夢に踊れ(霧島美穂目線)◆JOKER/0r3g



「真司」
「なんだよ」
「ふふ……呼んでみただけ」

呼ばれて前を向いた真司の顔は、僅かながら先ほどまでとは違う困惑を孕んでいる。
無理もない、こんな美女と二人きり、こんな暗闇の中でこんだけ顔が近ければ、誰であろうと一抹の希望は持ってしかるべきだろう。
なんならその先まで可能性を感じているとしても、何も不思議ではない。

というかその方が健全だ。そうだ、じゃあいっそのこと思い切っちゃって――。

(なーんて、ないか)

少々自分の思考が暴走気味だったかと、美穂は自嘲気味に笑う。
目の前には未だポカンとしたままの真司の姿。
最後くらい、ちょっとくらい自分に正直になっても許されるだろうか。

「真司、ちょっと目、瞑ってくれる?」
「え、なんで……」
「いいから」

美穂の強引に押し切るような言葉に、真司は渋々目を瞑る。
何だかホントに、渋々って感じだ。
今まで騙してきた男たちにあった、下品な期待に鼻の下を伸ばすような様子は、彼には微塵も見られない。

(……なんてのは、私の色眼鏡かもしれないけどさ)

こんなの慣れっこのはずなのに、何だか無性に恥ずかしい。
目の前に、訝しげな顔をして目を瞑っている男の顔があれば、その隙に財布を盗むのが、自身の常だというのに。
どうにも引っ込みがつかなくなった美穂は、そのまま真司の顔に自身の顔を近づけて――。



――ピシッ

彼のおでこに、その中指でデコピンをした。

「痛っ」
「なーに期待してんの。変態」
「変態ってなんだよ変態って!お前が目瞑れって言ったんだろ!」

ホントとんだ悪女だな、とむすくれる真司をみやりながら、美穂は誤魔化すように笑う。
誤魔化す対象が真司なのか、それとも自分自身の気持ちなのかは、正直わからなかったけれど。
それでも、なんだかこれはこれで自分らしいかと、美穂はそう結論づけた。

思考を終えた美穂の身体は、小さく、しかし強く光る粒子になって辺りを照らしていく。
その光に包まれて、思わずその眩しさに目を覆った真司。
そんな中でも必死に美穂の手を掴もうと、彼は我武者羅にその手を伸ばしていた。

だが美穂は、その手を取ることはしない。
闇から離れ、急速に光の中に浮上する彼に対して、彼女は今度こそ嘘ではない素直な笑みを浮かべて。

「真司。今度からは靴紐……ちゃんと結べよな」
「霧島ぁぁぁぁぁぁ!!!」

140:夢に踊れ(後編) 時系列順
城戸真司

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最終更新:2019年06月27日 01:34