二分脊椎

二分脊椎って?

そもそも脊椎とは?

  • 人間の神経系の中心領域は脳である。脳は、筋肉など体中へ何らかの指令を下したり、逆に体中が外部あるいは内部から受ける刺激などを統合的に判断したりするための器官と言える。指令を発したり、または情報を受け取ったりするためには脳と体を継ぐラインがなければならない。その働きは神経線維(神経細胞)が担っている。脳から出た神経線維は最初は束になって背中を走っているが、徐々に分岐して最終的には体の末端まで行き渡る。そしてその背中の部分の束が損傷されれば、生命維持や体を動かす指令系統に重大な損害をきたすことになる。その部分を保護するための、神経の束を包む硬い骨が脊椎と呼ばれる骨(脊椎骨)である。その様相は、あたかも人間の背中を走る一本の柱のようにも見えるため、脊椎骨を全て総合して「脊柱」とも呼ばれる。また、脊柱に包まれている神経の束(脊髄と呼ばれる)も脳に準じて重要な部分であるので、脳と脊髄を統合して「中枢神経系」と呼ばれる。つまり、脊椎とは中枢神経(脊髄)を保護している重要な骨なのである。

二分脊椎とは?

二分脊椎の定義

  • 脊椎骨の一つ一つを単に「椎骨」という。この椎骨はドーナツのような輪状をしており、脊髄を取り囲んでいる。この輪状になった一部が先天性に癒合せず、欠けた状態になってしまっている(形成不全)状態や、それに伴って本来脊椎の内側にあるはずの脊髄が外部に脱出してしまっていることに起因する脊髄の損傷、さらにその脊髄の損傷に伴って起こる各種の神経障害なども含めて「二分脊椎」と呼ぶ。

二分脊椎の分類

  • 二分脊椎には大きく分けて2種類ある。
    • 潜在性二分脊椎
    • 嚢胞性二分脊椎(=顕在性二分脊椎)
      • 髄膜瘤
      • 脊髄髄膜瘤
      • その他
  • 潜在性二分脊椎とは、正常な人でもたまにみられる状態で、成人の10%・新生児には30%前後発生する。この状態は、脊椎の癒合不全が見られるものの、脊髄が脊椎の外へ出ておらず、また、その孔の表面には表皮などが欠損せずに覆っている状態のこと。
  • 嚢胞性二分脊椎(=顕在性二分脊椎)とは、椎骨の欠損している孔から脊髄を覆っている髄膜が出てしまっている状態、または髄膜と神経が両方とも脱出してしまっている状態などで、髄膜のみが脱出している状態を「髄膜瘤(ずいまくりゅう)」、髄膜と神経が両方とも脱出している状態を「脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)」という。その他、脂肪細胞が溜まってしまう「脂肪腫(しぼうしゅ)」、二分脊椎が発生している部分の表面の皮膚が欠損している状態の「先天性皮膚洞(せんてんせいひふどう)」などがある。
  • 二分脊椎を発症している人のおよそ70%前後には脊髄髄膜瘤が認められる。

二分脊椎の発生頻度

  • 二分脊椎が発生する頻度はそれほど低くなく、日本においてはおよそ3000人に1人の割合で発生する。

二分脊椎の合併症

  • アーノルド・キアリII型
  • 水頭症
    • 二分脊椎を発症している人の70〜90%にはアーノルド・キアリII型という奇型が併発する。
      • アーノルド・キアリII型とは先天性の奇形の一つで、本来は脳に分類される小脳下部の虫部と呼ばれる部分・延髄・第四脳室が下の方に延長し、脊椎の輪の中に入り込んでしまっている状態のこと。
      • このアーノルド・キアリII型では、呼吸不全や嚥下困難(ミルクや唾液が飲み下せない)、チアノ−ゼ(酸素欠乏状態)、眼振、喘鳴(喉がごろごろいう)、声帯麻痺(泣き声をあげられない)、後弓反射(反り返る姿勢)などの症状が出現する。
  • 脊髄髄膜瘤が認められる人の80〜90%は水頭症を伴う。
    • 脳及び脊髄とそれを取り囲む骨の間は脳脊髄液という緩衝液で満たされているが、この脳脊髄液の循環が不全状態に陥り、脳内に脳脊髄腋が通常より多く溜まってしまうことを水頭症という。この状態が長く続き、脳が圧迫された状態になると脳の機能に悪影響がもたらされる。二分脊椎児の水頭症の原因として、前述のアーノルド・キアリII型が挙げられる。

好発部位は?

  • 好発部位は一般に腰椎や仙椎である。場合によっては頚椎や胸椎などにも発生しうる。

症状は?

  • 一般に、二分脊椎が発生した部位の脊髄が支配する領域及びそれより下部の運動神経と知覚神経が麻痺を起こし、同時に内臓に障害が発生する。
  • 代表的なものでは以下のような症状・随伴症状が認められる。
    • 内反足(足関節が内側に変形した状態。足の裏が内側を向いてしまう)
    • 脊柱変形
    • 腎機能障害
    • 膀胱直腸障害(排尿、排便の機能や行動に関する障害が発生する)
    • ひきつけ
    • 斜視・眼振
    • 下肢、特に陰部の感覚麻痺による性機能障害
  • 運動に関する障害の分類は以下のようになっている(やや専門的な内容)
    • ?群:胸髄レベルの麻痺。下肢全領域が麻痺。
    • ?群(第一、第二腰髄):股関節の屈曲、内転が可能
    • ?群(第三、第四腰髄):股関節は正常。膝の伸展と足関節の背屈が可能。
    • ?群(第五腰髄):足関節の背屈力が弱く、足指の背屈も可能。
    • ?群(第一、第二仙髄):股関節伸展、足関節の底屈が可能。
    • ?群(第三仙髄):小足筋麻痺がある。

どのようなサポートが必要なの?

  • 医療領域では、その状態に応じて小児科や脳神経外科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科など、多くの領域での治療やリハビリテーションが必要になってくる。
  • リハビリテーションにおいては、その症状の程度や年齢によって目標とされるゴールは異なってくる。代表的なリハビリテーションとしては排泄管理の確立や移動方法の訓練などが挙げられる。
  • その他、教育や就職など、その人の状態に応じた適切なサポートが行われる必要性が生じる場合もある。

予防法ってあるの?

  • 1999年のNew England Journal of Medicineという医学雑誌に、妊娠予定の女性に葉酸の補給させることによって二分脊椎の発生率を低下させることが出来たという報告がある。その他、様々な国での研究でも同様の報告がなされていた。
  • それを受けた形で、2000年に厚生省(当時)は、「通常の食事に加え、栄養補助食品から1日0.4ミリグラムの葉酸を摂取すれば発症リスクの低減が期待できる」との通知を出した。
  • 葉酸はレバーや緑黄色野菜などに多く含まれる水溶性のビタミンの一種であるが、調理などによって容易に破壊される栄養素であるため、妊娠前・妊娠中での摂取ではサプリメントなどからの摂取が望ましい。

これを書くにあたって参考にした文献

  • 整形外科学テキスト 南江堂
  • わかりやすい内科学 文光堂
最終更新:2007年07月13日 00:19
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