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花咲く乙女(前編)」(2013/03/15 (金) 00:25:53) の最新版変更点

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*花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE  人の歩行を、初めてこう記す。  ──それは鋭い歩みだった、と。  ダークプリキュアの体は傷だらけであるにも関わらず、これでもう一時間近く歩みをやめていない。  ただ、その全身から溢れる気迫は、見る者を唖然とさせるほどであった。  今まで彼女にはなかった想いが芽生え始めているゆえ、モヤモヤとした感情に囚われて、その苛立ちが歩き方や表情にしっかりと出ている。  まるで地面に突き刺さるような細い足を、勢いよく前に出しているので、ただ歩いているだけでもなんとも鋭い印象を受けた。  行動そのものに、刃物のような切れ味がある。意味がわからないかもしれないが、彼女の歩みはそれだけ近寄り難いのだった。  この深い森の中で、私はキュアムーンライトを探している。  NEVERの男が変身する白い戦士との戦いで随分と時間を食ったが……まあいい。  私にとっては、キュアムーンライトと戦うことが今の指針。この殺し合いでは当然勝ち残るつもりだが、この目標だけは譲れない。他人にこの戦いを譲るわけにはいかないのだ。  ただ、今現在のキュアムーンライトの状況が状況であるだけに、私も妙な気持ちに囚われる。  既に奴が死んでいるのではないかという一点が私を震わすのだ。  そうすれば私はこの闘争心をぶつけることも、幾つもの問いの答えを知ることもなくなる。そのうえ、仮にキュアムーンライトを生き返らせたとして、NEVERなるものにされてしまっては、戦う意味も何もない。  ただ、私はこの奇妙な震えが、そうした今までの私の考えとは違うものなのではないかと思い始めていた。  今まで、こんなに体が震えたことはないのだ。  ましてや、他人が死ぬかもしれないと思って震えるなど……。 「キュアムーンライト……もうこの近くにはいないか……。NEVERの相手をしている間に遠くに行ってしまったようだな……」  私が周囲を見渡しても、月影ゆりの姿はない。  ……これだけ捜しても近くにいないというのだから、この付近にはいないのだろう。  見落としているだけとも思えないし、あれだけ身長が高ければ相当目立つはずだ(しかし、その点ではダークプリキュアも人の事を言えない)。  仕方がない。  まあ、とにかくまた適当にその辺りをうろうろ歩くことになるのだろう。見かけた相手も今は奴以外無視だ。基本的に体力を使いたくは無い状態にある。  私は手元にある変身道具を見つめた。ココロポット、それにプリキュアの種だ。  プリキュアの種は、欠片の状態になっている。  そのプリキュアの種の状態を見ると、私は不思議な気分になった。  本来、私が持っている欠片はこちら側ではないはずだ。だから、見慣れている方と逆の割れ方をしたこの種が新鮮だった。  これをまじまじと見つめるのは初めてのことになる。  何故、私が今これを持っているのか。  それを突き止めても、きっとわからないだろう。  これを潰せばキュアムーンライトを倒す絶好の機会となるにも関わらず、どこか嬉しくは無かった。  今まで捜していた相手のものがあるにも関わらず、その当人がいないというのももどかしい。  ザクッザクッザクッ。  不意に、近くで落ち葉の踏まれる音が耳を打った。  振り返ると、そこには見たことのある奴────NEVERの男が周囲を見回しながら小走りをしていた。  私は奴がこちらを向く前に、羽を縮め、身を屈めてその場に隠れた。どうやら、辛うじてこちらには気づいていないらしいが、やはり鉢合わせたくない相手だ。  …………もうここまで来ているのか。  先ほど気絶まで追い込んだはずであるにも関わらず、もう平然と散策を始めている。さすがはNEVERというべきか、本人の言うとおり、なかなかタフだ。  ……そういえば、奴も急いでいると言っていたが、確かにそんな様子に見える。  今度こそ、彼も私の相手をしている暇はなさそうだ。  しかし、私こそ、うかうかしてはいられない。  とにかく、奴も動いているということは早々にキュアムーンライトに会わなければならないということだ。  変身道具を取り戻せば、キュアムーンライトもまだ善戦する可能性が僅かながら存在する。  少なくとも、あんな状態で会わせられるわけがない。  一方的に嬲り殺されるだけだ。  ……………………………。  ……どうやら、NEVERの男はもう行ったらしい。  あちらの方向は先ほど、私も既に捜索済みだ。見つかることはないだろう。  キュアムーンライトも手のかかる奴だ。  これだけ捜しているのに現れないというのだ。  このまま村の方向に向かうのは考え直すか……?  そうした方がおそらく良いだろう。奴も私やNEVERの行動を読んで、村側を避けた可能性がある。  少なくとも、気配がある感じがしないのである。  とにかく、私はNEVERの男を避けるようにして、全く逆方向へと歩いていった。 ★ ★ ★ ★ ★  俺はいま、情けなくもダークプリキュアに敗れて走っていた。  ダークプリキュアの奴は、ふざけた事に、キュアムーンライトから奪った交渉材料を奴は取り返しにきやがった。  ……まあ、油断した俺にも問題はあっただろう。  だが、奴の行動が原因で、キュアムーンライトは逆に危険な状況になってると言っていい。  キュアムーンライトを見つけたらすぐに殺して奪う。そういう風に思考を変えただけだ。  何としてでも、ダークプリキュアより先にキュアムーンライトを見つけ出し、奴がまだ弱いうちに殺せばいい。  少なくとも、こちらにエターナルがあるうちはまだ安全だ。  ダークプリキュアも、そのうち殺そう。  …………奴の事を考えるより、自分の心配をした方がいいに決まってるな。  あの酵素だけは、どういう形であれ手に入れなければならない。京水が近くにいれば、それはそれで構わない。  あいつは俺のモノだ。だから、当然俺のために酵素を分けてくれるだろう。  その後で、京水と共にあの姉妹をブッ殺せばいい。  そうすりゃ、こちらも万全だ。  …………ん?  今、後ろから何か音がしたか? 誰がいるのか?  俺は振り向こうとしたが──  ────いや、待て。振り向いたら、こっちが気づいてるっていうことまでバレる。  奇襲にせよ、俺から隠れたにしろ、こっちが知っている分は有利だ。  奇襲を仕掛けてきたところを殺したほうが、相手の準備が薄くてラクになるし、成功すると信じて襲ってきたヤツの首を掻くことの方が面白えに決まってる。  通り過ぎたフリをしてやろう。  追いかけて来るようならブッ殺す。  来ないようなら、こっちの好き勝手にやればいい。  一応、キュアムーンライトである可能性も考えて、姿の確認だけはしておくべきか。  …………。  どうやら、隠れただけらしいな。俺を追ってくる気はねえし、もう後退してやがる。ただの臆病者か。  俺はそいつの方を見たが、その時はさすがに驚いた。  そこにあったのはダークプリキュアの奴の姿だ。通り過ぎたと思って、もうあの目立つ羽を掲げてやがる。  どうする?  ああ、勿論、追うに決まってる。  奴がキュアムーンライトの変身道具を返すっていうなら、それは絶好のチャンスだ。  その時が一番の狙い目となる。  姉妹揃って相手することもできるわけだ。 ★ ★ ★ ★ ★  …………私は、あれからかれこれ数分歩いていた。  どうやら、思ったよりも早く、他の参加者に遭遇することになったらしい。  マップで言う、「グロンギ遺跡」という場所の近くだ。  確かに人の気配を感じた。 「……そこにいるのは誰だ?」  私は問う。木の陰に隠れているのは、子供だ。  具体的な年齢は? と聞かれてもわからない。私は人間と同じように成長してきたわけではないし、姿がはっきり見えないからだ。  とにかく、木の後ろから少し見えた頭から推測される背丈が、私の腰と胸の間あたりであるとは思えた。 「出て来い。……さもなくば殺す」  私はそう言って脅す。子供一人襲うことに抵抗などあるわけもない。  とにかく、私は機械的に参加者を潰していきたいのだが、そこにいる子供から、まず情報を得たかった。  このあたりでキュアムーンライトを見なかったか。  その質問にさえ答えれば、肯定であろうとも否定であろうとも今は見逃そう。相手をするほどの者ではない。 「……」  子供は答えない。  私の問いへの答えを躊躇っているらしい。  まあ無理もないだろう。力を持たない人間が姿を出すのを躊躇うのは当然だ。  こういう状況でなければ、間髪入れずに襲っている可能性は高い。 「素直に出てくれば危害は加えん。姿を現せ!!」  私は怒鳴った。  少なくとも、殺し合いの場でそこまで子供一人に拘る必要もないだろう。  だが、重要な手がかりを得られる可能性もある。無視するよか、相手にして質問だけさせてもらったほうがいい。 「……わかったわ」  その台詞は、かなり高く聞き取りにくかった。短い言葉だったので聞き取れた、というくらいだろう。質問は、「はい」か「いいえ」か、それだけ簡潔に答えてもらわなければ会話もできそうにない。  ……木の陰から子供が顔を出す。  ────!?  その顔、その髪、その雰囲気が、私の目に映るなり、私は思わず声をあげた。 「お前はっ!?」 「月影ゆり……キュアムーンライトだった者よ」  ……その子供が、そう、答えた。  私は、その言葉を一字一句聞き逃さず、しっかり耳に入れた。  確かに、彼女の姿は私の知っている者とは明らかに違ったのだ────つい数時間前に私が戦ったはずのキュアムーンライトとも、その後でNEVERの男と交戦していた月影ゆりとも。  だが、それが彼女であるのは私にはわかった。おそらく、他のプリキュアや奴の知り合いが見ても、その容姿で気づくだろう。  帯びている雰囲気は、どう見ても彼女である。月影ゆりとこんなに似通った相手がいるとは思えなかった。  ……私はそれをどこかで感じていたのだろうが、どうしても否定せざるには負えなかった。 「嘘をつくなっ!!」  私が激昂しても、彼女は一切動揺しない。  子供離れした冷静さは、それが只の子供でないと告げていた。  私が襲った街では、子供はただ泣き喚き逃げるだけの弱い生物。  このように激昂されて平然とできるわけがない。 「だいたい、お前がキュアムーンライトだというのなら、その姿はなんだっ!!」 「長々と説明する気はないわ。……とにかく、私はあなたを倒さなければならない。予定が狂ったけど、仕方がないわね」  ゆりはバードメモリを取り出す。どうやら、それで変身して戦う気らしいが、勝敗は見えている。  この子供が怪人に変身したところで、私に勝つことはできまい。普段私と互角の戦いをするキュアムーンライトは、これより遥かに成長した姿だ。  ……いや、勝てないことは奴とてわかっているはずだ。 「……待て! キュアムーンライト。今は貴様と戦うよりもまず、聞いておきたいことがある」 「…………何かしら?」  奴はメモリを握る手を緩め、行動を止めた。  どうやら、命が消えるのを先延ばしにしたいらしい。  その事に対する憤りは止まない。  いっそ、こんな無様な「月影ゆり」はこの手で醜く殺してしまいたいほどの激昂だった。  だが、私はそんな心を鎮めて訊く。 「……何故殺し合いに乗った?」 「私も聞きたいわ。何故あなたがその事を知っているの……? だいたい、そんな事は、あなたには関係がないはずよ」 「関係がないだと!? お前は死んだ人間を蘇らせたいはずだ! NEVERの男との会話を聞いたから全て知っている」  私は冷静に話しているつもりだったが、相手の言い分が全く聞こえていない。  今にも怒りで我を忘れてしまいそうだった。  これはもう、私の知っているキュアムーンライトではない。  私が倒すべき相手はもうこの世にはいないのではないかと、そう思ってしまうほどに別人だった。 「お前が蘇らせたいのは、一体誰なんだ?」 「…………」 「何故、黙る! お前が蘇らせたいというのは、父か!? 母か!? それとも──────」  その先は出てこない。  何だか、はっきり言いたくなかったのである。  キュアムーンライトの様子が明らかに不自然だったから、そこから先に私が言おうとしたことこそ真実なのが、わかってしまった。  だが、それでも認めたくないので聞いている。 「答えられないわ。……それを答えたら私はきっと、あなたを倒すことができなくなる」  私は眉を顰める。  仲間を殺し、私を襲っておいてそう言うのか。  どうしてそれを答えれば殺せなくなるのか────その意味さえ、私にはわからない。  答えはわかっている。だが、それを答えたところで殺すのに支障はないはずだろう? 「…………ならせめて、これだけは教えてくれ、キュアムーンライト。お前は私が知るより未来のキュアムーンライトではないか?」 「…………」 「お前の仲間は、私に気になる事を教えた……。未来の私たちは、一体どういう関係なんだ!?」  純粋な興味などではなく、確実に知っておきたかった。  今まで、私はサバーク博士やキュアムーンライトの事しか興味がなかったはずなのに、ここで知る真実が増えるたびに自分の事が知りたくなる。  この答えこそ、私の命、私の人生なのではないか。  キュアサンシャインが、あのNEVERの男が、私とキュアムーンライトの関係を何と呼んだのか。  そして、NEVERの男が直前に会っていたのは誰か。 「……その口ぶりだと、私が語らなくても……あなたはもう全部、知らされているみたいね」 「まだ、……まだ私は全ては知らない」 「……でも、そこまで知っているのなら、私はあなたに残りの全てを告げなければならない。でも、本当は、あなたには何も知らないで欲しかった……。あなたには何も知らないまま死んでもらって、もっと幸せな命を授けてあげたかった……」  彼女は、物憂げにそう呟いた。  彼女が次に口にする言葉を、私は知っている。  だが、それが推測でなく、キュアムーンライトの口からしっかり確定することを待ちわびているのに、このまま時間が止まって真実から目を背けたい気持ちも揺れ動いた。  それでも、時間は止まらずに、キュアムーンライト────いや、 「あなたは、私の妹よ」  ────私の姉は、そう告げた。 ★ ★ ★ ★ ★  俺の目の前で女が二人グダグダと話している。  位置的にも遠すぎて、その内容ははっきりとは聞き取れない。……ダークプリキュアと喋ってる相手は、随分と身長が小さいようだが一体誰だ?  こっからじゃ、木が邪魔で全く見えねえな。  だが、少なくともあれは月影ゆりじゃなさそうだ。あいつのもっと身長は高いはず……。  あれじゃあ、どう見ても子供だろう。  …………とは言うが、流石に少し気になった。  あのダークプリキュアが話しているような相手だ。キュアムーンライトと関係がある可能性は否めない。  少し違う角度に回ってみるか……?  相手の姿は見えた方がいい。  後ろの遺跡も気になるが、そんなものは酵素を手に入れてからだ。  奴の持つ酵素がとことん気にかかる。  仕方ねえ。  やっぱりあのガキが見えるようにしないと何もわからなそうだ。  あのガキがキュアムーンライトの情報を持ってるって可能性も高い。  ダークプリキュアも何やら尋問じみたことをしてるみたいだしな。  俺は、その木陰からもっと別の角度にある木陰の方に向かって行った。 ★ ★ ★ ★ ★  私の目の前で、ダークプリキュアは地を叩く。  尖った岩が露出している地面だったので、少し気にかけたが、彼女はその岩より強く地を叩いていた。 「……何ということだ。何のための戦いだ…………姉妹同士が血で血を洗う戦いをしてきたというのか……!?」 「……そうなるわね。サバーク博士の正体は私の父さんだった。……そして、あなたもサバーク博士の娘……」  私は、ダークプリキュアに自分の知っている限りのことを告げる。彼女は、自分たちの関係を知って、一体どう行動するのだろう?  ……少なくとも、告げた時点で私は彼女を殺せそうになくなった。  彼女はこれを告げられた時点で、自分の姉に殺される運命にならなければならない。  いつの間にか姉になっていた身とはいえ、家族であることを意識した相手を殺すことはできなかった。  そう、ここに来る少し前……私は彼女を殺してしまったのだ。  あれは私が殺したと言っても過言ではない状況だった。だから、姉妹と殺し合う運命の辛さはわかっているつもりだった。  そんな辛さを背負うのは、私だけでいい。  今は知らぬ間に死んでもらって、もっと幸せな運命のある「月影家」の子として新たな命をあげたかったのだ。 「……それじゃあ、お前が蘇らせたい相手というのはサバーク博士か……! つまり、サバーク博士は……!」 「そう、死んだわ。デューンという男に殺された。……でも、私が必ず生き返らせてみせる。……そのために……私は……」  私はやはり、殺しあわなければならない運命にある。  そして、ここまで話してしまった以上は、尚更私は彼女を殺し合わさなければならない。  ……これを聞いた彼女はもしかすれば、サバーク博士のために殺し合いに乗ってしまうかもしれない。  孤独に戦ってきた私は、つい仲間を欲してしまったのかもしれない。彼女が一緒に戦ってくれれば、それだけ私たちの願いは叶うと心のどこかで思ってしまったのだろう。  …………でも、やっぱりそれだけはやめてほしい。  茨の道を歩くのは私だけでいい。  棘で体を痛めるだけの道を歩いて、倒れないうちにゴールまで走り抜けるのは私だけ。  ダークプリキュアはその先の光で待っていてほしいのだ。  ……まあ、現時点でその光があるのかも現時点では怪しいが、もう信じるしか道はない。  ダークプリキュアが少し躊躇って口を開く。 「……それが本当なら私はどうすればいい……。サバーク博士のためにお前を倒すことこそ、私の生きがいなのだ! サバーク博士も死ぬ! お前との戦いも無意味なものだった! それなら、私に生きる意味はないのか……?」 「そんなことないわっ! あなたが私に敗れた時も、父さんはあなたを自分の娘と呼んで抱きしめたの! 父さんは本当は、あなたにも辛い宿命なんて負わせたくなかったはずだから……あなたは普通の女の子として生きることだってできるのよ!」  私は本気で激昂する。  馬鹿なことを言い出した妹を叱咤するのは、こんな気持ちなのでしょうね。  でも、今は7歳の姿……威厳があるかどうかはわからない。  ただ、思いさえ伝わってくれればいい。 「……父、さん……?」  ダークプリキュアはそれだけ呟いた。以前の散り際のような安らかさはない。  その言葉を覚えたての赤子のように、自信なさげな一言だった。  しかし、だからこそそんな姿を見守ることができて嬉しかった。私は彼女が生まれてからの成長課程を見ていないのである。  ……私はその時、ふと、ダークプリキュアの手元に見覚えのあるものが乗せてあることに気がついた。  どうしてか。  仮面ライダーエターナルに奪われたはずのココロポットとプリキュアの種である。  ずっと握り締めていたのか、この子は……。 「……ねえ、それは……」 「ああ、そうだ。お前に、これを────」 「どうして? これは仮面ライダーエターナルが奪ったはず……もしかして、彼から取り戻したの?」  そう聞くと、ダークプリキュアは少し俯いた。 「…………ああ。キュアムーンライトとなったお前と戦うため、だった」  ……そうか。彼女はもう、そう思うようになるまで心を成長させていたのか。こうして俯くのも、私を付けねらうことと関連づけられた理由だったからだろうか。  とにかく、父さんはダークプリキュアの心の無い人形と呼んだが、彼女の心は確かに育っていたのだろう。  父の愛を求めたのも、それゆえだったのだ。 「とにかく、これはお前のものだ……受け取れ」  とはいえ、まだダークプリキュアはこの調子。  姉妹として見るには、まだ少し学習が足りないらしい。……まあ、突然の事だったから無理もないか。  突然、目の前の敵に自分たちが姉妹だと告げられても、そう易々と受け入れられるわけが無い。 「私はお前に妹だと言われてもまだ……はっきりと確信は持てない……。だが、私と戦う時は、それを使って戦ってもらわなければ張り合いもないからな」  私は、ただ彼女の奪い返した「それ」を受け取ろうと手を前に出した。  彼女はそれを渡すときに屈まなければならない。到底、私が姉とは思えない状態だ。  ─────────その刹那  白い風が、私たちの前を横切った。 ★ ★ ★ ★ ★  どうなってるのかはわからねえが、どうやらあれは月影ゆり……キュアムーンライトらしい。  随分と変わり果てた姿だ。俺も区別がつかなったくらいだ。こうして別の角度からアイツを覗いて初めてそれに気づいた俺はすっかり驚いている。  もしかすれば、あれはメモリの力かもしれない。……まあ、そんな事には興味はないが。  今なら殺せそうだが、そう簡単に不意打ちするとダークプリキュアが厄介だ。  先ほど交戦したときは随分仲の悪い姉妹に思えたが、ここでの二人は随分普通に会話している。  ……まあ、要するに片方が危機に陥ればもう片方がパニックになりかねないわけだ。  俺からしてみれば、ダークプリキュアという奴のが強かったが、エターナルに変身して襲撃すればこっちのもんだ。 『エターナル!』 「変身!」 『エターナル!』  俺の体はエターナルメモリの作り出した白い装甲に包まれる。  仮面ライダーエターナル。俺のもう一つの姿で、奴等の変身アイテムを奪う。厳重に所持している以上、直接デイパックを奪うのは難しい。  要するに、あれがダークプリキュアの手から月影ゆりの手に渡る瞬間を狙えばいいわけだ。 「踊るぞ、地獄のパーティータイムだ」 ★ ★ ★ ★ ★ *時系列順で読む Back:[[警察署の空に(後編)]]Next:[[花咲く乙女(中編)]] *投下順で読む Back:[[この想いを…(後編)]]Next:[[花咲く乙女(中編)]] |Back:[[激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(後編)]]|ダークプリキュア|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| |Back:[[激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(後編)]]|大道克己|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| |Back:[[奈落の花]]|月影ゆり|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| ----
*花咲く乙女(前編) ◆gry038wOvE  人の歩行を、初めてこう記す。  ──それは鋭い歩みだった、と。  ダークプリキュアの体は傷だらけであるにも関わらず、これでもう一時間近く歩みをやめていない。  ただ、その全身から溢れる気迫は、見る者を唖然とさせるほどであった。  今まで彼女にはなかった想いが芽生え始めているゆえ、モヤモヤとした感情に囚われて、その苛立ちが歩き方や表情にしっかりと出ている。  まるで地面に突き刺さるような細い足を、勢いよく前に出しているので、ただ歩いているだけでもなんとも鋭い印象を受けた。  行動そのものに、刃物のような切れ味がある。意味がわからないかもしれないが、彼女の歩みはそれだけ近寄り難いのだった。  この深い森の中で、私はキュアムーンライトを探している。  NEVERの男が変身する白い戦士との戦いで随分と時間を食ったが……まあいい。  私にとっては、キュアムーンライトと戦うことが今の指針。この殺し合いでは当然勝ち残るつもりだが、この目標だけは譲れない。他人にこの戦いを譲るわけにはいかないのだ。  ただ、今現在のキュアムーンライトの状況が状況であるだけに、私も妙な気持ちに囚われる。  既に奴が死んでいるのではないかという一点が私を震わすのだ。  そうすれば私はこの闘争心をぶつけることも、幾つもの問いの答えを知ることもなくなる。そのうえ、仮にキュアムーンライトを生き返らせたとして、NEVERなるものにされてしまっては、戦う意味も何もない。  ただ、私はこの奇妙な震えが、そうした今までの私の考えとは違うものなのではないかと思い始めていた。  今まで、こんなに体が震えたことはないのだ。  ましてや、他人が死ぬかもしれないと思って震えるなど……。 「キュアムーンライト……もうこの近くにはいないか……。NEVERの相手をしている間に遠くに行ってしまったようだな……」  私が周囲を見渡しても、月影ゆりの姿はない。  ……これだけ捜しても近くにいないというのだから、この付近にはいないのだろう。  見落としているだけとも思えないし、あれだけ身長が高ければ相当目立つはずだ(しかし、その点ではダークプリキュアも人の事を言えない)。  仕方がない。  まあ、とにかくまた適当にその辺りをうろうろ歩くことになるのだろう。見かけた相手も今は奴以外無視だ。基本的に体力を使いたくは無い状態にある。  私は手元にある変身道具を見つめた。ココロポット、それにプリキュアの種だ。  プリキュアの種は、欠片の状態になっている。  そのプリキュアの種の状態を見ると、私は不思議な気分になった。  本来、私が持っている欠片はこちら側ではないはずだ。だから、見慣れている方と逆の割れ方をしたこの種が新鮮だった。  これをまじまじと見つめるのは初めてのことになる。  何故、私が今これを持っているのか。  それを突き止めても、きっとわからないだろう。  これを潰せばキュアムーンライトを倒す絶好の機会となるにも関わらず、どこか嬉しくは無かった。  今まで捜していた相手のものがあるにも関わらず、その当人がいないというのももどかしい。  ザクッザクッザクッ。  不意に、近くで落ち葉の踏まれる音が耳を打った。  振り返ると、そこには見たことのある奴────NEVERの男が周囲を見回しながら小走りをしていた。  私は奴がこちらを向く前に、羽を縮め、身を屈めてその場に隠れた。どうやら、辛うじてこちらには気づいていないらしいが、やはり鉢合わせたくない相手だ。  …………もうここまで来ているのか。  先ほど気絶まで追い込んだはずであるにも関わらず、もう平然と散策を始めている。さすがはNEVERというべきか、本人の言うとおり、なかなかタフだ。  ……そういえば、奴も急いでいると言っていたが、確かにそんな様子に見える。  今度こそ、彼も私の相手をしている暇はなさそうだ。  しかし、私こそ、うかうかしてはいられない。  とにかく、奴も動いているということは早々にキュアムーンライトに会わなければならないということだ。  変身道具を取り戻せば、キュアムーンライトもまだ善戦する可能性が僅かながら存在する。  少なくとも、あんな状態で会わせられるわけがない。  一方的に嬲り殺されるだけだ。  ……………………………。  ……どうやら、NEVERの男はもう行ったらしい。  あちらの方向は先ほど、私も既に捜索済みだ。見つかることはないだろう。  キュアムーンライトも手のかかる奴だ。  これだけ捜しているのに現れないというのだ。  このまま村の方向に向かうのは考え直すか……?  そうした方がおそらく良いだろう。奴も私やNEVERの行動を読んで、村側を避けた可能性がある。  少なくとも、気配がある感じがしないのである。  とにかく、私はNEVERの男を避けるようにして、全く逆方向へと歩いていった。 ★ ★ ★ ★ ★  俺はいま、情けなくもダークプリキュアに敗れて走っていた。  ダークプリキュアの奴は、ふざけた事に、キュアムーンライトから奪った交渉材料を奴は取り返しにきやがった。  ……まあ、油断した俺にも問題はあっただろう。  だが、奴の行動が原因で、キュアムーンライトは逆に危険な状況になってると言っていい。  キュアムーンライトを見つけたらすぐに殺して奪う。そういう風に思考を変えただけだ。  何としてでも、ダークプリキュアより先にキュアムーンライトを見つけ出し、奴がまだ弱いうちに殺せばいい。  少なくとも、こちらにエターナルがあるうちはまだ安全だ。  ダークプリキュアも、そのうち殺そう。  …………奴の事を考えるより、自分の心配をした方がいいに決まってるな。  あの酵素だけは、どういう形であれ手に入れなければならない。京水が近くにいれば、それはそれで構わない。  あいつは俺のモノだ。だから、当然俺のために酵素を分けてくれるだろう。  その後で、京水と共にあの姉妹をブッ殺せばいい。  そうすりゃ、こちらも万全だ。  …………ん?  今、後ろから何か音がしたか? 誰がいるのか?  俺は振り向こうとしたが──  ────いや、待て。振り向いたら、こっちが気づいてるっていうことまでバレる。  奇襲にせよ、俺から隠れたにしろ、こっちが知っている分は有利だ。  奇襲を仕掛けてきたところを殺したほうが、相手の準備が薄くてラクになるし、成功すると信じて襲ってきたヤツの首を掻くことの方が面白えに決まってる。  通り過ぎたフリをしてやろう。  追いかけて来るようならブッ殺す。  来ないようなら、こっちの好き勝手にやればいい。  一応、キュアムーンライトである可能性も考えて、姿の確認だけはしておくべきか。  …………。  どうやら、隠れただけらしいな。俺を追ってくる気はねえし、もう後退してやがる。ただの臆病者か。  俺はそいつの方を見たが、その時はさすがに驚いた。  そこにあったのはダークプリキュアの奴の姿だ。通り過ぎたと思って、もうあの目立つ羽を掲げてやがる。  どうする?  ああ、勿論、追うに決まってる。  奴がキュアムーンライトの変身道具を返すっていうなら、それは絶好のチャンスだ。  その時が一番の狙い目となる。  姉妹揃って相手することもできるわけだ。 ★ ★ ★ ★ ★  …………私は、あれからかれこれ数分歩いていた。  どうやら、思ったよりも早く、他の参加者に遭遇することになったらしい。  マップで言う、「グロンギ遺跡」という場所の近くだ。  確かに人の気配を感じた。 「……そこにいるのは誰だ?」  私は問う。木の陰に隠れているのは、子供だ。  具体的な年齢は? と聞かれてもわからない。私は人間と同じように成長してきたわけではないし、姿がはっきり見えないからだ。  とにかく、木の後ろから少し見えた頭から推測される背丈が、私の腰と胸の間あたりであるとは思えた。 「出て来い。……さもなくば殺す」  私はそう言って脅す。子供一人襲うことに抵抗などあるわけもない。  とにかく、私は機械的に参加者を潰していきたいのだが、そこにいる子供から、まず情報を得たかった。  このあたりでキュアムーンライトを見なかったか。  その質問にさえ答えれば、肯定であろうとも否定であろうとも今は見逃そう。相手をするほどの者ではない。 「……」  子供は答えない。  私の問いへの答えを躊躇っているらしい。  まあ無理もないだろう。力を持たない人間が姿を出すのを躊躇うのは当然だ。  こういう状況でなければ、間髪入れずに襲っている可能性は高い。 「素直に出てくれば危害は加えん。姿を現せ!!」  私は怒鳴った。  少なくとも、殺し合いの場でそこまで子供一人に拘る必要もないだろう。  だが、重要な手がかりを得られる可能性もある。無視するよか、相手にして質問だけさせてもらったほうがいい。 「……わかったわ」  その台詞は、かなり高く聞き取りにくかった。短い言葉だったので聞き取れた、というくらいだろう。質問は、「はい」か「いいえ」か、それだけ簡潔に答えてもらわなければ会話もできそうにない。  ……木の陰から子供が顔を出す。  ────!?  その顔、その髪、その雰囲気が、私の目に映るなり、私は思わず声をあげた。 「お前はっ!?」 「月影ゆり……キュアムーンライトだった者よ」  ……その子供が、そう、答えた。  私は、その言葉を一字一句聞き逃さず、しっかり耳に入れた。  確かに、彼女の姿は私の知っている者とは明らかに違ったのだ────つい数時間前に私が戦ったはずのキュアムーンライトとも、その後でNEVERの男と交戦していた月影ゆりとも。  だが、それが彼女であるのは私にはわかった。おそらく、他のプリキュアや奴の知り合いが見ても、その容姿で気づくだろう。  帯びている雰囲気は、どう見ても彼女である。月影ゆりとこんなに似通った相手がいるとは思えなかった。  ……私はそれをどこかで感じていたのだろうが、どうしても否定せざるには負えなかった。 「嘘をつくなっ!!」  私が激昂しても、彼女は一切動揺しない。  子供離れした冷静さは、それが只の子供でないと告げていた。  私が襲った街では、子供はただ泣き喚き逃げるだけの弱い生物。  このように激昂されて平然とできるわけがない。 「だいたい、お前がキュアムーンライトだというのなら、その姿はなんだっ!!」 「長々と説明する気はないわ。……とにかく、私はあなたを倒さなければならない。予定が狂ったけど、仕方がないわね」  ゆりはバードメモリを取り出す。どうやら、それで変身して戦う気らしいが、勝敗は見えている。  この子供が怪人に変身したところで、私に勝つことはできまい。普段私と互角の戦いをするキュアムーンライトは、これより遥かに成長した姿だ。  ……いや、勝てないことは奴とてわかっているはずだ。 「……待て! キュアムーンライト。今は貴様と戦うよりもまず、聞いておきたいことがある」 「…………何かしら?」  奴はメモリを握る手を緩め、行動を止めた。  どうやら、命が消えるのを先延ばしにしたいらしい。  その事に対する憤りは止まない。  いっそ、こんな無様な「月影ゆり」はこの手で醜く殺してしまいたいほどの激昂だった。  だが、私はそんな心を鎮めて訊く。 「……何故殺し合いに乗った?」 「私も聞きたいわ。何故あなたがその事を知っているの……? だいたい、そんな事は、あなたには関係がないはずよ」 「関係がないだと!? お前は死んだ人間を蘇らせたいはずだ! NEVERの男との会話を聞いたから全て知っている」  私は冷静に話しているつもりだったが、相手の言い分が全く聞こえていない。  今にも怒りで我を忘れてしまいそうだった。  これはもう、私の知っているキュアムーンライトではない。  私が倒すべき相手はもうこの世にはいないのではないかと、そう思ってしまうほどに別人だった。 「お前が蘇らせたいのは、一体誰なんだ?」 「…………」 「何故、黙る! お前が蘇らせたいというのは、父か!? 母か!? それとも──────」  その先は出てこない。  何だか、はっきり言いたくなかったのである。  キュアムーンライトの様子が明らかに不自然だったから、そこから先に私が言おうとしたことこそ真実なのが、わかってしまった。  だが、それでも認めたくないので聞いている。 「答えられないわ。……それを答えたら私はきっと、あなたを倒すことができなくなる」  私は眉を顰める。  仲間を殺し、私を襲っておいてそう言うのか。  どうしてそれを答えれば殺せなくなるのか────その意味さえ、私にはわからない。  答えはわかっている。だが、それを答えたところで殺すのに支障はないはずだろう? 「…………ならせめて、これだけは教えてくれ、キュアムーンライト。お前は私が知るより未来のキュアムーンライトではないか?」 「…………」 「お前の仲間は、私に気になる事を教えた……。未来の私たちは、一体どういう関係なんだ!?」  純粋な興味などではなく、確実に知っておきたかった。  今まで、私はサバーク博士やキュアムーンライトの事しか興味がなかったはずなのに、ここで知る真実が増えるたびに自分の事が知りたくなる。  この答えこそ、私の命、私の人生なのではないか。  キュアサンシャインが、あのNEVERの男が、私とキュアムーンライトの関係を何と呼んだのか。  そして、NEVERの男が直前に会っていたのは誰か。 「……その口ぶりだと、私が語らなくても……あなたはもう全部、知らされているみたいね」 「まだ、……まだ私は全ては知らない」 「……でも、そこまで知っているのなら、私はあなたに残りの全てを告げなければならない。でも、本当は、あなたには何も知らないで欲しかった……。あなたには何も知らないまま死んでもらって、もっと幸せな命を授けてあげたかった……」  彼女は、物憂げにそう呟いた。  彼女が次に口にする言葉を、私は知っている。  だが、それが推測でなく、キュアムーンライトの口からしっかり確定することを待ちわびているのに、このまま時間が止まって真実から目を背けたい気持ちも揺れ動いた。  それでも、時間は止まらずに、キュアムーンライト────いや、 「あなたは、私の妹よ」  ────私の姉は、そう告げた。 ★ ★ ★ ★ ★  俺の目の前で女が二人グダグダと話している。  位置的にも遠すぎて、その内容ははっきりとは聞き取れない。……ダークプリキュアと喋ってる相手は、随分と身長が小さいようだが一体誰だ?  こっからじゃ、木が邪魔で全く見えねえな。  だが、少なくともあれは月影ゆりじゃなさそうだ。あいつのもっと身長は高いはず……。  あれじゃあ、どう見ても子供だろう。  …………とは言うが、流石に少し気になった。  あのダークプリキュアが話しているような相手だ。キュアムーンライトと関係がある可能性は否めない。  少し違う角度に回ってみるか……?  相手の姿は見えた方がいい。  後ろの遺跡も気になるが、そんなものは酵素を手に入れてからだ。  奴の持つ酵素がとことん気にかかる。  仕方ねえ。  やっぱりあのガキが見えるようにしないと何もわからなそうだ。  あのガキがキュアムーンライトの情報を持ってるって可能性も高い。  ダークプリキュアも何やら尋問じみたことをしてるみたいだしな。  俺は、その木陰からもっと別の角度にある木陰の方に向かって行った。 ★ ★ ★ ★ ★  私の目の前で、ダークプリキュアは地を叩く。  尖った岩が露出している地面だったので、少し気にかけたが、彼女はその岩より強く地を叩いていた。 「……何ということだ。何のための戦いだ…………姉妹同士が血で血を洗う戦いをしてきたというのか……!?」 「……そうなるわね。サバーク博士の正体は私の父さんだった。……そして、あなたもサバーク博士の娘……」  私は、ダークプリキュアに自分の知っている限りのことを告げる。彼女は、自分たちの関係を知って、一体どう行動するのだろう?  ……少なくとも、告げた時点で私は彼女を殺せそうになくなった。  彼女はこれを告げられた時点で、自分の姉に殺される運命にならなければならない。  いつの間にか姉になっていた身とはいえ、家族であることを意識した相手を殺すことはできなかった。  そう、ここに来る少し前……私は彼女を殺してしまったのだ。  あれは私が殺したと言っても過言ではない状況だった。だから、姉妹と殺し合う運命の辛さはわかっているつもりだった。  そんな辛さを背負うのは、私だけでいい。  今は知らぬ間に死んでもらって、もっと幸せな運命のある「月影家」の子として新たな命をあげたかったのだ。 「……それじゃあ、お前が蘇らせたい相手というのはサバーク博士か……! つまり、サバーク博士は……!」 「そう、死んだわ。デューンという男に殺された。……でも、私が必ず生き返らせてみせる。……そのために……私は……」  私はやはり、殺しあわなければならない運命にある。  そして、ここまで話してしまった以上は、尚更私は彼女を殺し合わさなければならない。  ……これを聞いた彼女はもしかすれば、サバーク博士のために殺し合いに乗ってしまうかもしれない。  孤独に戦ってきた私は、つい仲間を欲してしまったのかもしれない。彼女が一緒に戦ってくれれば、それだけ私たちの願いは叶うと心のどこかで思ってしまったのだろう。  …………でも、やっぱりそれだけはやめてほしい。  茨の道を歩くのは私だけでいい。  棘で体を痛めるだけの道を歩いて、倒れないうちにゴールまで走り抜けるのは私だけ。  ダークプリキュアはその先の光で待っていてほしいのだ。  ……まあ、現時点でその光があるのかも現時点では怪しいが、もう信じるしか道はない。  ダークプリキュアが少し躊躇って口を開く。 「……それが本当なら私はどうすればいい……。サバーク博士のためにお前を倒すことこそ、私の生きがいなのだ! サバーク博士も死ぬ! お前との戦いも無意味なものだった! それなら、私に生きる意味はないのか……?」 「そんなことないわっ! あなたが私に敗れた時も、父さんはあなたを自分の娘と呼んで抱きしめたの! 父さんは本当は、あなたにも辛い宿命なんて負わせたくなかったはずだから……あなたは普通の女の子として生きることだってできるのよ!」  私は本気で激昂する。  馬鹿なことを言い出した妹を叱咤するのは、こんな気持ちなのでしょうね。  でも、今は7歳の姿……威厳があるかどうかはわからない。  ただ、思いさえ伝わってくれればいい。 「……父、さん……?」  ダークプリキュアはそれだけ呟いた。以前の散り際のような安らかさはない。  その言葉を覚えたての赤子のように、自信なさげな一言だった。  しかし、だからこそそんな姿を見守ることができて嬉しかった。私は彼女が生まれてからの成長課程を見ていないのである。  ……私はその時、ふと、ダークプリキュアの手元に見覚えのあるものが乗せてあることに気がついた。  どうしてか。  仮面ライダーエターナルに奪われたはずのココロポットとプリキュアの種である。  ずっと握り締めていたのか、この子は……。 「……ねえ、それは……」 「ああ、そうだ。お前に、これを────」 「どうして? これは仮面ライダーエターナルが奪ったはず……もしかして、彼から取り戻したの?」  そう聞くと、ダークプリキュアは少し俯いた。 「…………ああ。キュアムーンライトとなったお前と戦うため、だった」  ……そうか。彼女はもう、そう思うようになるまで心を成長させていたのか。こうして俯くのも、私を付けねらうことと関連づけられた理由だったからだろうか。  とにかく、父さんはダークプリキュアの心の無い人形と呼んだが、彼女の心は確かに育っていたのだろう。  父の愛を求めたのも、それゆえだったのだ。 「とにかく、これはお前のものだ……受け取れ」  とはいえ、まだダークプリキュアはこの調子。  姉妹として見るには、まだ少し学習が足りないらしい。……まあ、突然の事だったから無理もないか。  突然、目の前の敵に自分たちが姉妹だと告げられても、そう易々と受け入れられるわけが無い。 「私はお前に妹だと言われてもまだ……はっきりと確信は持てない……。だが、私と戦う時は、それを使って戦ってもらわなければ張り合いもないからな」  私は、ただ彼女の奪い返した「それ」を受け取ろうと手を前に出した。  彼女はそれを渡すときに屈まなければならない。到底、私が姉とは思えない状態だ。  ─────────その刹那  白い風が、私たちの前を横切った。 ★ ★ ★ ★ ★  どうなってるのかはわからねえが、どうやらあれは月影ゆり……キュアムーンライトらしい。  随分と変わり果てた姿だ。俺も区別がつかなったくらいだ。こうして別の角度からアイツを覗いて初めてそれに気づいた俺はすっかり驚いている。  もしかすれば、あれはメモリの力かもしれない。……まあ、そんな事には興味はないが。  今なら殺せそうだが、そう簡単に不意打ちするとダークプリキュアが厄介だ。  先ほど交戦したときは随分仲の悪い姉妹に思えたが、ここでの二人は随分普通に会話している。  ……まあ、要するに片方が危機に陥ればもう片方がパニックになりかねないわけだ。  俺からしてみれば、ダークプリキュアという奴のが強かったが、エターナルに変身して襲撃すればこっちのもんだ。 『エターナル!』 「変身!」 『エターナル!』  俺の体はエターナルメモリの作り出した白い装甲に包まれる。  仮面ライダーエターナル。俺のもう一つの姿で、奴等の変身アイテムを奪う。厳重に所持している以上、直接デイパックを奪うのは難しい。  要するに、あれがダークプリキュアの手から月影ゆりの手に渡る瞬間を狙えばいいわけだ。 「踊るぞ、地獄のパーティータイムだ」 ★ ★ ★ ★ ★ *時系列順で読む Back:[[警察署の空に(後編)]]Next:[[花咲く乙女(中編)]] *投下順で読む Back:[[この想いを…(後編)]]Next:[[花咲く乙女(中編)]] |Back:[[激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(後編)]]|[[ダークプリキュア]]|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| |Back:[[激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(後編)]]|[[大道克己]]|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| |Back:[[奈落の花]]|[[月影ゆり]]|Next:[[花咲く乙女(中編)]]| ----

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