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「崩壊─ゲームオーバー─(9)」(2015/07/13 (月) 21:47:14) の最新版変更点
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*崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE
「ラブ……! ラブ……!」
蒼乃美希が何度呼びかけても、返事はない。
桃園ラブの身体は、何度揺さぶっても、呼びかけても、美希が何を思っても、返事をする事はなかった。しかし、背中を上に向けて倒れたそれの表情を見る決意はなかった。
確実に死んでいる。
それを理解し、それでも、──「万が一」に賭けて、少しの希望を持って、何度か呼びかけたが、返事はやはり、帰ってこなかった。
「……」
そう、こんなにもあっけなく。若干、十四歳の少女の命が……その短さは、丁度同じ年齢の美希が一番よくわかる。
彼女の持つ夢も、彼女と親しい男の子も、彼女を愛した家族も、美希はよく知っている。
それが、最終決戦の間近で──目的だった、みんなでの脱出を目前にして、今まで、共に戦い積み重ねてきた日々は、脆く崩れ去った。
やっと出口が見えている迷宮で、桃園ラブは消えてしまったのだ。
「許せない……!」
強く拳を握るキュアベリー。
涙より先に出た、底知れぬ怒り──。
こんな感情が湧きでた相手は、この殺し合いの中でも石堀光彦だけだった──。
真正の外道。かの外道衆でさえ、門前払いするほどの凶悪だった。
憎悪というのが、ここまで体の底から湧きあがる物だとは、蒼乃美希も思っていなかった。
キュアベリーは、ほとんど衝動的に、ダークアクセルの前に駈け出していた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう言って、飄々と、悠々と、あまりにもあっさりと、キュアベリーの怒りの籠ったパンチを避ける。彼女の左側に身を躱した。
「……そうだ、その憎しみだっ! だが、その程度の力では俺には勝てない……っ!!」
そして、──キュアベリーを吹き飛ばす。
ベリーは全身の力で体勢を立てようとするが、何メートルも後方に向けて落ちていった。
圧倒的な力で地面に叩きつけられ、大事な事実に気づく。
──そうだ、石堀はキュアピーチを一撃で倒すほどの力の持ち主だ。
プリキュアのままでは勝てないのだ……。
「うわあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」
男の叫び声が響いた。
涼村暁の、今までに発した事もないような声であった。
ガイアポロンもまた、駆けだすなり、振りかぶってダークアクセルを斬り殺そうとする。
そんな我武者羅な攻撃が効くはずもないのは当然であるが、それでも、冷静に考える力などどこにもなかった。
「テメェッ!!! 本当に殺しやがった!!!! こんな残虐な形で、女の子を一人──」
ガイアポロンの刃が振り下ろされようとする。
「でも前から気づいていただろう? 俺が桃園さんを狙っている事は……。それを守れなかったのは、誰の責任だ? ──涼村暁」
刃を振るおうとしていた剣が止まった。
はっとする。──理屈は正しいとも言えないのに、反論ができない。
そんな言葉が耳を通るなり、暁は──再び、雄叫びをあげた。
「うわああああああああああああああッッッッ!!!!!!」
それしか返答はなかった。
自分の責任も、彼は理解している。──あれだけ、ずっと守ろうとしてきたのに。
力の差は圧倒的だった。目を離した一瞬で、彼の計画は完了してしまった。
それでも。それでも結局は関係ない。暁は、また、同行してきた女の子を一人守れなかったのだ。その事実が暁から理性を奪う。
──あの桃園ラブを、守れなかった。
それを認めたくない。
「テメがァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」
また、ガイアセイバーの刃が石堀の眼前に振るわれた。
だが、それを石堀は生の左手で受け止めると、もう血まみれの右手でガイアポロンの胸部に手をかざした。
その瞬間──ガイアポロンが不穏な予測をした。
──負ける?
そう、思ったのだ。
「やれやれ……ハァッ!」
ダークザギの持つ、“闇の波動”がその手から放たれる。
すると、ガイアポロンの体が、──吹き飛ばされる。
何メートルもの距離を一瞬でガイアポロンは、旅する事になった。何本かの灌木をなぎ倒して、ようやくガイアポロンが地面に辿り着く。
「くっ……!!」
大木に体が叩きつけられようとした直前、──空中から青い影が現れる。
クウレツキだ。
命令を受けずとも、激突する前にガイアポロンを捕まえ、空中へと避難させたのである。
超光騎士は、思いの外、優秀なサポートメカであった。
『大丈夫デスカ、ガイアポロン……!』
「……サンキュー、クウレツキ!」
地上を見下ろすと、石堀の元でリクシンキとホウジンキが戦っていた。
リクシンキがリクシンビームを放ち、ホウジンキはジェットドリルを換装して石堀を倒そうとする。
「超光騎士……、起動してやった恩を忘れたのかな?」
石堀は、それをそれぞれ片手で受け止めてしまった。
そして、ホウジンキのジェットドリルが直後にへし折られ、その回転を止める。
ホウジンキの腕がショートする。
『アナタハ、倒スベキ相手デス!』
『許セマセン……!』
──しかし、その直後に、石堀の手から黒い衝撃波が放たれ、ホウジンキの首だけが、何メートルも後方に吹き飛んだ。
僅か一瞬の出来事で、リクシンキもAIで感知しきれなかったらしい。
『……!』
刹那──、今度は、リクシンキの眼前まで石堀は肉薄していた。驚異的なスピードであり、まるでワープのようにさえ見えた。
石堀は、リクシンキの胸に手をかざすと、そこで同じように闇の波動を発する。
「死ね……いや、壊れろッ!」
──リクシンキの胸部から、爆音が聞こえた。
リクシンキのボディが大破する。ホウジンキと同じように首が飛んだが、それ以外にも手足がばらばらになり、内部機械が露出していた。
修復不能レベルまでに、完膚なきまでに
ホウジンキが、首をなくし、胴体だけになりながらも、スーパーキャノンの砲撃を石堀に向けた。
「お前もだ、……消えろッ!」
そして、石堀は遠距離から、同じように黒い衝撃波を発した。
ホウジンキの胸の命中し、ホウジンキも胸部から爆ぜ、バラバラに砕け散った。
「……くそっ……! 何て事しやがる」
『リクシンキ……! ホウジンキ……!』
空中でそれを見ていたクウレツキは激しいショックを受けたようだった。
彼らはロボットだが、同じように目覚めた兄弟に違いない。
それを、起動した恩人である石堀光彦に攻撃され、破壊されてしまっている。
そんなクウレツキに、ガイアポロンは言った。
「おい、クウレツキ! お前らは俺たちの戦いには、関係ない! ……待機してろ。お前もリクシンキやホウジンキみたいにはなりたくないだろ!」
彼らしからぬ優しさに驚いたが、こういわれてしまうと、逆にクウレツキは使命感に燃えてしまうのだった。
『シカシ、アナタ達ヲ助ケルノガ我々ノ役目デス!』
「そんなの知らねえよ、俺の命令だ! ……あいつは俺がぶっ潰す!!」
次の瞬間、意を決して、ガイアポロンは叫んだ。
今、石堀光彦に誰より怒りを感じているのは、自分なのだと、ガイアポロンは思っている。
桃園ラブと一緒にいるのが好きだったのもある。
しかし、──石堀光彦と一緒にいたのは、たとえ敵だとしても、楽しいと……涼村暁は少しでも思ってしまっていたからだった。
「────シャイニングアタック!!」
ガイアポロンの胸からその胸像が現れる。
叫んだガイアポロンは、空中でクウレツキの腕を振り払って石堀に向けて突進していく。
シャイニングアタック──。
シャンゼリオンであった時からの必殺技である。
『……ガイアポロンッ! アナタトイウ人ハ……!』
全く、短時間しか共にいなかったとはいえ、クウレツキは、かなり聞きわけがない主人に見舞われてしまったらしい。──主人が石堀に向かっていくのを見下ろしながら、そう思った。
思えば、リクシンキも、ホウジンキも、クウレツキも、涼村暁という男が主だと知り、かなり失望した気分になったのだ。
ダークザイドであるゴハットの方が本当の主人なのではないかと思ったほどである。
今向かえば、やられるに決まっているというのに突き進んでしまう。
彼は、クウレツキに、「待機してろ」と言った。
「──フンッ」
石堀は障壁を張って、シャイニングアタックを防御する。
真っ黒なバリアが、シャイニングアタックを拒む。
──クソッ……!
石堀の持つ闇の力は強大だった。
直後には、シャイニングアタックを弾き、ガイアポロンを地面に転がしてしまう。
石堀は、今日まで共に行動してきた涼村暁に向けても、冷徹に右手を翳し、あの衝撃波を放とうとしていた。
そして、それは次の瞬間、放たれる。
『──危ナイッ!!』
その時、ガイアポロンの目の前に、クウレツキが飛来する。
石堀とガイアポロンの間に立ったクウレツキは、その次の瞬間には、その衝撃波を一身に受ける事になった。
彼らの目の前で、彼の新品同様の青いボディが弾け飛び、大破した。
『────ッ!!!』
クウレツキのばらばらになった破片が、周囲に吹き飛んだ。
石堀の周囲は、三体のメカの内部メカが大量に散らばっている。
その内、──クウレツキの頭部だけが、ガイアポロンの前に転がって来た。
「くそっ……馬鹿野郎ォッ……! だから、待ってろって言ったのに……!」
ガイアポロンは、その頭部を拾い上げた。
ガイアポロンは、自分の攻撃が全くの無意味であり、それだけではなく、犠牲を出してしまった事を悔やみ、そう呟いた。
『──ガイアポロン』
クウレツキは、残っていた頭部の言語回路とAIだけで、ガイアポロンに声をかけた。
彼の目がチカチカと弱弱しく点滅し、ガイアポロンに最後の言葉を告げる。
『アナタノヨウナ人ノ為ニ作ラレ、少シノ間デモ、共ニ戦エタ事ハ、私タチノ、誇リ、デス………………』
三体の超光騎士は、この時を持って、全機能を停止した。
ガイアポロンは、自分に最後まで忠実だった三体の友の一人を、腕の中で強く抱きしめ、怒りに燃えた。
&color(red){【リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
&color(red){【ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
&color(red){【クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
◇
「石堀、てめぇっ!! 許さねぇ!! 絶対殺してやる!!」
キュアパッション──杏子が前に出る。
ガイアポロンや超光騎士たちの奮闘の後も彼女の怒りは冷めやらなかった。
「おっと、魔法少女だった佐倉さん。少し目を離していたらプリキュアに、か……その服装、似合ってるじゃないか」
「その減らず口を二度と聞けなくしてやるッッ!!! 悪魔ッッ!!!」
そんな言葉を、悠々と聞く石堀。
そして、またどこか皮肉的に、こう告げる。
「……そうだな。ただ、前の方が似合ってたと言ったらどうする──?」
──そう言われた瞬間、杏子は気づいた。自分自身のキュアパッションの変身が解け、彼女は魔法少女の姿になっていたのである。
杏子は、思わず、自らの腰部まで視線を落とした。
そこには、装着されていたはずのリンクルンがなく、その残骸と思しき物が地面に落ちていたのがちらりと見えた。
「何ッ──!?」
──石堀は、変身アイテムだけを的確に破壊したのだ。
長い時間の経過とともに杏子が使用する事になったリンクルンは、僅か数分でその機能を終える。
アカルンは、その残骸の中で、弱弱しく、埋もれるようにして倒れていた。辛うじて無事だが、二度とリンクルンは使用できないだろう。
「てめぇ……っ……!」
しかし……敵が変身アイテムを破壊する戦法を取り、それを実行できるスピードとパワーを持っているすると、不味い事になる。
──そう。杏子は、彼に知られている。
キュアパッションと違い、魔法少女というのは、変身アイテムそのものの破壊が──。
「──これが、命取り、だろ?」
石堀の手が、杏子の胸元のソウルジェムへと伸びた。
──不味い。本当に。
跳ね返そうと、槍をそれより早く胸元の前に翳そうとするが、やはり敵の方が一枚上手だった。杏子より素早く動いた彼の腕は、その指先をソウルジェムに掠めた。槍は素通りする。
そして、気づけば、また──次の瞬間にはそれは彼の手にあった。
駄目だ。それが破壊されたら──。
(──ッッ!!)
しかし、見逃す理由はどこにもない。──杏子は、死を覚悟する。
まともな意味もなく、杏子は目を瞑った。
死ぬ──。
だが、杏子の意識は、その先もまだあった。
眼前では、石堀が、杏子のソウルジェムを左手で弄んでいた。少し拍子抜けしたが、それも束の間だった。
助かった事を安心してはいない。
何か、それより恐ろしい事を企んだからこそ──彼は、それを手に構えているのだ。
そして、それは次の瞬間に、実行される事になる。
「安心しろ、壊しはしない。でも、このソウルジェムって奴には、ちょっと興味があるんだ……。──そう、たとえば、こんな風に、絶望の海に沈めてみたらどうかな?」
石堀は、そう言って、ソウルジェムを「忘却の海」へと放り捨てたのである。
それは全員の目の前で、人々の恐怖の記憶の海の中へと沈んでいく。──後悔してももう遅い。
それが杏子の「本体」だ。
「なっ……!」
杏子は、自らの魂が遠くへと沈んでいくのを前にしていた。広く深い忘却の海の中に投げ出され、膨大な情報の波に、一瞬で流されていくソウルジェム。
杏子は自分の意識が、掠れていくのを確かに感じた。
──ああ、クソ……
「あれは忘却の海レーテ。あの中は人間が立ち入れないほど根深い人間の心の闇に繋がっている。──人間があそこに迷い込めば、絶対に生きてここに戻る事はできない」
杏子の意識が、完全に薄れていく。
とうにソウルジェムは、肉体の意識を途絶する距離にまで達している。しかし、残滓というのか、シャットダウンされる直前、杏子は聞き、思った。
「そうだ、お前は死なない……! これから永久に、時空の中を一人ぼっちで彷徨うんだ、佐倉杏子……。寂しい寂しい一人ぼっちの旅を──永遠になッ!」
──悪い、みんな……何もできなかったけど、コイツを、頼んだ……
杏子の意識が、遂に途絶えた。
映像が消え、笑い声が最後に耳に反響した。
「……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!」
&color(red){【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 再起不能】}
◇
「────」
ラブの死。超光騎士たちの再起不能。杏子のソウルジェムの廃棄。
それによって、怒りに火が付いた者もいる。──しかし、そんな最中で、キュアベリーは、妙に頭が落ち着いた気分で、ある物を取りだしていた。
実のところ、落ち着いた気分というのは勘違いも甚だしい錯覚である。
美希の心は、むしろ頭に血が上りすぎて、何も考えず、全ての外部情報を途絶し、石堀光彦を撃退する最も効率的な戦法だけを考え、実行するようになっていた。
少なくとも、その瞬間だけは──。
「ッ!? ──駄目だ、美希ちゃんっ! ここで変身しちゃ──」
孤門が何か不穏な物を感じて、美希を制止しようとしたが、手遅れだった。
──ベリーの懐から取りだされた、光の巨人への変身アイテム。
真木舜一から姫矢准へ、姫矢准から佐倉杏子へ、佐倉杏子から──蒼乃美希へ、光を継ぐべき者に継がれ、ここまでつながったエボルトラスターである。
彼女は、この強大な敵に立ち向かう為の最後の武器として使おうとしていた。
石堀が、その瞬間、ニヤリと嗤った。
「────うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
キュアベリーは──蒼乃美希は、その力を解放するべく、エボルトブラスターを強く引く。
憎しみの力を発しながら──それでも、ウルトラマンは美希と一つになる。
彼女の身体がウルトラマンネクサスへと変身する。
──桃園ラブ。
──佐倉杏子。
二人の事を頭に浮かべながら、──いや、あるいは、石堀とは関係なくこの殺し合いの中で死んだ他の仲間の事も頭の中に思い出しながら、今まで感じた事のない憎しみを、ウルトラマンの光の中に込めた。
この殺し合いを止め、ダークザギに立ち向かう為の力として──。
──その時。
「────ッ!?」
何故か、ウルトラマンネクサスの身体は、忘却の海レーテから発された無数の黒煙のような触手によって引き寄せられたのだ。それは一瞬で四肢を絡め取り、ウルトラマンの自由を奪う。
抵抗する間もなく、ウルトラマンはレーテの前に引きずり込まれた。
「ウルトラマン……ッ!?」
巨大なレーテの異空間の中で、ウルトラマンの制限は解除され、孤門以外の誰も見た事のなかった身長49メートルいっぱいの巨体が磔にされる。
その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。
「グッ……グァァァァ…………ッッ!!」
ウルトラマンは一瞬でそのレーテの力に合併される。
──そして、なおも赤く光っていた胸部エナジーコアから、膨大なエネルギーがレーテの中へと流れ込んだのは、次の瞬間だった。
「──レーテに蓄積された恐怖のエネルギーが、お前の憎しみにシンクロした。結果……光は闇に変換される!」
石堀だけが知るその理論を口にした所で、誰もその意味を解す事はないだろう。
しかし、それが石堀にとって計画通りの出来事であるのは間違いなかった。彼の微笑みは何度も見たが、この瞬間ほどそれに戦慄した事はない。
──やがて、変身者である美希が、意識を失う。
ウルトラマンの指先からすぐに力がなくなった。
英雄は、その瞳の輝きを失い、頭を垂れる。
その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。美しささえ感じる、巨人の終焉に──。
「来い……っ! これで……っ!!」
石堀が待っていたのは、この瞬間だった。
エナジーコアの光は、「闇」となり、レーテを介して石堀の身体に向けて膨大なエネルギーを注ぎ込む。
ウルトラマンの光だけではなく、そこに、美希の持っていたプリキュアの光まで相乗される。それも石堀光彦が狙った通りだった。
完全にその表情を異形に包んだ彼は、まだわずかに残っている人間の表情で最後に笑った。
「─────────復活の時だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
──石堀光彦の身体に、ウルトラマンネクサスから発された膨大な闇のエネルギーが吸収され、彼はその真の姿を現世に再現する事に成功する。
周囲の大木が、その瞬間に爆発さえ起こした。あり余ったエネルギーを、周囲の破壊に利用したのだ。
「フハァーーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハハッハハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!」
暗黒破壊神ダークザギ──。
ウルトラマンに酷似した──しかし、その全身を闇色に塗り替えたような姿の戦士。
血管のように全身を駆け巡る真っ赤なエナジーもまた特徴的であった。
まるで狂った獣のように爪を立て、全ての生物を「虚無」に変えようとする怪物。
それは、決して再びこの世に生を受けてはならない存在の姿だった。
しかし、この時、目覚めてしまった。彼自身の周到な計画によって──。
『なんてこった……こりゃあ、どんなホラーよりも凄まじい闇の力を感じるぜッ!!』
とうに制限時間が来て召喚を解除していた零の指で、魔導輪ザルバが言う。
だが、零はその言葉に、こう返した。
「ああ……言われなくても、わかってる」
他の誰もが、言葉を失って、それを“見上げていた”。
そこにいるのは、等身大の敵ではない。身長50メートルの怪物である。
彼が吸収したエネルギーは、あまりに強大すぎた。彼らの世界の人間たちだけでなく、あらゆる多重世界の恐怖のエネルギーを収集していたレーテと結合した闇の力である。
もはや、制限などは些末な問題でしかない。
ダークザギが猛威を振るえるシチュエーションは完全だった。
────果たして、一体、この場にいる誰が、こんな敵を止められるのだろう。
&color(red){【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! 再起不能】}
&color(red){【ダークザギ@ウルトラマンネクサス 覚醒】}
◇
誰もがダークザギの姿を見上げていた時、ただ一人だけ──。
そうこの時、ただ一人だけ、その巨大さに驚きながら、全く、別の行動を実行した者がいたのである。
彼が注視していたのは、ダークザギではなかった。
この闇の巨人への恐怖は、無論ある。誰よりもこの巨人への無力を実感している。──しかし、それを、ほんの些細な事であるかのように、彼はこの時に感じていた。
忘却の海レーテから、おびただしい闇が噴出し、ウルトラマンの姿を覆い隠していく。
レーテに閉じ込められた杏子のソウルジェムと、美希は闇の中に消えてしまった。
もう、遠いどこかへ行ってしまう……。
「美希ちゃん……っ!」
この巨大な忘却の海の中に囚われた蒼乃美希の事が、──孤門一輝は気がかりだった。
そして、気づけば、彼はその闇の中に飛び込もうとしていた。
──僕は、こんな恐怖の中に閉じ込められた人を守るために、レスキュー隊に……。
……そう。それは、遠い子供の時の記憶だった。
孤門は、どこか流れの早い川で溺れそうになった事があったのだ。
川で溺れて死んだ子供たちのニュースを何度か聞いていたのを思い出し、子供心にもその時は“死”を覚悟した。濁流は孤門の足を、川の深くへと体を沈めていく。沈んでしまえば、息もできない。もう二度と、友達や、父や母の顔を見る事ができない永久の闇の中に沈んでしまうのだ。
そしてその時、周りには誰もいなかった。誰も助けてくれる人はいない。
何の気なしに川で遊んでいた自分が、明日には大自然の犠牲者としてニュースになる──。
……死ぬのが怖かった。
だが、どうする事もできず、彼は、一度、“生”を諦めた。
直後に、一人の男が孤門の手を取り、助けてくれたその時まで、自分は確実に死ぬ物だと諦めていた──。
(──諦めるな!!)
そうだ……。
あの時、僕を助けてくれた人の声が聞こえる。
(───諦めるな!!)
あの時、僕を導いてくれた人の声が聞こえる。
そうだ、諦めちゃだめだ。
どんな深く暗い海の底にも、希望は必ずある……。
……諦めるな。
今度は──今度は、僕が、誰かに手を差し伸べる番だ!!
杏子ちゃんや美希ちゃんが、この深い海の中を彷徨っているのなら、僕が二人を助けなきゃ駄目なんだ!!
「──孤門さんっ!」
孤門一輝は、強い意志と共に、忘却の海レーテに飛び込んでいった。
その背中を目で追ったマミは、驚いて彼の名前を見た。周りが皆、一度そちらに目をやった。
忘却の海レーテ──は深く暗い闇の中で、そこを侵せば二度と出てこられなくなるであろう事は、誰の目にも明白だった。考えなしにここに飛び込もうとするなどいるはずもない。動物的本能が、そこに入るのを無意識的に拒絶するような場所だった。
しかし、彼らが目にする事ができたのは、孤門の足が、レーテの闇の中に飲み込まれていく瞬間であった。
&color(red){【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 再起不能】}
◇
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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*崩壊─ゲームオーバー─(9) ◆gry038wOvE
「ラブ……! ラブ……!」
蒼乃美希が何度呼びかけても、返事はない。
桃園ラブの身体は、何度揺さぶっても、呼びかけても、美希が何を思っても、返事をする事はなかった。しかし、背中を上に向けて倒れたそれの表情を見る決意はなかった。
確実に死んでいる。
それを理解し、それでも、──「万が一」に賭けて、少しの希望を持って、何度か呼びかけたが、返事はやはり、帰ってこなかった。
「……」
そう、こんなにもあっけなく。若干、十四歳の少女の命が……その短さは、丁度同じ年齢の美希が一番よくわかる。
彼女の持つ夢も、彼女と親しい男の子も、彼女を愛した家族も、美希はよく知っている。
それが、最終決戦の間近で──目的だった、みんなでの脱出を目前にして、今まで、共に戦い積み重ねてきた日々は、脆く崩れ去った。
やっと出口が見えている迷宮で、桃園ラブは消えてしまったのだ。
「許せない……!」
強く拳を握るキュアベリー。
涙より先に出た、底知れぬ怒り──。
こんな感情が湧きでた相手は、この殺し合いの中でも石堀光彦だけだった──。
真正の外道。かの外道衆でさえ、門前払いするほどの凶悪だった。
憎悪というのが、ここまで体の底から湧きあがる物だとは、蒼乃美希も思っていなかった。
キュアベリーは、ほとんど衝動的に、ダークアクセルの前に駈け出していた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう言って、飄々と、悠々と、あまりにもあっさりと、キュアベリーの怒りの籠ったパンチを避ける。彼女の左側に身を躱した。
「……そうだ、その憎しみだっ! だが、その程度の力では俺には勝てない……っ!!」
そして、──キュアベリーを吹き飛ばす。
ベリーは全身の力で体勢を立てようとするが、何メートルも後方に向けて落ちていった。
圧倒的な力で地面に叩きつけられ、大事な事実に気づく。
──そうだ、石堀はキュアピーチを一撃で倒すほどの力の持ち主だ。
プリキュアのままでは勝てないのだ……。
「うわあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」
男の叫び声が響いた。
涼村暁の、今までに発した事もないような声であった。
ガイアポロンもまた、駆けだすなり、振りかぶってダークアクセルを斬り殺そうとする。
そんな我武者羅な攻撃が効くはずもないのは当然であるが、それでも、冷静に考える力などどこにもなかった。
「テメェッ!!! 本当に殺しやがった!!!! こんな残虐な形で、女の子を一人──」
ガイアポロンの刃が振り下ろされようとする。
「でも前から気づいていただろう? 俺が桃園さんを狙っている事は……。それを守れなかったのは、誰の責任だ? ──涼村暁」
刃を振るおうとしていた剣が止まった。
はっとする。──理屈は正しいとも言えないのに、反論ができない。
そんな言葉が耳を通るなり、暁は──再び、雄叫びをあげた。
「うわああああああああああああああッッッッ!!!!!!」
それしか返答はなかった。
自分の責任も、彼は理解している。──あれだけ、ずっと守ろうとしてきたのに。
力の差は圧倒的だった。目を離した一瞬で、彼の計画は完了してしまった。
それでも。それでも結局は関係ない。暁は、また、同行してきた女の子を一人守れなかったのだ。その事実が暁から理性を奪う。
──あの桃園ラブを、守れなかった。
それを認めたくない。
「テメがァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!」
また、ガイアセイバーの刃が石堀の眼前に振るわれた。
だが、それを石堀は生の左手で受け止めると、もう血まみれの右手でガイアポロンの胸部に手をかざした。
その瞬間──ガイアポロンが不穏な予測をした。
──負ける?
そう、思ったのだ。
「やれやれ……ハァッ!」
ダークザギの持つ、“闇の波動”がその手から放たれる。
すると、ガイアポロンの体が、──吹き飛ばされる。
何メートルもの距離を一瞬でガイアポロンは、旅する事になった。何本かの灌木をなぎ倒して、ようやくガイアポロンが地面に辿り着く。
「くっ……!!」
大木に体が叩きつけられようとした直前、──空中から青い影が現れる。
クウレツキだ。
命令を受けずとも、激突する前にガイアポロンを捕まえ、空中へと避難させたのである。
超光騎士は、思いの外、優秀なサポートメカであった。
『大丈夫デスカ、ガイアポロン……!』
「……サンキュー、クウレツキ!」
地上を見下ろすと、石堀の元でリクシンキとホウジンキが戦っていた。
リクシンキがリクシンビームを放ち、ホウジンキはジェットドリルを換装して石堀を倒そうとする。
「超光騎士……、起動してやった恩を忘れたのかな?」
石堀は、それをそれぞれ片手で受け止めてしまった。
そして、ホウジンキのジェットドリルが直後にへし折られ、その回転を止める。
ホウジンキの腕がショートする。
『アナタハ、倒スベキ相手デス!』
『許セマセン……!』
──しかし、その直後に、石堀の手から黒い衝撃波が放たれ、ホウジンキの首だけが、何メートルも後方に吹き飛んだ。
僅か一瞬の出来事で、リクシンキもAIで感知しきれなかったらしい。
『……!』
刹那──、今度は、リクシンキの眼前まで石堀は肉薄していた。驚異的なスピードであり、まるでワープのようにさえ見えた。
石堀は、リクシンキの胸に手をかざすと、そこで同じように闇の波動を発する。
「死ね……いや、壊れろッ!」
──リクシンキの胸部から、爆音が聞こえた。
リクシンキのボディが大破する。ホウジンキと同じように首が飛んだが、それ以外にも手足がばらばらになり、内部機械が露出していた。
修復不能レベルまでに、完膚なきまでに
ホウジンキが、首をなくし、胴体だけになりながらも、スーパーキャノンの砲撃を石堀に向けた。
「お前もだ、……消えろッ!」
そして、石堀は遠距離から、同じように黒い衝撃波を発した。
ホウジンキの胸の命中し、ホウジンキも胸部から爆ぜ、バラバラに砕け散った。
「……くそっ……! 何て事しやがる」
『リクシンキ……! ホウジンキ……!』
空中でそれを見ていたクウレツキは激しいショックを受けたようだった。
彼らはロボットだが、同じように目覚めた兄弟に違いない。
それを、起動した恩人である石堀光彦に攻撃され、破壊されてしまっている。
そんなクウレツキに、ガイアポロンは言った。
「おい、クウレツキ! お前らは俺たちの戦いには、関係ない! ……待機してろ。お前もリクシンキやホウジンキみたいにはなりたくないだろ!」
彼らしからぬ優しさに驚いたが、こういわれてしまうと、逆にクウレツキは使命感に燃えてしまうのだった。
『シカシ、アナタ達ヲ助ケルノガ我々ノ役目デス!』
「そんなの知らねえよ、俺の命令だ! ……あいつは俺がぶっ潰す!!」
次の瞬間、意を決して、ガイアポロンは叫んだ。
今、石堀光彦に誰より怒りを感じているのは、自分なのだと、ガイアポロンは思っている。
桃園ラブと一緒にいるのが好きだったのもある。
しかし、──石堀光彦と一緒にいたのは、たとえ敵だとしても、楽しいと……涼村暁は少しでも思ってしまっていたからだった。
「────シャイニングアタック!!」
ガイアポロンの胸からその胸像が現れる。
叫んだガイアポロンは、空中でクウレツキの腕を振り払って石堀に向けて突進していく。
シャイニングアタック──。
シャンゼリオンであった時からの必殺技である。
『……ガイアポロンッ! アナタトイウ人ハ……!』
全く、短時間しか共にいなかったとはいえ、クウレツキは、かなり聞きわけがない主人に見舞われてしまったらしい。──主人が石堀に向かっていくのを見下ろしながら、そう思った。
思えば、リクシンキも、ホウジンキも、クウレツキも、涼村暁という男が主だと知り、かなり失望した気分になったのだ。
ダークザイドであるゴハットの方が本当の主人なのではないかと思ったほどである。
今向かえば、やられるに決まっているというのに突き進んでしまう。
彼は、クウレツキに、「待機してろ」と言った。
「──フンッ」
石堀は障壁を張って、シャイニングアタックを防御する。
真っ黒なバリアが、シャイニングアタックを拒む。
──クソッ……!
石堀の持つ闇の力は強大だった。
直後には、シャイニングアタックを弾き、ガイアポロンを地面に転がしてしまう。
石堀は、今日まで共に行動してきた涼村暁に向けても、冷徹に右手を翳し、あの衝撃波を放とうとしていた。
そして、それは次の瞬間、放たれる。
『──危ナイッ!!』
その時、ガイアポロンの目の前に、クウレツキが飛来する。
石堀とガイアポロンの間に立ったクウレツキは、その次の瞬間には、その衝撃波を一身に受ける事になった。
彼らの目の前で、彼の新品同様の青いボディが弾け飛び、大破した。
『────ッ!!!』
クウレツキのばらばらになった破片が、周囲に吹き飛んだ。
石堀の周囲は、三体のメカの内部メカが大量に散らばっている。
その内、──クウレツキの頭部だけが、ガイアポロンの前に転がって来た。
「くそっ……馬鹿野郎ォッ……! だから、待ってろって言ったのに……!」
ガイアポロンは、その頭部を拾い上げた。
ガイアポロンは、自分の攻撃が全くの無意味であり、それだけではなく、犠牲を出してしまった事を悔やみ、そう呟いた。
『──ガイアポロン』
クウレツキは、残っていた頭部の言語回路とAIだけで、ガイアポロンに声をかけた。
彼の目がチカチカと弱弱しく点滅し、ガイアポロンに最後の言葉を告げる。
『アナタノヨウナ人ノ為ニ作ラレ、少シノ間デモ、共ニ戦エタ事ハ、私タチノ、誇リ、デス………………』
三体の超光騎士は、この時を持って、全機能を停止した。
ガイアポロンは、自分に最後まで忠実だった三体の友の一人を、腕の中で強く抱きしめ、怒りに燃えた。
&color(red){【リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
&color(red){【ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
&color(red){【クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン 破壊】}
◇
「石堀、てめぇっ!! 許さねぇ!! 絶対殺してやる!!」
キュアパッション──杏子が前に出る。
ガイアポロンや超光騎士たちの奮闘の後も彼女の怒りは冷めやらなかった。
「おっと、魔法少女だった佐倉さん。少し目を離していたらプリキュアに、か……その服装、似合ってるじゃないか」
「その減らず口を二度と聞けなくしてやるッッ!!! 悪魔ッッ!!!」
そんな言葉を、悠々と聞く石堀。
そして、またどこか皮肉的に、こう告げる。
「……そうだな。ただ、前の方が似合ってたと言ったらどうする──?」
──そう言われた瞬間、杏子は気づいた。自分自身のキュアパッションの変身が解け、彼女は魔法少女の姿になっていたのである。
杏子は、思わず、自らの腰部まで視線を落とした。
そこには、装着されていたはずのリンクルンがなく、その残骸と思しき物が地面に落ちていたのがちらりと見えた。
「何ッ──!?」
──石堀は、変身アイテムだけを的確に破壊したのだ。
長い時間の経過とともに杏子が使用する事になったリンクルンは、僅か数分でその機能を終える。
アカルンは、その残骸の中で、弱弱しく、埋もれるようにして倒れていた。辛うじて無事だが、二度とリンクルンは使用できないだろう。
「てめぇ……っ……!」
しかし……敵が変身アイテムを破壊する戦法を取り、それを実行できるスピードとパワーを持っているすると、不味い事になる。
──そう。杏子は、彼に知られている。
キュアパッションと違い、魔法少女というのは、変身アイテムそのものの破壊が──。
「──これが、命取り、だろ?」
石堀の手が、杏子の胸元のソウルジェムへと伸びた。
──不味い。本当に。
跳ね返そうと、槍をそれより早く胸元の前に翳そうとするが、やはり敵の方が一枚上手だった。杏子より素早く動いた彼の腕は、その指先をソウルジェムに掠めた。槍は素通りする。
そして、気づけば、また──次の瞬間にはそれは彼の手にあった。
駄目だ。それが破壊されたら──。
(──ッッ!!)
しかし、見逃す理由はどこにもない。──杏子は、死を覚悟する。
まともな意味もなく、杏子は目を瞑った。
死ぬ──。
だが、杏子の意識は、その先もまだあった。
眼前では、石堀が、杏子のソウルジェムを左手で弄んでいた。少し拍子抜けしたが、それも束の間だった。
助かった事を安心してはいない。
何か、それより恐ろしい事を企んだからこそ──彼は、それを手に構えているのだ。
そして、それは次の瞬間に、実行される事になる。
「安心しろ、壊しはしない。でも、このソウルジェムって奴には、ちょっと興味があるんだ……。──そう、たとえば、こんな風に、絶望の海に沈めてみたらどうかな?」
石堀は、そう言って、ソウルジェムを「忘却の海」へと放り捨てたのである。
それは全員の目の前で、人々の恐怖の記憶の海の中へと沈んでいく。──後悔してももう遅い。
それが杏子の「本体」だ。
「なっ……!」
杏子は、自らの魂が遠くへと沈んでいくのを前にしていた。広く深い忘却の海の中に投げ出され、膨大な情報の波に、一瞬で流されていくソウルジェム。
杏子は自分の意識が、掠れていくのを確かに感じた。
──ああ、クソ……
「あれは忘却の海レーテ。あの中は人間が立ち入れないほど根深い人間の心の闇に繋がっている。──人間があそこに迷い込めば、絶対に生きてここに戻る事はできない」
杏子の意識が、完全に薄れていく。
とうにソウルジェムは、肉体の意識を途絶する距離にまで達している。しかし、残滓というのか、シャットダウンされる直前、杏子は聞き、思った。
「そうだ、お前は死なない……! これから永久に、時空の中を一人ぼっちで彷徨うんだ、佐倉杏子……。寂しい寂しい一人ぼっちの旅を──永遠になッ!」
──悪い、みんな……何もできなかったけど、コイツを、頼んだ……
杏子の意識が、遂に途絶えた。
映像が消え、笑い声が最後に耳に反響した。
「……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!」
&color(red){【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 再起不能】}
◇
「────」
ラブの死。超光騎士たちの再起不能。杏子のソウルジェムの廃棄。
それによって、怒りに火が付いた者もいる。──しかし、そんな最中で、キュアベリーは、妙に頭が落ち着いた気分で、ある物を取りだしていた。
実のところ、落ち着いた気分というのは勘違いも甚だしい錯覚である。
美希の心は、むしろ頭に血が上りすぎて、何も考えず、全ての外部情報を途絶し、石堀光彦を撃退する最も効率的な戦法だけを考え、実行するようになっていた。
少なくとも、その瞬間だけは──。
「ッ!? ──駄目だ、美希ちゃんっ! ここで変身しちゃ──」
孤門が何か不穏な物を感じて、美希を制止しようとしたが、手遅れだった。
──ベリーの懐から取りだされた、光の巨人への変身アイテム。
真木舜一から姫矢准へ、姫矢准から佐倉杏子へ、佐倉杏子から──蒼乃美希へ、光を継ぐべき者に継がれ、ここまでつながったエボルトラスターである。
彼女は、この強大な敵に立ち向かう為の最後の武器として使おうとしていた。
石堀が、その瞬間、ニヤリと嗤った。
「────うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
キュアベリーは──蒼乃美希は、その力を解放するべく、エボルトブラスターを強く引く。
憎しみの力を発しながら──それでも、ウルトラマンは美希と一つになる。
彼女の身体がウルトラマンネクサスへと変身する。
──桃園ラブ。
──佐倉杏子。
二人の事を頭に浮かべながら、──いや、あるいは、石堀とは関係なくこの殺し合いの中で死んだ他の仲間の事も頭の中に思い出しながら、今まで感じた事のない憎しみを、ウルトラマンの光の中に込めた。
この殺し合いを止め、ダークザギに立ち向かう為の力として──。
──その時。
「────ッ!?」
何故か、ウルトラマンネクサスの身体は、忘却の海レーテから発された無数の黒煙のような触手によって引き寄せられたのだ。それは一瞬で四肢を絡め取り、ウルトラマンの自由を奪う。
抵抗する間もなく、ウルトラマンはレーテの前に引きずり込まれた。
「ウルトラマン……ッ!?」
巨大なレーテの異空間の中で、ウルトラマンの制限は解除され、孤門以外の誰も見た事のなかった身長49メートルいっぱいの巨体が磔にされる。
その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。
「グッ……グァァァァ…………ッッ!!」
ウルトラマンは一瞬でそのレーテの力に合併される。
──そして、なおも赤く光っていた胸部エナジーコアから、膨大なエネルギーがレーテの中へと流れ込んだのは、次の瞬間だった。
「──レーテに蓄積された恐怖のエネルギーが、お前の憎しみにシンクロした。結果……光は闇に変換される!」
石堀だけが知るその理論を口にした所で、誰もその意味を解す事はないだろう。
しかし、それが石堀にとって計画通りの出来事であるのは間違いなかった。彼の微笑みは何度も見たが、この瞬間ほどそれに戦慄した事はない。
──やがて、変身者である美希が、意識を失う。
ウルトラマンの指先からすぐに力がなくなった。
英雄は、その瞳の輝きを失い、頭を垂れる。
その場にいる誰もが、その光景に唖然とした。美しささえ感じる、巨人の終焉に──。
「来い……っ! これで……っ!!」
石堀が待っていたのは、この瞬間だった。
エナジーコアの光は、「闇」となり、レーテを介して石堀の身体に向けて膨大なエネルギーを注ぎ込む。
ウルトラマンの光だけではなく、そこに、美希の持っていたプリキュアの光まで相乗される。それも石堀光彦が狙った通りだった。
完全にその表情を異形に包んだ彼は、まだわずかに残っている人間の表情で最後に笑った。
「─────────復活の時だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
──石堀光彦の身体に、ウルトラマンネクサスから発された膨大な闇のエネルギーが吸収され、彼はその真の姿を現世に再現する事に成功する。
周囲の大木が、その瞬間に爆発さえ起こした。あり余ったエネルギーを、周囲の破壊に利用したのだ。
「フハァーーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハハッハハッハッハッハッハッ!!!!!!!!!!」
暗黒破壊神ダークザギ──。
ウルトラマンに酷似した──しかし、その全身を闇色に塗り替えたような姿の戦士。
血管のように全身を駆け巡る真っ赤なエナジーもまた特徴的であった。
まるで狂った獣のように爪を立て、全ての生物を「虚無」に変えようとする怪物。
それは、決して再びこの世に生を受けてはならない存在の姿だった。
しかし、この時、目覚めてしまった。彼自身の周到な計画によって──。
『なんてこった……こりゃあ、どんなホラーよりも凄まじい闇の力を感じるぜッ!!』
とうに制限時間が来て召喚を解除していた零の指で、魔導輪ザルバが言う。
だが、零はその言葉に、こう返した。
「ああ……言われなくても、わかってる」
他の誰もが、言葉を失って、それを“見上げていた”。
そこにいるのは、等身大の敵ではない。身長50メートルの怪物である。
彼が吸収したエネルギーは、あまりに強大すぎた。彼らの世界の人間たちだけでなく、あらゆる多重世界の恐怖のエネルギーを収集していたレーテと結合した闇の力である。
もはや、制限などは些末な問題でしかない。
ダークザギが猛威を振るえるシチュエーションは完全だった。
────果たして、一体、この場にいる誰が、こんな敵を止められるのだろう。
&color(red){【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! 再起不能】}
&color(red){【ダークザギ@ウルトラマンネクサス 覚醒】}
◇
誰もがダークザギの姿を見上げていた時、ただ一人だけ──。
そうこの時、ただ一人だけ、その巨大さに驚きながら、全く、別の行動を実行した者がいたのである。
彼が注視していたのは、ダークザギではなかった。
この闇の巨人への恐怖は、無論ある。誰よりもこの巨人への無力を実感している。──しかし、それを、ほんの些細な事であるかのように、彼はこの時に感じていた。
忘却の海レーテから、おびただしい闇が噴出し、ウルトラマンの姿を覆い隠していく。
レーテに閉じ込められた杏子のソウルジェムと、美希は闇の中に消えてしまった。
もう、遠いどこかへ行ってしまう……。
「美希ちゃん……っ!」
この巨大な忘却の海の中に囚われた蒼乃美希の事が、──孤門一輝は気がかりだった。
そして、気づけば、彼はその闇の中に飛び込もうとしていた。
──僕は、こんな恐怖の中に閉じ込められた人を守るために、レスキュー隊に……。
……そう。それは、遠い子供の時の記憶だった。
孤門は、どこか流れの早い川で溺れそうになった事があったのだ。
川で溺れて死んだ子供たちのニュースを何度か聞いていたのを思い出し、子供心にもその時は“死”を覚悟した。濁流は孤門の足を、川の深くへと体を沈めていく。沈んでしまえば、息もできない。もう二度と、友達や、父や母の顔を見る事ができない永久の闇の中に沈んでしまうのだ。
そしてその時、周りには誰もいなかった。誰も助けてくれる人はいない。
何の気なしに川で遊んでいた自分が、明日には大自然の犠牲者としてニュースになる──。
……死ぬのが怖かった。
だが、どうする事もできず、彼は、一度、“生”を諦めた。
直後に、一人の男が孤門の手を取り、助けてくれたその時まで、自分は確実に死ぬ物だと諦めていた──。
(──諦めるな!!)
そうだ……。
あの時、僕を助けてくれた人の声が聞こえる。
(───諦めるな!!)
あの時、僕を導いてくれた人の声が聞こえる。
そうだ、諦めちゃだめだ。
どんな深く暗い海の底にも、希望は必ずある……。
……諦めるな。
今度は──今度は、僕が、誰かに手を差し伸べる番だ!!
杏子ちゃんや美希ちゃんが、この深い海の中を彷徨っているのなら、僕が二人を助けなきゃ駄目なんだ!!
「──孤門さんっ!」
孤門一輝は、強い意志と共に、忘却の海レーテに飛び込んでいった。
その背中を目で追ったマミは、驚いて彼の名前を見た。周りが皆、一度そちらに目をやった。
忘却の海レーテ──は深く暗い闇の中で、そこを侵せば二度と出てこられなくなるであろう事は、誰の目にも明白だった。考えなしにここに飛び込もうとするなどいるはずもない。動物的本能が、そこに入るのを無意識的に拒絶するような場所だった。
しかし、彼らが目にする事ができたのは、孤門の足が、レーテの闇の中に飲み込まれていく瞬間であった。
&color(red){【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 再起不能】}
◇
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