羽生蛇村異聞
羽生蛇村異聞 第一話
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hanyudamuraibun
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吉川菜美子 / 合石岳 / 蛇頭峠 / 1976年 / 18時00分03秒
『神隠し』
神隠しとは、理由も無く不意に子供などが消え、探しても容易に見つからないとき、其れを超自然的な存在が異界へと連れ去ったのだと考えられたもの。
神隠しに遭ったまま帰って来ない者もいれば、ある日、行方不明になった場所から遥か離れた処や、自力では辿り着くことが不可能な高所、人の滅多に行かないような山中で発見される者もいる。
消失していた期間は様々で、数日間から数十年に及ぶ場合もある。
帰って来た者は、大抵が茫然自失の状態で発見され、如何なる理由で神隠しに遭い、何処に消えていたのかを問うても、曖昧な証言しか得られないことがほとんどである。
消失していた期間は様々で、数日間から数十年に及ぶ場合もある。
帰って来た者は、大抵が茫然自失の状態で発見され、如何なる理由で神隠しに遭い、何処に消えていたのかを問うても、曖昧な証言しか得られないことがほとんどである。
『迷い子』
——ウゥ—…
火の見櫓のサイレンの音が響いている。
火の見櫓のサイレンの音が響いている。
——此処は何処?
気が付くと、少女は赤いランドセルを背負ったまま寂しい山道を歩いていた。
鮮やかな茜色の夕陽が、鬱蒼と生い茂った山の木々を照らしている。
目の前に伸びる自分の黒い影法師を、踏み付けるようにして少女は歩を進める。
気が付くと、少女は赤いランドセルを背負ったまま寂しい山道を歩いていた。
鮮やかな茜色の夕陽が、鬱蒼と生い茂った山の木々を照らしている。
目の前に伸びる自分の黒い影法師を、踏み付けるようにして少女は歩を進める。
——どうしてサイレンを聞くと哀しい気持になるのだろう。
急に心細さを覚えた少女は、自分が何故此処に居るのかという不安に囚われた。
懸命に記憶を辿るが、まるで目覚めて思い出そうとしても消え去る夢のように、記憶はさらさらと形を崩していく。
——ウゥ—…
火の見櫓のサイレンの音が響いている。
——又、何処かで誰かが消えたのだろうか。
山々に木霊するサイレンは、消えてしまった母の事を思い出させる。
村人が総出で山を捜したが、決して帰って来る事は無かった母。
漆黒の闇に覆われた山に、母を捜す人々が持つ灯りが幾つも幾つも灯っていた光景を忘れる事はできない。
母は、己を呼ぶ灯火を間違えてしまったのではないか。今でも灯りを捜しているのではないだろうか。
——山の上の光、そうだ、あれを捜しにきたのだ。
少女は、昨日、分校の帰り道で見た合う合石岳の不思議な光を思い出した。
山の尾根をなぞるように飛んでいった奇妙な光。
その光が、母の失踪と結びついているような気がして、少女は独り此所に訪れたのだ。
急に心細さを覚えた少女は、自分が何故此処に居るのかという不安に囚われた。
懸命に記憶を辿るが、まるで目覚めて思い出そうとしても消え去る夢のように、記憶はさらさらと形を崩していく。
——ウゥ—…
火の見櫓のサイレンの音が響いている。
——又、何処かで誰かが消えたのだろうか。
山々に木霊するサイレンは、消えてしまった母の事を思い出させる。
村人が総出で山を捜したが、決して帰って来る事は無かった母。
漆黒の闇に覆われた山に、母を捜す人々が持つ灯りが幾つも幾つも灯っていた光景を忘れる事はできない。
母は、己を呼ぶ灯火を間違えてしまったのではないか。今でも灯りを捜しているのではないだろうか。
——山の上の光、そうだ、あれを捜しにきたのだ。
少女は、昨日、分校の帰り道で見た合う合石岳の不思議な光を思い出した。
山の尾根をなぞるように飛んでいった奇妙な光。
その光が、母の失踪と結びついているような気がして、少女は独り此所に訪れたのだ。