世界最大の王国メッサーナ、その首都ピドナ。
 現在発行されている世界地図のほぼ中央に位置し、四つの内海への流通の要となるこの世界最大の都市には、静かな夜というものが訪れることは殆どない。
 よくよく不夜城にも喩えられるような、実に旺盛な繁華街地区が幾つかこの都市には存在しており、其々の地区には其々の住民が根付き、往々にピドナの夜を楽しむのだ。

 区画分けとしてピドナは王宮を拝する北部に行けば行くほどに富裕層の居住する地区となっており、最も王宮に近い貴族街から、商業地区、中流階級地区と南に下り、其処からは半円状に職人街や平民街、港関係者の棲まう地区が東西に広がり、その中や間間に、数多くの酒家が存在している。
 其処で提供される酒や料理も実にバリエーション豊かなもので、正にこのピドナという都市が世界の中心、文化の坩堝であるという事を感じることができるのであった。

 今宵、そんな数ある酒家の中でも、決して治安が良いとは言えない南東の旧市街地区に程近い職人街の一角にある、今にも崩れそうな風体の(というよりは既に屋根の端の部分は崩れている)酒家に、何気なくふらりと立ち寄る男の姿があった。

 男の名は、ブラック。十年程前に温海地方で名を馳せた知る人ぞ知る大海賊にして、恐らくは三度目の死蝕の後に最も早く四魔貴族の脅威に直面したであろう人物だ。
 その肩書きに相応しく、一見して表の世界に生きている様子がないことが、見ただけで分かるような空気を漂わせる。そんな空気を身に纏った男の姿を見た店の中の先客は、しかし特に彼に対して敵意を向けたりするわけでもなく、すぐに目の前の杯に視線を戻して思い思いに飲み続ける。
 職人街周辺の酒家は文字通り職人肌の連中を主な客層としている様で、比較的こうした落ち着いている客層が多く、彼としては繁華街に在りがちな面倒な絡みもないので、最近は特にピドナの中でも足繁く通う区画だ。
 海賊という素性から、彼のことを全てにおいて粗野な乱暴者と認識する輩は多いが、実のところブラック自身は、手下と大騒ぎする飲みの席も嫌いでは無いが、一人で酒を飲む時は何方かといえば静かな場所を好む。
 海賊が良く酒を飲むのは、実は酒好きという以前に海上での水分補給手段という事情が主だ。
 何しろ長期間の航海にあたっては水より腐り難いから、という保存性に重点を置いた理由が主であることは船乗りなら誰しもが知るところであろうが、しかしブラックにはそんなことは、どうでもよかった。
 つまりは彼の場合は単純に、酒が好きなだけなのだ。
 彼にとって酒とは、煙草と合わせて趣向品の部類であり、決して単なる水分補給や馬鹿騒ぎのお供、というわけでは無い。

 さてそんな趣向を持つ彼はこの店には初めて入ったわけだが、ここは外観といい店内の小汚さの具合といい、下手に小綺麗な場所よりも余程、彼には好感が持てる。そして客層が比較的に静かなのも、いい。
 早速どこか座れそうな場所はないかと店内に視線を巡らせると、狭い店内で唯一、カウンターの一席が空いている様だった。隣も席が空いている様子だが、誰かの飲みかけと思しきグラスが置いたままだ。恐らくは客が居て、厠にでも行っているのだろう。
 迷わずブラックは其処に向かい、立て付けの悪い椅子に半分ほど腰掛ける。そしてカウンター内の筋肉質のマスターに向かい小銭を出しながら、エールビールを所望した。
 ピドナで提供されるエールは世界各国から流入するので店によって趣向特徴があるが、こうした小さな店には大抵、マスターが好みで選んだ一種類しか扱いがない。ピドナに着いてから飲みまわっている中で情報を聞いて周り、どうやらここで自分好みのエールが扱われているという話を耳にして彼はここに足を運んできたのであった。
 因みに、主にツヴァイク産が世界的にも有名なラガーと呼ばれるタイプのビールは、彼はあまり好きではない。
 ラガービールはすっきりとした喉越しが特徴で近年巷で広く流行しているのだが、どうもエールに比べて濃厚さや芳醇さに欠け、彼としてはどうにも物足りなさを感じてしまうのだ。
 程なくしてカウンターの向こうから無言で突き出されたエールグラスを、先ずは見下ろす。その色はかなり濃いめで、ほぼ黒といっていい。
 これは当たりかな、と内心でひっそりほくそ笑む。近頃の彼は、一部のエール好きの間で流行り出しているスタウト式エールがマイブームなのだ。
 先ずは一口飲む。すると、予想通りの濃厚な苦味が口の中を支配する。それと同時に、鼻腔にはふんわりとカラメル香が広がり、飲み込んだ後には後に引く軽やかな苦味と爽快感が喉に抜けていく。
 美味い。これはまた来よう。
 ブラックは心中でそのように決めつつ、いつもの様に懐から煙草を取り出す。
 彼の煙草ケースは、ここ十年ほど使っている少し年季の入った木製の一点物だ。その中身も、彼の地元である温海地方の、特に海岸沿いの地域で吸われる事が多い独特な甘い香りのする銘柄であり、その香りは今や入れ物である木箱にもしっかりと染み付いている。
 ピドナに来るにあたって実は彼が密かに最も心配していたのは、この煙草がこちらにもあるのかどうか、という事であった。が、其処は流石の文化の坩堝。多少探しはしたものの、難なく専門店にて自分の吸っている銘柄を手に入れることが出来たのである。
 火を付けると、彼の煙草の特徴でぱちぱちと軽く火が弾ける。その音を聴きながら煙を先ず口に含み、そして肺一杯に注ぎ込む。そして目を軽く細めながら、ゆっくりと煙を吐き出した。
 うっすらとした煙と一緒に彼の周囲に、彼の煙草独特の甘ったるい香りが広がる。これは一般的な煙草にはあまり無い香りで、好みが分かれる香りだ。温海のアケに近い地方で作られる、現地で採れる香料を使った煙草である。
 この辺りではあまり慣れない香りにマスターも思わず眉間に皺を寄せて一瞬こちらに視線を向けるが、かといって何か言うわけでも無い。これも喜ばしい事だ。
 ブラックはこの煙草と酒の組み合わせに勝る程の快楽とは、それこそ海賊稼業でお宝を手にした時くらいだろうと本気で思っている。

「おや、やっぱりあんたかい」

 ブラックが一頻り煙草と酒を交互に口に含んで味と香りを堪能していると、そこにどうやら彼に向かって放たれたらしい声が届く。
 こんな所で出くわす様な知り合いなど、この街にいた記憶がない。だが一応は、軽く顔をそちらに向けてみせた。
 すると其処には、一人の女が居た。
 が、その姿は飲み屋で期待する様なドレスや化粧を施している様子の一切ない、なんなら周囲の男も顔負けの逞しい二の腕を惜しげもなく、これ見よがしに晒した状態である。
 現れたのは、レオナルド工房の若き女親方、ノーラであった。

「・・・なんだ、お前か」
「なんだお前か、とは随分とご挨拶だね」

 特にこちらのそんな様子に構う様子もなく流しながら、ブラックの隣の席に腰掛ける。どうやら、隣の席に元々座っていたのは彼女だった様だ。
 ブラックはノーラとは正直なところ、そこまでの面識はない。
 今の彼が一時的な拠点とするメッサーナベント家のハンス邸にて何度か顔を合わせた事があるくらいで、大して話をしたわけでもない。なので、彼女が名の知れた工房の親方であるらしい、という事以外は特に何も知らなかった。

「あんたの吸ってる煙草くっさいから、遠くからでもすぐ分かったよ」
「けっ!」

 職人らしく距離感のないぶっきらぼうなノーラの物言いに、ブラックは定番の返しをする。この煙草の香りについてはよく言われるので、返しも手短に手慣れたものだ。
 ノーラも特にそれ以上煙草の香りに何か言うわけでもなく、手元にあった杯を一気に飲み干しておかわりを催促する様にカウンター前に突き出し、続いて懐から何かを取り出す。
 その動きにちらりと視線を向けると、彼女が取り出したのは真鍮製と思しき小さな箱だった。
 ノーラは手慣れた様子でそれを開けて中に入っていた煙草を取り出すと、すぐ近くに置いてある燭台の蝋燭から火を貰って煙草に火をつける。
 ブラックは常に何処でも吸うことができる様に朱鳥の加護を宿した小型の火打ち金と石を持っており、かなり小さな動作で火の生成が出来るようにしている。だがその代物は実の所、術具として大変に高価な物だ。なので大抵の場合はノーラの様に、何処かから火をもらって点けるのが普通である。
 こうした酒家のカウンターや各テーブルに用意されている蝋燭は灯りの側面もありつつ、大抵はその役目も同時に担っている事が殆どなのである。
 ノーラは先程のブラックと同じ様に煙を肺に送り込み、そして豪快に中空へと吐き出した。その香りは、ブラックからすれば随分と古臭い物だった。それこそ、彼が幼い頃からあったような代物である。

「・・・若けぇくせに、随分と古臭いのを吸ってんだな」
「ああ、これかい・・・まぁね。先代の親方・・・父さんが吸ってたものさ。あたしは煙草っていってもこれしか知らないよ」

 煙草は嗜好品としてはそれなりに広く分布しており、それこそ地域を問わず世界各地で手に入る。安価な粗悪品から高級志向の物まで多くの種類があるが、当然ながらその銘柄には流行というものもある。ここ最近の流行りはハーブなどのフレーバーを混ぜ込んだ物で、元は貴族の間で流行りだったものがここ数年で民間にも流れてきた様な物だ。
 ブラックが吸っているものは、言ってみれば今の流行りを突き詰めすぎた様な物であるが、これは温海地方の密林付近では割と昔から吸われているもので、実の所は他人の煙草にどうこう言えるほど新しい様な代物では無い。
 だが、そんなブラックからしてもノーラが吸っている銘柄は、自分よりも上の世代が主に吸っていた様なものだ。

「まぁ、今更これから他の煙草なんて移れないしね」

 そういいながら、ノーラはお代わりとして勝手にカウンターから出てきたグラスの中身を舐める様に一口啜り、そして美味そうに煙草を吸う。
 彼女の吸っている煙草は現存の銘柄の中では特段に味と煙の濃さがある物なので、確かにそれに慣れたら他のものは物足りないだろう。
 しかも、一緒に飲んでいるのが見る限りどうやらウイスキーとなれば、これはもう根っからの好き者だといえる。
 軽く興味を唆られたので、ブラックは話しかけてみることにした。

「そいつは何を飲んでんだ?」
「これかい。こいつはスタンレーウイスキーさ。あんたの煙草も甘い系なら、合うかもね」

 ふぅん、と返しながらブラックは彼女のグラスを一瞥する。
 ウイスキーは、作られる場所によって特色が分かれる。主に原材料は麦やとうもろこしだが、その麦の種類やブレンド具合、泥炭の活用などによって様々な種類があり、原産地として最も有名であり数多くの蒸留所を抱えるのは北西のルーブ地方だ。
 聖王歴以降は主に聖王教会の修道院で作られていたものが、いつしかその製造を主な生業とする者たちの台頭によって様々に変化をしていった。現在では主にルーブ地方、ガーター半島、イスカル河周辺が主たる産地となっている。
 どちらかと言えばイスカル地方の製造はルーブに比べて歴史が浅く、とうもろこしを主原料として作る。特に内側を焦がした新樽に寝かせるのがノーラの飲んでいるスタンレー式の特徴で、ルーブに比べ濃い色合いと力強い香ばしさがある。
 確かに甘いニュアンスも感じるウイスキーなのでブラックもスタンレーウイスキーは嫌いではないが、しかし彼は最も愛する酒を既に定めている。

「俺にとっての命の水は、既に席が埋まってるんだよ。マスター、俺にはラムをくれ」

 すっかり空いてしまった杯を自分も突き返しながら、彼もいつもの流れでオーダーをする。

「はん、陸にいても船乗りは飲むものが変わらないんだねぇ」

 ノーラはブラックのオーダーを聞いて何やら上機嫌そうに笑いながら、自分の杯を傾けた。
 サトウキビを原料とするラム酒は、特に長期間の航海を行う船乗りにとっては水より腐りにくく安価で入手でき、更には長期航海に起こりがちな壊血病の予防薬であるという迷信も手伝い、広く親しまれている。

「あれだ、ラム酒って壊血病の特効薬なんでしょ?」
「ふん。お前な、そりゃ迷信だぜ。こいつは確かに命の水だが、アレの薬はコレじゃねえ。ライムだ」

 ノーラの言葉に、ブラックは鼻で笑いながらそう応える。
 因みに壊血病とは長期間の航海をする船乗りに最も恐れられた疾病である。そしてその予防にはラム酒が良いという迷信が今も広く信じられているのだが、ブラックの言う通りラム酒そのものは実のところ全く関係ない。
 質の低いものも多い安価なラム酒を「飲めるシロモノ」にする為に入れる「割りもの」として扱われたライムジュースに含まれるビタミンCがその予防効果の正解なのであるが、とはいえブラックはそんなことまでは知らない。
 彼は記憶が定かではない位の幼少から親の顔すら知らない海賊であり、まだ酒も飲めない頃にライムジュースだけ飲んで壊血病を乗り切った経験をしている。その比較経験則から、彼は正解を知り得ていたのだ。

「ま、船乗りでも壊血病に効くのは本当はライムだってことを知らん奴ばっかりだけどな。静海あたりの海軍連中なんかは、その勘違いのせいでラム酒が昼飯に必ず配られるんだぜ」
「へえ、それは知らなかったよ。あんた見かけによらず物知りなんだね」

 一言多いノーラに対し、ブラックはふんと鼻を鳴らして煙草を燻らせる。

「つーかな、今の海じゃあ海賊ですら長い航海は避けてる始末さ。魔物が怖いってんでな。今の海にはケツの穴の小せえ奴らしかいないぜ」
「そりゃまあ、仕方ないんじゃないの?何しろ、命あっての物種ってやつでしょ。てかそんなこと言ったらさ、あんたがそれを作った原因なんじゃないのさ?」
「あん?」

 ノーラの予想外の指摘に、ブラックは杯を傾けながら半眼で眉を顰める。

「十年前にあんたが消息を絶った時なんてさ、あたしらみたいな無関係の業界のとこにまで噂が回ってきたくらいだったよ。あの大海賊ブラックがフォルネウスにやられた、ってね。そうなればもう、ブラックを超える海賊でもなければ海の魔物に挑もうなんて考えなくなるのは、自然な話なんじゃないのかい?」
「ふん・・・まぁ、それは確かに一理あるかもな」

 つまり、未だこの海に於いて悪名高き海賊ブラックを超える存在は出てきていない、という事なのだ。そういう事ならば、まあ確かに気分が悪いようには思わない。
 だが、それでも矢張り話は別だ。

「だが、気に入らねえのは変わらねぇな。そもそも海賊ってのは、なりたくてなるもんじゃねえ。海賊になる奴には、最初っからそれしか選択肢なんてねぇんだよ。だったら、海の上で死ぬことにビビるなんざ馬鹿げてるぜ」

 ラムを傾けながらブラックが言うと、ノーラも何やら同調するようにクスリと笑いながら杯を傾けた。

「それしか選択肢がないってのは、まぁ分かる気がするけどね。あたしだって父さんが鍛冶屋だったから、自分もそうなるってことしか考えてなかったし。まぁ父さんは別の道を望んでたっぽいけれど、小さい頃から父さんの背中を見て育ったあたしが鍛冶屋以外の職に着くなんて、想像もできなかったし」
「ふぅん・・・しかし、女鍛冶屋ってのは確かに珍しいしな。お前、兄弟はいねぇのか」
「あぁ、いないよ。っつか父さんも口には出しちゃいなかったけどさ、本当は跡継ぎには息子が欲しかったと思うんだよね。メッサーナの鍛冶場は別に女人禁制ってわけじゃないけど、基本的には男社会だしね」

 別にそれをやっかんでるとかじゃないけど、と付け加えながら煙草に火を付け、何語っちゃってんだろうねとノーラは苦笑いをする。
 だがブラックは、特にそれを笑うことはしなかった。

「別に男だ女だなんてのは、生きる上で関係ねーだろうさ。なるべくしてなるのに、そんな小せえことは問題じゃねぇ」
「へぇ・・・なんか意外だねぇ。大抵の男はあたしのことを珍獣でも見るような目でしか見ないし、特に同業者はこっちが女ってだけで舐めてくるけどね」

 女だてらに、というような言葉を何度も受けてきたからか、ノーラはそういうのには慣れてはいる。それほどノーラはこうした偏見には常に直面してきた。なので、こういう否定の仕方をしてくるブラックという男が、単純に物珍しく感じたのだ。

「そんなこといったら、こちとら海賊ってだけで世間からは鼻つまみもんだぜ。だが、俺はそんなものを気にしたことはこれっぽっちもねぇな。海賊はどこまで行っても海賊だ。誰がなんと言おうが、それ以上でもそれ以下でもねぇ。お前も、鍛冶屋はどこまで行ったって鍛冶屋なんじゃねぇのか?」
「ふふ、そうだね。その通りだよ」

 あっけらかんとしたブラックの物言いに、ノーラは思わず笑いながら応えた。

「あんた、案外気持ちいいやつじゃんか。今度うちに寄りなよ。そしたら得物のメンテしてあげるよ」
「はっ、生言ってんじゃねぇ。まぁお前、腕はいいらしいからな。カタリナとかの剣もお前が鍛えたんだろ。気が向いたら顔出してやるよ」
「あぁ、カンパニーは最早うちの大のお得意さんだからね。カタリナなんかピドナに来る度に装備がこれでもかってくらいボロッボロになっているもんだから、全く作り甲斐があるってもんだよ」

 快活に笑いながらノーラが言うと、ブラックもカタリナの海底宮などでの戦い振りを思い返しながら上機嫌に同意する。

「そりゃあそうだろうな。あんな調子で戦ばっかりやってりゃ、装備や体がいくつあっても足りたもんじゃねぇ。ありゃあ人間ってより、鬼神の類だ。それこそ女だなんて思えねぇ、の代表格だろうよ」
「あんた、それ本人の前でいったら絶対ぶっ飛ばされるよ」
「はん、上等だぜ。何しろ若返った俺様は無敵だからな」
「はっ、それこそ自分で言ってりゃ世話ないね」

 二人して調子よく言い合っては豪快に笑い、その後も杯を何度も空けながら煙を燻らせつつ、カタリナを中心としたハンス家に集まる人間を中心とした他愛もない話題で盛り上がる。

「それにカタリナはああ見えて、すごく繊細だよ」
「なんだなんだ、お前ら柄にもなく女特有の恋話にでも花を咲かせたか?」
「ちがうっての。そんなこと直接話さなくても、なんとなくわかんでしょ」
「馬鹿言うな、そんなのが男にわかったらな、男女のいざこざなんて起きねーんだよ」
「はっ、違いないねぇ!」

 そうして何度も笑いながら杯を傾け、結果この飲みの席は普段より帰りが遅いので心配になったケーンがノーラを店に迎えに来るまで続いたのであった。





最終更新:2021年05月03日 16:30