タマ太の悪夢

馬術部の馬小屋前に備え付けられたベンチに腰掛けて、練習後の一休みをしている魅羽。
その手には大好物の豆乳。
練習後の、この一本のために私は生きてるんだなぁと、ストローをくわえながら実感する魅羽だった。

魅羽の太ももに挟まれて、一匹の三毛猫が眠っている。
非常に珍しい、オスの三毛猫だ。
誰が名付けたのかわからないが、みんな“タマ太”と呼んでいる。
もちろん猫なので馬術部の馬達とはウマが合わず、いつも激しく馬達からワンワン吠えたてられているが、まったく気にせず馬術部へ何度もやってくる。

似たような境遇と毛並みにシンパシーを感じあったのか、魅羽とタマ太は仲が良かった。
魅羽の休憩中は、膝の間がタマ太の定位置であった。
もっとも、実はタマ太が女の子大好きのエロ猫だと魅羽が知ったら、こんな良好な関係は続かないだろうけど。


(=・ω・=)


暗い渡り廊下に、少女が倒れている。
死体だ。
猫耳のついたヘルメットは砕けて、防具としての機能を失っていた。
歪にひしゃげた頭部。
頭蓋が砕けたことが致命傷だったのだろうか。

少女のそばには赤黒い染み。
それは、原型を留めぬほどに叩き潰された何らかの小動物の死体だった。

他にもいくつかの死体が転がっている。
全身バラバラに切断された少女。
尖った武器で滅多刺しにされた少女。

スコップを持ち帰ろうと思った。
彼女が生きて、戦って、死んだことを覚えておくために。
ズルリ。ズルリ。
暗い通路の中、スコップを引きずりながら出口を目指す。
重い。
だが、このスコップは必ず持ち出さなければいけないと思った。
誰かに、届けるために。
誰に? わからない。
ズルリ。ズルリ。
暗い通路の中、スコップを引きずりながら出口を目指す。
ズルリ。ズルリ。


(=・ω・=)


「ブニャーオ!」

変な鳴き声を上げて、タマ太が身を起こした。
悪い夢を見ていた。
もし人間だったら、びっしょり汗をかいていたことだろう。

「あ、起きた。タマ太も豆乳、飲む?」

魅羽が優しく問いかけ、もう一本のパックを差し出す。

「ニャーン!」

タマ太は明るい声で応えた。
そして、嫌な夢を忘れようと、魅羽の胸に顔をうずめ、ふにゅふにゅした感触を楽しんだ。


(おわり)






最終更新:2014年07月24日 19:21