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 地下からエレベーターシャフトの立坑を登り、第三回放送を聞いた宮本明、李徴、メルセレラ、黒騎れいの一行の現在地はまだE-5の山だった。
 『H』との激戦を経て満身創痍の彼らは、何はともあれ体力を取り戻すのが最優先だったからだ。
 左腕を中心に大量の傷を受け失血も著しい宮本明を中心に、メルセレラが止血、回復魔法をかけて応急処置をする。
 メルセレラの魔力で空気が暖まっており、雪のちらつく夜の冷え込みが少しでも緩和されていることは救いだった。

「ハァハァ、誰か食い物持ってないか!? 流石に体力を消耗しすぎたチクショウ……!」

 つい先ほど、地下でマリナーラピッツァとイタリアンコーヒーを摂取したばかりだったが、特に重傷を負った宮本明の消耗は激しかった。
 メルセレラと李徴も、全力の奮闘で当然のごとく疲弊している。
 ウェカピポの妹の夫ならば、ピッツァやコーヒー、クッキーなどを所持していたのだが、彼のデイパックは地下で彼の遺体ともども爆破されている。
 彼のあえぎに応えたのは、黒騎れいだった。

「ビスケットとはちみつなら……! あとミルクティーも!」
「マジか、でかした!! 言ってみるもんだな……!」
「本当!? 助かるわ、アタシたちも食べていいの?」
「もちろんよ。デイパックにぶちまけちゃったから取りづらいかもだけど……」
「イヤイライケレ(ありがとう)!」
「多謝(ありがとう)、零女士!」
「ハァハァ、ありがとう、助かる……!」

 メルセレラの魔法少女衣装のマンタリ(前掛け)を地面に敷いて、れいはデイパックの中身を開けさせてもらう。
 めいめいが散らばったビスケットを取り、穴持たず58の壺のハチミツをたっぷりつけて、いただく。
 疲れ切った身にその甘みは、涙がにじむほど美味かった。
 ボトルのミルクティーを回し飲みし、彼らはようやく気持ちを落ち着けることができた。
 体に沁み渡る優しい糖分に、メルセレラはふと感慨にふけってしまう。

「これ、確か58号の取っておきの蜂蜜壺よね。ケラアン(美味しい)」
「たぶんそう。もう、誰も残ってなかったから取って来ちゃったけど……」
「まあ、今更だわ。食べてやった方がアイツのためでしょう。アイツが言ってた通り、本当に良いモノね」

 島の外に鷹の爪団のレオナルド博士を拉致する命を受けて以降、行方知れずとなっている穴持たず58は、恐らく死んだのだろうと同胞のヒグマたちは考えていたし、事実そうであった。
 三期ヒグマで、ケレプノエの次の生まれの彼は、メルセレラにとってある意味弟のような存在だ。
 彼の自慢していた壺のハチミツを食べきってやるのは、むしろ彼に対する供養であった。

 人心地ついてデイパックを整理し直していたれいは、ふとその指に細い針を触れる。
 ――まだあった。布束さんの薬の針。
 爆散してしまったウェカピポの妹の夫の所持品の中で、唯一黒騎れいの『幸運』が拾わせた物品がそれだった。
 今後の対ヒグマ戦でも切り札になるであろうその針を、すぐに使えるよう仕舞い直し、れいは立ち上がる。
 彼女が動き出すのをきっかけに、李徴子が今後の行動方針を決めるべく口を開いた。


「先の放送で、島の概況がわかった。一般のロワで言うならば、現在は生存者の大半が対主催の流れに傾いている。
 これ以上の無用な消耗は避け、まずは武田先生のところに向かおう!」
「そうね。なんかこのソウルジェムとかいうのの濁りもどうにかしなきゃいけないみたいだし……、ケレプノエにも会いたいわ」
「南の方だったよな。時間も食っちまったし、行こう……!」
「あと、さっき襲ってきた女の子の情報とかも伝えないと……!」

 李徴の発言に続き、一行が口々に思いを述べる。
 黒騎れいの言葉に、李徴がハッとした。

「そういえば美女士、貴女は先の襲撃者を『オハチスイェ』と言っていたな!? 何か心当たりがあるのか?」

 先ほど激戦を繰り広げた『H』を、メルセレラは『オハチスイェ(空き家の化け物)』と呼称していた。
 その特異な単語の詳細を、李徴はこの場で確かめておくべきだと感じたのだ。
 メルセレラは、地面に敷いていた前掛けを結び直しながら、合点がいったように語る。

「ああ、たぶんあの子、昼に情報を整理した時にラマッタクペが言ってた『オマッピカムイメノコ(愛の女神)』だったのよ。
 彼女のハヨクペを第4勢力の機械が持ち去って、HIGUMA細胞で彼女をかたどって、そのヌプルを我が物にしようとした――。
 それが上手くいってしまったとしか思えない。
 誰であっても、ラマト(魂)を辱めるような行為だけは許せないわ……!!」

 シーナーは、ヒグマニンジャに取り憑かれた相田マナの魂を解放した後、埋葬をクレイとモモイという2体のヒグマに任せていたのだが、その二体はモノクマに殺されて相田マナの肉体を奪われてしまっている。
 その顛末を、ちょうどヒグマン子爵と情報交換していた際にメルセレラはラマッタクペからリアルタイムで伝え聞いていた。


「あの子は、ラマト(魂)を失っていた。その空き家になったハヨクペ(冑)を、化け物が乗っ取ってる。
 『オハチスイェ(空き家の化け物)』ってのは、このあたりに伝わる化け物の一つよ
 アイヌの動きを真似し、とてもよく切れる刃物で凶暴にアイヌや動物を襲うらしいわ。
 オハチスイェは、私たちキムンカムイでもアイヌでもとても倒せない。倒すには、カントモシリ(天上界)からの助けが要る」

 メルセレラの語るアイヌ民話ベースの世界観は、李徴たちには完全にはわからなかった。
 だが概要としては、あの少女は殺された後に洗脳・魔改造されてサイボーグになってしまったのだと、彼らは理解する。

「この場合、たぶんあの空き家……、あの子のハヨクペ(冑)に、元のラマト(魂)を戻さなきゃいけない。
 ラマッタクペがいれば簡単なんでしょうけど……。アイツ今、南の方にいるって言ってたっけ?」

 そして、彼女は普通には倒せず、その心を取り戻し、洗脳を解く必要があるのだという。
 メルセレラが思い浮かべる一番の対抗策は、真っ先にラマッタクペであった。
 彼の魂を操作する能力であれば、肉体が残っている以上は、それと繋がる魂を呼び戻してくることも容易いだろう。

 そこで彼らは、第三回放送で高笑いしていたラマッタクペのことを思い出す。
 黒騎れいが慌てた。

「南で、杏子たちと戦闘中って言ってたわよね!? 早く止めさせないと!
 それでそのまま南下して、できれば温泉に入れるなら入りたい……」
「そうね……、アイツのことだから、煽って焚きつけてるだけなんでしょうけど、とにかくそっちへ行きましょうか」

 下水道を辿ってきたせいでヒグマの糞塗れになっている黒騎れいにとっては、武田観柳のいるという目的地が温泉なのはこの上ない救いだった。
 このまま山を南へ降り、街を通って、戦闘中の佐倉杏子とラマッタクペたちを仲裁し、協力を取り付けながら、温泉の武田観柳たちと合流する――。
 そう方針を決定し、一行は雪の降る月夜の山を下り始めたのだった。


    GGGGGGGGGG


 南側へ、巨人に踏まれて丘程度になだらかになった山を下りながら、宮本明は武器となる手ごろな丸太をひたすら集めようとしていた。
 山肌は巨人の鷲頭巌に踏みつぶされていたが、すそ野の方では、丁度良く倒れた木々も散乱していた。
 それらを引き抜き、手で軽く枝打ちして丸太とする。
 その作業で、歩みが止まってしまった彼へ、メルセレラが呼び掛ける。

「ちょっと、そこそこにしておきなさいよ。そんな何本も丸太はいらないでしょ」
「要るに決まってんだろ! あればあるだけいい! 彼岸島と違って、ここの島じゃ丸太がどこにだって落ちてるわけじゃないしよ……!」
「丸太がどこにだって落ちてる島って何よ……?」
「すまねぇ、レイちゃんだったっけ。俺のデイパックはさっきのヤツに切られちまってな。預かっててくれ」
「え、ええ……」

 武装が無くなってしまった宮本明の焦りは相当なものだった。
 念には念を入れて、この時間も乏しい中で10本あまりも即席で丸太を拵えた彼は、ようやく安心した様子でその一本を担ぎ、残りを黒騎れいのデイパックに詰めた。

「よし、みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!」
「アンタだけよ、丸太持ってるの」
「我らは先ほどから明待ちだったのだが」

 一人意気揚々とする明に、苦言が次々と投げかけられる。
 ツッコむのも面倒だったため、言われるがままに無心でデイパックに丸太をしまっていた黒騎れいが、その時ふと月明かりを過ぎる影に気づいた。

「……って、ちょっと待って。見てあれ」

 れいの指差す空を、一行が見上げる。
 西側の温泉のあったあたりの上空に、激しく打ち合う何かの影が見えた。
 れいが慌てて、声を上げて手を振る。

「おーい! そこの飛んでる人ー!!」

 温泉から北へ戻る風の音。
 それは空中で戦闘をしていた、浅倉威と制裁ヒグマだった。
 だが、高空で戦いに夢中になっている彼らは、踏みつぶされた火山から呼びかける黒騎れいたちには気づかず、飛び去って行ってしまった。
 れいたちには、彼らが誰だかは判然としなかったが、貴重な合流の機会を逃すことは非常に惜しい。
 遠くなっていく2つの影を見やりながら、メルセレラが唸る。

「エヤイコスネクル・プンパ(風で体が浮き上がる)で追うにしても、ちょっとお互いそれどころじゃなさそうね……」

 李徴が問う。

「美色楽女士、貴女も魔法少女なのであれば、武田先生と同様にテレパシーを飛ばせたりするのではないか?」
「ああ、確かにそうかもしれない……、けどやり方がわからないわ。ダメね。
 せっかくアイヌのハヨクペ(冑)をもらったんだから、アタシもアイヌの戦い方を身につけないと……」

 魔法少女になって数時間しか経っていないメルセレラは、魔法の扱いに関しては新米も新米だ。
 今も彼女の戦闘は、基本的にはHIGUMAとして有していた能力を、魔法扱いでそのまま使っているに過ぎない。
 ソウルジェムの濁りという代償が増えてしまっただけで、むしろ純粋な戦闘力としては低下している可能性すらある。
 思い悩む彼女へその時、宮本明が丸太を突きつけた。


「……魔法少女ってのは、自分の心根を表すような武器を、持ってるもんなんだよ」

 それは彼が物書きとして書いたり、また知識として見知ってきたアニメや漫画でも、絶対と言っていいお約束だった。

「観柳さんなら金貨、英良さんなら操り糸、そういう自分だけの武器があるのがお約束だし、事実そうだ。
 それが出てきてねぇ以上、まだお前は、魔法少女として、人間として、認められてねぇんだよ、ヒグマ……!」

 たとえ関節技を主体として戦う肉弾戦闘系魔法少女であっても、申し訳程度に魔法の杖を持っていたりはするのだ。
 全く武器を持たない魔法少女など、宮本明の知識にはない。
 また、キュゥべえとの契約で同質の魔法少女となった、武田観柳、阿紫花英良に固有武器が出現している以上、その法則はメルセレラにも適用されるはずだった。
 なのにメルセレラには、まだ固有武器が出現していない。
 その理由を考えた時、宮本明が導き出せる答えは、一つだった。


「……いや、義弟さんや俺が殴り合いしてお前を認めても、誰より自分自身が、それを認めてねぇ!! その証拠だ!」
「アタシ……自身が……?」


 喉元に丸太を突きつけられ、メルセレラは息をのむ。
 宮本明が真っすぐ見つめてくる視線は、激励だった。
 あれだけ戦って互いに認め合ったはずなのに、その自分自身が己を認めていないなど、許さない。――と、彼は言っているのだ。
 思い至らなかった事実に、メルセレラは恥じ入るように視線を落としてしまう。
 黒騎れいも考え込んで、彼女に助け舟を出そうとした。

「……確かに、私の友達も、変身したら独自の武装を使ったりしてるわね……。なんかそういうのって、思い浮かべたら出てきたりしないの?」
「……わからないわ。黒騎れい、アンタも変身できるんだったら、むしろ教えてくれない? コツとか」
「ごめんなさい、今のは私の友達……、四宮ひまわりとかの話で、私が変身できるわけじゃないの……」

 逡巡する一行の中、虎になった李徴子の耳が、飛び来る殺気を捉えていた。

「誰か来る――! 你誰呀(ニーシュイヤ:誰だ)!?」


    GGGGGGGGGG


 李徴が先んじて唸りを飛ばしたことで、一行は身構え、殺気の主の機先を制した。
 南西の温泉街の建物の陰から、黒いオーラを纏った何者かが、一足飛びにこちらへ跳んでくる。
 彼らの目の前に降り立った長身のヒグマは、メルセレラと黒騎れいの記憶に新しい者だった。
 黒く細身ながら筋肉に満ちた体躯に、目だけを赤く爛々と光らせたヒグマは、ニヤリと笑いながら人語を話した。

「――また会ったな、メルセレラ」
「アンタ……、ヒグマン? 見違えたわ。また随分とハヨクペ(冑)をカッコよく新調したわね」
「フン、見違えたのはお互い様だろう。貴様もわざわざ好き好んで人間の体になるとはな」

 そのヒグマは、穴持たず13、ヒグマン子爵のはずであった。
 だが彼はメルセレラが昼に会った時よりも一回り大きくなり、そして比べ物にならないほど禍々しい殺気を放っている。
 黒騎れいは、恐怖に身を竦めた。

「ヒグマン子爵……! しゃべってる! いや、しゃべれるようになったの……!?」

 黒騎れいは、朝方にヒグマドンから逃げていた際、待ち伏せしていたヒグマン子爵に襲われていた。
 究極生命体カーズの来訪でヒグマン子爵が撤退していなければ、間違いなくあの場でれいは殺されていたはずだった。
 その時よりも数段上回る威圧感に、れいの体は覚えずガタガタと震えていた。
 李徴、宮本明、メルセレラは、自然と彼女を守るように前に出る。

「なに、ようやくアンタも自分の名前を自覚することにしたってわけ?」
「私は最初から、貴様らと違ってそんなものに頓着してはいない」
「嘘つけ。アンタほど気にしてたヤツもそういないでしょ、ヒグマン」
「黙れ。貴様にだけは言われる筋合いはない」

 一番先頭でメルセレラは、ヒグマン子爵の殺気をひしひしと感じながらも、唯一の顔見知りでもあることから、努めて平静に会話しようとしていた。
 同胞の中でもヒグマン子爵は冷静で知的であった。
 彼ならば、この島の現状を見誤らないはずだ。
 この只ならぬ殺気が誰に向けられているのかは明らかだが、話し合う余地はあるはず――。
 そうメルセレラは信じていた。

 そんな彼女に、彼はフッと笑い、言い放った。


「……それにもう私はヒグマン子爵ではない。先ほど改名したのだ。これからは羆魔神我(ヒグマジンガー)と呼んでくれ」
「へ? なにそれ?」


 その言葉は、完全にメルセレラの虚を突いた。
 『改名』、という概念を、自分の名前にこそ誇りと本質を見出すキムンカムイ教徒のメルセレラはすぐには理解できなかった。
 なんでそんなことを――?
 という疑問が、彼女の頭を埋め尽くす。
 硬直する彼女には目もくれず、ヒグマン子爵――改め羆魔神我の視線は、李徴の背後で震える黒騎れいにのみ注がれていた。


「如何にしてこの私の認識を振り切ったのか……、ヒグマの糞を塗りたくっているだけではあるまい。
 だが、仔細はもはや些末。今一度仕留めさせてもらうぞ、黒騎れい!」
「ふざけるな! ヒグマにこれ以上人を殺させるかよ!!」
「貴公が如何に強大なヒグマであろうと、この隴西の李徴子の爪牙に、誰か敢へて敵せん!」

 黒騎れいに向けて今にも飛び掛かろうとする羆魔神我の前に、丸太を構える宮本明と、白虎の毛並みを逆立てた李徴が立ちふさがる。
 戦いの火蓋が切られそうなその様子に、メルセレラはようやく我に返り彼らの間に割って入った。

「ちょっと! そんなことしてる場合じゃないわよ! 第4勢力の機械が、もう方々に手を回してんのよ! わかんないの!?」
「だとしてもそれは、獲物をきちんと仕留め終わってからの話だな」
「この子は、黒騎れいは、今はアタシの仲間よ!!」
「そうか、それは残念だ」

 必死に最後の説得を試みるメルセレラを、羆魔神我は鼻で笑った。


「力づくで奪わせてもらうほかないとはな」
「エパタァァァイ(馬鹿者ォォォ)!!」


 羆魔神我の前脚が、突然巨大化して上空から振り下ろされていた。
 その鉄槌のような一撃を、急速加熱された空気の爆裂が跳ね返す。
 メルセレラの魔法で吹き飛ばされた羆魔神我は、余裕をもって空中で体勢を立て直し、腕を広げて彼女へ語った。


「この実験はまだ継続しているのだ。有冨の仲間の、関村弘忠という奴が、ヒグマに成り代わり、提督として永らえていた。
 参加者は全て我々ヒグマに殺される。それこそがこの実験、このゲームの本懐だ!!」
「え!? 関村さんが!? ヒグマの提督に!?」
「知ったこっちゃないでしょそんな実験!! アタシは昔ビリビリ喰らわせてきた研究員を、実験開始の時に耳と耳の間に坐らせてきたわよ?
 アンタはSTUDYの研究所になんの不満も無かったわけ!? なんで今更そんな奴の言うこと聞いてるの!?」

 羆魔神我の伝える言葉に、れいは驚き、メルセレラは反駁した。
 メルセレラには、ヒグマン子爵がこの期に及んでSTUDYの元研究員如きに従っていることが信じられなかった。


「言葉ばかり、仕打ちばかりで、アタシたちの餓えもままならないヤツらに、従う意味なんてないでしょ!!」


 関村弘忠といえば、ヒグマン子爵の名前を付けた本人。STUDY研究員の小太りのメガネだ。
 れいやメルセレラの記憶には、何の権限があってなのか布束砥信を口汚く「ぬのたヴァぁ!」などと罵っていた印象くらいしかない。
 それ以外は、彼は実験などほっぽらかして艦これだかなんだかのゲームに没頭していたはずだ。
 そんな彼が名実ともに提督になったのは、はあ良かったですね、程度のどうでもいいことだが。
 仮にも主催なのだったら、こんな事態になっている以上、しっかりと責任を取って実験の中止を宣言してもらいたいものだ。
 布束砥信や司波深雪が事態の収拾に奔走しているというのに、彼女たちがこのことを知ったら一体どうなってしまうのか。

 羆魔神我がせせら笑う。

「私は、ただ獲物を狩るだけだ!」
「だから、その順番が間違ってるって言ってんのよエパタイ(馬鹿者)!」

 もはや彼を説得することは不可能だった。
 巨大化した前脚が横薙ぎに振るわれる。
 空気の爆裂がその攻撃を弾く。

「決着をつけてやろう!!」
「ソスケピラレラ(崖剥がす風)!!」

 巨大化しては振り抜かれる脚撃の連打にメルセレラたちは押される。
 そしてその連撃の狭間で、宮本明の予知能力は、羆魔神我の胸部から死の奔流が噴き出すのを見た。

「みんな! 奴の正面から外れろ!! 火炎放射が来るッ!!」
「なっ――」
「零女士――! 我に掴まれ!!」
「ひぃぃぃ――!?」
「こいつでとどめだ――!!」

 ばっくりと左右に展開した羆魔神我の胸部から、巨大な炎の渦が噴射され、メルセレラたちのいた山肌を舐めた。
 明の未来予知でなんとか反応した一行はバラバラに飛び退り、かろうじてその業火を躱す。
 倒れた木立に火が移り、一帯の山肌は遥か上方までぼうぼうと炎に包まれる。
 メルセレラも宮本明も李徴も、その圧倒的な威力に呆然とし、黒騎れいは李徴の白い毛皮の中で震え続けた。

 一番近くで、炎を見つめたまま立ち尽くすメルセレラを、羆魔神我はあざ笑う。

「フン、ラマッタクペが偶像として据えようとしていた貴様も知れたものだな」

 振り向いたメルセレラが叫ぶ。
 その叫びは、恐怖でも怒りでもなかった。

「……本当に今のアンタのヌプル(霊力)!? 全然違うじゃない!!」
「さぁてなぁぁー? 今の私は、ゴクウコロシの刀すら取り込んでいる。いずれにせよ、この島の主役は、私だ!!」
「エパタイ(馬鹿者)!
 ウ・ネコンナ・カムイ・エシネ・ヤッカ・アトゥカプ・コンネ・エシキ・ナンコンナ(アンタがどんな神でも、命を落とすことになるわよ)!!」

 メルセレラの悲痛な声は、彼への心配と焦りで満たされていた。
 自分の本当の名前とは違う力を手にしてしまった時、その先の道はどこに続いているのか。
 名前を嫌い、別の名前を自分でつけたところまでは、まあいい。まだ飲み込める。
 だが、ならば彼は何故、その嫌っていた名前を付けた当人などの言うことに従っているのだ?
 名前と、認識と、行動との間に、絶対的な矛盾が横たわっている――。
 メルセレラには、ヒグマン子爵の未来に、得体の知れない破滅が待っているように思えてならなかった。

 その警告を聞かず、笑う羆魔神我は、その全身からメキメキと鋭い刃物を生やし、涙をにじませるメルセレラを斬りたてた。


「貴様如きに、私を止められると思うな――!!」
「『ルスカルヤンペ(瞋恚の嵐)』ェェ――!!」


 凄まじい数の剣閃の嵐へ、メルセレラは爆裂の連弾で対抗しようとする。
 だが、全力を振り絞っても、その速度は、威力は、羆魔神我の方が上だった。
 メルセレラは泣いていた。
 タマサイ(ネックレス)のシトキ(飾り玉)のソウルジェムが、どんどんと濁っていく。

 メルセレラは、ただひたすら悲しかったのだ。
 自分の力が劣っているからとか、今にも殺されそうだからとか、そんな理由ではない。
 同じ研究所で作られ、過ごし、数時間前には同行もしていたはずのヒグマの同胞と、こんなにも容易くわかり合えなくなってしまったからだ。
 他者に自分を認めてもらうことが本当の願いだった彼女にとっては、最も近しかったはずの存在とのこの断絶こそが、絶望だった。

 空気は、もう爆ぜなくなる。
 うなだれるメルセレラの上に、斬首台のように鋭い刃が閃いた。


    GGGGGGGGGG


「これでお前は終わりだ――」
「――壊れろ!!」

 だがその瞬間、振り上げられた羆魔神我の前脚を、ドリルのように回転して飛来した丸太が弾く。
 宮本明だ。
 彼の放り投げた丸太は、続けざまに王族護衛官の回転の効果を敵にもたらした。

「なにっ――!?」

 左半身失調。
 突如、左側の空間認識を失った羆魔神我は、理解不能の事態にバランスを崩して停止する。
 その死角から、明は羆魔神我の火炎放射で火のついた倒木を、燃える枝ごと持ち上げ、全力でその横面を叩き飛ばした。

「うおおぉぉぉりゃあぁぁぁ――!!」
「グアアアアァァァァ――!?」

 フルスイングした倒木ごと山裾を転がり落ち倒れた羆魔神我を一瞥し、ハァハァと息を荒げる宮本明は、振り向いて仲間を一喝する。


「ボサッとしてんな! まだ終わってねぇ! レイちゃんはさっきの予備の丸太出してくれ!」
「……は、はい!」
「あとテメェだよテメェ!! なんでお前がそんなしょぼくれてんだよ、らしくねぇぇ!!」

 ハッとした黒騎れいが、手伝う李徴と共にデイパックから丸太を懸命に取り出そうとする。
 その最中、明はずかずかとメルセレラに近寄り、怒りながらその襟首を掴み上げた。

「テメェの魂を認めてやるヤツは誰なんだよチクショウ!! 他人じゃなくて、それはテメェ自身だろうがチクショウ!!」

 宮本明は、先ほどからずっとメルセレラに対して怒っていた。いら立っていた。
 仮にも彼女は、尊敬するウェカピポの妹の夫が、宮本明自身が、認めた者だ。
 うじうじめそめそ、ヒグマのくせになよついている彼女の姿など、見たくもなかった。
 宮本明が見慣れた彼女は、初対面の時のような、キザな・悟ったような・小生意気な・ハイテンションで尊大なヒグマのはずだった。

 かといってそんなことを、あくまで他人である明が言っても仕方がない。
 自分を変えられるのは、あくまで自分自身。
 胸の影を知るのは、他の誰でもない――。

「ああ俺だってそうさ! ブロニーさんも、義弟さんも! 誰の思いも無駄に『できるわけがない』!!
 それを決めたのは、他の誰でもねぇ、俺自身の魂だ!!」

 宮本明は首を振り、自分自身にも言い聞かせるように叫ぶ。
 そして彼は真っすぐに彼女の眼を見据え、その名を呼んだ。


「思い出せよ『メルセレラ』!! 自分をッ――!!」
「宮本、明……」


 初めて、彼が面と向かって自分の名前を呼んでくれた。
 相対していた者に。
 敵対していた者に。
 認めてもらえた――。
 その瞬間、メルセレラの心には、鬱々とした澱みを払うような熱風が駆け抜けていた。

 昔の記憶が、思い出される。
 研究所の檻の中で、唯一メルセレラの心に響いたのは、何だったか。

 それはあの、桜井純という女研究員の澄んだ歌声。
 『学習装置(テスタメント)』から響いていた、唯一の癒し。

 ――あるひ もりのなか
 くまさんに であった
 はなさく もりのみち
 くまさんに であった――♪

 声を、空気を、響かせるには、他者の心を打つには、何が必要なのか――。
 彼女の歌声を聞くたびに、心が熱を持った。
 熱い風が、血肉を湧き立たせた。

 いがみ合っていても。
 立場が違っても。
 普通は分かり合えるはずもない、ヒグマと人間でも。
 繋がり、認め合える方法が、確かにある。
 それがわかったのだ。

 初めて自分が何かをスキだと認められた、あの経験――。
 それを思い出した瞬間、メルセレラの周囲から熱風が立ち上った。
 明が驚いて数歩下がる。

「なっ、いきなりどうした!?」
「イヤイライケレ(ありがとう)、宮本明……」

 送風機で逆風を浴びるかのように、吹き上がる風に髪と衣装を舞わせながら、メルセレラは力強く笑った。
 彼女が握りしめる手の中に、光と風と夢が集う。


「これがアタシの本当の、『心撃つ風(サンペアクレラ)』よ!!」


 彼女の手に出現したのは、キラキラと輝くマイクだった。
 そして、続けざまにその足元に、マイクから繋がる巨大な二基のスピーカーが顕現する。
 それこそが、メルセレラの魔法少女としての固有武器。
 それはあたかも研究所で彼女が憧れた、音響装置のようだった。


    GGGGGGGGGG


「お前それ武器か!? 武器なのか!? でかしたじゃねぇかチクショウ!!」
「ゆ、る、さんぞぉぉぉ――!! 小癪なぁぁぁ――!!」

 宮本明が、彼女の姿に快哉を上げた直後、左半身失調から回復した羆魔神我が跳ね起きていた。
 全身から刃を生やしたまま、空中を疾駆して襲い来るその黒い影に、魔力を立ち上らせ燦然と輝くメルセレラが対峙する。
 マイクを、握りしめる。


「カ゛゛゛゛ッッッッ――!!!!!!」


 指向性の爆音が轟いた。
 暗雲すら消し飛ばすような怒号の愛。
 メルセレラの左右のスピーカーから、巨大な音圧が投射されていた。
 空振を真正面から受け、羆魔神我の巨体が震え、吹き飛ぶ。
 空中に、羆魔神我から砕けた刃がばらばらと舞い散った。

 わずかにハウリングを残しながら、山裾を転げていく羆魔神我を指差し、メルセレラはなおも追加で叫んだ。


「少しはアタシの言うことを、聴ッけぇぇぇ――!!!!!!」


 雪の多少積もった裾野が、街並みが、メルセレラの叫びの一音ごとに次々と爆裂して吹き飛ぶ。
 形成されるクレーターと共に、羆魔神我は紙屑のように跳ね飛ばされ続けた。

 耳をふさぐ宮本明と李徴、黒騎れいの前で、マイクを握りしめ、メルセレラは煌めいていた。
 ヒグマからアイヌの体となった彼女は、雪明かりに照らされて、指先が、血流が、黄金の煌めきを放っているようだった。
 明は息を呑む。

 上昇気流が、雪を舞い散らせる。
 マイクを持つ熊耳少女の伸びやかな肢体。
 煌めく風に飛ぶ雪の結晶のひとつぶ。

 宮本明はその中に、黄金の長方形を見た。
 メルセレラの風は、確かに彼の心を撃った。


「……退く気はぁぁぁあぁぁぁ、無ああああぁぁぁぁぁ――い!!!」


 その時、メルセレラの攻撃を受け続けていた羆魔神我が、空中で体勢を立て直していた。
 いつの間にかその背中には、赤い粘膜で出来た、巨大な翼が生えていた。

「カッコ良いわねヒグマン!! だけどそのヌプル(霊力)を、揮う相手が、違うでしょォ――!!」
「もはや貴様が喚いたところで、私には当たらんッ――!!」

 上空に向けて叫びを投射するメルセレラの怒号を、羆魔神我はその翼で急速に旋回し躱す。
 そして彼は、全身に生やした刃を上空から一気に山肌の一行へ射出していた。

「そして私は、羆魔神我(ヒグマジンガー)だッッッ――!!」
「イ・ラム・カラプ・テェェェェ(アンタの心に、頼むから触れさせてほしいの)――!!」

 メルセレラの指向性音波が、射出される刃の雨を払う。
 だが、その雨はまた来る。
 上空から次々と、空を隠すように降る雨、雨。
 あまりにも大量に降り注ぐその刃の連弾は、メルセレラには捌ききれなかった。


「風だ……! 俺も、風を煌めかせてやるよ!! お前と同じようになぁ!!」


 その絶体絶命の現在地に踏み出したのは、宮本明だった。
 メルセレラの前に躍り出た彼は、叫びながらぐるぐると丸太を回していた。
 ブォンブォンと風を切るその動きは、たちまち、明を中心とした巨大な竜巻をその場に起こしていた。
 上空へと吹き上がるその竜巻の突風は、羆魔神我の刃の射撃を悉く弾き散らす。

「なっ――!?」

 そしてそのまま、周囲の全員の体に異常が起きる。
 メルセレラも、李徴も、黒騎れいも、風に触れただけで、左半身が失調していた。
 そしてそれは、上空にいた羆魔神我も例外ではなかった。

 空中でバランスを崩した羆魔神我は、たちまちきりもみして墜落する。

「ガハァ――ッ!?」

 受け身も取れぬまま、したたかに全身を大地に打ち付け、落下の衝撃に羆魔神我は悶絶する。
 その欠落した左半分の視界の中で、竜巻の中心で回転していたはずの宮本明は、いつの間にかその渦にのみ込まれたように消失していた。

「これが妹夫の言っていた黄金の回転か――!? あらゆるものを無限に飲み込む渦……!
 『黄金回転の竜巻』とでも呼ぶべきか……!!」

 ――ウェカピポの妹の夫の伝えた回転の技術が、よもやこんなレベルにまで昇華されるとは!
 同じく左半身失調しながら、李徴は感動に打ち震えていた。


「ヤ、ヤツは――、ヤツはどこに……!?」

 羆魔神我は、十数秒間の左半身失調の中で、ようやく宮本明の危険性を正しく認識した。
 同じヒグマで、魔力を持つメルセレラだけを警戒していれば、あとは取るに足らない人間と、中途半端なヒグマもどきに過ぎないだろうと高をくくっていたのだ。
 理解不能の術理によるこの行動阻害と、人間離れした怪力、胆力――。
 圧倒的な捕食者であると、信じて疑わなかった自分の存在が揺るがされる恐怖を、初めて穴持たず13は感じた。

 ――死角から襲われる! 殺される!

 穴持たず13は、恐怖に侵食された左側の空間を求めて、必死に地表を転げた。
 その姿はあたかも、親からはぐれ、傷つき弱った、生に縋りつくただの子熊のようにすら見えた。
 黒騎れいを畏怖させ、メルセレラを絶望させた、あの強者の威厳は、もう無かった。
 その彼を打ち砕く、真の強者の声は、遥か上空から轟いていた。


「ここだぁぁぁ――!!!!!!」

 宮本明は、竜巻の残滓、空気の渦の中から、無限の回転を逆回しにしたかのように、突然現れていた。
 高高度の上空から、全身のバネで真下へ丸太を投げ落とそうとする彼の眼に、黄金の長方形が映る。

 輝く月。
 丸太の年輪。
 舞い降りる雪の結晶。
 李徴の白い毛並み。
 メルセレラの熊耳。
 その伸びやかな四肢。
 その希望に煌めく、瞳――。

 理の風に隠れ、上空から完全にヒグマの虚を突いた必殺の一撃が、放たれる。


「うおおおぉぉぉぉ――!!」
「グルオオォォォォ――!!」


 明の声に、穴持たず13はかろうじて反応した。
 腹這いから上空へ向き直り、その胸部を開いて、全力の火炎放射を噴き上げていた。

 ライフル弾のように回転して高速落下する丸太に、その炎の渦がぶつかる。
 丸太が焼け落ちる。
 しかし同時に、その丸太は炎を切り裂いた。
 灼熱の業火が、丸太の太さを持った巨大な渦に弾かれるように散乱し、霧散する。


 ――丸太は消し飛んでも、その回転だけが残り、らせん状に空間を歪めながら高速で直進し続けたのだ。


 そして空間に残った丸太の回転は、そのままの速度で高速落下し、穴持たず13の胸部に大穴を穿っていた。


「――『黄金回転の丸太』だッ!! 回転は、穴になっても死なぬのだ!!」


 李徴が快哉を上げた。
 目撃するのが二度目となるその現象を、李徴だけはようやく理解できた。

 回転は、声や音と同じく波だ。波動だ。波紋だ。
 物質の回転は、空気へ、地面へ、そして空間そのものへと伝播していく。
 回転する物質そのものを消されても、真に無限に回転する黄金の回転ならば、空間そのものを回転させ、防げぬ一撃を相手へ齎すことも可能となるのだ――。

 宮本明が五点着地して山に降り立つと同時に、穴持たず13は大きく吐血した。
 縦隔構造をごっそりと抉り取った宮本明の一撃は、どう考えても致命傷だった。

 だが、穴持たず13は、まだ死ななかった。

「き、さま、だけはぁぁぁぁぁ――!!」

 赤く血走った眼を見開く。
 せめて最後に、獲物として狙っていた黒騎れいだけでも仕留める――。
 左半身失調から回復した肢体を跳ね起こし、李徴の背後に立つ黒騎れいに向けて飛びかかっていた。


「ヒグマン! もうやめて――!!」
「テメェ、まだ動けるのか――!?」


 メルセレラと宮本明の驚く声が響く。
 だが、間に合わない。
 対空する李徴の爪が払われる。

 狙われる黒騎れいは、空を滑り来るその黒い死に対して、悄然としていた。

 ――タッ。
 穴持たず13の眼に、細い針が突き刺る。
 れいの口元から放たれたそれは、非常に小さな、吹き矢だった。
 もう彼女の眼に、恐怖の色はなかった。

「……人間は、ヒグマにやられるばかりじゃないのよ」
「ガアァァァァアァァァ――!?」

 布束砥信の麻酔針を、弓から折り取ったカラスの羽軸の筒で吹き撃つ極小の麻酔吹き矢。
 急ごしらえであったが、その隠し武器は過たずその効果を発揮し、穴持たず13を悶えさせた。

 地に落ちて呻く彼を見下ろす、その眼が湛えているのは、哀れみだけだった。

 ――その哀れみが、彼を、壊した。


『おのれ、おのれ、人間風情がァァァァ!!!』


 穴持たず13の体が膨れ上がる。
 胸に空いた穴を埋めるように、HIGUMA細胞が活性化し、倒れた地面さえ吸収しながら、穴持たず13だった、ヒグマン子爵だった、羆魔神我だった肉塊は蠢動し巨大化していく。

 許せなかった。
 あってはならなかった。
 人間ごときが、被食者ごときが、獲物ごときが。
 出来損ないの・浅はかな・調子に乗っているだけの同胞ごときが。
 ヒグマを、捕食者を、この強者であるはずの私を、憐れむことなど認められなかった。

 私は、自分は、我は、断じてそんな脇役では、ないはずだ――!!


『私、私、私、私が、私我、牙、ガ、我、主役、主役、主役ダァァァァァァァ――!!』


 駆け寄ろうとしていた宮本明とメルセレラが、すんでのところで止まって瞠目する。

「なんだ――!? 何が起きてんだチクショウ!?」
「わからない! けど、たぶんHIGUMA細胞ってのが暴走してるんだわ!」
「……ヒグマン……! アンタは、名前を見失ったわね……!」
「明! 零女士! 我らの背に乗れ!! 逃げるに如かずだ!!」

 ヒグマに戻ったメルセレラが黒騎れいを、李徴が宮本明を乗せ、蠢く肉塊をあとに、彼らは山の裾野を一散に駆け下り始めた。


『ウオオオオオオオォォォォォォォォ――!!』


 彼らの背後で、空気を轟かせる雄たけびを上げて屹立する巨体があった。
 身長20m以上にも巨大化した穴持たず13・ヒグマン子爵――いや、羆魔神我は、今や黒鉄の城の如き威容を放っていた。
 肥大した四肢。
 機械の面のような頭部。
 V字型に赤々とした血色が覗く、厚い胸板の胸部。
 神にも悪魔にも見える、奇妙に赤く脈動する皮膜の翼。
 全身がヒグマの毛皮に覆われた巨大ロボットのように、彼は山上に聳えた。


【E-5 山の裾野・南西】


【G羆魔神我(グレートヒグマジンガー)(ヒグマン子爵)(穴持たず13)】
状態:大魔神化
装備:なし
道具:なし
基本思考:魔神我魔神我魔神我魔神我
0:魔神我魔神我魔神我魔神我
[備考]
※HIGUMA細胞が暴走し、身長20m以上の大魔神のような巨体に変貌しました。
※細身の筋肉質でスーツのような黒い体毛に覆われ両目が赤い巨大なヒグマでした。
※宝具羆殺しと宿っていた孫悟空を殺したヒグマと正宗@SCP Foundationを吸収しました。


【宮本明@彼岸島】
状態:疲労(中)、ハァハァ、(『できるわけがない』カウント:3)
装備:テレパシーブローチ
道具:黒騎れいのタオル
基本思考:西山の仇を取り、主催者を滅ぼして脱出する。ヒグマ全滅は……?
0:義弟さん……、義弟さん……!!
1:観柳さんたちは大丈夫なのか……?
2:信念や意志で自分を縛るのではなく、ありのまま、感じたままに動こう。
3:西山、ふがちゃん、ブロニーさん……、俺に力をくれ……!!
4:兄貴達の面目にかけて絶対に生き残る
※未来予知の能力が強化されたようです。
※ネアポリス護衛式鉄球の回転を身に着けたようです。
※ブロニーになるようです。
※『壊れゆく拳』、『壊れゆく丸太』、『黄金回転の丸太』、『黄金回転の竜巻』というような技術を編み出したようです。
※首輪は外れました。


【虎になった李徴子@山月記?】
状態:健康、虎
装備:テレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:人人人人人人人人人人
0:妹夫、お前の教えは、明の中に確かに息づいているぞ!!
1:我は今こそ、『穴持たず』たる自分に、帰るべき流儀に至れた!
2:小隻の才と作品を、もっと見たい。
3:フォックスには、まだまだ作品を記録していってもらいたい。
4:俺は狂人だった。羆じゃなかった。
5:小賢しくて嫉妬深い人殺しの小説家の流儀。それでいいなら、見せるよ。
6:克葡娜(ケァプーナ)小姐の方もあれはあれで、大丈夫なのだろうか……。
[備考]
※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります
※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした
※黒騎れいの矢によって強化され、熊たる精神を自分自身の中に捉えた、完全なる『羆』となりました。


【メルセレラ@二期ヒグマ】
状態:魔法少女化、疲労(大)、負傷(小)
装備:『メルセレラ・ヌプル(煌めく風の霊力)』のソウルジェム(濁り:極大)、アイヌ風の魔法少女衣装
道具:テレパシーブローチ
基本思考:メルセレラというアタシを、認めて欲しい。
0:ヒグマン、とても残念だわ……。
1:見た目が人間だろうがヒグマだろうが関係ないわ。アタシの魂は、アタシのものだもの。
2:今はきっと、ケレプノエは他の者に見ていてもらった方が、いいんだわ……。
3:アイヌって、アタシたちが思っているより、ずっとすごい生き物なんじゃない?
4:態度のでかい馬鹿者は、むしろアタシのことだったのかもね……。
5:あのモシリシンナイサムのヒグマは……、大丈夫なのかしら、色々と。
[備考]
※場の空気を温める能力を持っています。
※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、その加温速度は、急激な空気の膨張で爆発を起こせるまでになっています。
※魔法少女になりました。
※願いは『アイヌになりたい』です。
※固有武器は、研究所にあった音響機器を模した、マイクとスピーカーです。
※固有魔法は、空気を温める能力を発展させた、空気の振動(音波、熱)の増幅です。
※ソウルジェムはオレンジ色の球体。タマサイ(ネックレス)のシトキ(飾り玉)になって、着ている丈の短いチカルカルペ(刺繍衣)の前にさがっています。
※その他、マタンプシ(鉢巻き)、マンタリ(前掛け)などを身に着けています。


【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:軽度の出血(止血済)、制服がかなり破れている、首輪に銀紙を巻いている、全身がヒグマの糞と下水にまみれている
装備:光の矢(4/8)
道具:基本支給品(タオルを宮本明に渡している)、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、『家の鍵』、リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×1本、丸太×9
[思考・状況]
基本思考:ゲームを成立させて元の世界を取り戻す……?
0:もう、私たちはヒグマにやられるだけの存在じゃない!
1:何なのあの人型のヒグマは……! あんなのが地下には跋扈してたの!?
2:杏子たちと合流して、もう一度四宮ひまわりを探さなきゃ。
3:私一人の望みのために、これ以上他の人を犠牲にしたり、できない……!
4:どんな卑怯な手を使ってでも、自分と他の人を、救う……!
[備考]
※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです
※ジョーカーですが、有富が死んだことをようやく知りました。

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最終更新:2026年01月15日 15:45