ガンファイト!

上から、卒羽を呼び止める声。「無傷でエロ蛸の奴を倒すとはなかなかヤルねぇ蜘蛛女さん。愉快な銃撃戦が楽しめそうだよ。グーテン・アーベンド、科学部のルガーだ」天井から蝙蝠の如く逆さにぶら下がった黒いスーツの女性。懐から二丁のドイツ製拳銃・ルガーを取り出す。夕闇の中、青い光を反射して拳銃が鈍く光った。

光源は、卒羽だ。魔力を帯びた髪が青く光る。『夢幻弾装ラブリーガン』により、卒羽が持つロシア製拳銃・トカレフを模した四丁のエアソフトガンに魔法弾が装填される。「妃芽薗サバゲー部、夢見花卒羽……蜘蛛とは失礼な。私はタカアシガニです!」

「蟹なのか……せいぜい横歩きで上手く弾を避けるんだな」「……蟹が横にしか歩けないと思ったら大間違いです。私たちクモガニ類は全方向に自在に歩けます!」「やっぱり蜘蛛じゃないか……」「クモガニは蜘蛛じゃありません!」

先手必勝! 卒羽は必殺技をいきなり仕掛けた! ちょっと怒ってる!「弾幕の海に沈みなさいっ! ドリーミー・ファストラァァッシュ!」四丁トカレフから無数の弾丸が放たれる! ガガガガ! ルガーの身体に何発もの魔法弾が命中!「はっ! ヌルいぜッ!」ルガーは意に介さず前進! なんたる頑丈さ!

ルガー接近! 打撃戦距離! ルガーは華麗にターンしながら回し蹴りを繰り出す! 卒羽は自在に動く三つ編みでブロック! そのままルガーの足に三つ編み触手を絡みつかせる!

しかしそれはルガーの術中!「そいつを待ってたぜ!」ルガーは足を絡まれたまま後方宙返り! 回転の勢いで卒羽の髪を一本釣りしロッドランドめいて反対側の床に叩き付ける!

「ぐぁっ……」頭部を打ち卒羽の意識が一瞬喪失する!「今度はこっちの乱れ撃ちだぜっ!」ルガーが二丁拳銃を乱射! ダウンした卒羽に弾倉内の全弾丸を叩き込む! ビーハイブ!

堅牢な甲殻下半身を持つ卒羽だが上体は脆弱な外皮の人間体!「ぐっ……ううーっ……撃ち返しっ弾んっ!」多数の被弾を受け、全身から青い鮮血を撒き散らしながらも卒羽は、起き上がり踏み込みながら両腕拳銃を真っ直ぐに突き出し! 有線サイコミュビットめいて両髪拳銃を展開し! 至近距離四丁拳銃射撃!

迫り来る四方向からの同時攻撃をルガーは上体を反らしてスウェー回避! そのまま低空後方宙返りして距離を取り、銃弾リロードの時間を稼ごうとする……しかし!

「がふっ!?」ルガーが吐血……もとい漏油!「いわゆる……オーラ撃ちです!」卒羽は再び距離を詰めて四丁拳銃近接射撃! ルガーは頑丈な肉体を生かした喰らいカウンター狙いの二丁拳銃近接射撃! ガガーン! 六丁の射撃音が同時に響き両者流血! 青いアントシアニン血液と、褐色の機械油が飛び散る!

「畜生……防御できないっ……!」ルガーは機械装甲で、弾丸自体は確かにガードした。しかし問題は、卒羽が射撃する際の衝撃波だった。卒羽の魔法弾『夢弾丸』はテニスボール大の当たり判定がある。その夢弾丸が狭い銃口を通過した直後、当たり判定を展開する際に防御不能の衝撃波を発するのだ。接近戦を挑み、至近距離射撃で衝撃波を当てる! これが四丁トカレフ触手拳・オーラ撃ちである!

鉄壁の機械装甲を最大の強みとするルガーにとって、装甲貫通オーラ撃ちを使う卒羽は天敵! ならば遠距離戦か? いや、打弾数と充填速度に勝る卒羽相手では遠距離戦も不利だ。つまり……「反撃する暇も与えない!」ルガーの近接猛攻!

ルガーの右回し蹴り! 卒羽は第二歩脚でムエタイめいてガードし反撃の拳銃を……いや、ルガーの左脚が早い! 銃撃モーションに入った卒羽の右手を蹴り上げる! トカレフが弾かれて右手を離れ宙を舞う! 卒羽は左手と両髪の三丁銃撃! しかしルガーは上空に飛んでオーラ撃ち範囲外! 宙返りしたルガーの両脚が卒羽の首を挟みフランケンシュタイナー!

卒羽の安定した六脚下半身ならば投げを堪えることは可能だった。だがそうした場合、首の骨が保たないのだ。やむを得ず為されるままに宙を舞う卒羽! 投げを打ちながら空中の卒羽の顔面を狙いルガーは銃撃!

銃弾の軌道を冷静に見極めた卒羽はゴーグルで受ける! 防弾硬質アクリルに亀裂! 卒羽は先程から自身の変調に苦しんでいた。土地のマナが不足しているのか『夢幻弾装』が十全に機能していない……!「平常心……平常心……!」だが卒羽は努めて平穏に精神集中し魔法弾を遠隔装填!

「これでトドメです! 全弾発射!」床に叩き付けられた卒羽は素早く起き上がり三丁拳銃連射撃!「悪いが見切ったよ!」ルガーは華麗に卒羽の背後を取る! しかしルガーは見た! 死角となっていた卒羽の第四歩脚が先程弾き飛ばしたトカレフを空中で回収し構えているのを!

「オーラ撃ち!」ルガーの装甲を貫通して衝撃波が走る!「ぐふっ……やられたぜ……!」精密な内部機構を揺さぶられ、ついにルガーが倒れた!

……

「私の負けだ……いい勝負だったよ、カニ女さん」ルガーが自嘲気味に笑った。「あーあ、ジンキンスに何て言い訳したもんかな」「あなたも、とても強かったですよ……本当に」卒羽も穏やかに微笑んだ。「あの、“カニ女”で合ってはいますが、あまり気持ちの良い呼ばれ方じゃないので“どりみ”でお願いできませんか」

「悪い悪い。それじゃ、どりみちゃんの今後の武運を祈ってるぜ」「ありがとうございます。また機会があったら手合わせ願いたいものですね」「ハハ、私は御免だな。相性が悪すぎる! ……さて、ひと眠りするぜ」そして、ルガーは目を閉じて自己修復モードに入った。

「さて……みんなの所に戻らなきゃ。無事かどうか心配だし……触手に襲われた感想も聞きたいし!」卒羽は深呼吸して精神を回復させると、再び歩き出した。マナリンクは回復せず、『夢幻弾装ラブリーガン』は依然不安定だ。だが、卒羽は自分の生還を疑っていない。「大丈夫……私はやれる!」

(『ガンファイト!』おわり)






最終更新:2014年07月26日 20:58