とある報道部員の手記より抜粋 その2
----希望崎学園 宅急部 部長 “アンラッキーキャット”佐川ヤマト 語る
これはこれは、ようこそ、我が宅急部へ。
他の部活と違って競技会などもない目立たぬ部活ですが、それでもよければ、ええ、インタビューぐらいお安い御用です。
まあ、お客様の個人情報や社外秘資料など、答えられないものもあるのはご了承いただきますがね。
本日は鬼雄戯大会にエントリーしているうちの部員について、と聞きましたが……
彼の不在票術について、ですか?
いやあ、困りましたね。確かに、そういうものがあるという噂が流れていることについては私共も把握しております。
ですが、我々はあくまで流通を担うもの。
運送の効率化のため不在のお宅を後回しにさせてもらうことはありますが、それを好き好んで不在票を投函しているように言われるというのは心外ですね。
………
ええ、全く。そのような事実は、ええ。
いえ、名前を出さないから、とかそういう問題ではなくて、ですね。
いやその、だから……
……はぁ、あなたもしつこいですねえ。何度言われても変わりませんよ
一度、日を改めた方がよろしいのでは?
私の勘ですが……きっと、あなたのお宅の郵便受け。10通ぐらい不在票がたまってますよ?
一度取りに戻られた方が………
っ!!
ほう……どのような手品を使ったのか。一通分とはいえ、私の不在票術を止めるとは
いいでしょう、分かりました。不在票を持って来られたのなら、品物を渡すのが我々の使命。
一通分だけ、あなたの質問に答えましょう。
ただし、私の名前は出さないでくださいよ。
どれだけ噂がたっていようと、部長自ら不在票に関する噂を肯定するわけには行きませんからね
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実のところ、不在票術というのは体系だった技術ではありません。
宅急部員の能力は千差万別。
統一した技術体系を作る、という方が無理があります。
宅急部のルールにのっとり不在票を投函するために磨いた技術や特殊能力の使用法、それらの総称が『不在票術』というわけです。
例えば?そうですね……いろいろありますよ。
高速系や幻術系は比較的破りやすい方ですね。代わりに負担が少ないのでたくさんの件数を回るのに向いていますが。
現実改変系や概念系は燃費が悪い代わりに、不在票対策をしている相手にも効きやすいというメリットがあります。
私ですか?ふふふ、さすがにそれは不在票一通じゃあ教えられませんね。
そして--ビンセント、彼の不在票術は物理系。
もっとも破りやすく、もっとも消費の少ないスタンダードな不在票術ですね。
件数が回りやすいので不在票投函率は高いですが……大物は狙いづらい、そういうタイプです。
まあ、物理系なんて格好つけてはいますが、やっていることは簡単ですよ。
届け先がこちらに気づく前に殴り倒して意識を絶つ。それだけです。
……ああ、ECB部の。彼がなんと?
ふむ、ふむ、認識も出来ずに意識を失った。と。
いえ、だからそれぐらいは当然ですよ。認識されたら不在扱いできませんから。
ビンセントはただ殴っただけです。ええ。
ドア越しに、相手の体格も姿勢も実力もわからない状況から、一撃で意識を奪うことのできる急所を狙って、殴った。それだけです。
我々が彼をエントリーさせた理由、ご理解いただけましたか?
ええ、それは良かった。
では、今後共希望崎学園宅急部を、どうぞご贔屓に。
最終更新:2014年08月09日 13:49