アットウィキロゴ
妖怪サークル『夜道会』
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

作品サンプル4

最終更新:

hengue

- view
管理者のみ編集可
※作品の著作権は、全て筆者に帰属します。作品の一部、または全部を無断で複写・複製・転載することを禁じます。
→実際の紙面掲載時のイメージ(注:リンク先はpdfファイルです)


『雨に踊れば』/五十嵐彪太
                                                                                      お題妖怪:骨傘(ほねからかさ)

  傘が重い。ぐいぐいと引っ張られる。

  これが台風だったら強風のせいだと言えるのだが、今夜は小糠雨、音も立てずに細かい雨が降り続いている。

  傘はどんどん重くなる。この間、新調したばかりの常盤色をした大きな傘だ。重さなど気にせず選んだのが、失敗だったか。

  差しているのが面倒になって、ふっと腕の力を緩めると、(行ってもいい?)と声が聞こえた。

「どこに行くんだ?」

(えっとね、念仏踊り)

  念仏踊り、だと?

  傘は上下に跳ねながらおれを引っぱって行く。

  ええい、ままよ。どこへでも連れて行け。それにしてもルックスの割に、子供っぽい傘だな、コイツ。新品だからか?

  雨は相変わらずで、足音までも吸い取られたように静かだ。おれは、浮かれた傘に操られ、間抜けなステップを踏みながら細かい雨の中を進む。


  たくさんの傘が、踊り狂っていた。

  傘は、おれを振りほどいて、一目散に傘の踊りの輪へ入っていく。

  踊る傘は実にさまざまだった。和傘も蝙蝠傘も、ビニール傘も、入り乱れて踊っている。けれど、ほとんどが壊れたり、年季の入った古い傘で、真新しい常盤色の傘は、ずいぶん浮いた存在だ。それなのに、おれの傘は骨だけになった傘や、厳めしい蛇の目に促され、どんどん踊りの輪の中心へ入っていく。

  閉じたり開いたり、くるくる回って、傘が踊る。大勢の傘が、おれの傘に合わせて、踊る。やがて、無言だった雨が念仏を唱え始め、傘たちの踊りは一体となる。

  おれは、傘たちの踊りに目を奪われていた。細かな雨が体中を濡らし、髪の毛から水滴が落ちるのも気にせず、立ち尽くしていた。


  ようやくおれの手に戻ってきた傘は、興奮冷めやらぬ様子で、いろいろと話を始めた。

(あそこはね、昔昔、傘屋だったの。じいさんが、ひとりで傘を作っていたんだ)

(じいさんはすごく頑固でね。でも、じいさんの張った傘は、とても長持ちだったんだ)

(さっき踊っていた傘は、みんなじいさんの傘か、その生まれ変わりなの)

(でね、今夜はじいさんの祥月命日)

「なあ、おまえひとりだけチビだったろう? 本当はまだ付喪神にはなれない年なんじゃないのか?」

(うん、でもね。ついこの間まで、こんな顔だった)

  傘は「ばあ」と、あっかんべえをして見せた。蜘蛛やらゴキブリやら小鬼をぶら下げ、舌をだらりと垂らした、巨大なオンボロ傘が立ちはだかる。

  腰を抜かしたおれは、からからと大声で笑うお化け傘に引き摺られて、家に帰った。

  
『へんぐえ ~茜~』収録(2010年12月)
添付ファイル
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー