木乃香とハルナは廃墟に忍び込んだ。
寂れた建物が、また一段と雰囲気を醸し出している。本物の幽霊が棲みついていてもおかしくない雰囲気。
「しばらくここにいましょう」
ハルナが木乃香に話しかける。
「一応用心しながらしばらくここで休もう、このか」
「うん」
「……もし誰かを見つけて、敵だったら……やるわよ」
ハルナの真剣な目。
「もう7人が殺されてる。やる気になってる奴がいるってことはハッキリしてるわ。極限状態に追い込まれた人間は、
自分を守る為なら引き金ぐらい引くでしょう。そんな奴に銃を向けられたらひとたまりもないから…」
木乃香は黙ってしまった。理解したくない。したくないけれど、それをもっともだと思っている自分がいる。
そして、誰かに襲われたら生き残る為に戦うかもしれない自分。
木乃香はデイパックを開けて自分の武器を調べた。水や食料を取り出すときに何度も開けたが、武器だけは恐くて確認できなかった。
「のこぎりかいな」
直接的に相手を傷つける武器。銃ならまだ間接的な感覚なのに。
「水は大丈夫?」
ハルナが話題を変える。
「え?あ…もうあと一本しかあらへん」
極限状態でペットボトルの数をあまり数えなかったのが災いして
知らず知らずのうちにペットボトルの水をかなり飲んでしまった。
すぐにハルナが地図を広げる。
「この隣のエリアに神社があるみたいね、私の予想だと湧き水あたりがあるかもしれなからそこで水を調達してくるわ」
「ならウチも行く」
しかしハルナは静止する。
「ダメ。水を調達するだけなら一人のほうが目立たなくていいと思うわ。
それにここに誰かが忍び込んで陣取られたらたまったもんじゃないわ。」
「で…でも」
不安そうに木乃香が見つめる。
「大丈夫だって。サッと行ってサッと帰ってくるだけだから、少しだけ待ってて」
軽くウインクして安心させるハルナ。
「絶対帰ってきてよ。信じとるからな。」
「うん」
「あと…あんまり恐い顔せんといてや…」
「…うん?」
ハルナは意味が分からなかった。恐い顔、そりゃこんな状況だし緊張しっぱなしだけど友人にそこまで言われるほどひどい顔だっけ、自分?
周りを警戒しながら扉を開けて素早く走り出すハルナ。
木乃香はじっと見つめるしかなかった。
【残り19人】
佐々木まき絵は、わき目もふらず一目散に走っていた。目的地などなかったが、
とにかく今はその場から逃げ出したかった。とにかく、何としてもだ。
実はついさっきまでまき絵はこのゲームを芝居か何かだと思っていた。
何度か聞こえてきた銃声も爆竹かクラッカーの類だろうと思っていた。
放送なんてネギが適当に選んだ名前を読んでるだけだろうと聞き流していたし、
挙句、夕映を撃ったことなど、「雰囲気を盛り上げるために夕映が演技した」程度にしか考えていなかったのだ。
とにかく、殺し合いなんてあるわけないじゃないか、と思っていたのである。
ただでさえ走っていて心拍数が増えている心臓がますます高鳴った。
ほとんど心不全を起こしそうなほどに。耳鳴りのように、あるいは何度も繰り返す出来の悪いCDプレイヤーのように
その言葉が頭の奥に聞こえ始めた。死ぬのか?
ぼろっとまき絵の目から涙がこぼれた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。無性に裕奈に会いたくなった。
アキラにも会いたかった。部活の新体操をやって寮まで帰り、シャワーを浴びて、
裕奈とアキラの三人一緒で今日一日起きたことを喋りながら夕食をとりたかった。
レオタードがきつくなってきたから「ダイエットしなきゃ」て言って食事を減らしてふらふらになったり。
そんな懐かしい日々が遠い出来事のように駆け巡る。
「帰りたいよぉ……っく……ひっく…誰か助けてぇ……」
吐き気が胸の奥から突き上げた。涙がますますひどくなった。
すぐ横でざっという音がして、驚くと同時に足が止まった。涙に濡れた目のまま、音のしたほうを見た、誰かが立っている。
恐怖に駆られて、まき絵はほとんど何も考えないまま両手で銃を持ち上げ、引き金を引いた。
またも「ぱん」という音とともに、強い衝撃が走った。
人影は、胸に銃弾を浴びて茂みの奥に消えていた。
まき絵はしばらく銃を構えた姿のまま、がたがた震えていた。それからまたすぐに走り出した。
ああ、私はまた人を殺してしまった。
こんなことはもうごめんだ。帰りたい。裕奈。レオタード。ごはん。アキラ。シャワー。
新体操。撃つ。撃つ!夕映。銃。部活!レオタード!容赦なく。裕奈。殺す。ダイエット。
「もういやだれかたすけてだれかたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけ…」
まき絵は狂いかけていた。
【残り19人】