視よ、ある教法師、立ちてイエスを試みて言ふ。

『師よ、われ永遠の生命を嗣ぐためには何をなすべきか』

 イエス言ひたまふ。

『律法に何と録したるか、汝いかに読むか』。

 答へて言ふ。


『なんぢ心を尽し精神を尽し、力を尽し、思を尽して、主たる汝の神を愛すべし。また己のごとく汝の隣を愛すべし』


 イエス言ひたまふ『なんぢの答は正し。之を行へ、さらば生くべし』。


 彼おのれを義とせんとしてイエスに言ふ『わが隣とは誰なるか』。

 イエス答へて言ひたまふ。


 ――ある人、エルサレムよりエリコに下るとき強盗にあひしが、強盗どもその衣を剥ぎ、傷を負はせ、半死半生にして棄て去りぬ。
 ある祭司たまたま此の途(みち)より下り、之を見てかなたを過ぎ往けり。またレビ人もこの所に来たり、之を見て同じく彼方を過ぎ往けり。


 ――然るに或るサマリヤ人、旅して其の許に来たり、之を見て憫み、近寄りて油と葡萄酒とを注ぎ、傷を包みて己が畜にのせ、旅舍に連れゆきて介抱し、あくる日デナリ二つを出し、主人に与へて「この人を介抱せよ。費もし増さば、我が帰りくる時に償はん」と言へり。


 ――汝いかに思ふか、此の三人のうち、孰か強盗にあひし者の隣となりしぞ。


 かれ言ふ『その人に憐憫を施したる者なり』。
 イエス言ひ給ふ『なんぢも往きて其の如くせよ』。


(ルカによる福音書10章、25~37節より)


    ###【LAB=0】


「―――えっと、あなた達、誰ですの?」


 青と紫を基調にした鎧に身を包んだその男が、少女のような高い声でそう問うていた。
 その場にいた彼以外の人間4人は、その様子にただ眼を見開いて硬直している。

 鎧の男は、目の前で顔面をひくつかせている金色の腕の青年――カズマに相対したまま首を捻る。


「はて――、どこかでお見受け……、あ、サワリだけ聞きましたわ。
 その金色のアルターは、もしかして、劉鳳さんのご友人のカズマさんですの?
 あ、首輪にもご丁寧にそう書かれてますわね」

 ぽむ。と顔の前で手を打ち合わせたその男のお嬢様口調に、カズマはわなわなと身を震わせて掴みかかっていた。

「今すぐその気持ち悪りぃ話し方をやめろ劉鳳ッ!! どぉしちまったんだお前そんなオカマみてぇによぉ!!」
「何をおっしゃいますのカズマさん。私は劉鳳さんではなくて、彼に同行しております白井黒子と申しま……」


 鎧の首元を掴み上げるカズマのシェルブリットを払いのけようとして、その男は鎧を纏った自分の腕の様子に気づく。
 そしてしげしげと自分の手、腰、足元と見やった後、その様子は徐々に焦りと驚きを含んだものに変わっていった。

「な、な、な……」

 おののき始めたその男からカズマが手を離して後ずさりすると、彼は鎧の面の上から顔に両手を当てて、地面に膝を落とす。


「なんで私が劉鳳さんの体になってますのー!!??」
「おい黒騎れいぃ!!」


 カズマは凄まじい剣幕で背後のビルへと振り向いていた。
 シェルブリットを装着した拳を振り上げて、屋上から下を覗きこんでいる黒髪の少女に指をさす。

「てめぇその矢で劉鳳に何をした!!」
「あ、あの……私もそういう風になるとは思わなかったから……」
「言い訳してんじゃねぇ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなってカズマ!! 落ち着け!!」

 カズマの怒声にたじろぐ黒騎れいを庇うように、その隣で赤いポニーテールの少女が手を翳した。
 魔法少女の衣装に身を包んだその少女、佐倉杏子は、黒騎れいを胸元に抱えてカズマのいる地面にまで飛び降りてくる。


「あたしの経験から言っても、こういう時は落ち着いてお互いの話を聞くことが肝心だよ。
 まず、その……なんだ、劉さんだか白井さんだか知らねぇけど、あんたのことから、聞かせてくれないか?」
「え、ええ……。そうですわね……。思い返せば、私はあの時、死んでいたはずでしょうに……」


 白井黒子と名乗る鎧の男は、何とか震えながらも人心地をつけて立ち上がろうとする。
 杏子の腕から降りた黒騎れいが、その時焦った表情で手元のメモに走り書きをして周囲の人員に見せた。


『この首輪は盗聴されている可能性が高い。あなたが参加者じゃないのか首輪を外したのか知らないけど、主催に聞かれてマズイことは筆談で!』
「わ、わかりましたわ……」
「……その前にカズマ。こいつの見苦しい格好どうにかならないか……? 声と仕草とアルターが不釣合いすぎてさ……」
「……おい劉鳳。お前のアルターは普段融合装着するもんじゃないだろ。……再々構成しろよ」

 ぎこちない態度で、劉鳳と思しき鎧の男に三者は応対した。
 当の男本人もぎこちないのは同様で、自分の体を眺めながら、呼びかけたカズマに問い返す。

「あのー……、アルターってどうすれば操れますの?」
「あぁ!? そんなもん……こう……気合でウオーッってやれば思い通りの形になんだろ!?」
「それじゃ伝わんねぇよ……」
「私にもわからないわ」

 混乱したジェスチュアを交えて叫ぶカズマの隣で、佐倉杏子は思わず額に手をやった。


 黒騎れいが杏子の呟きに応じた時、彼女は四苦八苦する鎧の男の後ろにもう一人男が出てきていることを捉えていた。
 その男は、先程カズマたちがエネルギーを引き出してきた虹色の光のわだかまっている空中から、大きな腕輪を嵌めた腕で空間をこじ開けるようにしている。
 上半身をこちらへねじ込み、彼は包帯の巻かれた顔で鎧の男を見て笑う。


「自分のしたいことや、なりたいものを思い浮かべれば良いんじゃねぇの?」
「!?」


 唐突に出現したその男に気付き、一帯の人間が再び驚愕する。
 包帯の男は、虹色の光から下半身も引き抜こうとしているようだが、ウエストの辺りで締まったそのゲートから抜けることができず、ゆっくりとその中に引きずり込まれていってしまう。


「あっ、くそっ、まーただよ。佐天の嬢ちゃんのとこに待機してると、こう別のとこで開かれても間に合わねぇよなぁ」
「!? あなた、佐天さんのお知合いですの!?」
「おお。知合いっつうか、明け方まで同行してたんだが、こっちの空間に閉じ込められちまってよ。
 アルターってので嬢ちゃんが扉を開いてくれるのを待ってるわけ。あ、ちなみに俺の名前も左天っていうの。よろしく」
「ご親族でいらっしゃいますの……?」

 左天と名乗った包帯の男は、目の前で首を傾げる鎧の男をしげしげと見やり、はたと相好を崩す。

「あ、よく見たらお前さん、さっき助けた兄ちゃんじゃねぇか。無事だったんだな!
 良かったなぁ、見た限り結構厳しいと思ってたんだがよ」
「劉鳳さんの状況をご存じですの!?」
「おい!! てめぇも関係してたのか!? 劉鳳に何があったんだ!?」
「お? おう……俺の方こそ状況がわからんが、ま、手短に話すわ」


 左天は、『向こう側』への扉に吸い込まれながらも、落ち着いた様子でその場の人間に状況を説明した。


 佐天涙子がヒグマに襲われ、左天の助力でアルター能力と超能力を開花させて撃退したこと。
 左天自身はその戦闘で異空間に放り出されるも、『フラグメント』という能力で無事であること。
 こちらの空間を察するに、その後佐天涙子は、友人の初春飾利、自衛官の皇魁、上院議員のウィルソン・フィリップス、弁護士の北岡秀一という参加者と合流し、C-3の百貨店に避難していること。
 東の海上に開いた扉の先で、左天が寄生虫のような多数のヒグマに襲われている劉鳳を発見して助け、佐天涙子の救出をことづけたこと。
 その後、彼女たちは江ノ島盾子という人物の操作するロボットに襲われるも鹵獲に成功し、主催者であるSTUDYがヒグマに反乱されていると気付いたこと。
 そしてつい先ほど、佐天涙子と皇魁は多数のロボットの集合している地点に参加者がいると見て、直近のD-6エリアに向かって行ったこと。


 片腕と首だけを虹色の光から出して、左天は軽い調子で人々に呼びかけた。


「ま、そんな具合で、割と生き残ってる参加者は多いぞ。津波も引いたみてぇだし、合流してやってくれや」
「貴重な情報をありがとうございます、佐天さんのお兄様! 必ず合流して、あなた共々助け出してみせますわ!!」
「おう、頼む。んじゃまぁ……、ヒグマもそうだが、例のロボットには気を付けな」


 鎧の男の華やいだ声に合わせて、左天は虹にその顔を飲まれながら笑った。
 最後に残った左天の片腕のガントレットに、その時周囲から風が集ってくる。


『……あんたらの周りにも、これだけ潜んでたみたいだからよ!!』


 カズマたちがいたビルや、その周囲の建物の窓ガラスが、強風に煽られて次々と割れてゆく。
 その中から、大きめのテディベアのような、白と黒で塗り分けられたクマが何体も驚愕の表情で風の渦に吹き込まれて行った。


『置き土産の「ストリームディストーション」――!!』
「え、ちょっ!? いきなり何を!!」
「え、え!? どういうことですの!?」
「……あの有冨を手玉に取ってた相手に、今までの話は筒抜けだったということよ!!」

 こちらの世界から消え去ってゆく左天の行動に、杏子と鎧の男は狼狽する。
 しかし渦巻く暴風の中、黒騎れいは唇を噛みながらその手に烏羽の弓を取り出していた。

「つまり、やることは一つ……!!」

 その声に応じたカズマの見上げる空中には、計9体のクマ型ロボットが打ち上げられている。
 落下してくるそれらに向けてシェルブリットを放つべく、カズマは手甲のシャッターを開き、そこに光を吸い込み始めた。
 その瞬間のことである。


「――このモノクマたちを、消すこと。だろう?」


 ドン。
 という爆音と共に、空中に撃ち上がっていた9体のロボットの間に大爆発が起こっていた。
 下にいた4人の元には、バラバラになった機械部品と火薬の匂いのする粉塵が雪のように降りかかってくる。


「……RPG-7とか言うんだったかな? やっぱりこれはこういう場面で使うものだったみたいだ。ボクはツイてるみたいだね」

 カズマたちがビルの屋上を振り仰いだ時、その声を発した少年が満面の笑みを浮かべてそこから顔を出してきていた。
 肩口に射出したばかりの無反動砲を抱えたまま、彼は波打つような銀髪を振り立たせて笑う。


「アハハ、でも、そんな気遣いは『希望』には余計なお世話だったかな。
 なんにせよ、これでさっきよりは気兼ねなく、話の続きができるってものだよね」


 その少年――狛枝凪斗は、深い笑みを湛えて、ビルの非常階段をカズマたち4人のもとへと歩み降りてくる。
 その細い視線は、たじろいだままの蒼い鎧の男と、そして、弓と矢を携えた黒騎れいに向かう。


「――さて、始めようか」


 あたかも殺人事件の裁判に巻き込まれたかのような剣呑な空気が、その時5人を包み込んでいた。


    ###【LAB=1】


「生きてる参加者――というと」
 ――さっきの狂戦士(バーサーカー)に襲われてたヒトたちが気になるモン。
「あ? あの人間たちか……。ありゃあ無理でしょ。俺やあんたが敵わなかった相手なんだぜ?」
「……あの人間たちって、誰のこと?」

 草原を覆う湿気も乾きつつある日差しの中で、一人の少女と二人のヒグマが語り合っていた。
 島外から来たその少女・御坂美琴は、アンテナ状の物体を頭に刺したコミカルなクマ・クマーの言葉を受けて問いかける。
 それに音もなく答えたのは、黒い体毛に円らな瞳を据える、ゆるキャラのくまモンであった。


 ――この西の方で、舟に乗った人間の一団に会ったモン。でも突然現れた真っ黒な鎧騎士が無差別に彼らを殺し始めて……。
「その最中、謎の大爆発で吹っ飛ばされ、結局俺たちは返り討ち。そいつらは安否不明ってわけさ」
「ちょっとちょっと、前半が全然わからなかったんだけど」


 ゆるキャラ独自の発声法を貫くくまモンの声は、美琴には全く聞こえない。
 彼女の呆れを受けて、くまモンは発言内容を地面に爪で書きながら話すことにした。

「……なるほど。まぁ、ヒグマがやられる相手に襲われて生き残ってるって可能性は、低いわよねぇ……。
 ってか、このヒグマのうようよいる島で参加者同士殺し合おうって考えるヤツがいることに驚くわ」
「一応、有冨さんが最初にそう言ったみたいだからね。一応」

 美琴の発言に、クマーが頷きながらもそう付け加えた。
 一方のくまモンは、未だに地面に文字を書きつけている。


 ――できれば確認だけでもしておきたいモン。
「確認っつってもねぇ……」

 美琴たちが今いる位置から草原の西を見てみても、緩やかな高低差のお蔭で、遠方までは見通せない。
 直近のエリアを越えれば向こうはすぐに海であるため、探索に向かおうと思えばそれほど時間はかからないだろう。
 だが件の黒い鎧騎士という何者かに出会う可能性が高いことを考えると、正直美琴は、万全の体調でない今の状況で無計画に突っ込みたくはない。

「そういや、御坂ちゃんは電気の超能力だかなんだかを持ってるんだっけ? それで人間の生体電気とかを察知できたりしないの?」
「微弱すぎて無理よそんなの……。大仰な演算できる体力残ってるかも微妙だし……」

 クマーの発言に首を振りながらも、美琴は試しに意識を集中してみる。
 事前に周辺環境を幾ばくかでも探知できれば、鎧騎士と交戦する際もアドバンテージを取れるかもしれない。

「まぁ、草原は街中みたいなノイズがないから、仮に同系統の能力者でもいれば位置くらいは……」


 大した期待もなく、試みに実行してみただけの行為。
 だがしかし、その美琴の拡大した仮想現実の中には、瞬時にいくつもの輝点が浮上していた。

「えっ……!?」
「どうした?」

 美琴は確かめるようにこめかみに手を当てながら周囲に目を走らせ、クマーとくまモンに一歩近づきながら声を落とす。


「……右方向20メートルの位置に、電磁波を放つ物体が5つ……。能力者でも、生物ですらないわ……。
 体高約1メートルの機械……、ロボットみたいな自立駆動するタイプ。私たちを監視してる……?」
「なんだそりゃ……」
 ――参加者でも、ヒグマでもないことは確定だモン。


 緊張を帯びた美琴の囁きにも、くまモンは表情を変えなかった。
 美琴が視線だけを落とす先で、地面に文字が刻まれる。


 ――こちらの捕捉は気づかれてるモン?


 美琴はくまモンの蔭に移動しながら、靴の踵で草原を抉る。


『いいえ』


 美琴がその文字を書きつけた瞬間、くまモンの体が黒い旋風と化した。


 ――西の天草。
「……えっ!?」


 くまモンの体は、既に20メートル先の背の高い草むらの上にまで一足跳びに襲い掛かっている。
 その眼下には、体を白と黒に塗り分けた機械のクマが驚愕に空を仰いでいた。


 熊本の天草諸島の島々には、本土と島とを結ぶ5つの橋がかかっており、これを『天草五橋』と呼ぶ。
 これらはそれぞれ多様な工法で作られており、尚且つ景色・海・交通・島の位置の全てを考慮した配置となっていることが有名である。

 このうち1号橋は連続トラスという方式で作られており、五橋の中でも最大の支間を誇る。
 その橋桁と橋桁との距離は――。
 優に300メートル。


 ――『天門橋』。


 空中から振り下ろされるくまモンの手刀に、黒白のクマは爪を振り上げて応戦しようとした。
 しかし、その爪は包み込まれるように手刀に受け流される。
 くまモンの体は空中で旋回していた。 
 その動きの中、爪を取られたクマに向けて流れるように繰り出されていたのが、下段への後ろ蹴りであった。

「ゲェッ!?」

 両脚の関節部を叩き折られ、破れた白黒の被膜から機械が露出する。
 くまモンはそれを掴み上げ、さらに奥の草むらに向けて横殴りに叩き付けていた。


 ――『大矢野橋』。


 ランガートラス方式の2号橋は、大きく美しいアーチで有名である。
 その橋のような弧を描いてロボットが吹き飛んだ先には同じ形のクマ型ロボットが潜んでいた。
 同硬度の頭部同士を高速で衝突させられたそれらは、口から機械油を吹きながらひしゃげる。


 ――『中の橋』。


 くまモンはそのまま振り向きもせず、大きく四股を踏むような動きで、側方に踏み込みながら掌底を繰り出していた。
 草を踏みしめた足元が陥没し、隣の叢中に鈍い金属音が響く。
 潜んでいたロボットは、外装から直接内部に衝撃を浸透させられ、CPUが裂断して機能停止に陥った。
 PCラーメン方式で作られた3号橋は、世界トップクラスの支間を持つコンクリート橋である。


「な、なんなんだよオマエぇ!?」
「い、一度撤退するよっ――!!」
 ――『前島橋』。


 残り2体のロボットがてんでに逃げ出そうとする動きに、くまモンが低い体勢で追いすがった。
 ディビダーク工法の4号橋は、海面からの高さを極限まで低くし、景色を楽しめるよう設計されている。
 塩を吹く地面を滑るように走り込み、彼はロボットたちを抜き去りながらその脚を払っていた。

「なっ」
「ひっ」

 倒れたロボットの頭部を両手で掴み、彼は宙に翻る。
 そして同時に、二体のロボットはクロスしたくまモンの両掌で、絞られるようにその頭蓋を砕かれてゆく。


 ――『松島橋』。


 重い衝突音と共に落下したくまモンは、倒立のような体勢から宙返りをして着地する。
 地面に叩き付けられた二体のロボットは、総身にくまモンと自分自身の荷重を受けて、面影もなく圧潰せしめられていた。
 5号橋は日本でも珍しいパイプアーチ橋であり、真っ赤な色とシンメトリーのフォルムが特徴である。


 ――『みちくさドライブ』。


 構えを取り直しながら周囲に目を走らせるくまモンに、美琴とクマーは呆然としたまま口を開いていた。

「……あんたより強いってのは、本当みたいね」
「……そうだろう?」
 ――可愛さと不気味さが同居したデザインだモン。STUDYが監視用に放っていたのかも知れんモン……。

 二名のもとに、比較的中身が無事そうなロボットを引き摺りながらくまモンが戻ってくる。
 『ロボットの内部から使えるデータを引き出せないか』と、彼はロボットの外装を剥ぎながら美琴に尋ねた。


「まぁ、ある程度できるとは思うけれど。それにしても私からの情報だけでよくこいつらの正確な位置がわかったわね」
 ――相手がロボットだということが解りさえすれば、いくら体臭がなくとも、関節可動時に漏れる金属臭、外装の化学繊維、潤滑用の機械油など、いくらでも位置の分かる臭いは嗅げるモン。
 ――ただ、街中で同じような臭いがそこらじゅうにあったら解らなかったかもしれないモン。ここが草原で助かったモン。
「ああ、なるほど……」


 くまモンの言葉を受けて、再度周囲の電磁気を走査するも、今度は美琴の網にかかるものはなかった。
 クマーとくまモンが嗅ぐ臭気にも、分かる範囲の金属臭は、先程くまモンが破壊した5体のロボット以外にはない。
 ともすれば、他のロボットは今の顛末を見て逃げ出したという可能性もあるかも知れない。


「……このロボットを有冨さんがねぇ……。まぁ、作ってたけどさ、オートヒグマータとかいうなんか変なのは」
 ――戦闘を主眼にしたものではないモン。一体なにが目的だモン……。
「ちょっと待ってね……、今、無事な情報を引き出してみるから……」


 美琴はロボットの配線を直接触れて内部にハッキングし、映像と音声で、保存されていた録画情報を再生し始めた。

 ヒグマに惨殺されてゆく研究所の職員たち。
 秘密裏に建国されていたヒグマ帝国。
 首輪や放送の管理を担っているキングヒグマ。彼が第一放送前に遠隔爆破装置を壊してしまうシーン。
 地上に出てからは、何らかの工場の周りをイライラとした様子でうろつく『高橋幸児』という名の少年。
 ほとんど前触れもなしに襲い掛かる津波と、それを剣に飲み込ませる高橋幸児。
 その彼と交戦する『シバ』というヒグマ、およびシバと会話するキングヒグマ。
 実は人間だったらしいシバと、彼が巻き起こした大爆発。
 吹っ飛んだ先からさらに吹っ飛ばされるくまモン、クマー。
 そして黒い剣士に惨殺される海賊団のような人々。
 すれ違う会話と、ワープして消え去るメロン熊。
 目覚める美琴と、先程戦った穴持たず402。


「……こんなことが起きてたわけ、ね」
「なるほど……。やっぱりあの人たちは殺されてるよなぁ……」
 ――それにしても、これではますますこのロボットの目的が見えんモン。

 くまモンの疑問に一同が頭を捻る。

 有冨およびSTUDYに反乱を起こしたヒグマ帝国の内部に始めからいたらしいこのロボット。
 それだけなら、ヒグマ帝国側の何者かが操作して反乱の一助・参加者の監視に使っていると考えられる。
 しかし、このロボットはヒグマ帝国の人員からも身を潜めるようにして行動しており、参加者というよりもむしろヒグマ帝国の隙を伺っているように見えてならない。


「……もしかして、ヒグマ帝国もさらに反乱の種を抱えてるわけ?」
「大いにありうるよな。まずもって俺たちはヒグマだし。さっきのビーム野郎の例もあるし、国の統率はとれてないみたいだねぇ」
「ああもう!! ややこしすぎてわけわかんないわ! とりあえず今ある情報だけでも黒子に連絡を……」

 美琴はクマーの呟きを聞きながら髪をかきむしり、制服のポケットの辺りをまさぐった。
 しかし、その手が目的のものに触れることはない。
 動きを止めた美琴の顔が、徐々に蒼褪めてくる。


 ――どうしたんだモン?
「どうした御坂ちゃん?」
「……ケータイ落とした……」

 白井黒子の手引きで相田マナたちのヘリに潜入した御坂美琴は、当然、島に向かっている黒子らと連絡を取り合うために携帯電話を持ってきていた。
 しかし、宇宙に放り出された際か津波に襲われた際か、とにかく彼女の携帯はどこかのタイミングで逸失してしまったものらしい。

「佐天さんたちや生き残りを探すにしても黒子と連絡を取るべきなんだけどなぁ……」
「ちょっと待って!? 御坂ちゃん以外にも外から来てる子がいるわけ!?」
「ええ……。白井黒子っていって私の同級生。警察の人を何人か連れて来てるんで、大いに力になってくれるはずなんだけど……」

 クマーの言葉に返しながら、美琴は大きく肩を落とした。

「……これじゃお互いに安否もわかりゃしないわ」
 ――キミのことはあまり教えてもらっていないモン。どういう経緯でこの島に来れたのか、聞かせてほしいモン。
「まぁいいけど。……それより、なんか島に連絡手段ってないの? 公衆電話とかでもいいから」


 美琴の問いに、クマーが暫し思案した後、明るい表情で答えた。

「お、それなら、西の滝の上に行けばいいよ! あそこには『HIGUMA』があるからさ!」
 ――あのアスレチックまだ訓練に使ってたのかモン……。
「なによその『HIGUMA』って」
「俺たちヒグマの屋外訓練に使ってた巨大な総合運動訓練施設だよ。人間が観覧する用の実況席とか、放送設備とかもあったから、電話の一、二台くらいあるさ。
 もしかすると生き残った人が立てこもってる可能性だってゼロじゃないしな」

 クマーは投球や跳び箱のような動きをしながら、その施設がいかにすごいものか描写していく。
 くまモンの呆れ交じりの解説を付け加えて理解するに、かつて一世を風靡した『SASUKE』というアスレチックステージを模した形式で、様々な運動能力を試される競技が並べられているところであるらしい。
 元々ヒグマたちの能力を試し、訓練するための施設であったようだが、どちらかというとそれは名目で、完全制覇者の一人であるくまモンとしても、研究員の酔狂で作られたのではないかと推測せざるを得ないものだった。


「7球のストラックアウト、両手の届かないスパイダーウォーク、上とマットが剣山になってるモンスターボックス……。
 失敗したら即死もありうる仕掛けになってるって……。いや……、なんというか……、バカみたいな施設ね」
 ――全面的に同意するモン。
「まぁ、研究者ってだいたい、頭のいいバカみたいなものだと思うよ俺は」

 美琴は彼らへの返事もそこそこに話を切り上げ、北西の方に向けて指をさした。

「とにかく、それはあっちで良いのよね? 向かいながら話してあげるわ。私がどうしてここに来たのか」
 ――途中であの狂戦士にあったらただじゃおかないモン。
「あのバーサーカーとの交戦は避けような!? 今会っても大変なことになるだけじゃん!!」
「あー、見かけても気付かれないようにするわよ……。力が戻るまでは私としても厳しいもの」


 草原の彼方を目指しながら、磁力の網を抜け目なく張り、御坂美琴はそのいきさつを語り始めた。


    ###【LAB=0】


「――できましたわ!!」
「ボクの推測した通りだったね……。中々いい具合になったと思わないかい?」
「お、おう」
「そうだな」
「ええ……」

 今まで霞のように存在感を消していことのが嘘のように、口を開いた狛枝凪斗の言葉は、人に反駁を許さない気迫のようなものがあった。
 カズマ、佐倉杏子、黒騎れいが眼を見張るその位置には、一人の少女がうきうきとした表情で浮かんでいる。


「改めまして自己紹介いたしますわ。私は学園都市で風紀委員(ジャッジメント)をしております白井黒子と申しますの。
 そしてこちらが、もうご存知のお方もいらっしゃるようですが、HOLY部隊の劉鳳さんですわ」


 鈴を振るような声に合わせて、白井黒子と名乗るその少女は、ツインテールになっているその『髪』で黒騎れいのメモを取り、『皆さんを助けに参りましたの』と書きつけていた。

 彼女は、全身に白を基調とした衣服を纏っていた。デザインとしては中学の冬服に厚手のタイツを履いたような格好だが、その袖は拘束衣のように腕を組んだ状態で胸の前に留まっている。
 また、彼女の顔の左半分は真っ白い仮面で覆われており、そこから紫がかった髪飾りが続いていた。
 ツインテールの基部がその機械的な髪飾りで止められており、彼女の髪は腕の代わりに、触手のような仕草で辺りを自在に動き回っている。
 劉鳳を以前から見知っているカズマには解ったが、これは絶影――、劉鳳のアルターの第一形態の姿そのままであった。


「てめぇ……、劉鳳のアルターに取り込まれたのか?」
「どうやらそのようですわね……。朝方ですけれど、この島に着いた際にロボットのようなものと遭遇戦になりまして……。
 劉鳳さんと一緒に戦っていた私は重傷を負って、気付いたらこの通りですわ」
「……ロボットというのは、さっきのモノクマのことかな?」
「いいえ、違いますわ、もっと人型で雷で攻撃してきまして、こう、黒い髪がたなびいているような格好でしたわ」
「奴……、アルターの結晶体か……」


 絶影と同化した黒子の前に、カズマと狛枝凪斗が詰め寄っている。
 黒子の描写にカズマは一人納得し、彼女の隣にいる男に視線を移す。


「……そうだったんだろ、劉鳳?」
「……ああ、その通りだ……」


 浮遊する白井黒子の隣には、暗い表情でうなだれる男――、劉鳳が立っていた。
 意識を取り戻した彼には、カズマの見知っている刃のような鋭さはおろか、一切の精彩がない。

「お前大丈夫か……? 体は平気なんだろ? どうしたんだよ……」
「……いや、何か、こう、来夏月を思い出して情けなくなっているだけだ」

 劉鳳は衆人に見守られる中、自嘲交じりに溜息を吐いた。

 来夏月爽というのは、かつては劉鳳と同じHOLY隊員であった男である。
 彼のアルターは『常夏三姉妹』という、彼のエゴとフェチズム丸出しの三人の美少女の形をしており、それぞれ自律行動ができるようになっていた。
 なお、彼は三姉妹が合体して本気を出した際の姿を『醜い』と思っており、そうして自身のアルターを否定したことがきっかけでカズマに敗北していた。

 自分のアルターのコントロールを失い、自身の正義を失った姿がその男に重なり、劉鳳の気分はどんよりとしている。
 絶影の姿の黒子が隣から慰めにかかるも、それは劉鳳の自責を強めるだけの行為だった。


「まあまあ劉鳳さん! とりあえずはこうして二人とも生き残れたのですから良かったではありませんの!
 ……私の方はまぁ、五体満足とはいきませんでしたけれど」
「その通りだ!! その上、俺は杉下さんさえも見失っている!!
 これでは情報のやりとりはおろか、互いの安否もわかりはしない!!」
「あ、携帯電話なら私が……」

 黒子は触手のようなツインテールで、自分の腰の辺りをまさぐった。
 しかし、その髪が目的のものに触れることはない。
 動きを止めた黒子の顔が、引き攣った笑いを浮かべる。

「あー……、私の『体』の方が持っていたのですが……」

 当然、御坂美琴を相田マナたちのヘリに手引きした白井黒子も、彼女らと連絡を取り合うために携帯電話を持ってきていた。
 しかし、それは先のアルター結晶体との戦闘で彼女の肉体ごと消滅してしまっている。
 なお、ここで仮に携帯電話があったとしても、当の杉下右京は携帯を持ってきておらず、その上既に死んでいるので連絡を取ることは出来ない。


「まあ、そこら辺は後回しにしてくれるかな」


 狛枝凪斗が、そう言いながら『まずはあなた達がどのようにしてこの島のことを知り、やって来たのか、詳しく知りたい』とメモに書きつけていた。
 黒子と劉鳳はそれに向かって頷く。


「わかりましたわ」
「ああ……」


 互いに非力なものとなってしまった二人は、目の前の4人に向けて、そのいきさつを語り始めた。 


    ###【LAB=01】


 それはある日、御坂美琴が一人学園都市の街並みを散策している際のことだった。
 行きつけの自動販売機のところまでやってきた時に、彼女はその男の存在に気づいた。

「……?」

 振り向いた御坂美琴が見たのは、くたびれたワイシャツに蓬髪と無精髭をふり乱す、がっしりとした体躯の男性だった。
 顎を引いた顔が前髪で隠れてその表情は窺えないが、その口元は薄く笑っているようにも思える。
 自然体で立っていたその男は、胡乱なものを見るような美琴の視線に向け、枯れた声で呟いた。


「……ようやく見つけたぞ……。『常盤台の超電磁砲』、御坂美琴!」
「……誰よあんた。こんな良い天気の日に面倒事はやめてほしいんだけど」
「お前があの女の件に関わっていたことは調べがついてんだ。あの女の居場所を吐けば、俺は何もしねぇよ……」

 辟易した溜息を吐く美琴に、男は一歩前に進みながらしわがれた声を継ぐ。

「さあ、答えやがれ。あの女を見つけて落とし前をつけてもらわなきゃならねぇ」


 美琴は宙に視線を彷徨わせた。

 この男性は『あの女』という誰かが中核にある事件かなんかに巻き込まれたのだろう。
 そして、その鎮圧に『常盤台の超電磁砲』が関わっていたと知り、私づてに居場所を突き止めて何かしようとしているのか。
 木山先生か?
 妹達か?
 食蜂操祈か?
 テレスティーナか?
 ショチトルか?
 いずれにしても、この見るからに殺気立った怪しい男に彼女たちのことを伝えて良いものか――。

 暫しの沈黙の後、美琴は男に向けて答えた。


「……心当たりが多すぎて誰の事だかわかんないわ」
「あくまで、とぼける気か」
「いやいやいや、本当に誰よ」

 顔の前で手を打ち振る美琴に向け、男は怒りも顕わに、懐から台所用ゴム手袋を取り出して両手に装着する。

「ならば、力づくでも聞き出してやる――!!」


 男の挙動は早かった。
 瞬間的な踏み込みで、美琴と男の間合いが一気に詰まる。


 ――武装無能力者(スキルアウト)ね!

 男が能力を演算する気配は無く、何らかの武術のような構えから、男は美琴に向けて蹴りを繰り出そうとしていた。

 ――無能力者が、キャパシティダウンもなくレベル5に挑むつもり!?

 男の体重が左脚から抜け、そのジーンズが鞭のように前蹴りとして繰り出される動きを、美琴は完全に見切っていた。

 ――甘いわね。適当にあしらって気絶でもしといてもらうわ。

 向かって右側から来る蹴りを躱すべく、美琴はただちに回避動作に移っていた。
 しかし。


「シャァッ!!」
「――な、がっ!?」


 男が放ってきたのは右の回し蹴りだった。

 完全に予測と逆の動きを取られ、脇腹へもろに蹴撃を喰らった美琴は、背後の自動販売機にまで吹き飛んで叩きつけられていた。
 普段から壊れている自動販売機が、その衝撃で内部の飲料をボロボロと吐き出し始める。
 地に崩れる美琴へ残心を切りながら、男は静かに口を開く。


「『ガマク』だ」
「な、なん、ですって……?」
「空手には、自分の体重移動を筋肉で操作し、相手から欺瞞する技術がある。超能力者ばかり見てるあんたら学園都市の連中に、欠けているものだ」


 自販機からの警報が響く中、美琴はその言葉に、肩で笑いながらゆっくりと立ち上がった。

「へぇ……、そりゃ~ぁ勉強になったわ。でもね、その程度のことができたくらいで私をやり込められると思ってるわけ?」

 その右手に、地面からぞわぞわと黒い粒子が集まり、一本の剣を形作る。
 御坂美琴が自身の能力で編み出した変幻自在の武器・砂鉄剣であった。
 細かく振動するその刃先はチェーンソーのようになっており、抜群の切れ味を誇る。

「これを見ても……まだそんな減らず口を叩ける?」
「ハハ、そりゃあ小学生の理科実験か何かか?」
「あっそ……先に手を出してきたのはあんたなんだから、腕や脚が飛んでも文句言わないでよね!!」
「フン……」

 御坂美琴は、声を張りながらリニアモーターカーのような速度で男へと突進した。
 彼女はそのままの勢いで砂鉄剣を振るう。
 だが体を深々と袈裟切りにするだろうその太刀筋を見ながら、男は未だ口元に笑みを浮かべていた。


「あんたこそ」


 男の腕が蛇のように疾った。
 美琴が砂鉄剣を振るうその軸である右手。
 その位置に己のゴム手袋を先んじて滑り込ませ、円を描くような動作で、体を捌きながら美琴の動作を隅へと引き落とす。

 回し受けである。

 渾身の剣閃を空ぶった美琴は、そのままもんどりうって地面に転がってしまった。

「――おわっ!? たっ、たたぁ……」
「……その程度のことができたくらいで俺をやり込められると思ってるのか?
 こちとら命がかかってるんでね。何が何でもあんたには吐いてもらう!!」


 横たわる美琴の上に、樋熊と名乗った男はゴム手袋の拳を振り被る。
 総毛を電気で逆立たせ、美琴は彼に指を突き付けて怒声を張り上げた。

「ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ……。まずもって名前くらい言ってからモノを尋ねなさいよ!!」
「樋熊貴人。それが俺の名だ」
「あんたの名前じゃないわよ!! 『あの女』ってそもそも誰なのよ!!」


 男は身構えたまま、そこで初めて美琴に怪訝な眼差しを向ける。

「……何? あいつとあんたは、親交が深かったんじゃないのか?」
「親交の深い女なんて何人もいるわよボッチじゃないんだから!! あんた基準でモノを考えるな!!」
「ん、まぁ……、そう言われれば確かに……。とぼけてた訳じゃないのか……すまなかった」

 樋熊貴人は、平謝りして御坂美琴を助け起こした。
 だが彼に浴びせられた打撃と、彼の饐えた汗臭さもあり、その程度の謝罪で美琴の怒りは到底収まらない。


「……とりあえず一発蹴らせろ」
「ちょっと待って!? 俺は本当に、あの女を探してるだけなんだ。あの、ぬの――」
「チェストぉぉぉーッ!!」
「たべらっ!?」


 樋熊貴人は、喋りかけたその横面に見事な飛び蹴りを喰らい、先程の美琴と同じく自動販売機に衝突して地面に崩れ落ちた。
 自動販売機は再び軽快な音を立てながら大量の缶ジュースを吐きだし始める。

 御坂美琴は、倒れ伏す男の姿から、隣に降り立った人物へと視線を移した。
 彼を蹴り飛ばしたのは、御坂美琴ではなく、その瞬間にテレポートを行なってきたこの人物だった。


「……全く、警報を聞きつけてやってくれば、この有様ですわ。お姉さま、お怪我はありませんこと?」
「黒子……」
「よもやスキルアウト程度にお姉さまが遅れを取るとは思えませんが、この殿方の罪は、仮に未遂であっても処断されなくてはいけませんわ!」


 ピンク色のツインテールを掻き上げるその少女は、美琴の後輩である風紀委員、白井黒子である。
 両手に飛び道具の鉄針をぞろりと構えゆく黒子に向けて、美琴はぽりぽりと頬を掻いた。

「あー……、黒子。その人、なんか私に聞きたいことがあっただけみたいよ」
「はい? 襲われていたのではありませんの?」
「まー、それは勘違いがあったみたいで」
「ですが実際に被害に遭われたのでしょう!?」
「そうねぇ……、じゃあ目ぇ覚ます前に一発踏んどこうかしら。減るもんじゃないしね」


 美琴が眉を上げた先で、樋熊貴人という男は、大量の清涼飲料の山の上に白目を剥いていた。


    ###【LAB=01】


「ふーん、空手のインストラクターをなさっているんですのね」
「まぁ……ね。学園都市には個人講師として呼ばれてたんだが、その唯一の顧客に雲隠れされちまってさ……。
 それで血眼になって探してたんだよ、あの女を」
「布束さんの師匠の一人かぁ……。確かに彼女、胆力は人一倍あったし。にしても、それならそうと最初から言えっての」
「そうだね。ごめんね。俺も焦ってたんだよ……、ついに家賃滞納でアパート追い出されちまったしさ」


 『北辰会館 空手インストラクター 樋熊(ひぐま) 貴人(たかひと)』

 そんな文面の名刺が、御坂美琴と白井黒子の前に差し出されている。
 二人は、先程の男・樋熊貴人ともに喫茶店のテーブルを囲んでいた。

 樋熊はフケの目立つ髪を遠慮がちに掻き、グラスに入った冷たい水を煽る。
 そのグラス以外何もない彼の前に、黒子は瞑目しながら、自分に運ばれてきたパフェのアイスとウェハースをコースターに取り分けて樋熊の前に差し出した。
 美琴は暫く、その黒子と樋熊とを交互に睨みつけた後、しぶしぶと自分の皿のパンケーキを一枚、樋熊のコースターの上に乗せた。


「察してくれて本当にありがとう」
「お礼をして下さるならいつでも構いませんわ」
「ああ……、あの布束砥信から月謝をもらうまでは無理だな。いただきます」
「でも布束さんかぁ……。仕方がないとはいえあんたも災難ね。今布束さん、アメリカよ?」
「……は?」

 両手を合わせて、パンケーキにかぶりつこうとしていた樋熊の動きは、美琴の感慨深げな嘆息で停止した。
 目を点にして顔を上げる彼の口から、パンケーキが零れ落ちる。


「雲隠れってのが……、たぶんあの時布束さんが暗部に攫われた時のことでしょ?
 それからしばらくしてSTUDYに拾われたみたいだけど……、私たちがぶっ壊……あ、いや、私たちが知った時にはもう会社は倒産して、布束さんはそのままアメリカ行きだったからねぇ。
 そりゃ、樋熊さんにお金払うどころか連絡取る余裕なんてなかったでしょうね」
「う、げ……、まじかよ……。会社も、倒産? それほんと!?」
「ほんと」
「ふ、ふ、ふざけんなよぉおおおおお!!」

 樋熊貴人は、唐突に叫びながら立ち上がった。
 振り上げる両手がわなわなと震えている。


「ほんっと、この町の無能力者差別はおかしいって!!
 能力がないからってロクなバイト探せなかったんだぞ!
 うじゃうじゃいる学生どもと違って仕送りがあるわけでもなし!
 実家に帰ろうにもやれ機密保持だの手続きだので出られやしない!
 行きはよいよい帰りは怖いってレベルじゃねぇよこのクソ都市がぁあッ!!」


 ハァハァと息を荒げて捲し立てた樋熊に向けて、静まり返った喫茶店の全方位から驚愕の視線が向けられている。

「あ……、す、すんません」

 我に返った樋熊は、店員と客から向けられるその視線の槍衾に気付くや、一転意気消沈して席に戻っていた。
 テーブルに重い溜息を流す彼に向けて、今まで顎に手をやって考え込んでいた黒子が呼びかける。


「樋熊さん……、もしかすると、お金、払っていただけるかもしれませんわよ」
「……へ? 一体どうやってだい?」

 黒子は、薄く涙さえ浮かべる樋熊貴人へ微笑んだ。

「ジャッジメントづてで聞いた話では、有冨さん、STUDYコーポレーション再建なさったらしいんですの」
「あ、そうなの。意外に早かったわね。あんだけ叩きのめしたのに……いや、叩きのめされたと聞いたけど、資産残ってたんだ」
「ええ、なんでも北海道に移転して再出発なさるとか。ですから、今ならまだ移転しきる前でしょうから、本社に行って布束さんとのことをお話すればいいのではないかと」

 美琴の相槌を挟んで語られたその情報で、樋熊の表情はたちまち明るくなる。
 彼はテーブルに身を乗り出して二人の腕を掴み、激しく上下に握手を振りながら感謝を述べた。

「うおおおっ!! ありがとう、ありがとう! これで希望が出てきた! その有冨ってやつのとこに乗り込んでってやるわ!!
 会社の住所は!? わかる!?」
「え、ええ……図書館のネットででも『STUDYコーポレーション』と検索すれば一発だと思いますわよ」
「よしオッケー……。にしても北海道ね……。工藤が籠ってるらしいから、金が入ったら行ってみるのもアリだな……」

 樋熊がテーブルの紙ナプキンにメモをとっている間、美琴と黒子は笑みを引き攣らせ、先程掴まれた手首をおしぼりで拭っていた。

「いやぁ、君たちは北辰会館の工藤健介って聞いたことある? 俺らの筋じゃ結構有名なツワモノなんだけどさ」
「いえー……、まったく」
「俺はね、その工藤に『人間は樋熊に勝てねぇ』って言わしめた男なんだぜ。焼肉の席で後輩にそう漏らしたんだとよ!
 この俺が、こういつまでも不運に呑まれるわけねぇわ! やっぱ俺は天下の樋熊貴人よ!」

 うきうきとした様子で樋熊は再び食べかけのパンケーキやアイスに舌鼓を打ち始め、何やら自慢話のようなものを語り出す。

「うっしゃ! それじゃあ美琴ちゃんに黒子ちゃん、マジありがとう! 金はいったら今度埋め合わせするわ!
 電話かメールか教えてくれよ。そこに連絡入れるからさ!」
「あ、え、ええ……」

 反応に窮する二人を差し置いて、グラスの水を干した樋熊は爽やかな笑顔を残して風のように店外へと立ち去って行った。
 怒涛のようだった樋熊貴人の挙動に、暫し美琴と黒子は顔を見合わせ、もそもそと自分のスイーツの喫食へと戻る。

 テーブルの名刺と、向かいの座席に残る饐えた臭いだけが、男の実在をそこに示していた。


    ###【LAB=01】


 そして月日が過ぎ、御坂美琴も白井黒子も、ほとんどその男のことを忘れかけていたころだった。
 その日、美琴と黒子は、友人である佐天涙子と初春飾利に出会わなかった。

 携帯にかけてみても、繋がらない。
 何かのっぴきならない事情でもあったのか、それとも何か事件にでも巻き込まれたか。
 寮の部屋で二人が不信感を抱いていた夜間も夜間、美琴の携帯電話に唐突に着信が入る。

「お、佐天さんかな~♪ どうしたんだろ今日は」

 だが、画面に表示されていたのは、佐天や初春の電話番号ではなく、『公衆電話』という文字。
 とりあえず通話をとった御坂美琴の耳に飛び込んできたのは、息巻いた男性の叫び声だった。


『やった! 美琴ちゃんだろ!? 俺だ! 樋熊! 樋熊貴人だよ!!』
「あ、え……? 樋熊さん? ああ~、樋熊さん、久しぶりね。あれからどうなのよ。お金は払ってもらえた?」
『そ、それどころじゃねぇんだ! 今、俺は北海道にいる……!』
「ああ、じゃあ例の同門の人のところで修行中……、とか、そういうわけでもなさそうね」

 久方ぶりのその男の声に美琴は軽く挨拶をし始めるが、彼の口調から、何かただ事ではない雰囲気を彼女はただちに感じ取った。
 黒子に聞こえるようスピーカーホンに切り替えた電話口の向こうで、樋熊貴人の声はただならぬ焦燥に染まって荒い。
 電話に硬貨が飲み込まれていく音と共に、息巻いた樋熊貴人の声が続いてゆく。


『いいか、よく聞いてくれ。時間がない。スタディはとんでもねぇことをしてやがった。俺はやつらに誘拐されたんだ!』
「え!? 誘拐!?」
『他にも何人も誘拐されてるらしい。これ以上あんな仕打ちを受けたら気が狂いそうだ!』
「ちょっと待って下さいまし。本当に有冨さん方がそんなことを? 布束さんはいらっしゃいますの?」
『ああそうだよあの眼鏡のクソガキどもがな!! 布束はつい最近アメリカから呼び戻された!! 実験中止を掛け合ってたみたいだが、もう無理だ!!』


 切羽詰まった叫び声に、美琴と黒子は顔を見合わせた。
 眉根を寄せて、黒子がさらに樋熊へ向けて尋ねかける。
 電話の中に硬貨が落ちる。

「その実験とはなんですの? 有冨さん方は、今度は何をなさろうと?」
『……ひ、「ヒグマ」だ!! 「ヒグマ」だ!!』
「何いってんの樋熊さん。自分の名前何回も繰り返さなくても分かるって……」
『もう来やがった……!! クソッ、ヤッてやるよ、この、クソヒグマがぁああああ!!』

 樋熊貴人には、もう美琴たちの声が届いていないようだった。
 彼の叫びは、最後には怒りに塗りつぶされ、電話ボックスのドアを乱暴に開け放つ騒音の後、ぷっつりと途切れた。

 ツー、ツー、ツー。

 と、後には冷ややかな発信音が残るのみ。
 目を見開いた黒子が、同じく瞠目する美琴に向けて、おそるおそる尋ねかける。


「もしかして……、樋熊さんのおっしゃってた『ヒグマ』って、『羆』のことでは……?」
「……北海道だけに?」
「ええ……。有冨さんが北海道に研究所を移転したのって、もしかするとその『羆』でなにかするためだったのでは……」
「……樋熊さん、『他にも何人も誘拐されてるらしい』って言ってたわよね」

 低い声で呟く美琴に、黒子は重々しく頷く。

「お姉さまと同じことを考えてますの。……佐天さんと初春は一度私たちとともにSTUDYに関わった身。
 樋熊さんの例を見る限り、同じく有冨さんに攫われた可能性が高いですわ」
「有冨春樹……。本当なら、ただじゃおかないわ……」

 拳を握りしめる美琴から踵を返し、黒子は手早く寝間着から着替えつつどこかに連絡を取り始める。


「学園都市やアンチスキルでは信頼できませんから、薄いツテですけれど、ジャッジメントの仕事で知り合った外部の警察機構の方々に片っ端から当たってみますわ。
 警視庁特命係やHOLD部隊、トランプ共和国大使館の前評判に偽りがないと良いのですが……」
「ええ、お願い黒子。私も片っ端からネットの情報を検索してみる。『北海道』、『羆』、『誘拐』、『STUDY』。
 これらのキーワードで少しでも引っかかることがあったら、確証を待たず、すぐにでも動くわよ……!」
「了解ですわ!!」


    ###【LAB=1】


「……とまあ、こんな具合で。そこに今日未明の大量のヒグマ襲撃とかいう自衛隊の情報もあって、警察の杉下さんって人がこの島の位置を割り出してくれて、やって来たってわけ」
「なるほど……。メンバーとしてはどんなものなんだ?」
「警察から杉下さん。アルター使いの劉さん。私と黒子。プリキュアとかいう、相田マナっていう女の子。あと、マタギの山岡さんの6人ね」
 ――そのそうそうたるメンバーがすぐにバラバラになってしまったのかモン……。
「それで御坂ちゃんだけ満身創痍ではぐれてるっていうのがなぁ」
「着いてすぐヘリに2体もヒグマが襲い掛かって来たからね……。なんとか返り討ちにはできたけど」


 御坂美琴およびクマーとくまモンの3名は、そんな会話をしながらA-5エリアの滝のもとにやってきていた。
 クマーが息巻いて施設の紹介をしようと駆けるが、遠目から見ても、なにやらそこが大規模に破壊されていることは明らかだった。
 薄れてはいるが、建材や木々が燃えた後の激しい臭気も未だ漂っている。
 また、なぜかこの近辺は津波が来ていないようでもあった。

「何があったのかしら、ここ……」

 美琴が踏み込んだ『HIGUMA』のアスレチックには、何発も爆弾を打ち込まれたような歪みと焦げが至る所に刻まれており、見る影もなくなっていた。
 瓦礫の中を踏み分けてみれば、特に破壊が酷かったのは実況席の付近である。
 プレハブのフレームが捻じ曲がるほどの衝撃と高温で、窓や扉、主な内部の機材は粗方吹き飛んでいる。
 座席には、辛うじて人と判別できる、誰かの赤黒い焼死体が残っていた。


「……参加者同士の殺し合いがあった、ってとこか……?」
 ――それか、メルセレラは?
「あのキムンカムイ教の? あの子、こんなことができるほど能力強くなかったよ」
 ――それもそうだモン。


 二人で憶測を交わすクマーとくまモンをよそに、美琴は焼死体に両手を合わせた後、何か焼け残っているものがないかと辺りを見回し始めた。
 弾け飛んだ窓から外を見やると、そこから比較的破壊の少ない場所が見えた。
 地面に降りて歩み寄れば、そこには野球場のようにダイヤモンドが描かれており、中ほどにマウンドの盛り土があった。
 打席とホームベースの位置には巨大な鉄球が落下しており、何かを潰している。
 恐らく、件の7球ストラックアウトだったのだろう。

 ふと美琴の足元に何かが触れる。
 盛り土と埃に埋もれかけたそれを手に取ってみれば、それは一機のスマートフォンであった。
 生憎と電池が切れているようで電源は落ちていたが、外面に目だった傷はない。


「おーい、御坂ちゃん、何か見つけたかい?」
「ええ、一応ね……。ちょっと使えるか試してみるわ。そっちは何かあった?」

 駆け寄りながら呼びかけるクマーに答えながら、美琴はスマートフォンの埃を吹いて、充電ができないかと指を突っ込んでいる。
 野球場の中央に集い、くまモンがそこへ『HIGUMA』会場内の図面を引いて説明をしていく。


 ――破壊されていたのは、主に中央の『城』……ヒトの待機スペースだモン。
 ――周辺のアスレチックは、爆発を喰らって崩れたものも多いけれど、まだ使えそうなものも一部あったモン。
「殺人アスレチックが使えたところで、ねぇ……?」
「とりあえずここを爆破した犯人は、明らかにあの実況席にいた人間を殺そうとしていたんだろうな」
「こんな理不尽な競技を強要されたんだとしたら、その気持ちもわからなくはないわ……」

 残存している設備に美琴が眼を通していたところ、スマートフォンが明るい音を立てて再起動した。
 充電はうまくいったらしい。


「おお、御坂ちゃんすごいな。そんなこともできるのか」
「いやぁ、誰のだか知らないけど助かったわ!! 早速黒子にー……っと」


 ロックしているパスワードの番号はわからなかったため、とりあえず緊急電話に直接白井黒子の電話番号を入れて繋いでみる。

『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』

 しかし、その電話口に返ってきたのは淡々とした機械音声であった。
 何故電源が切れているのか。それともどこか圏外の場所にいるのか。
 どちらにしてもその無機質な音は、美琴の心に不安をあおった。


「ね、ちょっと、この島にここ以外に公衆電話とかないの!? 樋熊さんの使ってたヤツ!! 探知して電話してみる!!」
 ――彼は脱走の際に北海道本島まで行ってデビルに連れ戻されたモン。
「この島にはないねぇ、公衆電話は」
「ったく!!」
「まぁまぁ、いざという時外部に連絡できるかも知れないんだから、それはとっとけば?」

 苛立つ美琴をクマーが宥めるも、黒子の身を案じる美琴に効果は薄い。


「だって、結局生存者の手がかりは全くなしよ!? 南の狂戦士を避けて移動してきたとはいえ、人影といえばあそこの焼け死んでる人しかいないじゃない!
 このままめくら撃ちに行動してもどうしようもないわ!!」
 ――このマウンドには、臭いからして、まだ若い男の子が立っていた様だモン。そして、南東の方に去っているモン。
「あー、男のガキかぁ。ショタは趣味じゃないんだよなぁ」
「ふざけてる場合じゃないでしょ!!」

 美琴に首を締め上げられたクマーが泡を吹くのをよそに、くまモンは更に臭いを確かめるように辺りを嗅いでいく。


 ――この男の子の足跡は既に何時間も経っているモン。ボクたちが出会わなかったのも仕方ないモン。
 ――ただ、焦げ臭さではっきりとしないけれど、西の端、海食洞の方から、女の子の臭いもするモン。
「え!? 女の子!? どこ!? どこ!?」
「わ、ちょっ!!」

 くまモンの発言を聞くや、クマーは即座に蘇生して美琴の腕を振りほどき、彼の隣に詰め寄っていた。
 『HIGUMA』の会場から少し外れた滝の下に、地下の研究所とも繋がる海食洞がある。
 女の子の匂いは、どうもその下から空中に移動していっているようだった。


「……俺の嗅覚は言っている……。女の子は2人。しかも中学生以下だ……! 間違いなく俺のリスト内の誰か!!」
「空を飛んでるってことよねぇ……。それじゃあ私と一緒に来た相田さんの可能性も、あるわね」
 ――やっぱり方向は南東だモン。比較的新しいから……、これはあのバーサーカーとぶち当たってる可能性があるモン。

 遠くの空を見上げるくまモンに、美琴とクマーは顔を見合わせた。
 そして、彼らは一度大きく深呼吸をして口火を切る。


「……やはり、ここは腹をくくってその狂戦士と戦いに行くしかなさそうね」
「……やはり、ここは断腸の思いで隣の温泉へ入りに行くしかなさそうだな」


 互いの発言にきょとんとする二人へ、くまモンが振り向く。

 ――クマー、どうしてそうなるモン。
「そうよ!? おかしいでしょうここで温泉が出てくるのは!? この子たちがピンチかも知れないのよ!?」
「あのバーサーカーとまた戦うのなんてやだよ俺はぁ!! あれだろ!? 御坂ちゃんに同行してた子はヒグマ2体返り討ちにしたんだろ!?
 じゃあ大丈夫だって!! こっちで待ってた方が良いって!!」
「そうじゃないかも知れないじゃない!! もしかすると、あの映像で見た船の人みたいにもう殺されてるかも……!!」
「死んだ子を悔やんでも仕方ない! ネクロフィリアの趣味はないからな!!」
「なにそれ知らないわよ!!」

 美琴の剣幕から一歩引いて、クマーはその頬に汗を垂らしながら彼女に指を向ける。


「いいか……。御坂ちゃんだって本調子じゃないんだろ? 俺やくまモンは、足場が悪かったとはいえあいつに軽く蹴散らされた。
 このままの状況じゃあ勝ち目は薄いんだ。攻め込むに行くにしても一度体力や物資を補給してからの方が良い。
 ここでいくら焦ろうが待とうが、最早大した時間の差じゃない。御坂ちゃんだって津波のせいで潮吹いてるぞ」
「う、まぁ……、そりゃあお風呂に入れる余裕があるなら入りたいけれどね……?」

 クマーが指摘する通り、御坂美琴は津波に飲まれた後のずぶ濡れのまま今まで行動していたため、服や髪、肌の至る所に白く塩の結晶が溜まってきており、痒くなって来はじめている。
 正直、シャワーでも浴びて着替えられるのならそれに越したことはない。


「それじゃあ決まりだな! このお湯の川を辿っていけばすぐ温泉だ! まずは英気を養うぞ!!」
「ちょっとちょっと! 全然決まりじゃないわよ!!」
「あ、それともアレか。俺たちみたいな格好いいオスと一緒に入ると、別の意味で潮吹いちゃう?」
「誰が入るか!! ふざけんな死ね!!!」
「あぎゃっ!?」


 クマーの発言を赤面しながら蹴り飛ばし、美琴はくまモンに向き直る。
 顎を歪めたまま足元に這いずってくるクマーを踏みつけながら、美琴はくまモンに問うた。

「温泉のことは置いておくにしても……、あんたとしてはどう? やっぱり戦力を整えることを優先すべきかしら?」
 ――クマーの言うことは一理あるモン。資材集めと……、あと何にしてもキミの体調を万全にすることは優先すべきだモン。
「……ですってよ。良かったわねすぐ戦いに行かなくて済んで」


 足元のクマーに向けてそう呼びかけるも、彼は依然として『温泉……お風呂シーン……』などとうわごとのように呟いていたため、美琴とくまモンは彼を暫く無視することに決めた。


『ピーンポーンパーンポーン♪
 参加者の皆様方こんにちは。
 定時放送の時間が参りました』


 第二回放送が、ストラックアウト会場のスピーカーを通して彼らの耳に届いたのは、その時であった。


    ###【LAB=0】


「とまあ、こんな具合で、劉鳳さんや杉下さんのご助力もあって、こちらの島を発見できましたの」
「……今日未明に海上自衛隊が多数のヒグマと交戦したという連絡もあってな。それで位置を特定できた」
「6人もの精鋭がやってきてくれたっていうのに、それが早々にバラバラとはね……」
「よりによって劉鳳が満身創痍ではぐれちまうっていうのがなぁ」
「着いてすぐにその結晶体とかいうのとか、ミズクマとかに襲われたんでしょう? 無理もないわ……」
「ああ、来てくれたってだけでも有り難いことだよ。あと4人、どこかにいるんだろ? 各人、参加者を助けようとしてくれてるさ」


 白井黒子と劉鳳の話に、狛枝凪斗、カズマ、黒騎れい、佐倉杏子が応じていた。
 事情を説明し終わった後、杏子の言葉を受けた劉鳳は再び暗い表情で溜息を吐き始める。

「……助けようという気概はいいが、俺たちは焦りの余り食糧の一つも運んで来なかった……。
 申し訳もない……。本来なら君たち被害者を手当てする救護物品や脱出させる大規模な輸送手段も確保しとかなくてはならなかったのに……」
「りゅ、劉鳳さん、そんなに落ち込まないで下さいまし!! 私を助けようとして下さったところ、格好良かったですわよ!!」
「俺はお前を助けたんじゃなく、お前に助けられてるんだよなぁ……」

 劉鳳は黒子の髪に背中をさすられながら、後ろを向いて嗚咽を漏らし始めてしまう。
 そんな普段のライバルの姿からは想像もできない光景を見せつけられ、カズマは口の端を苦々しく引き剥いた。


「おい! 何をうじうじしてやがる!? お前は今、泣いちゃいけねぇだろうが!!」
「カズマ……」


 劉鳳の襟首を掴み上げ、カズマは彼に向けて叫んだ。
 かつてカズマから掛けられたものとは真逆の言葉に、劉鳳は潤んだ眼を瞬かせる。

「全部過ぎたことだ。後悔しても始まらねぇ。なにより、あの時と違って、お前を助けたこいつも、ここにこうして生きてるじゃねぇか!!」
「そうですわよ、元気を出して下さいまし……」
「それでも、俺の正義は……」

 黒子とカズマの言葉に、なおも劉鳳は俯こうとしてしまう。
 それを無理矢理立ち上がらせたカズマは、彼の顔の前に明王のような表情を見せていた。


「字面を見るな!! 題目に拘るな!! お前の正義は、その程度のことで無くなるのか!?
 無ければ見つけ出せ!! 今から作り出せ!! ここに、お前の助けを待ってるやつは確かにいるんだぞ!!」


 カズマが後ろに振る左腕の先には、佐倉杏子、黒騎れい、狛枝凪斗がじっと佇んでいる。
 劉鳳を見つめるその視線には、期待と不安がないまぜになった心情が溶け込んでいた。
 彼らを見つめ返した劉鳳は、覚束ない動きながらもカズマの手を払い、一度だけ深く頷いた。

「……確かにその通りだ。先程、俺を海上で助けてくれた男が情報をくれたようだし、まずはそれを頼りに西に行ってみよう。
 ……それでいいな、カズマ、白井黒子?」
「ああ、そうしよう」
「勿論構いませんわ!」

 未だ表情は晴れ切らないものの、若干の張りが戻った劉鳳の声に、カズマと黒子は安堵と共に答えた。

「よし、決まりだね。それじゃあ、白井さんの友達だっけ、その子からまず探しに行こう」
「百貨店はしっかりとしている場所だし、比較的安全だと思うわ……。行くなら、火山の南を回りつつ、D-6からかしらね……」

 杏子とれいも、一区切りついた様子の彼らに相好を崩し、発つために目測を立てようとし始める。


「ちょっと待ってね。悪いんだけど、ボクのしたかった『話の続き』ってのは、まだ終わってないんだよ」


 だが、そこに割って入ったのは、狛枝凪斗の低い声であった。
 そのまま彼は、首元のマフラーを直している黒騎れいに向けて声をかける。


「ボクはこの何時間かずっと観察していたんだけどね。やっぱりキミ、ちょっとおかしいんじゃないかなぁ?」
「……どういうことかしら」
「おい、いきなり何言ってやがる」

 睨むような視線を向ける黒騎れいの前に、佐倉杏子が割って入る。
 狛枝凪斗は、多少おどけたような雰囲気で肩をすくめ、状況の理解できていない白井黒子と劉鳳に向けて語り掛けていた。

「ここの皆にはもう話したんですけどね、南東の温泉で、ボクはヒグマを連れている人間の集団に出くわしたんですよ」

 主催者側の人間かも知れない――、という彼の再びの説明を、2人は興味深げに、3人は苦い表情で聞いた。

「……だから、そいつらの一人は巴マミ、アタシの知り合いかも知れねぇんだよ! 主催者側なわけあるか!」
「狛枝さん、あなた方の首輪には名前が刻まれているようですけれど、そのお三方の名前は確認なさいましたか?」
「よく覚えていないね。あの時はボクもヒグマに出会って気が動転していたから」

 杏子の叫びを置いて、白井黒子が冷静に狛枝の話を引き出していく。
 平然とした様子で返す狛枝凪斗の言葉を、佐倉杏子と黒騎れいとカズマの3人は3人とも『嘘だ』と直感したが、確証もなしにその言葉は言い出せなかった。


「それでボクが何を言いたいかというとね……、黒騎れいサン。キミも、主催者側の人間なんじゃないか、ってことさ」
「……な、何を言っているのかしら!?」


 黒騎れいの目が泳いだ。
 裏返った声が彼女の口を引き攣らせる。
 直前までれいと同じく『何を言っているんだこいつは』と思いかけていた杏子とカズマは、予期せぬ彼女の様子に、揃って怪訝な表情を見せた。

 深呼吸した後、黒騎れいは表情を戻して狛枝凪斗に問い返す。


「なぜ、そんな馬鹿げたことを思いついたのかしら」
「キミはヒグマについて良く知っているようだ……。それに、この殺し合いの会場の仕組みについてもね」

 首輪の盗聴の可能性を示唆し、まず始めに筆談の必要性を示したのは黒騎れいである。

「それに、ここの主催者のことも、良く知っているようだね。少なくとも以前から知り合いだったんだろう?」
「な、な、なんでそんなことがわかるのかしら」
「言っただろう、観察していたって。『左天』という男の人がモノクマからの情報を伝えてくれた時、キミは他の人より遥かに気を動転させていた」

 黒騎れいは、有冨春樹およびSTUDYのメンバーがヒグマに殺害されたと聞き及んだ時、全身を震わせながら冷や汗を垂らしていた。
 また、直後には「『あの有冨』を手玉に取った~」などと、事前に主催者のことを知っていたかのような発言をしている。

「それに……、キミはあの時、この封筒の表書きを見ただけで反応していたね。もしかして、この達筆な字は、キミの知り合いの研究員のものだったりする?」
「……」

 狛枝凪斗が取り出したのは、『参加者各位』と記された茶封筒である。
 白井黒子と劉鳳にも見せられたその中には、主催本拠地への経路の記された書面と、何か針のようなものが仕舞われていた。
 遂に黙り込んでしまった黒騎れいの前で、佐倉杏子が怒りに髪を振り立たせ狛枝へ食って掛かる。


「おい、アンタさっきからおかしなことばっか言ってんじゃねぇよ証拠もなしに!!」
「じゃあ、彼女が劉鳳サンを襲ったヒグマを『ミズクマ』と呼んだことに関してはどう説明する?
 ……皆さん覚えてますよね、さっきの彼女の発言。誰もヒグマ一体一体の固有名詞なんて知るわけもないのに」


 狛枝の発言に、黒騎れいは思わず息を飲んだ。
 確かに彼女は先程、「着いてすぐにその結晶体とかいうのとか、『ミズクマ』とかに襲われたんでしょう? 無理もないわ……」と発言している。
 狛枝に掴みかかろうとしていた杏子さえもから視線を向けられつつ、黒騎れいは眼を逸らしながらその問いに答えた。


「……『水嶋水獣』っていう有名な民話に、『水熊』っていう生き物が出てくるのよ。聞いた感じが、その生き物にそっくりだったから、そう呼んだだけよ」


 苦しい。
 と、黒騎れいは自分の発言ながらそう思った。
 だが意外にも、『そうなのか』と、狛枝凪斗以外の全員が納得していた。


「ほら、仮称だってよアンタ。アンタこそ、さっきから例のロボットをモノクマモノクマ呼んでるじゃねぇか。それこそどう説明するんだよ!!」
「あいつはこの島の外でボクたちを殺そうとしていた、絶望を振りまくロボットなのさ。大方、この企画に乗じて更に絶望を蔓延させようとしているに違いない。
 だからボクは、カズマクンのような希望に、その絶望を討ち果たしてもらいたいんだ!!」


 貴重な支給品を使ってでも率先して件のロボットたちを破壊した行動と、歯を噛みながら叫ぶ鬼気迫ったその表情からは、『モノクマ』に対する並々ならぬ狛枝の怨みが感じられた。
 佐倉杏子の肩越しに、その背後の黒騎れいを睨みつけながら、狛枝は炎のように言葉を吐いていた。


「なにより、キミが先程使った光の矢と、喋るカラスだ! あれから気配を消して黙っているようだが、その肩のカラスは何だというんだ!
 『私も人間には使ったことないから彼がどうなったのか分からない』だって? じゃあ普段、一体何に使ってたというのかねぇ?」


 黒騎れいの肩で今までじっと身を潜めていたカラスは、その指摘で黒騎れいと共に身を震わせた。
 怯えた眼差しを向ける黒騎れいの視線を受けて、カラスはその赤い瞳を、一度瞬かせる。


「仕方ありませんね……、黙っていたかったのですが」
「カラス……!?」
「実はれいは、私のような幻獣を使役して戦う、『パレキュア』という伝説の戦士なのですよ」
「!?」


 突然湧いて出たでっち上げの設定に、その場にいた全員が、当の黒騎れいを含めて面食らっていた。
 カラスはそのままつるつるとアドリブの設定を周囲に垂れ流してゆく。


「ちょ、ちょっと待って下さいまし。それは相田マナさんのような『プリキュア』のことですの……?」
「元々は『遥けし彼の地より出づる者』と呼ばれており、『示現エネルギー』という高次元のエネルギーを用いてこの世界を救うためにやって来たものなのです。
 れいは新米のため、まだ十分にその力を操作しきれていませんが、その矢で私を強化すれば、私はそこらのヒグマ程度簡単に蹴散らせる幻獣に変身できるのです」
(カラス、この矢ってあなたにも使えたの!?)
(黙りなさい、れい!!)


 黒子やれいの発言を躱しながら、カラスはアピールするようにその翼を広げ、眼を光らせた。
 狛枝凪斗には、それが明らかにでまかせであることがありありと解ったが、どうにもここにその言葉をロンパできるような材料が存在しない。
 推理の現場に何でもありの超常現象や超能力を持ってこられたらお終いである。

 カズマが釈然としないながらもそのカラスの言葉に頷き、狛枝凪斗に詰め寄った。


「……おい、俺はむしろ、最初からてめぇは怪しいと思ってたんだ。俺たちの間を仲違いさせて、何が目的だ?」
「わからないのかいカズマクン? ボクは、戦うべき相手を間違えないで欲しいだけだよ」

 鼻先がぶつかり合いそうな近距離で彼らは睨み合い、杏子と黒子と劉鳳は、黒騎れいを囲んで神妙に首を捻っている。


『ピーンポーンパーンポーン♪
 参加者の皆様方こんにちは。
 定時放送の時間が参りました』


 第二回放送が、防災無線の間延びした音声で彼らの耳に届いたのは、その時であった。


    ###【LAB=1】


『イヤッホーーーー!!!!穴持たず48シバさん討ち獲ったりぃぃぃぃぃ!!!!』
『ヒャハハーーーー!!!!いくら支配階級でも背後から襲えばチョロいもんだなぁ!!』
『オッシャーーーー!!!!この調子でどんどん行くぞぉっっっ!!』
『聞こえてるかぁ!?地上に居る我が同士ヒグマ提督よぉぉぉぉぉ!!』
『この革命!必ず成功するぞ!!ヒグマ帝国は俺達と艦むすのモノだぁぁぁぁ!!』


 御坂美琴とクマーとくまモンは、愕然とした表情でその放送の末期を聞いた。
 途中まで、この世の終わりのような表情をしながら少女の写真を選り分けていたクマーが、その放送の後の沈黙から逸早く復帰した。


「よぉおおっしゃああ!! じゃあ今までの放送は全部ウソの可能性だってあるぜぇえ!!
 第一放送もヒグマがやってたんだよなぁあ!? ヒグマに首輪の管理とかできるわけねーよぜってー適当だろ、ひゃっはーっ!!」
「ちょっと……人がヒグマに殺されたことしかわかんなかったわよ……? なんて言ってたわけ?」
 ――説明するモン。

 くまモンの書き起こした文面を見て、美琴の表情は渋くなる。


「……懸念してた、『ヒグマ帝国内での反乱』が起こったわけよね」
 ――あのロボットたちが主導しているのかも知れないモン。
「んなこと知るかぁ!! 艦むすってのはアレだろ!? 船の魂を宿したロリババァたちだろ!?
 俺のハートにドストライク! そんなもん作って独り占めし、なおかつ参加幼女を襲うとか悪辣すぎるぜヤツら!!
 ぜってーぶっ倒してやる!!」
「落ち着きなさいよ変態」


 一殴りして少しは大人しくなったクマーを他所に、美琴はくまモンからこの島の放送について詳しく説明を受けていた。

「なるほど……、6時間ごとに死者――もとい、首輪の反応がなくなった人が呼ばれる、と。
 でも全員知合いなわけでもないし参加者名簿もないのであまり意味がない、と」
 ――少なくともボクはそう思うモン。

 第二回放送で呼ばれることもなかった佐天涙子と初春飾利は、まずもって確実に今も生きていると見て間違いないだろう。
 死者として発表された中にも、首輪を外したことでカウントされただけの者が混ざっているかも知れない。
 だが結局のところ、明確な生存者の位置に繋がる手がかりは、ここでも得られなかった。
 確かなのは、南東にいるだろう狂戦士と、そこに向かったらしい2人の少女だけ――。


「……そういや、今の放送、ここのスタンドから聞こえてきたわよね」


 爆破された『HIGUMA』の会場の中でも比較的無事なストラックアウト7の区画は、野球場としてまだ見れるだけの十分な外観を保っていた。
 チームのベンチと思われる場所の脇に設置されたスピーカーに美琴が触れると、そこから回線が通電している感覚が伝わってくる。
 放送は、こうした島内各所の放送設備を流用して行われているらしい。


「……ということは」
「どうしたんだ御坂ちゃん」


 美琴は、スピーカーから伝わる電気を辿って、壁伝いにどこへともなく歩み始めていた。
 その後ろからクマーとくまモンが追いすがれば、彼女は倒壊した『HIGUMAの城』の端の瓦礫をどかして、満面の笑みを浮かべているところだった。


「……やった! 生きてたわ!!」
「誰が!? 幼女が!?」
「違うわよ、放送設備よ!! この球場に据えられたウグイス嬢用の放送室がね!!」

 バックネット裏の半地下になった放送室は、実況・放送席と違って実に目立たない、こぢんまりとした空間になっていた。
 それが功を奏してか、狭い扉を潜った内部は、ほとんど無傷の状態でマイクやチューナーといった機材が残っていた。


「いーい案を考えたわよ、クマー、くまモン」
「お、何々?」
「私たちが生存者の居場所を知れないのなら、生存者からこちらに来てもらえばいいのよ。今から、この設備のケーブルを辿って島内全体の放送に潜入できないか試してみるわ。
 もし無理でも、この『HIGUMA』に残ってる設備をフル稼働させれば、周囲かなりの範囲に呼びかけられるはずよ」
「なるほど……! 生き残りを誘導するのか!」
 ――その場合、ボクたちの役割は、アレだモンね。


 指を組んで肩を回す美琴の後ろで、くまモンは粛々とドアの外に出てゆこうとする。
 それを見やって、美琴は強く頷く。

「わかってくれてるじゃない。そうよ。くまモンとクマーは、来てくれた参加者を保護しながら、それにつられてやって来るヒグマや殺人鬼を排除して欲しいの。
 もし、私の助けが欲しいときは、ここと繋がってる電気機器をぶっ叩いてくれればすぐわかるし、スピーカーに喋ってくれればマイクで逆変換して聞こえるわ」
「ヒュー! すごいじゃないか御坂ちゃん。よしよし、籠城・防衛戦ね。それなら遭遇戦よりだいぶマシだわ」
「生存者が来てくれれば、ここの情報以外にも色々と配信できるかも知れない。頼んだわよ!」

 クマーは美琴に向け親指を立てた後、彼女の前のデスクの引き出しをそっと引き出す。
 そこには、バランス栄養食のブロックがいくつかストックされていた。


「非常食として研究員が蓄えてたみたいだな。喉を潤すお水はそこの下の段。御坂ちゃんも、無理しすぎず腹ごしらえとか、しとけよ?」
「あ、ありがとう……」

 予期せぬクマーからの心遣いに、美琴は軽く息を詰めた。
 少し早くなった鼓動に、クマーからさらに言葉がかけられる。

「あと、球場らしく、ここにもシャワールームはあるみたいだぜ? 俺たちは気にせずゆっくり入れよ?」
「覗く気だろ!? さっさと行け!!」
「わっはっは~、じゃあまたあとでな~!」


 くまモンと共にクマーを蹴り出して、美琴はデスクの前に座り直す。
 汗ばんで白く塩を吹いたシャツは気持ち悪いが、とりあえずはこれが先だ。

 クマーの見つけたビスケットブロックを齧りながら、美琴はマイクの先に指を付けた。


「さぁて、DJミコトのライブ放送と洒落込みますかね……」


 指先に磁力のソレノイドを這わせ、御坂美琴はその回転の先にテリブルの果てをたずねた。


【A-5 滝の近く(『HIGUMA:ストラックアウト7会場』)/日中】


【くまモン@ゆるキャラ、穴持たず】
状態:疲労(小)、頬に傷
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品0~1、スレッジハンマー@現実
基本思考:この会場にいる自分以外の全ての『ヒグマ』、特に『穴持たず』を全て殺す
0:放送してやってくる参加者は、いるのかモン?
1:他の生きている参加者と合流したいモン。
2:メロン熊……、キミの真意を、理解したいモン……。
3:ニンゲンを殺している者は、とりあえず発見し次第殺す
4:会場のニンゲン、引いてはこの国に、生き残ってほしい。
5:なぜか自分にも参加者と同じく支給品が渡されたので、参加者に紛れてみる
6:ボクも結局『ヒグマ』ではあるんだモンなぁ……。どぎゃんしよう……。
7:あの少女、黒木智子ちゃんは無事かな……。放送で呼ばれてたけど。
8:バーサーカー許さないモン
[備考]
※ヒグマです。
※左の頬に、ヒグマ細胞破壊プログラムの爪で癒えない傷をつけられました。


【クマー(穴持たず55)@穴持たず】
状態:アンテナ、腹部と胃と背骨の一部が蒸発(止血・被覆済み)、腹の中が血の海
装備:背骨を補強している釣竿@現実、ロリ参加者(守備範囲広し)の顔写真、アンテナになっている宝具
道具:無し
基本思考:この会場にいる幼女たちを、身を挺してでも救い出す
0:『HIGUMA』の残ってる設備をトラップに組み替えれば、防衛戦は簡単だろ?
1:御坂ちゃんの友達は必ず助け出してやるからな!
2:死んだ子を悔やんでも仕方ない! ネクロフィリアの趣味はないからな!
3:あのメロン熊ちゃんも見つけ出して、話をしよう!
4:布束さんは生きているらしい。できるなら救出したいな。
[備考]
※鳴き声は「クマー」です
※見た目が面白いです(AA参照)
※頭に宝具が刺さりました。
※ペドベアーです
※実はカナヅチでした
※とりあえず体の一部でも残っていれば動ける能力を持っています。
※ヒグマ細胞破壊プログラムで受けた傷は壊死しており、受傷箇所を取り除いてからでないと再生できません。


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
状態:ずぶ濡れが乾いて潮を吹いている、能力低下
装備:伊知郎のスマホ
道具:バランス栄養食ブロック*2、水のペットボトル(500ml)
[思考・状況]
基本思考:友達を救出する
0:島内放送のジャック、及び生存者の誘導を試みる
1:くまモンとクマーと行動。
2:佐天さんと初春さんは無事かな……?
3:あの『何気に宇宙によく来る』らしい相田マナって子も、無事に戻って来てるといいけど。
4:黒子……無事でいなさいよね。
5:布束さんも何とかして救出しなきゃ。
[備考]
※超出力のレールガン、大気圏突入、津波内での生存、そこからの脱出で、疲労により演算能力が大幅に低下していますが、回復してきました。


    ###【LAB=0】


 佐倉杏子と黒騎れいと狛枝凪斗とカズマと劉鳳と白井黒子は、愕然とした表情でその放送の末期を聞いた。
 先程まで、凄まじい表情でカズマと睨み合っていた狛枝凪斗が、その放送の後の沈黙から逸早く復帰した。


「……ほら、言っただろう。放送をしていた人間が、またヒグマに殺された。ヒグマは絶望なんだよ……」
「ちょっと待て。あの包帯男の話じゃ、既に朝から主催はヒグマに乗っ取られてるんだぞ? ヒグマがヒグマに殺されたってことじゃねぇのか!?」
「それならアタシは、ヒグマが人間の言葉喋ってたってのが意味不明なんだが……」

 カズマと杏子の問いには、黒子と劉鳳が応じていた。

「アルター結晶体との交戦前に、自分たちは人間の小学生のような格好をした喋るクマに会っている」
「クマ吉さん、という方でしたの。それに、ここに喋るカラスなんてものもおりますし……」
「ええ、そうよね……」

 嘘設定を一通り吐き終えたカラスを撫でながら、黒騎れいは動悸を抑えるのに必死だった。


 なんとかカラスの機転と放送のタイミングで誤魔化せたようだったが、狛枝凪斗の指摘はその全てが正しいものだった。
 ほんの少し立ち回りを過っていたら、自分が主催者側の人間であることが確実に露見してしまっていただろう。

 なおかつ、これまでに地下の主催本拠地で起きていたらしいことは、完全にれいの想定外のことだった。
 布束砥信は生き残っているようだが、有冨春樹以下、STUDYのメンバーほとんどが死亡。
 島外を埋め尽くしているらしいミズクマに、地下を占拠・拡張しているらしいヒグマ帝国。
 狛枝凪斗の言葉が正しければ、恐らく今の放送は、ヒグマ帝国側のヒグマが、モノクマというロボットの率いるヒグマたちに殺されたもの。

 わずか半日の間にこれだけの事態が起こっていたということを、黒騎れいは容易に信じられなかった。


 震える黒騎れいに向けて、なおも狛枝は憎々しげに声をかけてくる。

「ねぇ、黒騎サン。いい加減本当のことを言ってもらえないかなぁ? 主催が瓦解した今、キミだってヒグマから命を狙われる側になっているんだろう? お伴のヒグマもいないわけだし。
 ここは学級裁判とは違う。クロだからって何もボクらが捕って喰う訳じゃないんだ……。まぁ、全てはキミのやって来た行い次第なんだろうけどね」
「ほ、本当に……、何を言っているのかしら……?」

 俯いたままの返答に、狛枝は顔を顰めたようだった。
 彼に掴みかかろうとするカズマを抑えて、そこに佐倉杏子が割って入っていた。


「本当にさ……、もうよそうぜ、こんな詮索し合い。アンタの言う通り、『全ては行い次第』さ」
「どういう意味だい、佐倉サン?」
「『ルカによる福音書10章』の25~37節、『善きサマリア人の法』さ。
 『災難に遭ったり急病になったりした人など(窮地の人)を救うために無償で善意の行動をとった場合、良識的かつ誠実にその人ができることをしたのなら、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない』。
 この場の全員に言えることさ。誰も責められやしないよ」


 杏子は、福音書に記された『善きサマリア人のたとえ』を、かいつまんで皆に説明した。
 仮に善意の手当て者が何らかのミスを犯し、窮地の人が死亡、または著しい障害を負うという結末になった場合、手当て者の責任はどうなるだろうか。
 この『善きサマリア人の法』では、その結果に関わらず、その人が良識的に誠実に行なった行動ならば、それについて責任は問われない。


「白井さんだって、劉さんだって、アタシたちのために必死で頑張ってくれたんだ。不手際を気に病む必要はない」


 白井黒子を守れず、あまつさえ自分の命も参加者の命も守れそうになかった劉鳳は、その言葉に唇を噛む。
 それでも、その隣には、彼のアルターに同化した白井黒子がそっと寄り添っていた。


「カズマは、アタシの魂を救ってくれた。それに自分の信念で、ここにいる全員を引っ張ってくれてる」
「そんな大層なモンじゃねぇ。よしてくれ杏子」


 アルターを解除して開かなくなった片目をウインクのようにしながら、カズマはこそばゆそうに手を打ち振る。


「アンタもさ、一応、アタシたち参加者を気遣ってこう発言してくれてる訳だろ?」
「その通りだよ。だから、黒騎サンには嘘をつかないで欲しいんだけどねぇ?」
「そこがいくらなんでもやりすぎなんだよ。彼女はああ言ってるんだ」


 冷ややかな視線で首を傾げる狛枝凪斗から早々に踵を返して、杏子は黒騎れいの肩を叩いた。


「……アンタはさ、その『貴重』な矢で、劉さんを助けようとしてくれた訳だ。結果も上々。そう、ビクビクする必要はないって」
「え、ええ……」


 見つめてくる佐倉杏子に視線を返しながら、黒騎れいは彼女の瞳の中に、得も言われぬ哀しみのような色を見て取った。
 それは、黒騎れいに向けての悲哀のようでも、彼女自身に向けての哀愁のようでもあった。

 ――なぜ佐倉杏子は、こんな表情を……?


「アタシの場合はさ……、こうしてこの場を収めることが、『良識的に』良いんじゃないかと思ったわけ。
 ……まぁ、それがどんな結末に転ぶか、まだ、わかんないけどさ」


 杏子は、その声の中に、激しい悲痛を押し殺していた。
 見つめ合っている黒騎れいには、その瞼に、僅かに涙が溜まっていくのが見えていた。


「……あ」


 その時、黒騎れいには解ってしまった。
 佐倉杏子が、『自分が主催者側の人間であること』を気づいてしまっていることに。

 ――一体どこから……。


 自問自答と共に思い返すれいの脳裏に、佐倉杏子と出会ったいくつかの場面が蘇る。
 一回目は、穴持たず00を想定外に強化しすぎてしてしまって逃げ出した時。
 二回目は、変形能力を持った男に襲われていたところを救助してもらった時。

 両方とも、何らかの外敵に襲われていた場面であり、その時、れいと共にカラスもそこにいた。


 ――でも私はその時、カラスに向けて矢を撃ったりなんてしていなかった。


 カラスが先程盛大に吹聴していた嘘設定は、狛枝凪斗にはロンパできないものだった。
 しかし、彼以前に黒騎れいと出会っていた佐倉杏子は、そこに確実に不自然な点を見いだせた。


『「私も人間には使ったことないから彼がどうなったのか分からない」だって? じゃあ普段、一体何に使ってたというのかねぇ?』


 そこに、この狛枝凪斗の発言である。
 もう、何を言わずとも、その光の矢が何の強化に使われていたのかは推測できよう。
 ――ヒグマだ。
 彼女は、ヒグマドンと化した穴持たず00から黒騎れいが逃げてくる現場をしっかりと見ている。
 それはもう、確証に近い。


 ――それでは、なぜ、佐倉杏子はそれでも私を庇うの……!?


 震えながら杏子を見つめ返す黒騎れいに、先程の放送の内容が、佐倉京子の言葉が、フラッシュバックしていた。


『只今の脱落者は、
 デデンネ
 巴マミ
 暁美ほむら――』
『……だから、そいつらの一人は巴マミ、アタシの知り合いかも知れねぇんだよ! 主催者側なわけあるか!』
『おい、ほむら似のあんた! あいつの相手はあたしとカズマが引き受ける! 早く行きなっ!!』


 ――彼女の友人が、二人も、呼ばれていた。


 黒騎れいには、その友人の姿が、一色あかねや、四宮ひまわりに重なって見えた。
 技術者としてここに呼ばれているらしい四宮ひまわり。
 彼女のラボは、一体どうなったのだろうか。
 彼女だって、主催が殺されたとなれば、無事でいる保証はない。
 それどころか、既に殺されている可能性の方がはるかに高い――。

 ばくばくと、心臓が止めようもなく動悸していた。


 死んで欲しくない友人がいることは、主催者だろうと参加者だろうと同じ。
 参加者を救おうとした行為から見て、もはやその来歴がどうだろうと志は同じ。
 それならば、もう一人たりとて見殺しにはしない――。

 もし仮に黒騎れいが主催者側だということが露見すれば、狛枝凪斗の言う通り直接殺されはしないまでも、彼らと同行するのは心象として非常に難しいものとなるだろう。
 一人ではぐれれば、ヒグマに返り討ちにされて黒騎れいは死にかねない。実際に、れいにはその前例がある。
 ならば、経歴を隠してでも同行させ、守る。


 そんな苦渋の思いが、佐倉杏子にはあったのだろうと思われた。


 ――佐倉杏子は、私を、そのまま受け入れようとしてくれていたんだ……。


 がくがくと、膝が止めようもなく笑った。

「あ、あ、あ、ああ――……」
「れい、どうしたのですか!? れい!?」

 佐倉杏子の前で膝から崩れ落ちた黒騎れいに、カラスが慌てた様子で声をかける。
 彼女を見下ろしたまま、杏子はただ穏やかな笑みを湛えて佇んでいた。


「なぁ――、いいんだぜ? 『パレキュア』のままでもさ」
「い、い、いや――、言うわ――。言わなきゃ……」
「れい!? 何を言っているのですか!!」


 ――あなたの友達が、死んでない可能性だってある。って。
 ――だから、私の友達が、死ぬ前に、助けて。って……。


 重なりゆくミゼラブルの彼方を手繰って、非力なパラノイドは、いま自身の中の闇を、さらけ出そうとしていた。


【F-5 市街地/日中】


【カズマ@スクライド】
状態:石と意思と杏子との共鳴による究極のアルター、ダメージ(大)(簡易的な手当てはしてあります)
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品×0~1、エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険
基本思考:主催者(のヒグマ?)をボコって劉鳳と決着を。
0:主催者側に何が起こってんだか……。
1:『死』ぬのは怖くねぇ。だが、それが突破すべき壁なら、迷わず突き進む。
2:今度熊を見つけたら必ずボコす。
3:主催者共の本拠地に乗り込んで、黒幕の熊をボコしてやる。
4:狛枝は信用できねえ。
5:劉鳳の様子がおかしい。
[備考]
※参戦時期は最終回で夢を見ている時期


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:石と意思の共鳴による究極の魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り:中)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0~1
基本思考:元の場所へ帰る――主催者(のヒグマ?)をボコってから。
0:マミさん……、ほむら……。
1:たとえ『死』の陰の谷を歩むとも、あたしは『絶望』を恐れない。
2:カズマと共に怪しい奴をボコす。
3:あたしは父さんのためにも、もう一度『希望』の道で『進化』していくよ。
4:狛枝はあまり信用したくない。 けれど、否定する理由もない。
5:マミがこの島にいるのか? いるなら騙されてるのか? 今どうしてる?
[備考]
※参戦時期は本編世界改変後以降。もしかしたら叛逆の可能性も……?
※幻惑魔法の使用を解禁しました。
※この調子でもっと人数を増やせば、ロッソ・ファンタズマは無敵の魔法技になるわ!


【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:軽度の出血(止血済)、制服がかなり破れている
装備:光の矢(5/8)、カラス@ビビッドレッド・オペレーション
道具:基本支給品、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、ランダム支給品0~1 、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×1本
基本思考:ゲームを成立させて元の世界を取り戻す……?
0:私の友達を、助けて……。
1:他の人を犠牲にして、私一人が望みを叶えて、本当にいいの?
2:ヒグマを陰でサポートして、人を殺させて、いいの?
[備考]
※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです
※ジョーカーですが、有富が死んだことをようやく知りました。


【カラス@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:正常、ヒグマの力を吸収
装備:なし
道具:なし
基本思考:示現エンジンを破壊する
1:れいにヒグマをサポートさせ、人間と示現エンジンを破壊させる。
[備考]
※黒騎れいの所有物です。
※ヒグマールの力を吸収しました


【狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】
[状態]:右肩に掠り傷
[装備]:リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1、RPG-7(0/1)、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×2本
[思考・状況]
基本行動方針:『希望』
0:カズマクン……キミがこの島の希望なのかな?
1:黒騎サンさぁ……、主催者側の情報、あるんなら教えてよ……。
2:アルミホイルかオーバーボディを探してから島の地下に降りる。
3:出会った人間にマミ達に関する悪評をばら撒き、打倒する為の協力者を作る……けど、今後はもうちょっと別の言い方にしないとな。
4:球磨川は必ず殺す。放送で呼ばれたけど絶対死んでないねあの男は。
5:モノクマも必ず倒す。


【劉鳳@スクライド】
状態:進化、アルターの主導権を乗っ取られている
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:参加者を助け、主催者(ヒグマ含む)を断罪する。
1:カズマの叱責に応え、新たな正義を見つけられるような行動に励む。
[備考]
※空間移動を会得しました
※ヒグマロワと津波を地球温暖化によるものだと思っています
※進化の影響で白井黒子の残留思念が一時的に復活し、アルターを乗っ取られた様です


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
状態:絶影と同化、アルターの主導権を握っている
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:参加者を助け、主催者(ヒグマ含む)を断罪する。
0:島の状況と生存者の情報収集。
1:御坂美琴、初春飾利、佐天涙子を見つけ保護する。
2:劉鳳さんをサポートし、一刻も早く参加者を助け出す。
[備考]
※進化の影響で白井黒子の残留思念が一時的に復活し、劉鳳のアルターと同化した様です

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最終更新:2014年11月18日 23:55