底の部分になる。
言い換えるならば平均総費用曲線の最小値、平均総費用曲線が減少から増加に転じる点とも言える。
一般的に、直線ではない限界費用曲線でもU字型の平均総費用曲線の一番底で交わる

ではなぜU字型の平均総費用曲線の一番底で交わるのだろうか。
ある生産量での平均総費用は、その生産量での総費用曲線の点と原点を結んだ直線の傾きとして表現される。
なぜなら平均総費用は平均総費用=ある生産量xでの総費用/生産量xと定義されているからだ。
総費用曲線は下に凸なグラフなので、平均総費用が最少となるのはその生産量での総費用曲線の点と原点を結んだ直線が総費用曲線の接線となるときである。
またある生産量での限界費用は、その生産量での総費用曲線の接線の傾きになる。
よって平均総費用と限界費用が等しくなるのは、平均総費用が最小値となる総費用曲線の接線の傾きと同じになる場合である。
この時の生産量の事を効率的規模と呼ぶ。

異なる形状の総費用曲線の場合

ここまでの例では限界生産物逓減の法則が働いた一様に下に凸な総費用曲線を考えてきた。
生産要素を投入すればするほど限界的な生産量が減少してしまうとしてきたが、これはどんな場合も成り立つだろうか。
最初の例では小さいレストランの狭い厨房としていたが、大きなレストランの広い厨房の場合を考えてみよう。
一人では使いきれない設備を複数人で効率よく使うことが出来れば生産効率が上がることがあるかもしれない。
その場合には限界的な生産量が減少するどころかむしろ増加することになる。
この状態の時には総費用曲線は上に凸なグラフになる。
しかし広い厨房といえど広さには限界があり、ある程度以上の料理人を配置しすぎるとこれまでと同じように限界生産物逓減が発生し下に凸なグラフとなる。
グラフが上に凸な区間では限界費用は減少し、下に凸な区間では限界費用は増加する。
(グラフ)(グラフ)

短期と長期の費用の関係

最終更新:2015年09月17日 05:32