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変身超人大戦・危機」(2013/03/14 (木) 22:43:38) の最新版変更点

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*変身超人大戦・危機  ◆LuuKRM2PEg 「なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……!?」 「私の名前を、知ってるんですか……?」 「なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……!?」  なのはは問いかけるが少女は答えず、まるで壊れたテープレコーダーのように名前を呟きながら、よろよろと後退した。 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……」 「君、しっかりする……ッ!」 「あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、知ってる、知らない、知ってる、知らない、思い出せない、誰、なのはさんって、誰、わからない、なのはさん、あこがれてる、なのはさん、目標、どうして、どうして、どうして、どうして、わからない、わからない、わからない、教えて、教えて、教えて、教えて……」  ふらつく少女を再び支えようとした猛の言葉は続かない。  少女は両手で頭を抱えながら俯いて、壊れたように言葉を発した。常軌を逸したその行為に意味や理性など感じられず、狂っているようにも、何かに迷っているようにも見える。  少なくとも、ただごとではないのはなのはも理解できた。何故彼女が自分の名前を知っているのかは気になるが、今はどうでもいい。  そう思った頃には、いつの間にか少女の口は止まっていた。どうなっているのかはわからないが、これはまたとないチャンス。  なのははもう一度声をかけようとした。 「……そっか、そういうことですか」  その呟きと共に、彼女は勢いよく顔を上げる。  少女が今作っている表情は、これまでとは一線を画しているように笑っていた。それも穏やかさや優しさは全く含まれておらず、薄気味悪さしかなのはは感じなかった。 「みぃんな、食べちゃえばいいんですね……楽しい、ご飯の時間だ」  そう言ってゆっくりと立ち上がった少女の背中から大量の蔦が、音の速度で飛び出してくる。それは少女の全身にほんの一瞬で絡みついて、自分の意志を持っているかのように蠢いた。  一体何が起こっているのか? そう思った頃には、がしりと腕を強く掴まれる。びくりと身体を大きく振るわせながら振り向くと、流ノ介が鬼気迫る表情を浮かべているのが見えた。 「ホテルの外に走るぞ、急げ!」  答える暇もなく、腕を引っ張られながら走るのを余儀なくされた。  なのはが足を無理矢理動かしている中、他の四人もホテルに向かって走る音が聞こえる。だからなのはも、反射的に走る勢いを上げた。  置き去りにされた少女がいる場所から、何やら耳障りな音が聞こえてくる。肉や骨が磨り潰されてるような、鼓膜に捉えただけで吐き気を促すような音が。  だからなのはは走る。振り向くことも止まることもしないで、流ノ介の腕を必死に掴みながら走る。  ここで止まったりしたら、どうなるか。それはまだ短い人生しか送っていない彼女でも、容易に想像できる。  手を引っ張ってくれた流ノ介に感謝する暇もなく、なのははホテルの外に出た。 ◆  栗毛でツインテールが作られた少女を見て、スバル・ナカジマの感情は大いに高ぶっていた。  あの小さな少女と目を合わせた瞬間、忘れていたはずの何かが胸の奥より湧き上がってきている。けれど、その正体がまだ掴めない。  高町なのは。  あの少女の名前は、高町なのはであると本能が告げていた。何故、そう言い切れるのかはスバル自身わからない。  そして、胸の高鳴りや後ろめたさの正体も理解できなかった。 ――正体が知られたからには、誰も逃がすな。 「うん、わかってるよ……全てはノーザ様のためだから。ねえ、マッハキャリバー?」 『その通りですとも、相棒。我が存在意義は、ノーザ様の理想郷を作ることですから』  しかしその疑問は、ソレワターセの声によって塗り潰される。  ソレワターセの力で二回目の変身を行っている中、スバルは狂気に満ちた笑みを浮かべていた。蠢く蔦が人工骨格の形を変え、細胞と臓器が熱くなっていくのを感じるが彼女は気にしていない。  全身が変わっていき、凄まじい熱が蛇のように走る。それは生きながらにして火炙りにされているに等しく、いつものスバルなら絶叫していた。だが今のスバルにとって、むしろ快楽にすらなっている。 ――お前の底に潜む悪魔の心を爆発させろ。そうすればお前はもっと強くなれるぞ、タイプゼロ・セカンド。 「我が名はタイプゼロ・セカンド……ノーザ様のためだけに動く殺戮マシーン」  地獄の底から響く程に低いソレワターセの声に頷いた頃には、既にシャンプーからスバルへと戻っていた。  その瞳に輝く金色は、より強い禍々しさを放っている。 「全てはノーザ様のために……ノーザ様の邪魔者は、みんないなくなってしまえばいいんだ」  それはソレワターセによって己を奪われてから、スバルに初めて芽生えた意思だった。  気付くことはないが、言葉に込められた殺意はスバルだけのものではない。その身に取り込んだシャンプーやゴオマが抱いていた殺意も、ソレワターセによって与えられていた。 「全ては……ノーザ様のためにっ!」  身体に絡まっていた蔦が背中に戻り、そのおぞましい姿を周囲に晒しながら彼女は獲物達の方へ振り向く。その中の数人は姿が変わっていて、ホテルから逃げ出してからすぐに変身をしたのだろうが関係ない。  どうせ、誰一人として残らず餌になるのだから。 ◆ (あれってまさか……!?)  ホテルに現れた少女から飛び出した蔦には、明堂院いつきにとって見覚えがあった。  前にブラックホールが復活させたトイマジンとサラマンダー男爵によって、イエロープリキュア達がおもちゃの国に飛ばされたことがあった。その時に、ゲームと称してデザトリアンを始めとしたたくさんの怪物と戦わされたが、みんなで力を合わせて脱出に成功している。  あの少女の全身を包んだ蔦は、おもちゃの国のすごろくにいたソレワターセという怪物ととてもよく似ていた。  ただならぬ気配を察したのか本郷猛と池波流ノ介は、既に変身を果たしている。  猛の全身はバッタを模した黄緑色の仮面と装甲に覆われ、二つの瞳が赤い光を放つ。仮面ライダー一号の首に巻かれた赤いマフラーが、夜風に棚引いた。  胴衣のような模様が刻まれている青い鎧に包まれた流ノ介はその腰から、一本の刀を取り出す。漢字の「水」が模様となったマスクから放たれるシンケンブルーの視線は、その手に握るシンケンマルに負けないくらいに鋭かった。  いつきも懐からシャイニーパフュームを取り出し、窪みにプリキュアの種を入れる。いつも着慣れている私立明堂学園は一瞬で金色に光り輝くワンピースに変わり、ショートヘアーが腰にまで届くほどに長くなった。 「プリキュア! オープン・マイ・ハート!」  その魔法の言葉に答えるように、シャイニーパフュームが眩い輝きを放つ。  いつきはパフュームの中身を全身に吹きつけると、ワンピースが形を変えた。両腕と腹部を露出させた白い上着の胸元に金色のリボンが飾られていて、ヒマワリのようなミニスカートが風に揺れる。  長くなった髪は金色に輝きながら花形の髪飾りによってツインテールとなって、両耳にイヤリングが付けられる。最後に彼女はシャイニーパフュームを腰に添えたことで、ココロパフュームキャリーに包まれた。  身体の奥底から力が溢れ出てくるのを感じて、変身を終えた明堂院いつきは高らかに名乗る。 「陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!」  キュアサンシャインは名前の通りに周囲を照らす輝きを放ちながら、太陽のように堂々と立った。  彼女はホテルから聞こえてくる足音を耳にして、半身の構えを取る。目前から発せられる威圧感が、とても禍々しく感じられたため。  ホテルの扉を潜って現れたのは、チャイナ服を着た少女ではなかった。青いロングヘアーはショートカットになっていて、顔立ちはさっきより少しだけ若い。しかし両目から放たれる金色の輝きが、不気味な雰囲気を感じさせた。  服装もいつの間にかチャイナ服から露出の多い服へと替わっている。胸元を覆う黒いへそ出しシャツにデニム生地の短パン。頭部に巻かれたハチマキと、長袖ジャケットにマントのように棚引く腰布は、どれも白い。  両手には鋼の手甲が装備されていて、両足のローラーブーツに組み込まれたエンジンが唸りをあげていた。  その肌は人間とは思えないほど青白くなっていて、全身の至る所から植物の蔦が生えている。変色した瞳がそれらと相まったことにより、怪物というイメージをその身で体現しているようだった。 「やっぱり……ソレワターセ!」 「ソレワターセ?」  キュアサンシャインの言葉に振り向いたシンケンブルーが疑問の声を漏らす。 「君は、何か知っているのか!?」 「はい! ピーチ達が戦ってたラビリンスって奴らが生み出した敵の一種で、あれを当てられたらどんな物でも一瞬で怪物にされてしまうんです!」 「何だと! だとしたら、彼女を操っているのはノーザという奴の仕業か!?」 「きっとそうです! 多分、今も近くにいるかも……!」 「そうか……!」  シンケンブルーが刀を強く握り締める音がキュアサンシャインの耳に届いた。水のマスクによって見えないが、その表情は激流のように穏やかでないことはわかる。 「スバルさん……!」  そして、背後に立つアインハルト・ストラトスの震える声を聞いて、キュアサンシャインは振り向いた。  鹿目まどかと高町なのはの間に立つアインハルトの顔は、まるでおぞましい物を見るかのように青ざめている。 「アインハルトさん、スバルさんってまさか……!」 「そうですなのはさん……あの人がスバルさんです!」  なのはに答えるアインハルトは徐々に悲痛な面持ちとなってきて、今にも泣き出しそうだった。  キュアサンシャインはもう一度前を向く。アインハルトの話が本当ならば、スバル・ナカジマはソレワターセによって操られていることになる。 「あの人、姿がさっきと違う……!?」 「恐らくスバルを操っているノーザという奴が、何かを彼女に施したのかもしれない……結果、あんな姿になったのだろう」 「そんな! そんなの、あんまりだよ……!」  一号とまどかの憤慨はキュアサンシャインにも理解できた。本当は優しいはずのスバルを無理矢理戦わせる上に、怪物のような姿にさせるのは許せるわけがない。  そのまま一号は、まどかやアインハルトより少し前に立っているなのはに振り向いた。 「なのはちゃん、ここは危険だからまどかちゃんやアインハルトちゃんと一緒に離れるんだ!」 「いいえ、私も戦います! ここでスバルさんを元に戻さないといけませんから……レイジングハート!」 『Yes!』 「セット・アップ!」 『Stand By Ready!』  なのはの手に握られているレイジングハートから桃色の光が放たれ、薄闇を照らす。輝きは一瞬で収まるが、そこに立つなのはの衣服は既に変わっていた。  胸に大きな赤いリボンが付けられた白いドレスのような服を纏っていて、その手にはなのはの身長に届くような長い杖が握られている。 「へ、変身……!」 「武装形態!」 『Cyclone』  高町なのはがバリアジャケットを着て魔導師になった頃には、まどかとアインハルトも変身していた。  支給されていたサイクロンメモリを額に刺したことで、鹿目まどかの身体はサイクロン・ドーパントへと変わっている。右目だけがオレンジ色に輝き、左上半身は風のような装甲が備わっていた。  アインハルト・ストラトスも力強い言葉を告げたことで、十歳以上成長したように背が伸びている。大人のようになったその身体には、黄緑色のコスチュームが包んでいた。 「な、な、な……なのは、なのは、なのは、なのは……なのは、さん?」  三人が変身した後、スバルは変装していた時のように表情を歪ませる。敵意しか感じられなかった金色の瞳に、迷いが生まれているように見えた。 「な、なのは……なの、はさん……あたしは……あたしは、あたしは……!」 「スバルさん、どうしたんですか!?」 「あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、あたしは……なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……!」 「落ち着いてください、スバルさん!」 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」  なのはは呼びかけるが、スバルはそれに答えず未だに混乱している。  よく見ると、二人のバリアジャケットは形と色がとても似ていた。スバルは未来に生きるなのはの弟子になったから、あえて似せているかもしれない。  今のなのははまだ小さいが、それでもスバルを呼び続けたら元に戻れるかもしれなかった。僅かでも新しい可能性によってキュアサンシャインの中に希望が芽生えるが、安心することはできない。  金色の双眸は迷いで揺れ動いてるように見えるが、それでも凄まじい殺気が収まっていなかった。その視線を直接受けていないキュアサンシャインも、冷や汗を流すくらいに戦慄している。  真っ向から見られているなのははもっと辛いはずなのに、それでもスバルを呼びかけていた。 「あ、あ、あ、あ、あ……あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  しかしなのはの純粋な思いに対する答えは、激情に満ちたスバルの叫びだけだった。彼女の声色は植物を震撼させる程に凄まじく、キュアサンシャインの肌に容赦なく突き刺さる。  突風のような咆吼で葉っぱが舞い狂う中、続くようにスバルの全身からどす黒いオーラが放たれた。続けざまに迫る衝撃を前に、キュアサンシャインは何とか吹き飛ばされないように踏ん張った瞬間に見た。  スバルが猛獣のような雄叫びを発しながら地面を蹴って、勢いよくなのはに迫るのを。 「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「まずいっ!」  反射的に飛んだキュアサンシャインはなのはの前に立ち、両腕を真っ直ぐに向ける。  怒濤の勢いでスバルが接近する影響によって地面が抉れる音を耳にしながら、腕に力を込めた。 「があああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「サンフラワー・イージスッ!」  金色に輝くヒマワリ型の巨大なバリアが現れ、スバルの拳を阻むように現れる。激突の衝撃によって轟音が響き渡り、両手に痺れが走ってキュアサンシャインは顔を顰めた。  続けざまに連続で拳が叩き込まれるが怯まない。パンチ一発だけでも、普通のデザトリアンを軽く上回っているかもしれないが、ここで諦めたらなのはが危なかった。 「いつきさん!?」 「私のことはいいから、後ろから離れて!」 「……はい!」  荒れ狂ったようなスバルの叫びを余所に、キュアサンシャインは後ろにいるなのは達に呼びかける。そのおかげか、彼女達は離れてくれた。  高く跳び上がったなのはを追うように、スバルはパンチを止めて上空を見上げる。それが彼女にとって致命的な隙となり、一号とシンケンブルーが飛びかかった。 「ライダーパアアアアアアァァァァァンチッ!」 「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  一号は左から拳を叩き込もうと、シンケンブルーはシンケンマルを構えて右から迫る。しかしスバルはどちらかに振り向くことはせず、両手で彼らの攻撃を受け止めた。  このままでは二人は投げ飛ばされるかもしれないが、その前にキュアサンシャインはバリアを消して、両手に力を込める。すると掌より眩い輝きが発せられ、目の前の三人を照らした。 「サンシャイン・フラアアアアアァァァァァッシュ!」  キュアサンシャインが裂帛の叫びと共に放った光線はスバルだけを飲み込んで吹き飛ばし、一号とシンケンブルーを開放する。そのまま一直線に進んだ光の影響で闇は照らされていき、辺りに日光の暖かさを残した。  世界に生きる多くの人々にとって希望をもたらし、全てのプリキュアの力となる眩い光は広がるが、キュアサンシャインは全く安心できない。  数メートル先の距離まで吹き飛ぶ際に、スバルの身体を支配していたソレワターセにもダメージがあると思っていた。一号とシンケンブルーのおかげで、防御や回避の暇もなかったのだから。  しかし、スバルは何事もなかったかのように上体を起こして、そのまま立ちあがっていく。彼女の全身から生えたソレワターセの根っこだって、一本も減っていない。  ソレワターセはとても強いし、他のプリキュアと力を合わせなければ倒せないのは知っていたが、それでもまともにダメージを与えられないのは辛かった。 「まぶしい……なのはさんも、まぶしい、まぶしい、まぶしい、なのはさん、なのはさん、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい!」  そして光線を浴びたスバルは苦しそうに両手で顔を覆っているのを見て、キュアサンシャインは目を背けたくなるような衝動に駆られる。しかし彼女はスバルの姿を真っ直ぐに見つめていた。  ここで少しでも躊躇ったりしたらスバルを二度と助けられなくなるかもしれないし、何よりもなのはやアインハルトが悲しんでしまう。今は心を鬼にしてでも、ソレワターセに捕まった彼女を助けないといけない。 「スバルさん、お願いだから私の話を聞いてください!」 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさんが、なのはさんが、なのはさんが……」 「スバルさんっ!」 「待つんだ、なのはちゃん!」  いつの間にか地面に下りていたなのははスバルを必死に呼び続けている。彼女はそのまま前に出ようとしたが、一号によって制止された。 「さっきの戦いでもそうだが、今のスバルは呼びかけて止まるような相手じゃない! 下手にそんなことをしても、君が殺されるだけだ!」 「でも、スバルさんは私の名前を呼んでました! だから、このまま呼び続ければスバルさんもきっと……!」 「君一人で、無理をしようとするな!」  仮面から放たれる無機質な雰囲気とは対照的で、力強い励ましの言葉が辺りに響く。  そのまま一号はキュアサンシャインの方に振り向いた。 「サンシャイン、君が出したあの光があればスバルを元に戻せるのか?」 「一発じゃ無理ですけど、何発か打ち込めばあの人の中にいるソレワターセが消える可能性はあります!」 「そうか、わかった! なら君は彼女を元に戻すためにそれを続けてくれ! ただし、無理はするんじゃないぞ!」 「はい!」  耳にするだけで心の底から力が溢れ出てくるのを感じて、キュアサンシャインは一号に頷く。 「みんな、ここでスバルを何としてでも助けるぞ! まどかちゃん、それになのはちゃんやアインハルトちゃんはできるだけ後ろに下がりながらスバルを呼び続けるんだ! ただし、危険になったら逃げてくれ!」 「「「わかりました!」」」 「シンケンブルー! 俺と一緒にできるだけスバルの動きを止めて欲しいが、頼めるか?」 「お安い御用だ!」 「そうか! だが傷口が開いたら、すぐにでも退くんだ……いいな!」 「かたじけない!」 「よし……行くぞ!」  まるで頼れるリーダーのような印象が一号の声から放たれていて、この島のどこかにいるはずのキュアムーンライトを思い出させた。  始まりの会場で加頭順に対して宣戦布告をした時からそうだったが、やはり本郷猛は信頼できるとキュアサンシャインは思う。 「なのはさんはまぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい」  しかしそんな希望を一瞬で台無しにするかのようなスバルの呟きが、ここから少し離れた場所より発せられていた。ようやくスバルが両手を顔から離した頃には、一号とシンケンブルーが飛びかかり、続くようにキュアサンシャインも地面を蹴って走り出す。  呪いのような言葉と共に、スバルは一号を叩き潰そうと勢いよく振るった拳は避けられた。続くように回し蹴りも繰り出すが、一号は背後に飛んだので掠りもしない。 「ハァッ!」  そこからシンケンブルーは斬りかかるが、スバルの背中から飛び出したソレワターセの触手が盾のようになって刃を防ぐ。シンケンブルーはそれに構わず刀を振るうも、その度に耳障りな金属音が響くだけ。  植物にしか見えないそれは、シンケンマルの硬度を大きく超えていた。  一方でスバルはシンケンブルーに目もくれず、一号の攻撃を捌き続けている。前方から放たれる一号の拳を避けながら、視界の外から迫るシンケンブルーの斬撃を防いでいて防御に死角がなかった。 「くそっ!」  シンケンブルーは業を煮やしたのか、舌打ちをしながら一旦背後に飛ぶ。  彼と交代するようにキュアサンシャインは前に出ると、スバルが振り向きながらパンチを放ってきた。容赦のない拳に対してキュアサンシャインは少しだけ体勢を低くして避けて、反撃の掌底をスバルの腹部に打ち込む。  激突によって鈍い音が響くも、スバルはほんの少し後退するだけ。まともなダメージになってないだろうが、それなら攻撃を続けるしかなかった。  獣のような唸り声と共にスバルは右足で蹴りを繰り出すが、キュアサンシャインは左腕を掲げてそれを防ぐ。その衝撃はデザトリアンに直接殴られたかのように重かったが、両足に力を込めて吹き飛ばされないように踏ん張った。  腕に鈍い痛みが走って思わず表情を歪めるが何とか堪え、受け止めた足を弾いてスバルを蹌踉めかせる。キュアサンシャインはその隙を逃さずに拳を叩き込もうとするが、スバルはすぐに体勢を立て直して後方に飛んだ。  二人の間に数歩分の距離が開いて、その両端に立つキュアサンシャインとスバルの視線が激突する。 「まぶしい、ひかり、まぶしい、たいよう、まぶしい、なのはさん、まぶしい、さんしゃいん、まぶしい、まぶしい、まぶしい……」  両目に宿る金色の輝きからは、ダークプリキュアとはまた違う意味の強いおぞましさが感じられた。ソレワターセのせいで理性をほとんど無くしてしまったせいか、世界を砂漠にさせたデザートデビルのように見える。  そしてもう一つ。深い悲しみがスバルの瞳から感じられて、いつ泣き出してもおかしくなかった。本当はスバルだって戦いなんかやりたくないだろうし、人を傷つけるのは辛いかもしれない。  そんな姿を大切な人に見られるのはどれだけ苦しいのか……考えただけでも、キュアサンシャインの胸は痛む。  だから、これ以上スバルを悲しませたくなかった。 「まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」  まるで助けを求めているようにも聞こえる声とは反対に、スバルは疾走してくる。  花火が鳴り響くような轟音と共に地面が砕け散って、ジェット機に匹敵する程の速度で迫りながら拳を掲げていた。  突進してくるスバルを前にキュアサンシャインは素早く構える。その時だった。 「危ないっ!」  ややくぐもったサイクロン・ドーパントの叫びが聞こえた瞬間、凄まじい突風が視界の外より吹いてくる。その流れにスバルは巻き込まれた事で動きを阻害されたのか、足を止めた。  サイクロン・ドーパントの方に振り向いたスバルは凄まじい風を受けても進もうとするが、重りを付けたかのように鈍くなっている。  台風が吹き荒れるような轟音が鼓膜を刺激する中、サイクロン・ドーパントがキュアサンシャインの元に駆け寄ってきた。 「いつきさん、大丈夫ですか!?」 「ありがとう! サイクロン……で、いいのかな?」 「はい! 今の私は、本郷さんと同じ仮面ライダーですから!」  ガイアメモリの力で異形に変わったまどかは嬉しそうな声で答える。  しかしキュアサンシャインは素直に喜べない。ガイアメモリはあの順が怪物になるために使っていた物だから、どう考えても怪しかった。  でも今はそれに触れている時ではない。まどかがガイアメモリを使ったおかげで助かったのは事実だから、その優しさと勇気に感謝しなければならなかった。 「そっか……でも、無理はしないで!」 「わかってます!」  そう言葉を交わして、キュアサンシャインとサイクロン・ドーパントは前を向く。  振り向いた先では、突風の圧力から解放されたスバルの攻撃を一号とシンケンブルーが捌きながら反撃して、時折なのはとアインハルトがソレワターセの触手を弾いている光景が見えた。  しかし数では勝っているものの、有利な戦いとは呼べずにようやく互角にまで届く程度だった。ソレワターセが強すぎるのもあるが、それ以上に四人とも本気で戦えていない。  ここで下手に本気を出してしまっては操られているスバルに怪我を負わせてしまうため、四人とも力を出せなくて不利な戦いになっている。  そんな中でもスバルは一瞬だけキュアサンシャインの方に振り向いて、背中からソレワターセの触手を勢いよく出してきた。 「危ないっ!」  サイクロン・ドーパントの前に素早く回って、両手を前に突き足して金色のバリアを張る。空気を裂きながら迫る数本の触手は、キュアサンシャインのサンフラワー・イージスと一瞬で衝突した。  しかし触手を使った攻撃はそれで止まらず、鞭のようにしなりながらバリアを叩いてくる。その威力は今までの攻撃よりも強いように思えた。  しかもこちらに攻撃している一方で、スバルは残りの四人を相手に応戦している。攻撃はほとんど通さず、そこから力強い反撃をしていた。 「このままじゃ……みんなが!」  そんな彼らが心配なのか、サイクロン・ドーパントはバリアの外に出て行ってしまい、飛び交う触手を突風で吹き飛ばしながらスバルの元に走る。 「待って、いきなり前に出ちゃ駄目!」  キュアサンシャインは呼び止めるがサイクロン・ドーパントは止まらず、ソレワターセの攻撃を風で防いでいるが、時折先端が皮膚を掠っていた。それでも、お構いなしに彼女は進んでいる。  しかしそんなことをさせても危なくなるだけだから、サイクロン・ドーパントを守るためにもキュアサンシャインはバリアを消して走り出した。 ◆ 「ほう、六人が相手でも互角以上に渡り合いますか……何とも、有能ですなぁ」 「恐らく、さっき取り込んだコウモリ男の影響もあるわね。あれも栄養になっているでしょうから」 「だとすると、奴はいい獲物だったということになりますな」  冷たい風の流れる木々の間から、ソレワターセの力によってノーザの操り人形となったスバル・ナカジマの戦いを眺める筋殻アクマロは、素直にそう口を零す。  シャンプーに化けたスバルがホテルに突入して六人を騙そうとしたが、中にいた二人の小娘が原因で失敗に終わった。その原因である高町なのはという少女を前にして、スバルは異様なまでに混乱しているが、それでも戦いは有利に見える。 「それにしても、あのシンケンブルーがここにいるとは実に都合がいい。このまま、潰してほしいものですな」 「ええ……あなたの悲願を達成するためにもね」  ふと、アクマロはノーザの方に振り向いた。  スバルが本郷猛達を騙す計画が狂っただけでなく、キュアサンシャインという未知のプリキュアが現れた。それにも関らずしてノーザは涼しい笑みを浮かべている。  無論、慌てふためかれるよりは信用できるがそれにしても落ち着きすぎていた。むしろ、都合のいいように計画が進んでいるようにも見える。 「ノーザさん、あなたは悔しくないのですかな? せっかくの計画を、あのような小娘どもに潰されたのですから」 「騙せなかったのは確かに残念だけど、それ以上に面白い物があるわ……あの高町なのはとかいう小娘よ」 「ほう?」  笑みを浮かべているノーザが見ている戦いの場に、アクマロは再び視線を移した。  そこでは白いバリアジャケットを着ているなのはがスバルの攻撃を防ぎながら、必死に止まるように呼びかけているのが見える。しかしソレワターセの力によって、スバルが止まることはない。  マッハキャリバーが言うにはなのはとスバルは何らかの繋がりがあるらしいが別にどうでもいい。  アクマロは一刻も早くスバルがなのはを殺して、そこから極上の絶望が生まれるのを期待していた。 「もしや、スバルがあのなのはとやらを殺すのをノーザさんも願っておりますかな?」 「そうだけど……ただ倒すだけじゃ面白くないでしょ? ただ倒すだけじゃ」 「ただ倒すだけでは……?」  そう語るノーザの顔と言葉にアクマロは疑問を抱く。  彼女の笑顔からは、人々の嘆きを糧とする外道衆のように確かな邪念が感じられた。まるで、それを見るだけで弱き人間を震え上がらせることができる程に。  十中八九、何かを企んでいるのは確実だった。 「ノーザさん、あなたは何をなさるおつもりですか?」 「今はまだ内緒よ。アクマロ君だって、楽しみは後にとっておきたいでしょう?」 「なるほど」  そう言うからには大層素晴らしい計画なのだろうと思い、アクマロは追求をやめる。ここで無理に聞き出したところで、知った時の喜びが減るだけ。今はノーザの計画とやらが成就するのを、待てばいい。  微かな期待を胸に抱いた頃、ノーザは前方に足を進めていた。 「おや、どうなされたのですかなノーザさん?」  アクマロは疑問をぶつけるが、ノーザから返ってきたのは「スイッチオーバー」という単語のみ。  その言葉が一体何を意味するのか。アクマロが考える間もなく、ノーザの姿が一瞬で変わっていく。腰にまで届く髪は黒から紫に染まって、ドレスも派手で不気味な色に変貌した。  ノーザは戦うために変身したのだと、アクマロは知る。一見するとただの人間にしか見えないが、その身体から放たれる威圧感がただ者ではないと語っていた。 「これから、極上の絶望と悲鳴を集めるわ」 「極上の絶望と悲鳴……ですか?」 「ええ、それにこのまま戦いを長引かせたら誰か一人でも逃げられてしまう可能性があるわ。そうなる前に私も行かないとね……」  背中を向けられているので表情は見えないが、妙に上機嫌な声だったので笑っていることが容易に想像できた。  知略に長けると思われるノーザがわざわざ戦場に出向くとは、余程の策があるのだろう。それもあの場を更に掻き乱すだけではなく、外道衆の糧ともなる負の感情を一瞬で溜められる程の。  それにいくらスバルとはいえ、人の域を超越した戦闘能力を持つ戦士達を六人も相手にしては誰かしら取り逃す可能性も否定できない。それで他の参加者と結託されて情報を伝えられては、裏目がんどう返しの術への道も遠くなる可能性がある。  今後の不穏分子を潰すという意味でも、確かにノーザも戦う必要があるかもしれなかった。 「宜しい。ならばこの筋殻アクマロめも、ノーザさんにお供いたしましょう」  そしてまたアクマロも両手に武器を携えながら、歩を進める。右手には普段愛用している削身断頭笏を、左手には三途の川に潜むナナシ連中が持つ刀が、存在意義を証明するかのようにそれぞれの刃を輝かせていた。  ノーザが言うには、両方ともシャンプーの支給品として渡されていたらしい。あのような己の力量も弁えない小娘が持っていたのは腹立たしいが、こうして戻った以上は考えても仕方がない。 「あら、本当にいいのかしら?」 「むしろ、我が望むことですから……こうして、悲劇の中に飛び込んでいくのは」 「そう……なら、私はあなたのことを応援してるわ」  ノーザの激励から感じられるのは、極寒の地を超える程の冷たさと隠す気のない悪意だけ。  明らかな嘘と感じられるくらいに冷酷で、本当はアクマロのことなど何一つ心配していないのは一瞬で察することができる。  しかしアクマロにとってはむしろそれが何よりも心地よかった。外道衆にとって絆や温かさなど、虫けらの価値すら持たない。  裏切りと悲劇こそが、外道にとって極上の酒にも勝るくらいに美味たる代物だった。 「はは、ご心配いただき心の底から嬉しゅうございます……!」  そんなノーザに対する恩返しとして、アクマロもまた邪念に満ちた言葉を贈る。彼もまた、ノーザを心から信頼しているわけではなかった。  いくら数多の世界を把握する組織の幹部だからと言って、それが外道衆に勝る要因になるわけではない。所詮は地獄への扉を開くために必要な、使い捨てのコマに過ぎなかった。  そしてそれはノーザも同じ。これはこの殺し合いの場で、どちらが先に己の欲望を叶えられるかの競い合いだった。 (さて、ノーザさん。お手並み拝見とさせて頂きましょう……あんたさんが一体、どんな悲劇を生んでくれるのかを)  宿敵シンケンジャーの一味であるシンケンブルーへの殺意と、ノーザに対する期待。それら二つを胸にしながらアクマロは戦場へと駆け抜けていった。 ◆  もうこれ以上、誰も死なせたくない。  この殺し合いを開いたキュウべぇや加頭順の言いなりになんて、なりたくない。  操られてしまった人を、この手で助けたい。  今日を生きているはずのみんなを、一人も犠牲にしたくない。  人を助けたいという、そんな純粋な願いだけを胸にした鹿目まどかは頼れる本郷達の力になろうと思って、サイクロン・ドーパントの力を得た。しかし現実はそんな彼女の願いを嘲笑うかのように、何も変わらない。 「ううううううう……あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」  そして今も、ノーザという女の人に操られてしまったスバル・ナカジマの喉から、獰猛な肉食獣すらも震え上がらせてしまう程、凄まじい咆吼が発せられた。  それによって空気も音を鳴らしながら振動して、サイクロン・ドーパントの肌に突き刺さる。もしもまどかのままだったら、確実に汗を流しながら怯えていたかもしれない。  しかし今の彼女は、ドーパントに変身した影響で恐怖心がそんなになかった。誰かを守りたいという強い決意が、皮肉にも精神に影響を及ぼすガイアメモリの毒素によって増幅されている。  同時にまどか自身の平常心も失っているが、幸か不幸かそれに気付いていない。そのおかげで、結果的には彼女の願いが叶っているのだから。 「お願いです、止まってください!」  そして今も、スバルを止めるためにサイクロン・ドーパントは呼びかけながら両手を前に出して突風を使う。風の勢いにスバルは飲み込まれるが、両足に付いたエンジンを唸らせながら突進してくる。サイクロン・ドーパントは風力を強めるが、止まらない。 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、まぶしい、まぶしい!」 「ひっ……!」  両目をギラギラと輝かせるスバルと目線があって、森の中でも抱いた恐怖がサイクロン・ドーパントの中に蘇った。心臓を鷲掴みにされているような気分になって無意識の内に力を緩めてしまい、それが致命的な隙となる。  L字型を作るように曲がるスバルの左腕が輝いたが、サイクロン・ドーパントがそれを前に何かをすることはできない。 「リボルバー……シュートッ!」  光はスバルの手中でボールのように圧縮されていき、弾丸のように勢いよく発射された。  先程は狙いに入ってなかったので当たらなかったが今は違う。ターゲットとなったサイクロン・ドーパントの右肩に容赦なく激突し、周囲に爆音を響かせた。 「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」  悲痛な叫び声と共に宙を舞った後、その身体は地面に叩き付けられる。まるで腕が千切れ飛ぶと思うほどの激痛が走り、サイクロン・ドーパントは恐る恐る目を移す。風のような体表は黒く焦げているが、何とか繋がっていた。  しかしそれに喜ぶ暇もなく、突風の圧力から開放されたスバルが突進してくるのをサイクロン・ドーパントは見る。だが、その道をキュアサンシャインとシンケンブルーが防いでくれた。  二人がスバルを止めている隙に、倒れたサイクロン・ドーパントの元へ一号が駆けつける。 「大丈夫か、まどかちゃん!?」  そして一号に支えられながら、サイクロン・ドーパントはゆっくりと立ち上がった。 「酷い怪我だ……まどかちゃん、やっぱり君はなのはちゃんやアインハルトちゃんと一緒に早くここから――」 「いいえ、私なら大丈夫です! こんな怪我、どうってことありません!」 「しかし!」 「心配してくれて、ありがとうございます! でも私も、スバルさんを元に戻す手伝いをしたいんです!」  一号の言葉を無理矢理遮りながら、サイクロン・ドーパントは痛む身体に鞭を打って再び走る。後ろから呼び止める声が聞こえるが、今の彼女には目の前で起こっている戦いの方が何よりも重要だった。  戦っている四人の仲間達はスバルの攻撃によって傷付いて倒れるが、すぐに立ち上がる。心配してくれる一号には少しだけ悪いけど、誰かが戦っているのに自分は見ているだけなんてもう嫌だった。  それに魔法少女になったみんなだって、どんなに傷付いても決して諦めないで魔女と戦っていたから、ちょっとの痛みなど耐えなければならない。 (ここにはほむらちゃん……それに死んだはずのみんなだって、きっといる! だから、みんなに会うまでは挫けてなんかいられないよ!)  そうやって自分に言い聞かせて、湧き上がってきた恐怖を無理して勇気という感情で埋め尽くそうとする。それは鹿目まどかが元々持っていた物ではなく、ガイアメモリの毒素が精神を大いに高ぶらせた結果、生み出された感情だった。  しかしいくら強くなったからといって、元々鹿目まどかに特別な力など何一つ持たない普通の女子中学生に過ぎない。それでガイアメモリを使ってドーパントとなっても、この世界では特筆した戦闘力を得たことにならなかった。  キュゥべえはまどかには莫大なる潜在能力が宿っていると言ったが、だからといってドーパントとなっただけの彼女に何かをもたらすことはない。  サイクロン・ドーパントの取った選択は勇気と呼べる代物ではなく、無謀以外の何物でもなかった。しかし、当の本人はそんなことなど微塵も考えていない。  この力さえあればみんなを助けられると、心の底から思っていた。 「ディバイン――」 「ディバイン――」  サイクロン・ドーパントの目前で、なのはとスバルは同じ言葉を紡ぎ始めている。  なのはが構えたレイジングハートの先端からを桃色の光が発せられるように、腰を落としたスバルの右手から漆黒の輝きが空気を揺らしながら広がった。  彼女たちの足元には色違いの魔法陣がゆっくりと回転していく。 *時系列順で読む Back:[[変身超人大戦・開幕]]Next:[[変身超人大戦・襲来]] *投下順で読む Back:[[変身超人大戦・開幕]]Next:[[変身超人大戦・襲来]] |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|本郷猛|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|沖一也|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|明堂院いつき|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|ノーザ|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|高町なのは|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|スバル・ナカジマ|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|アインハルト・ストラトス|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|鹿目まどか|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|ズ・ゴオマ・グ|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|池波流ノ介|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| 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*変身超人大戦・危機  ◆LuuKRM2PEg 「なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……!?」 「私の名前を、知ってるんですか……?」 「なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……なのはさん……!?」  なのはは問いかけるが少女は答えず、まるで壊れたテープレコーダーのように名前を呟きながら、よろよろと後退した。 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……」 「君、しっかりする……ッ!」 「あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、知ってる、知らない、知ってる、知らない、思い出せない、誰、なのはさんって、誰、わからない、なのはさん、あこがれてる、なのはさん、目標、どうして、どうして、どうして、どうして、わからない、わからない、わからない、教えて、教えて、教えて、教えて……」  ふらつく少女を再び支えようとした猛の言葉は続かない。  少女は両手で頭を抱えながら俯いて、壊れたように言葉を発した。常軌を逸したその行為に意味や理性など感じられず、狂っているようにも、何かに迷っているようにも見える。  少なくとも、ただごとではないのはなのはも理解できた。何故彼女が自分の名前を知っているのかは気になるが、今はどうでもいい。  そう思った頃には、いつの間にか少女の口は止まっていた。どうなっているのかはわからないが、これはまたとないチャンス。  なのははもう一度声をかけようとした。 「……そっか、そういうことですか」  その呟きと共に、彼女は勢いよく顔を上げる。  少女が今作っている表情は、これまでとは一線を画しているように笑っていた。それも穏やかさや優しさは全く含まれておらず、薄気味悪さしかなのはは感じなかった。 「みぃんな、食べちゃえばいいんですね……楽しい、ご飯の時間だ」  そう言ってゆっくりと立ち上がった少女の背中から大量の蔦が、音の速度で飛び出してくる。それは少女の全身にほんの一瞬で絡みついて、自分の意志を持っているかのように蠢いた。  一体何が起こっているのか? そう思った頃には、がしりと腕を強く掴まれる。びくりと身体を大きく振るわせながら振り向くと、流ノ介が鬼気迫る表情を浮かべているのが見えた。 「ホテルの外に走るぞ、急げ!」  答える暇もなく、腕を引っ張られながら走るのを余儀なくされた。  なのはが足を無理矢理動かしている中、他の四人もホテルに向かって走る音が聞こえる。だからなのはも、反射的に走る勢いを上げた。  置き去りにされた少女がいる場所から、何やら耳障りな音が聞こえてくる。肉や骨が磨り潰されてるような、鼓膜に捉えただけで吐き気を促すような音が。  だからなのはは走る。振り向くことも止まることもしないで、流ノ介の腕を必死に掴みながら走る。  ここで止まったりしたら、どうなるか。それはまだ短い人生しか送っていない彼女でも、容易に想像できる。  手を引っ張ってくれた流ノ介に感謝する暇もなく、なのははホテルの外に出た。 ◆  栗毛でツインテールが作られた少女を見て、スバル・ナカジマの感情は大いに高ぶっていた。  あの小さな少女と目を合わせた瞬間、忘れていたはずの何かが胸の奥より湧き上がってきている。けれど、その正体がまだ掴めない。  高町なのは。  あの少女の名前は、高町なのはであると本能が告げていた。何故、そう言い切れるのかはスバル自身わからない。  そして、胸の高鳴りや後ろめたさの正体も理解できなかった。 ――正体が知られたからには、誰も逃がすな。 「うん、わかってるよ……全てはノーザ様のためだから。ねえ、マッハキャリバー?」 『その通りですとも、相棒。我が存在意義は、ノーザ様の理想郷を作ることですから』  しかしその疑問は、ソレワターセの声によって塗り潰される。  ソレワターセの力で二回目の変身を行っている中、スバルは狂気に満ちた笑みを浮かべていた。蠢く蔦が人工骨格の形を変え、細胞と臓器が熱くなっていくのを感じるが彼女は気にしていない。  全身が変わっていき、凄まじい熱が蛇のように走る。それは生きながらにして火炙りにされているに等しく、いつものスバルなら絶叫していた。だが今のスバルにとって、むしろ快楽にすらなっている。 ――お前の底に潜む悪魔の心を爆発させろ。そうすればお前はもっと強くなれるぞ、タイプゼロ・セカンド。 「我が名はタイプゼロ・セカンド……ノーザ様のためだけに動く殺戮マシーン」  地獄の底から響く程に低いソレワターセの声に頷いた頃には、既にシャンプーからスバルへと戻っていた。  その瞳に輝く金色は、より強い禍々しさを放っている。 「全てはノーザ様のために……ノーザ様の邪魔者は、みんないなくなってしまえばいいんだ」  それはソレワターセによって己を奪われてから、スバルに初めて芽生えた意思だった。  気付くことはないが、言葉に込められた殺意はスバルだけのものではない。その身に取り込んだシャンプーやゴオマが抱いていた殺意も、ソレワターセによって与えられていた。 「全ては……ノーザ様のためにっ!」  身体に絡まっていた蔦が背中に戻り、そのおぞましい姿を周囲に晒しながら彼女は獲物達の方へ振り向く。その中の数人は姿が変わっていて、ホテルから逃げ出してからすぐに変身をしたのだろうが関係ない。  どうせ、誰一人として残らず餌になるのだから。 ◆ (あれってまさか……!?)  ホテルに現れた少女から飛び出した蔦には、明堂院いつきにとって見覚えがあった。  前にブラックホールが復活させたトイマジンとサラマンダー男爵によって、イエロープリキュア達がおもちゃの国に飛ばされたことがあった。その時に、ゲームと称してデザトリアンを始めとしたたくさんの怪物と戦わされたが、みんなで力を合わせて脱出に成功している。  あの少女の全身を包んだ蔦は、おもちゃの国のすごろくにいたソレワターセという怪物ととてもよく似ていた。  ただならぬ気配を察したのか本郷猛と池波流ノ介は、既に変身を果たしている。  猛の全身はバッタを模した黄緑色の仮面と装甲に覆われ、二つの瞳が赤い光を放つ。仮面ライダー一号の首に巻かれた赤いマフラーが、夜風に棚引いた。  胴衣のような模様が刻まれている青い鎧に包まれた流ノ介はその腰から、一本の刀を取り出す。漢字の「水」が模様となったマスクから放たれるシンケンブルーの視線は、その手に握るシンケンマルに負けないくらいに鋭かった。  いつきも懐からシャイニーパフュームを取り出し、窪みにプリキュアの種を入れる。いつも着慣れている私立明堂学園は一瞬で金色に光り輝くワンピースに変わり、ショートヘアーが腰にまで届くほどに長くなった。 「プリキュア! オープン・マイ・ハート!」  その魔法の言葉に答えるように、シャイニーパフュームが眩い輝きを放つ。  いつきはパフュームの中身を全身に吹きつけると、ワンピースが形を変えた。両腕と腹部を露出させた白い上着の胸元に金色のリボンが飾られていて、ヒマワリのようなミニスカートが風に揺れる。  長くなった髪は金色に輝きながら花形の髪飾りによってツインテールとなって、両耳にイヤリングが付けられる。最後に彼女はシャイニーパフュームを腰に添えたことで、ココロパフュームキャリーに包まれた。  身体の奥底から力が溢れ出てくるのを感じて、変身を終えた明堂院いつきは高らかに名乗る。 「陽の光浴びる一輪の花! キュアサンシャイン!」  キュアサンシャインは名前の通りに周囲を照らす輝きを放ちながら、太陽のように堂々と立った。  彼女はホテルから聞こえてくる足音を耳にして、半身の構えを取る。目前から発せられる威圧感が、とても禍々しく感じられたため。  ホテルの扉を潜って現れたのは、チャイナ服を着た少女ではなかった。青いロングヘアーはショートカットになっていて、顔立ちはさっきより少しだけ若い。しかし両目から放たれる金色の輝きが、不気味な雰囲気を感じさせた。  服装もいつの間にかチャイナ服から露出の多い服へと替わっている。胸元を覆う黒いへそ出しシャツにデニム生地の短パン。頭部に巻かれたハチマキと、長袖ジャケットにマントのように棚引く腰布は、どれも白い。  両手には鋼の手甲が装備されていて、両足のローラーブーツに組み込まれたエンジンが唸りをあげていた。  その肌は人間とは思えないほど青白くなっていて、全身の至る所から植物の蔦が生えている。変色した瞳がそれらと相まったことにより、怪物というイメージをその身で体現しているようだった。 「やっぱり……ソレワターセ!」 「ソレワターセ?」  キュアサンシャインの言葉に振り向いたシンケンブルーが疑問の声を漏らす。 「君は、何か知っているのか!?」 「はい! ピーチ達が戦ってたラビリンスって奴らが生み出した敵の一種で、あれを当てられたらどんな物でも一瞬で怪物にされてしまうんです!」 「何だと! だとしたら、彼女を操っているのはノーザという奴の仕業か!?」 「きっとそうです! 多分、今も近くにいるかも……!」 「そうか……!」  シンケンブルーが刀を強く握り締める音がキュアサンシャインの耳に届いた。水のマスクによって見えないが、その表情は激流のように穏やかでないことはわかる。 「スバルさん……!」  そして、背後に立つアインハルト・ストラトスの震える声を聞いて、キュアサンシャインは振り向いた。  鹿目まどかと高町なのはの間に立つアインハルトの顔は、まるでおぞましい物を見るかのように青ざめている。 「アインハルトさん、スバルさんってまさか……!」 「そうですなのはさん……あの人がスバルさんです!」  なのはに答えるアインハルトは徐々に悲痛な面持ちとなってきて、今にも泣き出しそうだった。  キュアサンシャインはもう一度前を向く。アインハルトの話が本当ならば、スバル・ナカジマはソレワターセによって操られていることになる。 「あの人、姿がさっきと違う……!?」 「恐らくスバルを操っているノーザという奴が、何かを彼女に施したのかもしれない……結果、あんな姿になったのだろう」 「そんな! そんなの、あんまりだよ……!」  一号とまどかの憤慨はキュアサンシャインにも理解できた。本当は優しいはずのスバルを無理矢理戦わせる上に、怪物のような姿にさせるのは許せるわけがない。  そのまま一号は、まどかやアインハルトより少し前に立っているなのはに振り向いた。 「なのはちゃん、ここは危険だからまどかちゃんやアインハルトちゃんと一緒に離れるんだ!」 「いいえ、私も戦います! ここでスバルさんを元に戻さないといけませんから……レイジングハート!」 『Yes!』 「セット・アップ!」 『Stand By Ready!』  なのはの手に握られているレイジングハートから桃色の光が放たれ、薄闇を照らす。輝きは一瞬で収まるが、そこに立つなのはの衣服は既に変わっていた。  胸に大きな赤いリボンが付けられた白いドレスのような服を纏っていて、その手にはなのはの身長に届くような長い杖が握られている。 「へ、変身……!」 「武装形態!」 『Cyclone』  高町なのはがバリアジャケットを着て魔導師になった頃には、まどかとアインハルトも変身していた。  支給されていたサイクロンメモリを額に刺したことで、鹿目まどかの身体はサイクロン・ドーパントへと変わっている。右目だけがオレンジ色に輝き、左上半身は風のような装甲が備わっていた。  アインハルト・ストラトスも力強い言葉を告げたことで、十歳以上成長したように背が伸びている。大人のようになったその身体には、黄緑色のコスチュームが包んでいた。 「な、な、な……なのは、なのは、なのは、なのは……なのは、さん?」  三人が変身した後、スバルは変装していた時のように表情を歪ませる。敵意しか感じられなかった金色の瞳に、迷いが生まれているように見えた。 「な、なのは……なの、はさん……あたしは……あたしは、あたしは……!」 「スバルさん、どうしたんですか!?」 「あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、あたしは、あたしは……なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……!」 「落ち着いてください、スバルさん!」 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん……あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」  なのはは呼びかけるが、スバルはそれに答えず未だに混乱している。  よく見ると、二人のバリアジャケットは形と色がとても似ていた。スバルは未来に生きるなのはの弟子になったから、あえて似せているかもしれない。  今のなのははまだ小さいが、それでもスバルを呼び続けたら元に戻れるかもしれなかった。僅かでも新しい可能性によってキュアサンシャインの中に希望が芽生えるが、安心することはできない。  金色の双眸は迷いで揺れ動いてるように見えるが、それでも凄まじい殺気が収まっていなかった。その視線を直接受けていないキュアサンシャインも、冷や汗を流すくらいに戦慄している。  真っ向から見られているなのははもっと辛いはずなのに、それでもスバルを呼びかけていた。 「あ、あ、あ、あ、あ……あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  しかしなのはの純粋な思いに対する答えは、激情に満ちたスバルの叫びだけだった。彼女の声色は植物を震撼させる程に凄まじく、キュアサンシャインの肌に容赦なく突き刺さる。  突風のような咆吼で葉っぱが舞い狂う中、続くようにスバルの全身からどす黒いオーラが放たれた。続けざまに迫る衝撃を前に、キュアサンシャインは何とか吹き飛ばされないように踏ん張った瞬間に見た。  スバルが猛獣のような雄叫びを発しながら地面を蹴って、勢いよくなのはに迫るのを。 「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「まずいっ!」  反射的に飛んだキュアサンシャインはなのはの前に立ち、両腕を真っ直ぐに向ける。  怒濤の勢いでスバルが接近する影響によって地面が抉れる音を耳にしながら、腕に力を込めた。 「があああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「サンフラワー・イージスッ!」  金色に輝くヒマワリ型の巨大なバリアが現れ、スバルの拳を阻むように現れる。激突の衝撃によって轟音が響き渡り、両手に痺れが走ってキュアサンシャインは顔を顰めた。  続けざまに連続で拳が叩き込まれるが怯まない。パンチ一発だけでも、普通のデザトリアンを軽く上回っているかもしれないが、ここで諦めたらなのはが危なかった。 「いつきさん!?」 「私のことはいいから、後ろから離れて!」 「……はい!」  荒れ狂ったようなスバルの叫びを余所に、キュアサンシャインは後ろにいるなのは達に呼びかける。そのおかげか、彼女達は離れてくれた。  高く跳び上がったなのはを追うように、スバルはパンチを止めて上空を見上げる。それが彼女にとって致命的な隙となり、一号とシンケンブルーが飛びかかった。 「ライダーパアアアアアアァァァァァンチッ!」 「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  一号は左から拳を叩き込もうと、シンケンブルーはシンケンマルを構えて右から迫る。しかしスバルはどちらかに振り向くことはせず、両手で彼らの攻撃を受け止めた。  このままでは二人は投げ飛ばされるかもしれないが、その前にキュアサンシャインはバリアを消して、両手に力を込める。すると掌より眩い輝きが発せられ、目の前の三人を照らした。 「サンシャイン・フラアアアアアァァァァァッシュ!」  キュアサンシャインが裂帛の叫びと共に放った光線はスバルだけを飲み込んで吹き飛ばし、一号とシンケンブルーを開放する。そのまま一直線に進んだ光の影響で闇は照らされていき、辺りに日光の暖かさを残した。  世界に生きる多くの人々にとって希望をもたらし、全てのプリキュアの力となる眩い光は広がるが、キュアサンシャインは全く安心できない。  数メートル先の距離まで吹き飛ぶ際に、スバルの身体を支配していたソレワターセにもダメージがあると思っていた。一号とシンケンブルーのおかげで、防御や回避の暇もなかったのだから。  しかし、スバルは何事もなかったかのように上体を起こして、そのまま立ちあがっていく。彼女の全身から生えたソレワターセの根っこだって、一本も減っていない。  ソレワターセはとても強いし、他のプリキュアと力を合わせなければ倒せないのは知っていたが、それでもまともにダメージを与えられないのは辛かった。 「まぶしい……なのはさんも、まぶしい、まぶしい、まぶしい、なのはさん、なのはさん、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい!」  そして光線を浴びたスバルは苦しそうに両手で顔を覆っているのを見て、キュアサンシャインは目を背けたくなるような衝動に駆られる。しかし彼女はスバルの姿を真っ直ぐに見つめていた。  ここで少しでも躊躇ったりしたらスバルを二度と助けられなくなるかもしれないし、何よりもなのはやアインハルトが悲しんでしまう。今は心を鬼にしてでも、ソレワターセに捕まった彼女を助けないといけない。 「スバルさん、お願いだから私の話を聞いてください!」 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさんが、なのはさんが、なのはさんが……」 「スバルさんっ!」 「待つんだ、なのはちゃん!」  いつの間にか地面に下りていたなのははスバルを必死に呼び続けている。彼女はそのまま前に出ようとしたが、一号によって制止された。 「さっきの戦いでもそうだが、今のスバルは呼びかけて止まるような相手じゃない! 下手にそんなことをしても、君が殺されるだけだ!」 「でも、スバルさんは私の名前を呼んでました! だから、このまま呼び続ければスバルさんもきっと……!」 「君一人で、無理をしようとするな!」  仮面から放たれる無機質な雰囲気とは対照的で、力強い励ましの言葉が辺りに響く。  そのまま一号はキュアサンシャインの方に振り向いた。 「サンシャイン、君が出したあの光があればスバルを元に戻せるのか?」 「一発じゃ無理ですけど、何発か打ち込めばあの人の中にいるソレワターセが消える可能性はあります!」 「そうか、わかった! なら君は彼女を元に戻すためにそれを続けてくれ! ただし、無理はするんじゃないぞ!」 「はい!」  耳にするだけで心の底から力が溢れ出てくるのを感じて、キュアサンシャインは一号に頷く。 「みんな、ここでスバルを何としてでも助けるぞ! まどかちゃん、それになのはちゃんやアインハルトちゃんはできるだけ後ろに下がりながらスバルを呼び続けるんだ! ただし、危険になったら逃げてくれ!」 「「「わかりました!」」」 「シンケンブルー! 俺と一緒にできるだけスバルの動きを止めて欲しいが、頼めるか?」 「お安い御用だ!」 「そうか! だが傷口が開いたら、すぐにでも退くんだ……いいな!」 「かたじけない!」 「よし……行くぞ!」  まるで頼れるリーダーのような印象が一号の声から放たれていて、この島のどこかにいるはずのキュアムーンライトを思い出させた。  始まりの会場で加頭順に対して宣戦布告をした時からそうだったが、やはり本郷猛は信頼できるとキュアサンシャインは思う。 「なのはさんはまぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい」  しかしそんな希望を一瞬で台無しにするかのようなスバルの呟きが、ここから少し離れた場所より発せられていた。ようやくスバルが両手を顔から離した頃には、一号とシンケンブルーが飛びかかり、続くようにキュアサンシャインも地面を蹴って走り出す。  呪いのような言葉と共に、スバルは一号を叩き潰そうと勢いよく振るった拳は避けられた。続くように回し蹴りも繰り出すが、一号は背後に飛んだので掠りもしない。 「ハァッ!」  そこからシンケンブルーは斬りかかるが、スバルの背中から飛び出したソレワターセの触手が盾のようになって刃を防ぐ。シンケンブルーはそれに構わず刀を振るうも、その度に耳障りな金属音が響くだけ。  植物にしか見えないそれは、シンケンマルの硬度を大きく超えていた。  一方でスバルはシンケンブルーに目もくれず、一号の攻撃を捌き続けている。前方から放たれる一号の拳を避けながら、視界の外から迫るシンケンブルーの斬撃を防いでいて防御に死角がなかった。 「くそっ!」  シンケンブルーは業を煮やしたのか、舌打ちをしながら一旦背後に飛ぶ。  彼と交代するようにキュアサンシャインは前に出ると、スバルが振り向きながらパンチを放ってきた。容赦のない拳に対してキュアサンシャインは少しだけ体勢を低くして避けて、反撃の掌底をスバルの腹部に打ち込む。  激突によって鈍い音が響くも、スバルはほんの少し後退するだけ。まともなダメージになってないだろうが、それなら攻撃を続けるしかなかった。  獣のような唸り声と共にスバルは右足で蹴りを繰り出すが、キュアサンシャインは左腕を掲げてそれを防ぐ。その衝撃はデザトリアンに直接殴られたかのように重かったが、両足に力を込めて吹き飛ばされないように踏ん張った。  腕に鈍い痛みが走って思わず表情を歪めるが何とか堪え、受け止めた足を弾いてスバルを蹌踉めかせる。キュアサンシャインはその隙を逃さずに拳を叩き込もうとするが、スバルはすぐに体勢を立て直して後方に飛んだ。  二人の間に数歩分の距離が開いて、その両端に立つキュアサンシャインとスバルの視線が激突する。 「まぶしい、ひかり、まぶしい、たいよう、まぶしい、なのはさん、まぶしい、さんしゃいん、まぶしい、まぶしい、まぶしい……」  両目に宿る金色の輝きからは、ダークプリキュアとはまた違う意味の強いおぞましさが感じられた。ソレワターセのせいで理性をほとんど無くしてしまったせいか、世界を砂漠にさせたデザートデビルのように見える。  そしてもう一つ。深い悲しみがスバルの瞳から感じられて、いつ泣き出してもおかしくなかった。本当はスバルだって戦いなんかやりたくないだろうし、人を傷つけるのは辛いかもしれない。  そんな姿を大切な人に見られるのはどれだけ苦しいのか……考えただけでも、キュアサンシャインの胸は痛む。  だから、これ以上スバルを悲しませたくなかった。 「まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしい、まぶしいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」  まるで助けを求めているようにも聞こえる声とは反対に、スバルは疾走してくる。  花火が鳴り響くような轟音と共に地面が砕け散って、ジェット機に匹敵する程の速度で迫りながら拳を掲げていた。  突進してくるスバルを前にキュアサンシャインは素早く構える。その時だった。 「危ないっ!」  ややくぐもったサイクロン・ドーパントの叫びが聞こえた瞬間、凄まじい突風が視界の外より吹いてくる。その流れにスバルは巻き込まれた事で動きを阻害されたのか、足を止めた。  サイクロン・ドーパントの方に振り向いたスバルは凄まじい風を受けても進もうとするが、重りを付けたかのように鈍くなっている。  台風が吹き荒れるような轟音が鼓膜を刺激する中、サイクロン・ドーパントがキュアサンシャインの元に駆け寄ってきた。 「いつきさん、大丈夫ですか!?」 「ありがとう! サイクロン……で、いいのかな?」 「はい! 今の私は、本郷さんと同じ仮面ライダーですから!」  ガイアメモリの力で異形に変わったまどかは嬉しそうな声で答える。  しかしキュアサンシャインは素直に喜べない。ガイアメモリはあの順が怪物になるために使っていた物だから、どう考えても怪しかった。  でも今はそれに触れている時ではない。まどかがガイアメモリを使ったおかげで助かったのは事実だから、その優しさと勇気に感謝しなければならなかった。 「そっか……でも、無理はしないで!」 「わかってます!」  そう言葉を交わして、キュアサンシャインとサイクロン・ドーパントは前を向く。  振り向いた先では、突風の圧力から解放されたスバルの攻撃を一号とシンケンブルーが捌きながら反撃して、時折なのはとアインハルトがソレワターセの触手を弾いている光景が見えた。  しかし数では勝っているものの、有利な戦いとは呼べずにようやく互角にまで届く程度だった。ソレワターセが強すぎるのもあるが、それ以上に四人とも本気で戦えていない。  ここで下手に本気を出してしまっては操られているスバルに怪我を負わせてしまうため、四人とも力を出せなくて不利な戦いになっている。  そんな中でもスバルは一瞬だけキュアサンシャインの方に振り向いて、背中からソレワターセの触手を勢いよく出してきた。 「危ないっ!」  サイクロン・ドーパントの前に素早く回って、両手を前に突き足して金色のバリアを張る。空気を裂きながら迫る数本の触手は、キュアサンシャインのサンフラワー・イージスと一瞬で衝突した。  しかし触手を使った攻撃はそれで止まらず、鞭のようにしなりながらバリアを叩いてくる。その威力は今までの攻撃よりも強いように思えた。  しかもこちらに攻撃している一方で、スバルは残りの四人を相手に応戦している。攻撃はほとんど通さず、そこから力強い反撃をしていた。 「このままじゃ……みんなが!」  そんな彼らが心配なのか、サイクロン・ドーパントはバリアの外に出て行ってしまい、飛び交う触手を突風で吹き飛ばしながらスバルの元に走る。 「待って、いきなり前に出ちゃ駄目!」  キュアサンシャインは呼び止めるがサイクロン・ドーパントは止まらず、ソレワターセの攻撃を風で防いでいるが、時折先端が皮膚を掠っていた。それでも、お構いなしに彼女は進んでいる。  しかしそんなことをさせても危なくなるだけだから、サイクロン・ドーパントを守るためにもキュアサンシャインはバリアを消して走り出した。 ◆ 「ほう、六人が相手でも互角以上に渡り合いますか……何とも、有能ですなぁ」 「恐らく、さっき取り込んだコウモリ男の影響もあるわね。あれも栄養になっているでしょうから」 「だとすると、奴はいい獲物だったということになりますな」  冷たい風の流れる木々の間から、ソレワターセの力によってノーザの操り人形となったスバル・ナカジマの戦いを眺める筋殻アクマロは、素直にそう口を零す。  シャンプーに化けたスバルがホテルに突入して六人を騙そうとしたが、中にいた二人の小娘が原因で失敗に終わった。その原因である高町なのはという少女を前にして、スバルは異様なまでに混乱しているが、それでも戦いは有利に見える。 「それにしても、あのシンケンブルーがここにいるとは実に都合がいい。このまま、潰してほしいものですな」 「ええ……あなたの悲願を達成するためにもね」  ふと、アクマロはノーザの方に振り向いた。  スバルが本郷猛達を騙す計画が狂っただけでなく、キュアサンシャインという未知のプリキュアが現れた。それにも関らずしてノーザは涼しい笑みを浮かべている。  無論、慌てふためかれるよりは信用できるがそれにしても落ち着きすぎていた。むしろ、都合のいいように計画が進んでいるようにも見える。 「ノーザさん、あなたは悔しくないのですかな? せっかくの計画を、あのような小娘どもに潰されたのですから」 「騙せなかったのは確かに残念だけど、それ以上に面白い物があるわ……あの高町なのはとかいう小娘よ」 「ほう?」  笑みを浮かべているノーザが見ている戦いの場に、アクマロは再び視線を移した。  そこでは白いバリアジャケットを着ているなのはがスバルの攻撃を防ぎながら、必死に止まるように呼びかけているのが見える。しかしソレワターセの力によって、スバルが止まることはない。  マッハキャリバーが言うにはなのはとスバルは何らかの繋がりがあるらしいが別にどうでもいい。  アクマロは一刻も早くスバルがなのはを殺して、そこから極上の絶望が生まれるのを期待していた。 「もしや、スバルがあのなのはとやらを殺すのをノーザさんも願っておりますかな?」 「そうだけど……ただ倒すだけじゃ面白くないでしょ? ただ倒すだけじゃ」 「ただ倒すだけでは……?」  そう語るノーザの顔と言葉にアクマロは疑問を抱く。  彼女の笑顔からは、人々の嘆きを糧とする外道衆のように確かな邪念が感じられた。まるで、それを見るだけで弱き人間を震え上がらせることができる程に。  十中八九、何かを企んでいるのは確実だった。 「ノーザさん、あなたは何をなさるおつもりですか?」 「今はまだ内緒よ。アクマロ君だって、楽しみは後にとっておきたいでしょう?」 「なるほど」  そう言うからには大層素晴らしい計画なのだろうと思い、アクマロは追求をやめる。ここで無理に聞き出したところで、知った時の喜びが減るだけ。今はノーザの計画とやらが成就するのを、待てばいい。  微かな期待を胸に抱いた頃、ノーザは前方に足を進めていた。 「おや、どうなされたのですかなノーザさん?」  アクマロは疑問をぶつけるが、ノーザから返ってきたのは「スイッチオーバー」という単語のみ。  その言葉が一体何を意味するのか。アクマロが考える間もなく、ノーザの姿が一瞬で変わっていく。腰にまで届く髪は黒から紫に染まって、ドレスも派手で不気味な色に変貌した。  ノーザは戦うために変身したのだと、アクマロは知る。一見するとただの人間にしか見えないが、その身体から放たれる威圧感がただ者ではないと語っていた。 「これから、極上の絶望と悲鳴を集めるわ」 「極上の絶望と悲鳴……ですか?」 「ええ、それにこのまま戦いを長引かせたら誰か一人でも逃げられてしまう可能性があるわ。そうなる前に私も行かないとね……」  背中を向けられているので表情は見えないが、妙に上機嫌な声だったので笑っていることが容易に想像できた。  知略に長けると思われるノーザがわざわざ戦場に出向くとは、余程の策があるのだろう。それもあの場を更に掻き乱すだけではなく、外道衆の糧ともなる負の感情を一瞬で溜められる程の。  それにいくらスバルとはいえ、人の域を超越した戦闘能力を持つ戦士達を六人も相手にしては誰かしら取り逃す可能性も否定できない。それで他の参加者と結託されて情報を伝えられては、裏目がんどう返しの術への道も遠くなる可能性がある。  今後の不穏分子を潰すという意味でも、確かにノーザも戦う必要があるかもしれなかった。 「宜しい。ならばこの筋殻アクマロめも、ノーザさんにお供いたしましょう」  そしてまたアクマロも両手に武器を携えながら、歩を進める。右手には普段愛用している削身断頭笏を、左手には三途の川に潜むナナシ連中が持つ刀が、存在意義を証明するかのようにそれぞれの刃を輝かせていた。  ノーザが言うには、両方ともシャンプーの支給品として渡されていたらしい。あのような己の力量も弁えない小娘が持っていたのは腹立たしいが、こうして戻った以上は考えても仕方がない。 「あら、本当にいいのかしら?」 「むしろ、我が望むことですから……こうして、悲劇の中に飛び込んでいくのは」 「そう……なら、私はあなたのことを応援してるわ」  ノーザの激励から感じられるのは、極寒の地を超える程の冷たさと隠す気のない悪意だけ。  明らかな嘘と感じられるくらいに冷酷で、本当はアクマロのことなど何一つ心配していないのは一瞬で察することができる。  しかしアクマロにとってはむしろそれが何よりも心地よかった。外道衆にとって絆や温かさなど、虫けらの価値すら持たない。  裏切りと悲劇こそが、外道にとって極上の酒にも勝るくらいに美味たる代物だった。 「はは、ご心配いただき心の底から嬉しゅうございます……!」  そんなノーザに対する恩返しとして、アクマロもまた邪念に満ちた言葉を贈る。彼もまた、ノーザを心から信頼しているわけではなかった。  いくら数多の世界を把握する組織の幹部だからと言って、それが外道衆に勝る要因になるわけではない。所詮は地獄への扉を開くために必要な、使い捨てのコマに過ぎなかった。  そしてそれはノーザも同じ。これはこの殺し合いの場で、どちらが先に己の欲望を叶えられるかの競い合いだった。 (さて、ノーザさん。お手並み拝見とさせて頂きましょう……あんたさんが一体、どんな悲劇を生んでくれるのかを)  宿敵シンケンジャーの一味であるシンケンブルーへの殺意と、ノーザに対する期待。それら二つを胸にしながらアクマロは戦場へと駆け抜けていった。 ◆  もうこれ以上、誰も死なせたくない。  この殺し合いを開いたキュウべぇや加頭順の言いなりになんて、なりたくない。  操られてしまった人を、この手で助けたい。  今日を生きているはずのみんなを、一人も犠牲にしたくない。  人を助けたいという、そんな純粋な願いだけを胸にした鹿目まどかは頼れる本郷達の力になろうと思って、サイクロン・ドーパントの力を得た。しかし現実はそんな彼女の願いを嘲笑うかのように、何も変わらない。 「ううううううう……あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」  そして今も、ノーザという女の人に操られてしまったスバル・ナカジマの喉から、獰猛な肉食獣すらも震え上がらせてしまう程、凄まじい咆吼が発せられた。  それによって空気も音を鳴らしながら振動して、サイクロン・ドーパントの肌に突き刺さる。もしもまどかのままだったら、確実に汗を流しながら怯えていたかもしれない。  しかし今の彼女は、ドーパントに変身した影響で恐怖心がそんなになかった。誰かを守りたいという強い決意が、皮肉にも精神に影響を及ぼすガイアメモリの毒素によって増幅されている。  同時にまどか自身の平常心も失っているが、幸か不幸かそれに気付いていない。そのおかげで、結果的には彼女の願いが叶っているのだから。 「お願いです、止まってください!」  そして今も、スバルを止めるためにサイクロン・ドーパントは呼びかけながら両手を前に出して突風を使う。風の勢いにスバルは飲み込まれるが、両足に付いたエンジンを唸らせながら突進してくる。サイクロン・ドーパントは風力を強めるが、止まらない。 「なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、なのはさん、まぶしい、まぶしい!」 「ひっ……!」  両目をギラギラと輝かせるスバルと目線があって、森の中でも抱いた恐怖がサイクロン・ドーパントの中に蘇った。心臓を鷲掴みにされているような気分になって無意識の内に力を緩めてしまい、それが致命的な隙となる。  L字型を作るように曲がるスバルの左腕が輝いたが、サイクロン・ドーパントがそれを前に何かをすることはできない。 「リボルバー……シュートッ!」  光はスバルの手中でボールのように圧縮されていき、弾丸のように勢いよく発射された。  先程は狙いに入ってなかったので当たらなかったが今は違う。ターゲットとなったサイクロン・ドーパントの右肩に容赦なく激突し、周囲に爆音を響かせた。 「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」  悲痛な叫び声と共に宙を舞った後、その身体は地面に叩き付けられる。まるで腕が千切れ飛ぶと思うほどの激痛が走り、サイクロン・ドーパントは恐る恐る目を移す。風のような体表は黒く焦げているが、何とか繋がっていた。  しかしそれに喜ぶ暇もなく、突風の圧力から開放されたスバルが突進してくるのをサイクロン・ドーパントは見る。だが、その道をキュアサンシャインとシンケンブルーが防いでくれた。  二人がスバルを止めている隙に、倒れたサイクロン・ドーパントの元へ一号が駆けつける。 「大丈夫か、まどかちゃん!?」  そして一号に支えられながら、サイクロン・ドーパントはゆっくりと立ち上がった。 「酷い怪我だ……まどかちゃん、やっぱり君はなのはちゃんやアインハルトちゃんと一緒に早くここから――」 「いいえ、私なら大丈夫です! こんな怪我、どうってことありません!」 「しかし!」 「心配してくれて、ありがとうございます! でも私も、スバルさんを元に戻す手伝いをしたいんです!」  一号の言葉を無理矢理遮りながら、サイクロン・ドーパントは痛む身体に鞭を打って再び走る。後ろから呼び止める声が聞こえるが、今の彼女には目の前で起こっている戦いの方が何よりも重要だった。  戦っている四人の仲間達はスバルの攻撃によって傷付いて倒れるが、すぐに立ち上がる。心配してくれる一号には少しだけ悪いけど、誰かが戦っているのに自分は見ているだけなんてもう嫌だった。  それに魔法少女になったみんなだって、どんなに傷付いても決して諦めないで魔女と戦っていたから、ちょっとの痛みなど耐えなければならない。 (ここにはほむらちゃん……それに死んだはずのみんなだって、きっといる! だから、みんなに会うまでは挫けてなんかいられないよ!)  そうやって自分に言い聞かせて、湧き上がってきた恐怖を無理して勇気という感情で埋め尽くそうとする。それは鹿目まどかが元々持っていた物ではなく、ガイアメモリの毒素が精神を大いに高ぶらせた結果、生み出された感情だった。  しかしいくら強くなったからといって、元々鹿目まどかに特別な力など何一つ持たない普通の女子中学生に過ぎない。それでガイアメモリを使ってドーパントとなっても、この世界では特筆した戦闘力を得たことにならなかった。  キュゥべえはまどかには莫大なる潜在能力が宿っていると言ったが、だからといってドーパントとなっただけの彼女に何かをもたらすことはない。  サイクロン・ドーパントの取った選択は勇気と呼べる代物ではなく、無謀以外の何物でもなかった。しかし、当の本人はそんなことなど微塵も考えていない。  この力さえあればみんなを助けられると、心の底から思っていた。 「ディバイン――」 「ディバイン――」  サイクロン・ドーパントの目前で、なのはとスバルは同じ言葉を紡ぎ始めている。  なのはが構えたレイジングハートの先端からを桃色の光が発せられるように、腰を落としたスバルの右手から漆黒の輝きが空気を揺らしながら広がった。  彼女たちの足元には色違いの魔法陣がゆっくりと回転していく。 *時系列順で読む Back:[[変身超人大戦・開幕]]Next:[[変身超人大戦・襲来]] *投下順で読む Back:[[変身超人大戦・開幕]]Next:[[変身超人大戦・襲来]] |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[本郷猛]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[沖一也]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[明堂院いつき]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[ノーザ]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[高町なのは]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[スバル・ナカジマ]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[アインハルト・ストラトス]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[鹿目まどか]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| |Back:[[変身超人大戦・開幕]]|[[ズ・ゴオマ・グ]]|Next:[[変身超人大戦・襲来]]| 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