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ラブとマミ 終わらない約束!(後編)」(2014/05/20 (火) 21:48:39) の最新版変更点

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*ラブとマミ 終わらない約束!(後編) ◆LuuKRM2PEg ◆  数多の世界の情報が書かれている書籍が結集された、I-5エリアに建っていた図書館は既に跡形もなく消えている。代わりに残っているのは、半径数キロメートルの広さを持つクレーターだけだった。それが全て、たった三人だけの戦いによって引き起こされたと聞いても、誰一人として信じないかもしれない。しかし、紛れもない事実だった。 「……あ、ぐっ……!」  そしてその中央で、テッカマンランスはゆっくりと起きあがる。しかしその瞬間、全身に激痛が走って仮面の下で表情を顰めた。ランスはその手に握るテックグレイブを杖にして、足元がふらつきながらも立ち上がる。  すり鉢状に空いた穴の中で辺りを見渡すが、そこには誰もいない。ピーチと呼ばれていた小娘も、マミと呼ばれていた小娘も。  隠れて不意打ちを仕掛けようとしているのかと思ったが、気配は全く感じられなかった。 「この私が……ここまで追い込まれただと……!?」  地面の焼け焦げた匂いが鼻腔を刺激する中、ランスは怒りに震えた声を漏らす。完全無欠の存在と自負し、この世界に集められた蟻どもを捻り潰すつもりだった。だが実際は、たった二匹の小娘どもにあしらわれてしまう。  それが何よりも許せず、ランスはクレーターから跳び上がって捜したが、やはり誰もいない。逃げられたか、それともボルテッカによって吹き飛ばされたか。  だが、いなくなった以上は気にしても仕方がない。死んだのならそれでいいし、生きているのなら再び現れた時に始末すれば良いだけだ。あの傷ではどうせ長くは保たない。 「……くそっ、思いの外ダメージが大きいとは」  クレーターの外に出て、地面に着地しながら舌打ちする。すると全身を覆う鎧が発光し、モロトフの姿に戻った。今のコンディションは再び戦う分には問題ないが、今は少しでも楽になりたい。それを怠ってまた蟻どもに舐められては、たまったものではなかった。  思わず息を吐きながら、モロトフは戦いによって生まれたクレーターに目を向ける。普通に見れば深く、戦いの凄まじさを物語っているが結果に納得が出来なかった。 「やはりボルテッカの威力は抑えられてるか……やってくれるな、加頭よ」  全てのテッカマンの切り札とも呼べる、反粒子物質フェルミオンを原動力とした必殺光線ボルテッカ。それを浴びたらどんな存在だろうと、対消滅してしまう。もしもそれをここで撃ったら、被害はこれだけのクレーターを生むだけに留まらない。この島全てを軽く吹き飛ばせるはずだった。  認めるのは癪だが、加頭順が何かを施したのだろう。そうでなければ最初から戦いにはならず、一方的な蹂躙になるからだ。裏返して言えば自身を驚異的と見ているのだろうが、嬉しくとも何ともない。 「それにしても、プリキュアに魔法少女……か」  先程戦った小娘達が口にしていた言葉を、モロトフは思い出す。意味がまるで理解出来なかったが、今になって思えば恐らくテッカマンのような存在かもしれない。  当初は見くびっていてじっくり痛めつけてから殺すつもりだったが、そんな慢心を持っては勝てる相手ではなかった。テッカマンがこの地に五人も集められた事を考えると、プリキュアや魔法少女も何人かいるかもしれない。 「そんな愚か者どもは必ず私が殺してやろう……この手で一人残らず、な」  そう呟きながら、モロトフは当初の目的地である市街地を目指した。憎き裏切り者たるテッカマンブレード、相羽タカヤを見つけるために。 【一日目・早朝】 【I-5/焦土】 【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、強い苛立ち [装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード [道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0~2個(確認済) [思考] 基本:参加者及び主催者全て倒す。 1:市街地に移動して拡声器を使い、集った参加者達を排除。 2:ブレード(タカヤ)とはとりあえず戦わない。 3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。 4:キュアピーチ(本名を知らない)と巴マミの生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。 [備考] ※参戦時期は死亡後(第39話)です。 ※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。 ※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。 【全体備考】 ※戦いの影響により【I-5】エリアの大半は焦土となって【I-5 図書館】は跡形もなく消滅しました。また、巨大なクレーターが生まれています。 ◆ 「ピーチ……ピーチ……ピーチッ!」  巴マミは来た道を逆に戻るように駆け抜けている。ぐったりと倒れてしまったキュアピーチを両腕で抱えながら。  あの極光の中から弾き飛ばされた彼女を、これ以上傷つけたくない。もしもあそこからランスが現れたら、今度こそ殺されてしまう。だから奴の生死に関わらず、今は撤退するしかなかった。 「お願い……早く治って!」  そして彼女は、治癒の魔法をキュアピーチに施している。彼女の焼け焦げた皮膚はゆっくりとツヤを取り戻し、傷口が塞がれた。その度に、残り少ない魔力が減っていくのを感じる。  ランスとの戦闘でただでさえ魔法をたくさん使った上に、グリーフシードも手元になかった。本当ならマミ自身も体力を回復させたかったが、そんな余裕などない。ソウルジェムが壊れなかっただけでも、奇跡のようなものだった。  もっとも、もう長く保たないかもしれない。主催者が細工をしたのかソウルジェムの濁りがいつも以上に激しくなっていて、もしもこのまま魔法を使い続けると死ぬかもしれない。  だから今はキュアピーチを……桃園ラブを救うためにこの力を使う。今の状態でそんな事をしたら、どうなるかは分かっていた。 (鹿目さんに美樹さん、ごめんなさい……私、あなた達の事を助けられそうにないかも……佐倉さんや暁美さんも、どうか無事でいて)  マミはこの地に連れてこられた後輩、そして同じ魔法少女の無事を祈る。何の力も持たない鹿目まどかと美樹さやかを救って、同じ魔法少女の佐倉杏子や暁美ほむらと力を合わせたかった。でも、それは叶いそうにない。  せめて、テッカマンランスのような悪魔と出会わず、ラブのような心優しい人間と巡り会える事を信じるしかなかった。 (青乃さん、山吹さん、東さん、花咲さん、来海さん、明堂院さん、月影さん……どうか負けないで。桃園さんにはあなた達の力が必要だから)  ラブと共にプリキュアとして戦っている少女達に、マミは激励を送る。彼女達はまだ顔も知らない。しかしラブが信じているからには、優しさと勇気に満ちた素晴らしい人間である事は確信出来る。だからこんな不条理な殺し合いなんかで死んで欲しくないし、悪魔に屈して欲しくない。  何よりも、誰か一人でもいなくなってしまったら、ラブは悲しみに沈んでしまうかもしれなかった。だからマミは、プリキュア達が生きてこの殺し合いを妥当してくれる事を切に願う。 (桃園さん……ごめんなさい、私の一方的なエゴを押し付けて。でも、あなたには生きて欲しいの。あなたは、ここで死んでいい人じゃないから)  そして腕の中で横たわるキュアピーチを見て、マミの瞳から一筋の涙が零れた。  これからやろうとしている事は人助けだが、助けられる立場にある彼女はそれを望まないはず。むしろ自責の念に捕らわれたあげく、独りぼっちにさせてしまうだけ。  やっている事はただの自己満足でしかないのはわかっている。それでも、キュアピーチには生きていて欲しい。彼女ならばこの世界に希望を導いて、意味のわからない殺し合いを強いられた全ての人達を、救ってくれる強さを持っているのだから。 (……綺麗な太陽だなぁ、本当に)  不意にマミは、地平線の彼方より朝日が姿を現すのを見る。その光はまだ微々たるものだったが、いつも目にしている太陽よりもずっと輝いているように思えた。  これから闇に満ちた世界の全てを照らす輝き。それはここにいるみんなに降り注いで、今日という一日を生きる為の力にさせてくれるはずだった。その先に待つであろう、幸せな未来へ辿り着く為に。  プリキュアのみんなも、魔法少女のみんなも、平穏な毎日を生きるみんなも――誰一人として例外ではない。そんなささやかな幸せを、加頭順達は平気で踏み躙ったのだ。何故奴らがそんな事をするのかはわからないし、理解をしたくもない。そして、人々を不幸にするどんな魔女よりも許せなかった。 (もしも、桃園さんと違う形で出会えたら……私達、友達になれたかしら? 魔法少女でもプリキュアでもなく、普通の女の子同士として)  これから昇るであろう、眩い太陽の下で一緒に笑ってたかもしれない。そしてラブの友達みんなや、まどかとさやか達も誘って一緒に遊んでただろうか。  時にはみんなで勉強会をして、時には街へショッピングに行って、時には喧嘩をして、時には恋の悩みも聞く。あの交通事故の日からもう取り戻せなくなった、普通の生活を過ごしていたかもしれなかった。  無論、これは全て仮定の話で、いくら考えても意味がないのはわかっている。でも、最後にそんな夢だけは見ていたかった。 「キー……」  突然聞こえた小さな声にマミは振り向くと、ピルンを見つける。それはキュアピーチの力の源となっている、鍵のような姿をした妖精だった。  ピルンは何をしようとしているのかに気付いているのか、悲しそうな表情を浮かべながら全身を横に振っている。その仕草は一種の愛嬌を感じさせるが、それを見守っている暇はない。 「キー! キーッ!」 「……ごめんなさい。あなたを悲しませるようなことをしちゃって……でも、桃園さんを助けるにはこれしか方法がないの。桃園さんのこと、お願いね」 「キーッ! キーッ! キーッ!」  人の言葉を話せなくても、ピルンが必死に止めているのがわかった。ピルンもまた、一緒に戦ってきた彼女のように優しさに溢れている。それだけでも、後を任せられた。 「……んっ」  そして、求めていた声がようやく聞こえる。それこそが、最後にこの世の何よりも解決したかった疑問が、最高の形で解決した瞬間だった。  案の定振り向くと、腕の中で眠っていた彼女がようやく瞼を開けたのだ。 「マミ……さん?」 「気がついたのね! よかった……」  いつの間にか桃園ラブとしての姿に戻っている彼女に、マミは微笑む。無事を確認できて気が緩みそうになるが、それはほんの一瞬だけ。マミはすぐに己を奮い立たせた。  ラブの声は掠れているので、怪我は完全に治っていないのかもしれない。ならば少しでも万全に近づける必要があった。  そして、黄色く輝いていたソウルジェムのほとんどは黒い濁りに満ちている。恐らく、残された時間はもう少ない。ここで魔法を止めても、きっと助からないだろう。  自分はどれだけ無責任なんだろうと、マミは思わず自嘲した。ラブを支えると言っておきながら、結局はこんな体たらく。人一人すらもまともに守ることができていないどころか、後始末すらも他人に任せている。情けなさすぎて泣きたいくらいだったが、言わなければならない。 (最後の時間だけは……きっちり残ってるのね)  桃園ラブに向けた別れの言葉を。 ◆  体中の痛みが和らいできて、暖かくなってくるのを感じる。それはまるで布団の中で眠っているかのように、心地よかった。この感覚には覚えがある。小学校に入るもっと前、お父さんやお母さんと一緒に寝た時に感じた、気持ちよさだった。  できるならこのまま眠りたい衝動を抑え、桃園ラブは瞼を開ける。周囲が穏やかな光に包まれる中、巴マミが両手をこちらに向けているのが見えた。 「よかった……桃園さんが目を覚ましてくれて、本当によかった……!」 「マミさん……」  マミは瞳から止めどなく溢れてくる涙を片手で拭っている。どうやら、彼女をとても心配させてしまったようだった。  何から何まで、マミには迷惑をかけてばかりでいる。テッカマンランスとの戦いでは彼女を傷つけてばっかりで、今だって不安にさせていた。 「……ごめんなさい。あたし、マミさんの足を引っ張るだけじゃなく、あのランスって奴とも戦えなくて……」 「そんなことないわ。桃園さんがいてくれたから、私は戦えたのよ。さっきだって、もしも私一人だけだったらとっくに負けてたわ」  こんな時でもマミはこちらを決して責めずに、むしろ励ましてくれている。そんな彼女の優しさは嬉しかったが、素直に喜ぶことはできない。  マミを安心させようと起きあがろうとするがその直後、ラブの全身に激痛が走る。それが動くのを許さない。 「無理をしちゃ駄目、あなたの傷はまだ治ってないから大人しくして」 「あたしよりもマミさんは……マミさんだって怪我が……!」 「言ったはずよ、私のことは良いって」 「でも……!」  マミの手から感じられる暖かさは四肢に伝わっているから、傷を治す魔法をかけられている。そのおかげで痛みは和らいできているが、肝心のマミはダメージが残っているはずだった。  だから何とかしてやめさせたかったが、光は収まらない。 「それよりも、あなたにはそろそろ伝えなければいけないわ」 「伝えなければいけないって……何をですか?」 「お別れの言葉よ」 「……えっ?」  一瞬、マミが何を言ったのかまるで理解できなかった。そしてそれを言った彼女は、どことなく寂しげな笑顔を浮かべている。  数秒の時間が経過した後、ようやく口を開いたのはラブの方からだった。 「お別れの言葉って……何です、それ?」 「魔法を使いすぎたせいで、私のソウルジェムはもうほとんど真っ黒。それにグリーフシードもないし、もしかしたら私はもう……死ぬかもしれないわ」  すると、横たわるラブは頭を思いっきり殴りつけられたかのように、目の前が大きく揺れる。それも最初は意味がわからなかったが、波のように彼女の中を広がっていって、すぐに伝わった。 「だからお願いがあるの桃園さん……私の身勝手な我が儘だってのはわかるけど、どうかあなたは生きて」 「駄目です! そんなの駄目です! こんなこと……しちゃ駄目!」  やがてラブは瞳から涙が滲ませながら、マミの前で必死に首を横に振る。何とか行動を止めたかったが、光が収まる気配はない。 「あたしはもう大丈夫です……だから、今すぐやめてください! このままじゃ、マミさんは……!」 「いいえ、これは私の願いなの……こうして、私の力で桃園さんの命を繋ぐことが」 「マミさんの、願い……?」 「そうよ……桃園さん、あれを見て」  微笑むマミが指を差す方向に、ラブも振り向く。そこに見えるのは、地平線の彼方からゆっくりと昇ってくる太陽。その輝きはまだ控えめだったが、これからより強くなっていくのだ。 「今はまだ、太陽の輝きは弱いけど、これから強くなるのよ……でも、あの光を見られなくなった人達だっているかもしれないわ……私は、桃園さんにそうあって欲しくないの」 「でも、いくらあたしだけが助かったって、マミさんがいなくなったら意味がないじゃないですか……!」 「いいえ、意味ならあるわ」  光を帯びたマミの両手は、ゆっくりとラブの両手を握り締める。 「私が本当に怖いのは、このまま誰も救えずに私という存在が消えてしまうこと……でも、桃園さんが生きてくれていたら、私がこの世界で生きていた証を残せるの」 「生きていた……証?」 「そうよ。私が桃園さんの命を繋いで、桃園さんが他のみんなの命を繋ぐ……そして、平和になった世界でみんなが笑っていられれば、私は何の悔いもないわ」 「マミさんはそれでいいんですか……!? 誰かが犠牲になる平和なんて、本当の平和じゃないです!」 「犠牲なんかじゃないわ。桃園さんがいてくれる限り、私の心は桃園さんの中でいつまでも生き続けるの……あなたが生きて感じる幸せが、私の幸せにもなるの。そこからあなたと私はたくさんの幸せを生んで……いつか、他のみんなに広がる時が来るはずよ。だって、みんなに幸せと希望をもたらすのが、プリキュアと魔法少女の使命だから」  まるで泣いた子どもを慰める母親のように、マミはひたすら優しく語り続けた。 『今のあなたは誰? 桃園ラブじゃない……キュアピーチでしょ!』  そして、かつておもちゃの国でトイマジンの中にウサピョンを見つけて、戦えなくなった時にキュアベリーとなった美希に言われた言葉を、思い出す。 『だったらプリキュアとして今すべきことをして! 中途半端は許さないから!』  プリキュアとして、奪われた子ども達のおもちゃを取り戻すと約束した。みんなの笑顔と幸せを守りたいなら、途中で倒れるなんて絶対に許されないと美希は言ってくれた。  あの時の美希みたいに、マミも奮い立たせようとしている。ここで我が儘を言っては、彼女の思いを無駄にすること他ならない。 「……わかりました」  だからラブは、未だに見える星々と太陽が清楚な輝きを放つ中、約束をする。溢れ出る涙を拭って、心からの笑顔を向けた。 「マミさんの目指していた、みんなが心から幸せになれる世界……絶対に作って、その後に魔女って奴らと戦うって約束します! それにまどかちゃんやさやかちゃん、杏子ちゃんにほむらちゃんも……あたしが絶対に助けますから! だから、だから……マミさんも諦めないで! マミさんがいなくなったら、みんな悲しむから……!」  人々に希望をもたらすのは、プリキュアも魔法少女も何一つ変わらない。マミは全ての魔法少女がそうではないと言っていたが、ラブはどうしてもそう思えなかった。だって、絶望をまき散らす魔女を倒して、誰かの幸せを守っているのだから。  だから、そんな魔法少女の一人であるマミはここで倒れてはいけない。彼女のような気高き人間こそが、生きなければならないのだ。 「そっか。ああ――安心したわ」  そんなラブに答えるようにマミもまた、心の底から安堵したような笑顔を見せる。  そして、彼女の手に纏われていた穏やかな光輝は収まり、いつの間にか体中に伝わる痛みは全て消えていた。 「桃園さんがそう約束してくれるなら……私も幸せよ。その約束、絶対に忘れないでね」 「当然ですよ! だって、マミさんはわたしのことを助けてくれたから……約束は守らないと!」 「……できるならもっとあなたと一緒にいたかったけど、残念ね。でも、私に悔いはないわ。だって、桃園さんみたいな素敵な人と出会えて……最後にこうして約束を交わせたから!」 「最後なんかじゃありません! これからも一緒にいましょうよ! 今からでも急いでグリーフシードって奴を見つけて……今後はマミさんを助ける番です!」 「……その言葉だけでも私は救われたわ。あなたのその真っ直ぐな気持ち、いつまでも失わないでね……これも、約束出来る?」 「約束します! 絶対に約束しますから! だから……生きてください! マミさん!」  ようやく起きあがったラブは、マミを再び抱きしめる。  こんなにも立派な彼女を失って欲しくない、こんなにも強い彼女がいなくなって欲しくない。そして、こんなにも優しい彼女には幸せになって欲しかった。  様々な思いが渦巻く中、尊敬する魔法少女と目線を合わせる。そこにいるマミの笑っている顔は、とても明るかった。 「……ありがとう!」  こんなにも素敵な笑顔を犠牲になんかしたくない。だから今からでも、マミを助けるために動きたかった。平和になった世界には、マミだっていなければ駄目だから。  しかし、そう願った矢先に、パリンと何かが割れる音が聞こえる。その音源は漆黒に染まったソウルジェムだった。  その直後、マミの身体がぐらりと揺れる。そのまま力無く倒れていく彼女を、ラブは反射的に支えた。すると魔法少女のコスチュームはほんの一瞬で、元の学生服に戻ってしまう。 「マ、マミ……さん?」  力なく横たわるマミはあの笑顔を保ったまま、瞼を閉じている。それはとても穏やかな顔だったが、ラブは見ても全く安心することができない。それどころか、不安しかなかった。 「ねえ、マミさん……起きてくださいよ……どうしたんですか」  だからマミの身体をゆっくりと揺さぶって呼びかけるが、なにも返ってこない。何度も繰り返すが、結果は同じだった。  この光景にラブは見覚えがある。ずっと前、まだせつながイースだった頃に一対一で戦って互いの思いをぶつけた。その後に、せつなも今のマミと同じように倒れてしまうが、アカルンのおかげでキュアパッションとして生まれ変われている。  だが、今のマミを救ってくれる奇跡など、何一つとしてなかった。 「マミさん……マミさん……マミさん……ッ!」  今まで必死に押さえていた感情が、胸の奥底より一気に湧き上がる。そして、先程拭ったはずの涙が再び溢れ出てきた。  何とかしてマミの両手を握り締めるが、さっきと比べて冷たくなっている。その意味を理解できないほど、ラブは無知ではなかった。しかし、認めるのを拒んでいる。  瞳から頬を伝って流れる涙は、まるで雨粒のようにマミの身体に零れ落ちた。もしも、この悲しみや苦しみも一緒に洗い流してくれるのなら、どれだけ楽だったか。  しかし、現実はただひたすら彼女を責め続ける。巴マミが死んでしまったという、一切の救いのない現実が。 「あ、ああ、あ……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  ラブはひたすら慟哭するが、それは誰にも届かない。仲間であるプリキュア達にも、信頼を寄せている魔法少女達にも、テッカマンランスのような殺し合いに乗った者達にも。誰にも届くことはなく、空しく響くだけだった。  どれだけ泣いても涙が枯れることはなく、悲しみが吹き飛ぶことはない。そして何かが変わることもなく、世界はただそのままの形を保っていた。 ◆  どれくらいの時間が経ったのかは全くわからず、どれくらいの涙を流したのかは全く覚えていない。しかし桃園ラブにとって、それはどうでもいいことだった。  彼女は目の前で、不自然に盛り上がっている土をぼんやりと見つめている。どうやったのかはあまり覚えていないが、その下で巴マミが眠っているのだけはわかった。  それは墓石もなくて、墓と呼ぶには粗末すぎる代物だったが今のラブにはこれだけが精一杯。 「マミさん、ごめんなさい……あたしが弱いせいで……」  彼女は項垂れながら、届かないと知っていても弱々しく謝る。  自分にもっと力があれば、マミを失うことはなかった。今まで多くの人を助けられたように、マミだって助けられたはずだった。  こんな体たらくではプリキュアのみんなに合わせる顔がない。 「……マミさん、改めて約束します」  しかしそれでも彼女は立ち上がる。どれだけ苦しくても悲しくても、挫けている場合ではなかった。  溢れ出した涙を拭って、彼女は凛然とした表情を向ける。 「例えどれだけ辛いことがあっても……あたしは絶対に諦めませんから。マミさんみたいに、マミさんの分まで立派な正義の味方として戦ってみせます。それにこんなことに巻き込まれたみんなを……絶対に助けますから! だからマミさんは……ゆっくり休んでてください」  その誓いを支えにして、ラブは己を奮い立たせた。この命を救うために全てを尽くしてくれたマミの思いを無駄にしないためにも。  これまで乗り越えてきたどんな戦いよりも辛くなる。そもそも、自分が生きていられるかどうかすらもわからない。それでも、諦めることも負けることも許されなかった。  罪のない大勢の人達を、これ以上見捨てないためにも。 『もしかしたらこの先、あなたにとって辛い事が数え切れないほど起こるかもしれないわ……あなたの理想を裏切るような辛い事が。でも、そうなっても決して絶望しないで。あなたの助けを待っている人は大勢いるはずだから』  脳裏に蘇るのは約束の言葉。それがある限り、ラブは決して絶望しない。  どんなに辛い道が待ちかまえていようとも、どんなに高い壁が立ちはだかっていようとも、この誓いがある限りは桃園ラブは倒れなかった。  ――巴マミとの終わらない約束がある限り。 【1日目/早朝】 【I-3】 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:精神的疲労(大)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、巴マミのランダム支給品1~2 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 0:マミさん…… 1:マミさんの意志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 2:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 3:マミさんの知り合いを助けたい。ほむらもできるなら信じていたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 4:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、マミ)への罪悪感。 5:ノーザとダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)には気をつける。 [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 &color(red){【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】} &color(red){【残り59人】} ※巴マミの遺体は【I-3】エリアに埋葬されました。 ※ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカは崩壊しました。 *時系列順で読む Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]Next:[[願い]] *投下順で読む Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]Next:[[願い]] |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[桃園ラブ]]|Next:[[野望のさらにその先へ]]| |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[巴マミ]]|COLOR(RED):GAME OVER| |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[モロトフ]]|Next:[[すべてをFにする男/友に心の花束を]]| ----
*ラブとマミ 終わらない約束!(後編) ◆LuuKRM2PEg ◆  数多の世界の情報が書かれている書籍が結集された、I-5エリアに建っていた図書館は既に跡形もなく消えている。代わりに残っているのは、半径数キロメートルの広さを持つクレーターだけだった。それが全て、たった三人だけの戦いによって引き起こされたと聞いても、誰一人として信じないかもしれない。しかし、紛れもない事実だった。 「……あ、ぐっ……!」  そしてその中央で、テッカマンランスはゆっくりと起きあがる。しかしその瞬間、全身に激痛が走って仮面の下で表情を顰めた。ランスはその手に握るテックグレイブを杖にして、足元がふらつきながらも立ち上がる。  すり鉢状に空いた穴の中で辺りを見渡すが、そこには誰もいない。ピーチと呼ばれていた小娘も、マミと呼ばれていた小娘も。  隠れて不意打ちを仕掛けようとしているのかと思ったが、気配は全く感じられなかった。 「この私が……ここまで追い込まれただと……!?」  地面の焼け焦げた匂いが鼻腔を刺激する中、ランスは怒りに震えた声を漏らす。完全無欠の存在と自負し、この世界に集められた蟻どもを捻り潰すつもりだった。だが実際は、たった二匹の小娘どもにあしらわれてしまう。  それが何よりも許せず、ランスはクレーターから跳び上がって捜したが、やはり誰もいない。逃げられたか、それともボルテッカによって吹き飛ばされたか。  だが、いなくなった以上は気にしても仕方がない。死んだのならそれでいいし、生きているのなら再び現れた時に始末すれば良いだけだ。あの傷ではどうせ長くは保たない。 「……くそっ、思いの外ダメージが大きいとは」  クレーターの外に出て、地面に着地しながら舌打ちする。すると全身を覆う鎧が発光し、モロトフの姿に戻った。今のコンディションは再び戦う分には問題ないが、今は少しでも楽になりたい。それを怠ってまた蟻どもに舐められては、たまったものではなかった。  思わず息を吐きながら、モロトフは戦いによって生まれたクレーターに目を向ける。普通に見れば深く、戦いの凄まじさを物語っているが結果に納得が出来なかった。 「やはりボルテッカの威力は抑えられてるか……やってくれるな、加頭よ」  全てのテッカマンの切り札とも呼べる、反粒子物質フェルミオンを原動力とした必殺光線ボルテッカ。それを浴びたらどんな存在だろうと、対消滅してしまう。もしもそれをここで撃ったら、被害はこれだけのクレーターを生むだけに留まらない。この島全てを軽く吹き飛ばせるはずだった。  認めるのは癪だが、加頭順が何かを施したのだろう。そうでなければ最初から戦いにはならず、一方的な蹂躙になるからだ。裏返して言えば自身を驚異的と見ているのだろうが、嬉しくとも何ともない。 「それにしても、プリキュアに魔法少女……か」  先程戦った小娘達が口にしていた言葉を、モロトフは思い出す。意味がまるで理解出来なかったが、今になって思えば恐らくテッカマンのような存在かもしれない。  当初は見くびっていてじっくり痛めつけてから殺すつもりだったが、そんな慢心を持っては勝てる相手ではなかった。テッカマンがこの地に五人も集められた事を考えると、プリキュアや魔法少女も何人かいるかもしれない。 「そんな愚か者どもは必ず私が殺してやろう……この手で一人残らず、な」  そう呟きながら、モロトフは当初の目的地である市街地を目指した。憎き裏切り者たるテッカマンブレード、相羽タカヤを見つけるために。 【一日目・早朝】 【I-5/焦土】 【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、強い苛立ち [装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード [道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0~2個(確認済) [思考] 基本:参加者及び主催者全て倒す。 1:市街地に移動して拡声器を使い、集った参加者達を排除。 2:ブレード(タカヤ)とはとりあえず戦わない。 3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。 4:キュアピーチ(本名を知らない)と巴マミの生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。 [備考] ※参戦時期は死亡後(第39話)です。 ※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。 ※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。 【全体備考】 ※戦いの影響により【I-5】エリアの大半は焦土となって【I-5 図書館】は跡形もなく消滅しました。また、巨大なクレーターが生まれています。 ◆ 「ピーチ……ピーチ……ピーチッ!」  巴マミは来た道を逆に戻るように駆け抜けている。ぐったりと倒れてしまったキュアピーチを両腕で抱えながら。  あの極光の中から弾き飛ばされた彼女を、これ以上傷つけたくない。もしもあそこからランスが現れたら、今度こそ殺されてしまう。だから奴の生死に関わらず、今は撤退するしかなかった。 「お願い……早く治って!」  そして彼女は、治癒の魔法をキュアピーチに施している。彼女の焼け焦げた皮膚はゆっくりとツヤを取り戻し、傷口が塞がれた。その度に、残り少ない魔力が減っていくのを感じる。  ランスとの戦闘でただでさえ魔法をたくさん使った上に、グリーフシードも手元になかった。本当ならマミ自身も体力を回復させたかったが、そんな余裕などない。ソウルジェムが壊れなかっただけでも、奇跡のようなものだった。  もっとも、もう長く保たないかもしれない。主催者が細工をしたのかソウルジェムの濁りがいつも以上に激しくなっていて、もしもこのまま魔法を使い続けると死ぬかもしれない。  だから今はキュアピーチを……桃園ラブを救うためにこの力を使う。今の状態でそんな事をしたら、どうなるかは分かっていた。 (鹿目さんに美樹さん、ごめんなさい……私、あなた達の事を助けられそうにないかも……佐倉さんや暁美さんも、どうか無事でいて)  マミはこの地に連れてこられた後輩、そして同じ魔法少女の無事を祈る。何の力も持たない鹿目まどかと美樹さやかを救って、同じ魔法少女の佐倉杏子や暁美ほむらと力を合わせたかった。でも、それは叶いそうにない。  せめて、テッカマンランスのような悪魔と出会わず、ラブのような心優しい人間と巡り会える事を信じるしかなかった。 (蒼乃さん、山吹さん、東さん、花咲さん、来海さん、明堂院さん、月影さん……どうか負けないで。桃園さんにはあなた達の力が必要だから)  ラブと共にプリキュアとして戦っている少女達に、マミは激励を送る。彼女達はまだ顔も知らない。しかしラブが信じているからには、優しさと勇気に満ちた素晴らしい人間である事は確信出来る。だからこんな不条理な殺し合いなんかで死んで欲しくないし、悪魔に屈して欲しくない。  何よりも、誰か一人でもいなくなってしまったら、ラブは悲しみに沈んでしまうかもしれなかった。だからマミは、プリキュア達が生きてこの殺し合いを妥当してくれる事を切に願う。 (桃園さん……ごめんなさい、私の一方的なエゴを押し付けて。でも、あなたには生きて欲しいの。あなたは、ここで死んでいい人じゃないから)  そして腕の中で横たわるキュアピーチを見て、マミの瞳から一筋の涙が零れた。  これからやろうとしている事は人助けだが、助けられる立場にある彼女はそれを望まないはず。むしろ自責の念に捕らわれたあげく、独りぼっちにさせてしまうだけ。  やっている事はただの自己満足でしかないのはわかっている。それでも、キュアピーチには生きていて欲しい。彼女ならばこの世界に希望を導いて、意味のわからない殺し合いを強いられた全ての人達を、救ってくれる強さを持っているのだから。 (……綺麗な太陽だなぁ、本当に)  不意にマミは、地平線の彼方より朝日が姿を現すのを見る。その光はまだ微々たるものだったが、いつも目にしている太陽よりもずっと輝いているように思えた。  これから闇に満ちた世界の全てを照らす輝き。それはここにいるみんなに降り注いで、今日という一日を生きる為の力にさせてくれるはずだった。その先に待つであろう、幸せな未来へ辿り着く為に。  プリキュアのみんなも、魔法少女のみんなも、平穏な毎日を生きるみんなも――誰一人として例外ではない。そんなささやかな幸せを、加頭順達は平気で踏み躙ったのだ。何故奴らがそんな事をするのかはわからないし、理解をしたくもない。そして、人々を不幸にするどんな魔女よりも許せなかった。 (もしも、桃園さんと違う形で出会えたら……私達、友達になれたかしら? 魔法少女でもプリキュアでもなく、普通の女の子同士として)  これから昇るであろう、眩い太陽の下で一緒に笑ってたかもしれない。そしてラブの友達みんなや、まどかとさやか達も誘って一緒に遊んでただろうか。  時にはみんなで勉強会をして、時には街へショッピングに行って、時には喧嘩をして、時には恋の悩みも聞く。あの交通事故の日からもう取り戻せなくなった、普通の生活を過ごしていたかもしれなかった。  無論、これは全て仮定の話で、いくら考えても意味がないのはわかっている。でも、最後にそんな夢だけは見ていたかった。 「キー……」  突然聞こえた小さな声にマミは振り向くと、ピルンを見つける。それはキュアピーチの力の源となっている、鍵のような姿をした妖精だった。  ピルンは何をしようとしているのかに気付いているのか、悲しそうな表情を浮かべながら全身を横に振っている。その仕草は一種の愛嬌を感じさせるが、それを見守っている暇はない。 「キー! キーッ!」 「……ごめんなさい。あなたを悲しませるようなことをしちゃって……でも、桃園さんを助けるにはこれしか方法がないの。桃園さんのこと、お願いね」 「キーッ! キーッ! キーッ!」  人の言葉を話せなくても、ピルンが必死に止めているのがわかった。ピルンもまた、一緒に戦ってきた彼女のように優しさに溢れている。それだけでも、後を任せられた。 「……んっ」  そして、求めていた声がようやく聞こえる。それこそが、最後にこの世の何よりも解決したかった疑問が、最高の形で解決した瞬間だった。  案の定振り向くと、腕の中で眠っていた彼女がようやく瞼を開けたのだ。 「マミ……さん?」 「気がついたのね! よかった……」  いつの間にか桃園ラブとしての姿に戻っている彼女に、マミは微笑む。無事を確認できて気が緩みそうになるが、それはほんの一瞬だけ。マミはすぐに己を奮い立たせた。  ラブの声は掠れているので、怪我は完全に治っていないのかもしれない。ならば少しでも万全に近づける必要があった。  そして、黄色く輝いていたソウルジェムのほとんどは黒い濁りに満ちている。恐らく、残された時間はもう少ない。ここで魔法を止めても、きっと助からないだろう。  自分はどれだけ無責任なんだろうと、マミは思わず自嘲した。ラブを支えると言っておきながら、結局はこんな体たらく。人一人すらもまともに守ることができていないどころか、後始末すらも他人に任せている。情けなさすぎて泣きたいくらいだったが、言わなければならない。 (最後の時間だけは……きっちり残ってるのね)  桃園ラブに向けた別れの言葉を。 ◆  体中の痛みが和らいできて、暖かくなってくるのを感じる。それはまるで布団の中で眠っているかのように、心地よかった。この感覚には覚えがある。小学校に入るもっと前、お父さんやお母さんと一緒に寝た時に感じた、気持ちよさだった。  できるならこのまま眠りたいけど、その衝動を抑えた桃園ラブは瞼を開ける。周囲が穏やかな光に包まれる中、巴マミが両手をこちらに向けているのが見えた。 「よかった……桃園さんが目を覚ましてくれて、本当によかった……!」 「マミさん……」  マミは瞳から止めどなく溢れてくる涙を片手で拭っている。どうやら、彼女をとても心配させてしまったようだった。  何から何まで、マミには迷惑をかけてばかりでいる。テッカマンランスとの戦いでは彼女を傷つけてばっかりで、今だって不安にさせていた。 「……ごめんなさい。あたし、マミさんの足を引っ張るだけじゃなく、あのランスって奴とも戦えなくて……」 「そんなことないわ。桃園さんがいてくれたから、私は戦えたのよ。さっきだって、もしも私一人だけだったらとっくに負けてたわ」  こんな時でもマミはこちらを決して責めずに、むしろ励ましてくれている。そんな彼女の優しさは嬉しかったが、素直に喜ぶことはできない。  マミを安心させようと起きあがろうとするがその直後、ラブの全身に激痛が走る。 「無理をしちゃ駄目、あなたの傷はまだ治ってないから大人しくして」 「あたしよりもマミさんは……マミさんだって怪我が……!」 「言ったはずよ、私のことは良いって」 「でも……!」  マミの手から感じられる暖かさは四肢に伝わっているから、傷を治す魔法をかけられている。そのおかげで痛みは和らいできているが、肝心のマミはダメージが残っているはずだった。  だから何とかしてやめさせたかったが、光は収まらない。 「それよりも、あなたにはそろそろ伝えなければいけないわ」 「伝えなければいけないって……何をですか?」 「お別れの言葉よ」 「……えっ?」  一瞬、マミが何を言ったのかまるで理解できなかった。そしてそれを言った彼女は、どことなく寂しげな笑顔を浮かべている。  数秒の時間が経過した後、ようやく口を開いたのはラブの方からだった。 「お別れの言葉って……何です、それ?」 「魔法を使いすぎたせいで、私のソウルジェムはもうほとんど真っ黒。それにグリーフシードもないし、もしかしたら私はもう……死ぬかもしれないわ」  すると、横たわるラブは頭を思いっきり殴りつけられたかのように、目の前が大きく揺れる。それも最初は理解できなかったが、波のように彼女の中を広がっていった。 「だからお願いがあるの桃園さん……私の身勝手な我が儘だってのはわかるけど、どうかあなたは生きて」 「駄目です! そんなの駄目です! こんなこと……しちゃ駄目!」  やがてラブは瞳から涙が滲ませながら、マミの前で必死に首を横に振る。何とか行動を止めたかったが、光が収まる気配はない。 「あたしはもう大丈夫です……だから、今すぐやめてください! このままじゃ、マミさんは……!」 「いいえ、これは私の願いなの……こうして、私の力で桃園さんの命を繋ぐことが」 「マミさんの、願い……?」 「そうよ……桃園さん、あれを見て」  微笑むマミが指を差す方向に、ラブも振り向く。そこに見えるのは、地平線の彼方からゆっくりと昇ってくる太陽。その輝きはまだ控えめだったが、これからより強くなっていくのだ。 「今はまだ、太陽の輝きは弱いけど、これから強くなるのよ……でも、あの光を見られなくなった人達だっているかもしれないわ……私は、桃園さんにそうあって欲しくないの」 「でも、いくらあたしだけが助かったって、マミさんがいなくなったら意味がないじゃないですか……!」 「いいえ、意味ならあるわ」  光を帯びたマミの両手は、ゆっくりとラブの両手を握り締める。 「私が本当に怖いのは、このまま誰も救えずに私という存在が消えてしまうこと……でも、桃園さんが生きてくれていたら、私がこの世界で生きていた証を残せるの」 「生きていた……証?」 「そうよ。私が桃園さんの命を繋いで、桃園さんが他のみんなの命を繋ぐ……そして、平和になった世界でみんなが笑っていられれば、私は何の悔いもないわ」 「マミさんはそれでいいんですか……!? 誰かが犠牲になる平和なんて、本当の平和じゃないです!」 「犠牲なんかじゃないわ。桃園さんがいてくれる限り、私の心は桃園さんの中でいつまでも生き続けるの……あなたが生きて感じる幸せが、私の幸せにもなるの。そこからあなたと私はたくさんの幸せを生んで……いつか、他のみんなに広がる時が来るはずよ。だって、みんなに幸せと希望をもたらすのが、プリキュアと魔法少女の使命だから」  まるで泣いた子どもを慰める母親のように、マミはひたすら優しく語り続けた。 『今のあなたは誰? 桃園ラブじゃない……キュアピーチでしょ!』  そして、かつておもちゃの国でトイマジンの中にウサピョンを見つけて、戦えなくなった時にキュアベリーとなった美希に言われた言葉を、思い出す。 『だったらプリキュアとして今すべきことをして! 中途半端は許さないから!』  プリキュアとして、奪われた子ども達のおもちゃを取り戻すと約束した。みんなの笑顔と幸せを守りたいなら、途中で倒れるなんて絶対に許されないと美希は言ってくれた。  あの時の美希みたいに、マミも奮い立たせようとしている。ここで我が儘を言っては、彼女の想いを無駄にすること他ならない。 「……わかりました」  だからラブは、未だに見える星々と太陽が清楚な輝きを放つ中、約束をする。溢れ出る涙を拭って、心からの笑顔を向けた。 「マミさんの目指していた、みんなが心から幸せになれる世界……絶対に作って、その後に魔女って奴らと戦うって約束します! それにまどかちゃんやさやかちゃん、杏子ちゃんにほむらちゃんも……あたしが絶対に助けますから! だから、だから……マミさんも諦めないで! マミさんがいなくなったら、みんな悲しむから……!」  人々に希望をもたらすのは、プリキュアも魔法少女も何一つ変わらない。マミは全ての魔法少女がそうではないと言っていたが、ラブはどうしてもそう思えなかった。だって、絶望をまき散らす魔女を倒して、誰かの幸せを守っているのだから。  だから、そんな魔法少女の一人であるマミはここで倒れてはいけない。彼女のような気高き人間こそが、生きなければならないのだ。 「そっか。ああ――安心したわ」  そんなラブに答えるようにマミもまた、心の底から安堵したような笑顔を見せる。  そして、彼女の手に纏われていた穏やかな光輝は収まり、いつの間にか体中に伝わる痛みは全て消えていた。 「桃園さんがそう約束してくれるなら……私も幸せよ。その約束、絶対に忘れないでね」 「当然ですよ! だって、マミさんはわたしのことを助けてくれたから……約束は守らないと!」 「……できるならもっとあなたと一緒にいたかったけど、残念ね。でも、私に悔いはないわ。だって、桃園さんみたいな素敵な人と出会えて……最後にこうして約束を交わせたから!」 「最後なんかじゃありません! これからも一緒にいましょうよ! 今からでも急いでグリーフシードって奴を見つけて……今後はマミさんを助ける番です!」 「……その言葉だけでも私は救われたわ。あなたのその真っ直ぐな気持ち、いつまでも失わないでね……これも、約束出来る?」 「約束します! 絶対に約束しますから! だから……生きてください! マミさん!」  ようやく起きあがったラブは、マミを再び抱きしめる。  こんなにも立派な彼女を失って欲しくない、こんなにも強い彼女がいなくなって欲しくない。そして、こんなにも優しい彼女には幸せになって欲しかった。  様々な思いが渦巻く中、尊敬する魔法少女と目線を合わせる。そこにいるマミの笑顔は、とても明るかった。 「……ありがとう!」  こんなにも素敵な笑顔を犠牲になんかしたくない。だから今からでも、マミを助けるために動きたかった。平和になった世界には、マミだっていなければ駄目だから。  しかし、そう願った矢先に、パリンと何かが割れる音が聞こえる。その音源は漆黒に染まったソウルジェムだった。  その直後、マミの身体がぐらりと揺れる。そのまま力無く倒れていく彼女を、ラブは反射的に支えた。すると魔法少女のコスチュームはほんの一瞬で、元の学生服に戻ってしまう。 「マ、マミ……さん?」  力なく横たわるマミは優しい笑顔を保ったまま、瞼を閉じている。それはとても穏やかだったが、ラブは全く安心することができない。それどころか、不安しか湧き上がらなかった。 「ねえ、マミさん……起きてくださいよ……どうしたんですか」  だからマミの身体をゆっくりと揺さぶって呼びかけるが、なにも返ってこない。何度も繰り返すが、結果は同じだった。  この光景にラブは見覚えがある。ずっと前、まだせつながイースだった頃に一対一で戦って互いの想いをぶつけた。その後に、せつなも今のマミと同じように倒れてしまうが、アカルンのおかげでキュアパッションとして生まれ変われている。  だが、今のマミを救ってくれる奇跡など、何一つとしてなかった。 「マミさん……マミさん……マミさん……ッ!」  今まで必死に押さえていた感情が、胸の奥底より一気に湧き上がる。そして、先程拭ったはずの涙が再び溢れ出てきた。  何とかしてマミの両手を握り締めるが、さっきと比べて冷たくなっている。その意味を理解できないほど、ラブは無知ではなかった。しかし、認めるのを拒んでいる。  瞳から頬を伝って流れる涙は、まるで雨粒のようにマミの身体に零れ落ちた。もしも、この悲しみや苦しみも一緒に洗い流してくれるのなら、どれだけ楽だったか。  しかし、現実はただひたすら彼女を責め続ける。巴マミが死んでしまったという、一切の救いのない現実が。 「あ、ああ、あ……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  ラブはひたすら慟哭するが、それは誰にも届かない。仲間であるプリキュア達にも、信頼を寄せている魔法少女達にも、テッカマンランスのような殺し合いに乗った者達にも。誰にも届くことはなく、空しく響くだけだった。  どれだけ泣いても涙が枯れることはなく、悲しみが吹き飛ぶことはない。そして何かが変わることもなく、世界はただそのままの形を保っていた。 ◆  どれくらいの時間が経ったのかは全くわからず、どれくらいの涙を流したのかは全く覚えていない。しかし桃園ラブにとって、それはどうでもいいことだった。  彼女は目の前で、不自然に盛り上がっている土をぼんやりと見つめている。どうやったのかはあまり覚えていないが、その下で巴マミが眠っているのだけはわかった。  それは墓石もなくて、墓と呼ぶには粗末すぎる代物だったが今のラブにはこれだけが精一杯。 「マミさん、ごめんなさい……あたしが弱いせいで……」  彼女は項垂れながら、届かないと知っていても弱々しく謝る。  自分にもっと力があれば、マミを失うことはなかった。今まで多くの人を助けられたように、マミだって助けられたはずだった。  こんな体たらくではプリキュアのみんなに合わせる顔がない。 「……マミさん、改めて約束します」  しかしそれでも彼女は立ち上がる。どれだけ苦しくても悲しくても、挫けている場合ではなかった。  溢れ出した涙を拭って、彼女は凛然とした表情を向ける。 「例えどれだけ辛いことがあっても……あたしは絶対に諦めませんから。マミさんみたいに、マミさんの分まで立派な正義の味方として戦ってみせます。それにこんなことに巻き込まれたみんなを……絶対に助けますから! だからマミさんは……ゆっくり休んでてください」  その誓いを支えにして、ラブは己を奮い立たせた。この命を救うために全てを尽くしてくれたマミの想いを無駄にしないためにも。  これまで乗り越えてきたどんな戦いよりも辛くなる。そもそも、自分が生きていられるかどうかすらもわからない。それでも、諦めることも負けることも許されなかった。  罪のない大勢の人達を、これ以上見捨てないためにも。 『もしかしたらこの先、あなたにとって辛い事が数え切れないほど起こるかもしれないわ……あなたの理想を裏切るような辛い事が。でも、そうなっても決して絶望しないで。あなたの助けを待っている人は大勢いるはずだから』  脳裏に蘇るのは約束の言葉。それがある限り、ラブは決して絶望しない。  どんなに辛い道が待ちかまえていようとも、どんなに高い壁が立ちはだかっていようとも、この誓いがある限りは桃園ラブは倒れなかった。  ――巴マミとの終わらない約束がある限り。 【1日目/早朝】 【I-3】 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:精神的疲労(大)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、巴マミのランダム支給品1~2 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 0:マミさん…… 1:マミさんの意志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 2:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 3:マミさんの知り合いを助けたい。ほむらもできるなら信じていたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 4:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、マミ)への罪悪感。 5:ノーザとダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)には気をつける。 [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 &color(red){【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】} &color(red){【残り59人】} ※巴マミの遺体は【I-3】エリアに埋葬されました。 ※ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカは崩壊しました。 *時系列順で読む Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]Next:[[願い]] *投下順で読む Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]Next:[[願い]] |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[桃園ラブ]]|Next:[[野望のさらにその先へ]]| |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[巴マミ]]|COLOR(RED):GAME OVER| |Back:[[ラブとマミ 終わらない約束!(中編)]]|[[モロトフ]]|Next:[[すべてをFにする男/友に心の花束を]]| ----

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