世界各国の文化が幾重にも交差する、文明の坩堝、ピドナ。
多種多様な地域から移民が集まり形成されている世界最大国家メッサーナの首都が誇る広大な城下町では、その各地方から人と共に渡ってきた文化を元に、実に様々な催しが季節毎に行われていた。
「これは・・・一体なんのお祭りなの・・・?」
訳もわからぬままに、浴衣と呼ばれる何処かの民族衣装らしき装束を纏わされたカタリナが、そう問うた。
すると、彼女の手を引きながら小走りに進んでいた同じく浴衣姿のサラは、もう片方の手に持つふわふわとした白い雲のようなもの(わたあめ、というらしい)を高らかに振りかざした。
そしてピドナメインストリートの両側をこれでもかと埋め尽くすように居並ぶ屋台群をふわふわで勢いよく指し示して、こう言い放ったのだ。
「これはお祭りじゃなくて、縁日です!」
「えん・・・?」
残念ながら、それはカタリナの知らない単語であった。
どうもロアーヌのこと以外にはそれなりに疎いらしい、ということを最近とみに自覚しているカタリナは、その聞き慣れぬ単語を耳にして、早々にこれ以上の追求は諦めることとした。
ただ、こちらが追及するかどうかは別として、サラは親切にも説明を続けてくれる。
「縁日っていうのは特定の神様と特に縁のある日、って意味らしくて、この浴衣と合わせて、どうやら東方に所縁のある催しらしいです!」
「東方・・・それでこの格好というわけね」
着慣れぬ浴衣というものに加え、機能性としては如何なものかと思われる程の小ささである巾着袋や、動くには不便でしかないと思われる帯周りの紐飾りなど、彼女の全く知らない装着具が多い。
それらも、東方の発祥という事であれば存じていないのも頷けるというものだ。
「なんでも東方には神様が八百万もいるとかで、それら全てに縁日があるとかなんとか。それって最早、毎日がお客様感謝デーみたいな感じですよね!」
「え・・・そ、そうね。まぁよくわからないけれど・・・つまり、今日はおめでたい日なのね?」
「そうです!」
サラの実に快活な返事にカタリナは思わず笑みを零しながら、それならば承知とばかりに周囲の屋台へと目を向けた。
早速彼女の目についたのは、周囲の屋台よりもやけに立派な構えをした、大きめサイズの屋台だ。
当然その大きさから目につく人も多いのか、屋台の前には中々の人混みができている。してその奥で集客を捌いている人物には、なんと見覚えがあるのであった。
「あら、ノーラさん?」
「お、来たねカタリナ。サラも一緒かい。二人とも一回どうだい!?」
流石はピドナでも老舗中の老舗である、レオナルド工房。こうした街の催しには、いい場所取りで参加しているようだ。周辺に比べて屋台の作りが立派なのも、ノーラのものならば頷ける。
して、その立派な屋台上部の大きな看板には、こう書かれていた。
「型抜き・・・?」
「そう、型抜きだよ。最高難易度の聖王の槍の型を抜けたら、ダマスカス製の実寸大聖王の槍レプリカをプレゼントしているよ!」
「いやそれ原価どうなってるのよ」
思わずカタリナも突っ込んでしまう大盤振る舞いな景品を狙ってか、小さな子供に混じって大人も幾人か、型抜きとやらに挑戦している様子だった。
「・・・って、シャールさん?」
「・・・・・・」
その中でも一際大きな体つきで目立つ男性の姿に心当たりがあったので名前を呼んでみると、しかし極限状態にて集中しているせいか、男性は無反応であった。
するとその代わりに、隣にしゃがみこんで一緒に型抜きをしていたらしい、紺を基調とした浴衣姿に美しい海色の髪をアップに束ねた女性が、男性の体の影からひょいっと顔を上げた。
「ミューズ様!?」
「これはカタリナ様、ご機嫌よう。シャールったら、さっきからずっとこれをやっているのです。私も一緒にやっているのですけれど、これとても難しいのですね。どうやらシャールは毎年挑戦しているようなのですが・・・」
シャールの背中越しにカタリナとサラがその手元を覗き込むと、彼は先の尖った針金のようなものを巧みに扱い、薄い板状の菓子らしきものを、そこに描かれた線に沿って慎重に削っている。
「・・・あ、割れた」
サラが呟く。
槍の先端を模したらしい、いやに細い部分の攻略にかかっていたシャールだったが、無常にもそこで彼のチャレンジは終了したようだった。
「・・・親方、槍の型、もう一枚だ」
「まいど!」
シャールのリトライを快く受けたノーラは、小銭を受け取って新しい型を出す。その間に割れた菓子を口の中に放り込んだシャールは、再び黙々と目の前の型に集中し出した。
「あ、ミューズ様うまーい!」
サラの声に誘われてシャールの隣をみると、そこでは見事にチューリップの型を抜いて景品だと思われる花の種をもらい満足げなミューズ。
これはしばらくシャールが動きそうもないので、型抜きには後ほどお邪魔することにし、一旦二人はその場を後にした。
「モニカ様!」
道中の屋台にあったピドナ名物の魔王殿まんじゅうを二人で食べながら歩いていると、道行く先には先んじてハンス家を出ていたモニカとユリアンに出会った。モニカもしっかりと浴衣を着込んでおり、ユリアンは甚兵衛というらしい軽装の衣装を身に纏っている。
先に二人の姿に気がついたカタリナが履き慣れない下駄でゆっくりと駆け寄ると、仲睦まじい様子で手を繋いで歩いていた二人は、同時に振り向いた。
「まぁ、カタリナ!」
「あ、カ、カタリナ様!ユカタ、よよよよくお似合いですね・・・!」
「・・・そう言った台詞は、貴方はモニカ様だけに送っていればいいのよ」
つい先日モニカとの真剣交際が発覚したユリアンに対し、一応のけじめは心の中でつけていたカタリナ。だが一方のユリアンはまだ慣れない様子でカタリナに接しており、どうにも二人の間の会話はまだ、ぎこちなさが残るものだった。
「お二人で縁日を回っておられたのですか?」
「ええ。いま丁度、あの遊戯をやろうと思っていましたの。カタリナとサラ様も一緒に如何ですか?」
そういってモニカが指し示した屋台には、射的、と書かれた看板が大きく脇に立っていた。
どうやら小さな長い筒の先に詰めた小さなコルクのようなものを内部のバネ細工で打ち出し、離れた的に当てるという遊戯のようだ。要は的当てパチンコのようなものか、とカタリナは理解した。
『イグザクトバレット!!』
そしてその射的屋では、何やら一人の参加客を中心に異様な盛り上がりを見せているようだった。
その参加者が技名らしき叫びと共に放ったコルクの弾丸は、物理法則を欠片も気にした様子のない軌道で幾度にも跳弾を重ね、同時に七つもの的を容赦無く落としていく。
これには脇に控える店主も真っ青の様子だ。
「あ、トム!」
その姿に気がついたサラが一目散に駆け寄った先には、下手をしたら槍よりもさまになっているのではないかというほど似合った様子で遊戯用の筒(銃、というらしい)を構えた浴衣姿のトーマスの姿があった。
「サラ、来てたのか。浴衣、よく似合っているじゃないか・・・っと、これはモニカ様にカタリナ様、お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」
「いえ・・・ていうかトーマス、それ凄く上手いのね」
カタリナはとても意外なものを見た、という様子でそう言った。その間にもトーマスの手元には、先程落としたと思しきいくつかの景品が半泣きの店主によって並べられていく。
正直、上手いとかそういう次元の話だとも思えなかったが、彼女にはそれ以上に適切な表現が思い浮かばなかった。これを相手取る店主には、同情の余地しかない。
「うおートム凄いな! 俺も丁度それをやろうと思っていたんだ。勝負しようぜ!」
「ユリアン様、頑張ってくださいませ!」
そして意気揚々とトーマスに勝負を挑むユリアンと、無邪気にそれを応援するモニカ。
まさか今のインペリアルな奥義を見てもまだトーマスに勝負を挑もうというのか、とカタリナは側から見て軽く戦慄を覚えた。
しかしてモニカ様の伴侶ともなれば、その意気や良し。ならば微力ながら、自分も応援することとしよう。とは言え、このままではトーマスの圧勝は免れないのも確か。そこでカタリナは、一計を案じることとした。
「それでは、折角ですから男女ペアでやってみては如何でしょう。モニカ様とユリアンペア、そしてトーマスとサラのペアで」
「え!!?」
その提案に誰より先に驚いた様子でこちらに振り返ったのは、サラだった。
その表情に浮かんだ薄い朱色を目敏く確認したカタリナは、そんなつもりもなかったのだがこれは思わぬファインプレーをしたかな、と自画自賛しながら、サラの両肩を押してトーマスの隣につけた。
「トーマスも、それでいいわね?」
「ええ、よろこんで。サラ、一緒にやろうか」
「えええ・・・う、うん」
これで、トーマスが圧勝するということは無くなっただろう。彼の性格からして、モニカ様やペア相手の顔を立てないということはあり得ない。まぁこんなことをせずとも彼はきっとそうしたのかもしれないが、念には念を、というものだ。
それに思わぬ副産物も見れたし、とカタリナは俯き加減のサラを見ながら思った。
正直、ピドナで再会して以降の快活な彼女しか印象にないカタリナは、このように内向的な様子を見せる彼女のことを非常に珍しいと思う。
こちらの方が年相応で可愛らしく見えるというものだが、とはいえ快活な彼女もまた魅力的ではあるので、これは珍しく微笑ましい一面が見られたな、という程度に留めておくこととした。
「私は、ポールが出しているっていう屋台に顔を出してくるわ。トーマス、お手柔らかにね」
「仰せのままに」
ロアーヌ式の敬礼の仕草をしながらそういうトーマスに安心すると、カタリナは皆に手を振ってその場を後にした。
「お、やっと来たかカタリナさん!」
港にほど近い広場の一等地と思しき立地に展開していたのは、屋台というか最早ちょっとした食事処のような規模の出店だった。
その店頭で串焼き肉らしきものを焼きながら器用に集客を捌いていたポールは、いち早く人混みからカタリナの姿に気がつき、手を振ってきたのである。
「こんな大きなところを開いているなんて、凄いじゃないポール。貴方、これで食べていけるんじゃない?」
「いやいや、ここあれなんだ、ヴィンサントの屋台出店なんだよ。此間盛り上がった時に仲良くなってさ。したらこの縁日で出店仕切るやつが足りてないってんで、今日だけ引き受けたってわけよ。上がりの分け前もあるしな。ほいこれ、とりあえず来店サービスの魔王せんべいね」
なるほど、ピドナきってのパブであるヴィンサントの出店する屋台ともなれば、この好立地も頷けるというものだ。というか、そこに早速付け入るポールの要領の良さにも感心しきりであるわけだが。
とはいえ今そこについて追求するのも、野暮というものであろう。ここは細かいことを気にせず差し出された煎餅を早速頬張りながら、カタリナは木製のテーブルがいくつも並んだ店内へと視線を向けた。
店内はヴィンサント本店にも負けない様子で随分と混み合っているが、どうやら特に、中央付近の卓が盛り上がりを見せている様子だった。
「あぁ、もう始まっているぜ・・・カタリナさんも参加してくれば?」
「参加って、何に・・・?」
此方の問いに意味深な笑みだけで返してくるポールに嫌な予感を過ぎらせつつも、カタリナは一先ず奥に進んだ。
すると先程の大いに盛り上がっていたテーブルでは、今まさにアームレスリングの雌雄が決せられようとしていた所であった。
ズシンッ、というやけに重い音と共に殆ど体ごとテーブルに叩き伏せられた男は、その勢いのままひっくり返るようにして地べたに転がった。
その対岸で勝利の雄叫びを上げながら腕を振り上げ、もう片方の手に持ったジョッキで早速ビールを豪快に胃の中へ流し込むその人物こそ、誰あろうエレンであったのだ。
「よう!」
「あー、カタリナさん遅ーい!!」
「あー・・・うん、お待たせ」
快活に空のジョッキを掲げながら挨拶をしてくるエレンのすぐ後ろで同じくジョッキを上げながら声をかけてきたのは、無論のことハリードであった。
もうこの構図の時点でカタリナには、ここで今何が起こっているのかが手に取るように分かってしまうというものである。
「今日の飲み代は、これでチャラにするつもりなの?」
「おっと、野暮なことをいうんじゃないぜ・・・さぁさぁ、この力自慢の怪力娘に勝てるって奴はいないのか!?ピドナの男はこれで終わりなのか!?」
「だれが怪力娘よ!!」
散々な言われようにエレンが抗議するが、ハリードはその頭を抑えるように撫でながら新たな挑戦者(犠牲者、というべきか)を呼び込んでいる。
そしてその傍ではちゃっかり、引き倒された男から酒代を回収し、新たなビールジョッキを店員に頼んでいたのであった。
「ほれ、こいつは俺の奢りだ」
「・・・エレンの、でしょ」
そうして運ばれてきたジョッキを各々が持ち、乾杯の音頭と共に三人ともが一気に飲み干す。
流石はヴィンサント出店の屋台。金の出どころは兎も角、エールの品質はしっかりしていてとても美味い。
「お前さんも挑戦していくか?」
「勝てる気がしないもの。お代だけ出すわ」
カタリナとて、大剣を得物とする騎士だ。これでも己の筋力には、相応の自信がある。しかしながらエレンのそれは、どうにも自分とは別格のようだ。
巨大なグレートアックスすら軽々と振り回すその筋力は、カタリナの同期の騎士団連中でも恐らく敵わないだろう。
というより、武具を振るう筋力と腕相撲に勝つための筋力というのは厳密に言えば別物なのだが、彼女の筋力の場合はそういう細かい次元の話ですらないような気もする。
「貴方こそ、挑戦したらどうなのよ」
「馬鹿言え、俺が今こいつを負かしちまったら、後の酒が有料になっちまうだろうが」
「あっそ・・・」
実際ハリードはかなりの長身で体格にも優れており、当然その筋力も相当なものだろう。しかしこの男は曲刀という対人戦闘に特化した武具を好み、その上で大型の魔物と単騎で渡り合うほどの身のこなしを発揮する機動力を備えている。
つまりこの男の得意とする戦闘スタイルは、一撃の重さよりも手数による乱撃を得手とする戦い方だ。その戦ぶりはさながら暴風のようで、彼の異名がトルネードというのも言い得て妙だというものである。
さてそうなれば、その戦闘スタイルを可能とするための身体バランスを維持することを考えたら、特定箇所に必要以上の筋力があるとは考え難いというもの。
自身をして疾さを活かした戦闘を得意とするカタリナだからこそ、余計な筋肉をつけない事の重要性が痛く理解できるのだ。
となれば実際に二人が勝負したとしたら、これはひょっとしたらひょっとするのかも知れないな、等とカタリナは二杯目のジョッキを傾けながら考察してみた。
「・・・おいお前、まさか俺が負けるなんて考えてないだろうな?」
そんなカタリナの脳内を見透かしたか、ハリードが彼女の顔を覗き込むようにしながら声をかけてくる。
それに対して、清々しいほどに心底鬱陶しそうな表情で綺麗な八の字に眉を顰めながら、カタリナはあからさまに仰反るようにしてハリードから距離をとった。
「そうだ・・・といったらどうするのよ」
「そりゃあ流石に聞き捨てならんな。おいエレン、次は俺が相手をしてやろう」
「おーし、やっと来たわねおっさん!」
結局は自分もやりたくてうずうずしていた口であった様子のハリードは、カタリナの安い挑発に乗っかる形で結局エレンとの勝負に興じることとなった。
が、さしてその勝負の行方に興味があるわけでもないカタリナは、腕を慣らしているエレンにそっと耳打ちだけしてから、さっさとその場を離れることとしたのであった。
メインストリートの喧騒を抜けて比較的人の少ない堤防まで足を伸ばしたカタリナは、道中で買ったアビスあめを舐めながら、屋台の松明を時折水面に反射させている薄暗いヨルド海へと視線を向けた。
(・・・全く、このピドナという街は催事に事欠かないわね・・・)
こうして騒がしい場所に身を置いていると、ふと静寂が恋しくなる時がある。そうするといつも彼女は人混みを離れ、遥か離れた地から祖国ロアーヌへと一人、想いを馳せるのだ。
自らが全うせねばならない使命を思えば、そのような感情を抱くことすら、本来は憚られるのだろう。だがそれでも、こうして不慣れな異文化に触れていると、時折その反動で祖国を懐かしんでしまうのである。
ロアーヌでも、このピドナほど頻繁ではないが建国祭や葡萄収穫祭など、年に幾度か国全体で行う催しはある。
都市の規模からして勿論ピドナよりは幾分か小規模なものだが、それでも彼女には祖国の行事がとても好ましく感じられてしまう。
ひょっとしたら、もう二度と見ることの叶わないかもしれないものだからこそ、余計にそう思うのだろうか。
(・・・いけない。こんなことでは)
隙あらば顔を覗かせてくる、仄暗い感情。それを跳ね除けるように、カタリナは小さく頭を振る。
彼女が今歩んでいるのは、マスカレイド奪還のための茨の道。国宝を自責により盗難された罪は、その旅路の果てに粛清を受けることで最終的に清算されるのだ。そんな事は、最初から分かっている。
だからこそ、その最中にこうして息抜きの時間があるなんて、とても有難いことだと思わなければならない。旅のその後など、今は考えている余裕などないのだ。
だというのに、いつもこうして祖国に想いを馳せた後には、余計なことを考えてしまう。
それは何一つとっても良くないことだと考えたカタリナは、先程の屋台に戻って飲み直そうと思い直し、くるりと踵を返した。
その時だった。
唐突に、夜空一面が白く紅く、鮮やかに燃えた。
「!?」
突然の閃光に驚いたカタリナが視線を光の方へ向けるのと同時に、今度は閃光の後を追うようにして、ドーンという轟音と振動が彼女の元まで届いてくる。
光はそこから連続して幾度も宙に弾け、夜空を盛大に燃やしながら四方八方に飛び散り、バチバチと音を立てながら大気を焦がしていく。
「これが、打ち上げ花火というものなのですね。私、初めて見ました」
その圧巻の光景に、すっかり立ち止まったままでカタリナが見入っていると、いつの間にか彼女の隣には同じくして花火を見上げるミューズと、それに付き従うシャールの姿があった。
「モウゼスの魔術ギルドが開発した、朱鳥の魔力を宿した砂を用いて作られたものだそうですね。実物は俺も初めてみましたが、これは凄いですね。なんとか取引できないかな・・・」
その後ろからは、同じく物珍しそうに花火を見ながら顎に手を添えているトーマスと、そんな彼の浴衣の袖を掴みながら一緒に空を見上げるサラの姿。
「凄い・・・メッサーナではこんなことまで出来ているのですね。いつかロアーヌに持ち帰ってみたいですわ」
同じく花火を見上げながら感嘆の声をあげるモニカと、何やら射的の景品らしき大量のぬいぐるみを持っているユリアン。
「もう終わり? もっと飛ばさないのかしら!」
どうやら先程の屋台からジョッキを持ち出してきたらしいエレンとハリードの姿も、気がつけばすぐ近くにあった。
いつの間にやら、この旅の中で得た仲間が、彼女の周りには揃い踏みになっている。
「おーい」
そこへ、手を振りながらこちらに歩いてくるポールとノーラの姿が見えた。
「花火始まっちまってウチもノーラの姐さんとこも暇になっちまったからさ、こっちで飲み直そうぜ」
そういうことならば、丁度そのつもりであったし渡りに船というものだ。
早速ポールに向かい片手をあげて答えたカタリナは、周囲の皆にも誘いの視線を向けた後に、一歩前へと歩き出す。
今は、マスカレイドを奪還するための茨の道中。その終わりには、何があるのかも分からない。
ただ間違いなく、この旅路が一人ではないということは存外のことであり、望外のことである。不覚にもそんなことを今になって改めて痛感したカタリナは、今自分がどんな顔をしているかを他人に見られたくないのか、我先に、と足早に先頭を歩いて行ったのであった。
「・・・おい、お前だろう、さっきエレンに助言したの。流石にあいつ相手に手首は、俺でも無理だぞ!」
「あら、貴方と違ってエレンは連戦だったんだから、それくらい当然のハンデだと思っていってみただけよ。因みに私エレンに賭けてたから、一杯奢りなさいよね」
「は!? 聞いてねぇぞ!」
大人気なく喧しい様子のハリードを雑に去なしながら、カタリナはモニカら華やかな女性陣の浴衣姿をツマミにしつつ、悠々とジョッキを傾けるのであった。
最終更新:2021年09月28日 20:14