MONSTER


――化物を倒すのはいつだって人間だ。お前もそう思うだろ、ビースト?

A-1エリア、闇夜の中、アーカードはヒグマに咀嚼されながら独白する。
最強を誇る吸血鬼の力をもってしても野生の前には無力だった。
死の河さえも川を遡上する鮭を待ち伏せして捕食するのが得意なヒグマの前では無力。
一つ、また一つと命のストックが食い荒らされていく。
そのような状況にありながらアーカードの心には一切の恐れがなく、むしろあるのは哀れみだけだった。

――無理だ、無理なのだ。走狗では私は倒せない。熊でも私は殺せない。

アーカードは一方的に蹂躙されているようにみえる。
でもそれまでなのだ。
ヒグマではアーカードを殺せない。
ヒグマだからこそアーカードを殺せない。
その証拠に、おお、見よ!
あれだけ獰猛にアーカードを食い殺していたヒグマがぴたりと動きを止めたではないか!
何故だ!?
簡単な話だ。
彼女らは飢えていただけなのだ。満たされてしまえば人を襲う意味が無い。
死肉とはいえ五百ほどをも食いきってしまえばいかに穴持たずとて、一冬分を取り戻せたことだろう。
満たされていく、満たされていく。

ああ、所詮はこんなものなのだ。
アーカードは落胆する。
人間だ、人間だけが化け物と戦える。
人間だけが本能をねじ伏せ、己が意思を貫くために無益な戦いを続けられる。
人間が、人間だけが……。

ヒグマに胸元を掴まれる。
アーカードに抵抗できるだけの力はあった。アーカードに抵抗するだけの気力はなかった。
こいつは所詮走狗だ。人間に飼い慣らされただけの熊だ。
何のことはない、この殺し合いとやらはその実実験なのだ。
おそらくは穴持たずとなったヒグマの凶暴性のテスト。
ナチス・ドイツが吸血鬼部隊を生み出したように、あの有冨という男もヒグマ部隊を生み出そうとしているのだろう。
なるほど、それが叶いさえすればこと殲滅力においては吸血鬼部隊をも凌駕しよう。
この崖に散らばる無数の遺体もそれを証明している。
だが反面持久力には欠ける。
満たされてしまえばヒグマは大人しくなる。
だからこその実験なのだろう。
どこまで穴持たずの状態を維持できるのか。いつまで飢えさせたままでいられるのか。
……実験は成功で失敗だった。
一日で五百の命を喰いつくす程の飢えをヒグマに植えつけることができたのは十分に成功と言えるだろう。
使い捨ての兵士としては十分だ。
数さえ揃えれば一つの都市を殲滅するのも訳ないだろう。
ただ、それまでだ。
彼女らでは極めて高い不死性を誇るアーカードを打破し得ない。

人間ならば。これが人間ならば……。
飢えが満たされようが、いや、飢えなどには関係なく、己の意思でアーカードを殺しきるまで立ち向かって来たであろうに。

無気力のままズルズルとヒグマに引きずられていく。
ヒグマには執着心がある。
腹が膨れたとはいえ自らの餌であるアーカードをこのまま放置しておくという選択はない。
保存食にするつもりなのだ。

くくく、とアーカードは嘲笑う。
食い物にされる自分自身を。食い物にするヒグマまでも。
このヒグマに食らわれ続ければアーカードもいつか死ぬ。
文字通りに食い殺される。けれども、そんな最後は望んでいないし、無意味だ。
化け物が化け物を食う? 滑稽だ。
今まで自分が何度も何度も繰り返してきた喜劇ではないか。

ああ、だから。ああ、だから。

引きずられるままだったアーカードがゆらりと立ち上がる。
死体だと思っていたものが生きていたことにヒグマは訝しむもまた殺せばいいだけだと腕を振るう。
貫かれるアーカード。返り血を浴びるヒグマ。そして――

血が、アーカードそのものである血が、ヒグマの皮膚から内へと入り込み、アーカードとヒグマが一つになっていく。

悲鳴をあげるヒグマ。
だがそれは無意味だ。
遅い、余りにも遅すぎる。
アーカードを餌に選んだのが彼女らの敗因か?
否。
もっと前から穴持たずは既にヒグマとして終わっていたのだ。
数多の人間を食い殺し、三毛別羆事件などと呼ばれ歴史に刻まれた時点で彼女らは伝説へと成り果てた。
英雄に対する反英雄、吸血鬼よりも余程身近で、それでいて恐ろしい存在、即ち“化け物”に!
そして化け物の最後は常に決まっている。
“袈裟懸け”が一人のマタギに討たれたように。
アーカードがただの大学教授に討たれたように。

――化物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくては、いけないのだ!!


【アーカード@HELLSING 融合】
【ヒグマード(ヒグマ6)】
状態:化け物(吸血熊)
装備:
道具:アーカードの支給品(得意武器、ランダム0~2、基本)
基本思考:――化物を倒すのはいつだって人間だ
1:お腹いっぱい、喉が渇いた
※アーカードに融合されました。
 アーカードは基本ヒグマに主導権を譲っていますが、アーカードの意思が加わっている以上、本能を超えて人を殺すためだけに殺せる化け物です。
 他、どの程度までアーカードの特性が加わったのか、武器を扱えるかはお任せします。


No.005:大怪獣バトル NEVER ENDING HIGUMA 投下順 No.007:猿真似
No.005:大怪獣バトル NEVER ENDING HIGUMA 時系列順 No.007:猿真似
アーカード 融合(No.033:VSヒグマード

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最終更新:2014年09月16日 00:50