――乱れ立つ夢の互いの刃が吠える




 禍々しい威容を湛えて聳え立つその城は、現代に申し訳程度に残された遺跡とは違う、まさに魔城と呼ぶに相応しい代物だった。
 日本史に詳しい学者がこれを見た日には、腰を抜かして目を見張り、驚愕と畏怖に震えるだろうことは想像に難くない。
 何故なら二十一世紀、冬木の地に突如現れたこの魔城は、記録に残される所の『安土城』そのものの姿をしていたからだ。

 今は遥か戦国の世、安土桃山時代。
 天下布武を謳い、世を恐怖で包み込み、最期は本能寺の火炎に消えた第六天魔王が統べていた、言うなれば野望の眠る奥津城。
 第六天魔王――織田信長とは何のゆかりもない土地に、一夜の内に出現したそれは、邪悪な瘴気を常に放ち続けていた。
 陽炎のように立ち昇る焦土の気配は、それがこの世の道理の外にあるということを如実に語る。

 その最上階に座す男は、城主信長以外にはあり得ない。
 現世へ再臨した征天魔王は玉座に座り、かつて殺めた者の頭蓋を盃として酒を啜る。
 まるで血のような赤黒い瘴気を全身から漏らし、背後には翼とも、腕とも付かない冥府の権能が蠢いている。
 聖杯を巡る戦いに呼び寄せられた尾張の王は、完全に人間の面影を残していなかった。
 地獄の鬼も裸足で逃げ出すほどの覇気と邪気を孕んだこの男は、まさに第六天を統べる魔王。
 神を冒涜し、奇跡と呼ばれるものを陵辱し、仏の首を刎ねる邪悪の権化である。

「聖なる杯……下らぬ」

 セイバーのサーヴァントとして召喚されたこの魔王は、聖杯の奇跡を求めてはいない。
 そもそも織田信長という男は、創造を知らない。純然たる破壊のみを以って、無間の焦土を世に齎す。
 彼はその為だけに生まれてきたような存在であった。産声をあげた瞬間からこの時まで、その心が善を容認した試しはない。

「奇蹟など、余にとっては目障りな滓よ……我が手に収まったならばその輝き、大いなる六魔の糧としてくれようぞ」

 信長は燃え盛る本能寺の露と消えながらも、僧侶天海の計略によって人の世に蘇った逸話を持つ。
 このことから彼は大いなる冥府の力を持ちながら、人であった頃の蹂躙欲をも復活させた、全盛の状態で召喚されていた。
 魔王信長に、戦いに背を向けて傍観に徹するなどという軟弱な選択肢は存在しない。
 彼はその足で地を歩き、その剣で数多の英霊を斬り伏せる。
 事実、既に犠牲は出ていた。
 城の所々に散らばった願い抱きし者達の遺骸が、魔王の脅威と彼に楯突くことの意味を言外に伝えている。

 聖杯が魔王の手に渡ったなら、その時、世界は地獄絵図となるだろう。
 悪意を持った奇跡が世界に轟き、魔王のみが住まうことの出来る天下がやって来るだろう。
 彼の統べる天下に、人は住めない。鬼や悪魔ですらも、適応できるかは怪しい物がある。
 彼は、呼んではならないサーヴァントだった。人に手綱を握ることなど決して出来ない混沌の化身こそが、彼なのだから。




 ―――では、不運にも第六天魔王を召喚し、行く末を決定付けられたマスターはどんな人物なのか。

 魔王を呼んだ少女は、彼の逐わす間ではなく、城の庭先に当たる場所で独り遊びに興じていた。
 庭といっても、魔王が統べる城の庭だ。
 当然、この世のものとは思えない景色を展開させている。
 地面からは例外なく負の気が滲み、踏み入った生き物は急速に衰弱死し、異常なスピードで骸骨になって土に帰っていく。
 一方で、魔王の瘴気に適合できた生き物は狂犬さながらの獰猛さに変貌していた。
 視界に入ったもの、皆食い尽くす勢いの魔獣。
 それが、唯一されるがままになっている相手が、その少女だった。
 魔王を現世に繋ぎ止めている存在だからこそ、魔王の力に染まった者は逆らえない。

 そんな事情など露知らず、獣と戯れる少女は愛らしく、幼い少女。
 戦争なんてワードと絡めることそのものが冒涜的に思えるようなあどけなさ。
 血や煤で汚すことなど決して許されない、その佇まいから滲む幻想的な雰囲気。

「本当に、変なところ。それに、怖いところだわ」

 全体的に、白い少女だった。服も、肌も、髪も、更に言うなら雰囲気も。
 余計なものに染まっていない純粋な白色。童話の人物のような無垢さがある。
 彼女は、アリスだ。果てしなく続く月の海から、この聖杯戦争へと招待された可愛い客人。
 童話と違うのは、ジャバウォックもかくやといった大魔王を従えて、意図せず不思議の国を制圧しかけていることか。
 怖いところと言いながら、少女が実際に帰りたがっている様子はない。
 少なくともここでは、迷子のアリスは一人じゃないのだ。
 セイバーという名のジャバウォックは怖くておぞましいが、しかし、彼はそこにいる。
 ずっと、そこにいてくれる。すごく強くて恐ろしい、たった一人のお友達。

 このお伽話がおかしな話であることは、彼女も気付いていた。
 主人公たるアリスが、お話を終わらせてしまうような怪物を連れているなんて破綻している。
 童話の中のアリスは冒険の末に夢から醒める。
 迷い込んだ世界を破壊し、焦土に変えるだなんて、趣味の悪い改変にも程があるというものだ。
 ただ、それすらも容認してしまうのは、彼女の幼さゆえなのか。
 世界がまだ二つに分かれて争っていた頃に非業の死を遂げた、永遠を彷徨うサイバーゴーストであるがゆえなのか。

 アリス――ありすは当然、知らない。考えてもいない。
 第六天魔王が聖杯を手に入れた時、万能の奇跡を征服してしまった時、何が起こるのかなど知る由もない。
 主と呼ぶには到底足りず、一人の人間と呼ぶにもまだ未熟。
 魔王という矛を持ってしまっただけの幼い少女は、彼女の為の物語(ナーサリー・ライム)を知ることもなく、悪意の瘴気に立ち会っていた。

 セイバーの宝具によって常時展開されているこの安土城は、当然ながら悪目立ちをしている。
 特に迷彩が施されているわけでもないため、民間人にも既に目撃を許していたし、明日にはマスコミも騒ぎ始めるだろう。
 とはいえ、好奇心に負けて踏み入ろうものなら、その末路は一つだ。
 それは何も一般人に限った話ではなく、聖杯戦争に参戦した、野望溢れるマスター達も同じである。
 魔王は逃げも隠れもしない。堂々と玉座に座り、魂を潤わせる生贄の来訪を待っている。
 彼が、そんな分かりやすいリスクの存在も理解できないうつけ者なのではない。
 その程度のリスクは、考慮する必要もないのだ。来るならば来るがよい――戦のあとに残るは我が覇道のみ。



            「――――皆、塵芥と帰せい」


 そう、皆、皆。この第六天魔王・織田上総介信長の前に死んでゆけ。

 常世の生命など全て、それ以外の価値を持たぬのだから。



【クラス】
 セイバー

【真名】
 織田信長@戦国BASARA

【ステータス】
 筋力A+++ 耐久A+ 敏捷C 魔力EX 幸運D 宝具A

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
征天魔王:A+++
 戦国乱世の時代に誕生した、第六天より来たりし魔王。
 自分に対しての精神干渉を全てシャットアウトする効力を持つが、このスキルの真骨頂は別な部分にある。
 彼は魔王であるがゆえ、常に冥府の底からの魔力供給を受け続けている。つまりセイバーに燃費の概念は存在せず、魂を喰らわずとも自動的に魔力が補填されていく。
 ただしマスターが死亡した場合、世界と冥府とのリンクが断絶。彼は再び冥府の底に帰ることとなるだろう。

護国の鬼将:A
 あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
 この領土内の戦闘において、王であるセイバーはバーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得できる。

勇猛:A+
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

カリスマ:B-
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 セイバーのそれは恐怖政治に近いが、その恐怖心が絶対的すぎるがゆえに、兵の士気はむしろ向上していく。


【宝具】

『六魔ノ王』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:100人
 僧侶天海の謀略により、冥府の底から復活を果たした彼が現世にて奮った魔王の権能。
 身長の三倍ほどはあろうかという巨大な禍々しいヴィジョンを顕現させ、その圧倒的な力で敵を蹴散らす。
 宝具が発動されれば周囲は六魔ノ王の輝きで赤々と照り返り、その長大な刀は信長のそれを一ランク上回った筋力ステータスとして敵を蹂躙する。
 更に火球の生成や大爆発を引き起こすなどの応用も可能で、攻防両方を兼ね備えた強力な魔王の矛である。

『魔王牙城安土』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
 セイバーの召喚とともに自動展開される城塞型の宝具で、生前彼が根城と据えていた安土城そのもの。しかし外観は魔王の瘴気で妖しく歪み、城に近寄る者、城の内部に踏み入る者へと常に異常な不快感、重圧感を引き起こさせる。
 それはほとんど生命力の吸引に等しく、人間の長居は衰弱に繋がる。
 城内でのセイバーは城外よりも魔力供給を大きく受けることが出来るが、彼の意思で消すことの出来ない宝具であるため、居場所を自動的に他の主従へ知らしめてしまうのが最大の弱点。

【weapon】
 剣、ショットガン、マント

【人物背景】
 第六天魔王を自称する織田軍総大将にして、シリーズ通して最大の悪役である戦国武将。
 征天魔王の肩書を持ち、明智光秀に本能寺で討たれるもそれで終わることなく復活、その猛威で現世を蹂躙する。

【サーヴァントとしての願い】
 不明

【運用法】
 宝具である安土城の存在から、他の主従に目を付けられるのはほぼ確実。
 しかしセイバーの戦闘能力は非常に高く、負傷は黙っているだけで冥府からの魔力供給により回復される。
 あまり細かいことを考えずに、やりたいようにさせておくのが吉だろう。


【マスター】
 ありす@Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
 ???

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 その正体は、サイバーゴースト。肉体を持たない精神体であるがゆえに、身体的な制約を受けずに、巨大な魔力を扱うことが可能。脳が焼き切れることがないがゆえに、リミッターがない。ただし、それは魂が燃え尽きるまでの話。いずれは壊れるが定め。
 だが、彼女のセイバーは冥府の底から沸き上がる力を原動力とするため、彼女の負担は皆無。
 更にコードキャストとして、サーヴァントを補助する魔術も使う。

【人物背景】
 儚げな印象の、人形のような少女。
 前の国籍は第二次大戦期のイギリス。ナチスドイツの空爆によって瀕死の重傷を負ったが、魔術回路が確認されたために強制的に延命させられ、数年間に及び研究用実験に使われた後に肉体は絶命した。だが精神は繋げられたネットに残り続け、電脳魔として生き続けることになる。
 基本的に、遊びたい盛りの無邪気な子供。先述の事情で訳も分からぬうちに長らく苦痛と孤独を味わった反動から、寂しがり屋で人見知り。
 この世界の彼女は、もう一人のアリスに出会えなかった。



【把握媒体】
セイバー(織田信長):
 性格と宝具を使わないスタイルだけならアニメ第一期の視聴で把握可能。
 六魔ノ王関連は、戦国BASARA3のプレイ動画などで動作を確認することで把握可能。

ありす:
 PSP用ゲーム「Fate/EXTRA」第三章で把握可能。
 現在EXTRAはダウンロード版も販売されているので、もちろんそちらでも可。
 漫画版でも大まかなキャラクターは掴めるが、かなり端折られているので原作ゲームがお勧め。

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最終更新:2016年06月26日 23:17