同じ言葉で、めいめい勝手な違った事柄を指したり、同じ事柄を各々違った、しかつめらしい言葉で表現したりして、人々は飽きずに争論を繰返している。
文明から離れていると、この事の莫迦らしさが一層はっきりして来る。心理学も認識論も未だ押寄せて来ない此の離れ島のツシタラにとっては、リアリズムの、ロマンティシズムのと、所詮は、技巧上の問題としか思えぬ。
読者を引入れる・引入れ方の相違だ。
読者を納得させるのがリアリズム。読者を魅するものがロマンティシズム。
(中島敦『光と風と夢』より)
《MERSE・RERA・YUKAR》
あの人間の死体を見つけた時、アタシはただ、もの悲しい思いに襲われていた。
冷たい風(ナムレラ)にさらされたような、淋しさを感じたんだ。
そう。どうあったって生き物は死ぬのだと、そう再認識せざるを得なかった。
『……ケレプノエ。あのアイヌに、お祈りしてあげましょう』
『どうしてですかー? あの方は、天上界(カントモシリ)に行かれたのでは、ないのですかー?』
『……いいから』
ケレプノエの無垢な唸りは、胸に響いた。
今まで散々、その事実から眼を背けてきたアタシが、今更何をしてるのか。おかしいのは自分でも分かっていた。
でももう、戦い(トゥミコル)は御免だった。
お互いがお互いを襲い(イコホプニ)合う、なんて無意味な行為だったか。
いくら戦いを重ねても、アタシが崇められることは、なかった。敬ってもらえることなんてなかった。
アタシがもらったものはただ、憎しみと恐怖だけだった。
あの研究員。
立場を弁えぬ馬鹿者(エパタイ)。
水上の娘たち。
狂い嗤う男。
まるで新婚の夫婦(ポン・ウムレク・ウタラ)のような親しげな男女。
そいつらの顔が怒り(ルスカ)に歪む光景ばかりが、アタシには思い出された。
死んでいるその男の前で首を垂れると、なぜかその男には、新しい煙草(タンパク)の臭いがした。
男の死体から出て、そこらへんの建物の陰へ向かっている煙の臭い。
奇妙に思って周りの気温差を感じてみると、人間が一人、その陰からアタシたちのことを窺っているらしいことがわかった。
その人間が、この男の死体をわざわざこの路上に持ってきて放り出していたということだ。
ため息が出た。
これが罠のつもりか。
あいにく、散々肉は食べてきたので腹など減ってはいない。
罠だったところで、この人間はアタシたちがどんなキムンカムイ(ヒグマ)だか、わかっているのだろうか。
身の程知らずな人間がアタシたちを狙っているのかと思うと、なんだか一気に気分が白けた。
自分からまた攻撃するのも馬鹿らしい。もう、どうでも良くなる。
攻撃してくるならさっさとしろ。アタシたちは隙だらけだぞ。攻撃した瞬間吹っ飛ぶのはお前の肺だがな。
と、そう思って、アタシはじっと、向こうの動向を窺っていた。
だが、その人間はちっとも動かなかった。
しびれを切らすのは、アタシの方が早かったみたいだ。
「……で、いつまであんたはそこで見てるの?」
それからだ。
目の前の死体が、突然蘇った。
蘇って、ケレプノエに抱きついた。
意味も分からなければ、対処のしようも、思いつかなかった。
確かに死んでいたはずなのに、なぜ生きているのか。
ケレプノエは毒を出しているのに。
あと、なんで抱きついているのか。
ケレプノエが可愛いのは良く解るが、この可愛さは人間にも理解できるものだったのか。
だとするならば、あまり整っているとは言いづらい顔の男だが、見る眼があると言えよう。
すると、隠れていた人間もこちらへ走り出て来て、恭しく名乗り始めていた。
格好の良い名乗りだった。
「粗忽者ゆえ、先からの不躾な振る舞いまっぴらご容赦!! 行く末お見知りおかれまして、以後万事万端、よろしくお願い申し上げやす――!!」
衝撃だった。
雷(イメル)に撃たれたような、とは、このことをいうのだろう。
え? これは。このアイヌは。――謝っているのよね?
謝るというのは、自分の立場を下げて、みっともなくへつらう行為でしかないのではないのか。
でもなんだこのアイヌは。
確かに謝っているはずなのに。
服従の姿勢を見せているはずなのに。
なぜこんなにも、格好が良いのだ――?
洗練された隙の無い姿勢と、まるで詩(ユーカラ)のような整った謝辞の調子。
これじゃあ、謝られているアタシの方が、まるでみっともない……!
「……ア、アタシこそ、ヤィ、アパプ(ごめん、なさい)……。え、えっと……、あ、頭を上げてくれて、いいわ……。
アタシには、そんな丁寧に名乗れるほどのものなんて、無い、けど……。穴持たず45番、二期ヒグマ。『煌めく風』の、メルセレラ、よ……」
できるだけ、そのアイヌを真似たつもりの言葉は、やっぱりどうしようもなく間が抜けていた。
何が足りないのだろう。
何がいけないのだろう。
このアイヌからは崇められ敬われているはずなのに、やっぱりアタシには何かが足りないのだ。
『穴持たず』と呼ばれたアタシの心に空いている穴は、何なのだろう。
何を食べれば、何で埋めれば、空いてしまったアタシの心は、満たされるのだろう。
英良。
フォックス。そしてこれから出会うだろう様々な名(レ)のアイヌ。
彼らに関われば、アタシの名前も、守ること(プンキネ・イレ)が、告げること(ピルマ・イレ)が、出来るのだろうか。
アタシはただそれを、見たかった。
《KAMUY・RANKARAP》
武田観柳は、笑っていた。
それはもうこれ以上無いくらい気持ちの良い笑みで。
これは彼が悦んでいるとか心を開いているとかそういうことを意味してはいない。
むしろこの笑みは、彼が対象に最大級の警戒をしているということに他ならない。
彼ら商人という人種にとって、この笑みは最大の攻撃・防御手段なのだ。
感情がない故に無邪気で愛くるしい、
キュゥべえの所作などにも通じるものがある。
現に彼は、そのニコニコとした笑顔の裡に、阿紫花にドスの利いたテレパシーを向けたりしている。
『おいアシハナぁ……、テメェ女性とか言っときながら、ヒグマじゃねえかふざけんなよ……!!』
『兄さんそう言わんで下せえ。彼女、恭しく接すれば大丈夫みたいですから! 名前の呼び方だけ気を付けていただければ!』
武田観柳と
操真晴人およびキュゥべえは、バイクを駆って、阿紫花たちの待機するE-6東側の通りにまでやってきていた。
これは阿紫花が、いやに含みのあるテレパシーで指定してきたことである。
つまりそれは、相手を操真晴人の魔法陣で転移させると、その手を吹っ飛ばされるかも知れない危険性が残っていることを意味していた。
これを受けて彼らは、重々警戒しながら、阿紫花たちの確保した生存者に対峙したわけだが、その際の驚きは予想よりもさらに大きかった。
観柳は、対面した相手がヒグマであったことよりも、阿紫花がその事実をテレパシーで教えてこなかったことの方に苛立っている。
あらかじめ伝えておいてくれれば心構えもできたというのに、やってきた当初は不整脈をおこしそうなほど驚く羽目になったのだ。
だが、阿紫花が敢えて彼女たちの正体を伏せた理由は薄々察せているので、観柳もそれ以上の不満は呑み込み、朗らかにメルセレラへ向けて挨拶した。
「これはこれはメルセレラ様。お話はかねがね伺っております。
私は実業家の武田観柳と申します。若輩者ですが以後どうぞお見知りおきください」
「あら、聞いてるんだ。話が早いわね。アタシってそんなに有名なのかしら」
純白のシルクハットを取り、恭しく笑顔で頭を下げながら心中で阿紫花を締め上げているその様は、まさに面従腹背という語句そのままである。
隣で笑みを引き攣らせている操真晴人に比べれば、その作り笑いのクオリティの高さは自ずと見て取れる。
観柳の、見た目だけはとても温かな歓迎に、メルセレラは明らかに気を良くした。
そのタイミングで、操真晴人も勇気を出して彼女へ声をかけてみる。
「えっ……、と。メルセレラのお姉さんに、ケレプノエちゃん……、なんですよね?」
「『お姉さん』?」
「えっ」
「アイヌの弟なんか持った記憶はないけど?」
「い、いやっ、いやはははは! これはこれは、『おあねぇさん』って言ったつもりなんですが滑舌悪くて~!! すいません~!!」
「ふーん……。あんたは『舌足らずのアホ(ワイアサプ)』か。うん、覚えた」
「え、いや、俺には操真晴人っていう名前が……」
「ワイアサプで十分だろ舌足らずのアホ(ワイアサプ)。何か文句あるの?」
「い、いや……、ないです」
晴人を見る彼女の視線は、一気にゴミを見るようなものに変わった。
不興を買ったことは明らかだ。
緊張と恐怖で、晴人は笑顔の裏にだらだらと汗をかいている。
『晴人の兄さん! ちょっと言い訳が下手すぎますって! もうちょっとこう、若くて綺麗だからとか言い方あるでしょ!!』
『あわわわわ……、ぎ、義弟さんどころの騒ぎじゃないよ……、逆鱗の位置がわかりづら過ぎる……』
『よくまぁこんな扱いづらい客に応対できたなアシハナ……。見直すよ私は』
「すみませんねぇメルセレラ様。こんなむさっ苦しいバカ男ばかりですが、ご協力いただけるということで、みな心中歓喜に咽んでいるのです。
頭の足りない下賤のバカゆえ、慌てて多少言い間違えることも仕方のないことかと。
お目こぼし下さるメルセレラ様の大海の如き優しさに、このバカ運転手も更なる感激を抱いたことでしょう、御賢察下さいませ」
「あらそう。エパタイ(馬鹿者)なら仕方ないわね。観柳、あなたに免じて許してあげるわ」
『これ貸しにしときますからね晴人さん。覚えておきなさいよ』
『ひぃぃ……、すいません観柳さん……』
人心地もなくしてしまった操真晴人に比べ、キュゥべえの応対は手慣れたものだった。
『ボクの名前はキュゥべえ、魔法の使者なんだ! ボクたちにとっては、キミたちはまさに神様だ!
ヒグマは元々すごい能力を秘めているけれど、キミたちの魔力はさらに段違いだね! 尊敬してしまうよ!』
「あら、わかるかしら。見る眼があるのねキュゥべえ」
『もちろんだ! ボクには、キミのような逸材が今まで見出されなかったことが不思議でならないよ!』
鬼門となる呼称の問題を回避し、褒めちぎることで心象を良くしているキュゥべえの会話力には地味に並々ならぬ手腕が窺える。
その間、操真晴人はメルセレラから距離をとるようにして、ぼんやりしたままのもう一頭のヒグマに近付こうとした。
一見親しげな様子でフォックスを背に乗せている小柄な紫色のヒグマは、メルセレラよりも幾ばくか、とっつきやすそうに見えたのだ。
キュゥべえとの会話に興じていたメルセレラと阿紫花が、ハッとその様子に気付く。
「エパタイ(馬鹿)! ケレプノエに触っちゃダメよ!」
「そうです触ったらいけません! トリカブトみてえな毒が出てるそうです!」
「え……、フォックスさん触ってるじゃないか」
今にもそのヒグマに手を伸ばそうとしていた操真晴人の問いに、阿紫花はぶんぶんと首を振った。
「もう死んじまってるから関係ないんですよ! 金輪際フォックスさんにも触らねぇで下せえ!!」
「え、俺もノケ者にされんのかよ――!?」
「当たり前でしょ、んな毒の染みた状態なんですから!」
「……ほぇ?」
ケレプノエは、目の前で恐怖に慄いている男性陣の顔を代わる代わる見て、首を傾げる。
「あのー……。どういう意味でしょうかー? 何かケレプノエは、いけませんでしたかー?」
「いや、大丈夫、ごめん、何でもないよ!」
「あのー、できることがありましたら、晴人様のお手伝いも致しますけれど……」
「さー李徴さんたちを呼ぼう! そうしよう!」
ゆっくりと一歩踏み出したケレプノエの言葉は、三歩跳び下がった操真晴人に躱された。
差し出そうとしていた前脚はしばらく宙に浮いて、それからゆっくりと地面に戻る。
その様子を、フォックスだけは背中の上から見ていた。
「……おいまさか、おめぇよ、何もわかってねぇのか」
「何が、でしょうかー?」
「……いや、何でもねぇよ」
「?」
ぼんやりとした不安だけが漂うケレプノエの問いに、フォックスは舌打ちで返した。
『ああ、やっぱりヒグマだ。なんか人間とばっかりいたから仲間は久しぶりに感じます』
「おお、なるほど。羆の女士(ニュイシ)とはまた心強い」
「あら、キムンカムイまで居たの。ほんと珍しいアイヌねアンタたち」
一方のメルセレラは、魔法陣から出て来た小隻と李徴の二頭のヒグマと対面している。
既に小隻は、テレパシーで彼女たちの名を告げられた時から、それが薄々キムンカムイ教徒の面子なのではないかと察していたために驚きは薄かった。
『二期穴持たずの「煌めく風」、メルセレラ様ですよね。噂だけは研究所でも聞いてました』
「我は隴西の李徴子、これなるは小隻と申す。請多関照(どうぞよろしく頼む)」
「ええと、こちらこそよろしく、でいいのかしら? これで全員?」
自分の真名を答えてもらえたこと、そして形式ばった鞠躬の挨拶に、メルセレラの表情は傍目に見ても最高に晴れやかだった。
しかしその問いに、一帯の男性陣は一様にうすら寒い予感を覚える。
一同の視線は、魔法陣に片腕を突っ込んでいる操真晴人に集まった。
晴人は、冷や汗をかきながら答えた。
「……いや、あと二人いるんですけどね」
「何よワイアサプ。じゃあ早く連れて来なさいよ」
「……いや、あの、怒らないでくださ――」
「何やってんだよ操真さん、早く会わしてくれよその女の子に――」
その時、魔法陣から晴人を押しのけるようにして、一人の青年が顔を出していた。
宮本明だ。
彼は、メルセレラとケレプノエの姿を見た。
その瞼がわずかに見開かれる。
「ぎ、義弟さん、行って――!!」
その瞬間、晴人が全力で魔法陣の中から、
ウェカピポの妹の夫を引きずり出していた。
義弟は上着を脱いでいた。
そして前方に走り出す宮本明の顔面へ、ほぼ同時に、義弟の鉄球の回転を伝えて渦巻いた上着が巻きつく。
それを引っ張りながら即座に義弟が裏拳を繰り出したが、急停止した明は目隠しの上から辛うじてその拳を受け止めていた。
「ぬっ――」
「大丈夫……、大丈夫だから!」
息を荒げながらも、確かに足を止めはした明が、義弟の上着を顔から外しながら答える。
それでもギリギリと歯を噛みながらメルセレラたちを睨みつけている明へ、不安げに義弟は問うた。
「……本当か?」
「本当だ!」
義弟はその言葉に、釈然としないまま拳を収めた。
辺りには如何ともしがたい緊張感だけが張り詰める。
今の宮本明ならヒグマを見た瞬間に襲い掛かるだろうという、ある種の信頼が、既にそこにはあった。
だから阿紫花はテレパシーに含みを持たせたし、操真晴人は彼らを喚ぶのを最後に回していたのだ。
メルセレラはその挙動不審な男性二人を、ある種の不快感をもって眺める。
「何なのよアンタたち、騒々しいわね」
「大変失礼した。この男は宮本明。オレはネアポリスで王族護衛官をしている者だ。
名乗るほどの者でもない。ウェカピポの妹の夫とでも義弟とでも好きに呼んでくれ」
その不興を察して、義弟は宮本明を抑えながら、お辞儀と共に丁寧に謝罪していた。
謙遜のように自分の名を伏せた彼の謝罪は、普通ならば、十分に赦しを得るに足るものだったに違いない。
「……は?」
――だがそれが、逆にメルセレラの逆鱗に触れた!
「……おいアンタ。今、自分のレ(名)を、なんつった?」
メルセレラの纏う空気が殺気に変じたことをその時、その場のほとんどの者が察知した。
低く、唸るように発せられたその問いは、まるで銃口のように義弟の胸へと突き付けられる。
彼の頬を、冷や汗が伝う。
その問いに不用意に答えることが、高確率で死を意味することが、義弟にはわかった。
「……それがお前にとってどのような意味を持つのかを教えてくれるなら、喜んで答えよう」
「アタシにとってどうかじゃない。アンタは自分の存在と価値を、名前ごと否定するようなレサク(名無し)なのかって訊いてんのよ」
「……ああ、なるほど、わかった」
義弟はその言葉だけで、悟ったように息を吐いた。
このヒグマが自分の同類であると、それだけで気付いたのである。
そして彼は、包み隠さず正直に答えた。
「オレは、ウェカピポのヤツとの約束をすっぽかしちまった。そんなヤツの名は、城壁の北西にちゃんと帰るまで名乗る価値などない。お前の言う通り、それがオレの流儀だ」
「……そう、悪いけどアタシは、自分からレサクに成り下がるようなヤツとは同行する気ないから。
そんな情けないエパタイは今すぐ、消えるか、それとも耳と耳との間に座るか、選びなさい」
「なるほど、ならば、いいだろう」
と、そう断じた義弟とメルセレラのやり取りに、その場の男性陣全員が恐れ戦いた。
もうここまで来てしまったら、その次に義弟が言うセリフは『決闘』の二文字以外ないだろうという、ある種の信頼が、既にそこにはあった。
宮本明との決闘とはわけが違う。
こんな手の内のわからないヒグマに暴れさせたら、一体どうなるのかわかったものではない。
『決闘』というしきたり通りに動いてくれるかすらわからないのだ。
収拾がつかなくなることは眼に見えている。
そこで両者の間に真っ先に割り込んだのは、宮本明だった。
「おいテメェ――! やっぱ義弟さんを殺すつもりか! ふざけるなよ人食いのヒグマァ!!」
「……失せろ、って言ってんのよ。アタシに殺されたいっていうなら別だけどね」
凄まじい気迫で睨む明に対し、メルセレラの返事はどことなく苦々しい。
勢い余って口をついてしまった言葉を、後悔しているかのようだった。
どう見ても剣呑なその場の空気に、フォックスが下のケレプノエを小突いた。
「お、おい、何か言え! 今こそおめぇの手伝いが要るんだよ、あいつ姉貴分なんだろ!?」
「あ、はい……、そうですねー」
睨み合うヒグマと人間との間に、調子はずれなほど明るくとことこと、ケレプノエは割り込む。
そして、彼女は朗らかに言った。
「メルセレラ様ー。そういうことでしたら、今すぐウェカピポの妹の旦那様を、天上界に送って差し上げればよろしいのではないのですかー?」
と、余りにも無邪気にそう言った。
場の空気は、凍り付いた。
ケレプノエはにっこりと笑いながら続けた。
「あのですねー、ケレプノエもまだ聞いただけですが、天上界カントモシリは、素晴らしいところなのですよー」
嬉しそうに義弟や宮本明に向けて語るケレプノエの様子を、その二人の男は、信じられないものを見るような眼差しで眺めた。
後ろで、メルセレラが口をわななかせて震え始める。
「ケレプノエも皆様も、元々はみな、そこのカムイだったのですー。そこでの記憶を思い出せば、皆様素晴らしい力が手に入るのですよー?
天上の暮らしに戻れば、ウェカピポの妹の旦那様もきっと楽しいのです――」
「――ケレプノエ! ケレプノエ、もういい! 今すぐやめて! お願い!!」
「ほぇ――?」
メルセレラは、呼吸も荒くそう言う。
だが彼女の差し止めは、いささか遅すぎた。
「……てめぇ、子熊にそんなこと教えてたってことか。都合よく天国の概念なんか植え付けて、人食いの罪悪感を取っ払うとか、そういう魂胆なのかよ、ヒグマァ……!!」
宮本明が、怒りに髪を逆立てて、熔岩のように熱い声を絞っていた。
メルセレラが焦って首を横に振る。
「ち、違うわ! この教えは、アタシたちが自分たちの存在を――」
「ほぇ? だって、カントモシリはあるんですよー? そうですよね、メルセレラ様?」
メルセレラの弁明を、ケレプノエは余りにも無邪気に喰った。
メルセレラは、立ち尽くした。
あの研究員。
立場を弁えぬ馬鹿者。
水上の娘たち。
狂い嗤う男。
まるで新婚の夫婦のような親しげな男女。
それらの姿が脳裏に浮かんで、メルセレラは、地面に崩れ落ちた。
《PURIYUPKE・KAMUY・YUKAR》
「……メルセレラ様? メルセレラ様、どうなさったのですかー?」
暫くその場には、呻き哭くメルセレラの声しか、聞こえなかった。
立ち尽くす男性陣に囲まれたまま、ケレプノエは彼女へ困惑してすり寄る。
その上に、ふと影が差す。
朗らかな笑みを浮かべた、宮本明だった。
「……そうか。そんなに天国に行きたいのか、アンタは」
「あ、あの……、明様、カントモシリは、素晴らしいところだと伺っただけ……」
「おめでとう。2名様、指定席特急券の当選だ」
振り向いたケレプノエの前で、宮本明は、背中のデイパックからぞろりと丸太を取り出している。
既に彼は、両手に丸太を振りかぶる形になっていた。
「――『雷撃槌(バンガーズ)』!!」
「読めてんだよ義弟さん!!」
その瞬間、逸早く反応した義弟が明の脇腹に剣の柄を繰り出していた。
しかし完全に戦闘態勢に入っていた明は、その攻撃を振り向きもせずに丸太で受ける。
柄頭の鋲が深々と木目の中にめり込む。
片手で義弟を制した形を取り、明は同時に、空いている片手の丸太を振り下ろそうとした。
だがその時、明の脳裏を蒼褪めた未来予知が走る。
義弟の挙動は、止まっていなかった。
「『一足(キッキング)』――!!」
「くぉッ――!?」
噛み合った剣と丸太の側面から、義弟の脚が、鋭く蹴り上げられていた。
咄嗟に首を捻った明の耳を掠めて、股下の長い義弟の脚が天高く走る。
明の耳たぶから血が噴き出た。
昇龍の牙に食い千切られるかのような勢いだった。
これをもし顎にでも喰らっていたなら――、と、明はわずかの間、寒気を覚えた。
しかし彼の思考はすぐに戻る。
このまま、地に転がりながらでも丸太を振り抜き、義弟との距離を離しながらヒグマ二体を屠る――。
そんな計算の、はずだった。
「――『叫喚(アンド・スクリーミング)』」
だが彼の動作と思考は、そのまま凄まじい衝撃と共にホワイトアウトする。
義弟の攻撃は、天上から振り下ろされ、転がり離れようとした明の脳天を地上に叩き付けていた。
それは、振り上げた脚を即座に叩き落とす、踵落としだった。
並々ならぬ背筋の力が為せるその一連の蹴りは、明の予測よりも遥かに、リーチと隙の無さに優れていた。
丸太は、明の手を離れ、地面に音を立てて落ちた。
「……すまん、暴漢相手みたいで、つい本気でやっちまった。大丈夫か? 歯は折れてないな?」
地面に顔をめり込ませ、後頭部に靴跡が残っている宮本明へ、義弟は丸太から剣の柄を抜きながら問いかける。
明の腕が何とか動いているのを見て、義弟はそのまま、メルセレラの方に振り向いた。
「……聞かせてもらおう。どうやらお前たちには宗教的な流儀か何かがあるようだ。それも聞かぬうちには決闘などできん」
「あ、あ、あた、アタシ、は……。ただ、認めてもらいたかっただけ……」
メルセレラは、嗚咽の中に必死に言葉を絞った。
「……知ってんのよ本当は。死んだ後のことなんか何もわかんないんだって。
……天上界なんてあるかどうか知れないし、そこでの記憶なんて、思い出せるわけないもの!
お互いを褒めて、尊敬して、認め合って、それでせいぜい……!!
自分たちの魂が特別だと思い込んで、平静を保とうとしてるだけなのよ!!」
堰を切ったように、メルセレラの心は溢れた。
「……でもあの研究所じゃ、何か一つでも支えがなきゃ、体も魂も、壊れそうだった。
動物は死んだらそれまでだもの……。自分が神だとでも信じてなきゃ、もう、今頃、アタシは……」
義弟も、宮本明も、その他の男性陣も、彼女たちが一体過去にどのような仕打ちを受け、そして今までにどのような報復をしてきたのか、知る由もない。
だが今までのやり取りは、その心に蓄積した辛さを推し量るには十分なものだった。
メルセレラが自他の呼称に固執する理由が、義弟以外の者にも、わかるような気がした。
「で、でも、でも、メルセレラ様! フォックス様はいらっしゃいますよ!
『死んでる』っておっしゃっても、ケレプノエと遊んでくれますよー?」
理解不能な状況に混乱していたのは、ケレプノエだった。
彼女には、信頼するメルセレラの泣いている理由が全く理解できない。
『カントモシリ』という天上界の存在をどうにか明示して安心させようと、彼女は必死に、その小柄な体を跳ねさせた。
「……いや、違ぇよ。俺ぁただ、そこの女装中年魔法ヤクザに無理矢理動かされてるだけだ」
「随分な言い回しですねフォックスさん……」
その背中で、フォックスはぶっきらぼうに呟いた。
阿紫花は反駁するでもなく、重い息をつくだけだ。
あらかた状況は理解しているが、こんな場面で、女子に、しかもヒグマに、どんな言葉をかければ良いのか、阿紫花以外にも大多数の男子はわかりようもなかった。
小隻の話によれば、研究所のヒグマの大多数は遺伝子操作によって作られた生物だ。
その事実だけでも、彼女たちがこれまでに非人道的、非倫理的な仕打ちを受けていたと思い至るには足る。
そこで李徴のように狂乱するでもなく自我を保つには、それこそ宗教のような概念が発生するのは当然の帰結だろう。
むしろ、その概念に染まりきらず、内心で自覚的にいれたことだけでも、奇跡的なのかも知れない。
「……メルセレラ様が、今まで教えてくださっていたことは、間違いだったのですか?
……ケレプノエと遊んでくださっていた皆様は、満足してカントモシリに旅立たれたのでは、ないのですか?」
きっとこの小さなヒグマのように。
たった今、自分の信じていた骨子が、音を立てて崩れたことを知った彼女のように、呆然と立ちすくむことの方が、当然なのかも知れなかった。
「う、あ……、ケレプ、ノエ……」
「……」
二頭のヒグマの息遣いだけが、その場に聞こえた。
周囲の男性陣は、眼を閉じて、身構えていた。
彼女たちが辛いのは分かる。
これが人間の少女だったなら、誰かしら慰めの一つでもかけていたところだろう。
だがこの時、武田観柳は後ろ手に札束を握り締めていた。
阿紫花英良は両手に糸を手繰っていた。
操真晴人はマシンウィンガーのエンジンを点けていた。
義弟はホルスター内で鉄球を回していた。
フォックスはカマの角度を確かめていた。
キュゥべえは尻尾を振っていた。
隻眼2は逃走経路を見計らっていた。
宮本明は倒れたままに丸太を掴み直していた。
全員が戦闘態勢を採っていた。
特に李徴には、痛いほどに分かる。
こうして自分の根底が崩れた次の瞬間こそが、最も危険なタイミングであることが。
それは他ならぬ李徴自身が、『ヒグマに酔って』しまいかねない心の状態だ。
いわんや純粋なるヒグマならば、この状況下では狂ってしまうに違いないと、誰もがそう思っていた。
「……」
ケレプノエは、何も言わなかった。
そして、何も、しなかった。
ただ虚ろに見開かれた瞳孔のままで空中を見上げ、とぼとぼと、歩き出すだけだった。
「お、おい、どうする気だおめぇ!?」
「……」
どこへとも知れずふらふらと歩み去っていくケレプノエの背を取ったまま、フォックスは慌てた。
もし彼女が暴れ出すのなら、責任を持ってその両眼を抉ろうと考えていた彼は、予想外の事態にまごつく。
最終的に彼はケレプノエの背から飛び降りたが、それでも彼女は、それに気づかないかのように、街並みの先へ消えて行ってしまった。
「……ごめんなさい……、ごめんなさい、ケレプノエ……、ごめんなさい……」
「……その謝罪はよ、今までアンタらの喰ってきた人間たちにも向かってるのか?」
嗚咽の間にずっと零れていたメルセレラの謝罪を、宮本明の声が穿った。
立ち上がった彼は、地面に叩き付けられて鼻血まみれになった口元を拭い、未だ怒りを顕わにしながら彼女を睨みつける。
メルセレラは顔を上げることもできず、蹲るだけだった。
明は吐き捨てるように声を出す。
力のやり場に困るように、彼の右手が握り締められ、掴んでいる丸太の皮を砕いていた。
「……本当によ、お前らヒグマなのかよ! 中途半端になよなよめそめそしやがって!
俺たちを油断させる気か!? 人間のマネのつもりなのかよ!? おい!!」
「……真似でも何でもない、宮本明。これがこの、シニョリーナ(お嬢さん)たちの心情そのままなのだろう」
攻撃を躊躇して歯を噛み締めている明の肩を、義弟が叩く。
阿紫花から聞くところでは、彼女たちはフォックスに黙祷すら捧げていたのだという。
流儀や逆鱗の位置は措くとしても、メルセレラに攻撃の意志がないことは、明らかだった。
「お前らの流儀は解った。……なるほど他者と認め合うというのは、異種間ではなおのこと困難だろうな」
義弟は頷きながら、辺りの男たちに目を向ける。
「……だが手段にこだわらなければ、いつでも普遍的なものは見つかるだろう。髪や服なんかは変えられるし――」
メルセレラに語り掛けながら彼が真っ先に指さしたのは、魔法少女の衣装に身を包む武田観柳と阿紫花英良の二人だ。
「――考えでさえうつろうもの」
そして、仁王立つ宮本明の肩を今一度深く叩き、歩き始める。
「別れも出会いもあるだろうが――」
「――流儀は変わらない」
そして、顔を上げたメルセレラに向けて、胸に手を当てて見せた。
「スタイルもジーンズも変えられるし」
再び歩き出した義弟は、戻って来たフォックスの髷や皮鎧を、触れないよう注意しながら指し示す。
「夢を追い飛ぶこともできる」
語り続ける義弟の視線は、隻眼2に向いた。
「哀歓の世にもあるものだ――」
そして李徴と眼を合わせ、義弟は静かに締めくくる。
「――帰るべき流儀は」
一連の言葉は、メルセレラだけでなく、その場の全員に向けられているようだった。
信念が崩れようと、どれだけみじめな姿に成り果てようと、そこには確かな流儀が存在することを保証する――。
それは帰るべき天上界を見失った少女への、彼なりの最大の激励に、他ならなかった。
《UEPEKER・KAMUY・YUKAR》
「……その通りだ。美(メイ)女士」
義弟に続いて口を開いたのは、李徴だった。
彼にとって、彼女の『認めてもらいたい』という願いは、とても他人事には思えなかった。
メルセレラはしかし、彼からの呼びかけに、泣きながら激しく首を横に振った。
「――略、さないでッ!! アタシの名は、『メルセレラ』なの!! アタシの存在を、削らないでッ!!」
「これはお主の価値を貶めるものではないのだ、美色楽(メイスエラ)女士!」
李徴は食い下がった。
中国古典に親しい李徴には、彼女が名前に固執する意図も明確に察せた。
名というものは、己の存在を規定し定義する物。ある意味『流儀』の根源だ。
だがだからこそ彼はこの機に、彼女の心を固める氷を、その牙に噛み砕かんとしていた。
「――字(あざな)というものは、お主の意味を深め、他者への親しみと繋がりを増すものに他ならぬ。
お主の言葉では『煌めく風』という意味のその名は、我の言葉では『美しき色どりに楽しむ』と読める。
美女士(メイニュイシ)と呼ばせてくれ。この呼び名は、我が親愛の情と、自ずから出づる君の美しさとを表すものだ。
他者に認めてもらう手段というのは何も、押しつけや、力だけではない。我はそれをつい先ほど、この者たちから教えてもらったばかりなのだ」
メルセレラは、言葉を失った。
初めて耳にしたそんな概念を、果たして受け入れていいものなのか、判じかねていた。
『……それは、僕も正しいことだと思います。名前の呼ばれ方は、あなたの価値を規定はしません。ただ、相手との繋がりを示すだけです。
……僕も、隻眼2という番号で呼ばれるより、仮初でも「シャオジー」と呼ばれた方が、いくらか気分が良かった』
李徴の言葉に深く頷いて、隻眼2が静かに唸り声を上げる。
『きっと、むしろ、略してでも呼んでもらえる方が、あなたは尊敬されるんです、メルセレラさん』
「……そう……、なの……?」
メルセレラは、呆然としていた。
彼女は周囲で次々と新しい概念を話してくれる男性陣を、見回すことしかできなかった。
宮本明が苦々しく舌を打つ。
「……人間相手ならいざ知らず、人殺しのヒグマなんか、尊敬できるわけないだろ。根底から壁があるんだ。
……まず同じ土俵に立たなきゃ、尊敬どころか理解し合うことすらできねぇよ」
同情と怒りが綯い交ぜになったその呟きは、再びメルセレラの意気を消沈させる。
現に彼女には、ヒグマ繋がりと流儀繋がりでしか声をかける者がいない。
言い方の是非はどうあれ、宮本明の言葉には、誰もが同意せざるを得なかった。
反論が来ないのに乗じて、明は更に声を張った。
「いいかおい、お前らが人間の尊敬を受けるなんざ、それこそ奇跡か魔法でもない限り無理なんだよ!」
『良いことを言ったねアキラ!』
「ええ、珍しく実のある発言でしたね宮本さん」
その明の叫びを、即座に二人の商人の満面の笑みが、喰らっていた。
絶対に有り得ない、という意図で咄嗟に口を突いた言葉の内容に、明はハッと気付く。
この島には、そして特にこの場には、奇跡も、魔法も、あるのだということに。
その時既に、武田観柳は再び恭しくシルクハットを取り、芝居がかった動きで、メルセレラの前に深く腰を折っていた。
同時に、阿紫花たちブローチをつけていた者だけに、彼からのテレパシーが届く。
『……感謝しますよ阿紫花さん。これ以上ない、「うぃん-うぃん」の商機です――』
『兄さん……!? 一体何を――』
「メルセレラ様、かの義弟さんの言葉通りでございます。
『手段にこだわらなければ』、我々はいつでも、メルセレラ様お望みの商品をご用意できるのです」
「え――」
潤んだメルセレラの瞳に、武田観柳の薄く引き伸ばされた笑みが映る。
その肩に乗るキュゥべえが、微動だにしないつぶらな瞳で、メルセレラの眼の奥を見通していた。
『……そう、それこそ、キミの魂は、文字通り神にすら匹敵するかもしれない』
「あなた方の教え通り、天上界すら、この世に顕現させられるかもしれません」
『全てはキミの言葉一つ』
「あなたの胸一つに、かかっているのです……、よ?」
阿紫花たちは、商売人という人種の恐ろしさに、今一度戦慄した。
《KEREP・NOYE・YUKAR》
ケレプノエは、ぼんやりと街の中を歩いていた。
見上げる空には薄黄色く光る丸が浮かんでいて、それは暫く前に見た時より、斜めにあった。
それよりもっと前は、赤っぽくて地面の近くにあって、さらに前には水の下に隠れていたものだ。
本当に本当に綺麗なまんまるで、とっても暖かかった。
研究所を出て、初めて見つけたものだったけれど、ケレプノエはそれが大好きになった。
大好きなメルセレラみたいに、綺麗で暖かかったからだ。
でもそれは、見つめていると、眼が痛くなって、涙が出て来そうになる丸だった。
そしてそれは、とても遠くにあって、前脚を伸ばしても決して届かない丸だった。
まるで今の、メルセレラとケレプノエそのままのような気がした。
『……ケレプノエさん、でしたよね』
「……はいー?」
痛くなった両眼を瞑って涙を流していると、ケレプノエの後ろから、誰かが唸り掛けてきた。
振り向いても、目の前は真っ暗だった。
眼を瞑っていたからだ。
『……泣いているんですか?』
「あの丸を見ていたら、眼が痛くなったのですー」
『ああ……、太陽なんか直接見たらダメですよ。最悪失明しちゃいます』
彼女を後を追ってやって来ていたのは、隻眼2だった。
彼はケレプノエの前に、銜えてきたものを差し出していた。
『これ、義弟さん――ウェカピポの妹の夫さんが焼いてくれた、マリナーラっていう食べ物です。美味しいですよ』
「そうなのですかー。それはすごいですねー!」
ケレプノエは、隻眼2に微笑みかけた。
そして、暫くそのまま、両ヒグマは沈黙した。
『……えっと、美味しいですよ。どうぞ?』
「……えっと、これはケレプノエが食べてもよろしいものなのですか?」
『……えっと、はい。そのために持って来たので……』
「そうなのですかー! シャオジー様、ありがとうございますー。
研究所では、『美味しいもの』というのは、研究員の皆様が食べるものだと思っておりましたー」
『……』
隻眼2は、目の前で無邪気にピザを頬張り始めたヒグマの様子に、胸が苦しくなった。
今の短い会話だけで、彼女が一体、どれだけ隔絶された世界に押し込められていたのか、ありありとわかってしまった。
一口ごとに目を丸くして喜ぶ彼女が落ち着くのを待って、隻眼2は口を開く。
『……ケレプノエさん、どうして立ち去ってしまったんです? メルセレラさんが、嫌になったんですか?』
「……そんなことはありませんー。メルセレラ様も、皆様も、ケレプノエは大好きです……」
『それじゃあどうして……? メルセレラさん、あなたにひどいことをしてしまったんではないかと、とても後悔してらっしゃいました』
隻眼2は、ケレプノエを引き留めるための役を買って出ていた。
合わせる顔がないと言うメルセレラからの言葉だけを受けて、彼はケレプノエの体臭を伝って街を走ったのだ。
協力する報酬という触れ込みだった義弟謹製マリナーラピッツァも、武田観柳に申し出てこの機に使ってしまった。
なぜ、彼がそんなことをする気になったのかは、彼自身にもよくわからない。
ヒグマ的に言えば、少々時期の早すぎる発情なのかも知れない。
とにかく、同族の女の子が悲嘆に暮れている姿を、放っておきたくなかったことだけは確かだ。
「……ケレプノエと遊んでくださった皆様は、みんな動かなくなってしまいましたー。
それは、『死ぬ』ということだそうです。死んだ方は、カントモシリに旅立たれ、神様に戻ったのだと、ケレプノエは聞いておりました……」
ケレプノエは、隻眼2に顔を向けながらも、どこか遠いところを見つめているようだった。
「ケレプノエは安心していたのです。皆様は幸せになれたのだと……。
でも、そうでなかったのなら……、ケレプノエは、死んだ皆様を、『終わらせてしまった』ことになりますー。
ケレプノエは、皆様を悲しませてしまっていたことになります……」
虚ろな彼女の瞳は、そうしてようやく、隻眼2のもとに帰ってきた。
「ですから……。ケレプノエは、もう皆様のお傍にいるべきではないと、思ったのですー……」
『それじゃあ決して……、メルセレラさんを嫌いになったり、僕らに付き合えないと思ったわけでは、ないんですね?』
「はい。ケレプノエは、皆様のお手伝いをしたいのですが……。これしか、できることが、思いつきませんでしたー……」
優しさと哀しみに満ちた呟きの前で、隻眼2は項垂れた。
脳裏に、耳に挟んだ人間の知識が思い浮かぶ。
『ヤマアラシのジレンマ』だ。
寒さに震えるヤマアラシが2匹、お互いの体を温め合いたいのに、近づけば互いの針が刺さるために近付くことができない。そんな状態を指す言葉。
「……ケレプノエは、ようやくわかりましたー。なんで研究所でも島の上でも、多くの方がケレプノエから離れて行こうとするのか。
……ケレプノエだって、終わりたくはありませんからー。それはきっと、当然のことなのですー。
寂しくても、ケレプノエが我慢するべきなのですー……」
トリカブトの女神の名を持つヒグマは、そうして悲しげに笑った。
彼女の針は、刺さってしまえば、ジレンマを抱く前に死んでしまう、毒だった。
『……それは違います、ケレプノエさん』
「ほぇ?」
だが、隻眼2は、確固たる意志を以て、首を横に振る。
人間が作り上げた『ヤマアラシのジレンマ』という言葉には、大きな誤りがあるということを、彼は知っていた。
『……体に鋭い針を持つヤマアラシも、実際は、針の無い、お互いの頭をくっつけて一緒に眠ることができるんです。
針が刺さるからって、近づけないなんてことは、ないんです。
あなたにだってきっと、寂しくない解決法が、流儀が、見つかるはずです――!!』
隻眼2は、熱を込めて唸った。
その言葉は、彼自身の願望でもあった。
『……一緒に行きましょう。あの人間たちと一緒なら、きっと見つかるはずです。
あの人たちは、きっと一緒に考えて、見繕ってくれるはずです』
「……ケレプノエは、ご一緒しても、よろしいのですかー?」
『ええもちろん。大歓迎です』
まだ手は繋げない。
それでも確かに、彼女と心は繋げた。
その手応えを胸に、隻眼2は笑った。
それはもうこれ以上無いくらい気持ちの良い笑みで。
笑顔とは彼にとって、かつては確かに、最大級の警戒をしている時の牙を剥いている表情だったはずだ。
それでも今、その笑顔は確かに、開かれた彼の悦びの心を、表していた。
《KIRORASNU・KAMUY・YUKAR》
「ヒグマはやはり信用ならない。あんな奴らに心を開くなんて、危険すぎるんだ。
観柳さんの決断が信じられん。馬脚を表したらその場で殺してやる……!」
「さっきからそればかりだな宮本明。あの武田観柳だぞ? 奴の流儀ならば任せても問題なかろう」
宮本明は、念仏のようにぶつぶつと同じ言葉を呟きながら、ウェカピポの妹の夫と共に山の斜面を再登攀していた。
怒りで点火したエンジンをそのままに突き進んでいく明の後ろで、義弟は辟易とした調子で声を漏らす。
明の思考は何度修正しても、結局は形状記憶合金のようにだいたい同じ場所に帰ってきてしまうので、いい加減義弟も応対に気が入らなくなって来ていた。
この山上での警戒も、依然念を入れなければいけないというのに、どうも明が注意散漫になっているようで義弟は気が気ではない。
明は足を止め、勢いよく振り返る。
「だって義弟さん! 観柳さん笑ってたんだぞ!? あの涙にほだされたんじゃないのか?」
「あれは俗にいう営業スマイルという代物だろう」
明と義弟の二人は、武田観柳から、途中で引き返してしまったE-5の昇降機の所在を再度確かめに向かうよう指示されていた。
彼はメルセレラに『商談』を持ちかけるというので、人払いした形になる。
同時に阿紫花とフォックスは、西側にあたるD-6方面に向かわされた。
これは観柳が、メルセレラからある話を聞いたことによる。
『……ここから先には、行かない方が良いわ。アタシを遥かに超える霊力(ヌプル)を持ったキムンカムイが、いたから……。
たぶんもう、あっちに生きてるアイヌなんて、いないと思うわ……。行ったらアンタたちも間違いなく、死ぬでしょうね……』
宮本明は、この話を観柳が真に受けて、阿紫花たちを東進させなかったことも気に食わない。
なお、隻眼2を最終的にケレプノエのところへ向かわせたのも観柳である。
「……あの言葉、絶対にメルセレラは何か隠してやがる……! 重大な何かを……!
俺たちを進ませなかった真の理由が、きっとあるはずだ……!」
「そうだな。その先にいるヒグマが本当に規格外のバケモノだという理由があるんだろう。
で、実際にそのバケモノが人を襲ってる所を見たか何かして畏れ入ったんだ。あれほど、自尊心を守ろうとしてきたシニョリーナが言うのだから、信憑性は高い」
平然と返す義弟の言葉に、宮本明は拳を握りしめる。
「けどよぉ! それならなおのこと、襲われてる人を放っておくなんて、しちゃいけないことだろうが!」
「リスクリターンが釣り合わん。『羊毛刈りに行く者、刈られて帰る多し』だ。目も当てられん」
「そのためのテレパシー&テレポートのネットワークだろ!? 危なくなったら逃がしてもらえばいいんだよ!!」
「愚か者。あの戦艦のようなヒグマの件を忘れたか。阿紫花英良やジャック・ブローニンソンは、ヤツを巻くまで逃げることもままならなかったのだぞ?
向こうに本当に人がいるかもわからんし、あくまでこのブローチは保険に過ぎん。グループ全体の生存率は上がるが、先読みが外れれば窮地に陥るのは変わらんのだ」
ミイラ取りがミイラになる。
救助隊が遭難する。
それを警告するような、予知めいた恐怖。
明も、メルセレラやその道の先に、それを感じなかったわけではない。むしろ明は、予知能力にかけては人一倍優れている。
だが、危険だとわかっていながらも突っ込んで、その中でさらに針の穴を引き千切るような解決策や、理路混然とした機転を利かせて、なんとか生き残ってきたのが宮本明である。
気性として、こういう時に退く選択肢を選びたくないのだ。
「……とにかく、一度指示を受けたんだから四の五の言わず登れ。それが最低限、被雇用者の守るべき流儀だ」
「……わかってるよ」
溜息をついた義弟に、本当にわかっているのか怪しい速さで明は答え、再び足を山上に向けた。
彼は一応、そうして彼岸島で行なってきた自分の行為を総合すれば、決して同行者や仲間の生存率が高くないことを理解してはいるのだ。
その上、島には名前も知らないような人間がいつの間にか増えたり減ったりするので、精確な死者数まで覚えていないという酷い状況だということも、一応彼は自覚している。
義弟の視界で、前を歩く明の拳は力の込め過ぎで真っ白になり、震えていた。
「義弟さん……、あの時、俺にいくつか、『LESSON』をしてくれたよな……?
あれって、あと、いくつまであるんだ……?」
「……ほう、知りたいのか」
「……ああ、教えてくれ」
明は、顔を伏せて登りながら、噛み締めるように言った。
彼が『あの時』の、ジャック・ブローニンソンのことを思い出しているのだということは、容易く察せられた。
宮本明が一番怒っているのは、他ならぬ己の力不足に違いないのだ。
ジャックを救えず、フォックスを救えず、友を救えず、それでいて特に何ができたわけでもない自分の有様が憎くてしょうがないのだろう。
その憤懣を発散する場に困り、心中に悶えている青年の背中を、義弟は自身の幼少期に重ねるようにして見つめていた。
「実のところ、LESSONは5までしかない。機会がくれば教えてやるさ」
「今教えてくれ。頼む」
「はてさて、そんなんで身につくのか?」
「つくかどうかじゃない。身につけてみせるさ」
そうして歩み続けていた二人は、ついに、キュゥべえとジャック・ブローニンソンが発見したという、地下への昇降機の場所へとやって来ていた。
見た目は、他の踏み固められた山の地面と変わらぬ剥き出しの土に過ぎないが、よくよく注意して見れば、大きな正方形に、地面が薄く出っ張っているようにも見える。
『石刷り』のようなものだ。
10円玉の上に紙を敷いて鉛筆で擦れば、その模様が拓本として取れるように。
この正方形の出っ張りは、確かにその直下に硬い構造物があるのだろうことを示していた。
義弟は剣の鞘で、地面の出っ張りに続くようにしてその場に長方形を描く。
「……いいか。LESSON4は、『敬意を払え』だ。特に、自然――、その中の回転に敬意を払う」
「自然の回転……って、どういうことだ?」
「ネアポリスの鉄球術の中でもツェペリ流はこれに特に重点を置いてるんだが……。まぁ、わかりやすいのが、この『黄金長方形』だ」
義弟は正方形の隣に描いた長方形を、さらに直線で分割して長方形と正方形にする。
すると、分かれた長方形は、始めの長方形と全くの相似形になっていた。
「それは辺がおよそ5対8の比になっている『長方形』の事を指す……。
正確には1:1.618の黄金率の事をいう。この『長方形』は古代からこの世で最も美しい形の基本の『比率』とされている」
再度長方形の内部を区切っても、正方形と、相似の長方形が形成される。
「エジプト・ギザの『ピラミッド』。『ネフェルティティ胸像』。ギリシアの『パルテノン神殿』。『ミロのビーナス』。ダ・ヴィンチの『モナリザ』……。
それらの全てに、この『黄金長方形』が隠されている。それが完璧な比率だから、万人の記憶に残るものとなったのだ。古の芸術家たちはみな、本能的にか経験的にか、このことを知っていた。
日本や東洋だとむしろ白銀比の方が一般的なのかも知れんがな」
「ちょっとちょっと義弟さん……、美術の講釈はいいよ。それが何の役に立つんだ?」
「こうして形成された内部の正方形の中心を結んでいくと、無限に続く渦巻きが形成される。これが『黄金の回転』だ」
義弟がその図形の周囲を歩きながら、大きく地に渦を描く。それは小さくなってゆく長方形と正方形の内部を、規則的な螺旋を描いて整然と走っていった。
「……この黄金長方形の軌跡に沿って回転させることで、かなりの性能の向上が望める。ツェペリ流はそれに特化した鉄球の流派だ。ヤツらはこの軌跡の中に無限のパワーがあるとまで信じている。
護衛式鉄球には必須という訳では無いが、実際このスケール通りに回した方が威力が上がる。オレも目につくところにスケールがある時は極力軌跡をなぞっている」
「なんだ、必須って訳じゃないのか……。それに、そのスケールって、義弟さん定規でも持ってるのか?
そのベルトのバックルが黄金長方形だとか?」
義弟の言葉に、明は拍子抜けしたように溜息をついていた。
黄金長方形を探そうと眺めまわしてくる彼の視線に、義弟の方も大分拍子抜けした。
「……そんな都合よくオレが持ってるわけないだろう。何を考えているんだ」
「で、LESSON5って何なんだ?」
「……」
明の興味は既に、最後のLESSONの方に向かってしまっている。
義弟は絶句し、視線を逸らして立ち上がった。
やれやれと肩をすくめ、彼は地面を掘り返し始める。
「……お前は少し、思慮というものを覚えろ。『遠回りこそが最短の道だ』。いつもいつも答えをせっつくことが最善とは限らん!」
「あっ、教えてくれないのかよ! そんないきなり黄金の回転とか言ったって、俺はまだ義弟さんの回転すら習得しきれてないんだぜ?」
「威張るな!! なら練習でもしろ!!」
怒鳴り返す義弟に、明は渋々と、デイパックから丸太を取り出して地面に立てる。
そして彼は独楽でも回すような感じで練習を始めた。
昇降機を掘りに来た当初の目的が頭からすっぽ抜けているらしい。
義弟は頭痛を覚えた。
「今練習するな!! オレが何やってるのかわからんのか!!」
「あぁ、うん、ごめん義弟さん。これ回したらドリルになったりするんじゃ……とか思って」
「勝手にしろ。だが後にしろ!」
「うーん、でも掘り出すとなると、この大工道具くらいしか使えないのかなぁ……」
明は、デイパックの中の斧や槍鉋を見て溜息を吐く。
こんな道具じゃ掘り返せないなぁ、とか、彼岸島なら誰かがスコップかショベルカーでも見つけてくるのになぁ、とか思っているらしい。
自分の剣の鞘で地面を掘り返している義弟は、この青二才を殴りたくてしょうがなくなった。
「……その必要はないわ」
「――!?」
だがその瞬間、彼らの耳に涼やかな少女の声が届く。
直後、明を殴ろうとしていた義弟の足元で、唐突に爆発が起こった。
半ば吹き飛ばされるように跳び退った二人の目の前で、地面が続けざまに何度も小爆発を起こして弾け飛ぶ。
地面から露わになった正方形の鉄の板が、最後に内側から爆発を受けて、梁ごと上空に吹き飛んだ。
鉄板はくるくると回転して、義弟と明の間の地面に深々と突き刺さる。
千切れたエレベーターのワイヤーが、滑車にからからと回った。
先程まで義弟たちの居た場所には、エレベーターシャフトがぽっかりと、黒い穴を開けて地下へと続いていた。
「アンタたち、これを掘り出したかったんでしょう? ほら、済んだわよ」
「あ、あんた……、一体、誰、だ……?」
呆然と明が誰何した先からは、民族衣装のようなものを纏った少女が歩いてきていた。
渦巻きのような白い切伏が施された紺の短い着物を着ていて、袖口や裾が炎のような橙色に染まっている。
すらりとした素足が覗く腰元には、同じく刺繍と切伏の施された前掛けをしている。
明の問いに、少女は苦笑しながら髪を掻き上げた。
「……あら、わかんない? あれだけ目の敵にしてたくせに。
まぁアタシだってこんな姿になるとは思わなかったけど。……アイヌって、こんな華奢な体でよくやるわねぇ」
緩くカールした明るいオレンジ色のショートヘアに鉢巻きをしている頭には、なぜか丸みを帯びた熊の耳が生えている。
そして首元にかけているネックレスの中央には、輝くオレンジ色の宝石が留まっていた。
その輝きに、明と義弟はハッと気づく。
武田観柳や阿紫花英良の所持品と同質の物体、ソウルジェム。魔法少女の持ち物だ。
明は即座に丸太を抱えて身構える。
「――ッ、テメェ、あのヒグマかッ!!」
「ええ、そうよ。アンタの言う通り、『同じ土俵』に上がってあげたの。『人間』というね」
「くっ――」
その少女の正体は、かのヒグマ、『煌めく風』のメルセレラに間違いなかった。
だがその姿は、まるっきり人間の少女そのものだ。頭部のヒグマの耳も、その気になれば隠せるのかも知れない。
「どうかしら? これで多少は、アタシのこと、認めてもらえる?」
彼女はたじろぐ明に向けて、試着した衣装でも見てもらうかのように、爪の長い両手を広げ、微笑んでみせた。
垂れ目勝ちな眦には、吊り目に見えるようなオレンジのアイシャドーが掛かっている。
明は唸った。
一度敵と認識したヒグマだとはわかっていても、いざ無防備な人間の姿を取られていると、明には攻撃が躊躇われた。
そもそもメルセレラはヒグマの状態でもわりと無防備ではあったのだが。
「……そ、それだけのために、魔法の契約をしたってのか? 信じられるかッ!!」
「何故信じられぬ、宮本明。お主も文壇の徒ならば、彼女の心情くらい推せて然るべきだろうに」
続けざまに言葉を発したのは、メルセレラの後から山を登ってきた、李徴だった。
ヒグマの体格のままながら、彼は一種、答えを見つけたような晴れがましい表情を見せていた。
「聞こえたぞ妹夫。自然に敬意を払う……、確かにそれは素晴らしい理念だ。
こんな離れ島にやって来て、我はようやく、小手先の見てくれにこだわっていたことの莫迦らしさがはっきりしたよ」
「……どういう意味だよ」
「アイヌだのキムンカムイだの、そんな種族の違いなんか重要じゃないのよ。
本当のアタシは、どうなろうと自ずからアタシなんだから。この姿の方がアイヌに受け入れてもらい易いなら、そのくらい喜んでするわ」
メルセレラが、明の問いに微笑んで答えた。
彼女は歩みながら、両掌を上に向けて明の方に差し出してくる。
明は後ずさりした。
「……どうしたの? アイヌの挨拶ってこうするんじゃないの? ほら、テケルイルイ(握手)」
「……何か隠してんじゃないのか!?」
「いや上向けた掌に何隠せるのよ。……危ないわよ?」
「ほらやっぱ危ないんじゃ――!」
怪訝な表情で首を傾げたメルセレラに、明はさらに後ずさりしながら叫ぼうとした。
だがその瞬間、彼は足を踏み外し、奈落に背中から落ちていった。
彼はすっかり、そこにエレベーターシャフトが開いていることを失念していたのである。
「――フン!!」
かろうじて、掴んでいた丸太をシャフト内の鉄骨に渡して引っ掛けることで墜落と首輪の爆死は免れたが、彼は暫くそのまま丸太に懸垂の状態で耐えくてはならなくなった。
義弟も李徴もメルセレラも、特に彼を助ける気にはならなかったし、その必要性も感じなかった。
「……だが良かったのか? 聞けば魔法少女という物は、絶望すればすぐさま化生に変じるというが?」
「ええ、でも結局、それはアタシの行い次第でしょ? ……むしろアタシは、ようやく自分の魂(ラマト)を、こうして眼に見える形で自覚できたことが、単純に嬉しい」
義弟の問い掛けに、メルセレラは、胸元のネックレスを愛おしそうに眺めた。
アイヌ語でタマサイという、ガラスビーズのネックレスの中央、シトキ(飾り玉)に相当する位置を占めるソウルジェムは、暖かい色の光を放っている。
「ケレプノエにも……、謝らなきゃいけないんだけど。ようやくあの子がアタシ以外の者とも付き合えるようになったというなら、彼に、任せてもいい気がしたの」
「ああ……、フォックスか。本当にお前は姉のようだな。妹をオレに嫁がせた時のウェカピポも同じようなことを言っていたぞ」
「とにかくこれでまた私は、自分の魂(ラマト)を、信じることができる……。自分でも棄てかけてた教えだけど。
ここで、魔法という霊力(ヌプル)に出会えたことこそ、きっとカムイのくれた巡り合わせなのよ」
「そうか、お前が流儀を取り戻せたというのならば、オレも単純に嬉しい」
義弟は、メルセレラが差し出す両手に上から両手を重ね、固く握手を交わした。
しかし、いつまでたっても、メルセレラは彼の手を離さない。
李徴がメルセレラの後ろから不安げに問うた。
「美(メイ)女士……、やはり、やるつもりなのか」
「ええ、これだけは。私が教えを取り戻したからこそ、避けては通れないわ」
「……何のことだ?」
握手するメルセレラの手は、義弟の手を強く握り締めていた。
魔法少女だからか、元々ヒグマだからか、その力は彼の手を砕きそうになるほど強い。
義弟も負けじと掴み返し、互いの手の甲には、深々と爪が突き刺さって血を流し始めていた。
脂汗を流す義弟に、メルセレラはその眼を真っ直ぐに見つめ返して言う。
「レサク(名無し)。アタシは、自分の名前を粗末にするようなヤツが許せない。李徴の言うように、必ずしも名前を略すことが悪いとは言えないのかも知れない。
けれどね、アンタみたいに自分の名前をきっぱり捨ててるようなヤツが、どうして、あんな『力に満ちた言葉(シヌプルイタク)』を言い放てるのか、アタシにはさっぱりわからないし、許せない。
だから、アタシに殺されて欲しい。アンタの体(ハヨクペ)と魂(ラマト)が、やっぱり名無しの弱さだというなら、お願いだから死んで欲しいの。
でももし、その言葉に見合うほどアンタが強いというのなら、お願いだから生きて欲しい。そしてアタシにその理由を、見せて欲しいの。
アンタが本当に『己の名を守る(プンキネ・イレ)』に至っているなら、アタシの『サンペアクレラ(心撃つ風)』を受けても、無事なはずだから……」
メルセレラはまるで、初めての恋をした少女の告白のように、頬を染めながらそう義弟に告げていた。
義弟は背筋に冷や汗を浮かべながら、感覚のなくなった手を振り払う。
両手にはメルセレラの手形が残り、既に流血で真っ赤になっていた。
美少女からの告白は告白でも、その内容は殺害予告だ。たまったものではない。
傍で聞いている李徴と宮本明は、どう考えてもその時点で逃げるべきだと思った。
明はその時ようやく丸太に脚をかけ、エレベーターシャフトの上へ精一杯首を伸ばしながら叫んだ。
「ダメだ! 義弟さん! よせ! そいつはヤンデレっていうんだ――!!」
「やれやれ……、なるほど、曲げるつもりはないと。……シニョリーナ(お嬢さん)から誘われちゃ断れんな」
だがその叫びも虚しく、義弟は厳かに居住まいを正す。
そんな無駄な争いより先にすべきことがあろうが関係ない。
李徴はヤンデレというより逆恨みの方が近いだろうと思ったが関係ない。
相手が魔法少女だろうが、本気で殺しに来ている狂女だろうが、飢えたヒグマだろうが関係ない。
イタリア人男性ならば、女性からの誘いを無下にすることなど、できるわけがないのだ。
「……お前にとってそれは、命を差し出すに足る流儀だということか」
「ええ、その通りよ」
「いいだろうシニョリーナ・メルセレラ。『決闘』だ」
「ええ……、イヤイライケレ(ありがとう)」
メルセレラは血塗れの両手を合わせて、本当に華やかに笑った。
顔だけ写真に撮れば、実に嬉しそうな良い絵面だったろう。
この場合それはまさに、手頃な獲物を前にした肉食獣の笑みと言っても過言ではなかっただろうが。
「李徴、宮本明、お前らには決闘の立会人になってもらう。
この決闘が決して人殺しや卑怯者の行為ではなく正当なものであることを見とどける」
「またか――、本気でやるつもりなのか、妹夫!?」
「くっそ、間に合え――、くそっ!!」
李徴は斜面を後ずさりしながら慄き、宮本明はエレベーターシャフトの中でもがいた。
その間義弟は平然と、メルセレラの立ち位置から適当な距離まで歩み去っていく。
「『決闘章典』および『決闘の技術』によれば、ピストルでの決闘は最短距離が15歩……。……なんだが、お前の武器は何なんだ?」
「……言う必要があるかしら? アタシは別に、始める位置なんてどこでも構わないわ」
「……そうだな。言う必要もない。だが、始めるに当たって、お前からの流儀は、何かないのか?」
明は嫌な予感に震えた。義弟はメルセレラの能力や武器の確認もせずに決闘に持ち込もうとしている。
同じ何でもありの決闘でも、明との戦いではまだ人同士のものだったし超常の力もなかった。
だが今回、相手は殺しに来ている人外で、かつ魔法使いだ。嫌な予感がしない方がおかしい。
明のエレベーターシャフト内での奮闘虚しく、地上ではどんどん状況が進んでいってしまう。
明が上に上がれないのは、シャフト内にがっちり嵌ってしまった丸太を再び上に運んでいこうとしていることが主因なのだが、彼はそのことに気付いていない。
なおかつ、彼らの仲裁をするなら、もっと適切な手段が明にも李徴にもあるのだが、彼らはすっかりその存在を忘れている。
「そうね……。じゃあ、挨拶を、させてほしい。『イランカラプテ』、と」
「ほう……、その言葉は、どういう意味なんだ?」
メルセレラは、腰に手をやる義弟に向けて、狙いをつけるようにゆっくりと腕を伸ばした。
「……『あなたの心に、そっと触れさせてください(イ・ラム・カラプ・テ)』」
義弟は、決してアイヌ文化に詳しい訳では無い。
だがその言葉に、彼は深く感じいった。
彼女の信じる流儀とは、名前にも挨拶にも、細やかに心を配る、とても優しい流儀なのだと。
辺りに、風が吹き抜けた。
【E-5 エレベーター跡/夕方】
【ウェカピポの妹の夫@スティール・ボール・ラン(ジョジョの奇妙な冒険)】
状態:疲労(中)、両手が血塗れ
装備:『壊れゆく鉄球』×2@SBR、王族護衛官の剣@SBR、テレパシーブローチ
道具:基本
支給品、食うに堪えなかった血と臓物味のクッキー、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×3本、マリナーラピッツァ(Sサイズ)×7枚、詳細地図
基本思考:流儀に則って主催者を殴りながら殺りまくって帰る
0:名前に自らの誇りを賭ける流儀……。いいだろうメルセレラ、受けて立つ。
1:決闘を止めたいなら誰か武田観柳に連絡すると思ったのだが。それが無いなら決行してよかろう。
2:敵の勢力は大部分、機械仕掛けのオートマータ、ということなのか?
3:李徴は人殺しのノベリストの流儀か。面白いじゃないか。歴史上そういうやつもいるぞ。
4:シャオジーもそろそろ、自分の流儀を見出してきたようだな……。
5:『脳を操作する能力』のヒグマは、当座のところ最大の障害になりそうだな……。
6:『自然』の流儀を学ぶように心がけていこう。
【宮本明@彼岸島】
状態:ハァハァ
装備:操真晴人のジャケット、テレパシーブローチ
道具:基本支給品、ランダム支給品×0~1、先端を尖らせた丸太×8、手斧、チェーンソー、槍鉋、詳細地図、テレパシーブローチ
基本思考:西山の仇を取り、主催者を滅ぼして脱出する。ヒグマ全滅は……?
0:くそっ、義弟さんをどうにかして助けねぇと!!
1:西山ぁ……、お前の仇のヒグマは、絶対に殺してやるから……!!
2:ブロニーさん、すまねぇ……。俺があんたの、遺志を継ぐ……!!
3:西山、ふがちゃん、ブロニーさん……、俺に力をくれ……!!
4:兄貴達の面目にかけて絶対に生き残る
※未来予知の能力が強化されたようです。
※ネアポリス護衛式鉄球の回転を少しは身に着けたようです。
※ブロニーになるようです。
【
ヒグマになった李徴子@
山月記?】
状態:健康
装備:テレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:人人人人人人人人人人
0:これは我に止められそうにないんだが……!? 頼むから死なんでくれよ!?
1:美色楽女士のような有り様こそ、我の憧れるものではあるのだろうが……。
2:小隻の才と作品を、もっと見たい。
3:フォックスには、まだまだ作品を記録していってもらいたい。
4:俺は狂人だった。羆じゃなかった。
5:小賢しくて嫉妬深い人殺しの小説家の流儀。それでいいなら、見せるよ。
6:克葡娜(ケァプーナ)小姐の方もあれはあれで、大丈夫なのだろうか……。
[備考]
※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります
※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした
【メルセレラ@二期ヒグマ】
状態:魔法少女化、疲労(中)、両手が血塗れ
装備:『メルセレラ・ヌプル(煌めく風の霊力)』のソウルジェム、アイヌ風の魔法少女衣装
道具:テレパシーブローチ
基本思考:メルセレラというアタシを、認めて欲しい。
0:どうすればアタシが認めてもらえるのか、教えて……、レサク(名無し)さん……。
1:見た目が人間だろうがヒグマだろうが関係ないわ。アタシの魂は、アタシのものだもの。
2:今はきっと、ケレプノエは他の者に見ていてもらった方が、いいんだわ……。
3:能力のぶつけ合いをしても、褒めてもらえなかった……。どうすればいいの?
4:態度のでかい馬鹿者は、むしろアタシのことだったのかもね……。
5:あのモシリシンナイサムのヒグマは……、大丈夫なのかしら、色々と。
[備考]
※場の空気を温める能力を持っています。
※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、その加温速度は、急激な空気の膨張で爆発を起こせるまでになっています。
※魔法少女になりました。
※願いは『アイヌになりたい』です。
※固有武器・魔法は後続の方にお任せします。
※ソウルジェムはオレンジ色の球体。タマサイ(ネックレス)のシトキ(飾り玉)になって、着ている丈の短いチカルカルペ(刺繍衣)の前にさがっています。
※その他、マタンプシ(鉢巻き)、マンタリ(前掛け)などを身に着けています。
《ENPIWA・KAMUY・YUKAR》
「……これで、満足なのか? 観柳さん、キュゥべえちゃん……」
「はて、満足とはどういうことですか?」
バイクのエンジンをかけたまま、操真晴人は俯いて言った。
その後部に跨りながら、武田観柳はいかにも満足げな笑みで問い返した。
キュゥべえが尻尾を振る。
彼らはE-6の街並みに残り、人気のない通りに佇んでいた。
観柳は、金貨の駒を広げていた地図を畳み、言葉を続ける。
「私にすれば、操真さんがいつまでも発車して下さらないのが多少不満なんですが?」
「とぼけないでくれッ!」
身を捻った操真晴人は、巨大な拳銃であるウィザーソードガンを抜き放ち、背後の武田観柳の額に突き付けていた。
「……いくらヒグマとはいえ、女の子の弱みに付け込んで契約をむしり取るようなあんたらのやり口は、やっぱり見過ごせない!
今後どれだけ、彼女たちが苦しみ、絶望が増えるか、わかったモンじゃないだろう!?」
彼の瞳は、義憤に燃えている。
メルセレラと李徴が義弟と宮本明の方に向かった後、一切の連絡がテレパシーブローチに入って来ないのもそこはかとない不安を感じさせる要因だ。
『絶望が増える』とは何も、彼女自身だけの問題ではない。規模によっては容易に周りにも波及しかねないものだ。
しかし銃口を突き付けられながらも、武田観柳の微笑みはびくともしない。
「何言ってんですか操真さん。今回私は、キュゥべえさんの説明に欠けていた魔女化の内容まできちんとメルセレラさんたちにお伝えしたじゃありませんか。
全部了解済みの上での契約だったことは、操真さんも確認されたでしょう?
彼女たちは望みが叶い、我々は、安全性の高まった強力な手駒を手に入れられた。まさに相互利益の一挙両得です。
角ある獣に上歯なしとは言いますが、牙が抜けても、くみし易い魔法がある分、彼女たちの価値の減損なんて無いようなものでしょう」
「ごまかさないでくれ。メルセレラさんの願いは『アイヌ(人間)にしてほしい』だったが、彼女の真の希望は、『みんなに認めてもらいたい』だっただろ!?
彼女の魔法は、もともとの彼女の能力そのままだし、本質と異なる願いを叶えちまったら、すぐにあの子は絶望に堕ちかねない!!
それに、下手すれば李徴さんまで人間に戻るために魔法少女化しようとしてたじゃないか!!」
メルセレラが商談に乗って魔法少女となった後、その姿を見て李徴もちょっと乗り気になりかけた。
キュゥべえは非常にウェルカムな様子で契約しようとしたが、晴人はそれを慌てて止めていた。
よくよく聞いてみれば、案の定李徴の保有魔力は少なく、下手な願いで人間に戻ろうとすれば、その魔法少女姿は想像するだに恐ろしい異類になるだろうことが容易く導き出せた。
この場合の異類とは、虎とかそういうものではなく、二目と見られない不細工な女装中年とか、中途半端に女体化した奇形とか、そういうものである。
その場合、李徴が鏡で自分の姿を見た瞬間に、絶望して魔女化することはほとんど確実だと言えた。
既に人間基準で言えば十分な美少女となっていたメルセレラは、それを聞いても『何か問題があるの?』と言わんばかりだったが、李徴の乗り気はその話で一気にしぼんでいた。
「ほんと、いつまでも俺たちを手駒や支給品扱いしないでくれ、観柳さん!!」
「そうですか? 私は商品の方が人間より丁重に扱えるんですけども」
怒りに満ちた晴人の弁舌にも、観柳は飄々と笑うだけだ。
続けざまにキュゥべえがテレパシーを発してくる。
『それにね、ハルト。確かに発達途上の女子は本当の希望と異なる願いをしてしまうことが多い。
キョウコなんて、家族団欒を願えばよかったものを、「父の話に人々が耳を傾けてくれるように」なんてバカなことを願った末に幻覚魔法を得て、結局一家心中の絶望に陥った。
だがそれであっても、彼女は残念ながら魔女化せずに、絶望を乗り越えて元気に魔法少女している。
そんな子だって確かにいることはいるんだよ』
「……その悪意に満ちた報告は、挑発にしか聞こえないんだがキュゥべえちゃん?」
いたずらに晴人の怒りが溜まったところで、観柳は更に笑う。
「嫌ですねぇ操真さん、メルセレラさんや彼女が容易く絶望するようなバカガキと一緒だったら、私だってここまで積極的に魔法少女の契約を勧めちゃいませんよ!
……あ、でも、早々に魔女化してくれてもそれはそれで一挙両得ですよね。魔女化の観測と『ぐりぃふしぃど』の入手が同時にできますしねぇ」
「……よし、あと3秒で撃ち殺すから懺悔してくれ観柳さん」
「はいはい落ち着いて下さい操真さん」
いよいよ引き金に指を掛けた晴人を前に、観柳は両手を広げて彼を宥めた。
「操真さん、必ずしも、真の希望を願うことが善とは限らないんですよ。私の契約だってお聞きになったでしょう?
私が願ったのは、『金で全てを支配すること』ですが、その元手となる金は、結局のところ商人である自身の所持金と手腕に掛かっています。そもそも『金が全てを支配する』のはこの世の当然の摂理ですしね。
あくまで魔法なんてものは、希望という目的に至るための手段に過ぎないんです。小売する商品が違うだけです。麻薬だろうが武器だろうがおにぎりだろうが大差ないんですよ。
重要なのは、その商品を扱い切れるという自信と自覚なのです。
むしろ手段を目的にしてしまった時の方が、絶望の損失は大きく、またそれに至る確率も高くなってしまうでしょう」
「む、う……」
正論の臭いがする観柳の弁明に、晴人は戸惑った。
状況的にどう考えても単なる言いくるめにしか思えないのだが、その内容自体には突っ込めるような粗が見つからない。
「……わかった」
晴人は、まだ観柳に銃口を突き付けながらも、声の調子を落とした。
「……だが観柳さん。もしあんたらのやってることが、希望をもたらさないことが発覚したなら、俺はすぐさま、あんたらの息の根を止める。
俺は最後の希望だ。この島の人にとっても、お客さんにとってもな」
「然様ですか。あなたが取引の是非を判じて下さると?」
脅しつけるようにドスを利かせ顔を寄せた晴人に、観柳はむしろ自分からも顔を近づけた。
逆に晴人がたじろぐような、鼻のくっつきそうな位置で、観柳は満面の笑みを見せる。
「いいでしょう。箕作麟祥(みつくりりんしょう)さんの『仏蘭西法律書』においても、『官署の簿冊、証書及び記単(おぼえがき)等の書類又は借受、販売、受寄(あずかり)、算還(はらい)等の事に管したる貿易及び交引舗(かわせざ)の紙券、交引、証書、証券、証票等の額を故意を以て焚燬し又は何れの方法を論ぜず減尽したる者は刑に処せられるべし』とありますからね」
「――!?」
「第三者が取引を監査して下さるというのなら願ってもないことですよ、ええ。
それだけ私の商品の価値と信用が保証されるというものです。
どうぞやってください。私からもお願いしますよ。
……あなたに、やれるもんならねぇ?」
何かつらつらと、刑法か何かの文面を暗誦されたことだけは、かろうじて晴人は理解した。
だが一体、どんな内容のことを言われたのか、さっぱりわからない。
目の前の魔法少女という男が、知識も経験も、とても自分では敵わない強大な実力者であるように晴人は感じた。
まるっきり掌の上で転がされているような感覚。
脅しているはずなのに、逆に晴人は、観柳に試されているかのような恐怖を感じていた。
息を詰めて硬直する晴人の耳に、観柳は突如、ふっと息を吹きかける。
全身の毛が粟立った。
「うひぃい――!?」
「ったく、なんともまぁ、初めて夜伽に臨んだおぼこみたいな顔しちまって、クスクス……。
……あなた、そういう商品価値もありますよ操真さん?」
「馬鹿なこと言わないでくれ! そんなことしたら冗談じゃなく殺すからな!!」
身の危険を感じた晴人は、勢い良くウィザーソードガンを仕舞い、ジャケットを胸元に寄せた。
その瞬間、思わず噎せそうになる宮本明の汗がそのジャケットから臭ってきて、気持ち悪さに拍車がかかる。
さらにここまでの自分の動作も、一種類型に嵌っているようで、晴人はもう自己嫌悪と気分の悪さでハンドルに突っ伏すしかなかった。
その背中を、観柳は磊落に笑いながらさする。
「まぁまぁ、操真さんのお優しさはわかっておりますから!
あなたが本気で脅していらっしゃったら、私もここまでぶっちゃけませんでしたよ!」
「へぇ……、安全装置とかかけてなかったし、本当に撃つ気ではあったんだけど?」
「いや、だって、今の私は額を撃たれても死にませんし!
そこ、把握なさってますものね! 箴言を為さる時もお優しくて、本当いたみいります」
「……」
憮然とした晴人の呟きに、観柳は胸元のソウルジェムと金貨を指しながら答える。
そこまで見通されていたことを知り、晴人は溜息をつく。
どうにも自分では、この商人に勝てそうになかった。
バイクのエンジンに火を入れ、晴人は仕方なく顔を上げる。
「……わかったよ。だが覚悟してくれ観柳さん。俺は、あんたの命を握るからな。それが俺の、借りの返し方だ」
「フフフ、それはそれは、期待していますよ、操真さん」
晴人は思い返す。
確かに、手に入れる魔法の力なんて、重要なことじゃないのかも知れない。
自分の心の中で、サバトの中で、絶望を乗り越えた要素とはなんだったのか。
それを鑑みると、金の操作だろうと、幻覚魔法だろうと、所詮は技巧上の問題としか思えない。
太陽の光だろうと、札束を燃やした光だろうと、光は光。
その要素を手に入れる・手に入れ方の相違だ。
望みを見据えるものが共感。望みを掴み取るものが自覚――。
【E-6 市街地/夕方】
【武田観柳@るろうに剣心】
状態:魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り:微)、魔法少女衣装、金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版、テレパシーブローチ
道具:基本支給品、防災救急セットバケツタイプ、鮭のおにぎり、キュゥべえから奪い返したグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ(残り使用可能回数1/3)、紀元二五四〇年式村田銃・散弾銃加工済み払い下げ品(0/1)、詳細地図、南斗人間砲弾指南書、南斗列車砲、テレパシーブローチ×15
基本思考:『希望』すら稼ぎ出して、必ずや生きて帰る
0:くけけけけ、質の良い手駒が手に入りましたよぉ……!
1:李徴さんは確保! 次は各地の魔法少女と連携しつつ、敵本店の捜索と斥候だ!!
2:津波も引いてきたし、昇降機の場所も解った……! 逃げ切って売り切るぞ!!
3:他の参加者をどうにか利用して生き残る
4:元の時代に生きて帰る方法を見つける
5:おにぎりパックや魔法のように、まだまだ持ち帰って売れるものがあるかも……?
6:うふふ、操真さん、どう扱ってあげましょうかねぇ……?
[備考]
※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。
※観柳は、原作漫画、アニメ、特筆版、映画と、金のことばかり考えて世界線を4つ経験しているため、因果・魔力が比較的高いようです。
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『金の引力の操作』です。
※武器である貨幣を生成して、それらに物理的な引力を働かせたり、溶融して回転式機関砲を形成したりすることができます。
※貨幣の価値が大きいほどその力は強まりますが、『金を稼ぐのは商人である自身の手腕』であると自負しているため、今いる時間軸で一般的に流通している貨幣は生成できません(明治に帰ると一円金貨などは作れなくなる)。
※観柳は生成した貨幣を使用後に全て回収・再利用するため、魔力効率はかなり良いようです。
※ソウルジェムは金色のコイン型。スカーフ止めのブローチとなっていますが、表面に一円金貨を重ねて、破壊されないよう防護しています。
※グリーフシードが何の魔女のものなのかは、後続の方にお任せします。
【操真晴人@仮面ライダーウィザード(支給品)】
状態:健康
装備:ジャック・ブローニンソンのイラスト入り宮本明のジャケット、コネクトウィザードリング、ウィザードライバー、詳細地図、テレパシーブローチ
道具:ウィザーソードガン、マシンウィンガー
基本思考:サバトのような悲劇を起こしたくはない
0:観柳さんの護衛として、テレパシー網の中核を危険から逃がし続ける。
1:今できることで、とりあえず身の回りの人の希望と……、なってやるよ!
2:キュゥべえちゃんも観柳さんも、無法な取引はすぐに処断してやるからな……。
3:観柳さんは、希望を稼ぐというけれど、それに助力できるのなら、してみよう。
4:宮本さんの態度は、もうちょっとどうにかならないのか?
[備考]
※宮本明の支給品です。
【キュウべぇ@全開ロワ】
状態:尻が熱的死(行動に支障は無い)、ボロ雑巾(行動に支障は無い)
装備:観柳に埋め込まれたテレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:会場の魔法少女には生き残るか魔女になってもらう。
0:観柳の魔法の使い方は面白い。彼とは上手くやっていけそうだよ。
1:いやぁ、魔法少女が増えた増えた。後はいい感じに魔女化してくれると万々歳だね!
2:面白いヒグマがいるみたいだね。だけど魔力を生まない無駄な絶望なんて振りまかせる訳にはいかないよ? もったいないじゃないか。
3:人間はヒグマの餌になってくれてもいいけど、魔法少女に死んでもらうと困るな。もったいないじゃないか。
4:道すがらで、魔法少女を増やしていこう。
[備考]
※
範馬勇次郎に勝利したハンターの支給品でした。
※テレパシーで、周辺の者の表層思考を読んでいます。そのため、オープニング時からかなりの参加者の名前や情報を収集し、今現在もそれは続いています。
《CUPKI・RERA・TARAP》
「……魔法少女ってのは、やっぱり何というか、業の深いものですねぇ……」
「そりゃどういう意味だ? 女装癖のはけ口になるって意味でか?」
「……ある一面では、そういう業も背負ってるでしょうよ」
「ありゃ? 否定しねぇのかアシハナ」
一歩身を乗り出してくるフォックスに、一歩身を退きながら阿紫花英良は煙草をふかした。
プルチネルラを従えながら、彼らはD-6の住宅の裏に隠れて小休止を取っている。
なお、近くには李徴が爆裂させた家々から火の手が上がったりしているので、捉え方によってはなんとなく花火大会か焚き火の前で寛いでいるような雰囲気とも言える。
「いや、メルセレラの姐さんもあたしらもそうなんですが、やはり所詮、魔法少女ってもんは欲望と煩悩のはけ口と具現化なんでしょうと、思ったわけですわ」
「本当にな。核の炎に包まれるちょっと前にも、なんかドレミファソとかいう魔女を犯したがる気持ち悪い奴らが横行したから。燃えてくれてすっきりしたぜ」
「……それ聞くと、魔女ってより一層、業が深そうですねぇ」
フォックスの話はよくわからなかったが、彼の抱く気持ち悪さだけは、阿紫花にも薄々察せた。
阿紫花の言葉に、フォックスは思い至る。
「……ああ、なるほど、魔女化が不安か。おめぇの場合俺の分まで常時消耗してるからな」
「御賢察、いたみいりやす……。まぁ、不安ってのとはちょっと違いますがね」
先程から折に触れて阿紫花がそのことを懸念していたのは、フォックスにも容易に思い出せる。
彼の手袋に嵌るソウルジェムは、だいぶ黒く濁ってきている。派手な使い方をすれば一気に限界を迎えてもおかしくないだろう。
「さっき、濁りとってもらえば良かったじゃねぇか。武田の野郎はもう綺麗にしてたんだろその宝石」
「あたしの場合は、どちらかってぇと興味の方が大きいんでさ。魔女ってのは一体、どんな風になるのかってねぇ……。
あの戦艦の魔女さんは、一応自我を持ってらしたみてぇですし、退屈しねぇならそんなのもアリかな……、なんてね」
クツクツと笑いながら、冗談めかして阿紫花は言ったが、フォックスは隣で大いに引いている。
「うわ……。おめぇそんなこと考えてたのか。気持ちわりぃ……、口が6つある女装ヤクザとか、なんか目が合っただけで死にそう」
「やめてくだせぇフォックスさん、わりとこれでも切実なんですから……」
フォックスの語る魔女化想像図を思い描いてしまい、阿紫花は半笑いになりながら彼を止めた。
残った煙草をふかして、彼は自嘲する。
「……あたしの場合、やっぱり真の願いは、『退屈したくねぇ』ってことだったんですかねぇ……」
『退屈でしたら、しばらくする暇も無さそうですよ?』
その時、阿紫花の声に遠くからテレパシーが重なってくる。
眼を上げれば、路地の先から一頭の隻眼のヒグマがこちらへ向かってきている。
フォックスが、見覚えのある顔に声を上げた。
「おう、あんたかシャオジー! あいつはどう――」
『あっ、あっ、喋らないで下さいフォックスさん。今、近くにいくつも獰猛な息遣いが聞こえてるので!
ヒグマからしたら、あなた方、全然隠れられてないですからね!!』
隻眼2からかけられたテレパシーに、二人はにわかに神経を張り詰めさせた。
息を殺して更なる路地裏に移動した彼らの元に、隻眼2もゆっくりと隠れながら歩み寄る。
そのさなか、阿紫花たちの耳にも聞こえるような大きさで、何人もの喋り声が近づいてくる。
どうやら李徴の燃やした家に引き寄せられてきたものらしい。
「おーい、こっちでいいのか? なんか家が燃えてるだけっぽいが」
「いや、さっき確かに人の声が聞こえたぞ?」
「家が燃えてるってことは、間違いなく誰かが戦ってたってことだろ。探せ探せ」
「こんだけ燃えてるってことは焼肉バイキングかぁ。そんなもの久しぶりだなぁ」
「うわ、なんだこの焦げたクズ鉄は。こんなもん食えねえよ」
奇妙なことに、その声は全員、同じ男の声をしていた。それも数人程度ではなく、数十人を超える規模の気配がしている。
阿紫花とフォックスは、異様な事態に顔を見合わせた。
『一体どういうことだよおい……。あの機械の群れがいなくなったことに関係してんのか?
あぶねぇ輩の大群だってことだけは想像つくが……』
『あたしに言われてもわかりやせんよ……! とりあえず息を潜めて、通り過ぎるのを待つのが賢明かと……!』
阿紫花の意見に、別の路地を忍び足で近づいてくる隻眼2も賛同した。
『ええ、幸い、僕ら純粋なヒグマほどは感覚が鋭くないようです。今僕らも行きますから、待っててください。
遠巻きにして、状況を判断してから動きましょう』
『おいちょっと待て、僕「ら」って……?』
「おい、なんかこっち、煙草くせぇぞ?」
フォックスが疑問を発そうとした瞬間、近くの路地で、男の声が上がった。
阿紫花とフォックスはびくりと震えあがる。
「あ? 煙草の臭い? 家が燃えてる煙と間違えたんじゃねえのか?」
「いやいや、このヤニ臭さは煙草だぜ。それも吸ったばかりの」
「まぁ確かに、プラスチックとか木の燃える臭いとは全然違うよな」
「お、確かに臭いするわ。これに気付くとは、さすが俺」
『ア、シ、ハ、ナ、てっめぇぇぇぇぇえええぇぇえぇ!!』
フォックスは、喉元まで出かかった怒りの声を全部テレパシーに回して叫んだ。
阿紫花はなんかもう自嘲が高じ過ぎて笑うことしかできない。噴き出すのをこらえるので精一杯だった。
『おめぇ、メルセレラの時もそうだったじゃねぇか!! もう禁煙しろ禁煙!! 二度と吸うな!!』
『いや、はい、ほんと、まさかこの島でこんな形で禁煙を志すハメになるとは思いやせんでした……』
『笑ってる場合かァ!!』
『ま、まだ間に合います! 急いで場所を移しましょう!! こっち戻ってきて下さい!
まだこちらには来てませんから、巻きましょう!!』
『おう……、できればすぐに武田の野郎に救援を求めてぇとこだが……』
にわかに息を揃えて向かってくる足音から、阿紫花とフォックスは出来る限り早足で隻眼2の方へ裏路地を駆ける。
合流して戻ろうと、3者が顔を見合わせた、その時だった。
「フォックス様ぁー!」
「うおぁ!?」
陰になっていた路地から、何者かがいきなりフォックスに抱きついていた。
見れば長い黒髪の少女が、着物の裾を振り立てて、フォックスを押し倒している。
彼女はフォックスの手を握り、馬乗りになったままぶんぶんとその手を振った。
「フォックス様、フォックス様! ケレプノエはようやく、皆様に触れるようになりましたー!」
『ああ! ケレプノエさん! ブローチの使い方教えたのに! テレパシー、テレパシー!!』
「ほぇ?」
『ケ、ケレプノエェ!?』
ほとんど幼女と言っても良いほど小柄なその少女は、あまり状況を理解していない様子で、驚くフォックスの上から立ち上がり、そのまま呆然としている阿紫花の両手をとって握手していた。
にこやかに笑う彼女の手には、紫色の手甲がしてある。
毒の染みこんだフォックスに触れても無事であった彼女は、そのまま阿紫花に触れても、彼の体に何ら不調を感じさせなかった。
「英良様にも、ご挨拶が遅れましたー! 何かお手伝いすることがありましたら、何なりとお申し付け下さいませー」
「あー……、ケレプノエのお嬢さん、何と言いやすか、今はそれどころじゃなくてですね……」
応対に困る英良の前に立つ少女は、棘のようなデザインの刺繍をされた鉢巻きをしており、そこからぴこぴことよく動くヒグマの耳が覗いている。
簡素な樹皮衣らしいその上着は、フォックスに抱きついただけでわずかにはだけてしまっているが、その内側にはぴっちりと合わせの縫い合わされた肌着を着込んでおり、肌が見えないようになっていた。
首に巻かれているチョーカーの中央にある紫色の宝石を見るまでもなく、彼女が、魔法少女となったケレプノエであることは自明だった。
そうか、彼女は『毒を自分で管理できること』でも願ったんでしょうね。などと考えつつ、阿紫花はそれに驚く暇もない状況に溜息をつく。
「こっちで声がしたぞ!! 追えぇ――!!」
「グッハッハッハッハァ! 喰ってやるぜぇ――!!」
『あー、ヤバイですねこれ……』
『なんだこれ、くっそ、最悪だ! おめぇら責任とって相手しろよ!?』
『うわ、なんだ……? この足音、何人いるんだ……!?』
「ほぇ……? この声って、前に遊んで下さった方……?」
その時、ケレプノエたちの声を聞きつけてしまったらしい男たちが、地響きを上げて走り寄り始めた。
もはや隠れる暇もなく狭い路地裏で身構えた彼ら4人の前に、交差点を曲がって、大量の人間たちが押し寄せてくる。
その姿に、男子3名は絶句したし、女子1名は最初からぼんやりしていた。
それは、全く同じ顔、全く同じ筋骨たくましい体格をした半獣人が、下腹部丸出しの全裸で、牙を剥き出しながら大量に突撃してくるという、地獄のような光景だった。
その異様な事態を目にして、阿紫花はただ一人、呆然とする一同の前で噴き出した。
「ク、ハハ……。あっはっはっはっはっはァ――!!」
隻眼2とフォックスは、ついに彼も気が触れたかと思った。
だが、阿紫花は単に、笑いの沸点が下がっていただけである。
そして実際に、笑えるほど楽しかっただけである。
相手がいくら大勢でも、そのサイズと姿は、阿紫花にとてつもない安心感を抱かせた。
――あ、はいはい、ヒグマでも魔女でも機械でもなく、人形使いでもない素人さんか。
彼はただ、そう思っただけだった。
「ハハ、旅先の一発芸にゃぁ十分すぎるほど面白いネタですよこれ……。
毛ェなんか生やしちまって、素人さんなりにはだいぶ頑張ってますけどねぇ……」
彼は突進してくるヒグマ人間の群れを前に、挑発するように今一度煙草へ火をつけた。
阿紫花の頬が釣り上がると同時にその背後で、『ぶっ殺し』のための人形が、キリキリと音を立てて駆動する。
「……ちょっと、プロの芸人に見せるには、年季が足りないと思いやすぜ?」
阿紫花は、禁煙を見送ることにした。
もしあの時、彼がタバコを吸っていなかったなら。
きっとこんな結末には、なっていなかったのだろうから。
やはり、魔法少女は、業が深い。
こんな危機的な状況に、阿紫花はわくわくと夢のような興奮を覚えている。
本当に希望は様々な形をとって、自分たちの目の前に現れるのだと、彼は思わざるを得なかった。
いや、それとも、望みを見つける自分の感性が、変わり始めたのか――?
どちらにしても、彼の感想は変わらない。
――ホントこりゃ、しばらく退屈せずに、済みそうですわ。
【D-6 市街地の路地裏/夕方】
【阿紫花英良@からくりサーカス】
状態:魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り:大)、魔法少女衣装、テレパシーブローチ
道具:基本支給品、煙草およびライター(支給品ではない)、プルチネルラ@からくりサーカス、グリモルディ@からくりサーカス、余剰の食料(1人分程)、鎖付きベアトラップ×2 、詳細地図、テレパシーブローチ
基本思考:お代を頂戴したので仕事をする
0:面白い素人さんですねぇ。……で、何人組ですかい?
1:雇われモンが使い捨てなのは当たり前なんですが、ちゃんと理解してますかね皆さん……?
2:費用対効果の天秤を人情と希望にまで拡大できる観柳の兄さんは、本当すげぇと思いますよ。
3:手に入るもの全てをどうにか利用して生き残る
4:何が起きても驚かない心構えでいるのはかなり厳しそうだけど契約した手前がんばってみる
5:他の参加者を探して協力を取り付ける
6:人形自身をも満足させられるような芸を、してみたいですねぇ……。
7:魔法少女ってつまり、ピンチになった時には切り札っぽく魔女に変身しちまえば良いんですかね?
[備考]
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『糸による物体の修復・操作』です。
※武器である操り糸を生成して、人形や無生物を操作したり、物品・人体などを縫い合わせて修復したりすることができます。
※死体に魔力を注入して木偶化し、魔法少女の肉体と同様に動かすこともできますが、その分の維持魔力は増えます。
※ソウルジェムは灰色の歯車型。左手の手袋の甲にあります。
【フォックス@北斗の拳】
状態:木偶(デク)化
装備:カマ@北斗の拳、テレパシーブローチ
道具:基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ローストビーフのサンドイッチ(残り僅か)、マリナーラピッツァ(Sサイズ)、詳細地図、ダイナマイト×30、テレパシーブローチ
基本思考:死に様を見つける
0:なんだこの状況……。とりあえず勘弁してくれよ……。
1:死んだらむしろ迷いが吹っ切れたわ。どうせここからは永い後日談だ。
2:早くまともな女子に出会わねぇかなぁ……。ヒグマとかじゃなくさぁ……。
3:義弟は逆鱗に触れないようにすることだけ気を付けて、うまいことその能力を活用してやりたい。
4:シャオジーはマジで呆れるくらい冷静なヤツだったな……。本当に羆かよ。
5:俺も周りの人間をどう利用すれば一番うまいか、学んでいかねぇとな。
[備考]
※勲章『ルーキー
カウボーイ』を手に入れました。
※フォックスの支給品はC-8に放置されています。
※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほど、『
地上最強の生物対ハンター』、『手品師の心臓』、『金の指輪』、『
Timelineの東』、『鮭狩り』、『クマカン!』、『手品師の心臓』、『
Round ZERO』の内容と、
布束砥信の手紙の情報、盗聴の危険性を配慮した文章がテキストファイルで保存されています。
【隻眼2】
状態:隻眼
装備:テレパシーブローチ
道具:なし
基本思考:観察に徹し、生き残る
0:だめだもうこの島、アブナイ狂人しかいないぃ!!
1:ケレプノエさん、良かったですねぇ……。
2:ヒグマ帝国……、一体何を考えているんだ?
3:とりあえず生き残りのための仲間は確保したい。
4:李徴さんたちとの仲間関係の維持のため、文字を学んでみたい。
5:凄い方とアブナイ方が多すぎる。用心しないと。
[備考]
※キュゥべえ、白金の魔法少女(武田観柳)、黒髪の魔法少女(
暁美ほむら)、爆弾を投下する女の子(球磨)、李徴、ウェカピポの妹の夫、白黒のロボット(
モノクマ)、メルセレラ、目の前に襲い掛かってきている獣人(
浅倉威)が、用心相手に入っています。
【ケレプノエ(穴持たず57)】
状態:魔法少女化、健康
装備:『ケレプノエ・ヌプル(触れた者を捻じる霊力)』のソウルジェム、アイヌ風の魔法少女衣装
道具:テレパシーブローチ
基本思考:皆様をお助けしたいのですー。
0:この方々、あの時に遊んで下さった方ではありませんかー?
1:皆様にお触りできるようになりましたー! 観柳様、キュゥべえ様、ありがとうございますー!
2:ラマッタクペ様はどちらに行かれたのでしょうかー?
3:ヒグマン様は何をおっしゃっていたのでしょうかー?
4:お手伝いすることは他にありますかー?
5:メルセレラ様、どうしてケレプノエに会って下さらないのでしょう……?
[備考]
※全身の細胞から猛毒のアルカロイドを分泌する能力を持っています。
※島内に充満する地脈の魔力を吸収することで、その濃度は体外の液体に容易に溶け出すまでになっています。
※自分の能力の危険性について気が付きました。
※魔法少女になりました。
※願いは『毒を自分で管理できること』です。
※固有武器・魔法は後続の方にお任せします。最低限、テクンペ(手甲)に自分の毒を吸収することはできます。
※ソウルジェムは紫色の円形。レクトゥンペ(チョーカー)の金具になっています。
※その他、モウル(肌着)、アットゥシ(樹皮衣)などを身に着けています。
【101人の二代目浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:ヒグマモンスター、分裂
装備:なし
道具:なし
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる
1:腹が減ってイライラするんだよ
[備考]
※ミズクマの力を手にいれた浅倉威が分裂して出来た複製が単為生殖した二代目がさらに自己複製したものです。
※
艦これ勢134頭を捕食したことで二代目浅倉威が増殖しました。
※生き残っている浅倉威はあと101人です。
※101人全員が襲い掛かってきているかは不明です。
最終更新:2015年11月05日 15:49