鬱蒼とした森林には冷たい夜風が流れていて、植物はカサカサと音を立ててゆっくりと揺れていた。
星空の輝きも遮られてしまい、とても濃い闇が森の中を支配している。フクロウやカブト虫のような夜行性の生物でもない限り、まともに周りを見ることもできないかもしれない。
極寒と漆黒の世界。多くの生物が寒さと恐怖で震えて、身動きが取れなくなってしまうだろう。しかしそこに立つ存在は違った。周囲の環境など何でもないと言うように、凄まじい咆哮を放っていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
その咆哮によって静寂は呆気なく打ち破られてしまい、大気がピリピリと揺れる。
その生物が一歩進む度に大地が振動した。地震のような規模の衝撃によって木の葉が舞落ちていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
吠える生物はそもそも地球で生まれた生命体ではない。地球より遥か離れた太陽系第8番惑星で生まれた怪獣だった。宇宙を守るウルトラマンという戦士達に倒された怪獣・超獣・宇宙人の怨念が集結して誕生した、
暴君怪獣タイラントという名の生命体だった。
謎の男から殺し合えと告げられたが、タイラントはそんな言葉などまるで耳にしていない。ヒグマという強靭な生物が跋扈していようともタイラントにとっては関係ない。この異質に満ちた状況に放り込まれたとしても、タイラントは何の動揺もしなかった。
ウルトラ兄弟への復讐さえできればそれでいい。己の本能のまま暴れられればそれでいい。この憎悪を発散さえできればそれでいい。
地球より遥か過酷な環境で生まれたタイラントには、この程度の環境など恐れるに値しなかなった。
ウルトラマンジャックに倒された津波怪獣シーゴラスの頭部が憎しみを燃やす。
ウルトラセブンに倒された異次元宇宙人イカルス星人が耳から怒りを発している。
ウルトラマンジャックに倒された用心棒怪獣ブラックキングの角が憤怒を発している。
ウルトラマンエースに倒された殺し屋超獣バラバの両腕が憎悪を発散しようとしている。
ウルトラマンジャックに倒された宇宙大怪獣べムスターの胴体が怨恨を抱いている。
ウルトラマンエースに倒された液汁超獣ハンザギランの背中が怨嗟を背負っている。
ウルトラマンに倒されたどくろ怪獣レッドキングの両足が恨みを晴らさんと動いている。
ウルトラマンエースに倒された大蟹超獣キングクラブの尻尾が激憤を引き摺っている。
その他にも数多の恨みがタイラントの中で暴れ回っていた。だからこの殺し合いの状況下でも、主催者に抗おうと言う意志など微塵も抱かない。優勝という目標など持たず、ただ怨念達の復讐を晴らす為だけに暴れようとしていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
タイラントは己の存在を知らしめているかのように吠え続けていると、その耳が足音を捉えた。それに気づいて足を止めると、T字の角を生やした熊のような怪物が現れる。
タイラントはギロリと睨んだが、怪物は微塵にも揺らがない。何故なら、その怪物もまた地球で生まれた生物ではなかったからだ。
回転怪獣ギロス。かつて宇宙兵士ギロ星人に利用されて、ウルトラマンジョーニアスと戦った熊のような怪獣だった。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ギロスは吠える。
ギロスの咆哮が響いたことによって辺り一帯がピリピリと振動する。夜の風も植物も、無差別に震えていった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
されどタイラントも負けじと吠える。このような小物の怪獣に怖気づいては暴君の名が泣くというもの。
例え同胞の怪獣でも邪魔をするつもりなら、ウルトラ兄弟の前に捻り潰してやればいい。血に飢えた怪獣の本能がそう告げていた。
彼らは主催者による制限の影響なのか、身長が数メートル程に縮んでいる。そもそも制限なんてものがあるかもわからないが、タイラントとギロスが誇る圧倒的戦闘力や凶暴性が衰えることはない。それでも他のヒグマを倒せるかどうかはまだわからないが。
二匹の怪獣によって繰り広げられる大怪獣バトルが、こうして始まった。