門司秀次 参戦SS

モジ君は結局いつもどおりだ。
馬鹿なのだ。
「部長、俺、今日こそ退部させてもらいます。今までお世話になりました。」
「なんでェ?」
気怠そうなミチノ部長の返事もいつもどおり。
そばかすに野暮ったい眼鏡ではあるが、美人だろう、と思う。
割と有名な家の分家筋の人らしい。
ただし、眼鏡の中の瞳は意地悪く笑っている。
これもいつものことだ。
「なんで辞めちゃうのさァ、そう理由。アタシは理由が知りたいわ。」
「いや、だって書道部、モテないじゃないですか。全然モテないですよね。女の子に声かけられる機会すらないじゃないですか。」
「ひっどい話ィ。ねェ墨川ァ、聞いた?アタシら女子扱いされてねーよ?」
私に話を振られても実際困る。
「ねェ、墨川ァ。」
面倒くさいなあ。
「そうですね、部長、ヒドイ話です。モジ君のゲス!!男女差別主義者!!」
「ぐッ、そ、そういう意味じゃなくて。だな。」
「やーィ、ゲスー。」
これである。
モジ君はこういう反論にも弱い。
だけれど、今日はちょっと頑張るようだ。
やめておけばいいのに。
「だってよ。ホラ。実際モテないじゃないですか。サッカーとか剣道とかなんかそういう方がいいんじゃないかって。俺、運動神経いいし。墨川も知ってるだろ?中学のときは…。」
「男子の過去自慢?モジ君はホント過去の栄光にすがるんですね。」
「え、いやそうじゃなくて。俺はモテたいんだよ。花のある高校生活を送りたいんだよ。」
馬鹿だ。
こんな事言ってるからミチノ部長に勝てないのだ。
「あーァ、墨川ァ。」
「なんですか?部長」
「あんたさァ、汚い字を書く男とさァ、綺麗な字が書ける男、どっちが好きよ」
「男女的な好き嫌いは置いておいて、どっちかと言われれば、綺麗な字の方がいいですね」
「いやいや、それだからってよお、書道部で聞いても…」
「たぶんその質問を他の女子に聞いても綺麗な字を書くほうがいいって言われると思うよ。」
「ほらモジィ、ウチの部で一番まともな墨川ちゃんの意見なら聞けるだろォ。」
これで終わり。
モジ君はさっさと部活の準備をするべきだ。
「いや、騙されねー。たとえそうだとしてもだ。サッカー部とかのほうがモテる。格闘技でもいい。青春はスポーツにこそあるんだ。クラスでモテてる男子もだいたいそうだ。」
ちっ、面倒くさい。
ほら、部長が悪い笑い方してる。
「すーみィかわー。」
「なんですか?部長。」
「あんたサッカー部と書道部どっちがモテると思うよォ?」
「う、嘘つくなよ。俺のデータ的に言ってもだなサッカー部のほうが。」
「顔か性格で選びますね。部活関係ないんじゃないですか?」
「正論だわァ、墨川ァ。それ正論だわァ。モジ君さァ、だから所属部活関係ないんだって、要するに。」
「で、でも。」
「部活は関係なくてもさァ、さっき言ったとおり字の綺麗な男は汚い字よりはマシなわけよォ、これ事実ね?」
「う、う」
また、半泣きだ。
それを見て部長はニヤニヤ笑っている。
やっぱりモジ君は馬鹿だ。
「おーい、居るか?」
「うぃーす、ビッグさん。はろー」
部長がひらひらと手を振って出迎える。
真野兄弟のデカイ方ことビッグ先輩は元部長である。
声も体格も声もデカイ。
しかし部員不足に悩んでいた書道部を武闘派部活として再建した立派な先輩だ。
モヒカン書道の使い手ビッグ・ザ・ショドーと言われている、本名は、なんだっけ?
「部費争奪戦っつうのが開催されるらしいぞ、「鬼雄戯大会」だとさ。お?なんだ、門司君。元気ないな。」
大きな紙には部活連合ごとの賞金の分配や参加選手に対する賞金などが書かれている。
へえ、勝てば美味しい展開かも。
新しい筆とか買えるかな。
「ビッグ先輩が出るんですか?」
「俺か?俺はもう受験を控えとるからな。ほとんど引退した身だ。お前らで誰か出ればいい。」
「じゃあ部長ですか?」
あ。
部長の方を見て気づいた。
悪い目だ。
でも、これは人選として悪くないだろう。
だってモジ君は馬鹿だけど、弱くはないのだから。
「モージィ」
「へ?なんです?部長。」
「アンタ、これモテるチャンスかもよ?女の子の前で活躍するチャンスかもよ?」
「ま、マジっすか?」
目を輝かせるモジ君。
やっぱりモジ君は結局いつもどおりだ。
馬鹿なのだ。






最終更新:2014年07月26日 20:22