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ウホッ

20. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 18:58:09.76 ID:X3t9et.o
「…………」ぼく。

「………………」ぼく。

  膠着状態。
  そのまま現実世界で一分、精神世界では一日ほど向かい合い、宇宙の法則が乱れ始めた頃。

「それで、その戯言遣いさんが何の用ですの?」さらっと言いやがった。

「今迄の展開を流した!?」

「……ちっ」何その舌うち?  ぼくの突っ込みの所為なの?

  まるで流し切りが完全に入っても敵を倒せなかった第一皇子の様な敗北感を味わい、地面に膝を着くぼく。
  ……さて、転換。

「えーと、きみこの家の子?」

  数瞬の間、少女は少しだけ思考し、ぼくの問いに答える。

「……今の所はそうなりますわね」

  何故だか、少女はとてもぎこちなく答えた。
  先程の無邪気な雰囲気は、変わらずに思えるけど。
  先程の無邪気な雰囲気は、変わらずに見えるけど。
  何故だか、とても。
  とても、悲しそうに見えた。
  このぼくの感情が何処に起因するのか分からない。分からない、だけどぼくは少女に何かを感じた。

「それであなたは、梨花に何か用ですの?」

「え?  ああ、うん。……えっと、多分、赤坂さんの使い、って言えば分かってくれると思うよ」

  こう言えば分かる、らしい。
  少女は先程までの幼さを前面に押し出したかのような無邪気な笑顔に戻っていた。
  だけど、あの悲しそうな瞳の奥に残っていたの感情。
  あれは、多分……間違い無く――――。
21. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:03:34.99 ID:X3t9et.o
「北条沙都子」

「え?」ぼくは素っ頓狂な声を出していた。

「北条沙都子。私の名前ですわ」満面の笑顔でぼくを見つめ。そして問う。
「それで戯言遣いのに……おにーさんのお名前は?」不自然な間に疑問が湧いたが、無視しておく。

「沙都子ちゃん、ぼくはね今まで他人に本名を教えた事が一度しかないのを誇りに思ってる人間なんだ」

  言ったとたんに――違和感。
  詩音ちゃんの時にも感じた不自然。

「……?」沙都子ちゃんはぼくの言葉に首を傾げている。

  調子が狂う。ここの人?  いや、違うな。だけどこれは。

「《戯言遣いのおにーさん》でも《いーたん》でも《いっくん》でも《いーちゃん》でも、好きなように呼んでくれ」

  そうして、沙都子ちゃんはたっぷりと悩み。

「それでは、いーちゃんさんにしておきますわ」と、無邪気に笑った。

  そして沙都子ちゃんは、ぼくを玄関に残したまま、少し待って下さいと断り、家に入っていく。
  家自体は時代を感じる平屋で、飾り気がなく質素な感じ。
  良く言えば素朴な雰囲気であり。悪く言えば、ぼくの住んでいるボロアパートと大差はない。
  少しだけ待っていると、奥の扉から沙都子ちゃんが顔を出し。

「どうぞ、入っていいですわ」と、言った。

「おじゃまします」

「待っていたのです。どうぞ、中に入って下さい」

  沙都子ちゃんとは違う声がした。靴を脱ぎ、用意されたスリッパに履き替える。
  そして扉を開け中に入ると、ちゃぶ台に着く沙都子ちゃんの隣に少女が座っていた。
  沙都子ちゃんと同じくらいの年頃だろう。小女は写真で見た通り、
長めに伸ばした黒髪のストレートで、どこぞの制服のようなデザインのシャツと吊りスカート。
  イメージ的には仔猫の様な少女と言えば適当だろうか。
  沙都子ちゃんもそうだけど、特殊な趣味の人ならたまらないであろう美少女だった。
  そして少女は、ぼくと目を合わせ、写真とまるで同じの笑顔で。

「ああ、あなたが赤坂に頼まれた人ですか?  ボクは古手梨花。よろしくなのですよ、にぱー☆」と。

  彼女は、古手梨花ちゃんは一片の邪気の欠片さえも感じさせないように、純粋に、天真爛漫に微笑んだ。
22. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:09:27.40 ID:X3t9et.o
  〜〜〜〜

「――とまあ、こんな感じでお手伝いして貰いたいのです」梨花ちゃんは立ち上がり言う。
「まあ、お手伝いといっても、そんなにやる事はないのですが」

  うん、まあ……確かにやる事は少ないんだけれど、……少ないのだけれども……。

「あのさ……なんでぼくがきみの学校に行かなきゃならないのかな?」

「いーは暇なのです」断定されました。

「予定がない事を暇だというのならそうだろう。だけどきみみたいな子供に暇の何が分かるってんだよ!?」

  と言えるほど、ぼくは強気な人間ではない。まあ、子供相手だし。従っておくしかないか。
  はぁ……やっぱり流されてるなぁ。なんとなく流されることにかけては、ぼくの右に出る者はそうそういないだろう。

「……分かったよ、それじゃあ明日の朝にここに来ればいいのかい?」

  自分の流されやすさに嫌気がさすが、依頼者の頼みなのでしょうがないということにしておく。
  それにしたって情けない話なんですよね。

「はい。では明日からよろしくお願いするのです。にぱー☆」

  梨花ちゃんは立ち上がり、笑顔でぼくの前に来て、その小さな右手を差し出す。

「それじゃあよろしくお願いするのです」

  ぼくは納得できないながらも手を返した。
23. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:15:26.08 ID:X3t9et.o
  梨花ちゃんはぼくの手を握りぶんぶんと揺らし、楽しそうな笑顔でぼくの目を覗き込んだ。

  あ。

「それでは、また明日なのです。にぱー☆」

「……ああ、うん。それじゃあね」

  外に出ると雨は上がっていて、ぼくの上には蒼色の空が広がっていた。
  そして業火に焼かれた燈の空が、ぼくの上に広がろうとしていた。

  何故だか、ふいに思い出していた。
  それは昔の話。
  ぼくが壊れかけだった頃の話。
  ぼくが壊れてしまった頃の話。
  ぼくが壊してしまった頃の話。
  ぼくが毀れてしまった頃の話。

  でも、
  だからこそ、ぼくはそばにいる。
  けれど、それこそ戯言だ。理解してしまえばなんてことはない、終わった問題だろう。
  だけど、握手をした時に梨花ちゃんがしていた、あの目は――。
  それを、ぼくが見間違う事はない。
  それは、ぼくだけは見間違えない。決定的な差異。
  いや、さすがに――考えすぎだよな。

「これじゃあ、本当に……戯言だ」
24. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:22:17.15 ID:X3t9et.o
■TIPS

  ふん。『だから私は』くだらん。見下げ果てた根性だ。見上げた図太さだ。尊敬に値する程のな。
  ――たとえば、だ。お前は運命の出会いという物を信じるか?  
  俺はお前の事を知った事を偶然だとは思わん。俺はお前と出会った事を単なる奇偶だとは思わん。
  『運命という事?』ふん。お前はまだそんな事を言っているのか?
  お前はここまで生きてきて、まだそんなずれた事を言う気か?
  …………ふん。
  いや、それでこそ、それでこそとでもいうべきか。だからこそ続いてきたのか。
  無知故の奇跡。いや、怠惰故の軌跡か。
  だからこそ今、此処で、出会うべくして出会ったという事か。ふん、面白い。
  ならば理解しろ。常軌を逸した常識を。正気を逸した常識を。
  お前は、お前の意思でこの物語を閉じた気でいるようだが、それは単なる傲慢だ。単なる模倣でしかない。
  何故なら、

  ――運命は、決まっている。
25. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:26:27.50 ID:X3t9et.o
〜〜〜〜

「むう……やはり遠くてもみいこさんにフィアット500を借りるべきだったか」

  ぼくはバスの停留所に貼られた時刻表を見て呟く。
  時刻の書かれた色褪せた紙には、六時から先の停止時刻は無かった。
  ……こんな事ってあるの?  いくら過疎線だっつてもねぇ……。使う人がいないって事なんだろうな。
  あらかじめ下の街にホテルを取っていたので、宿の心配はないけど。
  さてさて、どうしたもんか……。

  その時一台の車が、間抜けにもバスの来ないバス停で待っているぼくの前を通り過ぎ、
十メートルほど進んで停止した。そして車のドアが開き中から出て来た人は。

「やっほー」春日井春日その人だった。
  
「どうしたんですか春日井さん?  研究所の仕事ってそんなすぐに帰れるものなんですか?」

「うん。退職してきたんだよ」

「は?」は?

「退職とは就業していた労働者がその職を退き労働契約を解除することをいう」

「それは知ってます」この人はぼくを馬鹿にしてるのでしょうか?

「離職ともいう」

「……」

「辞職ともいう」

「…………」

「Gショック☆」

「うるせえ!」

  春日井春日恐るべし。本当にそう思うぼくであった。

「それにしても……今日は初日ですよね?」
26. 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/04/01(水) 19:36:44.06 ID:X3t9et.o
  ぼくに心配されるとは、この人も相当だよな。しかし周りが何を考えたところで、この人には全く意味がないんだろうけど。
  そうして春日井さんは無理矢理に作った笑顔の表情でぼくに言う。

「話は後にしてとりあえずメイド喫茶にでも行こうか。いっきーはバスを待ってたんでしょ?」

「はあ……まあ、そうなんですけど」

「乗りなよ。お姉さんが送ってあげる☆」良く分からないけどお前が運転するわけじゃねえだろ。

  停車していた車を指指し、早くしろ、とぼくに促す春日井さん。
  この人本当にメイド喫茶を楽しみにしてるのではなかろうか。
  
「というかね、春日井さん。あんた金持ってるんですか?」

  ちんぴらみたいな物言いだが、バスを降りる時にちらりと見えた情報によると、この人の財布の中は小銭しか入ってなかったように感じたんだけど。

「ああ。それは大丈夫。彼が払ってくれる事になってるから」

  と言い、ぼくの腕を引っ張り、停車していた車の助手席に乗せられた。結構強引な春日井さん。
  運転席には白衣に長髪の、柔和な表情をした大人の男性がぼくを見ていた。

「どうも、こんばんは。僕の名前は入江といいます。いっきーのお噂はかねがね聞いていますよ」

  落ち着いた口調や仕種が大人の印象を与える。彼は雛見沢研究機関の科学者だろうか。
  そして入江さんは一度ぼくから目線を外し、真剣な表情を作った。
  何かを期待するような、何かにすがりつくような。
  そんな真剣な表情。

「いっきー……君――」そこで言葉を切り。
「メイドが好きなんだって?」と、大人の男性がしてはいけない緩み切った表情で、ぼくに問うた。

  ああ、成程。ただの変態ですか。
最終更新:2009年04月23日 23:13