ロアーヌがビューネイ軍に勝利し、そして四魔貴族の魔龍公ビューネイが英雄的ロアーヌ騎士により討伐されたという知らせが世界中を駆け巡るのに、そう時間を要することはなかった。
当の戦勝国ロアーヌでは普段の厳粛な雰囲気も流石に鳴りを潜め、全国民が数週間に渡ってその歴史的な勝利に酔いしれたという。
それに準じるように、昨年末のピドナにおけるコングレスにて全会一致で対四魔貴族へと突き進むこととなった各国諸侯もまた、この戦勝の報に大きく胸を撫で下ろしたのであった。
コングレスでは、その場を主導したミューズやルートヴィッヒ軍団長の威光に半ば流されるようにして意を揃えた者たちも多かったのが事実ではあった。だからそのような者たちこそ、内に秘めた不安や不信を吹き飛ばすかのようなこの勝利に喜び、勢いつくように宴を一月にも渡り開き続けた。
が、しかし。
最初にロアーヌの勝利を確信し、先んじて世界を対四魔貴族に向けて一致団結させたメッサーナ王国王都ピドナ。その中央商業ギルド会館では、勝利の宴とは真逆のような空前の大混乱が巻き起こっていたのであった。
『おい、港地区担当どこ行った!!!?』
『商館カウンターに倒産申請の列が出来ていて対処間に合ってないです!!!』
『ピドナバンクからの担当連絡員が全く来ません!!頭取も見つからないそうです!!!』
絶え間なく飛び交う、怒号と喧騒。机の向こうが見えないほどに積み上げられた、未処理書面の山。突然全てを失い、絶望の表情を浮かべてその場に訪れた群衆。
正に阿鼻叫喚という言葉がぴたりと嵌るかのような大混乱の中、商業ギルド職員だけが必死の形相で忙しなく会館内を駆け回っている。
その光景を一つ上の階にあたるエントランスから大変に険しい表情で見下ろしていたトーマスは、やがてその表情を崩さぬままにその場を後にした。
ロアーヌの勝利から、数える事、ひと月。
たったのひと月。その間に、ピドナは世界の流通の中心から一気に孤立し、未曾有の経済的危機に直面していたのである。
「商業ギルドの方も、酷いものでした・・・。兎に角、ここで状況を一度整理しましょう」
商業ギルド会館から戻ったトーマスは、ハンス邸の会議室にて待っていたミューズ、シャール、ポール、ブラック、ノーラを前にし、そう言いながらテーブルに腰掛けた。
その場に集まった面々の表情は一様に、とても険しいものだ。
「・・・最初の異変は、年始間も無く起こったピドナ農産業の市場崩壊。前年から流通量減少の流れで徐々に相場値上げを続けていたはずの農産物が、突如世界中からピドナに大量安価に流れ込みました。これによりピドナ農家の生産物が売れず、彼らの生計が瞬時に立ち行かなくなった。これが、第一の異変です」
年明けから急激に流れこんできた農作物によって、食料品を中心に急激な値下がりがピドナの市場に起こった。これにより、ピドナ農業系一次産業の売り上げは急激に落ち込んでいった。
ここに連動して農業系への融資を主に行なっていた幾つかの小規模銀行が急速な預金引き出しと農家からの融資回収不履行による機能障害を起こし、これに危機感を覚えた他産業を生活の軸とする市民も、取引銀行から一斉に預金引き出しを開始。一気に複数の銀行が、同じく機能麻痺に追い込まれる事態となった。
これに対し、事態を重く見たピドナ王宮は初動で破綻間近の各銀行を中心に緊急融資を即時決定。国庫からの緊急出資に踏み切った。
当然これを速やかに主導したのはルートヴィッヒ軍団長であり、これにより一時的な混乱はなんとか収束に向かう。
かのように思われた。
だが、これはその後に続く更なる衝撃への序章に過ぎなかった。
「そして第二の異変は、ピドナ陸海運機能の麻痺・・・二大運送企業の、破綻です」
一次産業への急激な痛手と、それに伴う中小銀行の機能麻痺。
これと時期をほぼ同じくして、次にはなんと、陸路を中心としたピドナを行き来する輸送業への、魔物の集団による集中的な襲撃被害が頻発したのである。
これにより特に多大な被害を受けたピドナ最大手の陸運であるメッサーナキャラバンが、一気に業務停止にまで陥った。これに連鎖し、ここへの出資を行なっていたピドナ銀行業の中心に位置するピドナバンクが一時的な融資窓口停止にまで追い込まれることとなった。
そしてなお都合の悪いことに、この輸送物資は在庫過多により不動在庫となってしまったピドナ産の農作物を緊急に北部へと売るために起きた特需であったのだ。
これにより、一時は国庫からの緊急出資によって首の皮一枚繋がったかの様に思えた一次産業従事者はその緊急補助をも無為に帰され、甚大な被害を受けたメッサーナキャラバンも大きく困窮に喘ぐこととなった。
更に、これと並行するように海上経路にも同様の魔物襲撃の集中が勃発。
この襲撃を何故かほぼ一手に受けることとなった海運最大手のアルフォンソ海運が、ここでまさかの経営破綻を起こすこととなったのである。
アルフォンソ海運はピドナから各国への流通をほぼ一手に引き受ける、文字通り世界最大の海運企業であった。奇しくも彼らは、昨今各国の海運業が魔物の被害で成長停滞の中、自社商船団の海上輸送の安全性を売りに、各国海運への買収強化のため、大規模な投資を行なっていたのであった。
この最中に魔物襲撃の集中という不幸が重なり、瞬く間に資金が回らなくなり破綻へと追い込まれたのである。
この破綻の衝撃は、ピドナにとって非常に甚大なものであった。
ピドナバンクはメッサーナキャラバンに続き出資最大手であるアルフォンソからの融資回収が困難になったことで、事実上の業務停止を余儀なくされた。これにはさしもの王宮も、これらまでを含めた莫大な補填は慎重に協議せざるを得ず、対応速度は否応なしに鈍化した。
これらの状況が、現在に至る都市全体の経済混乱を加速度的に広げていったのである。
「・・・元々、ルートヴィッヒによる流通政策によって、ピドナ運送業は意図的にメッサーナキャラバンとアルフォンソ海運に集中二極化していた。だからこの二社が機能しなくなると、必然的にピドナの流通は一気に崩壊を起こすことになるってわけだ」
苦虫を噛み潰したような表情で、帽子の端を弄りながらポールがそう補足する。
彼のいう通り、ピドナの陸海運はこの五年程の間に、ルートヴィッヒによる法人税増加と流通免税符の組み合わせにより、資金力のある大手に受注が集中せざるを得ない仕組みとなっていた。
これはピドナの流通を分かりやすく効率的に支配下に置くには、非常に有用な手段であった。それは確かであったが、ピドナ流通がこの二社に大きく依存するということでもある。
結果として今回起きた魔物襲撃により、この二社が機能麻痺を起こしたことで、ピドナは流通において一気に外部から孤立させられることとなったのだ。
「これらにより、農産業、運送業と、それに連動して銀行までが連鎖破綻を起こした、と。ここまでが大体の現状だな。ま・・・うちは各国に販路があるからピドナに資金も集中してなかったことで最悪の事態を逃れているのが、不幸中の幸いだったけどな・・・」
ポールが補足を終えると、その場に一時的な沈黙が訪れる。
そこで、ノーラがおずおずと手を上げ、不安げな様子で呟いた。
「あのさ・・・ぶっちゃけうちの工房は親父の頃から銀行と取引してなかったからよく分からないんだけど、このあとって、一体何が起きるの・・・?」
「・・・銀行を介して操業資金を調達してきた企業群は、人件費その他の支払いが困難になり身動きを取れなくなります。つまり、ピドナで最も大きな銀行であるピドナバンクが麻痺状態となると、そこに依存する数多の企業がこの後、一気に連鎖破綻を起こします」
トーマスが目前のティーカップから視線を動かさぬままに応えると、それに今度はシャールが反応する。
「つまり、ピドナ中に失業者が溢れることになる、というわけか」
「・・・その通りです。それにより民の国外流出や、犯罪に手を染める者の増加による治安の急激な悪化等、様々な悪影響が起こることでしょう。ただ、今の情勢だと事態はそれにすら留まらないでしょう」
トーマスは、彼の懸念する最も重大な被害予測を静かに語り始めた。
「今ここでピドナが大幅な経済破綻を起こすということは、つまり『昨年末のコングレスで成立させた世界団結』の瓦解を意味します。元より各都市国家間の繋がりは、非常に不安定なバランスの上に成り立っていました。偏にこれを維持出来ていたのは、最も経済的に強大な力を手にしたピドナという存在があってこそです。王なきメッサーナ王国でこれを成し得たのは、確かにルートヴィッヒ軍団長の手腕によるところが大きいです。ですが・・・その経済的優位性がなくなってしまえば、如何にルートヴィッヒ軍団長といえども、その維持は不可能。他国がピドナに従う理由は、なくなります」
元来、各都市の軍団長が王座を狙い牽制し合っていたのが、メッサーナ王国のこの十数年の背景であった。
それを頭ひとつ抜きん出たルートヴィッヒと、更にはミューズという世論を味方につけた英雄の登場によって無理矢理に纏め上げたのが、昨年末の団結の一側面である。
「・・・それが崩壊するとなると、対四魔貴族体制は、昨年末のコングレス前に逆戻り、というわけか・・・」
シャールがそう呟くと、隣に座っていたミューズが両手の拳を握りしめつつ、表情を曇らせながら小さく首を振った。
「いえ・・・恐らく事態は、もっと過酷になります。ピドナ経済が麻痺しルートヴィッヒの力が弱まるということは、他国からすればそれは『メッサーナ王国の王座を狙う格好の機会』に他なりません。奇しくも今、魔龍公ビューネイがカタリナ様によって打ち果たされ、残す四魔貴族は魔戦士公アラケスのみとなりました。つまり四魔貴族による脅威が減少しつつある今だからこそ、この機に乗じてピドナ侵攻を企てる国が出てくることは・・・予想に難くありません」
「・・・なんと、まさか・・・」
ミューズの言葉に、シャールが思わず息を呑む。だがしかし、彼女の言葉を否定するような意見は、その場の誰からも出てくる様子はなかった。
「くっくっく・・・面白くなってきたじゃねえか」
相変わらず煙草を燻らせながら、ブラックが不敵にせせら笑う。
「貴様、一体何が可笑しい・・・!」
シャールが不快感を隠すことなくブラックを咎めるように声を荒げるが、対するブラックは特に意に介する様子もなく煙草を燻らせた。
「るっせぇな。護衛騎士様はご主人様を護ることだけ考えてろよ。この状態で一番危険になるのは、お前のご主人様だろうが」
ブラックが眼光鋭く睨み返すと、それに一歩も引かぬ様子で視線を返したシャールは、しかし言い返すことは出来なかった。
ミューズの予測が正しければこそ、ブラックの言うことは最もなのである。
ピドナの力が弱まり、その隙を狙う者が現れるとなれば、真っ先に狙われる対象となるのがルートヴィッヒとミューズなのは明白だからだ。
この二人がいなくなれば、いよいよ今のピドナ王宮は民から見放される。現政権は敢えなく崩壊し、民はそこに新たな君主を求めざるを得なくなるのだ。
それを狙わない手など、ないのである。
そして、狙われるうち一方は防衛に優れた丘陵の上に位置する王宮の中、強固な近衛軍団親衛隊に守られたルートヴィッヒ。その彼とは対照的に、組織的な後ろ盾に乏しいクラウディウス家。この情勢でミューズが真っ先に狙われる対象であることに、疑問を挟む余地もない。
「・・・ここで不和を起こすのは、やめてください。今は、この事態の解決に向けて一刻も早く動かなければならないのです」
二人の間に割って入るように、トーマスが鋭く言い放った。
ふん、と鼻息を鳴らして黙るブラックと、彼を睨みながらも椅子の背もたれに体を預けるシャール。
二人の様子を見ながら小さくため息を吐いたトーマスは、円卓の上に広げられた数々の調書へと視線を移した。
「現状は今の通りですが、我々が行動を起こす為に着目せねばならないのは、この事態の詳細と、その首謀者です。今の時点で言えることといえば、この事態を起こしたのは先ず間違いなく、件のアビスリーグでしょう」
アビスリーグ。
フルブライト二十三世によって告げられた、未だ得体の知れぬこの経済同盟群の動向について、トーマスらは昨年末を契機に探りを入れていた。
昨年のコングレスに機を得、その場に集まった各国の要人らに対し動向調査を実施した彼らは、その調査にてなんと、各国要人の『全て』で不審な企業団体との接触を確認するという衝撃の事実に至ったのである。
それからの一ヶ月ほどでピドナ国内が急激な変動を迎えている中、トーマスらはその事態の全容把握と解決に向けた模索を続けてきたのであった。
「先のドフォーレの事例から見ても、ピドナ陸海運で集中的に起こった魔物の襲撃はアビスリーグによる意図的なものとみて、まず間違いないでしょう。そして恐らく、昨年から続いていた小麦その他の不作を装ったと思われる流通偽装についても、各都市国家への彼らの介入と無関係ではないと思われます。その狙いは、実に巧妙なものです。ルートヴィッヒ軍団長主導の経済政策が『想定通りの進行速度である』という様に見せかけた。その上で、この機を狙ったのでしょう」
ルートヴィッヒによる経済政策とは、四つの内海を結ぶ世界の中心に位置するピドナ領土の流通優位性を最大限に活かし、死蝕からの生産的復興を世界が成し遂げるまでの間にピドナ経済を確固たるものに仕上げることを目的としていた。
これは元より明らかなことで、ピドナ内外でもそれと分かっていながらも一切の手出しが出来ずにいた、ある種の聖域の様なものであった。
死蝕によって壊滅的な打撃を受けた、世界各国の生産業。これらに対し自国生産物及び他国から買い付けた物資の不足地域への流通という形で急激な復興と成長を成し遂げたのが、ピドナという都市だ。
死蝕によって、各地は非常に深刻な食糧不足、物資不足に陥った。その影響は未だに根強く各国に爪痕を残しており、近年の流通動向から見ても、死蝕前の水準に戻るにはまだ数年はかかるものと見られていたのである。
その状況下にあってピドナという都市は、その間に立ち流通において巨大な利潤を得るのに、実に最適な条件を兼ね備えていたのであった。
最も、これ自体はルートヴィッヒが始めたことではなく、その前任であったクレメンス=クラウディウス軍団長の時代から同様の経済政策が執られていた。それは、己の持てる手札を最大限に用い国家として生き残る上では、当然の選択であったとも言える。
だが、それをより露骨に中央集権的な形へと変化させ強烈に他国を牽制したのが、ルートヴィッヒだったのだ。
ルートヴィッヒが描いた図は、彼の目的を思えばこそ、なるほど実に見事なものだとトーマスも感じ入ったものだ。
抑もルートヴィッヒは、各国の生産力がいずれ改善されることを最初から見越した上で、この政策を執っていた。各国の生産業が死蝕前の水準に戻れば、必ずそこから世界的な物資の余剰とデフレーションが起こり始める。
その前までにピドナの生産業と流通による強固な経済力を確立し、いずれくる食料を中心とした生産力の世界的な安定と衰退を機に、工業製品を中心とした物資流通政策の整備と各種関税を軸とした経済操作へと舵を切る。
これが、ルートヴィッヒの描いていた向こう数年の経済政策だった。
これに関しては、トーマス以外にも幾人かの知恵者や他国執政者は気が付いていた事でもあった。だが、具体的な対抗策は全くと言っていいほど思いつかぬほどに、事前の用意が周到で、且つ徹底的なものであったのだ。
それは当然、ルートヴィッヒも自負していたことだろう。だからこそ、そこを見事に突かれたのが今回の事態の真因である。そうトーマスは読んでいた。
「ルートヴィッヒ軍団長から見て、未だ現行の経済政策を続ける状態である、と読ませる。その為に、他国で小麦を始めとした、様々な物価操作を行なっていたのだと思われます」
「それに一体、どんな意味があったっていうんだい・・・?」
再度ノーラが腕を組みながら疑問を呈すると、それにはポールが身を乗り出して補足を始めた。
「確証っつか結果からの解釈だが、要は『その他の動きを悟らせないこと』が目的だったんだろうな。仮に小麦その他の生産量や物価安定が市場で見え始めれば、当然それ以外の品目や、それに伴う各種事業の状況も含めて、一度総合的に精査して経済政策を段階的部分的に進めていく事になる。恐らく、それをされたら見つかるであろう仕掛けの発見率をがっつり下げる目的で、最も政策転換の判断基準として明確な農作物系の隠蔽工作を行なっていたんだと思うぜ」
ポールの予測は概ねその通りだろう、とトーマスも踏んでいた。
恐らく彼らの最初の狙いは、アルフォンソ海運の破綻であったのだろう。短期間にかき集めた情報だけでは詳細までは分からないが、少なくともアルフォンソ破綻に至るまでの一連の出来事は、偶々起こったことなどではない。全てが、初期から仕組まれていたと見るべきだ。
そして、この後はブラックが指摘した通りの展開が訪れるのも、想像に難くない。
そうなれば世界は、未だ四魔貴族の一柱を残したままに、愚かにも人同士の争いで混沌に向かうことになる。
恐らくはアビスリーグの狙いこそが正にその状況であり、そしてその成就は、もう間近まで来ている。このように見て、間違いないだろう。
「・・・しかし、ここから一体どうするのだ。そこまで後手に回っているとなると、最早我々に何かできることなどあるのか・・・?」
シャールがそう呟く。それは確かに一見その通りで、事が国を揺るがす問題ともなれば、当然その対処をするべきはルートヴィッヒだ。一介の企業が口を挟む様なことでは、ない。
とは言え確かに今のミューズの立場であれば、口添え程度は出来るかもしれない。だが、先ず宮廷内の状況がここに集まっている面々には殆ど分かっていないのだ。宮廷内は確かにルートヴィッヒが最も力を持っているが、宮廷内事情とはそう簡単なものではないということを、ミューズ自身がよく分かっている。様々な思惑の交錯する中においては、正論が的外れである、ということなど幾らでもあるのだ。
その状況から改めて確認し、宮廷に歩調を合わせて改めて対応を模索するなどということは、とてもではないがこの段階での良策とは言い難かった。
むしろ、国力を基盤とした外交に関する手段と繋がりならば、今はルートヴィッヒにそのまま任せる方が余程、話がスムーズだろう。
目を瞑り、天井を仰ぐ様に顔を上げる。トーマスが思考を巡らせ、何かを決める時の癖だ。
外交側面はルートヴィッヒに任せる。であれば、そこで自分たちがやるべきは一つしかないと、トーマスは思い至った。
「他国との折衝は、軍団長にお任せしましょう。そこは、我々が出る幕ではありません。我々はフルブライト二十三世様とお話しした通り、企業の力でこの事態を解決させるために動きます」
「企業の力・・・って、旦那、一体何をするってんだ?」
ポールが珍しくその意図を測りかねてトーマスに問うと、トーマスは右手中指で眼鏡をくいっと持ち上げる仕草をした。
そして、大変に大真面目な顔つきでその場の面々に向かい、こう言い放ったのである。
「我々が、世界最大の企業となるのです。相手が世界経済・・・いえ、世界そのものの秩序を乱そうと画策するのであれば、我々はそれを捻じ伏せるほどの結束を強制的に、作り出してやるのです」
最終更新:2022年07月01日 17:32